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06/04 08:21
【野村の朝解説】堅調な米雇用とAI半導体期待で、米株続伸(6/4)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 6月3日の米国株式市場では、主要3指数が続伸しました。朝方発表された4月米雇用動態調査(JOLTS)の求人件数が739.1万件と市場予想を上回り、底堅い労働需要が相場の下支えとなりました。また、半導体受託生産大手のTSMCのCEOが、米国の関税の影響は多少あるが、AI関連需要は引き続き強いとコメントしたことが好感され、情報技術セクターが相場を牽引しました。他方、米国の関税政策を巡っては、トランプ大統領と中国の習国家主席との電話会談が週内にも行われる見込みです。また、米政権が貿易相手国に、交渉に関する最善の提案を6月4日までに提出を求めていると伝わる中、その進展を見極めたいとの思惑が働いています。外国為替市場では、堅調な雇用が確認される中、4営業日ぶりに円が下落し、1ドル=144円前後で推移しています。 相場の注目点 4月下旬以降、トランプ関税への懸念の一服、減税期待の高まりを背景とした過度な米景気後退懸念の緩和、自社株買いなどが日米の株価を下支えしています。トランプ政権の支持率が低下する中、トランプ政権の関税政策は軟化したと見られていましたが、前週末には中国への批判を強め、また、6月3日に鉄鋼・アルミニウム製品の追加関税を2倍の50%に引き上げる大統領令に署名するなど、再び強硬な姿勢も見え始めています。トランプ政権の政策には引き続き要注目です。 本日は、米国で景気に先行性のあるセンチメント指標である5月ISMサービス業景気指数や、5月ADP全米雇用レポートが発表されます。景況感の下振れや、労働需要の減退を示唆する内容だった場合には、市場の利下げ観測が前倒しされる可能性があります。 (野村證券 投資情報部 坪川 一浩) (注)データは日本時間2025年6月4日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 ご投資にあたっての注意点
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06/03 16:32
【野村の夕解説】日銀総裁のハト派発言も、日経平均は上値重く 23円安(6/3)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 米ホワイトハウスが2日、トランプ大統領と中国の習近平国家主席が週内に電話会談を行う可能性があると発表したことで、米中対立激化への警戒が和らぎ、米国株市場は上昇しました。この流れを引き継ぎ、3日の日経平均株価は上昇して始まりました。植田日銀総裁が10時から行われた参院財政金融委員会の質疑応答で、関税を巡る経済の不確実性が高い状況が続くとの認識を示し、将来の利下げ余地を作るために利上げを行うことはないと発言しました。この発言を受けて、東京外国為替市場で1米ドル=143円台まで円安米ドル高が進んだことを背景に、日経平均株価は前日比258円高の37,729円まで上昇しました。しかしその後、植田総裁の、「5月下旬に開催された債券市場参加者会合において、2026年4月以降も日銀による国債買い入れ減額を継続していくことが適切との意見があった」との発言をうけ、円安進行が一服し、日経平均株価は急速に上げ幅を縮小する展開となりました。反発の材料に欠ける中、午後は前日終値から小幅高での推移となり、大引けは前日比23円安の37,446円と下落して取引を終了しました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注) データは15時45分頃。米ドル/円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。米ドル/円は11:30~12:30の間は表示していない。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 3日、米国でWSTS(世界半導体市場統計)が2025年春季半導体市場予測を発表します。AI向け半導体が好調な一方、自動車や産業向けが低迷するとした前回予測から変化がみられるか、注目されます。 (野村證券投資情報部 秋山 渉) ご投資にあたっての注意点
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06/03 09:30
【週間ランキング】日本株の値上がり/値下がり銘柄は?(5月第5週)
※画像はイメージです。 日本主要銘柄・株価騰落率ランキング(上位) 2025年5月第5週(2025年5月23日~5月30日) 2025年5月月間(2025年4月30日~5月30日) 2025年年間(2024年12月31日~2025年5月30日) (注)対象はTOPIX500、直近値は2025年5月30日。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 日本主要銘柄・株価騰落率ランキング(下位) 2025年5月第5週(2025年5月23日~5月30日) 2025年5月月間(2025年4月30日~5月30日) 2025年年間(2024年12月31日~2025年5月30日) (注)対象はTOPIX500、直近値は2025年5月30日。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 <参考>今週の日本株式市場パフォーマンス 主要指数 TOPIX: 東証33業種 (注)業種分類は東証33業種ベース。直近値は2025年5月30日時点。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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06/03 08:33
【野村の朝解説】NYダウは朝方の下げから一転して続伸(6/3)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 貿易協議の合意違反を巡って米国と中国が互いに非難を強め、米中間の緊張が改めて意識されるなか、週明け2日の米国株式市場でNYダウは下落して始まりました。一時416ドル安となる場面もみられましたが、その後は米中首脳会談開催期待を支えに終盤にかけて下げを取り戻す展開となりました。ハイテク株の一角に買いが入ったことも支えとなり、NYダウは続伸、S&P500とナスダック総合は反発しました。為替市場では米ドルが主要通貨に対して下落し、ドル円は142円台半ばから143円近辺での推移となりました。 相場の注目点 トランプ大統領が再び強硬姿勢を強めている可能性が警戒されますが、これまでの関税政策が見直しや延期、撤回など二転三転してきたことで、市場ではトランプ大統領の姿勢をタコトレード(トランプ大統領はいつも怖気づいてやめるという意味の造語)と揶揄する声もあり、VIX指数は下落しています。一方、トランプ関税が米国経済の下押しにつながるとの懸念は根強く、ドル離れは引き続き警戒されています。トランプ関税や各国との通商交渉に絡んだ報道に加え、米経済指標をにらんだ神経質な地合いが続きそうです。2日発表の5月ISM製造業景気指数は市場予想を下回り、企業景況感の弱さを示しましたが、現時点でハードデータには顕著な弱さは確認されていません。今週は6日(金)の5月雇用統計が注目されます。 本日のイベント 日本では3日(火)に植田日銀総裁の講演が予定されています。次回6月会合での利上げが想定しにくい中、国債買い入れに関する発言が焦点になると予想されます。今週は3日(火)に10年債、5日(木)に30年債の入札が予定され、超長期債の需給動向が引き続き関心を集めそうです。 (野村證券 投資情報部 引網 喬子) (注)データは日本時間2025年6月3日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 ご投資にあたっての注意点
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06/02 16:28
【野村の夕解説】米中貿易摩擦の懸念を背景に半導体関連株が下落(6/2)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 30日には米中摩擦の高まりが再び意識されたほか、米国が対中半導体規制を強化するとの見方も広がり、米国ハイテク株は下落しました。2日寄り付き前には、日本の2025年1-3月期法人企業統計が公表されました。全産業(金融・保険業を除く)のソフトウエアを含む設備投資は18兆7,975億円となったものの、市場への影響は限定的でした。 日経平均株価は前営業日比313円安の37,651円で寄り付き、値がさの半導体関連株の下落が重石となり、1日を通して軟調な動きが続きました。一時前営業日比644円安となり、その後は下げ渋ったものの、関税や半導体の輸出規制を巡り様子見ムードが広がり更なる上昇には至らず、引けは前営業日比494円安の37,470円と続落となりました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注) データは15時45分頃。米ドル/円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。米ドル/円は11:30~12:30の間は表示していない。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 今週の米国では月初の重要統計の発表が多数予定されていることから、政策判断への影響が注目されます。2日は米国で5月ISM製造業景気指数が公表され、景気の先行性を示すセンチメント指標として注目されます。このほか、パウエルFRB議長の講話が予定されています。日本では、3日に植田日銀総裁の講話が予定されており、FRB同様に様子見姿勢を示すと予想されます。日銀は国債保有額の削減ペースに関する中間評価を控えているため、この点に関して言及があれば市場の関心を集めそうです。 (野村證券投資情報部 清水 奎花) ご投資にあたっての注意点
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06/02 08:14
【野村の朝解説】トランプ関税に翻弄される展開継続(6/2)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 30日の米国株式市場はトランプ大統領の関税政策に翻弄される展開となりました。トランプ大統領が「中国は米国との合意に違反している」とSNSに投稿、鉄鋼・アルミニウム関税の50%への引き上げに言及したことが嫌気され、午前は総じて軟調に推移しました。午後に入りトランプ大統領が、中国の習近平国家主席と会談する見通しだと述べたことに反応し、主要3指数は本日の下落分をほぼ埋める形で引けました。米ドル円相場は1米ドル=144円を挟んでの推移となっています。 相場の注目点 6月17日(火)-18日(水)にFOMCを控えて、FRBは今週末に金融政策に関する公式発言を自粛するブラックアウト期間に入ります。これまでのFRB高官の発言を踏まえれば、トランプ政権の政策不確実性を背景に、当面は金融政策の据え置きがFRB内のコンセンサスとなっているようです。今週の米国では月初の重要統計の発表が多数予定されていることから、政策判断への影響が注目されます。景気に先行性のあるセンチメント指標としては、2日(月)の5月ISM製造業、4日(水)の同サービス業景気指数が注目されます。既報の5月のPMI(速報値)では、製造業、サービス業ともに改善しました。実際の経済活動を示したハードデータでは6日(金)の5月雇用統計が注目されます。労働需給緩和の動きがみられるようだと、市場の利下げ観測が前倒しされる可能性があります。 本日のイベント 本日(日本時間9:00)、ウォラーFRB理事が経済見通しについて講演する予定です。同氏はこれまでFRB内の議論に先行する傾向にあるうえ、足元で最もハト派(利下げに積極的)と見られるため、注目されます。 (野村證券 投資情報部 尾畑 秀一) (注)データは日本時間2025年6月2日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 ご投資にあたっての注意点
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06/01 12:00
【6月の投資戦略】テクノロジー分野を軸に、株価が過剰調整した企業の再評価に期待
(注)画像はイメージです。 関税政策の影響を受けにくいテクノロジー分野が引き続き注目 米国トランプ政権の厳しい関税政策は、一時的な猶予や一部撤回が行われ、各国・地域との交渉を中心とする期間に入りました。我々は、厳しい関税政策は持続可能性に乏しく、譲歩や着地点を探る動きが進むとみてきました。現在、各国との交渉の他にも、一部の主要製品に対する関税の検討が続いています。当面、株式市場に不透明さは残るものの、今後は、関税の影響を受けにくいテクノロジー分野を中心に、企業業績の拡大や株式市場の信頼感の回復が進むとみます。主要国・地域の景気後退の可能性は、大きく低下したとみられます。 中東歴訪でAI関連ビジネスに大きな機会 米国トランプ政権の関税政策は、各国・地域との交渉局面に入り、英国や中国との通商合意が成立しました。しかし、全てが合意に至ったわけではなく、事実上、全ての国・地域に対する協議は継続中です。第一次トランプ政権下の2019年の日本との貿易交渉を振り返っても、貿易赤字が十分削減可能な合意を様々な国・地域と90日間でまとめることは困難とみられます。1985年のプラザ合意のような、米ドル安を目指す国際協調の可能性も低いでしょう。他方、トランプ政権は中東歴訪で様々なディール(取り引き)を行いましたが、特にAI関連の大規模なテクノロジー投資は、関連企業に大きなビジネス機会をもたらすとみられます。 テクノロジー関連企業の業績は堅調 米国経済は底堅く、関税政策のインフレや景気への影響を見極めるための時間的な余裕があることから、FRBは当面、政策金利の据え置きを続けるとみられます。2025年1-3月期決算は、大手テクノロジー企業を中心に上振れて着地しています。先行きは、関税の影響やエネルギー価格下落の影響を受けやすいセクターは、厳しい見通しとなっています。関税の影響を受けにくいテクノロジーサービス関連企業の業績は、堅調に推移するとみられます。 中国からのデフレ輸出懸念 ユーロ圏経済は、ドイツで新政権の誕生による緊縮財政からの転換が図られつつありますが、米国の関税政策の影響は不確かです。ECBの利下げ局面は、しばらく続くとみます。中国は米国と通商合意に至りましたが、8月12日を期限とする24%の上乗せ関税回避に向けた交渉が続きます。中国の過剰生産能力は解消されておらず、デフレの海外輸出が続く懸念があります。 日本企業業績予想の減益への下方修正は保守的な予想 日本に対してもトランプ政権の関税政策の影響が懸念されますが、現時点で生産や在庫に変調はみられません。賃上げ率は高いものの、食料品を中心にインフレ率が加速しており、実質賃金は低迷しています。日本銀行は、実質金利が大幅なマイナス圏にあることから、利上げ姿勢を維持していますが、関税政策を見極めるまでは金融政策の現状維持が続くとみられます。米ドル円相場は、政策や米日の金利の方向性の差から、米ドル高・円安に向かいにくくなっています。6月の東京都議会議員選挙や7月とみられる参議院選挙に向け、米国との関税交渉は加速が見込まれます。主要企業の業績は、関税の影響や為替前提の変更により、2025年度は減益予想に下方修正されましたが、保守的な予想とみます。歴史的な自社株買いが株価を下支えするとみられ、野村證券は2025年末の日経平均株価を39,500円と予想します。 投資戦略については、トランプ政権の政策判断により、国内外の株式市場のボラティリティー(変動率)が高まる局面はまだあるとみます。しかし、関税の影響を受けにくいテクノロジーやサービスなどの業種を基軸とする見方は変えず、実力以上に株価の調整が進んだ企業は、株式市場の安定化と共に再評価の余地も大きいとみます。 ※野村證券投資情報部「Nomura 21 Global 6月号」(発行日:2025年5月26日)「投資戦略の概要」より 野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト 小髙 貴久 1999年野村総合研究所入社、2004年に野村證券転籍。日本の経済・財政・金融動向、内外資本フローなどの経済・為替に関する調査を経て、2009年より投資情報部で各国経済や為替、金利などをオール・ラウンドに調査。現在は日本株に軸足を置いた分析を行う。2013年よりNomura21Global編集長を務める。 Nomura21Global参考銘柄について ご投資にあたっての注意点
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06/01 09:00
【動画 3分チャート塾】シーズンⅤ:第5回 実際に引いてみよう③:「保ち合い相場」編
「動画 3分チャート塾」は、株価チャートの見方を学びたい初心者から中級者の方向けの動画シリーズです。 今回は、保ち合い相場の時のトレンドラインの基本的な引き方と活用法について、説明しています。 シーズン I:意外と知らないローソク足(全8回)ローソク足の基本の読み方や中長期的な相場の捉え方などについてわかりやすく解説していきます。シーズンII:相場の見方の強い味方、移動平均線(全9回)移動平均線の基礎や活用法についてわかりやすく解説していきます。シーズンIII:上値、下値のメドを探ろう(全10回)上値、下値メドの探り方についてわかりやすく解説していきます。シーズンIV:相場の過熱感を測るには?(全9回)オシレーター系指標についてわかりやすく解説していきます。シーズンV:トレンドラインを引いてみよう(全9回)トレンドラインについてわかりやすく解説していきます。 ご投資にあたっての注意点
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05/31 12:00
【注目トピック】米ドルの切り下げは実現するのか?プラザ合意の背景と教訓
※画像はイメージです。 根強い米ドル切り下げ観測 トランプ政権は発足直後から、貿易赤字削減と米国への製造業の回帰を目的に、全世界に対して相互関税を課すなど、様々な通商政策を打ち出しています。トランプ大統領は貿易赤字の削減手段として、米ドル高の調整にもたびたび言及しています。このため市場では、トランプ政権が1985年9月の「プラザ合意」時のように、米ドル安誘導のための国際協調(プラザ合意2.0、マールアラーゴ合意などと呼ばれる)を要求するのではないか、との憶測が高まっています。 プラザ合意とは、1985年9月に発表されたG5(日・米・英・独・仏の主要先進5ヶ国)の協調行動に関する合意です。会議の開催場所となったニューヨークのプラザホテルにちなんでプラザ合意と呼ばれています。具体的な合意内容として「基軸通貨である米ドルに対して、参加国の通貨を切り上げ、そのための方法として参加各国は外国為替市場で協調介入を行う」というものであり、各国が米ドル高是正に向けて為替政策で協調することで一致しました。調整幅として一律10~12%程度が想定されていたようです。 プラザ合意が成立した時代背景 1980年代前半の米国は、巨額の貿易赤字と財政赤字という双子の赤字を抱える状況にありました。1970年代の第二次オイルショックにおけるインフレに対応した強力な金融引き締め政策と、それに続く財政拡張策により高金利が維持されたため、海外資金の米国への流入を招き、米ドル高となりました。また、財政拡張策は財政赤字の拡大と、景気刺激効果を通じて経常収支赤字を拡大させました。米ドル高の進展により、米国工業製品の国際競争力が弱まり、1985年の米国は、名目GDP比で約3%に達する貿易赤字と経常収支赤字を計上しました。 米国の双子の赤字(経常収支・財政収支) 図表1 (注)データは四半期で、直近値は財政収支が2025年1-3月期、経常収支は2024年10-12月期。財政収支は原系列、経常収支は季節調整済み。見やすさを優先して縦軸を制限している。(出所)米商務省、米財務省資料より野村證券投資情報部作成 当時の米レーガン政権は、米国議会で高まる保護主義的な動きを抑制するために、日本に対して市場開放や内需拡大を迫るなど、政策対応に追われていました。プラザ合意の狙いは、過大評価されている米ドルのソフトランディング(軟着陸)、国際収支不均衡の是正、国内で高まる保護主義的圧力の回避、にありました。 プラザ合意の教訓 プラザ合意の教訓としては、1)為替のコントロールは容易ではない点、2)通貨安は国際収支不均衡の特効薬ではない点が挙げられます。米ドル安を誘導するため各国が協調介入を行った結果、為替市場では急激な米ドル安が進行しました。プラザ合意前に1米ドル=240円台だった米ドル円相場は、1986年には同150円台へ下落しました。G5会合の想定に比べ、過度に米ドル安が進行する一方で、米国の貿易赤字は減らず、問題の解決には至りませんでした。 そのため、G5にカナダとイタリアを加えたG7は、1987年2月にルーブル合意を成立させ、今度は過度な米ドル安の進行を抑止する介入を行いました。しかし、米ドル安は容易に歯止めが掛からず、主要国は1987年12月、米ドル安定のための緊急声明を発表しました(クリスマス合意)。その翌年の1988年11月に、米ドル円相場は、同121円台前半をつけ、ようやく、米ドル安の流れは一服しました。 国際的な通貨政策と米ドル円相場の推移 図表2 (注)データは月次。FF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標は上限金利で、1971年1月以降。ニクソンショックはニクソン大統領(当時)による米ドルの金兌換の停止の発表。クリスマス合意はG7による為替レート安定化に関する緊急声明。(出所)FRB、LSEGより野村證券投資情報部作成 注意すべきは米ドルに対する信認低下 米国と主要国間で、米ドル切り下げの協調合意が成立する可能性は非常に低いと見られます。1985年当時、米国の貿易赤字は過半を対日本及び(旧)西ドイツが占めており、G5の枠内での協調が可能でした。 主要国・地域の経常収支の推移 図表3 (注)データは年次で、1980~1995年。(出所)IMF『World Economic Outlook April 2025』より野村證券投資情報部作成 現在は中国やメキシコなど貿易赤字相手には先進国から新興国まで分散しており、協調合意の実現はかなり難しい状況です。 また、通貨安は「米ドル離れ」などの副作用のリスクも伴います。対GDP比で見た現在の米国の「双子の赤字」は、プラザ合意直前よりも拡大しており、状況は悪化しています(図表1)。一方で、これだけの経常収支赤字を許容できるだけ、米国が世界から資金を集めることができているとの見方も可能です。米国が通貨安政策を採用し、資金が米国から流出する事態が生じれば、米国経済は厳しい経済環境に陥ることが予想されます。このため、トランプ政権で為替問題を担当しているベッセント財務長官は、米ドル安政策に否定的です。 米国の経常収支と対外債務残高の変化 図表4 (注)データは四半期で、直近値は2024年10-12月期。(出所)米商務省、米財務省資料より野村證券投資情報部作成 リスクとしては米国政策当局の意思に反して、米ドル安が進行する事態が挙げられます。第1次トランプ政権下でも、大統領選直後に118円台まで上昇した米ドルは、米中貿易戦争が激化する中で104円台まで下落する局面もありました。トランプ大統領がFRBに利下げや議長の解任を迫るといった事態は、米ドルに対する信認を低下させかねないため、注意が必要です。 野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト尾畑 秀一 1997年に野村総合研究所入社後、一貫してエコノミストとして日本、米国、欧州のマクロ経済や国際資本フローの調査・分析に従事、6年間にわたり為替市場分析にも携わった。これらの経験を活用し、国内外の景気動向や政策分析、国際資本フローの動向を踏まえ、グローバルな投資戦略に関する情報を発信している。簡潔かつ平易な解説には定評がある。ストックボイス、ラジオNIKKEIに出演中 野村證券投資情報部 ストラテジスト澤田 麻希 記者向け場況レクチャーやマスメディアにおける市況解説などメディアを通じた情報発信を行っている。日経CNBC、ラジオNIKKEIに出演中 ご投資にあたっての注意点