DX適応と得意技で競争優位を目指す

 2022年のヘルスケアセクターはDX(デジタルトランスフォーメーション)関連の業績が伸長したほか、医薬品卸や調剤薬局等の伝統的業態でコロナ禍からの回復が見られた。23年は電子処方箋などの医療DX政策が相次いで始まる。浸透には時間を要すると見るが、ヘルスケアDX が当たり前になる時代への過渡期となろう。関連企業では、今のうちにDX に適応できる経営を推進することが競争優位につながろう。

 22年を振り返ると、企業によるDX の利活用はヘルステック関連にとどまらない。調剤薬局(オンライン服薬指導やコミュニケーションアプリなど)、医薬品卸(自動倉庫や在庫管理AI(人工知能)、アプリ活用)、介護(科学的介護情報システム(LIFE)の運用)など伝統的な医療介護サプライチェーンでも推進されている。23年はヘルスケアDX 関連政策の実施と浸透の過渡期であると共に、DX 社会に適合する準備期間と位置付けられる。野村では自社の強みたる「得意技」に磨きをかけ、業績拡大につなげられる銘柄に注目する。

 23年の投資視点としては、次の3つのテーマが挙げられる。① DX で未来の医療を創る銘柄、②医療サプライチェーンで競争優位な領域を伸ばす銘柄、③未開拓領域や業務外部委託にDX を織り交ぜ市場創造をリードする銘柄、である。

 まず、DX で未来の医療を創る銘柄については、ヘルスケアDX が当たり前の世の中になる過渡期では、医療や介護のサプライチェーンやオペレーションのデジタル化、そして医療従事者や介護職、患者や消費者がDX に触れる機会を提供することが将来の市場創造につながろう。特に医療従事者が参画するプラットフォームを創ること、医療やヘルスケアのビッグデータの収集・加工・利活用ではデータ量の確保と提供手段、マネタイズの仕組みを構築することが、中長期的な競争優位を確立する鍵となろう。ウィズコロナ環境では医師・製薬企業・患者間で非接触ニーズが増大し、医療プラットフォームを介する事業が拡大している。医師プラットフォーマー最大手のエムスリーは、医療機関DX(デジカルやデジスマ診療)と共に未病・予防領域の開拓が成長ドライバーとなろう。

サプライチェーンとニッチ領域

 医療サプライチェーンは大まかに、①医薬品の開発、製造から流通、販売に至る過程、②医療介護サービスを利用者へ提供するプロセス、の2つのパートに分けられ、両者に対応するのが調剤薬局である。サービスとオペレーション両面でDX を進め、高度医療対応と情報共有(調剤オペレーションや患者・医師等との連携)による薬剤師の専門性発揮が重要な差異化要素となろう。調剤薬局大手のアインホールディングスは、高度医療対応と地域連携拠点としての敷地内薬局出店やM&A(買収・合併)による拡大を見込む。アプリによるかかりつけ薬局機能、フィールドマネージャーによる店舗KPI 管理でDXが活かされよう。

 また、医薬品の流通は医薬品産業に不可欠の機能であるが、日本では長年大手医薬品卸の取り扱い品目は大差なく、価格競争に陥り採算が悪化するリスクをはらむ。東邦ホールディングスは、物流の温度管理や自動化システムを強みとした取扱卸限定品の受託を進めるほか、医療機関・薬局会員向けのDX を活用した経営支援といったフィービジネスが成長源となっている。薬価改定が毎年実施される中でも、独自の収益源の寄与が見込める点が強みである。

 日本では超高齢社会が進んでおり、介護関連需要が増えることは社会でも認知されている。株式市場では介護関連銘柄は、潜在市場が大きいという魅力がある一方で介護保険制度の見直しなどがリスク要因とみなされる傾向がある。介護DX はこのリスクを克服するヒントとなろう。エス・エム・エスが提供するカイポケは、中小事業者が単独でシステム導入を行う余力が大きくない中で、請求業務や人材採用など経営支援のためのSaaS(サービスとしてのソフトウェア)メニューを提供し、介護業界のDX と業容拡大を両立している。

 野村では、障害福祉領域やターミナルケア施設など、ニッチ領域ながら市場開拓余地が大きく、DX 活用で成長を加速できる可能性を秘める領域にも注目する。LITALICOは、プラットフォーム事業にて中小事業者が多い障害福祉事業所の経営支援・障害者就労及び児童発達支援を行っており、成長が期待できる。SaaS メニューの拡充や事業者開拓余地が大きく、市場創造が進もう。アンビスホールディングスは終末期がん患者向け医療看護施設「医心館」を展開しており、施設の開設ペースが加速している。民間による終末期・慢性期療養病床提供の先駆者として、ターミナルケア市場創造を牽引しよう。

(エクイティ・リサーチ部 繁村 京一郎)

※野村週報 2023年2月6日号「産業界」より

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