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【基礎から学べる「行動ファイナンス」】 最終回 まとめ:行動ファイナンスに期待すること

(注)画像はイメージです。 野村證券金融工学研究センターの大庭昭彦が手掛けたシリーズ「基礎から学べる行動ファイナンス」では、これまで14回にわたって、行動ファイナンスの基本から応用まで、さまざまな事例や手法について取り上げました。最終回となる今回は、改めて連載を振り返り、今後の行動ファイナンスについての筆者の期待をお伝えしたいと思います。 本シリーズでは、前半で個人投資家が陥りやすい代表的な「心理バイアス」を紹介し、後半では心理バイアスに陥らないための「行動コントロール」の技術について解説しました。 前半:代表的な「心理バイアス」を紹介 第1回「合理性と心理バイアス」では「人はお金に関して合理的であろうとするが、合理的ではない行動も行ってしまうものである」という行動ファイナンスの基本を掲げたうえで、代表的な12の心理バイアスを紹介しました。第2回「直感システムと熟慮システム」では、こうした不思議な行動を「普通の人は熟慮して行う判断と直感的な判断の2種類の判断を行うからだ」という「2重過程モデル」で説明しました。 続いて、心理バイアスが間違った投資行動に結びつく具体的な例を、第3回「人の行く裏に道あり花の山」、第4回「高値覚えと塩漬け株」、第5回「すっぱいブドウのバイアス」、第6回「決定麻痺のわな」で順に紹介しました。 シリーズ後半の「どうすれば失敗を逃れることができるのか」という説明に入る前に、第7回「『思い込み』の問題」の話をしました。心理バイアスによる失敗のエピソードに比較して、その失敗を防ぐ手段の話は心に残りにくいということをあらかじめ警告するためです。 後半:行動コントロールの技術を解説 「どうすれば失敗を逃れることができるのか」という技術を、行動コントロールの技術と呼んでいます。 第8回「フレーミング効果とリフレーム」で、意識的に見方を変える「リフレーム」の技術、第9回「自分の未来にも約束させる」で、自分の将来の行動に制約をかける「コミットメント」の技術、第10回「複雑さを避ける」と第11回「複雑さを避ける(2)」では正確さをあえて犠牲にする「単純化」の技術についてそれぞれ説明しました。 さらに、第12回「イメージの力」では、投資目標をイメージすることの重要さについて述べた後、第13回「売りたい気持ちと『リフレーム』」では「株価が上がったので売りたくなった」とよく考えがちな人に向け、行動ファイナンスの観点から考える解決策についてお伝えしました。そして、第14回「デフォルトの活用」では、人が良い選択を自発的にするための後押し(ナッジ)の成功事例であるデフォルト(何も選ばない時に自動的に選択される物事)の使い方を、それぞれ解説しました。 日本の金融経済教育での活用に期待 行動ファイナンスの研究の中でも、行動コントロールの方法やその効果を調べることは比較的新しい分野といえます。近年のデータサイエンスの流行もあって、大規模な個人の行動分析の対象は大きな広がりを見せています[1]。 欧米では過去の金融経済教育の失敗から学び、行動コントロールの技術を金融経済教育に活用し始め、結果として個人投資家の合理的な行動を促すことに成功しました[2]。 今後は日本でも金融経済教育での行動コントロールに基づいた教育プログラムの導入や、科学的なアドバイスの活用などにより、個人投資家の合理的な投資行動を広げる流れが生まれることを期待しています。 [1] 大庭昭彦「金融データサイエンス入門・シリーズ企画の狙い」証券アナリストジャーナル2023年7月[2] 大庭昭彦「投資教育と投資推進に関する研究の新展開」、証券アナリストジャーナル 2022年7月 大庭 昭彦 野村證券株式会社金融工学研究センター エグゼクティブディレクター、CMA、証券アナリストジャーナル編集委員、慶應義塾大学客員研究員、投資信託協会研究会客員。東京大学計数工学科にて、脳の数理理論「ニューラルネットワーク」研究の世界的権威である甘利俊一教授に師事し、修士課程では「ネットワーク理論」を研究。大学卒業後、1991年に株式会社野村総合研究所へ入社。米国サンフランシスコの投資工学研究所などを経て、1998年に野村證券株式会社金融経済研究所に転籍、現在に至るまで、主にファイナンスに関わる著作を継続して執筆している。2000年、証券アナリストジャーナル賞受賞。 本稿は、野村證券株式会社社員の研究結果をまとめたものであり、投資勧誘を目的として作成したものではございません。2024年3月掲載時点での情報に基づいております。 ご投資にあたっての注意点

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