化粧品:国内需要、中国需要も回復へ

2023.12期の化粧品業界はコロナ禍からのリオープン(経済活動再開)により国内と中国の需要が回復し、業績改善が進む1年になると野村では考える。業績では資生堂への恩恵が大きいとみている。

足元の小売企業の月次販売動向等からは、百貨店、ドラッグストアともに化粧品販売の回復がみてとれる。22年までは低価格帯の販売が堅調であったが、23年に入ってからは、中・高価格帯の販売回復が鮮明であり、リオープンによる国内消費者の購買行動の活発化が伺える。

また、化粧品のインバウンド消費についても今後の回復に期待が持てよう。JNTO(日本政府観光局)によれば、23年3月の訪日外客数は前年同月比約27倍の182万人と、コロナ禍前の19年比で約7割の水準まで回復した。百貨店の免税販売も、訪日外客数の回復や円安による内外価格差の拡大からブランドバッグ等の一般物品はコロナ禍前の水準を既に回復している。足元で化粧品等の消耗品の免税販売は一般物品と比較して鈍いが、日中間の渡航規制により訪日中国人数の回復が弱いためだろう。コロナ禍前は化粧品の免税販売の内約9割を中国人が占めていたとされる。4月からは日中間の水際対策が撤廃され、今後中国からの訪日客数増加が期待される。化粧品の免税販売も回復に向かうと考えている。

日本の化粧品企業にとって主要販路である中国本土でもリオープンによる消費回復が進む。中国国家統計局が公表した3月の化粧品販売は前年同月比約10%の増収であった。4月以降も前年の上海ロックダウン(都市封鎖)等による消費低迷の影響緩和もあり、増収率は一層高まろう。一方で、近年の中国市場では競争激化の動きがみられる。特に現地ブランドが台頭する低中価格帯では、日本を含めた外資系ブランドの苦戦が目立つ。中国の若年層を中心に自国ブランドを選好する「国潮」の動きや販売プラットフォームの多様化への対応が遅れていることが要因だろう。現状で資生堂等の大手企業が注力する高価格帯への影響は軽微とみるが、今後現地ブランドのキャッチアップは進むとみられるため、日本企業は品質や技術力等での差別化によるブランドポジションの確立が必要となろう。

トイレタリー:値上げと海外展開に注目

23.12期のトイレタリーセクターも原材料高の一巡、国内外での製品価格の値上げ等により、業績回復が見込まれる。

原材料高については、リードタイムの関係から石化系を中心に23.12期上期まで影響が残ると見込まれる。しかし、下期以降は資源価格の下落により原材料安への転換が想定されるため、前年度比ではマイナス影響が緩和すると野村では考えている。

また、各社が国内外で取り組む製品価格の値上げも業績回復を後押ししよう。各社とも22.12期下期から国内外で値上げを進めており、23.12期に値上げ効果の業績寄与が本格化すると見込まれる。野村では製品値上げは①製品シェアの寡占度が高いカテゴリー、②海外市場で実施しやすいと考えている。①は、他製品へ代替されにくく、メーカー側の価格決定力が強いためであり、洗剤や紙おむつ等のカテゴリーが挙げられよう。②の海外市場は、過去からインフレ傾向で継続的に製品価格が上昇していたこと、P&G やUnilever といったグローバルの競合企業も既に値上げしており追随しやすいためである。

これらの観点からユニ・チャームに注目している。同社は紙おむつや生理用品等の不織布・吸収体製品に経営リソースを集中投下することで、国内やアジアを中心とした海外で高いシェアを獲得している。また、海外売上高比率は22.12期で約7割を占め、値上げの確度が高いと考えている。

一方で、国内市場の値上げについては、海外市場に対してやや出遅れている。過去の国内市場の商慣習は、製品リニューアルに伴う値上げが基本であり、原材料高等を背景とした単純値上げの前例がなかったためである。この結果、国内への収益依存度の高い花王などの業績は厳しい状況が続いている。今後も流通等への値上げの浸透にやや時間を要する可能性がある点には留意が必要であるが、食品等を含め様々なモノが値上がりする現在のマクロ環境は、トイレタリー業界の価格政策にとって追い風であり、進捗に注目したい。

なお、国内市場は中期的に人口減少等で大きな成長は見込みにくい。そのため、高い市場成長率が見込める海外での事業拡大がトイレタリー企業の当面の課題となろう。日本ブランドは品質や技術力の面でグローバル企業に勝るものがあると考えている。しかし、経営リソースが各社限られるなかで競争に勝ち残っていくには、注力地域やカテゴリーの選別等が必要となろう。

(野村證券エクイティ・リサーチ部 大花 裕司)

※野村週報 2023年5月1・8日合併号「産業界」より

【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら

ご投資にあたっての注意点