建設業におけるXR 活用の可能性に注目している。XR とは、仮想現実(VR)と、拡張現実(AR)の総称である。

VRは、3次元の立体データを用いて、コンピューター内に現実空間と同じような仮想空間を再現する技術である。それに対して、ARは、現実世界にコンピューター内の立体データを重ね合わせる技術である。

XRを使えば、没入感を持ったコンテンツを創ることができる。ビデオゲームや映画コンテンツなどのエンターテイメント分野では、早くから研究が進められてきた。

近年は、生産性向上のため、建設業のシミュレーション用途での利用が進んでいる。建物が立体的に表示されるため、内外観のイメージや、施工工程を関係者間で共有しやすい。施主を含む関係者間の合意形成や、設計の迅速な修正、変更が容易となる。また、施工の進捗管理や、災害を想定したシミュレーションも可能となる。

工事現場での活用余地も大きい。建物の立体データをAR で現場に投影することで、手作業で行われていた計測作業を簡易化できる。建設業が抱える長時間労働、人手不足、高齢化などの課題解決に資する技術として期待が寄せられている。

建設業におけるXR 活用気運の高まりの背景には、政府の取り組みがある。国土交通省は、公共工事における3次元データの利活用方針を2017年に発表し、環境整備を進めている。業界の課題を解決すべく、政府が本腰を上げたと言える。

周辺技術の進歩もXR の普及を後押ししている。通信の高速化やクラウドサービスの台頭で、社内サーバーの利用が前提だった立体データの閲覧と操作が、クラウド環境で安価に実行できるようになった。また、3次元データの計測機器の開発も進み、建物の設計やメンテナンスに必要な立体データの採取も以前より容易になった。

建設業におけるXR 活用の盛り上がりは、ベンチャー業界にも波及している。建設業向けにXRソリューションを提供するIT(情報技術)ベンチャーがここ数年で増えてきた。3次元データの採取からVR 空間内での高度なシミュレーションまでの全工程を、ワンストップで扱えるサービスを提供するベンチャー企業も現れている。

XRによる建設業の課題解決とベンチャー企業の活躍に期待したい。

(フロンティア・リサーチ部 清河 徳宇)

※野村週報 2023年3月6日号「新産業の潮流」より

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