なぜ今、AIが注目を集めるのか
絵を描く、作曲するといったクリエイティブ性が高い領域や、人間の相談に乗る、長い雑談を続けるといったコミュニケーション能力が求められる領域は、これまでAI(人工知能)の適用には不向きと見られていました。
しかし、2022年夏ごろにテキストを入力すると、イメージに合った画像を生成するAIが相次いでリリースされ、従来の考えを覆すブレークスルーが起こりました。さらに、11月には、米新興企業オープンAIがチャットボットツール「Chat-GPT」をリリースし、話者が曖昧なコメントをしても、意図を汲み取り、あたかも人間と話しているかのような対話を実現しただけでなく、文章の校正や要約、プログラミングのソースコードの修正など、テキストを介した多様なコミュニケーションが可能になり、リリースから2ヶ月で1億人超のユーザー登録数を達成したと言われ、大きな話題を集めています。
『大規模言語モデル』のブレイクスルー
「Chat-GPT」などに活用されているAIはジェネレーティブAIと呼ばれ、①『大規模言語モデル』と、②『画像生成 AI』に大きくわかれます。
『大規模言語モデル』の進化のポイントは、話者が曖昧なコメントをしても、意図を汲み取り、あたかも人間と話しているかのような対話を実現したことです。以前は、文頭から順番に単語を1つずつ処理していくことから、テキストが長文になると適切に処理できないという課題がありましたが、入力されたデータのどこに注目すべきか特定する仕組みが開発されたことで、時間を大幅に短縮しながら、機械翻訳の評価手法で当時の最高スコアを記録したのです。
これをベースにオープンAIが、精度良く文章を理解するモデルを構築できるようになり、言語理解の精度が上がることを示す、パラメータ数は指数関数的な伸びを見せています。
さらに、「Chat-GPT」はすでにビジネス環境を激変させつつあります。2023年2月にマイクロソフトは、検索エンジンBingにChat-GPTを組み込んだバージョンを公開しました。検索結果に、個々のWebサイトを表示するだけでなく、AIが各Webサイトの情報を集約して、チャット形式でまとめて表示するサービスとなっています。これによって、Googleから検索エンジンのシェアを多少なりとも奪取できる可能性があるでしょう。
さらにOfficeやTeamsなどの多様なビジネスソフトウェアにもChat-GPTを組み込むと発表しています。
『画像生成AI』のブレイクスルー
『画像生成AI』の進化のポイントは、テキストによる細かい描写をAIが理解して、描写にあった画像を出力できるようになったことです。テキストが詳細であればあるほど、出力画像は具体的になる傾向があります。
画像生成AIは、入力されたテキストから複数パターンの画像を出力し、ユーザーが、その中から自分のイメージに合った画像を選択すると、それを元に複数の類似パターンを生成し、ユーザーが使用する画像を決定すると、AIは更に詳細化していくため、絵心がない人間でも、画像生成AIを使えば自分の思い描くイメージを他人と共有することが可能になります。
アニメーション、漫画、ゲーム、動画広告、デザインといったクリエイティブ活動の活性化に寄与し、特にプロではないユーザーが生成するコンテンツを中心に、コンテンツ量が飛躍的に増大すると見込まれています。
ジェネレーティブAI 今後の課題
ジェネレーティブAIによって、クリエイティブ活動やコミュニケーションにもAIの活用領域は広がるでしょう。その一方で、倫理的な問題が生じる恐れも強くなります。
従来、ディープフェイクの作成には合成の素材となる画像が必要でしたが、ジェネレーティブAIを使用して、悪意を持って改ざん、生成されたコンテンツを使えば、テキスト入力のみで無尽蔵にディープフェイクを生成できてしまうのです。
また、クリエイターの著作物を画像生成AIの学習データに使用することは法的には問題ないとされていますが、学習データとして使用すると、特徴を学び取った類似の画像が生成されてしまうことから、クリエイターの反発も出ています。
大規模言語モデルは、インターネット上のデータで学習した文章から言語を生成するため、インターネットのテキストに含まれている人種差別的な表現や暴力的な表現などを使った、一般に望ましくないテキストが生成されてしまうことがあります。
オープンAIは、望ましい回答を出力するよう、人間が修正をかけたため、分からないことは分からないと表明したり、倫理的、道義的に望ましくない質問に対しては回答を拒否したりするようにしています。
画像生成AIについても、道徳的に問題のある画像を生成しないようにブロックしたり、ステレオタイプな偏見を助長したりしないよう工夫する必要があるでしょう。ジェネレーティブAIのアルゴリズムやアプリケーションの開発者や開発企業には、一般よりも一段高い倫理観が求められているのです。
制作:野村證券投資情報部 デジタルコンテンツ課
制作協力:野村證券フロンティア・リサーチ部 中野 友道