
企業統治改革の成果と課題
2013年6月に公表されたわが国の成長戦略である日本再興戦略において、コーポレートガバナンス(企業統治)改革が重要施策の一つとして取り上げられてからおよそ10年が経過した。この間、機関投資家の行動原則である「日本版スチュワードシップ・コード」(14年)、「コーポレートガバナンス・コード」(15年)の制定を始めとして、様々な施策がとられてきた。
それらの施策は、日本企業の生産性、国際競争力の回復を通じて収益性を高め、それを我が国経済の中長期的、持続的な成長につなげることを企図したものである。
下の図表は、企業統治改革の「成果」と「課題」について見てみるために指標をいくつか取り上げ、企業統治改革が実施される以前、世界金融恐慌の影響があまり現れておらず、日本経済が比較的堅調であった06~08年と現状とを比較したものである。
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これを見ると、主な「成果」として挙げられるものとして、企業の取締役会における社外取締役数の増加、企業間の安定的な関係構築を目的とした政策保有投資家比率の低下、総還元額(配当額と自己株式取得金額の和)の増加などがある。
また、買収防衛策の導入企業数や親子上場企業数の減少、株主総会開催日の分散化なども企業統治改革の成果と言えよう。
残された課題への取組み
一方、課題としてはROE(自己資本利益率)と保有現預金が挙げられよう。企業の資本(株主から見れば出資)に対する収益性を示すROE は、07年末と21年末で変わっていない。また、企業の保有する現預金は、株主還元の増加にもかかわらず、それを上回って積みあがっている。
すなわち、株主の出資を効率的に利益に結び付け、そして、設備投資や人的資本投資、技術開発など通じ、稼得した利益を企業価値の向上、ひいては成長戦略の目標である中長期的、持続的な成長につなげる点が企業統治改革の課題として残っている。
23年3月31日に東京証券取引所は「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」と題した資料を公表、下表に示した内容への対応をプライム、スタンダード市場の全上場会社へ要請した。

同資料が公表された背景には、「プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割の上場会社がROE 8%未満、PBR(株価純資産倍率)1倍割れと、資本収益性や成長性といった観点で課題がある状況」であり、「企業価値向上の実現に向けて、経営者の資本コストや株価に対する意識改革が必要」という問題意識がある。
さらに、同資料では「PBR 1倍割れは、資本コストを上回る資本収益性を達成できていない、あるいは、成長性が投資者から十分評価されていないことが示唆される1つの目安」として、特に、継続的にPBRが1倍を下回る企業での対応がより強く意識されている点が注目される。
これは、企業統治改革を一段と深化させるための残された課題に対する取り組みの一環と位置付けられよう。上場企業が中長期的な企業価値向上に対する取り組みをこれまで以上に積極化してその内容を分かり易く開示すること、さらに、投資家との建設的な対話を通じ相互理解を深めるとともに、随時取り組みの見直しや更なる推進などにより、企業価値の向上を実現していくことが期待される。
(野村資本市場研究所 西山 賢吾)
※野村週報 2023年4月17日号「焦点」より