不動産各社は売却益で業績成長へ

欧米各国においてインフレ抑制にむけ政策金利の引き上げがすすむなか、それに伴う景気悪化懸念と、3月10日の米国シリコンバレー銀行の破綻を契機とする欧米の金融システム不安が、日本の不動産株の重石となっている。欧米銀の融資基準の厳格化で、日本の不動産市場への投資資金の流入が鈍化する可能性が懸念され始めている。

また、日本では4月に日本銀行総裁の交代を予定しており、2013年以来続いてきた超金融緩和策が徐々に修正・変更される可能性が生じていることも、今後の不動産市場を考える上で重要な要素となっている。

ただし、日本のインフレ状況及び景況感を考えると当面は金融緩和の状態は続く可能性が高いと野村では考えている。仮に日銀が16年秋以降採用してきた長短金利操作付き・量的質的金融緩和(イールドカーブコントロール)策を修正しても、日本の不動産市場へのインパクトは限定的だろう。

というのも、これまで日本の不動産価格は高騰を続け、不動産投資を通じた利回りが低下してきたとは言え、長期金利とのスプレッドは海外に比べれば大きい。この状況下では不動産価格は今後も安定的に推移すると見られるからである。新型コロナの発生以前に比べれば勢いは減じたが、REIT(不動産投資信託)や不動産ファンドによる不動産投資への意欲は高いと見られる。

他方、大手デベロッパーが保有する不動産には、多大な含み益があり、これまでと同様に戦略的に不動産を売却しキャピタルゲインを計上することで、24.3期業績も増益が続くことになろう。くわえて、新型コロナによって業況が悪化していたホテル・レジャー事業の回復や、順調に契約残高を積み上げてきた都心の高額マンションなどの販売が業績を下支えしよう。23年秋以降に欧米のインフレ抑制策が奏功し、政策金利の低下観測が高まれば、日本の不動産投資への関心が強まることも期待できる。

春から夏にかけての日本の不動産市場での懸念材料は、東京都心5区における大型オフィスビルの新規竣工である。港区の「三田」「田町」「麻布台」「虎ノ門」、新宿区の「西新宿」で大型オフィスビルが完成する予定であり、オフィス需給が悪化する可能性が高いと野村では考えている。

オフィス空室率の悪化は夏まで

オフィス仲介大手の三鬼商事によれば、東京都心5区のオフィス空室率は、新型コロナの感染拡大が始まる20年2月が1.49%だった。その後大きく悪化したものの、21年夏以降は6%台前半で横這って推移してきた。野村では、今後はビルの大量供給により夏にかけて、空室率は再び悪化し8%を超える可能性もあると考える。

注目点は二点である。一つは、市場全体の空室率が悪化しても、三井不動産及び三菱地所など個社の状況を見ると、空室率が低位で推移する可能性が高い会社もあることである。三井不動産は、22年8月に竣工した「東京ミッドタウン八重洲」が満床稼働するなか、当面大型オフィスビルの供給を予定していない。同社のビルの空室率は4%程度で推移しよう。三菱地所が地盤とする「丸の内」でも、大型ビルの供給計画はなく、同社が保有する丸の内のビルの空室率は3%程度で推移する可能性があろう。大手が保有するビルは、立地などの競争力があり、今後のオフィス賃貸市場の優勝劣敗の明確化が、大手動産株のパフォーマンスに寄与すると野村では考える。

もう一点は、夏をピークに、23年下半期及び24年はビルの供給量が少なくなってくることである。23年秋には東急不動産ホールディングスが開発する「渋谷桜丘口地区」が竣工する予定であり、テナントの内定も順調に進捗している。オフィスビルの空室率の夏以降の改善期待が株式市場において発生してくる可能性があろう。

住宅セクターでは、販売価格の高騰が続いており、需要の停滞が懸念される。都心部では、リーズナブルな価格でデベロッパーがマンションを供給しにくいなか、供給が限定的であることを理由に需給バランスが保たれている。一方、戸建住宅の需要はコロナ禍にて強まった「快適な住宅への住み替え」の反動もあって低迷している。

他方、米国に目をむけると、住宅ローン金利の上昇を背景に米国の持家取得需要は22年に大幅に減退したが、住宅ローン金利は22年10月をピークに低下しており、住宅取得需要の回復期待も出てきている。

大手住宅メーカーの住宅販売事業の業績は日米とも芳しくはないが、株主に対する配当の下限値を設定する会社が増えており、株価の下支え要因となっている。

野村では住友林業について23.12期の経常利益を前期比36%減益と予想している。とはいえ、減配しない配当方針を持ち、米国の戸建住宅販売事業の業績回復期待がある同社に注目している。

(エクイティ・リサーチ部 福島 大輔)

※野村週報 2023年4月3日号「産業界」より

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