①1月13日~20日の振り返り:景気懸念のNYダウ、FRB転換期待のナスダック

 先週最大の注目点は、FOMC(米連邦公開市場委員会)の参加者が、沈黙期間(金融政策についてのコメントを自粛する期間)前に、どのような発言をするかでした。中でも、タカ派と目されるウォラー理事が「次回のFOMCでは0.25%ポイントの利上げを望む」と述べたことは市場に好感されました。12月PPI(生産者物価指数)が市場予想を下回ったことなども、先々のインフレ鈍化期待、すなわち利上げ幅縮小期待を高めました。

 一方で、景気後退への懸念は燻っています。ゴールドマン・サックス(GS)トラベラーズ(TRV) が発表した2022年10-12月期決算が市場予想を下回ったほか、経済指標でも12月小売売上高や12月鉱工業生産が市場予想を下回りました。

 こうした事象を、株価=PER(株価収益率)×予想EPS(1株当たり利益)で考えてみれば

✔ 金利低下がプラスに働きやすいPERへは押し上げ効果

✔ 景気後退がマイナスに働きやすいEPSへは押し下げ効果

 がそれぞれ働く構図になっています。米国株の主要3指数を見ても、景気敏感なNYダウは下落する一方で、PERが高いグロース株を中心としたナスダックは上昇しました。この環境が続くか、市場の関心が集まっています。

②今週の気になる経済指標: 27日(金)のコアPCEデフレーター

 PERが株価を押し上げ、あるいは下支えする展開だとすれば、米長期金利および米金融政策に関する考え方を再度整理しておく意味はありそうです。

2023年内利下げはあるのか?

 まず、ここしばらくの市場では2023年後半の利下げ期待が拡大していることに注目してみましょう。対して、先月のFOMCでは「2023年中の利下げなし」が示されています。このズレにはFOMCと市場の間にある、インフレ率への見方の違いが影響しています。12月FOMCでは、インフレ率が2023年末でも前年同月比+3.1%までしか低下しないとの予想が前提でした。同様にFOMCで、2024年末には同+2.5%、25年末には同+2.1%にまで低下するとの予想のもと、2024年・2025年の利下げを見込んでいます。つまり、インフレ率が同+2%近くまで下落すれば、利下げが23年内に前倒しされる可能性は十分考えられるということです。

インフレ率「2%」はあるのか?

 足元のCPI(消費者物価指数)などを勘案すると、インフレ率は、今年半ばには前年比+2%台にまでは低下する蓋然性は高いでしょう。CPIが前月比で+0.3%で推移しさえすれば、前年比は23年6月には前年比+2.8%となるからです。しかし、利下げの条件とみられる「2%」近傍を実現するにはさらなる需要の減退、すなわち景気減速が強まる必要があります。野村では、コロナ給付金の取り崩しや、銀行貸出の厳格化といった兆候から、2023年後半には失業率が上昇、景気後退入りしていることを想定しているため、9月以降の利下げも併せて予想しています。

米10年債利回りの「3%割り込み」が見えれば、PER面でチャンスか

 仮に野村の予想が市場でもメインシナリオ化し、3年先1ヶ月金利(先の政策金利期待を見る際に良く参照されます)が1.9%まで低下すれば、足元で3.5%前後で推移する米10年債利回り(いわゆる米長期金利)は3%を割り込むとみられます。こうした局面では、金利低下の恩恵からPERが上昇しやすいでしょう。

(ここまで、野村の小清水ストラテジストコメントを参照しFINTOS!にて編集)

 いずれにせよ、インフレ(期待)の落ち着きが同シナリオの前提です。今週は、27日(金)の12月個人消費支出・所得統計と併せて発表され、FRBがインフレ指標として重視しているコアPCE(個人消費支出)デフレーターや、1月ミシガン大学消費者センチメント調査確報値と併せて発表される、消費者期待インフレ率調査の確報値などの経済指標をチェックしたいと考えます。野村では、12月のコアPCE(個人消費支出)デフレーターが前月比+0.3%となることを見込んでいます。

③今週の気になる決算:24日(火)のマイクロソフト

※ここで取り上げる銘柄は、あくまで「今週決算発表がある企業およびその関連企業」のうち、「米国経済やセクター全体を見通す上でインプリケーションが多い」という観点で言及するものです。個別銘柄の勧誘・助言を目的とするものではありません。

 前週は、金融を中心に景気懸念が強まる決算が多かったものの、一部に株価にとって、明るい兆しも見えました。ネットフリックス(NFLX)の2022年10-12月期決算で有料会員純増数が市場予想を上回り、翌日の同社株価は前日比+8%超となりました。また、アルファベット(GOOGL)傘下のグーグルが1.2万人の人員削減を発表し、株価は同+5%超上昇しました。ハイテクへの業績懸念が和らぎ、マイクロソフト(MSFT)セールスフォース(CRM)などの株価も上昇しています。

 まだ方向感の定まっていない10-12月期決算ですが、景気先行指標とされるISM製造業・非製造業景況指数やPMIが軟調に推移していることなどから、悲観的な見方をする市場参加者も多いようです。野村の宍戸エクイティ・ストラテジストは「短期的に米国株に強気」との立場をとっており、理由として「PMI指標など「ソフト」データとGDPなど「ハード」データに乖離」が生じている点を指摘しています。足元で「景気後退」とされているものは、ISM非製造業指数などヒアリングや予想に基づくソフトデータが多い状況です。一方で、ハードデータ=実データであるGDPなどは堅調が続いていると言えます。背景には、足元の業況が生産の停滞によるところが多いため、受注に代表されるようなソフトデータが多少落ち込んだとしても、ハードデータである生産を落とすことはなく、結果的に決算自体は良好となりやすい、というものです。その場合、決算シーズンという短期で見れば、EPSは市場予想を上振れるという可能性もあり得るでしょう。他方、2023年12月期の通期予想を初めて発表する企業も多く、企業予想は(受注をベースとした)ソフトデータの性質を持ち合わせているため、保守的な内容をなることも考えられます。予想EPSの修正方向を決定づける10-12月期決算からは目が離せません。

ソフトウェアの物見櫓、マイクロソフト

 24日(火)に決算を発表するマイクロソフトは、①クラウド・コンピューティング(当社製品ではAzure)、②ビジネスソフトウェア(当社製品ではMicrosoft365など)、③PC・ゲーム(当社製品ではWindowsやXbox)と、幅広な情報技術分野でシェア上位に位置する上、決算発表が比較的早いことから、他社の決算に備える上でもぜひ確認しておきたい企業です。

 コロナ禍以降もBtoBのソフトウェアを中心に好調を続けてきましたが、直近の7-9月期決算は、懸念の残る内容でした。7-9月期の調整後EPS(1株当たり利益)が前年同期比マイナスになり、コロナ需要の反動で早くから影響が出ていた③PC・ゲーム事業に加えて、①クラウド・コンピューティングの主力であるAzureの売上高が前年同期比+30%台に減速したことなどが嫌気されました。

 10-12月期決算発表に先駆けて、18日に1万人規模の人員削減を発表しています、当社によれば、この人員削減の狙いは、「会社のコスト構造を、現在の需要環境に相応しいものにすること」としています。当社のナデラ CEO によると「世界全体で、産業を問わず、顧客がより慎重に支出を決定しており、デジタル関連支出を更に最適化する方法を探っている。当社は戦略的に最も重要な分野で人員増強を続ける一方で、向こう 24 ヶ月、あるいはそれ以上の期間にわたり景気の影響を受けるとみられるポジションの人員は削減する方針」としています。こうしたことを踏まえれば、2023年6月期通期見通しは保守的な内容となりうる点には注意が必要です。

 売上高のおよそ半分を米国外で稼ぐ同社にとって、米ドルの独歩高が落ち着いたことは好材料で、為替影響に関するコメントも確認したいと考えます。

(FINTOS!米国株/小野﨑通昭)

ご投資にあたっての注意点