
投資家の皆様から関心の高い質問を専門分野のリサーチャーに聞いてみました!
Q:なぜインフレは「退治」が必要なのか?
なぜインフレは「退治」が必要なのでしょうか。アメリカは雇用が堅調、インフレも供給要因というよりは需要要因にシフトしており、素直に考えれば良いことづくめなようにも見えます。ハイパーインフレではない今のような数%インフレへの懸念とは、つきつめると何への懸念なのでしょうか。
A:景気に配慮してインフレを退治せずにいたら、その景気まで悪化した苦い経験があるため
つきつめると、いずれ景気まで悪くなってしまうかもしれない懸念、と言えます。
反省材料として強く意識されているのが、1960~1970年代の経験でしょう。たとえば米国では、インフレ率は1960年代前半には2%を下回っていましたが、同後半から加速傾向に入り、1970年代半ばと末には10%を超えました。それでも景気が良ければ大きな問題ではなかったのかもしれませんが、1960年代後半まで低水準だった失業率は、1970年代に入ると変動を伴いながらも上昇傾向に転じてしまいます。景気に配慮してインフレを十分退治せずにいたら、その景気まで悪くなってしまった、という苦い経験です。
1970年代のインフレ加速+景気悪化には、もちろんオイルショックも影響しています。しかし、これだけ長期間のインフレ加速を、原油価格上昇によるコストプッシュだけで説明するのには無理があります。1979年にFRB議長に就任したポール・ボルカ―は、きちんとインフレを退治することが重要との認識の下、明確に金融引き締めに乗り出し、実際インフレ退治に成功、失業率も最終的には低下傾向に転じます。
インフレが高くなると景気まで悪くなってしまう理由ですが、一般論として、物価が大きく変動すると経済活動はやりにくくなります。自分で商品を作るのに、コストがいくらかかるのか、それがいくらで売れるのか見当もつかなければ、事業計画も立ちません。思わぬ物価上昇が起こると、お金を借りている人は(実質的に負担が軽くなるという意味で)得をしますが、お金を貸している人は損をするので、そもそもいくらの金利で貸すかとても悩むでしょう。来年物価は何%上がる、と事前に分かっていればよいのですが、実際にはそんなことは分からず、商品によっても上がり方はばらばらで、思わぬ得をする人がいれば損をする人も出てきます。堅い言い方では、所得/資産の再分配が起こるという表現になります。全体的なインフレ率が高いほど、思わぬ所得/資産の再分配が起こるリスクが高くなり、経済活動が成立しにくくなってしまうと理解できます。
以上のように、ハイパーインフレにまではならなくとも、インフレ加速を放置していたら景気まで悪化した、というのが1970年代の教訓とされています。現時点ではそこまでには至っていませんが、そうならないよう、インフレ退治が必要ということになります。
(出所)野村證券経済調査部より野村證券投資情報部作成
