健康経営とは

健康経営(注)とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に健康投資を実践していくことを指し、生産性の向上、医療費負担の軽減に繋げる狙いがあります。また、社員を企業の財産ととらえる人的資本経営の実践においても重要です。

労働人口の減少や医療費の増加が深刻化する中、これらの解決に寄与すると考えられ、健康経営に対する関心が高まっています。経済産業省が2016年に健康経営優良法人認定制度を確立して以降、その認定法人数は増加傾向にあります。

(注)健康経営はNPO法人健康経営研究会の登録商標です。

(注)健康経営度調査とは、法人の健康経営の取組状況と経年での変化を分析するとともに、「健康経営銘柄」の選定および「健康経営優良法人(大規模法人部門)」の認定のための基礎情報を得るために実施している調査。2022年度までは経済産業省が実施してきたが、2023年度より経済産業省が民間事業者に運営を委託し継続される。
(出所)経済産業省資料より野村證券投資情報部作成

経営戦略としての健康経営

ジョンソン・エンド・ジョンソンによると、健康経営へ1米ドル投資することで得られるリターンは、医療コストの削減や欠勤率の低下などの効果から、3米ドルになるとされています。また、健康経営はESGのS(社会)に位置付けられます。世界的にESG投資が拡大する中で、一部の機関投資家が健康経営優良法人認定の有無をESGの評価基準に組み入れるなど、健康経営の実践はESGの観点からも重要な役割を果たします。

(注)図はイメージ。
(出所)経済産業省、各種資料より野村證券投資情報部作成

関連ビジネスの拡大が期待される

健康経営を実践する企業では、ウエアラブル端末の配布や、スポーツ施設の利用補助、メンタルサポートなど、福利厚生を拡充しています。また、これらの企業による福利厚生代行サービスの利用が増加しています。2023年6月には民間企業8社が連携し、社員の健康増進や健康保険組合の財政健全化、医療費抑制を目的とした「健康経営アライアンス」の設立が予定されています。2023年度中に300社の参画を目指し、ヘルスケアデータを活用した疾病リスクへの対処や健康維持・増進策を共有するとしています。健康経営の浸透が、ヘルスケアデータを活用した製品・サービスを手がける企業の追い風になると期待されます。

ご参考:健康経営関連銘柄の一例

・ベネフィット・ワン(2412)

健康経営やスキルアップを促進する総合型福利厚生サービスを展開し、16,000社以上が導入している。法人会員数は1,500万人を超える。

・味の素(2802)

2特に優良な健康経営の取り組みを実践している大規模法人を表彰する「ホワイト500」に、認定が開始された2017年から7年連続認定されている。健康経営の取り組みにより、肥満・血圧・血糖の標準化有所見比(注1)は良好な状態を維持している。

・JMDC(4483)

健康経営アライアンスの設立企業の1つ。健康保険組合などから健診等のデータを収集し、医療ビッグデータを活用したサービスを展開している。

・オムロン(6645)

健康経営アライアンスの設立企業の1つ。JMDCの医療データと自社の血圧データなどを組合せ、社員の健康の維持、重症化予防に取り組む。

・セイコーエプソン(6724)

独自のバイタルセンシング技術を使用したウエアラブル端末と、専用アプリケーションから得られるデータを活用した特定保健指導サービスを2011年より提供している。2022年3月よりベネフィット・ワンと特定保健指導サービスの開発・提供で協業している。

・リログループ(8876)

福利厚生代行サービスを展開している。余暇を充実させるサービスに加え、スキルアップ、健康診断、育児支援など、多様なソリューションを取り揃え、企業の健康経営を支援している。

・SCSK(9719)

健康経営アライアンスの設立企業の1つ。健康経営銘柄2023に認定された。選定が開始された2015年以降9年連続で健康経営銘柄に選定されている唯一の企業。健康経営の浸透によって疾病による欠勤の減少などの効果がみられている。

・アップル(A0030/AAPL US)

ウエアラブル端末のアップルウォッチは、着用者の体内データを分析することで病気の発症可能性を予知し、予防に貢献する。不規則な心拍の通知機能や心電図アプリケーションは厚生労働省が管理医療機器として認定している。

(注1)年齢調整をした対外ベンチマークの有所見数を100とした場合の自社の有所見数の割合で、100以下が対外比良好を示す。2022年度は肥満・血圧・血糖がそれぞれ84・66・41だった。(注2)全てを網羅しているわけではない。外国株式のコードは、野村コード/ブルームバーグコード。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

(野村證券投資情報部 岩崎 裕美)

ご投資にあたっての注意点