米国の中堅銀行破綻で金融不安が広がる中で、かねてより業績不振で赤字継続が見込まれているスイスの大手金融機関、クレディ・スイス・グループのCDS(クレジット・デフォルト・スワップ※)が急騰しています。欧州にも金融不安が広がるとの懸念が強まっています。

※CDS…Credit default swapの略称で日本語読みはクレジット・デフォルト・スワップ。クレジット・デリバティブの一種で、企業の債務不履行にともなうリスクを対象にした金融派生商品。対象となる企業が破綻し金融債権や社債などの支払いができなくなった場合、CDSの買い手は金利や元本に相当する支払いを受け取るという仕組み。

しかし、下の図にありますように、他の欧州銀行のCDSは上昇していますが、小幅に留まり、金融危機が欧州全体に広がっていません

また、スイス当局が クレディ・スイス・グループ 救済に乗り出しています。2008年のリーマンショック以降、世界的な金融危機の際には、銀行の規模が大きすぎて、国家といえども救済できないのではないかとの見方が広がりました。特にEU(欧州連合)やユーロに加盟していないスイスではその危機感が強くなりました。例えば、ECB(欧州中央銀行)が危機に陥ったギリシャ中央銀行に資金を供給したような救済はスイスの場合、想定できません。

このため、上の図にありますように、スイス最大の銀行、UBSは投資銀行業務を大幅にカットしてバランスシートを縮小しました。2022年12月期でもスイスの名目GDPを上回っていますが、危機前から直近まで総資産の対名目GDP比は約3分の1となっています。クレディ・スイス・グループも同様にバランスシートを縮小しましたが、リスクの高いビジネスを手掛け、巨額の損失を生み、預かり資産の流出などに追い込まれ、今回の危機に陥っています。

主要先進国の銀行の資産も同様に、概して対名目GDP比で縮小しています。欧州では銀行破綻処理のルールが整備されると共に、規制が強化されました、さらに自己資本の充実を図り、不良債権の処理も進めてきました。クレディ・スイス・グループの問題は米国の中堅金融機関破綻と同様に、固有の理由による危機と言えます。このような状況を踏まえると、欧州債務危機時のような金融不安の広がりは想定しにくいのではないでしょうか。

(投資情報部 服部 哲郎)

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