コロナ禍前の水準に向かう航空旅客数

新型コロナにより大きく落ち込んだ世界の航空旅客数は、徐々に回復しており、2025年には世界主要地域の全てにおいて、コロナ禍前(2019年)の水準を上回ると国際航空運送協会(IATA)は予想しています。

旅客数の復調に伴い、2020年に激減した航空機の受注も回復すると期待されます。2022年12月には米航空大手のユナイテッド航空が、ボーイング社のB787を最大200機発注したと発表しました。旅客数の復調に伴い航空機の需要増が期待されます。

(注)ジェット機は旅客機(コンビとQCを含む)および貨物機等派生型を含む(コンビはメインデッキに仕切りを入れ、旅客スペースと貨物スペースをメインデッキに使用できるようにしたモデルで、QCは短時間で旅客機と貨物機との使用変更ができる機種を表す)。機体数はネットオーダーでありキャンセル分は発注年から減じている。
(出所)(一財)日本航空機開発協会「民間航空機に関する市場予測 2022-2041」より野村證券投資情報部作成

大きい関連事業への波及効果

航空機市場では、米国のボーイング社と欧州のエアバス社の2社が世界シェアを二分しています。しかし、航空機の製造に関わるサプライヤーの裾野は広く、多くの企業が航空機関連部品の製造を手掛けています。エンジンや機体の一部、アクチュエーター(注)等の分野で日本企業は強みを有しています。

(注)アクチュエーターは、エネルギーを、直進移動や回転・曲げなど、何らかの動作に変換する装置

(注)全てを網羅しているわけではない。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

CO2削減の取り組み

航空業界のCO2削減も進んでいます。機体素材に炭素繊維を使用する等、新素材を用いることで機体の軽量化による燃費向上を実現しています。さらに、化石由来の燃料に代わる、持続可能な航空燃料(SAF(注))の開発も進められています。

SAFは、主に藻類、木質バイオマス、廃食油などに由来するバイオジェット燃料を指します。SAFは既存の石油系ジェット燃料と混合して、従来の航空機や給油設備などにそのまま使用できます。コロナ禍を乗り越え、新しい航空機ビジネスが動き出しています。

(注)SAFはSustainable Aviation Fuelの略

ご参考: 航空機関連銘柄の一例

航空機・航空部品

・ボーイング(A0062/BA US)

航空・宇宙メーカーとしては世界最大規模で、民間航空機製造大手。小型機「737MAX」や中型機「787」の受注を中心に、2022年の受注は2018年以来の水準まで回復した。

・エアバス(F0019/AIR P)

民間航空機製造大手。エアバス事業では、商用ジェット機、航空機部品の開発、製造、販売に携わる。主力の小型機「A320neo」の受注でボーイング社と競り合っている。

・ゼネラル・エレクトリック(A0278/GE US)

世界170ヶ国以上で広範な事業を展開している。2021年11月、航空、ヘルスケア、エネルギーの3事業別に分社化し、航空部門を残し他事業は分離上場する方針を示した。

・三菱重工業(7011)

1884年に造船事業で創立以来、陸・海・空・宇宙の総合インフラ企業として、火力発電所向けガスタービン、航空、防衛、宇宙など幅広い事業分野に展開してきた。

・川崎重工業(7012)

総合重機械大手。1878年に造船事業を開始して以来、航空機、油圧機器、ロボットなどへ事業を拡大してきた。

・IHI(7013)

総合重機械大手。航空機エンジン部品の大型シャフトで世界トップシェアを有している。

・ナブテスコ(6268)

航空機の可動翼を制御する「フライト・コントロール・アクチュエーション・システム(FCAS)で国内シェア100%、世界でも航空機メーカーからトップクラスの評価を得ている。

素材

・東レ(3402)

ボーイング社「787」向けなどで使用される炭素繊維複合材で世界トップシェアを有している。

・住友ベークライト(4203)

米国連邦航空局(FAA)や欧州航空安全機関(EASA)が定めるFARなどの航空規格に適合するフェノール樹脂の製造に強みを持つ。

・東邦チタニウム(5727)

航空機エンジン向けの高品質チタンの提供に強みを持つ。

SAF

・ユーグレナ(2931)

使用済み食用油と微細藻類ユーグレナから抽出されたユーグレナ油脂などを原料とし、既存石油系ジェット燃料へ最大50%混合が可能なSAF「サステオ」を開発した。サステオを使ったフライトは2021年6月以降、政府専用機など実績を積んでいる。

・トタルエナジーズ(F0577/TTE P)

フランスのエネルギー大手。2022年12月、欧州航空大手エールフランスKLMと、化石燃料に比べ、CO2総排出量を80%削減できるというSAFの供給覚書を交わした。

(注)全てを網羅しているわけではない。外国株式のコードは、野村コード/ブルームバーグコード。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

(投資情報部 神谷 和男)

ご投資にあたっての注意点