投資家の皆様から関心の高い質問を専門分野のリサーチャーに聞いてみました!

Q:「有事の金買い」は有効な戦略だったか?その出口は?

金融(地政学)不安の発生時に資産保全の必要性が高まることで安全資産としての金の価値が上昇するというのが一般的なロジックかと思います。近年、実際にそのような価格変動は発生していたのでしょうか。有事の際の金投資が有効かどうか教えてください。また、可能であれば、いつ「金売り」をすればよいのかの考え方もあれば教えてください。

A:過去「有効」だが高値での利益確定は難しい

リーマンショック前後で当時の高値「1895ドル」へ

2007年に発生した米サブプライムローン問題とそれに続く国際金融危機(いわゆるリーマン・ショック)、そして2009年からの欧州債務危機の過程の中で金価格は上昇し、ロンドン金現物午後値決め値は2011年9月5日に当時の史上最高値1トロイオンス当たり1895.00ドルを記録しました。

コロナ禍~ウクライナ紛争で「2000ドル」突破

近年では新型コロナウイルス感染症拡大の際、2020年8月6日に同価格は現在の史上最高値記録2067.15ドルへ達しました。また、ウクライナ紛争勃発時にも同価格は記録更新には至りませんでしたが、2039.05ドルへ達し、史上最高値へ迫りました。このように国際的に経済へ深刻な悪影響が生じる可能性が顕著に高まった場合に金価格は大きく上昇しており、「有事の金買い」が発生していたケースはあります。

高値圏推移の期間の長さはまちまち

欧州債務危機の時には、金価格の高値圏での推移がやや長期化しました。2012年10月にEMS(欧州安定メカニズム)が発足し、危機に対する包括的な対策が整ってから金価格は低下し始めており、国際経済に対する不透明性が取り除かれるようになって金価格が下落したと評価できます。

現在はコロナ禍とウクライナ紛争の趨勢が影響

他方、新型コロナウイルス感染症拡大とウクライナ紛争勃発の時に関しては、金価格は高値を付けた後、比較的速やかに低下しています。ただし、いずれの場合も、市況抑制への明確なきっかけは見出せません。金価格が2000ドルを超えて達成感が生じたという市場のセンチメントが影響したことも考えられますが、過去の価格水準との比較感からすると、依然として有事の際の高値圏での金価格の推移が続いていると見ることも不可能ではありません。新型コロナウイルス感染症については変異株が発生し続けている中で近い将来に完全に落ち着くことは考え難い一方で、ウクライナ紛争が終結に至れば、金価格が大きく下落する可能性があるかもしれません。

米金融政策と金融情勢も総合的に検討して判断

金価格が上昇した要因が取り除かれれば金価格は下がると考えられますが、その要因が取り除かれたかを判断することは難しい上に、現在は米国の金融政策や金融情勢といった他の要因も金価格に影響しており、金価格の下落の時期に関しては、様々な要因を総合的に検討する必要があります。「有事の金買い」が比較的容易なのに比して、それに対する高値での利益確定は容易ではありません。

(出所)野村證券経済調査部より野村證券投資情報部作成

ご投資にあたっての注意点