各国中央銀行の金融政策等に左右される

足元、J-REIT(不動産投資信託)市場の代表指数である東証REIT指数は1,800ポイント台で推移している。2022年8月から23年1月末まで振り返ると、東証REIT指数は日本株市場の代表指数であるTOPIX(東証株価指数)をアンダーパフォームする展開となった。22年12月に実施された日銀金融政策決定会合において、長期金利の変動幅を、従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」への拡大が決定されたことに伴い、東証REIT 指数は一時1,800ポイントを割れた場面もあった。一方、その後は加重平均配当利回り及び株価/修正純資産倍率といった株式評価指標において投資魅力が高まったことを主因に東証REIT 指数は下げ止まったものと考えられる。市場参加者の視点は、23年4月に任期満了を迎える黒田日銀総裁の後任として政府が提示した植田新総裁のもとでの長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の方針等に移るものと考えられるが、米国など各国中央銀行の金融政策及び景況感見通しに、東証REIT指数の動向は左右されると考える。

J-REITの場合、毎月何らかの銘柄が決算発表と今後の業績見通しを開示する。その内容を確認すると、例えばオフィスに関しては、オフィスの主要テナントである企業が賃借している床を物件保有者であるJ-REITに返却(賃貸借契約の解除)する場面が散見される。コロナ終息後も在宅ワークを働き方の一つの選択肢とする企業が増加している様子が伺われる。そのような中でJ-REIT 各社では、オフィス賃料単価の上昇よりも稼働率の維持・向上を優先させる戦略を取り始めている。今年は、東京23区において大規模なオフィス新規供給が計画されている環境でもあるため、J-REIT各社において保有オフィスの稼働率が底打ちするかが注目される。一方で、足元では相対的に中小規模のオフィスに対して一定の入居需要が顕在化しつつあるところもある。例えば、募集床面積100坪未満のオフィスでは、フリーレント期間(賃料を収受しない期間)を長期化させなくても空室床を埋戻しできる状況も確認される。オフィス市況は、大規模オフィスと中小規模オフィスのあいだで入居需要に濃淡が表れており、二極化の様相を呈していると言える。

J-REITは米利回り曲線の変化で影響も

東京23区転入超過数は、21年はコロナ影響によって大きくマイナスとなったが、22年は再びプラスに転換した。J-REITが保有する賃貸住宅については、その大部分はシングルタイプと言われる単身者向け住戸であり、稼働率はコロナ禍以降に95%を下回る状況が散見されたが、21年夏以降からは再び95%超にまで上昇してきている。こうした中で、入居者が入れ替った際の新規賃料(新入居者の賃料)が既存賃料(前入居者の賃料)との比較で減額されやすかった傾向が変わりつつある。即ち、減額傾向に底打ちの様子がみられる状況にある。野村では、22年秋以降には新規賃料が既存賃料を下回る傾向が徐々に解消され始め、既存賃料比での新規賃料の減額幅も縮小に向かうと考えていたため、概ね想定通りとなっている。日本の景況感は好調とは言い難いものの、本年の春闘に向け一定の賃金上昇(ベア)を表明する企業が相次いでいる環境においては、とりわけ東京23区に所在する賃貸住宅では、賃料上昇が期待できる素地が整い始めている。

他方、コロナ影響からの回復期待が内包するホテルについては、ホテルの売上を意味するRevPAR(宿泊単価×稼働率)水準がコロナ禍前である19年と比較してほぼ同水準まで回復している。今後もコロナ感染者数動向や入国規制状況に左右されると考えるが、仮にインバウンド需要(訪日外客需要)がさらに拡大すれば、RevPAR水準は大きく上昇する可能性は十分ある。但し、足元のエネルギーコスト上昇に伴う水道光熱費の増加やホテル従業員等の人件費の増加が発生してくると、J-REITと賃貸借契約を結んでいるオペレーター各社(ホテル運営者)の損益収支に悪影響を与える可能性もあるため留意が必要と考える。

野村では、市場参加者の視点が、RevPAR水準から変動賃料の決定係数の一つであるGOP(営業粗利益)水準に移るものと考える。足元のJ-REIT市場における加重平均配当利回りは4.1%、株価/修正純資産倍率は0.9倍(いずれも2月14日終値時点)であり、過去5年の平均3.9%及び1.0倍と比べて割安とは言いにくい。米国をはじめとした金融政策に変化が見受けられる環境下、短期的には米国の利回り曲線の変化に伴う資金フローの変化によって、利回り商品としてのJ-REIT 株価は影響を受ける一方、植田新総裁下での金融政策方針の不透明さが後退してくれば、J-REITへの注目は高まるものと考える。

(エクイティ・リサーチ部 大村 恒平)

※野村週報 2023年2月27日号「産業界」より

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