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05/24 09:00【オピニオン】トランプ2.0でドルの信認は揺らぐか?
※画像はイメージです。 トランプ大統領は就任以来、貿易赤字の削減や製造業の国内回帰を掲げ、大型関税を相次いで導入してきました。為替についても、強すぎるドルを問題視する発言を繰り返しています。このため、市場の一部では「ドルに対する人々の信認が大幅に悪化するのではないか」といった声が聞かれます。 5月16日には米格付け会社大手のムーディーズ・レーティングスが米国債の長期信用格付けを最上位の「Aaa」から「Aa1」へ1段階引き下げたことを受けて、市場の「ドル離れ」懸念が高まっています。 ドルが基軸通貨の地位から転落するリスクが高まっているのでしょうか。基軸通貨を「貿易や資本取引など、国際的な経済取引における決済手段として最も選ばれる通貨である」と定義した場合、ドルが基軸通貨から転落する可能性は、現時点では非常に低いといえます。 IMFの調査によれば世界の輸出に占めるドル建ての割合は54%(1999~2009年平均)であり、同じくBIS(国際決済銀行)の調査では世界の為替取引におけるドルのシェアは44%(22年4月の1日当たりの平均)と、いずれも半分程度はドルを経由して行われています。 下記の図表は、主要国・地域の経常収支を見たものです。世界の経常赤字の過半は、米国の赤字であることがわかります。このことは、貿易や配当、利払いなどを通じて世界中にドルが供給され、世界中で流通していること、また米国にこれだけの赤字を計上できるだけの資金が還流していることを意味しています。この点から、基軸通貨としてのドルの地位を脅かす通貨が直ちに誕生する可能性は低いと言えます。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 (注)データは年次で、直近値は2023年。台湾は1984年以降、中国は1997年以降。(出所)IMF『World Economic Outlook April 2025』より野村證券投資情報部作成 一方で、米国では経常赤字に概ね匹敵するペースで対外純債務が積み上がっているという見方もできます。このため、米国政府は経常赤字の削減や、米国が海外に所有している資産の価値を上げる目的で、ドルを切り下げるのではないか、との市場の懸念につながりやすい面があります。 実際、ドルに関しては、ニクソンショックやプラザ合意として知られるように、戦後だけでも2回の通貨切り下げが行われました。トランプ大統領の掲げる政策が、市場のドル切り下げ懸念を高めているようです。 ただし、ドルの切り下げは副作用も大きく、それだけでは経常赤字問題を解決できないことは歴史の教える通りです。現時点では、起こると影響が大きいけれどめったに起きない「テールリスク」であると言えます。 ご投資にあたっての注意点
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05/24 07:00【来週の予定】米議会では予算審議が活発化
来週の注目点:米国の予算審議、通商協議、日米の物価動向 トランプ政権の政策や、景気動向、インフレを巡る不透明感が再び強まっています。世界的な株価の大幅反発をもたらした米中の関税率引き下げは、90日間の暫定措置です。第1次トランプ政権時には米中協議が合意に達するまでに1年半を要しており、今政権下でも交渉が長期化する可能性があります。中国以外の主要国と米国との通商協議も相次いで行われており、目が離せない状況が続きそうです。 また、米議会では予算審議が活発化しつつあります。今後は、法人税減税や、個人所得税減税の延長、連邦法定債務上限引き上げなど、政策の重心が財政政策へとシフトすると予想されます。いずれも議会での可決が必要ですが、共和党内でも意見が対立するなど、政策の実現は容易ではないと見られています。仮に実現した場合には景気を下支えする効果が期待される一方、財政赤字の増加懸念が米長期金利を押し上げ、株式市場の上値を抑える可能性があります。 米国の経済指標では、5月27日(火)に4月耐久財受注、5月消費者信頼感指数(コンファレンスボード)、28日(水)に5月FOMC議事要旨、30日(金)に4月個人消費支出・所得統計、5月シカゴ購買部協会PMIの発表が予定されています。中でも注目は、FRBが物価動向の指標として重視する個人消費支出・所得統計のPCE(個人消費支出)コア価格指数です。4月CPIでは明確な証左はなかったものの、関税引き上げの影響が注目されます。 日本では、30日(金)に5月東京都区部消費者物価指数が発表されます。コアコアCPI(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)は、春の引っ越しシーズンにおける家賃の引き上げなどを受けて加速したと野村では予想します。また、同日に発表される4月鉱工業生産では、トランプ関税への懸念が生産を下押し、前月比でマイナスに転じると見ています。 (野村證券投資情報部 坪川 一浩) (注1)イベントは全てを網羅しているわけではない。◆は政治・政策関連、□は経済指標、●はその他イベント(カッコ内は日本時間)。休場・短縮取引は主要な取引所のみ掲載。各種イベントおよび経済指標の市場予想(ブルームバーグ集計に基づく中央値)は2025年5月23日時点の情報に基づくものであり、今後変更される可能性もあるためご留意ください。(注2)画像はイメージです。(出所)各種資料・報道、ブルームバーグ等より野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点