市場区分見直しの実効性向上への対応

 東京証券取引所(以下、東証)は1月30日に、市場区分の見直しに関するフォローアップ会議の議論を踏まえて、企業価値向上に向けた東証の対応を発表した。内容は、上場基準を満たさない企業に対する経過措置の取扱いと、上場企業に対する中長期的な企業価値向上に向けた取組みの動機付けの2つである。

 2022年4月の新市場区分移行時に、旧東証一部上場企業は上場基準を満たしていなくても東証プライム市場への移行が認められるなどの措置が取られた。これらの企業には上場基準を満たすための改善策を東証に提示し、実行することが求められていたが、その経過措置期間は明確に定められていなかった。

 今回、東証は経過措置期間を25年3月で終了し、25年3月1日以降に到来する上場維持基準の判定に関する基準日から、本来の上場維持基準が適用される案を公表した。なお、東証によれば、22年12月末時点で経過措置の適用を受けている企業は510社(うち東証プライム市場が269社)である。

 また、東証は上場企業に対して、中長期的な企業価値向上に向けた取組みを動機付けるための対応も発表した。具体的には、①資本コストや株価への意識改革・リテラシー(知識や能力)向上、②コーポレート・ガバナンス(企業統治)の質の向上、③英文開示の更なる拡充、④投資者との対話の実効性向上、の4項目である。

資本収益性改善に向けた取組の開示を要請

 ①については、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)原則5-2に沿って、経営陣や取締役会が自社の資本コストや資本収益性を把握し、その状況や株式市場の評価を議論した上で、必要に応じて改善に向けた方針や取組み、進捗状況を開示することが求められる。特に、継続的にPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る企業に対しては、東証が開示を強く要請する。

 フォローアップ会議メンバーの多くが、PBRが継続的に1倍を下回る上場企業が多いことを問題視しており、東証プライム市場の上場基準やTOPIX(東証株価指数)の組入れ基準にPBRを用いることを検討すべきとの意見もあった。東証がまず上場企業の資本収益性の向上を促すための対応から始めた、と捉えることもできよう。

 また、グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向け市場という東証プライム市場の概念を踏まえれば、企業の負担が重すぎない範囲で、③や④の強化が求められるのも当然であろう。

 東証はフォローアップ会議の開催を中長期目線で3年程度は継続する意向だ。同時に、早急に対応すべき事項はその都度対応を進める方針である。今回発表された上記の対応のうち、東証は早いものは23年春から、遅いものでも23年度中に実施する予定であり、対象となる企業にはスピードを重視した対応が求められる。

 加えて、フォローアップ会議では、これまで十分議論できていなかった東証グロース市場についての論点(上場後の企業の成長促進、低流動性によって機関投資家が参加しにくい、新陳代謝の不足等)が取り上げられるなど、市場改革に向けた議論が続く見通しである。

(市場戦略リサーチ部 池田 雄之輔)

※野村週報 2023年2月20日号「焦点」より

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