• 個人秘書として業務を補助、企業の生産性を向上
  • 雇用の喪失と創出の2つの側面
  • 活用方法の模索が重要に

2022年11月に公開された米新興企業オープンAIの「Chat-GPT(チャットGPT)」が話題だ。ユーザー数1億人突破をわずか2カ月で達成、最速のユーザー増加記録を打ち立てた。「Chat-GPT」とは、AIに本やWikipedia、Webサイトといった大量のテキストデータを多言語で学習させ、人間と自然な対話ができるようにトレーニングしたプラットフォームのこと。このプラットフォームを活用して校長先生が卒業式の式辞を作成した例や、プログラムコードのバグ修正に活用する例など、日々様々な使い方が生み出されている。Chat-GPTは、ビジネスの世界にどのような影響をもたらすのだろうか。

個人秘書として業務を補助、企業の生産性を向上

Chat-GPTは、将来的にパーソナルアシスタント(個人秘書)のように様々な業務を補助し、企業の生産性を向上させると期待されている。ユーザーの質問内容や意図を理解したかのように反応し、学習した幅広い情報から解決のヒントを分かりやすく要約した状態で返してくれるためだ。高い言語能力を発揮できる利用シーンとしては、資料の要約や外国語の翻訳、ビジネスレターの執筆などがある。ただ、現時点では事実と異なる回答をする場合があるため、情報の真偽を見極める必要がある。

目先、Chat-GPTの活用が期待されているのはカスタマーサポートだ。現存するチャット形式のAI自動応答サービスは、Chat-GPTと似たような言語処理AIが使われているものの、情報量ゼロの状態から学習させるため対応範囲が限られる。Chat-GPTを各企業のカスタマーサポート向けにカスタマイズすれば、これまでコールセンターでしか対応できなかった問い合わせまで対応範囲を拡大できる上、24時間365日Chat-GPTが対応することで、顧客は故障や紛失といった即座に対応してもらいたいトラブルまでも解消できるだろう。

また、Chat-GPTの最新のバージョンでは、メモ帳に書いたスケッチからウェブサイト制作に必要なプログラミングコードを生成できるという。現在、世界中でChat-GPTを搭載したAIサービスの開発が進んでおり、企業でも利用する機会が増えるだろう。

雇用の喪失と創出の2つの側面

Chat-GPTの利便性に注目が集まる一方で、Chat-GPTのようなAI技術の発展によって、多くの雇用が奪われるのではないかとの懸念もある。例えば、ゴールドマンサックスは、法律関係者や管理職、プログラマーなどの給与水準が高い職業を含む、最大3億人が何らかの形で影響を受ける可能性があると予測している。米EV大手テスラのイーロン・マスクやテクノロジー業界のリーダーや研究者も含まれる、22,000人以上(23年4月時点)の署名者は、少なくとも6カ月の間、強力なAIの開発を 「直ちに中止」 するよう求めた。規制がないまま開発競争が起これば、大量の失業者を生み、経済や政治に壊滅的な影響を与える可能性があるからだ。

他方、ゴールドマンサックスは、過去の技術革新が新たな雇用を生み出してきたことに触れ、AIにおける技術革新でも同様なことが起こる可能性を指摘し、世界のGDPを最大7%押し上げるとも予測している。実際、画像生成AIや文章生成AIが目的に沿って機能するよう指示文(プロンプト)をAIに入力するプロンプトエンジニアと呼ばれる仕事が既に生まれている。

活用方法の模索が重要に

Chat-GPTの活用範囲は未知数だが、思いもよらない活用方法を考案した企業が急成長する可能性もあり得よう。検索サイトと広告ビジネスで巨大テック企業となったGoogleや、電子商取引やクラウドで業績を伸ばすAmazonの登場を、インターネット黎明期に予測できた人がほとんど居なかったように、Chat-GPTに代表されるAIでも同じことが起こるのではないだろうか。近い未来、どんな企業でもAIを利用する時代が訪れると想定するのであれば、中堅・中小企業においても、Chat-GPTの活用法に関して常にアンテナを張り、自社の成長につながる活用方法を模索していくことが重要になるかもしれない。

制作協力:野村證券フロンティア・リサーチ部 中野友道

ご投資にあたっての注意点