2024年に向けて景気回復は継続

2022年10~12月期GDP(国内総生産)統計(1次速報)を踏まえて、野村では日本経済の見通しを改定した。改定後の見通しでは、実質GDP 成長率が22年度は前年度比+1.4%(前回は同+1.8%)、23年度は同+1.6%(同+1.4%)、24年度は同+1.1%(同+0.9%)となる。

22年度の成長率は、22年10~12月期の実績値が事前予想を下回ったため下方修正となったが、米国や中国の経済見通しが上方修正されたことを受けて、23、24年度は上方修正となった。訪日外国人(インバウンド)需要の回復を含む経済活動の再開(リオープン)を背景に、日本経済が回復軌道を辿る構図は従来見通しから変わっていないが、海外経済の見通しがやや明るくなったことで、先行きの回復力はむしろ高まったと野村では見ている。とりわけ民間消費支出、輸出(モノ、サービス)、設備投資が景気の牽引役となりそうだ。

一方、コアCPI(消費者物価指数:生鮮食品を除く総合)で評価したインフレ率(前年度比)は、22年度+3.0%(改定前+2.9%)、23年度+2.2%(同+1.9%)、24年度-0.1%(同-0.5%)と見ている。

22年12月に前年同月比+4.0%に達したコアCPIインフレ率は、23年1月の同+4.3%をピークに低下すると、野村では考える。その背景には、①エネルギーおよび食料価格高騰の影響が剥落していくこと、②ドル円レートが22年のドル高円安から23年にはドル安円高に転じると見込まれること、③岸田内閣による総合経済対策が効果を発揮し始めること、などが挙げられる。

一方、リオープン下で景気回復が続くと見込まれることから、需給ギャップはプラスの度合いを強めていく(=潜在GDPを実際のGDP が上回り、需要超過の度合いを強めていく)と見込まれる。この点は継続的にインフレ率を押し上げる方向に働こう。加えて野村では、23年の春闘賃上げ率の見通しを引き上げた。従来見通しでは+2.52%(うちベースアップ部分が約+1.0% pt)としていたが、今回の見通しでは2.83%(同+1.28% pt)とした。

24年度に向けて、コロナ禍以前に見られた「デフレではない状態」が現出するものと予想している。

日銀はYCCを修正するも緩和姿勢を堅持

岸田内閣は、次期日本銀行総裁に植田和男・元日銀審議委員、副総裁に内田眞一・日銀理事(企画担当)、氷見野良三・前金融庁長官を充てる人事案を国会に提示した。

植田総裁の誕生を想定した場合、金融政策運営について以下の2点を指摘できよう。第1に、持続可能な2%インフレを目指した金融政策運営が予想される。YCC(長短金利操作)自体に副作用があるとしても、物価の安定(持続的な2%インフレ)の実現を目指した政策姿勢が揺らぐことはないだろう。第2に、現行YCCに伴う副作用の是正を進める可能性が高い。ただし、その場合でも金融緩和姿勢が揺らいでいるとの印象を与えないために、丁寧なコミュニケーションに基づく予見性の高い政策運営に努めるだろう。

植田総裁の誕生が想定される今、野村は日銀シナリオを変更した。新たなメイン・シナリオでは、以下の4つのメニューを想定する。

第1に、フォワードガイダンス(金融政策の方針)の変更を4月の金融政策決定会合(以下、決定会合)で見込む。安定的な2%インフレに向けた物価のモメンタム(勢い)が実現するまで金融緩和を継続する、といった内容が想定される。

第2に、YCC下での長期の政策金利を、現行の10年国債利回りから、5年あるいは2年に短縮することが見込まれる。早ければ6月の決定会合での対応が想定される。

その意図としては、①10年国債利回りの不自然な落ち込みを解消することで、国債市場の流動性向上および社債の発行環境改善を狙うこと、②国債先物取引の現物受け渡し銘柄(通常、残存期間7年に近い10年利付国債のうちの最割安銘柄)が日銀の指値オペから解放されることで、現物と先物の裁定がより働くようにすること、③2年あるいは5年の国債利回りに新たな誘導目標を設定することで、フォワードガイダンスを補強し、金融緩和策を続ける姿勢を明確にすること、④YCCの修正過程で過度な金利上昇や円高が起き、実体経済に負の影響が生じることを避けること、などが挙げられる。

第3に、マイナス付利の撤廃を24年初頭以降に見込む。23年に加えて24年の春闘における賃上げ度合いを確認する必要がある。

これら3つのメニューをこなしたうえで、第4の策として24年初頭以降のYCCの撤廃、および短期市場金利操作への移行を見込んでいる。

(経済調査部 森田 京平)

※野村週報 2023年2月27日号「焦点」より

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