突然かつ想定外の政策修正

 2022年12月20日に日本銀行が決定した、イールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)の運用見直し、すなわち、10年国債利回りの許容変動幅拡大(+/-0.25%ポイントから同0.50%ポイントへ)の余波が金融市場で継続している。この決定は、事前に市場で全く予想されておらず(例えば、12月7~12日実施のブルームバーグ調査での政策修正予想は皆無)、「サプライズ」と受け止められた。

 10年国債利回りは、1月13日以降、許容変動幅の上限を超えて推移した。また、更なる政策修正への思惑は、ドル円レートの下落(円高化)を招来した。

 23年1月17~18日の金融政策決定会合直前には、22年12月の決定の効果を「点検」し「必要な場合は追加の政策修正を行う」可能性がある(1月12日付読売新聞)との報道が流れたことで、追加政策修正に向けての思惑と期待はさらに拡大した。

 結局、1月会合での追加の政策修正は見送られた。それでも、「日銀サプライズ」の余波が容易に収束しない背景は、決定が唐突だったという経緯によるものだけでなく、「利上げではありません」(12月20日黒田総裁定例会見)との日銀の公式の説明にもかかわらず、金融緩和の解除に向けた布石や予兆であるとの見方が、市場において絶えないからでもある。

 しかし、「市場機能を改善することで、YCCを起点とする金融緩和の効果が、企業金融等を通じてより円滑に波及していくようにする趣旨で行うもの」(12月20日黒田総裁定例会見)との日銀の公式説明を額面通り受け止め、「事実上の利上げ説」や、次なる政策修正の可能性を否定することは、十分可能であると考える。

 16年9月のYCC 導入以降に実施された金融政策の修正は、そのほとんどが、①金融緩和の「出口」に向けたプロセスや金融緩和の解除そのものをスムーズに進めるための準備と思われる修正、と、②緩和の強化・効果維持や持続性強化を目指したもの、の組み合わせから成っている。一方で、今に至るまで緩和の「出口」には到達できていない。今回の「日銀サプライズ」も、正に同様の性質のものであると解釈できるからである。

「出口」準備=「出口」接近、ではない

 YCC導入は、目標を金利に変え、年間80兆円という長期国債買入れ額を目標から格下げすることで、日銀資産の急激な膨張に歯止めをかけるという「出口」の準備要素を有していた一方、YCCという新たな形式での金融緩和は、少なくともそれ以降6年余りの持続性を有することとなった。

 18年7月の「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」では、10年国債金利誘導目標に対する同金利変動を「柔軟化」した。拡大した変動幅の大きさはもちろん異なっているが、22年12月の日銀サプライズと同様の決定は、この時点で既に行われていたとも言える。一方、政策金利に対し「フォワードガイダンス(先行き指針)」を導入し緩和を「強化」した。

 20年4月の新型コロナウイルス感染症対応での緩和強化ですら、国債買入れに関する80兆円の「めど」値削除や、「物価安定目標に向けたモメンタム(勢い)」と政策金利のフォワードガイダンスとの関連付け停止、などの点で、「緩和終了をやりやすくする」要素を一部含んでいたとも言える。

 緩和の持続性強化を目指して実施した21年3月のいわゆる政策「点検」(より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検)においても、ETF(指数連動型上場投資信託)、J-REIT(不動産投資信託)の買入れの「臨時化」「緊急対応化」という、緩和の「出口」に向けたある種の布石とも解釈しうる決定が行われている。

 過去たびたび、金融緩和の「出口」に向けた準備と解される決定を繰り返した背景には、可能な範囲で「異次元」と称された金融緩和の手仕舞いをできる限りショックなくスムーズなものとしておきたいとの日銀の意向が働いている可能性は否定できないだろう。

 しかし、23年は野村のメインシナリオがまさにそうなっている通り、米国においてリセッション(景気後退)が現実化し、米FRB(連邦準備制度理事会)が利下げに転じる可能性もある。そうした環境の下で、日本の金融緩和を終了に向かわせることが可能であり、適切であると日銀が真剣に考えはじめている可能性は低いのではないだろうか。政策修正に緩和の「出口」の準備要素を盛り込んだことを以て、「出口」が近づいたと考えることは、過去の例から見ても適当ではない。日銀は、むしろ、緩和の長期化を宿命と観念した上で、可能なタイミング、可能な範囲で「出口」に向けた準備だけを粛々と進めているに過ぎないのではないだろうか。

(経済調査部 美和 卓)

※野村週報2023年1月30日号「焦点」より

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