①2月3日~2月10日の振り返り:インフレ懸念再燃でナスダックが比較的大きな下落

 米国株の主要3指数を週次ベースでみると、ナスダック総合指数が今年に入り初めて下落しました。3日(金)発表の1月の強い雇用統計の余波が広がり金利が上昇したため、インフレピークアウト期待を背景としたグロース(成長)株優位の展開が一服した形です。NYダウ、S&P500指数も揃って下落しました。

パウエル議長「タカ派化」回避…でもインフレ懸念再燃

 先週市場の関心を集めた7日(火)のパウエルFRB(米連邦準備理事会)講演は、事前に警戒されていたほどタカ派的でなかったと市場で受け止められました。しかし週後半には、10日(金)発表の2月のミシガン大学調査による1年先消費者期待インフレ率が前月の3.9%から4.2%に上昇するなど市場のインフレ懸念が再燃しました。

 米国10年債利回り(米長期金利)は3日終値の3.5%台から10日終値の3.7%台へ上昇し、金利上昇の影響を受けやすいグロースセクターを中心に、株価に下押し圧力がかかりました。

②今週の気になる経済指標: 14日(火)の米CPI

 先週の動きを踏まえれば、米長期金利の低下とPER(株価収益率)の上昇を起因として米国株が復調するかはインフレ指標次第となりそうです。注目は、14日(火)の1月米消費者物価指数(CPI)でしょう。

米CPI、野村では前年同月比+6.3%を予想

 野村では、1月総合CPIの前年同月比を+6.3%と予想しており(市場予想は同+6.2%)、前月の同+6.5%から高止まりが予想されます。財部門では中古車価格などを中心にディスインフレが進む一方で、航空運賃などサービス部門が物価上昇をけん引すると予想しています。

FRBのスタンスに「微妙な軸足のシフト」?

 CPIを米金融政策当局がどう解釈するかも争点となりそうです。米国野村拠点の雨宮エコノミストはFRBのスタンスに「微妙な軸足のシフト」があった、と分析しています。これまで米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の多くは、住居費を除くコアサービス・インフレ率を重視してきました。しかし先週、FRB高官が相次いで、食料品、エネルギー、家賃といった必需品項目の重要性を強調する主旨の講演を行っています。

FRBに「ハト派化」の兆し

 雨宮氏はこれを受け「2つの理由からハト派的な変化を示す」と分析しています。第1に、最近の労働市場の堅調さからみて、住居費を除くコアサービス・インフレ率が低下するまでに長い時間を要する可能性があります。広範なインフレに目を向けることで、見通しをよりハト派的に捉えることが可能になるという変化が期待されます。第2に、FRBは短期的な変動を重視せず、中期的な視点から特定のインフレ要因ではなく、インフレの基調的な傾向に焦点を当てることもできるようになります。

 今週はFRB高官による講演も相次ぎます。インフレに対するスタンスの変化があるか、確認したいと考えます。

③今週の気になる決算:16日(木)のアプライド・マテリアルズ

※ここで取り上げる銘柄は、あくまで「今週決算発表がある企業およびその関連企業」のうち、「米国経済やセクター全体を見通す上でインプリケーションが多い」という観点で言及するものです。個別銘柄の勧誘・助言を目的とするものではありません。

 まずは、決算発表を受けたS&P500指数構成企業のリビジョン・インデックス(直近4週間にアナリストが業績上方修正をした銘柄数÷ 下方修正をした銘柄数)について確認しておきましょう。先週、FY1(予想1期目)が1.0に反発したということをお伝えしましたが、今週再度0.6に低下しています。FY2(予想2期目も)も0.7と下方修正優位が続いており、決算を受けた市場の予想EPS(1株当たり利益)は低下傾向です。10-12月期決算発表も一巡したことから、ここから大きく上方修正に転換するということは期待しづらい環境と言えます。。

世界最大手の半導体製造装置メーカー、アプライド・マテリアルズ

 今週は、16日(木)のアプライド・マテリアルズ(AMAT)の決算発表に注目したいと考えます。同社を米国経済やセクター全体を見通す上で示唆が多いと判断する理由は以下の3点です。1点目は、同社が2022年11月-2023年1月期という、先週まで決算発表が集中した2022年10-12月期企業から1か月先行した四半期の決算であるため、より早く変化を確認するのに有用であるという点です。2点目は、同社が世界最大の半導体製造装置メーカーである点です。半導体セクターは自動車セクターと並び2023年年明けからの米国株の上昇をけん引していることから、当社の実績やガイダンスがグローバルな経済や業績を考える上でも重要だと考えています。3点目は、半導体市場の内訳を見る上で、同社の発表するセグメント情報に示唆があると考えられるからです。

前四半期決算ではメモリーに暗雲…しかしその他は堅調

 前回の2022年8-10月期決算では、売上高で見て前年同期比+10%と堅調でした。しかし、内訳をみてみるとDRAM(メモリー)向けでは同-8%となっています。10-12月期決算の他の半導体企業を見てみても、メモリーの売上高は不調でした。メモリー生産世界最大手のサムスン電子では、同四半期の売上高が同-8%と市場予想を下回る実績となったほか、生産調整も緩慢であることが示され、DRAM単価の下落は続く公算です。

 一方で、アプライド・マテリアルズの売上高全体では堅調に伸びていることは、その他のカテゴリ(演算を行うロジック半導体や、生産を請け負うファウンドリー、通信や車載用のアナログ半導体)向けの需要は良好であることを意味しています。世界最大手のアナログ半導体メーカー、テキサス・インストゥルメンツ(TI)の決算では設備投資の増額が発表されました。また、世界最大手のファウンドリーであるTSMC(台湾セミコンダクター、TSM)では設備投資減額が発表されたものの、高い水準が維持されています。こうした傾向に変化がないかは当社決算の重要な確認事項でしょう。

 コメントで注視すべき点としては、半導体業界を巡る米国の対中輸出規制が挙げられます。当社では、前四半期決算時点での通期ガイダンスには輸出規制の影響を最大限織り込んでいるとコメントしており、さらなる引き下げがないかには市場の関心が集まります。

 2022年11月期-2023年1月期決算には半導体やソフトウェアなどの企業決算が多く予定されています。マクロ環境が不透明な中でも、同セクターには独自の成長要因をもつ企業も多く、引き続き米企業決算から目が離せません。

(FINTOS!米国株/小野﨑通昭)

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