2021年10月のフェイスブックのメタプラットフォームズへの社名変更を機に、メタバースが世間の注目を集めています。足元では、規模の大小を問わず、様々な業種の企業がメタバースを活用したビジネスを構想し、新サービスを開始しています。勃興しつつあるメタバースのビジネス活用について、BtoC(消費者向け)の一部及びBtoBtoC(企業間取引の先に消費者をつなぐ)に着目し、可能性について考えてみましょう。

成長には「相互運用性の実現」と「HMDの普及」が欠かせない

メタバースのビジネス活用の前に、メタバースの更なる成長に欠かせない論点を考えてみましょう。「相互運用性の実現」と「HMD(ヘッドマウントディスプレイ)の普及」、この二つが重要な論点と言えます。

相互運用性とは、同一のアバターで複数のメタバース空間に継ぎ目なくアクセスできることを指します。現状のメタバースでは、空間ごとにログインを求められたり、異なるアバターを設定したりしなければなりません。相互運用性が実現した場合、同一のアバターとの接触時間が増加し、ユーザーのアバターへの愛着が深まることで、デジタルアイテムへの課金インセンティブ(誘因)の高まりが期待できます。

HMDはユーザーの頭部に装着するディスプレイ装置であり、多くのメタバース空間ではHMDに対応しています。しかし、IHS Technologyの予想では、2024年でもHMDの世界出荷台数は2,000万台強に留まると見ており、HMDの普及に向けた課題は複数存在しているのが現状です。

3種類のビジネスモデル

足元でのメタバースを活用したビジネスは、「デジタルアイテムの販売」、「リアル商材の販売(EC)」、「広告・マーケティング」に分類されます。

著名なメタバースプラットフォーマーであるフォートナイト(Fortnite)上のデジタルアイテムは、2018年の売上高が55億米ドルに達するなど、大手高級ブランドに匹敵する規模にまで成長しました。また、ラルフ ローレンはアバターを使って楽しむSNSアプリであるゼペット(ZEPETO)上にアバター用アイテムとして、デジタル版の洋服コレクションを展開しています。ユーザーはラルフ ローレンのアパレルを着用したアバターを、TikTokやインスタグラムといったSNSに投稿することができます。

メタバースを活用してリアル商材の販売をしたい企業は、消費者をインターネット上のECサイトにリンクしたり、メタバース空間内での(無料)体験経由でリアル消費に誘導したりするケースが多いようです。メタバース空間での購買体験は、ECの課題を解消することでEC化率を押し上げる可能性があります。

広告・マーケティングに関しては、メタバース空間に接触する人数が増加し、メディア接触時間に占めるシェアが拡大するにつれ、広告市場規模は拡大していくと見られています。加えて、ユーザーごとの詳細な行動データが取得可能になるHMDが普及するにつれ、コンテンツ・マッチ型からターゲット型へと広告手法に変化していくと考えられます。こうした変化は、メタバース空間への出店企業の増加やコンテンツの作り込みの高度化をもたらします。その結果として、ユーザーはメタバース空間で、よりリッチな体験を求めるようになり、HMDの普及が一段と加速することになるでしょう。

リアル商材の販売(EC)と看板広告(広告・マーケティング)にまたがる事例としては、三越伊勢丹ホールディングス(3099)のケースが参考になります。三越伊勢丹ホールディングスは、自らが運営するメタバースプラットフォームであるレヴ ワールズ(REV WORLDS)上に、新宿アルタ前や伊勢丹新宿店を再現しました。

ユーザーはアバターを操作しながら友人と一緒に買い物ができ、実際の店員がアバターを介して接客する等、ECでは難しい“ショッピング体験”が再現されています。また、新宿アルタ前の看板にはJVCケンウッド(6632)が広告を出稿しています。レヴ ワールズにログインすると、ユーザーはメタバース上の新宿アルタ前広場に降り立つ設定になっており、広告効果が望めます。

メタバースへの出店形態

企業のメタバース出店を支援するメタバース空間創造企業は、プラットフォーム型とシステムインテグレーター(SIer)型に大別できます。

プラットフォーム型の代表例としてロブロックス(Roblox)やクラスター(cluster)が挙げられます。プラットフォーム型企業は、メタバース空間を運営するとともに、空間に出店したい企業を誘致し、ブース(小規模なメタバース空間)を構築します。プラットフォーム型企業にとっては、企業やクリエイターの様々なブースが存在することで自社のメタバース空間の魅力が増し、ユーザー数や滞在時間の増加につながります。一方、SIer型企業は、企業のホームページ上や特設サイト(独立したメタバース空間内)にブースを構築します。

メタバースへ出店する企業にとって、プラットフォーム型とSIer型の大きな違いは集客コストです。プラットフォーム型では、既に一定数のユーザーを抱えているプラットフォームを利用することで、企業は集客コストを大幅に抑制できます。SIer型では企業が自ら集客する必要がありますが、ブース設計の自由度があり、プラットフォームへのユーザー登録を省略できるなどのメリットもあります。

メタバースでも当面はフォーティナイトやクラスター等、プラットフォーム型が集客動線の主流となり、SIer型はブランド力や知名度が高い企業向きと言えます。なお、プラットフォームごとに利用者数やユーザー層、得意とするマネタイズポイントは異なります。企業は個々のプラットフォームの特性を把握した上で、出店することが望ましいと言えます。

制作:野村證券投資情報部 デジタルコンテンツ課

制作協力:野村證券フロンティア・リサーチ部 渡邊 洋一、西川 拓

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