外需不安へのディフェンシブ性を優先

3月に生じた欧米の金融システム不安はいったん落ち着いたが、米国の景気指標には下振れするものが目立ち始めた。国内景気も、4月1日公表の日銀短観が示したように製造業の不振が目立つ。ゼロコロナ政策を転換した中国の経済活動再開によって日本企業の業績が押し上げられるには時間を要することもあり、本決算発表シーズンまではディフェンシブ(業績が景気変動の影響を受けにくい)株を優先したい。

一方、投資家との対話が、早期の株主還元強化を含めたコーポレート・ガバナンス(企業統治)改善につながるプラス効果には注目する。例えば、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回り、現預金など手元流動性が豊富な銘柄などに投資妙味があろう。

ただし、金融環境の観点から日本株の割安株/成長株の選好を大きく傾けるのは難しい。米景気悪化(下向き)と先行きの日本銀行の政策修正期待(上向き)という、相反する作用があるためだ。2023年度の会社計画が出揃う5月末までの推奨セクターは、食品、インバウンド(訪日外国人客)関連、銀行、医療機器とする。FA(生産工程の自動化)関連は決算発表前後での押し目待ちと位置付ける。

4月10日の植田日銀総裁の就任会見は、大きなサプライズはなかったが、政策修正への意向の強さはうかがえた。とくに、大規模緩和を維持するかと問われたのに対し、「現在の金融緩和が非常に強力なのは間違いない」、「適切なタイミングで正常化に行かなければいけない」と明言した。現在の政策を過度に緩和的と見ている可能性が窺えた。続けて「それが難しければ副作用に配慮しつつ持続的な緩和の枠組みを探る」とも言ったが、トーンは弱く、付け加えのコメントという印象があった。全体的にタカ派(金融引締め)方向への修正をメインシナリオに据えた答弁のように見えた。

ただし、春闘については「今後も続いて定着するかを見極め」とするなど、一見ハト派(金融緩和)的な要素もあった。

総裁会見の終了とともに円安が進行したことから推察すると、「金融政策早期修正へのヒントなし」と受け止められた模様だ。目先、銀行株に押し目があり得るが、そこはチャンスと捉えたい。

東証が経営改革に向けた対応を要請

3月31日に、東京証券取引所は上場企業への要請「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願い」を公表した。要請では、持続的な成長と中長期的な企業価値向上の実現に向けて重要な事項が挙げられた。

具体的には、①資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(プライム市場/スタンダード市場)、②株主との対話の推進と開示(プライム市場)、③建設的な対話に資する「エクスプレイン」のポイント・事例、の3つである。

「要請」の実効性について市場には懐疑的な見方がある一方、期待できる要素も多い。総じて東証は、企業と株主の対話を後押しする環境整備に踏み込んでいる。今回の「要請」は3点の資料からなるが、「資料2:株主との対話の推進と開示について」はプライム市場の全上場会社に対して、要約すれば「どのような株主がどのような関心・意見・懸念をもっており、対話から何が得られたか。取り入れた事項があるか」を開示するよう求めている。

「資料3:建設的な対話に資する『エクスプレイン』のポイント・事例について」では、コーポレートガバナンス・コードを遵守しない理由の説明(エクスプレイン)が不十分な事例として、「3年間『検討中』のまま同じ説明を続けている会社」の社数を明示している。例えば、「英語での情報の開示・提供の推進」については118社が該当している。1月25日に東証が「論点整理を踏まえた今後の東証の対応(案)」で示した、「改善の必要性が高い上場会社については個別に働きかけ」という方針が具体性を持っていることが分かる。

東証は今秋に、ガバナンスの「質」の向上を後押しする施策として、プライム・スタンダード両市場の上場会社の指名委員会・報酬委員会の実態を調査し、その状況や事例を取りまとめて公表するとしている(同じく1月25日の「論点整理を踏まえた今後の東証の対応(案)」より)。

東証は22年4月の市場区分の再編に際して、期限のない「経過措置」の設定が疑問視されるなど、ガバナンス改革推進策の実効性について懐疑的な見方を払拭できなかった。しかし、22年7月から9回にわたって開催された「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」は、「市場区分見直しの実効性向上」を前面に掲げて議論を重ね、今回の企業価値向上への努力要請に様々な仕掛けを盛り込むことに成功したと言えるだろう。

(野村證券市場戦略リサーチ部 池田 雄之輔)

※野村週報 2023年5月1・8日合併号「焦点」より

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