FINTOS!編集部記事
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09/28 15:00
シリーズ 「近年の米事情を探る」 需要曲線・供給曲線から考える今後の米価と米価安定の必要性
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネス・コンサルティング部 シニア・アソシエイト 李 元(2025年9月24日) はじめに 本稿はシリーズ「近年の米事情を探る」の第2弾である。先月発刊した第1弾では、近年の米価高騰の背景として、国内生産力の低下や温暖化による品質低下、ふるい下米の減少、そして訪日外国人の増加が要因であることを論じた。 本稿では、米に対する需給の変化が米価に与える影響について需要曲線・供給曲線から分析する。また、今後の米価の変動要因が需要曲線・供給曲線に及ぼす影響を考察した上で、米価安定の必要性とそれに向けて政府へ期待する点に触れると共に、民間企業の取組み事例も紹介する。 なお、ミクロ経済学における需要曲線・供給曲線の考え方には様々な論点が残されているが、「価格は需要と供給によって決まる」という前提のもと、本稿を執筆した。 1. 需給の変化が米価に与える影響 (1) 米の需要曲線と供給曲線 一般的に、モノは価格が上昇すると需要は減少し、供給は増加する。これを可視化したものが需要曲線と供給曲線である。前者は価格と量が負の傾きとなり、後者は価格と量が正の傾きとなる(図表1)。これに対して、米の需要曲線と供給曲線は、それぞれが垂直に近い特殊な形を示す(図表2)。その理由は、米が日本人にとって代替が難しい主食であり、価格が多少変動しても購入しなければならないものだからである。実際、ここ数年で米の価格は倍以上になっても、消費量が極端に下がらなかったことがそれを裏付けている。 また、供給についても、気候や作付面積に大きく左右される米の生産量は、価格が上がったからといってすぐに増やすことは難しい。増産は農地整備まで考えると1年以上を必要とし、減産するにも次の作付けまで待たなければならない。このように価格の変動に対して需要量・供給量がほとんど変化しないことを「需要・供給の価格弾力性が低い(非弾力的)」という。 ・図表1(左):一般的な需要曲線・供給曲線 ・図表2(右):米の需要曲線・供給曲線 (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部 (2) 需要曲線・供給曲線から見た近年の米価高騰 米の需要曲線・供給曲線がどちらも非弾力的であるという性質は、米価の変動をより大きくする。近年の米価高騰を例に見てみる。第1弾でも述べた通り、今回の米価高騰は基本的に需要の増加(インバウンド需要増や家計購入量の増加等)と供給の減少(国内生産力の低下、温暖化による品質低下、ふるい下米の減少等)にあるわけだが、需要の増加は需要曲線を右側にシフトさせ、供給の減少は供給曲線を左側にシフトさせることとなる。そこで一般的なモノの需要曲線・供給曲線を示した図表1と米の需要曲線・供給曲線を示した図表2の需要曲線と供給曲線を実際に動かしてみる。図表3と図表4の通り、動かした幅は同じでも価格の上昇幅が大きく異なることが分かる。このように、米には価格弾力性が低い性質があるため、少しの需要量・供給量の変化が大きな価格変動を引き起こす。 ・図表3(左):一般的な需要曲線・供給曲線のシフト ・図表4(右):米の需要曲線・供給曲線のシフト (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部 2. 米価変動要因と需要曲線・供給曲線へ与える影響 米価の変動要因には、構造的要因と偶発的要因が複数存在し、複雑に絡み合っている。需要側の主な構造的要因としては、少子高齢化の進行と食習慣の変化(米に代わる主食としてパンや麺の普及・定着等)があり、いずれも需要の減少へと繋がる。また、供給側では、農業従事者の高齢化と担い手不足による稲作農家数の減少、それに伴う米生産・供給量の減少が懸念される。つまり、米価変動要因のうち構造的要因は、将来的な「米余り」と「米不足」の両面にリスクを秘めている。 このような構造的変動要因による長期的な需要と供給の減少は、需要曲線と供給曲線をそれぞれ左にシフトさせる。どちらも左にシフトするのであれば問題ないようにも思えるが、それは左にシフトするタイミング・量が全く同じである場合に限る。言い換えると、どちらかが先行して左にシフトした場合や左にシフトする幅(需要と供給の減少量)が異なる場合などは、理論上、急激な米価の変動を引き起こす。 次に、供給側の偶発的要因としては、供給の減少へと繋がる気候変動(地球温暖化等)や病害虫(カメムシ等)の発生等が挙げられる。これらの要因は供給曲線が左へシフトすることを指し、米価高騰へと繋がる恐れがある。需要側では、インバウンドの増加が挙げられ、これは需要曲線を右へシフトさせる。政府としてはインバウンド増加を掲げているが、為替動向等による不確実性もあることから偶発的要因とする。 これらを踏まえると、筆者は中長期的に「米不足」に陥る可能性を想定する[1]。確かに、構造的要因には需要減少と供給減少の両面があるわけだが、わが国の稲作の基幹的農業従事者に占める年齢割合は、一般企業の定年退職にあたる60歳以上が、およそ9割にのぼる。わが国の人口に占める60歳以上の割合が3割程度であることからも、この数値は異常に高く、稲作農家が激減してもおかしくない状況にある。また、偶発的要因で触れた地球温暖化とそれに伴う害虫被害も、近年は供給を減少させる構造的要因となりつつある。インバウンドによる需要増加は、当面、年間消費量の1~3%と見込まれるため他の要因と比較すると影響力は小さい。このような観点から、今後、米不足のリスクが高いと考える。 3. 米価安定の必要性と政府への期待、民間企業の取組み (1)米価安定の必要性 米は日本人の主食であり、安定した価格で供給されることが社会的にも重要である。米価の急騰は消費者の家計を圧迫するだけでなく、過度な下落は生産者の経営を困難にし、国内の米生産基盤の維持を脅かす。政府による米価安定に向けた対応策や民間企業(特に卸・小売)による取組みが求められる。 稲作農家は小規模な場合が多く、経営の安定化や改善・改革等を稲作農家だけに期待することは難しい。そのため、政府による取組みはもちろん、稲作農家から米卸、流通までのサプライチェーン上に位置する民間企業各社の戦略・取組みが必要となってくる。 (2)米価安定に向けた政府への期待 まず、米価安定に向けた政府による取組みという際、これまでのような減反政策に近い取組みに偏ってしまっては、生産力が落ちる一方となる。供給を増やしながらも米価を安定させるという目的に向かった対応策が求められる。 そのために、米価安定化のための対応策として、まず必要となるのが供給増加である。2025年7月30日の農林水産省発表によれば、2024年産主食用米の需要量が711万トンに上振れした一方、生産量は679万トンにとどまる見通しとなった。需要が生産を上回るのは4年連続で、需要と供給が均衡していない状況が続いている。早急に供給不足分を埋めることが求められる。 しかし、データを発表した2025年7月には、既に2025年産米の田植えは終わっており、増産要請があったからと言って、稲作農家がすぐに対応出来るものでもない。 政府はすでに増産へ方針転換を示しており、具体的な施策が迅速に打たれることを期待するが、私たち消費者としても、場合によっては数年の間は、政府の具体的な施策とそれにより供給が増加すること、最終的に店頭価格が下落することを待つ必要があるかもしれない。 また、増産への方針転換に向けた具体的な施策も重要ではあるが、供給過剰になった場合に備えた対応策も検討が必要である。繰り返しとはなるが、米の需要曲線・供給曲線は極めて非弾力的であり、構造的要因による需要減少と政府の施策による供給増加の発生タイミング次第では、供給過剰により米価は暴落してしまう可能性がある。そうなれば稲作農家の経営が悪化し、離農に拍車をかけることになる。そうならない為にも、政府は供給過剰になった場合に備えて、供給量を調整できるよう、例えば、輸出の推進などの米の新規需要開拓に真剣に取り組む必要があると考える。 (3)民間企業の取組み事例 米の供給増加や米価安定の実現のためには、当然ながら、政府単独の取組みにも限界がある。米のサプライチェーン上にいる米卸や流通はもちろん、それ以外の企業のマーケティング力や商品開発力、資本力をフル活用するべきだ。そのような民間企業の当該分野での戦略・取組みをサポートすることも政府の役割の1つとなるだろう。米分野における民間企業の主な取り組みを以下、数事例(数社)紹介する。これらの事例は今後、民間企業が当該分野に参入する際の参考にもなるかもしれない。 【株式会社プレナス(東京都)】 「ほっともっと」や「やよい軒」を運営する当社は、年間4万tの米を使用する。1994年に精米センターを福岡県に設立したのを皮切りに、現在では全国4か所に同センターを構える。2021年には稲作事業(米生産)にも参入しており、ドローン等を活用したスマート農業にも挑戦している。 【アイリスオーヤマ株式会社(宮城県)】 当社は、2013年に農業法人の株式会社舞台ファームと組んで精米事業へ参入した。備蓄米流通の課題の1つであった精米を自社で解決することで、随意契約で調達した備蓄米1万tを8月31日までに完売した。 【株式会社神明ホールディングス(兵庫県)】 米卸大手の当社は、2025年7月に株式会社舞台ファームと共同でソーラーシェアリングの実証に取組むことを発表した。ソーラーシェアリングとは、農地の上に太陽光パネルを設置して営農と発電事業を両立させる取組みである。農業者の所得向上に繋がることから、担い手の確保へ繋がることが期待される。 【株式会社クボタ(大阪府)】 農業機械メーカー大手の当社は、10年以上前から米の輸出に取組んでおり、2023年度の「輸出に取り組む優良事業者表彰」にて、日本産米輸出への貢献による農林水産大臣賞を受賞している。香港やシンガポール等へ玄米を輸出しており、現地で保管・精米・販売を実施している。 【株式会社ヤマザキライス(埼玉県)】 埼玉県で稲作を手掛ける当社は、「節水型乾田直播栽培」に取組んでいる。水を張らない状態で田んぼに種を播くことで、労働時間やコストを大幅に削減している。今後、稲作農家の減少が危惧される中で、大規模に効率よく生産することの重要性はますます高まるものと考えられる。 おわりに 近年の米価高騰が象徴するように、米価は低い価格弾力性のもと、複数の構造的・偶発的要因が複雑に作用して決定する。米の需要曲線・供給曲線は、野菜など他の農産物と比べても、需要・供給ともに垂直に近い特徴を有しており、わずかな需給のズレが大きな価格変動となって表れる。 こうした特性を踏まえると、米価安定のためには政府、民間企業による国内生産力の強化、輸出の推進等に加えて、政府による需給の的確な把握と柔軟な政策対応が不可欠となる。特に、米の生産量を把握するのは非常に困難なことではあるが、日本には独自の優れた技術を持った企業が多く存在するわけで、官民が一体となって把握に努める必要がある。 また、本稿では触れなかったが、供給を増加させる策として今後、消費者に選好される米の輸入を拡大することが出来るのであれば、店頭に様々な種類や価格の米を並べることで、消費者の選択肢を増やすことが可能となる。ミクロ経済学的に言えば、需要曲線のフラット化にも寄与する。今後とも米産業の持続的発展と国民生活の安定のため、関係者が一丸となって取り組むべき課題は多岐にわたる。本稿がその一助となることを願うものである。 [1] 米価がいくらとなるかを予測するものではなく、また必ずしも今より米価が高くなると予測するものでもない。 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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09/27 15:00
農食分野における電子商取引(EC)ビジネスの要諦
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネス・コンサルティング部 シニア・アソシエイト 津田 瞳美(2025年9月24日) はじめに インターネットの普及は、人々の生活や商取引活動を大きく変化させ、現在ではなくてはならないインフラとなっている。今回は国内の農食分野における電子商取引(以下、「EC」と記載)に焦点を当てる。 インターネット上で商品やサービスを取引するEC市場は急速に拡大している。動画やゲームなどデジタルコンテンツの提供、宿泊予約、オンライン学習といったサービスの提供、そして商品の売買など、あらゆる分野でECは伸長している。産業やセクター、業種などの各分野におけるECの普及度合は、「EC化率」という指標で測ることができる。自社ECの分析にもEC化率が活用されるなど、EC市場における重要指標の1つとなっている。多くの分野でEC化率が高まる一方、農食分野のEC化率は相対的に低い。 本稿では、農食分野でEC化率が低い要因を探るとともに、先進事例を通して、当分野におけるECビジネスの成功要因を分析する。 1. 国内EC市場の現状と農食分野におけるECビジネスの課題 現在、我が国のEC市場はAmazonや楽天市場を筆頭に、様々なプラットフォームやオンラインショップが軒を連ねている。国内における物販系分野のBtoC-EC市場規模は2023年に14兆6,769億円に達し、EC化率は9.4%である[1]。EC化率の高い分野は書籍、映像・音楽ソフトで53.5%、次いで生活家電、AV機器、PC・周辺機器が42.9%である。それに対して農食分野のEC化率は4.3%に留まり、BtoC-EC市場規模は2兆9,299億円である。その中では、ミネラルウォーター、お茶、炭酸水など重量がある飲料や、ストックできる冷凍牛丼の具などの売上が上位に位置している[2]。 全体平均と比較しても農食分野のEC化率は著しく低い。その要因として、農食分野のEコマース参入には、例えば、利便性や鮮度などの「顧客提供価値」、生産や梱包、保管・配送、賞味期限などの「コスト・管理」の観点からみても、他分野にはない課題が存在している(図表1)。 図表1 農食分野のECビジネスにおける主な課題 (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部 上記に加えてプラットフォーム利用の場合は、手数料を踏まえた価格設定が必要となる。それぞれの段階で課題を乗り越えて、再生産可能な利益を出すためには一定の利幅が必要である。さらに、認知度向上やスーパーマーケットなどで取扱う商品と差別化をするためには、EC上でのプロモーションは必須であり、そのコストを考えた時、高付加価値化(高付加価値商品の開発)の視点が不可欠となる。 その際、農食分野のECが抱える各課題の解消に資する商品の開発・選定を前提とし、これまでとは異なる視点で消費者へ訴求する高付加価値商品の開発が求められよう。 2. 高付加価値食品のEC成功事例と戦略 消費者へ訴求する高付加価値商品の開発の要諦は何か。様々な考えがあるが、議論の余地がないポイントの一つはブランド化(ブランド開発)であろう。筆者が考えるブランド化の基本要素は次の4つである。製品開発や製造者の想い、ストーリー(背景)を伝えることにより、その製品は消費者にとって価値のある体験へと変化する。 ① 使用している原材料や生産者、製造者が開発にたどり着くまでのストーリー② 製造工程のストーリー③ ①②を反映したこだわりの製品が消費者に届くまでのストーリー④ ①②③のストーリーを明確に消費者へ訴求できる商品の写真や説明 現在、食に関するオンライン市場では、比較的高価格帯の商品やブランドが目立つ。いずれも上記①~④をクリアしているブランドが多い印象である。ここでしか取れない原料やストーリーを含めて特徴のある原産地、その原料が保有する機能やサービス、古来より伝わる製造工程など、生産者や製造者のこだわりなどの特徴的なストーリー(メッセージ)がたっぷりと詰まった商品などだ。それらに加え、少し贅沢をしたい日の“ご褒美”、時間を短縮できる“手間の減少”、十分な“栄養の摂取”など、生活の質の向上に資する付加価値の高い商品が多く見受けられる。 また、食品は、手に取って鮮度や品質を直接確認したいという消費者も多く、特に生鮮食品はその傾向が顕著である。生鮮食品にはどうしても旬、産地のブランドや製造方法の特徴などが強く影響する。そのため、筆者は、上記のようにブランドストーリーを明確に設定した付加価値のある製品を唯一無二で提供することを強く推奨する。食品小売店で手に取る商品の背景にあるこだわりや魅力を伝えることができるのはEコマースの最大のメリットでもある。 食品EC分野で、このような高付加価値な商品を取り扱う主な事業者を図表2にまとめた。それぞれが明確なコンセプトを持ち、原料や世界観など他にない商品を開発し、高付加価値な商品として販売されている。例えば、ミツカンの「ZENB」であれば、「開発のためにあらゆる植物を試した結果、『黄えんどう豆』に辿り着いた」というストーリーの記載がある。これには、健康志向で主食を控える人が増える中、ごはんや麺を我慢せず美味しく食べ続けることで健康になれる主食を作りたいという開発者の想いがある[3]。 図表2 食品EC分野で高付加価値な商品を取り扱う主な事業者 (出所)各社HPより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 その他、特徴的な商品としては、原料にヒュウガトウキ(日本山ニンジン)を使った製品などもある。いずれの商品もブランドの世界観、ストーリーが確立しており、コンセプトが明確である。そして各商品に共通する戦略は、他にない唯一無二のブランドとして尖った商品開発、ブランディングの実践であろう。 このような商品開発やブランディングの実践に向けて、商品開発の段階で、ターゲットとなりうるセグメントの消費者にヒアリングしながら改良を行うことが望ましい。その段階で、響く訴求ポイントも明確になるとなおよい。Eコマース展開時には、自社ECであればMETA広告やLINE広告、TikTokなど対象に合わせたプロモーションの場で検証を重ねる。プラットフォームでは、その中での動画広告やキーワード広告の運用に注力する。プロモーションにおいては、訴求に合わせた写真や動画、キャッチコピーなど、様々な仮説を立てた上で、まずは反応のよい広告を探り検証を進め、マーケティングの精度を高める。高い反応率のプロモーションが確定した後も、継続すれば反応は落ちてくるため、定期的に見せ方、伝え方を変えていく必要がある。 3. 農食分野のEC参入を後押しするサービスと今後の有望市場 商品開発後は、新規顧客を獲得し、優良顧客からロイヤルカスタマーへと「育成」する仕組みづくりが必要となる。そのためのプロモーションや世界観づくりに最適なのは自社ECサイトである。自社ECサイト構築のサービスとしての筆頭は、世界シェアNo.1のShopifyである。ノーコードで本格的なネットショップを開設・運用できる。 他にも国内サービスであれば、BASE、STORESなどがある。EC市場は動きが速いため、各タイミングで、よりよいサービスを選択するのがよい。 自社ECサイトである程度の認知を獲得した後に、Amazonや楽天市場などの大手プラットフォームでの販売や、ギフトになりうる商品であればLINEギフトなどへの応用も可能だ。ギフト全体の国内市場規模は2024年に11兆円に及び、そのなかでもソーシャルギフトの認知と市場の拡大が見込まれる。2023年にLINEギフトで贈られた贈答品ランキングでは、女性向け、男性向けともに、上位をスイーツやグルメが占める。 また、現在、筆者が最も注目している市場は、メタバース市場である。メタバースとは、インターネット上に構築された3次元の仮想空間のことで、利用者は自身に代わるアバターを操作し、他者との交流やメタバース上で商品を購入するなど、現実世界と連動した経済活動も可能となる。さらにBtoBでの仮想的なワークスペースとしても活用が期待されている。総務省「令和7年版 情報通信白書」によると、世界のメタバース市場は2024年の744億ドルからCAGR(年平均成長率)37.7%で伸長し、2030年には5,078億ドルまで拡大すると予測されている。その内訳はメタバース内でのEC分野が最も大きい。次いでゲーム、ヘルス&フィットネス分野となる。日本でも2024年に2,750億円(前年度比47.6%増)、2028年には2兆程度までの急速な拡大が見込まれている。 おわりに コロナ禍による後押しもあり加速したEC市場の拡大は、コロナ禍の収束により2024年はいったんリアル回帰が起こったものの、2025年は再び拡大傾向にある。農食分野のECビジネスへの参入や売上高の拡大には様々なハードルがあるが、農食分野の商品は継続購入割合も高く、解決を見越した商品やブランド開発で乗り越えられる可能性は十分にある。また、その先には国内だけでなく海外、ソーシャルギフト市場、メタバース市場など、今後大きく拡大しうる市場が拡がっている。 それらの市場開拓を見据えた中長期のビジョンを持ちながらも、足元の農食分野のECが抱える課題解決は必須となる。顧客の需要や市場の変化を捉えながら、商品やブランドそのものの改良や検証、再構築など、日々の地道な活動を積み重ねていくことが肝要となる。 [1] 経済産業省「令和5年度 電子商取引に関する市場調査」 [2] 株式会社Nint 「2024年のECトレンド振り返り&2025年の売れる商品予測【食品・ファッション・コスメ】」(2025年1月16日公開)https://www.nint.jp/blog/2024-2025trend/ [3] 株式会社ミツカンHP「ZENBについて」https://zenb.jp/pages/about ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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08/24 15:00
農地由来カーボンクレジットの発行状況
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネス・コンサルティング部 ヴァイス・プレジデント 石井 佑基(2025年8月21日) はじめに 農業および畜産業は地球上の利用可能な土地の46%を使用し、温室効果ガス(GHG)の排出量は全産業の25%に達する環境負荷の大きい産業である。フード&アグリ分野に関わる企業は、川上から川下に至るまで、排出削減のためには農業および畜産業の排出削減努力が重要な意味を持つ。農業が排出するGHGは農業機械の燃料が排出する二酸化炭素以外に、メタン(CH4)と一酸化二窒素(N2O)がある。メタンは二酸化炭素の25倍の温暖化係数(GWP[1])を持ち、一酸化二窒素は250倍のGWPを持つ温室効果ガスである。畜産業の場合は農業機械が排出する二酸化炭素に加えて、ウシのげっぷからのメタン排出のほか、家畜糞尿処理でメタンと一酸化二窒素を排出するうえに、過放牧(牧草の生長量を上回る放牧)による土壌炭素の空中放出などが挙げられる。 今回は主として水田からのメタン排出と、農業および放牧業からの主要な二酸化炭素排出源である土壌由来炭素に関するカーボンクレジットの発行状況と取引状況について説明する。 1. 第一次産業セクターのカーボンクレジット発行状況 (1) 主な農林水産系カーボンクレジットの種類 農林水産系のカーボンクレジットで最も有名なのは林地管理、再造林、REDD+[2]などの林業系カーボンクレジットである。これらは比較的安価(70USD/t-CO2以下)で販売されることが多いため、需要家のニーズにマッチし人気があった。しかしながら、近年発表された研究論文により、クレジットの信頼性が低下して以降、組成量は伸び悩んでいる。 昨今注目を集めているのは、農業からの主要なメタン排出源である水田の水管理手法によるAWD(Alternate Wetting and Drying)カーボンクレジットと、空気中の二酸化炭素を有機炭素として除去する土壌炭素貯留系カーボンクレジットである。これらは比較的安価である(30~70USD/t-CO2)ことと、組成ポテンシャルが大きいことから、近年大型プロジェクトの組成が相次いでいる。 なお、より新しい手法である岩石風化(農地にアルカリ塩岩石粉末を散布し、二酸化炭素を固定する手法)は、まだ開発段階であることから今回は触れないが、そのポテンシャルには注目している。 またどの手法でも、規制市場(国や自治体が管理する市場)よりもボランタリーマーケット(私設市場)の方が発行残高は大きい傾向がある。一例をあげれば、ボランタリーマーケットであるVCS(Verified Carbon Standard)最大の認証団体であるVERRAの累計認証量は13億3,152万t-CO2(2025年7月現在)であり、J-クレジットの累計認証量1,421万t-CO2(2024年度までの累計)と、100倍近い乖離が存在する。理由として、適用できる方法論の種類やプロジェクト開発の難易度が関係しているが、ボランタリーマーケットは玉石混交とも言える。 (2) 全体的な傾向 図表1に主要なボランタリーマーケットでの分野別の組成量を示した。最も多いのは林業及びその他土地利用(再造林やREDD+など)で、全体の約40%を占める。次に多いのが全体の約35%を占める再生可能エネルギーである。農業分野は全体の1.5%程度に過ぎないが、排出量は全セクターの約25%を占める。また、有史以来農業および畜産業が耕耘や放牧によって放出した二酸化炭素は4,500億トンと言われており、推計では土壌への炭素貯留ポテンシャルでは森林を上回り、今後の成長余地が大きい分野と言える。 図表1 2024年までの分野別カーボンクレジットの累計発行状況(ボランタリーマーケット) (出所)Berkeley Carbon Trading Project「Voluntary Registry Offsets Database」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 農業分野(累計創出カーボンクレジット3,326万t-CO2[3])をさらに分解していくと、82%を家畜排せつ物処理(同2,712万t-CO2)が占めている(図表2)。以前はほぼ家畜排せつ物処理からの創出が占めていたが、2018年以降、ここにAWDが450万t-CO2、土壌炭素貯留が71万t-CO2と急成長してきている。AWD及び土壌炭素貯留のカーボンクレジットは年間創出量数万t-CO2規模の大型プロジェクトが組成されつつある。認証団体はAWDの場合はGold Standardが多く、土壌炭素貯留はVERRAが多い傾向がある。 図表2 農業分野における2024年までのクレジット認証量(ボランタリークレジット) (出所)Berkeley Carbon Trading Project「Voluntary Registry Offsets Database」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 日本における取引状況として、2023年10月11日に開始された東証カーボンクレジット市場(J-クレジット及びJCMを取り扱う)の取引データを見ると、依然として省エネルギー・再生エネルギー系カーボンクレジットが主体となっていることが分かる(図表3)。しかし、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)はネットゼロに向けて長期的には貯留系カーボンクレジットの活用も重視していることから、日本でもいずれは貯留系のカーボンクレジット主体に変わっていくことを予想する。省エネルギー・再生エネルギー系のカーボンクレジットは、価格レンジは森林系カーボンクレジット(貯留)よりも低いが、豊富なプロジェクト数による安定的な供給量、及び削減量の明確さから取引量が最も多くなっている。 一方で、森林系のカーボンクレジットの創出量に関しては、省エネルギー・再生エネルギー系よりも少ない傾向があり、森林系の相対的な価格の高さもあって取引量は現状では少ない。 なお、森林系Jクレジットの認証量は、J-クレジット事務局によると134万t-CO2であり、市場で売買された量は1%強ということになる。中干期間の延長(AWD)のJ-クレジット認証量は17.8万t-CO2である。もっとも認証量が多い省エネルギー・再生エネルギー系J-クレジットでも認証量は682万t-CO2であり、市場取引はほとんど活用されておらず、相対取引が主体となっている。言える。また、ボランタリークレジットの認証量と比べてもJ-クレジットの認証量は極端に少ないことが分かる。しかしながら、2026年から排出量取引制度(GX-ETS)が本格稼働すると、適格カーボンクレジット(GX-ETSでは現状はJ-クレジットとJCM)の需要増加も予想され、カーボンプライシングの妥当性も問われていくだろう。そのため、今後市場取引は活発化していくと予想している。 東証カーボンクレジット市場の取引動向の分析から、流動性(認証量)が多いことと、価格が10,000円/t-CO2以下のJ-クレジットであること(特に好まれる傾向は5,000円/t-CO2以下)が、日本のカーボンクレジットマーケットで受け入れられる条件と言えよう。 図表3 東証カーボンクレジット市場の取引状況(2023/10/11~2025/7/31) (出所)東京証券取引所公開資料より野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (3) 国・地域毎の傾向 昨今注目のAWDと土壌炭素貯留手法は3つの特徴がある。1つは自然資本を利用する方法であり、農地毎に削減量の標準偏差が大きい傾向がある。2つ目は管理手法が比較的簡便であり、追加コストが低いため、クレジットの単価が安い傾向にある。最後に、いずれも1haあたりのカーボンクレジット創出量が2~4t-CO2と小さいことである。したがって、十分な供給量を確保し、組成コストを吸収するためには数万ha以上のプロジェクトとする必要がある。削減量の標準偏差が大きく、1haあたり創出量が小さいため、小面積では期待した効果が出にくい。解決策として、AWDと土壌炭素貯留手法は数万ha単位でのプロジェクトを開発し、平均削減量を理論値に近づけることでカーボンクレジットの正確性を担保している。そのため、AWDと土壌炭素貯留手法のカーボンクレジットでは広大な農地を有する南北アメリカ大陸、中国、東南アジアでのプロジェクトが多いという特徴がある。 残念ながら日本での認証量が限定的であるのはこのためである。今後もプロジェクト組成の中心は広大な農地を有する大陸国家が中心となるだろう。 2. AWDクレジットの発行・取引状況 (1) ボランタリークレジットの発行・取引状況と潜在市場 AWDは元々日本が主導して開発した方法論である。日本では元来水田稲作が主流であったが、これは土壌に存在するカドミウムとヒ素の吸収を抑制する効果があった。カドミウムは湛水状態(嫌気条件)で籾への吸収が抑制され、ヒ素は落水状態(好気条件)で吸収が抑制されるトレードオフの関係にあった。これを利用し、農林水産省は湛水状態と落水状態をコントロールすることでカドミウムとヒ素の吸収を抑制させる水管理法を開発し、全国で指導してきた。 メタンは嫌気条件で発生するため、ヒ素と同様の水管理手法で削減できることを利用して2023年に開発したJ-クレジット方法論がAWDである。ここで、常に落水状態にすればヒ素吸収とメタン削減効果は大きいものの、カドミウム吸収は促進してしまう欠点がある。そのため、AWDでは湛水と落水を繰り返すことになる。これらの知見を元に有毒物質の蓄積を押さえつつ、メタン排出量削減を可能にする方法論として水田中干期間の延長(国外ではAWDと呼ばれる)が開発された。このように、水田稲作が中心の日本では以前からコメの安全性や環境負荷軽減の研究が盛んで、その成果を海外展開できる土壌があった。日本政府の対応は早く、2024年にはフィリピンで二国間クレジット制度(JCM)の対象となり、現在はベトナムでのJCM認証に向けてプロジェクトが進行している。 日本以外の認証団体では、CDM(クリーン開発メカニズム)、VERRA、及びGold Standardの方法論が標準となっており、申請がボランタリーマーケットで行われている。現状、AWDはCDM方法論での申請が圧倒的に多く、次がGold Standard方法論の申請である。VERRA方法論は2025年から第一号案件の認証手続き中である。カーボンクレジットの組成という点では乾田化で組成可能であるものの、東南アジア地域も日本と同様にカドミウムやヒ素の汚染土壌が存在することが報告されており、安全性と節水の観点からAWDは優れた方法と言えるだろう。VCSでは前述の通り、累計認証量が450万t-CO2であるが、現在認証手続き中のプロジェクトは1,642万t-CO2となっており、今後の認証手続きの進行によっては市場に出てくるだろう。仮に市場で30USD/t-CO2で取引された場合、販売額は4.9億USDに達する見込みである。 (2) J-クレジットJCMを利用した発行状況 J-クレジットとJCMを利用したプロジェクトでは、クレアトゥラ株式会社(東京)、株式会社フェイガー(東京)、Green Carbon株式会社(東京)、そして株式会社バイウィ(東京)などがおもに国内と東南アジアの水田におけるAWD事業に参入している。 国内プロジェクトの場合、中干期間の延長(AWD)によるJ-クレジットの認証量は2025年7月31日現在で178,117t-CO2である。2023年からの開始以来の認証量であり、認証量が少ないJ-クレジットの中では急速に拡大している部類に入ると言えよう。 JCMのプロジェクトに関しては、Green Carbon株式会社がフィリピンで2プロジェクト(年平均削減量52,317t-CO2と116,617t-CO2)が現在認証手続き中で、早ければ2025年度中に発行される見通しである。現在JCMの方法論はフィリピンのみで通用するが、ベトナムやタイでもプロジェクトが進行中である。ベトナムとタイのプロジェクトはJCMにおける方法論の登録からとなるため、時間がかかる見通しである。 (3)代表的なプロジェクトの例 現在注目されているプロジェクトは初のJCMでの認証を進めているフィリピンの2件である。1件目は年平均削減量52,317t-CO2の「Methane gas reduction project in Batangas and Laguna Provinces through AWD (Alternate Wetting and Drying) implementation in rice paddies」であり、2件目は同116,617t-CO2の「Methane gas reduction project in Bulacan Province through AWD (Alternate Wetting and Drying) implementation in rice paddies」である。いずれもGreen Carbon株式会社の案件であり、このプロジェクトの成否が今後のAWDの発展に大きな意味を持っていると言えよう。 3. 土壌炭素貯留クレジットの発行・取引状況 (1) ボランタリークレジットの発行・取引状況 土壌炭素貯留はVCS、特にVERRAの方法論での認証が多い。J-クレジットでは方法論が開発されていないため、現状ではVERRAの方法論を使うのが一般的である。VERRAの方法論では具体的な方法として、不耕起農法やカバークロップなど、様々な手法があるが、現在は広大な面積での放牧牛の管理を主体とした牧草地管理プロジェクトでの申請が多い。牧草地は農地の2倍の面積を持ち、過放牧の抑制で効率的に土壌炭素貯留を行えるため、プロジェクトを組成しやすいという利点を持つ。 VERRAの方法論を開発した米国のスタートアップIndigo AGは、プログラム開始以来約92万t-CO2のカーボンクレジット認証を取得し、農業生産者に数千万ドル規模の売却益が還元されたと発表している[4]。その他にも2,422億リットルの表面水(灌漑水)が節約できたと発表している。 (2) 代表的なプロジェクトの例 土壌炭素プロジェクトではIndigo AGのプロジェクトが最も進行している。土壌炭素貯留プロジェクトでは炭素固定以外にも環境価値と恒久性、農業生産者への還元が重要となるが、Indigo AGのプロジェクトではこの点が評価され、Microsoftが合計10万t-CO2の購入を発表している。Microsoftはカーボンクレジットの調達方針を公表しており、専門のデューデリジェンスチームも持ち、厳格な審査を行うが、Microsoftのエネルギー・炭素除去部門責任者であるブライアン・マーズ氏は、2025年6月にIndigo AGから追加でカーボンクレジットの購入を発表した際に、「Indigoのプロジェクトは、土壌や水資源の健全性を高めると同時に、農村経済に新たな発展機会をもたらしている。包括的なデューデリジェンスの結果、本案件を高品質な炭素除去手法として支持することを決定した」とコメントしている[5]。 4. 日本企業の取り組み例 (1) 日系企業によるプロジェクト AWDに関してはクレアトゥラ株式会社、株式会社フェイガー、Green Carbon株式会社、そして株式会社バイウィなど多くのスタートアップが参入しているが、特に先行している企業はGreen Carbon株式会社で、注目のプロジェクトは前述の2案件であるが、その他の企業もプロジェクト開発を行っている。しかしながら、重要度という点ではマイルストーンとなっているGreen Carbon株式会社の2プロジェクトと言えるだろう。 土壌炭素貯留ではJ-クレジットの方法論はないものの、日本のリモートセンシングスタートアップであるサグリ株式会社がインドでVERRAの方法論による認証を申請中である。プロジェクト名は「Optimization of the Nitrogen fertilizer in India and Thailand by using satellite images analysis」であり、年平均吸収量は100t-CO2と小型であるものの、日本企業の取り組みとして期待したい。 (2) 日本企業が注力しているアジアでの市場ポテンシャル AWDの場合、世界の水田からのメタン排出量は25Tg/年(2021年 IPCC報告書)と見積もられている。2022年以降の数値は公表されていないが、このデータに着目すると25Tgは2,500万tであり、二酸化炭素換算(GWP-100[6]=28)では7億t-CO2となる。FAO Statによると、世界のイネの作付面積は1億6,835万haであるが、東アジアと東南アジアの作付面積は7,687万haであり、約45%を占める。陸稲種と水稲種があり、更に灌漑水田か天水田(雨水に頼る水田)かという差があるため、比較には注意を要するものの、約45%がアジア地域からの排出と予想する。 この前提で推計した場合、東アジアと東南アジアにおいて、AWDで3割のメタンが削減できるとすれば、削減量は0.9億t-CO2である。カーボンクレジットの単価を30USD/ t-CO2とすると、AWDカーボンクレジットには27億USD/年の市場規模が見込まれる。 土壌炭素貯留では、耕作面積に創出可能量が依存する。FAO Statによると、東アジアと東南アジアの耕作地面積は770,311,000haである。土壌への炭素貯留は年間2~3t-CO2/ha程度であり、最大固定量は年間23億1,093万t-CO2となる。土壌炭素貯留のカーボンクレジットは50~70USD/t-CO2程度であり、想定市場規模は1,155億USD/年となる。 これらはあくまで最大創出可能量であるが、エネルギーや航空など、セクター間によりオフセット量は異なる可能性はあるものの、各企業は排出量からみれば10%程度をオフセットすることが予想される。背景として、日本政府とIPCCが見解を同じくしているが、各企業は自らのエネルギー消費量の削減やエネルギー転換による排出量削減が最優先であり、それらを進めた上でなお残る排出量について排出量削減を補完する目的でカーボンクレジットを活用すべきというもの(ヒエラルキーアプローチ)を根拠としている。環境省によると日本の2023年の排出量は10.2億t-CO2である。この10%が潜在需要であると考えれば、需要は年間1億t-CO2である。前述のアジア地域におけるAWD、土壌炭素貯留によるカーボンクレジット創出可能量は合計約24億t-CO2であり、日本のカーボンオフセット需要には十分な量である。このように、東アジアと東南アジアの農地には十分なポテンシャルがあると言えるだろう。 おわりに AWDは元々日本で安全にコメを生産するために開発されたカドミウムやヒ素の吸収を抑制するための水管理と同様の方法を使用している。カーボンクレジットを組成する場合、需要家にとってカーボンクレジット単価は非常に重要な要素であるが、同時に農業生産者のメリット(カーボンクレジットの売却収入の配分)、環境価値の向上(節水など)、恒久性(確実性)が重要である。 これらは土壌炭素貯留においても重要な視点で、環境価値の高いプロジェクトを組成し、適切にモニタリングを行い、継続してプロジェクトを遂行する能力が求められる。日本は農業技術が高く、測定やモニタリングにも強みを持つ。加えて、過去東南アジア地域に進出してきて現地に多くの工場などの事業所を持つ日本企業にとって、欧米よりも東南アジアは強い地盤を持つ地域である。ここに前述の日本企業の強みが活き、今後東南アジア地域での農業・畜産業系カーボンクレジットプロジェクトはJCMの仕組みを活用して拡大し、日本企業のGHGネットゼロ達成へと貢献すると予想する。 [1] GWPは温室効果係数。二酸化炭素を1として、その物質がどの程度温室効果が高いかを示す。ただし、物質は分解することもあるので、100年間での温室効果を示すGWP-100、20年間の温室効果を示すGWP-20など種類がある。一般的に温室効果を測る場合はGWP-100を使用する。メタンの場合はGWP-100が28、GWP-20が84であり、短期的な影響が大きい。 [2] 開発途上国での森林保全を目的としたカーボンクレジット。 [3] Berkeley Carbon Trading Project「Voluntary Registry Offsets Database」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部集計。以下、ボランタリークレジットの創出量は特記なき限り同様。 [4] 出所:Indigo AGのカーボンクレジットサービスIndigo Carbon公式サイト。 [5] ESGジャーナル「マイクロソフト、Indigoと再び連携──6万トン分の土壌炭素クレジット購入」(2025年6月9日付記事。 [6] GWPは温室効果係数。二酸化炭素を1として、その物質がどの程度温室効果が高いかを示す。ただし、物質は分解することもあるので、100年間での温室効果を示すGWP-100、20年間の温室効果を示すGWP-20など種類がある。一般的に温室効果を測る場合はGWP-100を使用する。メタンの場合はGWP-100が28、GWP-20が84であり、短期的な影響が大きい。 ディスクレイマー 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08/23 15:00
シリーズ 「近年の米事情を探る」米価高騰をもたらした要因
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネス・コンサルティング部 シニア・コンサルタント 髙田 健(2025年8月21日) はじめに 近年、米の価格が急激に高騰し、社会的な関心を集めている。その影響はスーパーの店頭にもはっきりと現れ、一時期は5キロあたり4,000円を超える価格で販売される例も見られ、家計に深刻な影響を与えた。しかし、その後、備蓄米の放出等の対策により高値はやや緩和され、現在では3,000円台にまで落ち着いているものの、依然として多くの家計にとって負担が大きい状況となっている。 米価の推移を確認すると、近年の異常な上昇が浮き彫りになる。2020年を基準値100とした消費者物価指数(図表1)では、2021年が96.8、2022年が92.6と緩やかな減少傾向を示していた。しかし、2023年には96.1とわずかに上昇に転じ、その後、2024年には122.8、2025年には195.8と急激な伸びを示しており、2023年以降、米価が安定した増減傾向から異常な急上昇に転じたことが分かる。 これまで比較的安定した価格で推移してきた米価がこれほど急上昇する事態は、前例のない異例の出来事である。米価の高騰は、複数の要因が複雑に絡み合って生じるが、筆者は、近年の米価高騰の主な要因として、国内の米の生産力の低下と2023年に発生した2つの出来事が大きく関係していると考えている。本レビューでは、これらの要因について分析し、整理を行う。 なお、本稿は「近年の米事情を探る」シリーズの第1弾であり、今後、第2弾、第3弾と3回に分けて、近年大きな注目を集めている日本の米事情に関する多角的な整理を行うことを目的とする。 図表1 米の消費者物価指数推移 (※2025年は1月~6月の6ヵ月間の平均)(出所)総務省「消費者物価指数」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 1. 国内の米の生産力の低下 (1)今でも続く実質的な減反政策 減反政策は、生産調整政策として1970年に導入され、米の過剰生産を抑制し、米価の安定と農家の収入を守ることを目的としていた。その背景には、1960年代に深刻化した米の供給過剰問題がある。当時、米価の急落により農家の経済状況が大きく悪化し、社会問題に発展した。政府はこの状況に対応するため、減反政策を導入し、2017年まで約半世紀にわたって実施した。 この政策の効果は、生産量の推移(図表2)に顕著に現れている。1970年には1,253万トンだった米の収穫量は、2017年には782万トンまで減少しており、およそ50年間で37.6%の大幅な減少を記録した。 減反政策は2018年に廃止されたものの、その後も政府は主食用米の需給見通しを毎年発表しており、それを基に各県の農業再生協議会などが生産数量目標を策定している。この目標は各県が主体的に策定するとされているが、実際には米の生産量を抑制する仕組みとして機能している。また、農家には米から麦や大豆、加工用米などへの転作を奨励し、転作には補助金が支給されている。このような政策は、形式が変わっただけで、従来の減反政策とほぼ同じ効果をもたらしている。 実際、図表2に示しているように、減反政策廃止後も米の収穫量は増加しておらず、生産抑制の傾向は依然として続いている。形式上の変化はあったものの、実質的には減反政策の延長ともいえる生産調整が現在も維持されている。 図表 2 米(子実)の収穫量の長期推移 (出所)農林水産省「作況調査」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (2)経営体数の減少と高齢化 図表3-1は、米を販売目的で作付けした農業経営体数とその作付面積を、2015年と2020年で比較したデータである。このデータによれば、2015年には95万体あった農業経営体数は、2020年には71万体まで減少しており、わずか5年間で24万体も減少したことが分かる。また、作付面積も131万ヘクタールから128万ヘクタールへと2.6万ヘクタールも縮小している。東京ドーム1個分の面積が4.7ヘクタールであることを踏まえれば、5年間で東京ドーム5,652個分の作付面積が失われた計算になる。 経営体数の減少理由としては、農家の高齢化や離農による個人経営体の減少が挙げられる。一方で、法人経営体の数は増加しているものの、その増加分では個人経営体の減少を補うには至らず、結果として全体の作付面積も縮小している。 さらに、農家の高齢化について、図表3-2に示している2020年の基幹的農業従事者の年齢構成を見ると、60歳以上が全体の83.8%を占め、59歳以下は全体の16.2%となっている。このデータからも、米の生産を担う農業従事者の高齢化が深刻であり、次世代への世代交代が進んでいない実態が読み取れる。 このような状況を踏まえると、今後も個人経営体の高齢化がさらに進むと予測され、米の生産体制の持続可能性には依然として大きな課題が残る。 図表3-1 販売目的で米の作付けを行う農業経営体数 [左表]図表3-2 販売目的で米の作付けを行う基幹的農業従事者(年齢構成割合)[右図] (出所)農林水産省「農林業センサス」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 2. 2023年に発生した2つの出来事 (1)「ふるい下米」の減少による加工用原料の主食用米への転用 図表4は、1991年から2020年の30年間の平均値を基準とした国内の平均気温偏差の推移を示したものである。このデータを見ると、国内の平均気温が年々上昇傾向にあることが分かる。 特に2023年は、7月後半から8月にかけて記録的な高温を観測し、夏(6月~8月)の平均気温が1898年の統計開始以来、最も高くなった。さらに、翌2024年には、2023年の記録を上回り、2年連続で観測史上最高気温を更新する事態となった。 こうした異常気象は、2023年産の米に大きな影響を及ぼした。2023年産の米は高温下で育った影響で粒が充実し、作況指数は101と平年並みの収穫量を維持した。しかしながら、品質面では深刻な低下が見られた。例えば、日本有数の米の産地である新潟県においては、1等米の比率が、例年は80%程度であったのに対し、2023年産はコシヒカリ4.9%、うるち米全体で15.7%と過去最低を記録した。また、全国的に玄米を精米にする際に胴割れなどが多発し、精米の歩留まりが悪化した。この結果、国内市場での米の供給に対する懸念が広がった。 図表 4 日本の年平均気温偏差の長期推移 (出所)気象庁「日本の年平均気温偏差(℃)」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 さらに問題となったのが、ふるい下米の発生量の大幅な減少である。ふるい下米とは、収穫後の玄米をふるいにかけた際に生じる、一定の基準以下の小粒米として分別されるものであり、加工食品の原料として広く活用されている。しかし、2023年産の米では、粒が充実していたため、小粒米の発生量が減少し、図表5に示すように、例年50万トン前後で推移していたふるい下米の発生量は、2022年に比べて18万トンも減少した。 この減少の影響で、食品加工業者は原料の確保が難しくなり、本来は消費者向けの主食用米を加工原料に転用する例が増加する事態となった。その結果、消費者への主食用米の供給が減少し、米の需給逼迫を引き起こした。 図表 5 ふるい上米・ふるい下米の発生量 (出所)農林水産省「米をめぐる状況について(令和7年5月)」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (2)訪日外国人の増加 ふるい下米の減少によって、主食用米が加工用原料に転用される中で、インバウンド需要による米消費も需給逼迫に影響を与えた。 図表6は、訪日外国人旅行者数の推移を示したものである。訪日外国人は2019年に過去最高の3,188万人を記録したが、新型コロナウイルス感染症の拡大による水際対策により、2020年~2022年の3年間は大幅に減少した。しかし、2023年には水際対策の緩和や円安の進行を背景に、2,507万人まで回復し、2024年にはコロナ禍前を超える3,687万人となった。 訪日外国人の増加に伴い、飲食店や宿泊施設では、訪日外国人向けに提供する食事のための米需要が増加した。農林水産省の推計によると、2022年7月から2023年6月の1年間に訪日外国が消費した米の量は1.9万トンにのぼり、玄米換算で2.1万トンに達している。(この推計は、2022年7月から2023年6月の1年間の訪日外国人1,404万人が、平均8.8泊滞在し、滞在中に毎日2回、合計156g(78g/回)の米を消費したと仮定して算出されている。) こうした訪日外国人の増加は、本来は国内消費者向けに供給されるはずの米が訪日外国人向けに振り分けられたことで、国内市場における米の供給にさらなる圧力をもたらした。 図表 6 訪日外国人旅行者数の長期推移 (出所)日本政府観光局「訪日外国人旅行者統計」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (3)2つの要因と米価上昇の関連 図表7は、米の民間在庫量と相対取引価格の推移を示している。データによると、米の民間在庫量は2022年には218万トンだったが、2023年には197万トンとなり、21万トン減少している。この在庫量の減少は市場での需要の高まりを示しており、それに伴い米の相対取引価格も上昇した。具体的には、2022年の相対取引価格は1俵あたり13,844円だったのに対し、2023年には15,315円と10.6%増加し、さらに2024年には24,500円と大きく高騰している。 2023年に減少した在庫量21万トンという数値は、先に述べた「ふるい下米の減少による主食用米の加工用原料への転用」分の18万トンと「訪日外国人による米の消費」分の2.1万トンの合計である20.1万トンとほぼ一致する。このことから、2023年に発生した「ふるい下米の減少」と「訪日外国人の増加」は、共に消費者への食用米の供給を圧迫し、市場での需給逼迫を引き起こした要因になったと推察される。 一方で、供給不足の背景には国内の米の生産力も影響している。前章の通り、2018年に減反政策は廃止されたものの、実質的には生産抑制の仕組みが残っており、容易に生産を拡大できる状況にはない。さらに、農業経営体数の減少や農家の高齢化も進行しており、大規模な生産体制を短期間で築くことは難しい。このように、国内の生産基盤そのものが脆弱化していることが、需給変動に対する柔軟な対応を妨げている。 これらの背景を踏まえると、2023年の「ふるい下米の減少による加工用原料の食用米への転用」や「訪日外国人の増加」といった新たな要因が、長年にわたり進行してきた国内の生産基盤の脆弱化と相まって、市場での供給不足、ひいては米価高騰を招いたと考えられる。 図表 7 米の民間在庫量・相対取引価格の推移 (出所)農林水産省の統計データより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 おわりに 本稿では、近年の米価高騰の背景について、国内の米の生産力の低下と、2023年に生じた「ふるい下米の減少」と「訪日外国人の増加」に着目し、米価高騰の要因を整理した。特に、実質的な減反政策の継続や米の作付けを行う農業経営体の減少、農家の高齢化は、安定的な米の生産基盤を大きく揺るがしており、米が一時的な需要の変動や異常気象に対して脆弱になっている現状が浮き彫りになった。 一方、足元では備蓄米の随意契約による放出等の影響もあり、米価は若干の落ち着きを見せ始めているが、まだ先行きは不透明な状況にある。 そこで、本稿に続き「近年の米事情を探る」シリーズの第2弾では、「今後想定される米価の変動要因」について述べていく。また、第3弾では米の流通構造と生産者価格の維持に向けた内容をテーマとし、日本の米事情について多角的に整理を行うこととする。 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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08/03 12:00
【#原子力発電】AI抽出15銘柄/三菱重工、四国電力、九州電力など
原子力発電所、14年ぶりに新増設の動き 関西電力は7月22日、美浜原子力発電所の敷地内で新たな原発の建設に乗り出す方針を発表しました。2011年の東日本大震災以降、電力会社が原発の新増設に具体的に動くのはこれが初めてです。2月に改訂されたエネルギー基本計画では、2040年度の電源構成として、再生可能エネルギーを4〜5割、原子力を約2割、残りを火力とする見通しが出されています。原子力は再生可能エネルギーと共に最大限活用する方針で、安定した低炭素電源としてその重要性が高まっています。AI「xenoBrain」は、「原子力発電需要増加」が他のシナリオにも波及する可能性を考慮し、影響が及ぶ可能性のある15銘柄を選出しました。 ※ xenoBrain 業績シナリオの読み方 (注1)本分析結果は、株式会社xenodata lab.が開発・運営する経済予測専門のクラウドサービス『xenoBrain』を通じて情報を抽出したものです。『xenoBrain』は業界専門誌や有力な経済紙、公開されている統計データ、有価証券報告書等の開示資料、及び、xenodata lab.のアナリストリサーチをデータソースとして、独自のアルゴリズムを通じて自動で出力された財務データに関する予測結果であり、株価へのインプリケーションや投資判断、推奨を含むものではございません。(注2)『xenoBrain』とは、ニュース、統計データ、信用調査報告書、開示資料等、様々な経済データを独自のAI(自然言語処理、ディープラーニング等)により解析し、企業の業績、業界の動向、株式相場やコモディティ相場など、様々な経済予測を提供する、企業向け分析プラットフォームです。(注3)母集団はTOPIX500採用銘柄。xenoBrainのデータは2025年7月28日時点。(注4)画像はイメージ。(出所)xenoBrainより野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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08/02 12:00
【#設備投資】AI抽出15銘柄/きんでん、関電工、GSユアサなど
日本企業の設備投資、2年連続で過去最高を更新 日本経済新聞社がまとめた2025年度の設備投資動向調査で、全産業の計画額が前年度実績比12.4%増の34兆2663億円となり、2年連続で過去最高を更新しました。日本企業が成長分野への投資を強化することで、産業構造の転換や国際競争力の向上も期待されます。AI「xenoBrain」は、「企業設備投資増加」が他のシナリオにも波及する可能性を考慮し、影響が及ぶ可能性のある15銘柄を選出しました。 ※ xenoBrain 業績シナリオの読み方 (注1)本分析結果は、株式会社xenodata lab.が開発・運営する経済予測専門のクラウドサービス『xenoBrain』を通じて情報を抽出したものです。『xenoBrain』は業界専門誌や有力な経済紙、公開されている統計データ、有価証券報告書等の開示資料、及び、xenodata lab.のアナリストリサーチをデータソースとして、独自のアルゴリズムを通じて自動で出力された財務データに関する予測結果であり、株価へのインプリケーションや投資判断、推奨を含むものではございません。(注2)『xenoBrain』とは、ニュース、統計データ、信用調査報告書、開示資料等、様々な経済データを独自のAI(自然言語処理、ディープラーニング等)により解析し、企業の業績、業界の動向、株式相場やコモディティ相場など、様々な経済予測を提供する、企業向け分析プラットフォームです。(注3)母集団はTOPIX500採用銘柄。xenoBrainのデータは2025年7月28日時点。(注4)画像はイメージ。(出所)xenoBrainより野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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07/21 15:00
「令和の米騒動」から見た日本酒業界の将来
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネス・コンサルティング部 シニア・アソシエイト 鈴木 拓実(2025年7月15日) はじめに 近年、日本酒業界を騒がせるニュースが数多く報道されている。日本酒の新規の製造免許取得者数が過去70年間で0件である一方で、新たな日本酒の形としてクラフトサケが台頭しつつあるといった内容だ。そして、最も業界を揺るがせているのが、「令和の米騒動」である。主食用米の価格は2024年夏ごろから上昇し始め、2025年5月の時点では連続17週にわたり高値を更新し、前年同月比で100%以上の値上がりを示す場面も見受けられた。この「令和の米騒動」と呼ばれる状況は主食用米にとどまらず、日本酒の原料である酒造好適米(以下「酒米」と表記)にも大きな影響を及ぼし始めている。本レポートでは、日本酒業界の現状を確認しつつ、令和の米騒動が業界に与える影響について考察し、その対策についても一部触れていく。 1.国内の日本酒業界の現状分析 日本酒の起源には諸説あるが、稲作が伝来した弥生時代にはその原型となる形がすでに存在していたとも言われている。古くから日本人に親しまれてきた日本酒であるが、その消費量は減少の一途をたどっている。国税庁が公表している清酒(原料の米に海外産を含むものも含めた総称、以下「清酒」と表記)の販売数量は、図表1に示す通り、清酒の消費数量およびアルコール飲料全体に占める清酒の割合は、1971年の31.5%から2023年には5.2%にまで著しく減少している。近年では健康志向の高まりや若者のアルコール離れにより、アルコール全体の消費量が減少しているのは言うまでもないが、アルコール飲料内での清酒の割合の低下から、清酒の存在感が薄れてきていることが読み取れる。 その一方、減少傾向にある日本酒の中でも、特定名称酒のうち、とりわけ純米酒や純米吟醸酒に限定すれば、消費量は横ばいか増加傾向にあるのが興味深い事実である。図表2に示すように、1992年度における清酒全体に占める純米酒および純米吟醸酒の割合はわずか6%であったが、2022年度には23%まで拡大している。日本酒全体の消費量が減少する中で、比較的高価格な純米酒や純米吟醸酒の消費が横ばいもしくは増加していることは、日本酒が普段飲みの飲み物から嗜好品へとシフトしていることを示していると考えられる。消費者の味覚や品質に対する関心の高まりがあるとみられ、今後もこうした高品質な日本酒の需要は堅調に推移すると予想される。 図表1(左図) 清酒(合成清酒含む)消費数量 およびアルコール飲料全体に占める消費率図表2(右図) 特定名称酒の課税移出数量(左軸)および清酒に占める純米酒・純米吟醸酒の割合(右軸) (出所)国税庁HP酒税統計情報より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 製造の観点に視点を移すと、清酒の消費量減少に比例して酒蔵数も大きく減少している。国税庁が公表している酒税における「製造免許場数及び販売免許場数」では、ピーク時に約4,000件を上回る清酒製造の免許取得先があったものの、2023年度時点では約1,500件とピーク時の半数以下にまで減少している。また、免許取得者が保有する清酒製造場ごとに行った調査(国税庁「令和5年度分 清酒の製造状況等について」)によると、調査に協力した1,534場のうち「実際に清酒を製造した」と回答したのは1,117場に留まった。清酒の製造免許を保有していても、清酒を製造している蔵数はそれ以下となる可能性を示唆している。 また、酒造りの従事者の高齢化も深刻である。日本酒杜氏組合連合会が発刊する令和元年の「日杜連情報」によると、酒造りの最高責任者である杜氏(季節雇用)の平均年齢は61.8歳とされている。これらの状況を踏まえると、清酒業界は消費量の減少と酒蔵数の著しい減少により、今後の存続自体が危ぶまれる深刻な局面に直面していると言わざるを得ない。杜氏の高齢化が進む一方で後継者不足が解消されておらず、伝統技術の継承も危機的な状況にある。このまま現状が続けば、清酒文化の多様性が損なわれる可能性が高く、今後の打開策が見出せなければ、日本が誇る清酒産業はさらなる縮小が懸念される。 2.令和の米騒動が清酒業界に与える影響 業界環境が芳しくない中、追い打ちをかけるように「令和の米騒動」が報道され、清酒業界を騒がせている。冒頭で述べた通り、主食用米が値上がり、それに引っ張られる形で酒米の高騰及び供給量が減少している。本節では酒米の流通経路を確認し、酒米の高騰および供給量が減少する背景および清酒業界が受ける影響について考察していく。 清酒製造において原料となる米は、主食用米とは異なり、山田錦や五百万石といった酒米が使用されるケースが多い。酒米は酒造りに適した品種改良が重ねられ、酒造り以外の用途で使用されることがないため、栽培に際しては契約栽培となる。流通経路は図表3に記載の通り、生産者が生産した酒米は地場のJAや全農を通じ、都道府県の酒造協同組合から酒造業者へと流通する。一部の酒蔵は自社で精米機等を保有し、酒米農家と直接契約する場合もあるが、多くの酒蔵は都道府県の酒造協同組合を経由して酒米を仕入れる。そのため、酒造協同組合への酒米入荷量が需要量を下回ると、酒蔵は当初想定していた生産量を確保できないことが起こり得る。 農林水産省が公表する「酒造好適米等の需要量調査」によれば、近年は毎年需要量(推計値)を上回る生産量が確保されており、地域や品種ごとの供給不足が生じる可能性はあるものの、酒米全体としては十分な生産量が維持されてきた。しかしながら、冒頭で述べた通り、2024年夏頃から主食用米の価格が継続的に上昇した影響で、酒米から主食用米への転作を選択する生産者が出てきた。酒米は主食用米に比べ、手間が増すうえに反収が低くなりやすいため、主食用米よりも高値で取引されてきたが、主食用米の取引価格が大幅に上昇し、酒米の取引価格と逆転する事態が発生している。 その結果、酒米生産の経済的インセンティブが低下し、酒米生産から主食用米生産に切り替える生産者が一定数存在する。これを裏付けるように、一部地域では、2025年度の県内産酒米収穫量が4割減少、酒米の取引価格が3割上昇する等の報道がなされている。酒米の供給不足により、計画していた清酒の生産量が未達になり顧客の元に商品が届かなくなる可能性があるほか、取引価格の上昇は価格転嫁ができない場合、酒蔵経営に圧迫があるのは疑いがない。 国税庁「令和6年 酒類製造業及び酒類卸売業の概況」から足元の酒蔵の経営状況を確認すると、調査に協力した1,140事業者のうち、約半数にあたる541事業者が赤字・欠損または低収益事業者であることが明らかとなっている。原材料費である酒米価格の高騰を販売価格に転嫁せざるを得ない状況にあるものの、清酒の消費量は減少傾向にあり、価格が上がった清酒を消費者が積極的に購入するとはなかなか考えられない。したがって、抜本的な業界の構造改革や経営戦略の転換を行わない限り、業界再編は避けられないと推測される。 図表3 酒米流通経路 (出所)農林水産省 加工用米等をめぐる事情についてより、 野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 3.酒米の自社生産による安定調達の可能性 「令和の米騒動」を契機に明らかとなったのは、酒蔵が外部に依存している酒米の調達リスクの深刻さである。米価の高騰や供給不足は、酒蔵の原料確保を困難にし、生産計画の混乱やコスト増大を招いている。このような不安定な環境下で、酒蔵が持続的に安定した品質の日本酒を醸造し続けるためには、原料である酒米の調達体制の見直しが不可欠である。 その一つの有効な手段として、自社で酒米を生産することが挙げられる。自社生産により、供給の安定化だけでなく、品質管理の強化やコストコントロールも期待できるため、酒蔵の経営基盤を強固にする可能性がある。さらに、自社で育てた酒米を使用することは、地域性や独自性を前面に押し出したブランド戦略にもつながる。自社での酒米生産を通じ、ブランディングに寄与している事例を紹介する。 (1) 白鶴酒造の例 白鶴酒造株式会社は2015年に農業法人である「白鶴ファーム株式会社」を設立し、10年以上の歳月をかけて独自開発した酒米「白鶴錦」の生産に力を入れている。同社が生産した「白鶴錦」を100%使用した日本酒『白鶴 翔雲 純米大吟醸 自社栽培白鶴錦』を上市した。原料である酒米の生産から酒造りまでを自社で一貫して手掛けることで、安定した品質と供給体制を実現していることを消費者に訴求している。 白鶴ファームが丹精込めて栽培した酒米を使用することで、従来の外部調達に頼る酒造りとは一線を画した新たなブランド価値を生み出している。さらに、『翔雲』はフランスで開催される日本酒コンクール「Kura Master」にてプラチナ賞を受賞する等、国内外から高く評価されている。同コンクールはフランス人ソムリエによる日本酒とフランス料理の相性を重視しており、欧州市場における絶好のアピールの場としても注目されている。 筆者が思うに、白鶴酒造の規模を考えると、全ての日本酒の酒米を自社生産に切り替えるのは栽培する土地や人材の確保から現実的ではなく、資本効率等の観点からも必要はないと考える。しかしながら、同社がこの問題を正面から捉え、単なる課題解決にとどまらず、自社のブランド価値向上につながる施策を積極的に展開してきた点は評価に値する。また、白鶴ファームの自社栽培による安定した良質の酒米の確保と、季節変動の大きい酒造業の雇用の安定化、圃場を維持確保することでの農業への貢献を目的としている点も、企業の社会的責任を果たす先進的な姿勢を示している事例だと考えられる。 図表4 翔雲 純米大吟醸 自社栽培白鶴錦 (出所)白鶴HP (2) 関谷醸造の例 白鶴酒造以外にも積極的に自社での酒米生産に取り組む事業者として、関谷醸造が挙げられる。同社は江戸末期の1864年に創業し、酒造りに必要な酒米の約20%を自社で栽培している。2006年に60aの小規模から開始した酒米作りは地域の遊休農地等を預かりながら、現在では約42haの規模にまで生産が拡大している。同社が位置する愛知県設楽町は標高700メートルの山間部に囲まれており、酒米の王様とも呼ばれている山田錦の栽培に向かないほか、中山間部のため栽培の効率化も難しい。こうした状況下であっても、愛知県で育成された「夢山水」を含む3種類の酒米を栽培し、ドローンやICT機器を活用する等、積極的にスマート農業を導入していき、省人化を実現している先進的な企業の一社である。また、同社では商品ごとに適した飲用温度をホームページ上で紹介し、日本酒に合う酒の肴レシピを紹介する等、日本酒の魅力を広く伝えるための広報活動にも力を入れている。 高齢化や後継者不足等の事情により離農する農家から農地を預かりながら、地域の農業を守り、日本の豊かな清酒を提供する同社はこれからの中山間地域で発展していく酒蔵の理想的なモデルと言える。 図表5 摩訶 関谷醸造 自社栽培米 (出所) 関谷醸造HPより 4.M&Aによる事業再編の可能性 第1章および第2章の通り、日本酒業界では事業環境が急速に悪化しつつあり、更には後継者不足が深刻な課題となっている。酒蔵の多くは創業100年以上の歴史を持ち、地域の顔役として長い歴史を誇っている。そんな酒蔵だからこそ、伝統を守りながらも経営継続が困難な状況に直面し、やむなく廃業を選択する酒蔵も増加している。しかしながら、長年にわたり築いてきた蔵元の歴史や、地域のファン、そして先代が大切に守ってきた酒造りの精神を途絶えさせることは、業界全体にとって大きな損失である。 そうした背景から、M&A(企業の合併・買収)は単なる経営戦略の一つにとどまらず、蔵元の伝統や想いを次世代へとつなげるための有効な選択肢として注目されている。新たな経営体制のもとで、これまでの技術やブランド価値を継承しつつ、より安定した経営基盤を築くことで、飲み手の期待に応え続けることが可能となることから、M&Aは先代の志を尊重しながらも未来へと歩みを進めるための重要な架け橋と言えるだろう。本章では、M&A実施時における売り手側・買い手側のそれぞれのメリット、デメリットおよび直近の取引事例を紹介する。 (1) 酒蔵のM&A実施における売り手、買い手のメリット、デメリット 酒蔵のM&A実施における売り手、買い手のメリット、デメリットは大別すると図表6に記載の通りである。 まず、M&Aという言葉を聞くと、売り手側はつい身構えてしまうことが多いが、一般的に多くのメリットが存在することを認識する必要がある。例えば、廃業してしまえば従業員の雇用を守ることは困難であるが、M&Aによって株式あるいは経営権を譲渡すれば、会社または事業という「箱」は存続し続けるため、従業員の雇用を継続できるほか、酒蔵やブランドを後世に残すことが可能である。もちろん、買収先によっては新たな販路の開拓も期待でき、ステークホルダーにとって非常に有益である。 また、経営者にとっても多くのメリットが存在する。具体的には、大手資本の傘下に入ることで個人保証や担保の解除が期待できるほか、株式譲渡に伴う譲渡益が発生する可能性もある。もちろん経営者が変わることになるので、今までの経営方針から大きく変わる可能性も存在する。また、株式譲渡における諸条件(売却金額、役職員の待遇等)が折り合わない可能性も充分にあり得る。しかしながら、こうした諸問題は株式を譲渡する前に買収側との面談を通じ、確りと売却先の選定を行い、諸条件を契約書に盛り込むことによって回避することは可能である。 次に、買い手側にとってもメリットは大きい。冒頭でも触れたとおり、日本酒の新規製造免許は需給の均衡を維持することを目的として、およそ70年にわたり0件である(酒蔵の移転等は除く)。国家戦略特区等の規制緩和に向けた検討はされているものの、仮に規制が緩和されたとしても、酒造りに必要な希少な人材の確保から生産設備の導入、取引先の開拓、ブランディングの対応が必要である等、新規参入のハードルは非常に高い。こうした背景があるため、買い手側にとって既存の酒蔵を買収する最大のメリットは最も迅速かつ確実に清酒業界に参入することが挙げられる。一方でデメリットとしては、全くの第三者が経営権を執ることになるので、従業員や既存の取引先といったステークホルダーから反発が生じる可能性がある。特に清酒造りにおいてキーマンとなる人材が辞めてしまうと、代わりの人材を探すことは非常に困難であるため、買収後の経営が立ち行かなくなる。そのため、売り手側、買い手側の双方から丁寧な説明が求められる。 図表6 酒蔵のM&A実施における売り手と買い手それぞれのメリット、デメリット (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (2) 酒蔵の買収事例 上記の通り、酒蔵を買収することにより売り手、買い手の双方にとって多大なメリットが存在するため、近年は酒蔵業界でもM&Aが活発化している。本節では、酒蔵のM&A事例を取り上げ、その背景や狙い、買い手側の戦略について確認する。 (a) 地縁のある総合食品メーカーによる酒蔵の買収 2024年4月に醤油蔵を原点とする総合食品メーカーの株式会社久原本家グループ本社は300年以上の歴史を積み重ねてきた福岡県の蔵元である株式会社伊豆本店の株式を取得し、グループ会社の一社に迎え入れた。公表資料によると、久原本家グループの社主の母方の実家が伊豆本店と元々縁があり、業務上でも純米大吟醸の製造委託を行う等の関係性を構築していた。また、伊豆本店から経営相談を受ける中で、将来の発展的な事業展開が実現できるという点を双方が共有できたため、本件取引に至ったという。今後は久原本家グループの商品開発力を活用し、新規商品開発を目指していく方針である。また、久原本家グループが保有する販売チャネルでの商品展開の可能性も考えられる。 (b) 通信販売事業者による酒蔵のブランド価値向上 2023年6月に通信販売事業を手掛ける株式会社ベルーナは170年以上の歴史を積み重ねてきた岐阜県の蔵元である谷櫻酒造有限会社の株式を取得し、グループ会社の一社に迎え入れた。株式会社東京商工リサーチが実施した2023年度「国内日本酒通販市場シェアに関する調査」にて、ベルーナは通販国内売上高8年連続1位を獲得している。日本酒事業の成長にあたり、谷櫻酒造の子会社化は自社ブランドでの日本酒開発や、グルメ日本酒事業におけるブランド価値向上等、事業戦略の可能性拡大の観点から企業価値を高めるに資すると判断し、買収に至ったとされる。ベルーナの販売チャネルで谷櫻酒造の製品を販売することにより、これまで以上の販売数量の増加が見込まれる。 おわりに 「令和の米騒動」は、酒蔵の今後の経営を左右する重大な環境変化ではあるものの、一つの契機に過ぎない。というのも、もともと農家の高齢化や新規就農者の減少といった問題から、酒米の安定供給が脅かされるリスクは潜在的に存在していたことは充分に予見し得るものであった。一方で、酒蔵経営者が酒米の自社生産に二の足を踏むのは仕方がない側面もあった。過去、食糧管理法が施行されていた時代には生産した米を自由に使用することが出来なかった。同法が廃止された1995年には清酒の消費量が減少基調であったことから、酒米の自社生産を積極的に推し進めるのが難しかった側面がある。だからといって酒米の調達環境は改善することはなく、むしろ、異常気象による作物の生育不順や人件費や農業資材等の生産コストの高騰により、将来の不確実性がより高まっている。 こうした環境の変化を受け、清酒業界は単に現状に甘んじるのではなく、ユネスコの文化遺産登録や「パ酒ポート」、「ミス日本酒」といった新たな試みを通じて、積極的に日本酒の魅力発信や業界活性化に取り組んでいる。日本酒は日本を代表する文化の一つであるため、今後は酒米の入手経路の抜本的な改革や、自社ブランドの売却等、多角的な手段を講じながら、ぜひ後世にその価値を継承していってほしい。 野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部では、こうした酒蔵の経営課題の解決に向けた伴走支援や事業承継、資本・業務提携といった分野において、専門的なサポートを提供できる体制を整えている。業界全体の今後の発展に向けて、ぜひ私たちもお力添えができれば大変嬉しく思う。 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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07/20 15:00
グローバルサウスの台頭とフード&アグリビジネスの可能性(後編)- 日本企業とGS諸国の「共創」戦略:持続可能な未来を築く食料×脱炭素イノベーション-
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネス・コンサルティング部 コンサルタント 中村 圭吾(2025年7月15日) はじめに 前編[1]では、欧米をはじめとする先進国とは異なる第三の勢力として台頭するグローバルサウス(以下、GSと称する)の背景と、フード&アグリ分野においてGS諸国が共通して直面する課題を整理した上で、それら課題の解決に挑むGS発のスタートアップを紹介した。 本編では、GS諸国間の文化的・社会的多様性から生まれる課題やニーズを踏まえつつ、GS諸国を対等なパートナーとして捉え、二国間が共同で新たな価値を創出していく「共創」を推進するための日本政府や政府系機関の政策や支援スキームと、それらのスキームを活用しながらグローバルな食料安全保障や環境問題の解決に取り組む日本企業の具体的な事例に焦点を当てる。その上で、「共創」の意義と今後の展望について考察を深めていく。 1. グローバルサウス諸国との「共創」を通じた社会課題解決 深刻化する地球規模の課題や紛争への対応は、一国だけでなくGS諸国との協力が不可欠である。GS諸国は、歴史・文化や経済状況が多様で、都市化や高齢化、インフラ不足、食料や医療の脆弱性、気候変動問題等それぞれ異なる課題を抱えている。一方、日本もまた人口減少や労働力不足、資源の輸入依存等の課題が山積しており、GS諸国の成長と活力を活かすことが今後の日本国内の課題解決や成長に直結する。 日本政府は、2024年6月に「グローバルサウス諸国との新たな連携強化に向けた方針」を策定し、①日本の国益増進、②GS諸国との対等なパートナー関係の構築、③国際社会の協調促進を掲げており、具体的な方策として、多様なGS諸国の実情に応じた柔軟なアプローチ支援を明示している[2]。また、2024年12月発表の「インフラシステム海外展開戦略2030」でも、①GS諸国との「共創」による国際競争力強化、②経済安全保障への対応と国益の確保、③GX・DX等の社会変革への機会活用を柱として、GS諸国との「共創」を推進している[3]。 2. 日本政府、政府系機関、地方自治体、民間団体の支援メニュー 日本政府は、政府横断的な体制のもと、日本企業のGS諸国へのビジネス展開を多面的に支援している。2022年に設置された内閣官房・海外ビジネス投資支援室では、各省庁・関係機関と連携して海外ビジネスの準備段階から拡大段階に至るまでの4つのフェーズに対応した支援策を提供しており、日本企業が海外展開に必要な情報や制度を効果的に活用できる体制を整備している(図表2-1)。 図表2-1 海外ビジネス投資支援メニュー一覧 (出所)内閣官房海外ビジネス投資支援室の公開資料より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部一部加工 フード&アグリ分野の日本企業のGS諸国へのビジネス展開を支援する主要なスキームとしては、農林水産省や国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)をはじめとした各省庁・関係機関より、多様な制度が提供されている。ここでは特に支援件数が多い、経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金(通称、グローバルサウス補助金)」及び国際協力機構(JICA)の「中小企業・SDGsビジネス支援事業(JICA Biz)」について紹介する。 グローバルサウス補助金は、GS諸国が抱える社会課題を、日本企業がビジネスを通じて解決することを支援するための制度である。令和5・6年度補正予算において合計約2,900億円が計上されており、小規模案件を対象とする「FS事業/小規模実証[4]」と、大規模インフラ整備等を含む「大規模実証[5]」の2区分で幅広く支援を実施している[6](図表2-2)。「グローバルサウス補助金」の2024年度の採択状況は、「FS事業/小規模実証」では、計3回の公募で490件の応募に対し226件が採択され、採択率は46%であった。一方、「大規模実証」では、対ASEAN諸国対象事業として年間38件の応募に対し20件が採択され、採択率は52%であった。 これに対し、JICA Bizは、開発途上国の課題解決と日本企業の海外ビジネス展開を同時に支援することを目的としており、企業側の費用負担や調整コストが少なく、JICA選定のコンサルティング会社によるハンズオン支援および対象国・地域のネットワーク活用を特徴としている(図表2-2)。JICA Bizは、企業規模やビジネスモデルの構築段階に応じて「ニーズ確認調査」と「ビジネス化実証事業」のスキームに区分され、「ニーズ確認調査」は1件あたり上限1,500万円、「ビジネス化実証事業」は1件あたり上限4,000万円が支給される。2024年度の採択件数は、両スキーム合わせて計57件で、うち約95%が中小・中堅企業向けの支援となっていた。 グローバルサウス補助金とJICA BizはそれぞれGS諸国とのビジネス連携や「共創」を促進する重要な支援ツールである一方で、支援額や対象企業、負担率、その他の支援内容に相違があるため、応募企業は自社の事業規模、戦略、資金状況を踏まえ、両スキームのメリット・特徴を考慮した最適な支援制度を選択することが重要である。 図表2-2 グローバルサウス補助金とJICA Bizの比較 (出所)経済産業省とJICAHPの公開資料より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 3. GS諸国とのフード&アグリ分野での「共創」トレンド 日本政府は、GS諸国との「共創」において、フード&アグリ分野を重点政策の一つと位置づけ、「グローバルサウス諸国との連携強化」や「インフラシステム海外展開戦略2030」でも、食料サプライチェーンの強化や農業由来の温室効果ガス(GHG)削減、持続可能な農業と農業生産者の所得向上を目指す方針を示している。また、農林水産省は、新たに、2025年5月に「農林水産分野GHG排出削減技術海外展開パッケージ(MIDORI∞INFINITY)」を発表し[7]、日本発の技術を整理・明確化した上で、これらの技術を持つ日本企業や研究機関のグローバル展開を推進している。 フード&アグリ分野の日本企業は、これまで紹介した政府機関の各種公的支援スキームを活用しつつ、GS諸国への進出を積極的に進めており、同分野における「グローバルサウス補助金」や「JICA Biz」の2024年度の採択実績は計76件(「グローバルサウス補助金」59件、「JICA Biz」17件)に上る。本章では、これらのデータから見えてくる同分野の日本企業のGS諸国での進出地域や活用アプローチの傾向を整理した。 (1)フード&アグリ分野における日本企業によるGS諸国の進出地域 東南アジアは経済成長が著しく、日本企業の事業展開が活発であることから、「グローバルサウス補助金」34件、「JICA Biz」8件と両スキームで最多の案件が採択されている(図表3-1)。アフリカも成長ポテンシャルが高く、両スキームで一定数の案件が進んでいる。南アジアや南米は大規模事業を中心に「グローバルサウス補助金」の採択が多い一方、「JICA Biz」の採択は少数である。両スキームは地域の経済状況や企業活動に応じて柔軟に活用されており、GS諸国への進出において補完的な役割を果たしている。 図表3-1 「グローバルサウス補助金」と「JICA Biz」のフード&アグリ分野におけるエリア別採択件数(2024年度) (出所)経済産業省とJICAHPの公開資料より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (2)日本発イノベーションの主要トレンド フード&アグリ分野における日本企業のGS諸国への主要なアプローチを以下5つの【A】から【E】のカテゴリーに整理し、さらに、前編にて取り上げたGS諸国の共通する5つの課題(【1】食料安全保障の脆弱性、【2】GHG排出と気候変動への対策不足、【3】労働力と人的資源の制約、【4】技術導入のための資金力不足、【5】市場アクセスの困難さ)に対する貢献度を示した(図表3-2)。 図表3-2 GS諸国への主要なアプローチとGS諸国の社会課題に対する貢献 (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 【A】 スマート/デジタル技術導入 IoT、AI、ドローン、ナノバブル発生装置等の先端技術を農林水産業分野に導入し、作物の生育状況や家畜の健康状態をリアルタイムで詳細に観測・解析することで、生産性や品質の安定化を図っている。本アプローチは、例えば、ウクライナでのナノバブル技術を用いた農業再生支援や、ベトナムでの水田用自動抑草ロボット「アイガモロボ」の導入、インドネシアのAI解析による水産資源管理等、各国の多様な農業生産の環境にて適用されている。 【B】 持続可能な農業と気候変動への適応強化 地球温暖化対策として節水農法や農業廃棄物を利用したバイオ炭の生産等、低炭素農業への技術導入も活発である。また、これに関連して、導入した技術によるGHG排出削減を評価し、その削減量の取引を可能とする二国間クレジット制度(JCM)[8]も含めたカーボンクレジットに関する取り組みも注目されている。実際に、フィリピンではJCMを活用した節水稲作、タイではバイオ炭活用による水田のGHG排出削減、ブラジルでは下水汚泥を活用したバイオ炭活用に関する調査がそれぞれ行われている。これらの取り組みは、気候変動への対応策や適応策となるだけでなく、グリーントランスフォーメーション[9](GX)推進の一環として、持続可能な農業の推進にも貢献する。 【C】 バリューチェーンの構築・強化 農産物や畜産物の品質向上と加工・流通の効率化に対する取り組みも重要である。例えば、タンザニアにて、コメ及び穀物の品質向上・収穫後ロス低減の為の高精度水分計の導入調査が進められている。また、ベトナムでの農業機械導入による水田間作[10]の促進も挙げられる。バリューチェーンの構築・強化関連では、ベトナムの高品質・低炭素米、ブラジルの大豆・トウモロコシやタイでのバナナに関する事業も実施されている。これらの活用は、農業生産者の所得向上や地域経済の活性化、そして日本企業の現地との連携促進による新たな市場の創出にも貢献することが期待されている。 【D】 未利用資源・食品廃棄物の資源化促進 未利用資源や食品廃棄物をアップサイクル[11]し、バイオ燃料や肥料、更には工業用の新素材に再生する取り組みも注目されている。具体的には、マレーシアにおける食品廃棄物の低温炭化装置の開発やパーム農業残渣のバイオマスへの利用、モザンビークでのジャトロファ[12]を活用したバイオ燃料のサプライチェーン構築、ネパールでの有機廃棄物のコンポスト[13]への再資源化に関する取り組み等が実施されている。農業由来の廃棄物を単なるゴミとして捉えるのではなく、価値ある資源として循環利用することは、環境負荷の軽減、地域経済の活性化、そして循環型の持続可能な農業システムの構築に貢献している。 【E】 バイオテクノロジーや新技術の活用 バイオテクノロジーを活用した農業生産性の向上や新資材や代替製品の開発が進んでいる。例えば、ベトナムでの植物成長促進剤(バイオスティミュラント[14])を使用した環境ストレス耐性のあるコメ生産に関する調査が行われている。また、タイでは、非可食糖を利用した人工タンパク質粉末の製造、微細藻類を用いた産業排ガスのCO2固定化技術の開発も実施されている。また、これらの新技術は、農業生産を支援するだけでなく、食料の多様化や環境負荷の軽減にも貢献し、イノベーションへのニーズが大きく、先進国に比べて法律や制度も十分に整備されていないGS諸国でこそ実用化が早く進む可能性が高く、新産業への発展としても期待されている。 4. GS諸国が抱えるフード&アグリ分野の課題解決に挑戦するスタートアップの事例紹介 前章にて、GS諸国が抱えるフード&アグリ分野に関連した課題解決に挑戦する日本発の技術やアプローチのトレンドを整理した。本章では、実際に自社が持つ技術・製品を通じて、GS諸国との「共創」に取り組む日本発のスタートアップを3社紹介する。 (1)高機能バイオ炭で拓く持続可能な農業と地球・宇宙の未来 株式会社TOWINGは、「サステナブルな次世代農業を起点とする超循環社会を実現する」をミッションに、2020年2月創業の名古屋大学発のグリーン&アグリテックスタートアップである。地域の未利用バイオマスの炭化物に独自に選別・培養した土壌由来の微生物群を付与する技術を用い、高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)[15]」を開発・製造・販売およびそれに関連する技術サービスの提供を行っている。宙炭は農地の土壌肥沃度向上や作物の品質改善、収穫量増加に貢献するほか、GHG排出削減や資源循環の促進にも寄与する。同社は、これまで累計約29.5億円の資金調達を実現し、高機能バイオ炭に関する更なる研究開発および国内製造拠点の拡充、そして海外事業拡大に向けた体制構築を進めている。 同社は、グローバルでも存在感を強めている。2025年4月には、International Biochar Initiative(IBI)[16]と共同で、日本国内で初となる国際的なバイオ炭カンファレンスを主催し、グローバルで盛り上がりを見せる「農業×バイオ炭市場」を主導している。また、GS諸国における事業展開では、「グローバルサウス補助金」を活用し、タイにて微生物培養プラントの現地実装及び大型化プロジェクトを開始している。また、ブラジルではJICAや農林水産省と連携しながら、劣化牧草地の再生に向けた高機能バイオ炭の適用可能性や実証栽培の検証を行い、現地の研究機関との連携強化を図っている。これら国内外の活動を通じて、同社は、現在グリーン&アグリ領域のプロフェッショナルカンパニーとして、グローバルな食料問題の解決に挑戦している。 図表4-1 タイ・カセサート大学との研究協力の調印式 (出所)株式会社Towing提供 (2)衛星×AIで環境負荷削減の推進と農家の所得向上に挑戦 サグリ株式会社は、2018年に設立された岐阜大学発のスタートアップとして兵庫県丹波市に本拠を置き、衛星データと人工知能(AI)を活用して農地解析と営農支援を行っている。創業者の坪井氏は、2016年にルワンダで親の手伝いのために農業に従事し学校に行けない子供たちの現状に衝撃を受け、宇宙分野の知識を活かして非効率な農業生産の課題解決を 目指し同社を設立した。現在、同社は、国内外で衛星データや土地区画データをもとに独自技術で農地の見える化を実現し、耕作放棄地の検出、作物分類の推定、農地と人をつなぐマッチング、といった4つのサービスを軸とした農地の効率的活用や営農支援を行っている。 特に持続可能な農業と食料生産体制の構築、そして脱炭素社会の実現に向けて、海外でも、これまでアジアやアフリカ等、14カ国で事業を展開し、計10万を超える農家にサービスを提供してきた。AIにより収集・解析した衛星データをもとに、化学肥料から有機肥料への転換による亜酸化窒素の排出削減や、間断灌漑技術[17](AWD)を用いた水田からのメタン排出削減を通じたカーボンクレジット創出事業にも着手している。2024年11月からは、カンボジア・プルサット州にてAWDの実証実験を開始し、農家の所得向上と持続可能な農業の実現を目指している。さらに2024年も、VCやCVC、事業会社等から約10億円を調達し、これを背景に海外展開を加速させており、GS諸国での事業強化を進めている。「グローバルサウス補助金」や「JICA Biz」も活用し、中南米地域にて日系移民社会での営農最適化、肥料コストの削減、そしてカーボンクレジット創出による所得向上にも取り組んでおり、日本発ベンチャー企業として世界に飛び出し、農業の環境負荷低減や持続的社会の実現に向けて取り組んでいる。 図表4-2 現地の「共創」パートナー達と坪井代表 (出所)サグリ株式会社提供 (3)現地の植生を活かしたバイオ燃料開発 日本植物燃料株式会社は、2000年に設立され、アフリカ・モザンビークにて電子農協[18]基盤「Agroponto」の開発・運営を手掛け、小規模農家の組織化と農家の市場アクセス改善、生計向上を図ってきた。さらに同社は、農作物取引の電子化により公正で記録可能な取引プラットフォームを構築し、NFC[19]カードを用いた電子バウチャー事業で物資配布や購入補助金管理の効率化を図り、地域の農業基盤強化に貢献してきた。 同社は、20年以上に渡りモザンビークにて、ジャトロファ[20]を活用したバイオ燃料の研究開発と生産にも取り組んでおり、現地の農業発展と環境保全を両立させる持続可能なバイオ燃料事業を推進している。ジャトロファは乾燥や過酷な環境に強い非可食作物であり、食料生産と競合せずに栽培可能であることから、地域の荒地緑化やフェンス植樹、剪定枝や搾油残渣のバイオ炭活用による土壌改良等、多角的な用途・機能がある。研究を重ね、在来種と比べて約50倍の収量を誇るジャトロファ品種の開発に成功している。 現在、同社は、「グローバルサウス補助金」も活用しながら、モザンビーク北部のナカラ港からマラウイ、ザンビアへと繋がるナカラ回廊沿いにて、高収量品種のジャトロファを栽培し、バイオ燃料として供給している。それにより海事海運産業の脱炭素化、農家の所得向上、そしてアフリカ地域の社会経済基盤の強化を推進している。年間40万トンのバイオ燃料生産を目指しており、この生産量は、日本国内で1年間に回収される廃食油の総量に匹敵する。さらに、同社は、搾油後の残渣等のバイオマスを活用してカーボンクレジットの創出も目指しており、これにより年間最大800万トンのCO₂排出削減・除去が可能となる。 図表4-3 現地の社員と対話する合田代表 (出所)日本植物燃料株式会社提供 5. 日本企業がGS諸国にて持続的なフード&アグリ分野の事業展開を実現するための考察 最後に、これまでの内容を踏まえて、筆者が考える、日本企業がGS諸国に進出し、持続可能かつ効果的な事業展開を実現するための要諦として、以下の3点を提言したい。 (1) GS諸国を対等なパートナーとして捉えた「共創」に基づく事業モデルの構築 現地の文化や慣習、ニーズを深く理解し、信頼関係を築ける適切なパートナーの発掘・連携が不可欠である。GS諸国は文化・社会・経済環境が多様であり、スケジュール感や根回しといったビジネス上の慣習やSNSやメール等のコミュニケーション手段の違いから、日本流の考え方や仕事の進め方がそのまま通用しない場合が多い。特に、日本国内でよく見られる「阿吽の呼吸」による暗黙の了解や非言語的な意思疎通は、文化や言語の異なるGS諸国では通用しづらいため、一層明確かつ丁寧なコミュニケーションが求められる。したがって、一方的に日本のやり方を押し付けるのではなく、GS諸国を対等なパートナーとして捉え、その歴史や文化、慣習、価値観を十分に理解し、相手の視点やニーズに立脚した現地化された事業モデルの構築が求められる。 特に、フード&アグリ分野においては、現地パートナーは地域の文化・慣習、農業技術、気候条件、市場環境を熟知しているだけではなく、行政機関や農家団体、流通業者等との強いネットワークを有しており、これらを活用することで市場参入や事業拡大が迅速に進められる。前章で紹介した各企業も、現地の研究機関や政府機関と連携し、社会課題とニーズに適合した技術実証と事業展開を進めることで、地域に根ざした課題解決に挑戦している。こうした双方向の対話を通じて、現地パートナーと信頼関係を築き、ともに課題解決や価値創出に取り組む「共創」による事業展開こそが、持続可能で実効性の高い成果を生み出す鍵である。 (2) GS諸国の「サンドボックス」としての活用とリバースイノベーションの展開 GS諸国ではイノベーションへのニーズが高く、先進国に比べて法律や制度が十分に整備されていないため、規制の制約をあまり受けることなく先端技術の実用化が比較的早期に進みやすい。また、現地の労働コストや運営コストが先進国と比較して相対的に低い点も大きな特徴である。フード&アグリ分野の先端技術は、研究開発から商業化に至るまでに規制当局や利害関係者との調整、高額な資金調達が必要となることから、一般的には約10年以上、早くとも5年程度の期間がかかる。このため、日本企業はGS諸国を「サンドボックス」[21]として活用し、先端技術の実証や大規模なフィールドテストを実施することで、日本国内や他の先進国と比較して、比較的少ない資金かつ短期間での商業化や事業拡大を実現できる。さらに、多様な現地の課題やニーズに適合させて実用化した社会課題解決型の技術・製品・サービスは、他のGS諸国への横展開にとどまらず、「リバースイノベーション」として、規制が厳しい日本を含む先進国にも導入可能であり、新たなイノベーションの種を生み出すことができる。前章で紹介したサグリ社も、衛星データやAI技術を活用してGS諸国の農業効率化と持続可能性の向上に取り組むと同時に、そこで得られたノウハウや知見を日本国内の持続可能な農業モデルの創出に活かしている。このように、GS諸国は技術実証の場としてだけでなく、グローバルなイノベーション創出の重要な拠点であり、日本企業にとっては競争力強化と事業成長を加速させる戦略的な舞台であると言える。 (3) 公的支援制度の効果的な活用による事業推進 「グローバルサウス補助金」や「JICA Biz」等の公的支援制度は、支援金額や対象企業、負担率、コンサルティング支援の有無等、支援内容に違いがあるため、応募企業は自社の事業規模や戦略、資金状況を踏まえ、これらを含む多様な公的支援制度を適宜活用・乗り換えながら、最適な制度を選択することが重要である。また、公的支援の利点は金銭面にとどまらず、現地の日本国大使館やJETRO事務所、JICA事務所が有する人的なネットワークも活用できる点も強調したい。これらの機関は、GS諸国のフード&アグリ分野に関連する政府機関や民間企業と関係を築いており、信頼できる現地パートナーや事業推進に必要なキーパーソンの紹介を通じて、現地での事業の認知度向上や規制対応、ネットワーク形成を後押しすることが可能である。さらに、フード&アグリ分野では、農林水産省、経済産業省、JETRO、JICAをはじめとする公的機関が、毎年企業派遣ミッションを通じて、現地パートナー企業とのマッチングの機会を提供している。前章で紹介した各企業もまた、GS諸国で出会った人や課題に対する原体験をきっかけに、GS諸国との「共創」の事業に取り組んでいる。GS諸国への進出を目指す日本企業は、このような機会を積極的に活用しつつ、公的支援制度による資金面でのメリットを享受するとともに、各機関が有する豊富な人的資源を効果的に引き出すことが、事業展開を円滑に進めるうえで極めて重要な成功要因となる。 おわりに 日本の食料自給率は、カロリーベースで40%を下回っており、また労働者人口も年々減少しており、食料安全保障のみならず、日本という国を存続させるためにはGS諸国を含めた他国との共存が不可欠となっている。そのような中、日本がGS諸国から「選ばれる」ためには、一方的に日本のやり方を押し付けるのではなく、相手国の内なる声に耳を傾け、日本発の技術をGS諸国に展開していくことが重要である。今回事例として紹介した3社に加えて、フード&アグリ分野で先進的にGS諸国と「共創」に取り組む日本企業は多く存在する。また、日本企業がGS諸国で持続的に事業を展開していくためには、数年単位の事業への投資コミットメントが必要となるため、あらゆる角度から公的支援制度を効果的に活用しながら、継続して事業に取り組むことが必要と考える。 [1] 「グローバルサウスの台頭とフード&アグリビジネスの可能性(前編) - グローバルサウス諸国のフード&アグリ分野の課題 -」野村證券HP (https://www.nomuraholdings.com/jp/sustainability/sustainable/fabc/data/20250618_2.pdf) [2] 「グローバルサウス諸国との新たな連携強化に向けた方針 概要」内閣官房HP (https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kaigai_business/pdf/gsc_summary.pdf) [3] 「インフラシステム海外展開戦略2030」首相官邸HP (https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keikyou/dai58/siryou6.pdf) [4] 「実証」は設備や装置の導入を伴うもの、「FS(フィージビリティ・スタディ)」は伴わないものという区分けになっている。 [5] 「大規模実証」は、さらに対東南アジア諸国連合(ASEAN)[5]加盟国と対非ASEANに分けられる。 [6]また、令和6年度補正予算から、ウクライナ現地及び周辺国の破壊されたインフラ再建やエネルギー供給等による復興を支援するために、「ウクライナ復興支援・中東欧諸国等連携強化」スキームも追加されている。その他、委託事業として、対象国・地域の長期的な発展を計画的に進めるための包括的な計画「マスタープラン」の策定事業も実施している。 [7] 「農林水産分野GHG排出削減技術海外展開パッケージ 概要」農林水産省HP (https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kankyo/attach/pdf/250530-9.pdf) [8] 途上国等への優れた脱炭素技術等の普及や対策実施を通じ、実現したGHG排出削減・吸収への我が国の貢献を定量的に評価するとともに、我が国の国別削減目標(NDC)の達成に活用する制度。 [9] 化石燃料中心の社会から脱炭素社会に向けて再生可能なクリーンエネルギーに転換していく取り組みのこと。 [10] 水田で稲の収穫後に他の作物を栽培する農法。 [11] 廃棄物等を単にリサイクルするのではなく、元の素材や製品よりも高い価値や品質のある新しい製品や材料に変換・再利用すること。 [12] 熱帯地域を中心に自生・栽培される植物で、種子に含まれる油脂からバイオディーゼル燃料を生産できることから、再生可能エネルギー資源として注目されている。 [13] 生ゴミや農業廃棄物、落ち葉等の有機廃棄物を微生物の働きで分解・発酵させて、土壌の肥沃度を高める肥料(堆肥)に変える自然循環の技術。 [14] 植物の成長を促進し、ストレス耐性や栄養吸収効率を高めるために使用される天然由来の物質や微生物製剤。 [15]「 宙炭」は、TOWINGの独自前処理技術と微生物培養技術を農研機構の技術と融合して開発した土壌改良資材である。土壌の健康を改善し、化学肥料削減や有機転換を促進するとともに、作物の品質・収量向上に寄与する。一般的なアルカリ性バイオ炭とは異なり中性に近いため、単独使用でも作物が良好に育つ特徴を持つ。さらに、地域の未利用バイオマスのアップサイクルや農地での炭素固定を通じて温室効果ガス削減を可能とし、環境再生型(リジェネラティブ)農業の推進に貢献する革新的なソリューションである。 [16] バイオ炭の研究・開発・普及を推進するアメリカの非営利団体。 [17] 水田に水を張る湛水(たんすい)と、水を抜く落水を繰り返す農法で、栽培期間中に土壌を適度に乾燥させることで、水の使用量を削減するとともに、田んぼからのメタン排出を抑制する農業技術。 [18] 「電子化された農業協同組合」のことであり、農業協同組合(農協)の業務やサービスをデジタル技術やICT(情報通信技術)を活用して効率化・高度化した仕組みや組織を指す。 [19] 近距離無線通信技術の一つで、数センチ程度の近距離でデータの送受信を行うことができる規格。スマートフォンやICカード等の間で非接触にて通信が可能で、決済や認証、情報交換等、幅広い用途に使われている。 [20] トウダイグサ科に属する耐乾性の高い非食用の植物で、主に熱帯・亜熱帯地域で栽培されている。種子には高い油分を含み、持続可能なバイオ燃料の原料として注目されている。 [21] 新規事業や革新的なサービス・技術を、既存の規制や制約を一定期間・限定的に緩和した環境下で試験的に実施できる制度や仕組み。 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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07/19 15:00
生物多様性と今後の企業の在り方(後編)
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネス・コンサルティング部 シニアコンサルタント 遠藤 暁(2025年7月15日) 前編では、ハーマン・デイリーのピラミッドを用いて社会全体における自然資本の位置づけを確認し、生物多様性に関する歴史を概観した後で、一つの分かりやすい例として、森林・林業・木材産業と生物多様性の関連を取り上げた。後編では、企業側の視点、つまり企業の社会的責任の変遷からスタートし、国際的な枠組みの例としてエクエーター原則や世界銀行EHS(環境・衛生・安全)ガイドラインなどを概説し、非財務情報開示の関心の高まりに触れて、今後の企業経営における生物多様性の重要性を述べる。 1.企業の社会的責任(CSR)と生物多様性 1) 生物多様性を企業の社会的責任とした提言の系譜 戦後、日本経済の再建・復興を目的に設立された日本経済団体連合会(以下、「経団連」という)は、1973年に企業の社会的責任について、「福祉社会を支える経済とわれわれの責任」という提言を行っている。企業は経済活動だけでなく、社会全体に責任を負うという考え方を示したもので、以後のCSR活動の第一歩となった。その後、1991年に「経団連地球環境憲章」を発表し、前編で述べたハーマン・デイリーのピラミッドにおける自然資本の位置づけにつながる基本理念がうたわれている。 経団連地球環境憲章基本理念(一部抜粋) 「企業の存在は、それ自体が地域社会はもちろん、地球環境そのものと深く絡み合っている。その活動は、人間性の尊厳を維持し、全地球的規模で環境保全が達成される未来社会を実現することにつながるものでなければならない。」 さらに、2003年に「日本経団連自然保護宣言」が発表され、ここで生物多様性の保全ということが明確に示された。考え方としては、20年以上前に示されており、ここ数年で出てきた言葉ではないことが分かる。 日本経団連自然保護宣言(一部抜粋) 「私たちは、私たちを取り巻く大気圏や生物圏、あるいは水の循環圏などについて、一層理解を深めるとともに、人類にとって多様な生物が共存することが、豊かな生活環境をもたらすものであることを改めて認識し、生物多様性の保全を重視した自然保護活動を推進する必要がある。」 企業の社会的責任は、1990年代にはメセナ(文化貢献活動)と結び付けられてきたが、2000年代に入り、ESG(環境・社会・ガバナンス)という考え方が台頭してくる。その起源は実際には古く、1920年代に宗教上の理由からタバコ、アルコール、ギャンブルなどの業界への投資を禁止したことが始まりと言われている。その後、国際金融公社(IFC)が2004年に発表した「Who Cares Win」という報告書の中で用いられたことで広く知られるようになり、2006年の国連の責任投資原則(PRI)で一般化した。図表1の通り、責任投資を行う際に考慮すべきESG課題の環境分野に生物多様性が含まれている。 図表1 責任投資を行う際に考慮対象となるESG課題 (出所)国際連合「責任投資の入門ガイド」 ESG投資は、投資家が投資先の財務情報以外にESGの取り組みを評価して選別し、さらにその継続を促していくもので、ESGに取り組む企業は、取り組まない企業に比べて長期的なリターンを大きいとする評価が多くされてきた。生物多様性あるいは自然資本と直接関係するのは、上記ESG課題のうち環境の部分であるが、それを実践していく中では、多様性の確保や社会課題の解決意識の醸成、ガバナンスの強化などのESG課題全てが企業価値を押し上げていると言える。 2)プロジェクトファイナンスにおける生物多様性の保全の考え方 次に、プロジェクトファイナンスにおいて金融機関に課されるエクエーター原則を取り上げる。まず、プロジェクトファイナンスとは、発電や鉱物資源開発などの個々の「プロジェクト」に対して、その事業性に依拠してファイナンスを行う取引を指す。通常の事業法人向け融資取引と大きく異なる点は、一般的に第三者保証は求めず、プロジェクトが保有する資産以外の担保も求めない点である。大規模なプロジェクトファイナンスでは、複数の国際金融機関が協調して融資を行うケースが多く、その際にプロジェクトの事業性を財務的な観点から定量的に審査することに加えて、エクエーター原則に則った定性面の審査も行われる。 エクエーター原則では10の原則が定められており、その中の原則2「環境・社会アセスメントの実施」に、生物多様性の保護と保全が潜在的な問題の一つとして挙げられている。一例として、北海道の天然記念物であるオオワシやオジロワシの生息が確認されている地域における風力発電所建設プロジェクトを挙げると、風車へのバードストライク防止などの措置がされていない場合は、融資を行わないといった対応がされる。当然ながら、資材搬入用の道路建設などでも森林伐採への配慮が求められると同時に、先住民族であるアイヌ民族への配慮も必要となる。 また、プロジェクトファイナンスでは、世界銀行グループ環境・衛生・安全(EHS)ガイドラインに従うことが求められるケースが多い。特に、各国の輸出信用機関や政府系金融機関と協調融資を行う際は、EHSガイドラインを遵守することが必須である。EHSガイドラインは、環境、衛生、安全に関する技術文書であり、一般的事項とセクター別事項に分けられており、プロジェクトの内容によって、従うべき環境汚染基準などが定められている。このガイドラインの中では、生物多様性について明確には述べられていないが、大気汚染や水質汚染の基準値や対策手法、モニタリング手法などが記されており、間接的に生物多様性の保護を求めている。こういったガイドラインを工場の新設などにおいて参考にすることも、企業の社会的責任を果たす手段として考えられる。 3) SDGsにおける生物多様性保全活動 2015年に国連で採択されたSDGsは、かなり一般にも浸透してきた。17の原則のうち、14「海の豊かさを守ろう」と15「陸の豊かさも守ろう」の二つが生物多様性に直接関係しており、各企業においても、例えば海洋プラスチック問題解決のために脱プラスチックを進める、あるいは、社有林における生物種の調査を行うなどの動きが見られ、CSR報告書で開示する例も増えてきている。幼稚園や小学校でもSDGsに関する教育が行われており、環境保護への高い意識が醸成されて大人になった新しい世代が10年後あるいは20年後に、商品開発や経営企画などの分野で、当たり前のように生物多様性に配慮したビジネス活動をしていくように変わっていくだろう。 企業の社会的責任という観点からの生物多様性は、PRI、ESGからSDGsに至り、個人レベルの意識まで浸透してきた。社会全体をより良い方向へ変えていこうという動きの根本には、自然資本という考え方が明示的、非明示的に含まれている。誰もが感じる便利なモノが売れる時代はとうに過ぎ去っており、生活を豊かにするモノ、あるいは社会にとって良いモノが売れる時代へ変化している中で、自然資本を重視し、生物多様性に配慮することは、ヒトとして当然であり、企業活動においても根本となっていくと考えられる。 2.生物多様性に配慮したこれからの企業の在り方 1) 自然資本をベースとした経済活動原則 本稿で繰り返し述べてきた通り、人々の生活やビジネスなどあらゆる活動は、自然資本の上に成り立っている。温室効果ガスの増加など人為的な影響による洪水や大雨などの自然災害が顕在化したことで、ようやく自然資本あるいは生物多様性の保全の重要さが理解されてきた。これからの企業の在り方としては、この重要性を改めて認識し、ビジネスを組み立てていく必要性がある。日本の企業は、2度の石油ショックなどから、省エネを中心としたノウハウや技術の蓄積が他国に比べて多い。また、プラスチック製品や金属缶をはじめとする原材料として用いられる素材のリサイクル比率も高い。こういった取り組みは国内では当たり前のように理解されているが、他国と比較すれば、大きなアピール材料になる。日本企業の強みとして真摯にアピールすることはもっと行ってよいのではないかと筆者は考える。 生物多様性に配慮することは、その他の社会的責任とも密接に関係する。自然資本という共通の土台があること、また異質なものへの共感や自然への畏敬と言った点で、人権擁護やLGBTQ+の理解などにもつながっていく。生物多様性を出発点として、自らを取り巻く全方位への感謝や他者の尊重という意識を醸成する効果がある。生物多様性への配慮から、自然に触れ合うことに興味、関心が高まり、森林浴やハイキングなどを通じて、メンタルヘルスやストレス軽減へ役立ち、退職者の減少や定着率の向上など、経営にとって具体的なプラスの影響も期待できるだろう。 2) 商品・サービスへの新たな付加価値となる生物多様性 また、消費行動の大きな変化にも対応が必要である。大量生産大量消費の時代では、顧客は企業が生産する製品・サービスを受け取るだけであったが、様々な製品・サービスが普及してくると、今度はその内容や充実ぶりに目が向くようになり、さらに最近では、パーソナライズされた製品やサービスが求められるようになってきている。そして、製品やサービスが多様化し飽和する中で、顧客が企業を選ぶ時代に入ってきている。このような環境下で、重要となってくるのが、どういった価値を提供するか、という点である。機能やデザインといった点は、既に差別化できる要素ではなくなりつつあり、社会的な価値、つまり自然資本の重要性や生物多様性への配慮といった、ある意味でより高次元な価値を提供していかなければならない。これまでは、企業から顧客への一方向へのコミュニケーションであったが、これが双方向になり、今後は逆に顧客から企業へのコミュニケーション、あるいは選択といった動きが出てきている。特に消費者に近い企業であればあるほど、顧客の期待値の一歩先を行く意識を高くもつ必要がある。例として、アパレル業界では、スニーカーにリサイクル素材を使ったことをうたった製品が増えてきている。また、ジーンズでも、綿花の生産国、紡績工場、織物工場、縫製工場をジーンズ一本一本のポケット裏に印刷し、トレーサビリティを明示しているケースがある。 SNSにより、企業と顧客のコミュニケーションコストが大きく低下している現在、戦略的にマーケティングを行っていく必要がある。変に取り繕った映像などは、すぐに見破られ、企業イメージを破壊することにつながりかねない。大々的なCMや作られたイメージではなく、企業の真の姿をありのまま伝えることが必要だろう。そして、ありのままの状態でしっかりと生物多様性あるいは社会的責任を果たしていることが重要である。 図表2 企業と顧客のコミュニケーションの変化 (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 3) 企業への共感を呼ぶ非財務情報の開示 社会的責任の取り組み状況のような、財務諸表に数値として現れにくい情報は非財務情報と言われ、企業価値を多角的に評価する上で、その重要性が注目されている。上場企業のみではなく、非上場、中小企業についても、広く非財務情報の開示を促していく動きが出てきている。メガバンクや地銀が中心となって2023年8月に設立された一般社団法人サステナビリティデータ標準機構は、中小企業向けの非財務情報の開示の羅針盤を提供する目的で、2024年2月に「非上場・中小企業向けサステナビリティ情報の活用ハンドブック」を発表している。この中では、企業が段階的に取り組みやすいように、入門、基本、応用の3区分で開示する情報の例示や、モデル事例集などを示している。非上場、中小企業であっても、例えば経済産業省の地域未来牽引企業に選定されている企業などは、非財務情報を開示することで、よりステークホルダー全体へのアピールとなり、従業員の満足度向上や取引拡大による地域経済のさらなる活性化など、企業内外へプラスの影響を及ぼすことが出来る。 3.おわりに 生物多様性については、言葉が先行し、何をどうしたらよいか、分かりにくいと考えている人が多い。しかし、前編で取り上げたハーマン・デイリーのピラミッドの通り、全ての企業活動は自然資本の上に立っている、と考えれば、自社のビジネスにおいて自然と接点をもつあらゆるプロセスにおいて、自然資本を尊重することが必要だということは自明だろう。出来るところから始めて、定期的にPDCAを行い、アップデートし、可能であれば外部の有識者やコンサルタントを入れることで透明性を確保することも検討すべきである。 本稿では、様々な基準や企業の社会的責任という観点と生物多様性の関係を考えてみた。既にいくつかは取り組んでいる企業も多いと思う。その中で、新しく生物多様性という観点を入れるだけで、ステークホルダー全体への企業イメージの向上、ひいては企業価値が向上していくと筆者は考える。森林・林業・木材産業は一つの分かりやすい例として前編で取り上げたが、企業が森林を保有し、利活用あるいは保護するという活動でも生物多様性の保全に大きく貢献できる。日本の森林は、その多くが収穫時期が来ているものの放置され、手入れがされていないといった問題点は何年も前から指摘されている。そのような放置林を利活用するアイディアを他産業の企業が持ち寄ることで、生物多様性の保護と林業の問題解決の両方を満たすことができる。 日本は、世界でも例を見ないほど、一つの国に様々な生物種が存在する貴重な国である。日本企業としては、自国の豊かな自然を活かせることは、一つの大きなアドバンテージになる。21世紀は間違いなく気候変動への対策が最重要となる中で、企業活動は温室効果ガス削減だけではなく、より高い視点から、生物多様性の保護を含めた持続的な事業活動へ変化していくことに対応する必要がある。 以上 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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