①2月24日~3月3日の振り返り:利上げ懸念重石も、企業決算が支え

S&P500指数:4,045.64(+1.90%)

NYダウ指数:33,390.97(+1.75%)

ナスダック総合指数:11,689.00(+2.58%)

先週は、米長期金利(10年債利回り)が一時4%を超えました。きっかけとなったのは1日(水)発表のISM製造業景況感指数です。47.7と好不況の分かれ目である50を下回ったものの、仕入れ価格指数が前月から上昇したことでインフレ圧力の高まりが警戒されました。しかし、タカ派と目されるアトランタ連銀のボスティック総裁が、3月FOMC(米連邦公開市場委員会)では「0.25%利上げに断固賛成する」と述べたと伝わったことで、利上げペース再加速に対する警戒感が和らぎました。また、サービス価格のインフレを見る上で注目された3日(金)発表のISM非製造業景況感指数は55.1と市場予想の54.5からさほど上振れしませんでした。週央に市場に広がった過度なインフレ警戒は後退し、米長期金利は前週末と同水準の3.9%台まで低下しました(3日終値ベース)。

見通しづらい環境下でも米国株主要3指数が上昇した一因は、一部企業の堅調な決算でした。中でもセールスフォース(CRM)は2022年11月-2023年1月期のEPS(一株あたり利益)と売上高が市場予想を上回り、決算発表翌日の2日(木)に前日比11%超上昇しました。情報技術セクター全体にとって追い風となったと言えます。

②今週の気になる経済指標:経済指標:週央のパウエル議長議会証言、10日(金)の雇用統計

今週は7日(火)と8日(水)にパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長の議会証言が予定されています。11日(土)からFOMC(米連邦公開市場委員会)メンバーが沈黙期間(金融政策に関して公の発言を控える期間)に入るため、注目が集まります。

「インフレ減速」の評価は振り出しに

FOMCメンバーは、2022年12月に利上げ幅を0.50%ポイントに減速(同年11月まで4会合連続の0.75%ポイント利上げ)させて以降、概ね「インフレ減速が始まりつつある」との認識を示し、1月31日-2月1日開催のFOMCでは利上げ幅を0.25%ポイントに縮小しました。しかし、2月に入り発表された1月の雇用統計(3日)やPCE(個人消費支出)デフレータ(24日)は上振れし、「ディスインフレ」という評価は振り出しに戻ったと考えられます。実際に2月FOMC議事録(22日公表)では、会合時点でのディスインフレとの評価や、予告されていた利上げ停止に関する議論が、一切示されませんでした。その後に発表された1月雇用統計を経て、インフレを巡る景色が一変し、議論の掲載が見送られた様子がうかがえます(野村證券の小清水ストラテジスト)。

パウエル発言は再度タカ派化のリスク

足元の景気は(1)過剰貯蓄取り崩しによる個人消費の堅調、(2)税収回復で財政に余裕が生まれた地方政府による減税、(3)暖冬による外出活動活発化、といった、金融環境以外の要因に大きく左右されています。これらの景気下支え効果が出尽くしとならなければ、労働市場が大きく悪化することは予想し難い環境です。

その間、景気が再加速してしまうことを避けるべく、金融政策は十分引き締め的な状況を維持することが必要ですが、これまでFRBは利上げ停止が近付いていることを示唆するコミュニケーションを行ってきました。これによって、引き締め効果が半減してしまったとも考えられます。パウエル議長の発言が再度タカ派化するリスクには注視が必要です。

実体面での焦点は10日(金)の雇用統計

インフレの先行き見通す上で重要なのは雇用環境です。10日(金)公表の2月分雇用統計が、市場予想通り前月比+20万人前後となれば、3ヶ月平均では同+30万人台前半となり、その前の3ヶ月から基調的にはほぼ横ばいのイメージとなります。野村の小清水ストラテジストは「2月も1月に続き暖冬により経済活動が押し上げられていると見られることを踏まえれば、FOMCとしては0.25%ポイントの小刻みな利上げで様子見することが可能となり、3月会合での政策金利見通しの上方修正は5.625%程度までと予想される」(現在の政策金利は4.625%)と分析しています。

一方、2月分が同+30万人前後となれば、3ヶ月平均では+30万人台後半となり、その前の3ヶ月と比べて基調的に加速するイメージとなります。小清水ストラテジストは「十分に引き締め的な水準に全く近づいていないことから、利上げを急ぐ必要が高まり、再度0.50%ポイントの利上げが検討されよう。3月会合での2023年末政策金利見通しは5.875%以上への上方修正が予想される」と分析しています。

 米国株の下押し圧力となりうる米長期金利上昇を回避できるか、目の離せない週となりそうです。

③今週の気になる決算:9日(木)のオラクル

※ここで取り上げる銘柄は、あくまで「今週決算発表がある企業およびその関連企業」のうち、「米国経済やセクター全体を見通す上でインプリケーションが多い」という観点で言及するものです。個別銘柄の勧誘・助言を目的とするものではありません。

リビジョンの谷は「浅い」か

直近決算を受けたS&P500指数のリビジョン・インデックス(RI、直近4週間にアナリストが業績予想を上方修正した銘柄数/下方修正した銘柄数で計算)を確認しておきましょう。FY1(予想1期目)は0.68、FY2(予想2期目)は0.73です。1以下ですから、下方修正優位であることに変わりはありません。

一般的に、RIは企業決算発表直前に低下する傾向にあり、決算発表を受けてさらに予想修正が進みます。2022年5月までは「(決算を受けて)上方修正」とでしたが、直近2回の2022年8月、11月の決算シーズンでは「(決算発表前に下方修正した予想から、さらに)下方修正」となってきました。一方、今回2023年2月も前述の通り下方修正傾向ですが、直近2回に比べて谷が浅い状況と言えます。こういったところからも、底堅い企業業績が株価を支えている構図が見てとれます。

早くも「2月期決算」が見られるオラクルに注目

9日(木)にオラクル(ORCL)が決算を発表します。2022年12月-2023年2月期決算のスターター銘柄であり、先週までの決算企業から1ヶ月進んだインプリケーションを得られると期待されます。2022年11月-2023年1月期決算では、情報技術セクターに明るい兆しが見える内容が相次ぎました。この流れを継続できるか、当社決算に注目が集まります。

クラウドへの移行が進むソフトウェア企業

当社はもともとオンプレミス(顧客企業による自社運用)をサポートするソフトウェアを主力としてきましたが、近年のクラウド化の流れに対応し、ビジネスモデルの転換を進めてきました。クラウド事業が2桁成長を続けられるか、注目されます。また、投資も積極的に行っており、設備投資動向も重要な確認事項です。

各地域の売上動向にも注目

当社は売上高の過半を米州で稼いでいますが、そのほか欧州中東アフリカで28%、アジア太平洋で16%(2022年5月期)と世界に展開しています。各地域でのソフトウェア投資動向を確認する上でも、同社決算に市場の関心が集まります。

ご投資にあたっての注意点