アジアを代表する国際金融センターの一つであるシンガポールは近年、金融セクターの更なる競争力向上を目的として、金融人材の育成を強化している。そこでは、自国民の職業能力向上を支援する国家的運動として2014年に開始された「スキルズフューチャー」が重要な役割を担っている。スキルズフューチャーは、従業員、雇用主、職業訓練機関、学生等を対象とする。

スキルズフューチャーの主要プログラムの一つとして、労働者が教育・職業訓練機関により提供されるコースを受講する際の受講料を助成する制度がある。25歳以上の全てのシンガポール国民は、500シンガポールドル(23年2月末の換算レートで約5万円)の助成金が支給される。当該制度では、約2.7万のコースが提供されており、うち約1,600が金融関連のコースとなっている。

スキルズフューチャーでは他にも、金融分野の各業務で必要なスキルやスキル向上プログラム等に関する情報提供の枠組みがある。例えば、個人及び法人向け銀行サービス、資産運用、保険等の事業分野における営業、トレーディング、商品開発、リスク管理等の様々な業務に必要なスキルがキャリア段階別に明確化されており、金融機関は当該枠組みを基に、より効率的かつ効果的な人材育成が可能となっている。

シンガポールの金融セクターでは特に、テクノロジー分野の人材育成が重視されている。19年に人工知能やサイバーセキュリティ等のテクノロジー分野の雇用機会を促進するプログラムが開始されたほか、21年にはデジタル金融人材の育成を目的とした新たな教育・研究機関が金融規制当局、政府機関、国内大学により共同設立された。

サステナブルファイナンス(持続可能な社会を実現するための金融)も重点分野と位置付けられている。金融規制当局は、同分野に関する研究や人材育成を担う中核的研究拠点の設立を支援してきたほか、金融機関の職員が同分野で必要とされるスキルを特定して22年に公表した。

翻って、日本においても、成長分野への労働移動を促すために、個人のリスキリング(学び直し)を支援する政策が打ち出されている。シンガポールの金融人材育成の取り組みは、日本にとって参考になる部分もあると考えられる。

(NOMURA SECURITIES,SG 北野 陽平)

※野村週報 2023年3月13日号「資本市場の話題」より

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