金融庁は昨年、上場企業が3ヶ月ごとに提出する「四半期決算短信」について、将来的に提出を任意とし、代わりに投資判断に影響のある情報をいち早く開示する「適時開示」を充実させる案について検討を始めました。

ただし、情報開示の質と量を維持できるかには不透明な面があり、投資家からは戸惑いの声も上がっています。実際に個人投資家は、どの様な情報開示を企業に求め、投資の判断をしているのでしょうか。

『ノムラ個人投資家サーベイ(2023年3月15日発行)』では、個人投資家の株式投資を増やすための条件について、意見調査を行いました。

株式投資の条件、東京証券取引所の開示要請について調査

「株式投資を増やす条件」をたずねたところ、「株式投資に対する税制上の負担軽減」が最も多く、回答者全体の31.7%を占め、前回22年3月の調査から2.5%ポイント上昇した。次いで「株主還元(配当、自社株買い)の拡充」が27.9%となり、同2.3%ポイント上昇しました。

(図表1)株式投資を増やすためのマクロ環境以外の条件

(注)質問は「あなたが株式投資を増やすには、マクロ環境(経済、為替、企業業績など)の改善以外にどのような条件が備わることが最も重要とお考えですか。(ひとつだけ)」

「株式投資に対する税制上の負担軽減」を選んだ317名を対象に、株式投資を増やすために最も重要と考える要因についてたずねたところ、「株式の譲渡所得に係る税率を撤廃」の回答が最も多く回答者の43.5%を占め、前回の調査から6.5%ポイント低下した。次いで「株式の配当所得に係る税率を撤廃」の回答が42.9%を占め、同11.1ポイント上昇しました。

(図表2)株式投資に対する税制上の負担軽減で重要な要因

(注)質問は「図表13で「株式投資に対する税制上の負担軽減」と回答した方にお伺いします。「株式投資に対する税制上の負担軽減」の具体的な内容について、次のうち、あなたが株式投資を増やすにはどの要因が最も重要とお考えですか。(ひとつだけ)」

続いて東京証券取引所の上場企業への開示要請により、開示される情報が増えることについてたずねました。「投資対象企業を選ぶ際に参考になるので、開示を要請するのではなく義務化してほしい」が最も多く、回答者全体の39.0%を占めました。次いで「投資対象企業を選ぶ際に参考になるが、開示は個々の企業の判断に任せればよい」が29.5%となりました。

(図表3)上場企業の開示情報(1) 開示される情報が増えることについて

 (注)質問は「東証は、プライム・スタンダード市場の上場企業に対して、資本収益性を改善するための方針や具体的な取り組み等についての開示を要請します。また、プライム市場の上場企業には、投資家との対話の実施状況やその内容についての開示も要請されます。このように開示される情報が増えることに対して、 あなたの考えに最も近いものをお知らせください。(ひとつだけ)」

次に、企業のサステナビリティ(中長期的な成長性)に関する開示情報も増えることについてたずねました。「中長期的な方針が明確になると期待されるので、有益である」が最も多く、回答者全体の48.8%を占めました。次いで「情報は増えるが、中長期の会社の成長が保証されるわけではなく、あまり意味がない」が33.2%となりました。

(図表4)上場企業の開示情報(2) サステナビリティ(中長期的な 成長性) について

(注)質問は「3月期決算企業は、次に発表する有価証券報告書から、気候変動や人的資本など、企業のサステナビリティ(中長期的な成長性)に関する開示を大幅に拡充することが求められています。このように開示される情報が増えることに対して、あなたの考えに最も近いものをお知らせください。(ひとつだけ)」

最後に、「女性管理職比率」、「男女賃金格差」等の開示要請についてたずねました。「単に数字を開示しても、格差を浮き彫りにするだけであまり意味はない」が最も多く、回答者全体の44.6%を占めました。次いで「企業の中で女性が働きやすく、活躍しやすい環境作りを後押しする」が34.9%となりました。

(図表6)上場企業の開示情報(3) 「女性管理職比率」、「男女金格差」等

(注)質問は「3月期決算企業は、次に発表する有価証券報告書から、「女性管理職比率」、「男女賃金格差」および「男性社員の育児休業取得率」を開示することが求められます。このことに対して、あなたの考えに最も近いものをお知らせください。(ひとつだけ)」

今回の調査で個人投資家が株式投資を増やす条件として、税制上の負担軽減が一番に望まれていることが分かりました。

企業への開示要請については、適時開示の充実を要請ではなく義務化して欲しいとの要望が最も多く、サスティナビリティ開示については、中長期的な方針が明確に把握できるとの期待が高いことも分かりました。また女性の労働問題や賃金格差については、 単に数字を開示しても仕方がないとしながらも、企業の環境整備を評価するという個人投資家の姿勢が窺えました。

(グローバル・リサーチ本部)

『ノムラ個人投資家サーベイ(Nomura Individual Investor Survey)』(2023年3月)
野村證券が、日本株式市場における主要な投資主体である個人投資家に対し、その投資動向の把握と情報提供を目的として定期的にアンケート調査を行い、その調査結果をまとめたもので、2006年4月より公表しています。
・調査方式 : 野村インベスター・リレーションズ(株)による『ネットモニターアンケート調査』を利用した、インターネットでのアンケートの配信及び返信。
・調査対象 : 株式投資経験のある個人投資家モニター約24,000名の中から無作為に3,000名を抽出しアンケートを送信。
・回答数 : 1,000件(有効回答数が1,000件に達した時点で締め切り)。
・調査期間 : 23年3月6日(アンケート配信日)~3月7日(回答締切日)。

※次回の『ノムラ個人投資家サーベイ』(2023年6月)は6月15日(木)の発表を予定しています。

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