検索する
5つのポイントを押さえた発表を期待
４月13日には参天製薬の中期経営計画発表があり、５月には通期決算発表に合わせてオリンパスも中期経営計画を発表する予定である。我々は好印象な中期経営計画には５つの要素があると考える。①明確な数値目標、②基盤事業の成長、③イノベーションによる成長、④コスト改善策、⑤株主還元の５点である。参天製薬が発表した中計は模範例であろう。
①数値目標では売上高、営業利益、ROE（自己資本利益率）／ ROIC（投下資本利益率）の３点を示すことがのぞましい。参天製薬は2024.3期～26.3期の売上高、コア営業利益、コアROEの目標値を発表した。やや野村想定を下回るが、必達目標であると解釈でき、アップサイドがあると考える。②基盤事業の成長ストーリーは、医療機器企業にとって特に重要である。基盤事業を上回る業績を発売後５年以内に達成したイノベーションはいまだかつてないためである。同社は各地域での目薬の成長性を示した。③イノベーションは次期中計を意識した会社の夢を大きく描くことが重要。同社は近視や眼瞼下垂などの27.3期以降に貢献する巨大パイプラインを強調した。④コスト改善策も重要。同社の場合は一人あたり生産性向上を明確に目標に織り込んだ。⑤株主還元は唯一参天製薬でも改善余地があり、安定配当のままであった。配当性向の引上げが望ましい。
では５月のオリンパスの中計に何を期待すべきか。①数値目標は前回中計より高い成長とマージンを期待し、ESD事業（内視鏡）で年率７％以上、TSD 事業（処置具）で同７～８％の売上成長が望ましい。②基盤成長では、内視鏡新システムEVIS X1の浸透、消化器ディスポ製品普及の道筋が示されることを期待。③イノベーションでは、内視鏡ロボット支援手術や、がん診断技術が同社の長期的な脅威であり対応策が求められる。④コスト改善策では、前中計期間中に取り組んだGlobal Business Servicesの深化を期待。複数子会社のルーチン（定型）業務の一括外部委託と業務効率化の具体的効果の開示に期待。⑤株主還元では、前中計で「積極的な株主還元を実施」との発表にとどまったが、今回は総還元性向の目標値など具体的な目標に期待したい。
医薬品より医療機器に注目したい
引き続き医薬品よりも医療機器産業に野村では注目している。３月の米銀行破綻により株式市場ではディフェンシブを選好する機運が高まったほか、１～３月期に限ると医療機器企業はインフレ影響の継続や手術件数の低迷など大幅な改善は見込まれない。そのため決算発表までは医薬品が注目されやすい状況と考える。しかし、24.3期の会社計画にてインフレ影響緩和、価格転嫁の業績貢献、手術件数回復などの見通しが明らかとなれば、業績展望の明るさが理解され、医療機器企業が注目されやすくなろう。
医療機器産業では、日本光電工業、島津製作所、テルモの動向に注目している。
日本光電工業は23.3期に見られた半導体不足による影響や中国ロックダウン（都市封鎖）の影響がなくなり、24.3期は通常より高い成長が期待される。競合企業Philips社のリコールで、当社のマスク型人工呼吸器NKV-330のシェア拡大が期待できる。
会社はマスク型人工呼吸器の引き合いは好調であるとコメントしているため、24.3期内にもシェア拡大がみられることを野村では期待する。
島津製作所は３月に中計を発表し、実現可能な目標値を発表した。また、最大の課題である米国での分析機器販売に向けた対策も開示しており、弱点克服に向けた道筋も示されたことは評価したい。
テルモは上述したインフレ影響緩和、価格転嫁、手術件数回復などが期待できるほか、日本の輸液製剤の不採算再算定による20～30億円の増益要因、中国ステントの値上げによる10億円弱の増益要因、23.3期上期に見られた造影剤不足による米国カテーテル検査件数低迷の払拭などが期待できる。これに最大の成長テーマであるラジアル手技（手首からカテーテルを入れる手技）の普及と専用製品の拡販が加わり、原料血漿採取装置RIKA の普及も始まれば、中長期展望の明るさへの理解が深まろう。
医薬品企業では、低バリュエーションの銘柄の事業動向に注目しており、特に参天製薬を挙げたい。４月に発表された新中計は保守的な前提で作成された中計でありアップサイドの余地が大きい。特に日本はジェネリック発売による影響を保守的に織り込んでいるほか、欧州でも新製品効果が限定的である可能性が高い。
各地域の一人あたり生産性向上などコスト削減効果も加わる。以前のように持続的成長をみせる姿に戻ることが期待される。
(野村證券エクイティ・リサーチ部 甲谷 宗也)
※野村週報 2023年4月24日号「産業界」より
