①3月13日~3月20日の振り返り:金融不安で一喜一憂、週末に対策相次ぐ

金利低下がハイテク株に恩恵

前週時点では米CPI(消費者物価指数)などインフレ指標の見極め週になると見られていました。しかし、シリコンバレーバンクからクレディ・スイス・グループ(以下はクレディ・スイス)に至るまで多くの銀行の経営と金融システムの安定性が不安視され、相場は乱高下しました。主要3指数を比べると前週末比でNYダウは小幅反落、ナスダック総合は4%超上昇と格差が鮮明です。米長期金利(10年債利回り)が低下傾向となり、10日終値の3.704%に対し、17日終値は3.429%となったことが一因とみられます。バリュエーションの観点から金利低下の恩恵を受けやすいハイテク株が上昇しました。

週末には対応策が相次ぐ

市場の不安心理を鎮静化させるため、主要国金融当局が相次いで対応策を発表しました。スイス政府とスイス最大の金融機関であるUBS、クレディ・スイスは19日、UBSがクレディ・スイスを買収することを発表しました。同日にはFRB(米連邦準備理事会)など日米欧の6中央銀行は、協調して市場へのドル供給を強化すると発表しました。FRBは声明で、ドルスワップ協定を通じて7日物オペの頻度を週次から日次に増やすことで合意したと説明しました。オペは20日から開始し、少なくとも4月末まで実施する予定です。執筆時点(日本時間20日12:00)には、アジアの株式市場は比較的落ち着いた動きとなっており、こうした迅速な対応はマーケットの鎮静化に一役買ったと言えそうです。

②今週の気になる経済指標:22日(水)のFOMC結果発表

米銀まで危機は広がるか

大手米銀のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のプレミアムの推移をみると、直近、金融市場の混乱を受けて上昇していますが、2022年秋につけた水準までには至っていません。これらの銀行について、信用リスクが極端に高まっている状況にはないと推察されます。

銀行の株価下落、理由は2つ

これら米国の大手銀行の株価が下落している一つの要因は、クレディ・スイスのような大手金融グループや、米国内の銀行が何らかの財務リストラを行うような事態となった場合、大手米銀がこれらの銀行との間で行っている相対取引に、相応の損失が発生するといった事態が警戒されている可能性が考えられます。もう一つは、警戒感を高めた投資家が、資金を株式からより安全な米国債などに移していて、保有している個別銀行株を売却していたり、投資信託などの売却を経由して米銀株が売却されている、という事態も考えられます。

米大手行まで経営に行き詰まるリスクは限定的か

ただし、米国の大手銀行は、いわゆるリーマンショックへの反省から金融当局からの監督、規制が強化され、毎年ストレステストを受けるなど、経営内容は監視され、資本は厚く手元流動性は確保されています。加えて、米国の金融当局が金融システムに対する不安を払拭するために積極的な対策をとっていることもあり、米国の大手行が近々に経営に行き詰まり、金融システム不安のような状態になる可能性は、かなり限定的と推察されます。

ハイイールド社債も、極端な動きとはなっていない

次に、事業会社を多く含む、投資適格級ではないとされるハイイールド社債のスプレッド(信用力に応じた上乗せ金利)の推移をみると、直近、若干拡大していますが、2022年中にみられた程度の上昇の範囲内に留まっています。相対的に信用力が低いとされるハイイールド社債の発行体企業についても、信用リスクが極端に高まっている状況にはないと推察されます。

FOMCと市場予想の分布

こうした混乱の中で、米国の金融政策を決定する会議であるFOMC(米連邦公開市場委員会)が21日(火)-22日(水)に開催されます。

FOMCでの政策金利操作に関する確率を分析するツールであるCME FedWatch Toolによれば、3月FOMCにおける利上げ幅(17日時点)は

据え置き…38.0%

0.25%ポイント…62.0%

0.50%ポイント…0.0%

と予想されています。

0.25%ポイント程度の利上げであれば、株式市場参加者の多くにとっては、想定の範囲内ということになりそうです。

野村は”利下げ”を予測

そうした中で、野村の米国拠点であるNSIの雨宮エコノミストは「0.25%ポイントの”利下げ”」を予想しています。背景に、これまで実施された金融当局の安定化策は、金融システムの安定性を維持するのは十分でないとの前提を置いています。しばらくは小規模銀行から大規模銀行への資金移動が続くほか、預金により高い金利を付ける必要性(銀行にとっては、調達コストの増加となる)も考えられます。金融システムの安定化策だけではこうした傾向は避けられないとすれば、FRB(米連邦準備理事会)が金融政策も活用することになる、というのが見立てです。

また、現在起こっている金融市場へのストレス自体が、銀行の貸し出し姿勢の厳格化を招いて貸し出しを抑制し、「金融引き締め」の効果を生み、結果として2023年後半の景気後退とインフレ沈静化に向かわせるとも考えられます。

“利下げ”の効果は

このような考え方に基づくと、この利下げは、市場に2つの重要なメッセージを送ることができると考えています。

1)FRBは金融安定化リスクを抑制するために金融政策を利用する用意がある

2)FRBは金融政策のスタンスを微調整する段階に入る

その他、金融政策の見通し

同時に、QT(量的緩和の巻き戻し)の終了や非預金金融機関向けの新たな融資制度を発表する可能性があります。

また、3月はドットチャート(参加者による政策金利および長期の均衡金利の見通し)が発表される点でも市場の関心を集めていますが、2022年12月のドットチャートから「更新しない」という選択をする可能性もあります。そうなった場合、2020年3月にパンデミックを理由として更新しなかった時と同様の措置となります。

野村の現時点での予想は、3月の0.25%ポイントの利下げで政策金利は4.25-4.50%のレンジとなった後、2023年末は同水準、2024年末には同年累計で1.75%の利下げが実施され、2.50-2.75%レンジまで低下するというものです。

③今週の気になる決算:23日(木)のアクセンチュア

※ここで取り上げる銘柄は、あくまで「今週決算発表がある企業およびその関連企業」のうち、「米国経済やセクター全体を見通す上でインプリケーションが多い」という観点で言及するものです。個別銘柄の勧誘・助言を目的とするものではありません。

ITに強いコンサルティングファーム大手

今週は23日(木)に決算を発表するアクセンチュア(ACN)に注目が集まります。各企業は景気動向の向かい風を受けており、情報技術セクターも例外ではありません。ただし、需要減退とコストインフレに対応して効果的な経営を行うためのDX(デジタル・トランスフォーメーション)は必須事項と言え、底堅い需要が見込まれます。中でも経営視点でDXを支援する同社の決算は、全体観を見る上で非常に有用です。

収益に2つの柱があるが、足元で成長に差異

同社はコンサルティング大手でありながら、ITのアウトソーシング事業も行なっていることでも知られます。2022年8月期通期ベースで、売上高の55%がコンサルティング事業、45%がアウトソーシング事業となっています。直近の2022年9月-11月期決算では、コンサルティングとアウトソーシングの乖離が鮮明です。企業がIT予算を絞り込む中で、比較的小規模な案件単位で扱われることの多いアウトソーシング事業は低迷した一方、より企業戦略に影響力の大きいコンサルティングは堅調に推移しています。

世界のDX需要を見極める材料に

同社は、世界のDX需要を見る上でも有用な情報を提供してくれそうです。2022年8月期通期ベースの地域別売上構成は、北米:欧州:その他=47%:33%:20%です。同期はどの地域も、売上高で見て前年同期比+20%超の高い水準を維持しており、どの程度景気減速への抵抗力があるか、今決算でも注目です。

セクター間の違いにも注目

当社は、顧客業種によって「通信・メディア・ハイテク」、「金融」、「製造・流通」、「ヘルスケア・公共」、「資源」の5分野(+「その他」)に分けて売上高を開示しています。2023年9月-11月期決算では、「製造・流通」、「ヘルスケア・公共」、「資源」が前年同期比+10%前後の増収を維持した一方で、「通信・メディア・ハイテク」、「金融」は同+2%、「通信・メディア・ハイテク」に至っては同-3%と減収になりました。このところのレイオフ報道でも分かる通り、メディアやハイテクは大胆なコストカットをしておりIT予算も例外ではなさそうですが、どのあたりで底打ちが見えるかも注意して今決算を見ていきたいと考えます。

(FINTOS!外国株 小野崎通昭)

ご投資にあたっての注意点