①3月17日~3月24日の振り返り:銀行懸念継続もFOMC通過に安心感

続く銀行の経営不安

先週は、19日(日)のUBSグループによるクレディ・スイス・グループ買収発表に始まり、週末24日(金)のドイツ銀行の株価下落に至るまで、継続して銀行の経営不安と金融システムへの懸念が燻りました。

FOMC通過の”安心感”が追い風に

ただ、23日(水)に発表されたFOMC(米連邦公開市場委員会)の内容が株価への追い風となりました。政策金利だけを見れば「0.25%ポイントの利上げ」と、政策金利据え置きも一部で予想された中で若干タカ派的ではあったものの、「足元の金融不安が経済・雇用・インフレに影響を与える」という声明文内容やドッツ(後述)が、近い将来の利上げ停止を意識させるものでした。米長期金利(10年債利回り)が17日(金)終値を下回る3.374%まで低下し、米国株主要3指数の株価は週を通し揃って上昇しました。

②今週の気になる経済指標:31日(金)発表の”インフレ2指標”

FOMCメンバーの見通しは「利上げ」

今回3月のFOMCで、米政策金利の誘導目標は4.75%-5.00%となりました。今回示されたドッツ(FOMC参加者による政策金利の見通しの中央値)では、2023年末の政策金利は5.00-5.25%であり、米FRB(連邦準備理事会)内ではもう一度0.25%ポイントの利上げをすべきとの見方が大勢を占めていることが分かります。

市場の予想は「利下げ」

一方、FOMCでの政策金利に関する確率を分析するツールであるCME Fed Watch Toolによれば、25日(土)時点では、次回5月FOMC(5月3日に結果発表を予定)では、4.75%-5.00%に据え置かれている確率はわずか0.2%で、それ以下の水準が98.8%となっています。多くの市場参加者が、今後FRBは利上げを停止し、利下げに転じると予想しているとみられます。

今週は31日(金)のインフレ指標に注目

米国のインフレについては予断を許しません。14日(火)に発表された米2月CPI(消費者物価指数)は前月から鈍化しましたが、内訳をみると、食品・エネルギーを除いたコア財(モノ)価格指数は伸び率が鈍化する一方、コアサービス価格は伸び率が加速しています。また、10日(金)に発表された2月雇用統計で、平均時給の伸びは前年同期比でみると高止まりしています。

これらを踏まえ、今週の経済指標では、31日(金)発表の2月個人消費支出デフレーターや3月ミシガン大学消費者期待インフレ率(確報値)などが重要です。引き続き足元のインフレ状況を確認しながら、状況を判断していく必要がありそうです。

高官発言が相次ぐ

またイベントでは、FOMCまで公の場での金融政策に関する発言を自粛していたFRB高官の発言や、シリコンバレー銀行に関する公聴会が予定されており、その内容が注視されます。

③今週の気になる決算:28日(火)のマイクロン・テクノロジー

※ここで取り上げる銘柄は、あくまで「今週決算発表がある企業およびその関連企業」のうち、「米国経済やセクター全体を見通す上でインプリケーションが多い」という観点で言及するものです。個別銘柄の勧誘・助言を目的とするものではありません。

メモリー半導体大手が決算発表

今週は、メモリー半導体(記憶・記録を司る半導体で、PCやスマートフォンのほか、データセンターなどでも使われる)市場で、米国最大の企業であるマイクロン・テクノロジー(MU)が28日(火)に決算発表を予定しています。メモリー業界は、半導体のカテゴリの中で市場規模が最大であるため市況全体を左右します。足元においては、最終需要製品であるPCやスマートフォンの需要が急激に落ち込んでいることから最も市況が悪化しており、底打ちの時期に注目が集まっています。

止まらないメモリー市況の悪化

野村では、1-3月期にはメモリーの主要な2製品であるDRAMとNANDの価格が20%超下落し、出荷数量も各メーカーのガイダンスを大きく下回ると予想しています。1-3月期の在庫は引き続き増加しており、主要3社(マイクロンに加え、韓国のサムスン電子とSKハイニクス)の売上高と営業利益率は大きく低下していると見られます。韓国では、輸出の減少にもかかわらず、サムスン電子が過剰な設備投資を行ったため半導体製造装置の輸入が増加し、貿易赤字が大幅に拡大していることにも業界の苦境が表れています。

野村は4月の底打ちを予想

しかしながら、野村ではメモリーサイクルが4月に底打ちする公算が大きいと予想しています。理由は以下の3点です。

1) メモリーメーカーのウエハー生産量は3月に入ってから減少し始めており、これが4-6月期の市場に打撃を与えると考えられる。これまで減産を躊躇してきたサムスン電子も、在庫の急増と損失の急拡大を受けて追加の減産に踏み切ると予想される。

2) 2023年後半には、メモリー価格の大幅な下落を背景に、主な最終製品のメモリー搭載量が増加すると予想される。メモリー価格はピーク時から60%超下落した。

3) インテル(INTC)の新製品の量産が本格化するのは6月以降となる見通しである。

当社決算を見るうえでの注目点

マイクロンの決算から業界を見る上では、発表される2022年12月-2023年2月期の実績に加え、2023年3-5月期の会社見通しが重視されそうです。また、メモリー半導体メーカーは自ら生産設備を持つ垂直統合型のビジネスモデルが多いため、半導体需要の強さを見る上では設備投資動向も注目です。当社の決算では、米国で法整備が進む新たな半導体補助金などの政策を受けて、どのような設備投資計画を発表するかに市場の関心が高まっています。

サムスンの”31兆円設備投資”

なお、サムスン電子は15日(水)に2042年までに31兆円を投じるとした設備投資計画を発表していますが、多くが受託生産(ファウンドリー)用途とされています。米中関係の間で難しい立ち位置を求められている台湾の大手競合との競争力を強化するための投資とされ、ロジック半導体など微細な半導体生産を可能とするためと考えられます。このような前提に立てば(ロジック半導体に比べ微細な回路の半導体ではない)メモリーの供給増、ひいては極端な市況悪化にはつながらないと見られます。

この時期、決算を発表する企業自体は多くはありませんが、4月以降本格化する決算期に向けミクロの変化をつぶさに観察していく局面となりそうです。

(FINTOS!外国株 小野崎通昭)

ご投資にあたっての注意点