円高と業績:影響は3つの経路から

為替変動にともなう海外事業損益の変動は近年低下傾向にある

2022年12月の日銀・金融政策決定会合前後より円高が進行しています。為替の変動は、様々な経路で企業業績に影響を及ぼします。その中でも最も注目されるのが、『海外事業への影響』です。円高になった場合、日本国内で製品をつくり、海外に輸出している企業の場合、①主に輸入に頼る原材料価格は低下するものの、②外貨建て売上高の円換算値も減少するため利益面では圧迫要因となりがちです。ただ、近年では自動車などを筆頭に現地生産が進み、為替の変動による海外事業の競争力への影響は軽微な業種が増加しています。

決算時の利益の円換算からの影響は残る

ただ日本企業である以上、決算時に(外貨建ての)海外事業からの利益を円換算することは避けられません。この過程で営業利益以下の各利益は、為替の変動の影響を受けることになります。円高米ドル安の場合、円換算利益は減少します。さらに、企業が海外に保有する資産・負債の円換算評価額にも影響を与え、連結包括利益計算書の為替換算調整にその額が記載されます。この値が(円高により)マイナスとなった場合には、自己資本がその分だけ減少することになります。

円高と業績:為替感応度の推移

海外生産比率の上昇により為替感応度は低下した

続いて、海外事業規模の大きい企業で特に注目されることが多い「為替感応度」について詳しく見ていきましょう。1980~90年代の激しい日米貿易摩擦をきっかけに、我が国企業の海外生産比率は上昇し、ここ20年強で倍近くになっています。海外進出の過程で、資材を外貨建てで調達し、現地で外貨建てで販売するといった行動様式が多くの日本企業で定着した結果、為替変動により競争力が左右されることはほとんどなくなりました。外貨建ての売上(や利益)を円換算する際の影響は依然残りますが、業績の為替感応度は大きく低下しました。2000年ごろには1円/米ドルの円高で経常利益は1%減少しましたが、現在では0.4%程度の減少に留まります。

2022年度 久しぶりに為替が企業業績に大きな影響を与えそうだが

20年前の半分以下にまで経常利益の為替感応度が低下した結果、よほど為替が大きく変動しない限り、企業業績への影響は限定的です。2012~14年度にドル円レートが40円/ドル近く変動したのを最後に、その後は日本企業の業績は、鉱工業生産によってほぼ決まる図式が続いてきました。2022年度は久しぶりに為替が業績に大きな影響を与えることが予想されています。2022年12月の日銀・金融政策決定会合以降、円高が進みましたが、2022年度初時点の米ドル円は122円/米ドルだったため、期中平均で大きく円安となる図式は不変です。

(野村證券投資情報部 伊藤 高志)

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