多くのFINTOS!会員の皆様にとっても、少し縁遠い印象があるかもしれない「アナリストレポート」。

「個人投資家にとって、”アナリストレポート”は読む価値があるのか?」というテーマで、 エコノミストの崔真淑氏と、野村證券で投資情報部長を務める東英憲で対談を行いました。投資情報に対する考え方のアップデートにぜひご一読ください。

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政府は長らく「貯蓄から投資へ」と転換を促してきた。NISAなどを活用した積立投資が広まる一方、銘柄選びの難しさなどから、個別株式への投資には二の足を踏む人は依然として多い。そこで野村證券が提供しているのが、個人投資家向け投資情報アプリ「FINTOS!」だ。「FINTOS!」と他の投資メディアとの違いは、これまで機関投資家しか入手できなかった専門的な情報「アナリストレポート」を公開しているところだろう。 経済の動きが複雑になり、変化のスピードも早まる中、個人投資家もこうした情報をダイレクトに入手できれば、自らの投資判断の確かな拠り所になりうる。 ではどのような内容が提供され、それらをどう使いこなせば良いのか。エコノミストの崔真淑氏と、野村證券で投資情報部長を務める東英憲氏が語り合った。

お金の“就職先”を探せ

──日本全体で投資への意識が高まっていますが、株式投資に二の足を踏む個人投資家はまだまだいます。「FINTOS!」はどんな情報を提供し、株式投資を後押ししているのでしょうか?

 個社の経営状況やセクター(業界)動向、マクロの経済情報を取り扱っています。個別株の投資判断を提供している「アナリストレポート」などは金融商品取引法で定められた「投資助言業」に該当するため有料です。

一方、投資助言にあたらない多くの記事は無料で提供しています。投資のヒントやニュースに対するリサーチャーの見解、決算速報などはアプリをダウンロードするだけで見ることができます。

──個社の状況からマクロ経済まで幅広いですね。また機関投資家向けの情報ということは、かなり深い情報も含まれている印象を受けます。

 株式投資で重要なのは、お客様に「納得感」を持った意思決定をしてもらうことです。

私は日々お客様に向けて、自分が就職したくなるような有望な会社に、自分の代わりに「お金に就職してもらう」と考えて投資をしてほしいと伝えています。

就職する企業を、SNSで見た情報だけで決める人はいませんよね。株式投資も就職のような長期的な視点での意思決定が必要ですので、アプリを通じて、広く深い情報を発信しています。

 お金に就職してもらうというのは面白い表現ですね。私は、自分が好きな企業、応援したい企業の株式を購入することが、株式投資のはじめの一歩でいいという考え方です。

応援したい企業であれば、目先の利益だけでなく、その企業の持続可能性について能動的にウォッチしようと考えます。情報収集に積極的になり、結果、株式投資の知識が増えていくためです。

──なぜ長期的な意思決定をするための情報が必要なのでしょうか?

 購入した株式の値動きに対して、右往左往しないためです。

短期的な情報だけで投資判断すると、ネガティブな事象が起きたらもっと株価は下落すると感じて、どうしてもすぐに売りたくなってしまうと思います。

ですが、長期的な視点を持って情報収集すれば、より的確な意思決定ができると思います。

たとえば、企業不祥事が起きたとしても、それを長期的に立て直すガバナンス構造を持っている企業なのか。赤字企業でも今行っている研究開発が開花する可能性はあるかなど、長期視点があれば、株価が冴えない状況でも心の支えにもなります。

 まさにそうですね。就職先も同様で「生産が遅れて業績が下がったが、そのうち出荷が戻る」という程度の状況ならば、焦って「転職しよう」とは思わないはずです。

その企業の将来的なプラス要因を評価して長期的な視点を持って購入・継続保有すれば、短期的に株価が下がるといったことや、チャートの変化に右往左往しないようになると考えています。

 また人と違って、株式は何社も同時に就職(投資)できるのも、良いところですよね。

最近は少額から投資できる仕組みが広まっています。長期的な視点を持つという前提の上で、少額で複数の株式を購入する。

そうすれば一つの投資先が値下がりしても、違う投資先が上がればマイナスを相殺してくれる。資産全体で見た場合の値動きは小さくなるため、心理的負担も少なくすみます。

少額から始め、様々な企業や業界についての知見を深めながら、将来性のある投資先を見つけだすのも良いですよね。

アナリストレポートの価値とは

──崔さんは、大手金融機関でアナリスト、トレーダーとして経験を積まれたのち、投資家・起業家として独立されました。「機関投資家」から「個人投資家」に近い立場になったと思うのですが、現在どのように投資情報を収集されていますか?

 独立してからは、英紙「フィナンシャル・タイムズ」や英誌「エコノミスト」などのクオリティ・ペーパーや、企業IR情報から投資情報を得ています。

ただ独立したての時は「個人だとこんなにも情報の収集・分析がしづらいのか」ともどかしさを覚えていました。

今回「FINTOS!」を知って一番驚いたのは「お金を払えば個人投資家も機関投資家とほぼ同じタイミングでアナリストレポートが読める」ということです。

──アナリストレポートはなぜ情報収集に役立つのでしょうか?

 アナリストレポートは、企業の業績やリスクを分析し「買い」「売り」といった投資判断のタイミングまで記載したものです。

アナリストが自分の担当している企業を訪問したり、株主総会に出席したりしながら、分析・咀嚼し、執筆しています。

一般的には業界ごとにリサーチを行っているので、業界全体の内情や新しいトピックにも通じているため、投資判断の材料として非常に参考になります。

※サンプルとして2020年12月のレポートを例示しております。現在の投資判断ではない旨、ご注意ください。

 そう言っていただけるのはありがたいですね。野村證券には200名以上のリサーチャーが在籍しており、毎日各業界に張り付き、スピード感を持ってレポートを執筆しています。われわれの持つ情報資産の中でも、高い価値を誇るものです。

ただ、従来、機関投資家向けに発行していたものを、個人投資家に提供しても、有効活用されるのか半信半疑でした。

 個人でも、企業のIR情報や株式のチャート、証券会社などが提供している売り時、買い時を数値で表しているレーティング情報だけであれば、比較的簡単に見ることができます。

ただ、本当に知りたいのは、結論である「買い」「売り」「目標株価がいくらか」ではなく、その結論に至るまでのプロセスや考え方です。

IR情報や企業のホームページを見ればおおまかなビジネスモデルは理解できます。しかし、重要なのは、企業分析のプロたちが当該企業のどの事業にどの程度の成長性があると見ているか、成長性が業績に与える影響を判断し、目標株価や投資タイミングの分析・予測をしているかです。

つまり、目標株価への落とし込みや投資タイミングを判断する過程を見るか見ないかで、投資判断が変わります

 なるほど。証券会社に勤めていると情報があることが当たり前になっていて、その視点はありませんでした。

 製薬業界など複雑なビジネスは良い例です。担当するアナリストの多くは、医薬業界の専門知識を持っています。

たとえばIRやニュースリリースで「とある病気の新薬がフェーズワンを通過…」と公表されても、個人投資家が業績や株価への影響を判断するのは難しい場合がある。

アナリストは、伸びている医薬品のどこがプラス要因か、医薬品の特許切れなどのマイナス要因はあるのか。こうした技術評価と企業業績を関連付けて理解できるように整理し、執筆してくれています。

この「本文」、つまり考え方の根拠となる部分を「野村證券と取引する機関投資家以外」にも読めるようにしてくれたことに、驚いたんです。

投資初心者はどう活用するべきか

──投資経験が十分でない個人投資家が企業の考え方やニュアンスを読み取ることは至難の業ではないでしょうか。アナリストレポートを具体的にどう活用すれば、長期的な投資先選びにつながるのでしょうか?

 同じアナリストが書いたレポート同士を見比べてみるのが面白いですね。同じ業界のA社とB社のレーティングが全く同じだとしても、文章に温度差が表れるからです。

見比べていると「こちらの企業に変化が出ているな」と、気づきやすくなります。

 アナリストが研究中の医薬品について、どんな未来が生まれるのかというストーリーを中心とした書き方をしているのか、そうしたトーンを見るのも良いですよね。

株価は、その企業が将来的に得るであろうキャッシュフローの現在価値と定義されています。

仮に上り基調になっているということは、機関投資家がアナリストレポートを読み、その会社に何かが起こると予測した上で、これまで投資してきた結果が反映されているということです。

また、一人のアナリストを追いかけてレポートを見ていくと、結果的に、新たな投資先の発見にもつながります

私たちも日々仕事をしていると、先見性のあるビジネスモデルの企業や製品に出会うことがあると思います。

その際にその企業を追いかけているアナリストのレポートを読めば、業界の動向を深く理解でき、同業他社との差別化ポイントなどを具体的に比較できます。

さらに文章の中にしか表れないアナリストによる当該企業への期待や落胆などを感じ取れれば、本当に将来性があるのか予測しやすくなりますね。

投資情報を知ることは明るい未来を知ること

──金融リテラシーが高い個人投資家は簡単に読み解けても、これから株式投資をする個人投資家にとっては、読むことすら難しいということはないのでしょうか?

 本当の初心者がいきなり理解するには、ややハードルが高いのは事実です。そのため「FINTOS!」でも、アナリストレポートを発信するのと同時に、アナリストレポートをさらに要約した情報も提供し始めています

アナリストレポートの懸け橋になるようなレポートを中心に用意しているので、毎日の要約記事を追っていくだけでも金融リテラシーがかなり高まるのではないかと考えています。

 私は、投資情報に触れることの最大のメリットは、未来の明るい兆しに気づけることだと考えています。そのためにも、多くの人の金融リテラシーがもっと高まってほしい。

マクロな統計データを扱う私たちエコノミストと、普段から企業に足を運んでミクロなデータに接しているアナリストとでは、物の見方が違っています。

政策や統計を中心に分析をしているエコノミストは、現在の日本の経済状況だとどうしても悲観論に偏りがちです。

しかし、一見悪いニュースばかり世の中にあふれているように感じても、アナリストレポートを見れば、どこかの企業、業界で、必ず明るい兆しが見つかるためです。

 そうですね。景気が改善する見通しが立っていない中で、人生100年時代と言われ、長寿化が進んでいます。

現行の年金制度では支払われる年金額は減っていく可能性が高い思われます。金銭面で将来を不安視する人が増えています。

こうした背景から資産形成のために投資意欲は高まっているものの、まだまだ金融リテラシーが足りません。

たとえば、現在S&P500(※1) などの、アメリカの市場に連動した値動きとなるように運営される投資信託を中心に、注目が集まってしまっている。

※1 ニューヨーク証券取引所やNASDAQなどに上場している時価総額の大きい主要500社で構成された指数。

インデックス投資は資産形成における選択肢の一つではありますが、それが全てだと思考停止してはいけません。

 まさに現在、アメリカの株式市場の継続的な下落が懸念されています。アメリカという巨大市場に投資すれば資産形成ができる、という考え方だけではリスクが大きいですよね。

 投資を勉強し、株式投資などの主体的な投資が進んでほしいですよね。今の日本は悲観論にとらわれすぎています。

もっと金融リテラシーを上げて、成長可能性のある企業にどんどん投資する。1億総投資家となれば、結果的にいくつもの優良企業が誕生して、経済も活性化する。

株式投資が進むことは、日本の未来が明るくなるきっかけになるはずなんです。

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2021-03-31 NewsPicks Brand Design

ご投資にあたっての注意点