コロナ禍で成長加速した冷凍食品の品質向上を支える特殊冷凍技術に注目したい。

 一般的な冷凍機では、食品は冷風により表面から徐々に凍る。食品内の水分や細胞内の水分子は徐々に氷結晶となって膨張し、細胞膜や細胞壁を破壊するため、解凍時にうまみ成分がドリップとして流出し、風味や鮮度が低下してしまう。

 食品中の水分の温度が氷結点に到達すると、温度変化は一旦緩やかになる。この温度帯は「最大氷結晶生成帯」と呼ばれ、氷結晶を成長させる。冷凍食品の品質維持の鍵は、この温度帯を短時間で通過させることにある。

 最大氷結晶生成帯の時間短縮には、熱伝導率が高い物質で冷やす、あるいは超低温で冷やす、の2つのアプローチがある。

 テクニカンは、低温のアルコールに浸して急速冷凍する液体急速凍結機「凍眠」を販売する。液体は気体よりも熱伝導率が高いため、短時間冷凍が可能である。2022年、山田錦最高米を使用し、凍眠で冷凍した旭酒造の「獺祭」が、米国のオークションで高額で落札された。日本酒は鮮度が劣化しやすいため輸出に適さないと言われたが、液体利用の冷凍技術により日本酒の輸出が拡大することを期待したい。

 デイブレイクは、特殊冷凍機「ARTLOCK FREEZER」を販売する。独自開発したファンを多方向から吹きあてることで冷凍庫内の温度のバラつきを抑制し、急速冷凍する。同社は機械販売に加え、食材の前処理、保存、解凍、メニュー開発などのコンサルティングも行う。特殊冷凍機と適切なプロセスノウハウにより、高品質な冷凍食品の製造を支援している。

 氷結晶の膨張を防ぐその他の特殊冷凍技術には、磁力を活用する「プロトン凍結」や、食品中の水分子を振動させる「CAS(CellsAlive System)」冷凍などがある。

 特殊冷凍技術を家庭レベルに拡大する動きもある。テクニカンは家庭用冷凍機「凍眠マジック」を発売した。

 日本国内の食品ロスは20年度で522万トン、うち家庭内ロスは247万トンと推計されている。特殊冷凍技術は冷凍食品の品質向上に加え、食品ロスの削減など食のサステナビリティにも資する。今後幅広い領域で積極活用され、食品流通に変革をもたらすことが期待される。

(フロンティア・リサーチ部 坂本 雄右)

※野村週報 2023年2月13日号「新産業の潮流」より

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