概要:今後の米欧景気後退を念頭に置いた内外の分散投資が重要

3月22日の海外市場では、FOMC(米連邦公開市場委員会)において25bp利上げなど金融引き締めが示されましたが、各種金利の低下、株安、ドル安・円高が進展しました。足元までの金融引き締めが今後の景気後退をもたらすという意味で、景気後退リスクの織り込みが進んだことが示唆されます。米欧中央銀行はインフレ警戒姿勢を維持しており、金融システム対応と金融政策は別物という姿勢も米欧で共通します。米国等で早期の金融緩和が正当化されるには、大幅な株安か金融システム不安、景気後退の明確化等が必要と考えられます。当面は国内外の金融政策や為替変動に関する不透明感が意識されやすいと考えられます。このような局面では、国内外の分散投資を通じて市場が不安定な際の変動を抑制することが重要です。

米国市場では利上げで各種金利が低下、株安、ドル安・円高が進展、預金保護への期待低下も影響

3月22日の米国市場では、米国の金融引き締めを受けながらも中長期金利は低下、ドル安・円高となった一方、FRB(米連邦準備制度理事会)議長の会見途中から株安が進展しました。FOMCでは、25bpの利上げで政策金利を4.75~5.0%として、今後の追加利上げ方針も概ね維持した一方、2025年末までの金利見通しを示すドットチャートの中央値は基本的に据え置きとなりました。声明文とFRB議長会見において、米国金融システムは健全で強靭とした上で、直近の金融環境の厳格化が景気・雇用にマイナスの影響を与える一方、インフレへの警戒姿勢が示されました。米国株式では中堅銀行株、REIT、中小型株、高配当利回り株、空売りの多い株の下落が目立ちました。イエレン米財務長官が預金保険の全般的な拡張を否定したことも銀行株安に影響しました。クレジットでは、ハイイールド社債が伸び悩んだ一方、投資適格社債や新興国債券が上昇しました。

FOMCでは金融環境を注視しつつもインフレ抑制を優先する姿勢が示される

今回のFOMCに関して、野村證券では25bp利下げを予想し、据え置きを見込むエコノミストや元FRB高官も少なくありませんでしたが、FRBは金融環境を注視しつつもインフレ抑制を重視する姿勢を示しました。FRB議長会見でも、インフレへの警戒が強調され、年内利下げが否定されました。金融市場では、図表1のように、SVB(シリコンバレー銀行)破綻等を受けて2023年年央以降の利下げを意識しやすくなっていますが、FOMCを受けてFF金利先物の低下は一服しました。

米国景気後退リスクは依然高水準

3月22日の米国市場では、FOMCで利上げが示されたものの、中長期金利の低下と株安が進んだということは、足元までの金融引き締めが今後の景気後退をもたらすという意味で、景気後退リスクの織り込みが進んだことを示唆します。向こう半年間の米国景気後退確率は、図表2のように、7~8割前後と依然として高水準です。野村證券では米欧の景気後退を予想していますが、先進国株式はこれを十分には織り込んでいないと考えられるため、景気後退を一段と織り込む過程で、リスク資産を中心に市場心理が一段と悪化する可能性があります。

FRBのバランスシート縮小が継続、金融システム対応と金融政策は別物という姿勢は米欧で共通

FRBのバランスシート(総資産)に関して、野村證券では今回のFOMCにおいてQT(量的引き締め)停止を予想していたものの、FRBは国債とモーゲージ債を従来同様のペース(最大で月額950億ドル)で減らす方針を示しました。SVB破綻後の流動性供給を通じてFRBのバランスシートは一時的に拡大しましたが、これは金融政策とは別物であり、QTは今後も継続するようです。大手投資銀行の合併を大規模流動性供給でサポートしたSNB(スイス国立銀行)ですが、本日23日の金融政策発表においても利上げ継続が見込まれています。このような金融システム対応をしながら金融引き締めをする姿勢は3月16日に50bp利上げを決定したECB(欧州中央銀行)とも共通します。金融システム対応と金融政策は別物という姿勢は原則論としては正しいものの、金融不安が発生する局面では当局が後手に回るリスクも伴います。米欧では経済に出回るマネーサプライが減少し、金融環境は当面厳格化しやすい状況です。

インフレを警戒する「タカ派」的意見が後退して早期利下げやQT停止が正当化されるには、大幅な株安か金融システム不安、景気後退の明確化等によって物価安定への確信が強まることが必要と考えられます。

(野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング CIOマネジメント部 北岡 智哉)

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