2023年春闘(春季生活闘争)の結果が明らかになりつつある。近年稀に見る物価の上昇が進む中で、企業に対する賃金引上げの社会的要請が高まった結果、大手企業を中心に賃金を大幅に引き上げる動きが相次いでいる。労働組合の中央組織である連合(日本労働組合総連合会)の第2回集計(3月24日時点)によれば、賃上げ率は+3.91%(うちベースアップ+2.25%)であった。まだ全ての組合の交渉結果が反映されていないものの、現時点での賃上げ率は1993年以来30年ぶりの高水準である。

春闘について今後注目すべき点は2点ある。一つ目は今年の高い賃上げが社会全体に波及するかどうかだ。輸入価格の高騰が日本企業の収益を圧迫しており、経営状況が厳しい企業も多く存在している。特に中小企業の中には、販売価格への転嫁が進んでいないことから、賃上げ余力のない企業も少なくないだろう。現行の大企業を中心とした賃上げの動きが、中小企業まで広がっていくかが焦点となる。

二つ目の注目点は24年以降も賃上げが続くかどうかだ。日本経済が長年のデフレから完全に脱するためには、賃金と物価が持続的に上昇する必要がある。今年の賃上げ率の上昇には、物価高による社会的な賃上げ圧力の高まりを受けて、企業が収益の悪化に多少目を瞑ってでも賃金を引き上げたという側面があると考えられる。物価上昇が徐々に落ち着いていくと、物価上昇を通じた賃上げ圧力は弱まっていくことが予想される。このような状況の中で、持続的な賃上げを実現するためには、日本企業がより値上げを行うようになること、あるいは労働生産性の上昇が必要となる。24年以降の春闘の動きに引き続き注目したい。

(経済調査部 野﨑 宇一朗)

※野村週報 2023年4月10日号「経済データを読む」より

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