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グローバルサウスの台頭とフード&アグリビジネスの可能性(前編)- グローバルサウス諸国のフード&アグリ分野の課題 -
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 コンサルタント 中村 圭吾(2025年6月18日) はじめに 昨今のニュースなどでグローバルサウス(以下、GSと呼ぶ)という言葉を耳にする機会が増えた。GSには明確な定義があるわけではないが、いわゆる新興国・開発途上国を指し、多くの新興国・開発途上国が地球の南半球に位置していることに由来している。近年、欧米などのいわゆる先進国に属さない第三勢力のGS諸国が、国際的な影響力を高めている。本レビューでは、GS諸国を今後の世界経済を牽引する新興国・開発途上国の総称と定義し、その台頭の背景と、特に同地域のフード&アグリ分野の可能性に関して、2回にわたりシリーズ化する。 前編にて、フード&アグリ分野にて、台頭するGS諸国が共通して直面する課題を整理するとともに、それらの課題の解決に挑むスタートアップを数社紹介する。 その上で、後編にて、GS諸国間の文化・社会的な違いから生じる課題やニーズに対する解決策が求められる中、グローバルな食料安全保障や環境問題の解決に挑戦する日本企業の事例と、それらの取組を支える日本政府、政府系機関、自治体のスキームなどを取り上げ、GS諸国を対等なパートナーとして捉え、共同で新たな価値を創出していく「共創」のあり方を考察する。 1. 国際社会の混乱とグローバルサウス諸国の台頭 GSに括られるアジア、アフリカ、ラテンアメリカの多くの国々は、豊富な天然資源や人口増加を背景とした経済成長を続けており、2050年には、GS諸国の人口は、世界人口の3分の2を占めるとも言われている(図表1-1)。また、経済面でも、既にG7[1]を上回る規模となっており、その後もその経済規模はさらに拡大していくと見込まれている(図表1-2)。 GS諸国では、イノベーションへのニーズが大きく、先進国に比べて法律や制度も十分に整備されていないことから、規制を受けることなく新技術の実用化が比較的早く進む点も特徴である。そのため、多くのGS諸国は、最先端技術を導入することによって、既存技術で成長を遂げてきた先進国よりも更なる発展を遂げる現象、いわゆるリープフロッグ型に経済発展する可能性を秘めている。 図表1-1(左) 人口予測 図表1-2(右) GDP対世界比(購買力平価換算)シェア (出所)国際連合「World Population Prospects 2024」(左)、IMF「世界経済見通し」(右)の各統計データより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 一方、GS諸国の歴史的・文化的な背景は多様であり、経済的には一定程度発展しているものの都市化や高齢化などの社会課題に直面する国、インフラ、公衆衛生や教育に問題を抱える国、食料や医療の不足に苦しむ国、難民の発生や気候変動の影響等に苦しむ国など各国に共通する課題とその国・地域特有の課題が存在する。GS諸国のニーズが、経済成長だけでなく社会課題の解決にシフトする中で、この地域の企業を「共創」のパートナーとして日本企業が捉え、グローバルな課題を共に解決することが重要になっている。 2. グローバルサウス諸国のフード&アグリ分野における課題 GS諸国では、それぞれフード&アグリ分野のおかれている自然条件や社会条件は様々であり、各地域の特性に応じた課題を把握することが重要である。本章では、その中でもGS諸国(及び一部の先進国)で共通する課題として5つの分野を取り上げたい(図表2-1)。 図表2-1 GS諸国(及び一部の先進国)で共通する5つの課題 (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (1)食料安全保障の脆弱性 国連食糧農業機関(FAO)は、食料安全保障を、「すべての人がいかなる時も、活動的で、健康的な生活に必要な食生活上のニーズと嗜好を満たすために、十分で安全かつ栄養ある食料を、物理的、社会的及び経済的にも入手可能であるときに達成される状況」と定義[2]している。この食料安全保障を構成する4つの要素として「供給可能性」、「安定性」、「適切な利用」、「物理的・経済的入手可能性」が挙げられるが、GS諸国は、これら4つの不安定さにより、食料不足や飢餓に苦しみやすい。例えば、ウクライナからの輸出品のうち、特に小麦は、一部のアジアおよびアフリカ諸国にとって極めて重要で、これらの国々は、ロシアによるウクライナ侵攻前の2016年から2021年まで、ウクライナで生産する小麦の約9割を輸入していたが、ロシアによる黒海港の封鎖により、小麦の供給減少と価格高騰で大きな食料安全保障上の危機に直面した。現在は、世界的に良好な小麦の収穫量を背景に、一時期に比べると価格は安定しているが、今後もウクライナの世界市場への穀物の輸出能力が回復しなければ、GS諸国を中心とした穀物の供給力は不安定な状態が続くと予想される。 このように食料不安は経済的に脆弱な国々への負荷が大きい。「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)2024年報告」によると、2023年の栄養不足人口は、中央値で7億3,300万人と推定されており、2019年に比べて、2023年には飢餓に直面した人が1億5,200万人増加している(図表2-2)。また、同年の栄養不足人口を地域別で見ると、アジアとアフリカが、それぞれ3億8,450万人と2億9,840万人を占めており(図表2-3)、多くのGS諸国では、気候変動や自然災害、経済的制約などを背景とした農業生産性の低下や不安定な食料供給を背景に、食料安全保障が確保されていない状況が続いている。 図表2-2(左) 世界の栄養不足人口の推移 図表2-3(右) 地域別の栄養不足人口 (出所)FAO等「SOFI2024年報告」の統計データより野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (2)温室効果ガス排出と気候変動への対策不足 多くのGS諸国では、経済成長の進展にともない、大気汚染、水資源の枯渇、生態系の喪失などの問題が表面化している。これらの国々は、経済発展を優先するために、環境問題への対策を後回しにする傾向にあり、これにより温室効果ガス(GHG)排出量が増加し、結果としてインフラ整備や新技術導入が遅れ、災害に対する回復力・耐久力が乏しいGS諸国において気候変動による被害が特に深刻化している。実際に、1990年には、温室効果ガスの累積排出量は先進国が41%、開発途上国が42%でほぼ同じ割合であったが、2022年にはGS諸国がGHG総排出量のうち65%を占めている(図表2-4)。一方で、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)では、開発途上国が先進国に対して、現在進行する地球温暖化の主な原因を作ったのは、環境対策を無視して経済発展を遂げてきた先進国だとして、率先してGHG排出を減らすことや開発途上国への巨額の資金支援を求めている。このことで、開発途上国と先進国の間で対立が生じ、今後のGHG排出の目標やエネルギーの発電、消費方法等に関して交渉が難航する場合が多い。 図表2-4 先進国とグローバルサウスのGHG排出量の割合 (出所)「Climate Watch[3]」の統計データより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 私達人類は、産業革命以後、大量の化石エネルギーを消費し、GHGを発生させてきた。しかし、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)[4]によると、現在のままGHG排出が継続すると、地球の温度は2030年前後に、産業革命前から比べて1.5度上昇する危険性が指摘されている。さらに、2025年1月の欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」の報告[5]では、すでに2024年の平均気温は産業革命前と比べて約1.6度高かったと報告されている。2015年のCOP21にて採択された、気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」では、上記の1.5度の気温の上昇幅は、単年の数字ではなく、複数年の平均で判断するとされているが、地球温暖化への対策は一刻の猶予も許されない状況である。 GHGは、大気中に存在するCO2やメタン、フロンなどのガスの総称で、世界のGHG排出量は、CO2換算で590億トンあると推定されている(図表2-5)。このうち、農業に起因するGHG排出は、排出全体の約11%で約65億トンを占める。農業は数千年にわたり人類文明の中心的役割を果たしてきたが、これらに起因するGHG排出も、今後のGS諸国を中心とした人口増加と食料需要の高まりに伴い、適切な対策を講じない限り、更に増加すると予測されている。このように、GHG排出と気候変動は、開発途上国の経済発展と密接に繋がっており、国際的にGHG排出削減が求められていることを背景に、近年、GHGの削減量や排出権を企業間で売買できるカーボンクレジットの市場が成長してきている。しかし、クレジットの制度設計や認証体制等に関してグリーンウォッシュ[6]として非難されるなど、発展途上期でもあり、現在のところ、先進国を含め気候変動に対して十分な対策は講じられていない。 図表2-5 世界の農業由来のGHG排出量 (出所)IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書(2022)及びFAOSTATより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (3)労働力と人的資源の制約 2050年には、GS諸国の人口は、世界の人口の3分の2を占めると予想されており、農業関連市場は高いポテンシャルがある。一方、広大な国土を有する一部の国を除き、GS諸国の多くの農家は1ha未満の面積で農業を営む小規模農家であり、かつ不毛な土地で灌漑などの設備もなく、低賃金かつ厳しい労働環境下で働いている。農業労働の人口比率は、東南アジア・大洋州54.4%、南アジア50.5%、サハラ以南アフリカ56.5%[7]となっており、特に低所得国で高い傾向にある。 また、インド、タイ、ブラジル、サハラ以南アフリカ、東南アジア諸国を中心に、農業従事者の高齢化問題も深刻化している。これら国・地域では、農業が地域経済の中心である一方で、若者の都市部への流出や農業離れなどを背景に、若年層の農業従事者が減少しており、高齢者が農業の担い手として中心的な役割を担っている。そのため、開発途上国では、先進国同様もしくはそれ以上に、農業分野での後継者不足が深刻で、新たな技術や知識を持った人材育成が急務とされている。 農業分野におけるジェンダー不平等もまたGS諸国の農業生産の低い成長率の要因の一つとされている。例えばアフリカ諸国では、女性は農業労働人口の大部分を占めているが、土地の配分に関しては多くの障壁に直面している。また、女性は男性に比べて金融サービスやそれに付随する支援サービスへのアクセスも厳しい傾向にある。 (4)技術導入のための資金力不足 GS諸国の農業の近代化を阻害する要因として資金的および技術的な制約も存在する。多くのGS諸国に共通する課題として、農業に関する教育や技術が不足しているため、農家が最新の農業技術を学びそれらを実践する機会が限られている。また、金融機関などから資金調達することも困難であるため、新たな技術の導入や農業の効率化が進みにくい。 さらに、アフリカや中東では、水不足による干ばつ被害が深刻で、効率的な灌漑技術の導入が進まない状況にある。広大な土地があるラテンアメリカでは、土地所有権が複雑で、農業技術の導入が進まない要因となっており、技術に関しても、最新技術にアクセスできる大規模農家とそうでない小規模農家との間での技術格差が広がっている。東南アジアやラテンアメリカで行われているプランテーション・モノカルチャーは、砂糖、コーヒー、ゴムなどの単一作物を大規模に栽培する農法で、効率的な生産が可能である一方、土壌劣化や害虫繁殖を招きやすく、また周辺地域の生態系への悪影響や労働環境の問題も指摘されている。 (5)市場アクセスの困難さ 多くの開発途上国では、農産物の流通システムが近代化されておらず、多段階で複雑な構造であるため、農家は市場へのアクセスが難しく、生産コストを回収できる価格での販売が困難となっており、低賃金の要因の一つになっている。例えば、多くの東南アジア諸国では、経済発展に伴い、中間層の拡大と若年層の消費増加により食品市場が拡大しているものの、輸送インフラやコールドチェーンは未整備な部分が多く、生産者は高品質で安全な農産物を栽培しても、サプライチェーンの途中におけるフードロスも大きい。さらに、農家共同体による共同販売や生産体制も未確立な場合が多く、中間流通業者に対する農家の価格交渉力が低いという課題もある。 3. グローバルサウス諸国のフード&アグリテック市場とスタートアップ ここまで、GS諸国の可能性と同地域の農業分野に関連した課題について整理した。このような成長著しいGS諸国では、多くのフード&アグリテック系スタートアップが、農業分野における課題の解決を目指して、食料増産、農家の生計向上、金融アクセスの改善などの事業を展開している。 本章では、リープフロッグ的に経済発展を遂げているGS諸国のフード&アグリテック分野におけるスタートアップ市場の概況と代表するスタートアップをいくつか紹介したい。 (1)グローバルサウスのフード&アグリテック市場 世界のスタートアップへの投資額は、2010年代半ばから2021年にかけて、各国の金融緩和政策による余剰資金の増加と、2015年の「持続可能な開発目標」(SDGs)の採択を背景に、増加の一途を辿ってきた。しかし、その投資額は、2021年をピークに、2022年、2023年と大幅な減少に転じ、2024年は復調の兆しは見せたものの3年連続で減少している。なお、グローバルなフード&アグリテック業界と日本企業のビジネス機会に関する詳しい考察は、NOMURA フード&アグリビジネス・レビュー Vol.2[8]をご参照いただきたい。 一方、2024年のGS諸国におけるフード&アグリテック分野のスタートアップへの投資額は、増加に転じている(図表3-1)。米国・AgFunder[9]によると、2024年の世界のフード&アグリテック市場の資金調達額は、160億米ドルと、前年同期比で4%減少する中、GS諸国の同分野への投資額は、37億米ドルと、2023年と比較して63%増加している。長期的にみても、2015年当時10%強であったGSの全世界投資に対する割合は2024年度には23%と上昇しており、GS諸国のシェアが拡大している。また、欧州や中国での市場減退を背景に、2024年の世界全体での投資件数は、前年同月比で22%減となっている中、GS諸国の投資件数は前年同期比で8.4%の減少にとどまっている。 図表3-1 フード&アグリテック市場での全世界及びグローバルサウスへの投資状況 (出所)AgFunder「Developing Markets AgriFoodTech Investment Report 2025」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (2)事例紹介 ここからは、日本の公的機関や民間企業との間で接点がある、または今後協業が考えられるGS発のフード&アグリテック系のスタートアップを5社紹介する。これらの企業は、GS諸国の課題を解決するソリューションをそれぞれ有する事例であり、日本企業が「共創」を考えるうえで有益なスタートアップと考えられる。 1)自動化された農産物の生産システム Agrilogiq社(アグリロジック社)[10]は、2017年に南アフリカ共和国にて設立されたアグリテック企業であり、農業バリューチェーン全体の最適化を目指し、アグリテック分野における先進的なソフトウェアとハードウェアの開発を通じて、生産者と栽培施設を結びつけるプラットフォーム事業を展開している。具体的には、リアルタイムで取得したデータをクラウドベース上でのソフトウェアプラットフォームと連携させ、自動化されたシステムにより、各地域の気候に最適化した温室での農産物栽培に関する管理システムを提供している。同社は、国際協力機構(JICA)が、2024年に南アフリカ共和国で実施したNext Innovation with Japan (NINJA) [11]アクセラレーター・オープンイノベーションプログラムで採用された、ICTソリューションのアフリカの主要なインテグレーターである。日本電気株式会社(NEC)のアフリカ・サブサハラにおけるグループ会社であるNEC XON社とマッチングし、3か月にわたる実証実験(PoC)を経て、2025年に、NEC XON社の公式ベンダーとして正式に採用されている[12]。これから、NECのAI・データ分析技術や国際的なネットワークを活用することで、更なる国際的な展開が期待されている。 図表3-2 各気候に最適化した温室栽培システム (出所)Getty Images 2)中間流通を介さないマーケットプレイス index01Zowasel社(ゾワセル社)[13]は、2017年に設立されたナイジェリアのアグリテック系スタートアップであり、小規模農家の課題解決に特化している。ナイジェリアの農業市場において農家が直面する課題として、マーケットアクセスがある。創業者自身も小規模農家出身であり、その経験を活かして農家と企業を結ぶプラットフォームを立ち上げた。 Zowasel社のビジネスモデルは、農家(売り手)と企業(買い手)を直接結ぶマーケットプレイスを中心に展開しており、農家は中間業者を介さずに直接取引を行うことができる。同社によると、このアプローチにより、農家の平均収益をおよそ3割向上させることに成功している。その他にも、主な事業として、作物栽培に関する栽培指導や農機器のレンタル、クレジット・スコアリングサービスが含まれている。同社は、200万人以上の小規模農家と約5,000社の企業とのネットワークを有しており、主なパートナーにはシンガポールのOlam社、南アフリカのPromasidor社、アイルランドのGuinness社などが含まれている。また、Zowaselはナイジェリア三菱商事やJICAとの連携を通じても、農機導入や金融アクセスの向上を図っており、同社のビジネスモデルは、ナイジェリアの農家の「マインド変革」を通じて、農業の効率化と持続可能性の向上に貢献し、同国の農業関連の状況を根本から変える可能性を秘めている[14]。 図表3-3 収穫した農産物の情報を入力する農家 (出所)Getty Images 3)農業労働者の貧困撲滅とフェアトレード Endiro Coffee社[15]は、2011年に子どもたちの未来を奪う児童労働を終結させるというビジョンのもと、ウガンダの女性起業家によって設立されたウガンダ最大のコーヒー企業である。同社は、単純に利益だけを考えずに、貧困削減やフェアトレードを重視し、地元農家から調達した高品質でオリジナルなコーヒーを特徴としている。現在は、ウガンダ・ケニア・米国で17のコーヒーショップを運営している。2021年にウガンダで実施されたNINJA アクセラレータープログラムに参加し、日系企業との事業連携にも成功し、日本での販売経験も持つ。同社は現在、ウガンダだけではなく、他のアフリカ諸国のコーヒー農家と世界中のバイヤーを直接つなぐコーヒーEコマースプラットフォームの運営も計画している。 図表3-4 ウガンダ産のコーヒー豆 (出所)Getty Images 4)多面的な収益機会の提供 AGRO AGAPE社(アグロアガぺ社)[16]は、2018年に設立されたカンボジア発のスタートアップである。 「Farm to Table, Table to Farm(農場から食卓へ、食卓から農場へ)」をモットーに、カンボジアのコーヒー農家への質向上のための研修や機器の提供、質の高い豆の買い取りや卸売販売、カフェでの提供、そしてコーヒー豆の残渣からできるバイオ炭の肥料製造や販売等を行っている。カンボジアでは、多くの農産物を輸入に頼っており、コーヒーに至っては9割が輸入品となっている[17]。カンボジアでは、コーヒー豆が大量にベトナムに輸出され、ベトナム企業がコーヒー粉末を作り、ベトナム産コーヒーとして、カンボジアに再度輸出する不均衡な構造となっている。創業者で女性起業家のSreypouv Tan氏は、彼女の叔父の経営するコーヒー農園において、市場がないためにコーヒー豆が収穫されず、破棄されている現実を目の当たりにし、農家を支援するために本ビジネスを立ち上げた。また、Sreypouv Tan氏は、起業家として様々な障壁に直面しながらも、他の女性零細企業家を支援することにも情熱を注いでおり、女性起業家への支援プログラムにも参加している。同社は、2024年に開催された特定非営利活動法人ARUN Seed主催のCSI チャレンジ5に参加し、デロイトトーマツ賞金賞を受賞している[18]。 図表3-5 コーヒー農園 (出所)Getty Images 5)バイオスティミュラントによる農業生産性の向上 M4Life社(“Microbes For Life”(エムフォーライフ社)[19]は、2023年にアルゼンチンで設立されたバイオテクノロジーのスタートアップであり、微生物を活用した持続可能な農業改善を目指している。微生物の専門家と投資銀行出身者が共同創業しており、両者の専門性を活かして、農業の生産性向上に寄与する独自の技術を開発している。同社の主な特徴は、ストレス環境下で育つ植物の根から隔離した微生物を選択し、バイオ・トレーニング技術を用いて、気候変動や干ばつなどの非生物的ストレスに対する耐性を高めることにある。この独自の技術により、従来のバイオスティミュラントの効果を飛躍的に向上させることに成功しており、農業の生産性向上に寄与している。 図表3-6 土壌から微生物を単離する様子 (出所)Getty Images 同社は、すでに世界各地で圃場試験を実施しており、多くの実験で、当初の期待を超える高い成果を出しており、グローバル企業とのパートナーシップにも積極的で、大手企業と共同で新たなビジネスチャンスを模索し、付加価値を高めるソリューションを展開している。シリコンバレーの著名なベンチャーキャピタル投資家であるTim Draper氏が立ち上げた起業家育成プログラムで優秀賞を受賞したことで、国際的な知名度も上がり、将来の成長が大いに期待されている。 おわりに GS諸国は、豊富な資源、起業家精神が旺盛な国民性そして革新的技術の導入を背景に、リープフロッグ的に経済発展を遂げている。一方で、気候変動や地球温暖化の影響や地政学的なリスクを背景に、GS諸国はまだまだ社会課題が山積している。混沌とする現在の世界情勢において、日本が引き続き経済発展を遂げていくためには自社、自国の成長のみを考えるのではなく、GS諸国の企業をパートナーとして「共創」していくことが重要だ。 後編では、フード&アグリ分野において、日本の強みや個性を活かし、実際にGS諸国をパートナーとして捉え、海外展開を行っている日本企業を紹介するとともに、これら活動を後押しする日本政府や政府関係機関、そして各自治体の支援メニューについて紹介、考察したい。 [注釈] [1] フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7か国及び欧州連合(EU)が参加する枠組み。 [2] 「食料安全保障」FAOHP (https://www.fao.org/fileadmin/templates/faoitaly/documents/pdf/pdf_Food_Security_Cocept_Note.pdf) [3] Climate Watch HP (https://www.climatewatchdata.org/) [4] 「IPCC 第 6 次評価報告書 第 3 作業部会報告書の概要」環境省HP (https://www.env.go.jp/content/000155004.pdf) [5] 「2024年は産業革命前の平均気温を1.5℃以上上回った」コペルニクス気候変動サービスHP (https://climate.copernicus.eu/2024-track-be-first-year-exceed-15oc-above-pre-industrial-average) [6] 環境に配慮したかの様に見せかける、 実態が伴わない行動や表現 [7] 「JICAグローバル・アジェンダ(課題別事業戦略) 5. 農業・農村開発(持続可能な食料システム)」JICAHP (https://www.jica.go.jp/Resource/activities/issues/agricul/ku57pq00002cubgq-att/agricul_text.pdf) [8] 「フード&アグリテック・スタートアップのグローバル事業環境と今後の展開シナリオ - 国内大手企業の新規グローバル参入機会 -」野村證券HP (https://www.nomuraholdings.com/jp/sustainability/sustainable/fabc/data/20240611_2.pdf) [9] 「Developing Markets AgriFoodTech Investment Report 2025」 AgFunder HP (https://agfunder.com/research/agfunder-global-agrifoodtech-investment-report-2025/) [10] 会社HP (https://www.agrilogiq.com/) [11] JICAによる開発途上国のビジネス・イノベーション創出に向けたスタートアップエコシステム構築支援プログラム [12]「南アフリカ初のNINJAアクセラレーターの成果として、スタートアップ2社がNEC XONの公式ベンダーに」JICA HP (https://www.jica.go.jp/activities/issues/private_sec/project_ninja/news/2024/20250317.html) [13] 会社HP (https://www.zowasel.com/) [14] 「デジタル農協化」するアフリカ×アグリテック・スタートアップ」新潮社Foresight HP (https://www.fsight.jp/articles/-/49333) [15] 会社HP (https://www.endirocoffee.com/about-us-1) [16] 会社HP (https://agro-agapecambodia.com/) [17] 「【女性起業家の挑戦】起業を通じた社会課題解決 第二回 – カンボジア産コーヒーにかける思い」笹川平和財団HP (https://www.spf.org/gender/women_entrepreneurs/20231124.html) [18] 「CSIチャレンジ5最優秀企業は、侵略的外来植物のランタナから象のアートを製作するインドのスタートアップに決定」ARUN HP (https://www.arunseed.jp/info/20240517.html) [19] 会社HP (https://www.microbesforlife.com/) ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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昨日 09:00
【動画 3分チャート塾】シーズンⅤ:第8回 テクニカル分析が難しい局面は?
「動画 3分チャート塾」は、株価チャートの見方を学びたい初心者から中級者の方向けの動画シリーズです。 今回は、テクニカル分析が難しい局面について、主に3つの場面を説明しています。 シーズン I:意外と知らないローソク足(全8回)ローソク足の基本の読み方や中長期的な相場の捉え方などについてわかりやすく解説していきます。シーズンII:相場の見方の強い味方、移動平均線(全9回)移動平均線の基礎や活用法についてわかりやすく解説していきます。シーズンIII:上値、下値のメドを探ろう(全10回)上値、下値メドの探り方についてわかりやすく解説していきます。シーズンIV:相場の過熱感を測るには?(全9回)オシレーター系指標についてわかりやすく解説していきます。シーズンV:トレンドラインを引いてみよう(全9回)トレンドラインについてわかりやすく解説していきます。 ご投資にあたっての注意点
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06/21 15:00
生物多様性と今後の企業の在り方(前編)
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 シニアコンサルタント 遠藤 暁(2025年6月18日) 1.はじめに 2023年9月に自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が正式なフレームワークを公表したことを受けて、上場企業における非財務情報の開示に、生物多様性が盛り込まれるようになってきた。今後、この動きは、投資家はもとより、社会全体からの要請により、加速していくと考えられる。 生物多様性と言ったときに大前提となるのは、企業活動は自然資本(Natural Capital)の上に成り立っているという考え方である。これは、図表1のハーマン・デイリーのピラミッドの通り、水や空気、土壌などの自然を利活用してビジネスが成り立っており、それら全体を自然資本として尊重していかなければならないということである。現代社会に欠かせない電気ひとつをとって見ても、発電に自然資本が使われていることは明白である。公害などは言うまでもなく、自然資本をないがしろにする企業経営は、自社のレピュテーション低下や利用できる社会資本を傷つけ、回りまわって業績が悪化し、自社の企業価値を毀損することになり、逆に、自然資本を尊重し、利活用する企業は自社の企業価値を持続的に上げていくことができるのである。 その考えを自社の経営においてどのように落とし込んでいくのか、あるいは何を開示すべきなのか、についてTNFDでは、LEAPアプローチという手法で、自然関連の課題を特定して評価することを推奨している。LEAPは、Locate(発見)、Evaluate(診断)、Assess(評価)、Prepare(準備)の各ステップを表している。自社のサプライチェーン/バリューチェーンの全てを一気にということではなく、まずは少数の重要性の高いプロダクトやサービスに限定してLEAPアプローチを取ることが可能であり、また、LEAPの一部を取り上げて開示することも可能である。例えば、キリンホールディングスのTNFD報告では、自然関連への事業の依存度と事業が自然に与えるインパクトから、コーヒー豆、ホップ、紅茶葉、大豆が優先対象として選ばれ、その中で具体的な活動が行えるスリランカの紅茶葉農園にフォーカスし、2023年度はLocate(発見)とEvaluate(診断)について、2024年度はAssess(評価)とPrepare(準備)について開示を行っている。 なお、TNFDは、2015年に設置され既に多くの企業が対応している気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の4つの柱(ガバナンス、戦略、リスクとインパクトの管理、測定指標とターゲット)と11個の開示提言に自然特有の3つの開示提言を追加(ガバナンス、戦略、リスクとインパクトの管理の各々に1つずつ)したものとなっている。TCFDからTNFDへ拡張していく、という考え方で開示内容を検討すると、実務的に取り組みやすく、且つ投資家にとっても分かりやすいだろう。 図表1 ハーマン・デイリーのピラミッド (出所)2014年6月18日旭硝子財団「2014年(第23回)ブループラネット賞受賞者」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 2.生物多様性に関する歴史 15世紀以降、大交易時代(大航海時代)を迎え、世界各地の交易が盛んになると、新たな土地への外来種の侵入や珍しい動植物の乱獲も同時に進み、多くの種が絶滅した。これは、生態系内で行われる生存競争や災害などによって起こる自然由来の種の絶滅とは根本的に異なる人為的なもので、そのスピードは早い。最も有名な例の一つとして、乱獲によって絶滅したドードーが挙げられる。ロンドンの自然史博物館に全身骨格のレプリカがあるが、既に全身標本は失われており、わずかに頭部と左脚のみ標本がオックスフォード大学に残されている。ニホンオオカミも、1905年に絶滅したと言われており、これが現在のシカによる農作物等の食害の拡大につながっているとも言われている。人為的な自然破壊は、回りまわって自らに跳ね返ってくるのである。 1892年に米国でシエラクラブ、1895年にイギリスでナショナル・トラストが設立され、産業革命によって引き起こされた自然破壊に対する保護運動が始まった。また、1872年には、米国のイエローストーンが世界初の国立公園として指定され、その保護が開始されている。二度の世界大戦を挟み、1948年には、国際NGOとして、スイスのグランに本部を置く国際自然保護連合(IUCN)が立ち上がり、さらに1961年にIUCNの資金調達部門として世界自然保護基金(WWF)が設立された。その後、1962年にレイチェル・カーソンによる「沈黙の春」が著され、環境問題は市民の間でも広く知られるようになる。欧州で国立公園が設置されるのは、大半が第二次世界大戦後のことである。 また、国際的には、1971年に、湿地とその上に生息する動植物の保全等のために、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」(いわゆる「ラムサール条約」)が採択された。ラムサール条約の対象となる日本国内の湿地数は徐々に増え、現在、53か所が指定されている。加えて、1972年には、米国政府とIUCNが主体となって、「絶滅のおそれがある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(いわゆる「ワシントン条約」)が採択されている。 日本国内では、1949年に尾瀬原ダムによる尾瀬の自然破壊を止めるために「尾瀬保存期成同盟」が立ち上がり、1951年に日本自然保護協会へ名前を変え、1960年に財団法人化しIUCNに加入、2011年に公益認定された。また、公害問題を機に1971年に環境庁(現 環境省)が発足し、環境行政と自然保護行政を担うこととなった。 これらの20世紀半ばから後半にかけての国内外の動きは、現在の生物多様性保護につながるが、どちらかというと公害や都市化などによる自然破壊を食い止める動きであった。一方で、20世紀末からの自然保護活動は、保護だけではなく、より積極的に生物多様性を増加させていこうという動きと捉えることができる。その先駆けとなるのが、1992年に採択された生物多様性条約(CBD)である。2025年3月現在、194か国と欧州連合、パレスチナが締結しているが、米国は遺伝情報の保護に関して不十分であることを理由に、未締結となっている。 CBDは、ワシントン条約とラムサール条約を補完する形の内容となっており、3つの大きな目的を定めている。一つ目が生物多様性の保全、二つ目が生物多様性の構成要素の持続可能な利用、三つ目が遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分である。この三つ目の目的に関連して、2010年に名古屋議定書が採択されている。また、CBD第8条(生息域内保全)及び第19条(バイオテクノロジーの取扱い及び利益の配分)第3項に関連して、「バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」が2001年に採択され、さらに世界目標として「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が2022年12月に採択されている。これらの条約等の関係は、図表2の通りである。 図表2 生物多様性条約と関連する条約等の関係 (出所)外務省および環境省HPの情報により、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 図表3 自然保護・生物多様性に関する国内外の主な出来事 (出所)公開情報により、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 3.生物多様性と森林・林業・木材産業 生物多様性を考える際に、分かりやすい例の一つが森林生態系である。森林は、様々な動植物が一定の生息域に存在し、相互作用によって成り立っている。生態系内のプレーヤーは、無機物から有機物をつくる植物を中心とした生産者、生産者が生産した有機物を取り入れる消費者、消費者のうち有機物を無機物に分解する過程に関与する分解者の大きく3つ分けられる。植物(生産者)が光合成によって生み出したエネルギーにより葉や枝が生長し、それらを食べる昆虫が集まり、さらに昆虫を食べる鳥類や小型哺乳類が集まり、それらを捕食する、より大型の哺乳類が生息域に存在する。昆虫や鳥類、哺乳類の死骸や落ち葉などは、微生物や細菌類によって分解された後に、植物が根から養分として吸収し、枝葉が生長するサイクルに戻る。生産者から消費者、分解者そして生産者へ戻るサイクルが健全に維持されることで、有機物生産が豊富な森林では自ずと生態系も豊かになる。 日本では、古くからこの森林生態系の豊かさに畏怖の念を抱き、山岳信仰が根付いてきた。今でも、マタギたちは、山に入る前に山の神に祈りを捧げ、山言葉を用いる。山は神聖な地であり、汚れた里の言葉を使わないためとされている。これらの信仰は、自然保護的な考え方に基づいており、むやみに獲物を獲らないことを徹底していることは、その考え方を端的に表している。山岳信仰は、北海道から沖縄まで日本全国に存在しており、アニミズム的信仰に基づいているため、起源は縄文時代初期までさかのぼると考えられている。氷河期に覆われた欧州では樹種が少ないことは言うまでもなく、動物種においても、日本と比較すると少ない。万物に神が宿ると考える日本人の精神性と自然保護あるいは生物多様性というのは、元来馴染みがあると言える。 生物多様性が木材の生産量にどう影響するのかを明らかにしたのは、カナダの森林生態学者のスザンヌ・シマード博士である。2023年に日本語版が出版され、ベストセラーとなった「マザーツリー―森に隠された「知性」をめぐる冒険」(ダイヤモンド社)の著者である。シマード博士は、様々な樹種の間で、根から土壌中の菌類を通じて生態系内にネットワークが張り巡らされており、様々な樹種間でコミュニケーションが行われていることを、放射性同位体を用いた実験により実証した。特に、森林生態系内に存在する高樹齢の「マザーツリー」が、幼木へ栄養分などを送ったり、食害に対する警告を送ったりしていることが分かっている。そして、様々な樹種が存在することで、このようなコミュニケーションが活発になり、最終的な樹木の生長にもプラスの影響があることを明らかにした。 また、九州大学の榎木勉准教授の「長期間にわたる下層植生の除去が森林生態系の機能に及ぼす影響の評価」においても、下層植生の除去がカラマツ人工林の成長量減少につながる結果を示している。さらに、ミズナラ二次林とカラマツ人工林を比較した影響調査では、下層植生の変化に対する生態系機能への影響は、ミズナラ二次林よりもカラマツ人工林において大きいことが分かり、人工林における下層植生の重要さを示唆している。さらに、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、地方独立行政法人北海道立総合研究機構森林研究本部林業試験場、アメリカ地質調査所の研究グループは、北海道のトドマツの人工林の中で、少量の広葉樹をトドマツ伐採時に残すことで、鳥類の個体数が増加することを実証した。haあたりわずか20~30本の広葉樹を維持することで、皆伐よりも鳥類の個体数が統計的に優位に維持できるとしており、経済性を少しだけ犠牲にすることで、生態系が保全できることが分かっている。カーボンクレジットのように、この生態系保全による得られる様々な効果を証書化して経済価値として見える化し、木材価格に折り込む、あるいは証書だけを取引できるようになれば、この経済性の犠牲に関しても外部化して、コスト負担をサプライチェーンの下流側でも負ってもらうことが考えられる。 具体的な生物多様性を保全した森林の構想として、愛媛県久万高原町の「黄金の森プロジェクト」を前編の最後に紹介したい。プロジェクトをリードする久万造林は、創業1873年の150年以上に亘って、久万高原町で林業を営んできた。創業者である井部栄範がスギの苗木を植樹したのが、この地の林業の始まりとされている。今では、久万高原町はスギの名産地として知られ、愛媛県の林業研究センターが設置されるなど、県内の林業の中心地の一つとなっている。 黄金の森プロジェクトでは、皆伐した見晴らしの良い南向き斜面に、100年後を見据えた多様性を確保した森づくりを行っている。特徴的なのは、植樹する樹種の選定や植え付け場所などに、庭師の考えを取り入れていることである。日本庭園は、自然の美を狭い範囲に再現することを目的としており、元々は、自然の山の植生から何をどこに植えるかなどの技術が生まれている。その庭師の技術を逆輸入する形で、山に適用したのが、黄金の森プロジェクトである。スギやヒノキといった造林樹種だけではなく、広葉樹を含めた幅広い樹種を植栽している。 また、80年生を超えるスギが生えている林分(樹種や樹齢などが同じ森林を指し、森林管理の最小単位)では、下層植生の生育を促す間伐を定期的に行い、森林セラピーやキャンプ場として利用する計画、間伐や施業を直接見ることが出来るエリアを設ける計画など、林業関係者以外の人々が森に親しみを持ってもらうことも考えられており、オープンイノベーションが生まれる場を提供しようと考えられている。黄金の森プロジェクトが実施されているエリアは、全てドローンによるレーザー計測が終わっており、山全体の3Dデータや施業実績が整備されていることから、どのような施業を行うとどういった状態になるのか、というバックデータがあることも強みである。 後編では前編の内容を踏まえた企業の社会的責任と生物多様性に配慮した今後の企業の在り方について、まずはメセナ、ESG、SDGsといった企業の社会的責任の変遷を追う。そしてプロジェクトファイナンスにおける国際的なコンセンサスであるエクエーター原則や世界銀行EHS(環境・衛生・安全)ガイドラインなどを取り上げ、生物多様性保全の考え方を解説した上で、投資家の間で関心が高まっている非財務情報の開示にも触れて、今後の企業経営における生物多様性の重要性を強調したい。 以上 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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06/21 09:00
【オピニオン】FRBはタカ派的金利据え置きを決定
※画像はイメージです。 FRBは2025年6月17-18日にFOMCを開催し、市場予想通り全会一致で政策金利であるFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標を4.25-4.50%に据え置きました。政策金利の据え置きは4会合連続です。注目された政策金利見通し(中央値)では、2025年中の利下げ幅を0.5%ポイントと据え置いた一方で、26年の利下げ幅は前回(25年3月)時点の0.5%ポイントから0.25%ポイントへと修正、27年に関しては0.25%ポイントの利下げ見通しを据え置きました。25年の政策金利見通しの内訳を確認すると、年内利下げなしとの見通しが前回の4人から7人に増加しています。 また、25年10-12月期と26年10-12月期の経済見通し(中央値)は、実質GDP成長率(前年同期比)を下方修正した一方で、失業率、並びにFRBがインフレ指標として重視しているコアPCE(食品・エネルギーを除く個人消費支出)デフレーター(前年同期比)の見通しを共に上方修正しています。このことから、FRBが利下げに慎重化している背景には、景気見通しの改善ではなく、インフレ高止まりへの警戒感があると解釈できます。以上のように、今回の決定はタカ派(インフレ抑制重視)的な金利据え置きであったと言えそうです。 FRBは声明文で「経済見通しに関する不確実性は一時よりやや低下したものの依然として高水準にある」との見方を示しました。パウエルFRB議長も記者会見で物価の押上げ圧力が長期化するリスクを強調したうえで、FRBの責務の一つである完全雇用を達成するうえでは物価の安定が不可欠であると、スタグフレーション(景気減速下でのインフレ高進)リスクが高まる中で、インフレ抑制を重視する姿勢を示しました。 FRBの金融政策判断は「データ次第」との状況が続くと想定されます。パウエルFRB議長はインフレの鎮静化を待って利下げを実施する意向ですが、失業率の急上昇など雇用環境の悪化に対しては柔軟に対応する姿勢です。 野村證券ではFRBは当面の間様子見を続け、25年12月以降、3会合連続でそれぞれ0.25%の利下げ実施との見通しを据え置きました。一方、市場では、早ければ9月会合を皮切りに、25年中に2回の利下げが概ね織り込まれています。 政策判断を巡るノイズとしては、トランプ大統領による利下げ要請が挙げられます。今後、FRB議長の後任人事を巡って市場の政策金利見通しに影響を与える可能性があり、注意が必要です。 FRBは2025年の2回の利下げ見通しを維持 (注)FOMCは2025年6月17-18日に開催。予想の中央値。実質GDP成長率及び2つの物価指標は各年10-12月期の前年同期比。失業率は民間部門の各年10-12月期平均の失業率。コアPCEデフレーターは価格変動の激しい食品とエネルギーを省いたもの。政策金利はFF(フェデラル・ファンド)金利のレンジの中央値で、各年末値。(出所)FRBより野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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06/21 07:00
【来週の予定】中東情勢と関税交渉の行方に注目集まる
来週の注目点:中東情勢、日米の関税協議、主要国の企業景況感 イスラエルがイランへの攻撃を13日(金)に開始してから、中東情勢を巡る緊張が株価の上値を抑えています。今後のポイントは、米国が軍事行動に出るか、イランとイスラエルが停戦合意に応じるか、イランがホルムズ海峡を封鎖するかなどです。その可能性は低いと見られますが、仮にホルムズ海峡が封鎖された場合には、原油価格の急騰や、株価への悪影響が懸念されます。 また、トランプ政権による相互関税の上乗せ分の停止期限の7月9日(水)が近づき、各国との協議が焦点となります。難航している日米交渉は、6月24日(火)~25日(水)のNATO(北大西洋条約機構)首脳会議で首脳協議が実施される可能性があり、注目されます。 日米の金融政策に関しては、24日(火)及び25日(水)にパウエルFRB議長の半期に一度の議会証言、25日(水)に日銀田村審議委員の発言機会が予定されています。また、同日に6月日銀金融政策決定会合における主な意見が公表されます。今後の日米の金融政策を占う上で重要です。 米国の経済指標は、23日(月)発表の6月S&PグローバルPMI速報値、24日(火)に6月消費者信頼感指数(コンファレンスボード)、26日(木)に5月耐久財受注、27日(金)に5月個人消費支出(PCE)・所得統計が発表されます。 日本の経済指標は、23日(月)発表の6月auじぶん銀行PMI速報値、27日(金)に6月東京都区部消費者物価指数が発表されます。6月東京都区部(総務省版)コアコアCPI(食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く)は前年同月比+2.2%と、前月の同+2.1%から加速したと野村證券では予想します。家賃の引き上げや、25年度の賃上げを受けた価格転嫁が反映されると見ています。 ユーロ圏では、23日(月)にドイツやユーロ圏の6月HCOB PMI速報値、24日(火)にドイツの6月Ifo企業景況感指数が発表されます。ドイツでは新政権が発表した財政政策とECBによる利下げが景況感の改善に寄与すると見ています。 (野村證券投資情報部 坪川 一浩) (注1)イベントは全てを網羅しているわけではない。◆は政治・政策関連、□は経済指標、●はその他イベント(カッコ内は日本時間)。休場・短縮取引は主要な取引所のみ掲載。各種イベントおよび経済指標の市場予想(ブルームバーグ集計に基づく中央値)は2025年6月20日時点の情報に基づくものであり、今後変更される可能性もあるためご留意ください。(注2)画像はイメージです。(出所)各種資料・報道、ブルームバーグ等より野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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06/20 16:25
【野村の夕解説】中東情勢への懸念が重石、日経平均は一進一退 85円安(6/20)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 寄り前に発表された5月CPI(全国消費者物価指数)で、生鮮食品を除くコア指数は食料品価格の上昇などを受けて前年同月比+3.7%と、市場予想(同+3.6%)を上回りました。ただし、5月末に5月東京都区部コアCPIでも同様の結果がみられていたことから、株価への影響は限定的で、20日の日経平均株価は前日比16円安の38,472円と小幅安で寄り付きました。その後、半導体関連株の上昇を受けて、一時は前日比+157円まで上昇する場面がありました。しかし、米ホワイトハウスが19日、トランプ大統領が2週間以内にイランへの攻撃に関して決定を下すと述べたと発表し、中東情勢悪化への懸念が高まったことが重石となり、上げ幅を縮小しました。一方、20日に赤澤経済再生担当相が、相互関税上乗せ分の発動猶予期限である7月9日以降も、日米関税交渉継続を示唆する発言をしたことから、午後に入って米ドル円が145円40銭台半ばへと、やや円安方向に進み、日経平均株価の下支え要因となりました。前日終値を挟んで一進一退の動きとなった日経平均株価の終値は、前日比85円安の38,403円となりました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注) データは15時45分頃。米ドル/円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。米ドル/円は11:30~12:30の間は表示していない。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 20日、米国では6月フィラデルフィア連銀製造業景気指数が発表されます。トランプ関税により経済の不透明な状況が続く中、企業の景気見通しに注目が集まります。 (野村證券投資情報部 秋山 渉) ご投資にあたっての注意点
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06/20 12:31
【今週のチャート分析】日経平均株価、18日に38,800円台も、地政学リスクの高まり受け反落
※画像はイメージです。 ※2025年6月19日(木)引け後の情報に基づき作成しています。 日経平均株価の下値は徐々に切り上がりが見られる 今週の日経平均株価は、半導体関連株を中心に上昇し、18日まで3日続伸となった後、中東情勢を巡る不透明感などから、上値の重い展開となりました。 これまでの動きをチャートから振り返ってみましょう。日経平均は5月中旬以降、上昇ペースが緩やかになっているものの、下値は徐々に切り上がっています。 そして6月18日までの3日連続上昇により、6月11日の高値(ザラバベース:38,529円)など、戻りの節目が集中する38,500円処を突破し、38,800円台まで上昇しました。今後の上値メドとしては、心理的な節目である40,000円や、昨年12月の高値(40,398円)が挙げられます(図1)。 一方、6月19日は地政学リスクの高まりにより反落しました。今後さらに調整が進む場合、これまで下値を支えてきた25日移動平均線(6月19日:37,860円)や代表的な移動平均線である200日線(同:37,928円)がサポートとなるかがポイントです。もしこれらの水準を下回る調整となれば、5月22日安値の36,855円が次の下値メドとなります。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 (注1)直近値は2025年6月19日時点。 (注2)トレンドラインには主観が入っておりますのでご留意ください。(出所)日本経済新聞社より野村證券投資情報部作成 イスラエル×イラン 緊迫の攻防と株式市場の行方 2025年6月に入り、中東の地政学リスクが高まり、株価の上昇が抑えられています。6月12日、イスラエルは核施設や幹部を狙った先制攻撃を実施し、イランも反撃しました。その後、両国の応酬が続いています。 過去を振り返ると、2024年4月のイランとイスラエル間の史上初の直接交戦時や、24年10月交戦時のマーケットの反応は一時的なものにとどまりました(図2)。 両国は国境を接しておらず、イスラエル周辺の親イラン勢力が弱まる中、イラン側の報復は限定的です。米国によるイラン攻撃の可能性が報じられていますが、米国は紛争の長期化を望んでいないとみられます。今後、紛争が長期化しないとすれば、過去同様マーケットの反応は一時的と予想されます。 (注1)直近値は2025年6月18日時点。ただし原油先物価格は17日時点。出来事は全てを網羅している訳ではない。(出所)日本経済新聞社、S&P ダウジョーンズ・インデックス社、Financial Times社、野村證券経済調査部より野村證券投資情報部作成 一方紛争の拡大・長期化で原油価格が急騰すれば株価への影響は避けられませんが、数年単位の長期上昇トレンドへの影響は限定的と考えられます。NYダウはこれまで多くのショックや紛争を乗り越え、高値を更新してきました(図3)。 過去の超長期上昇トレンドは約22~24年続いており、今後も様々な出来事を乗り越えながら史上最高値を更新していくことが期待されます。 (注1)チャートの直近値は2025年6月13日。(注2)トレンドラインには主観が入っておりますのでご留意ください。(注3)日柄は両端を含む。(注4)全てを網羅している訳ではない。(出所)S&P ダウジョーンズ・インデックス社データより野村證券投資情報部作成 (野村證券投資情報部 岩本 竜太郎) 【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら ご投資にあたっての注意点
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06/20 08:21
【野村の朝解説】中東情勢を受け欧州株は軟調(6/20)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 19日の米国市場は奴隷解放記念日(ジューンティーンス)のため休場でした。欧州市場では、ドイツDAXは3日続落、イギリスFTSE100は反落しました。イランが発射したとされるミサイルがイスラエルの病院に着弾し、またイスラエルの攻撃によってイランの原子力施設が破壊されたと報じられるなど、中東情勢の緊迫化が引き続き市場に悪影響を及ぼしました。米トランプ大統領はイランに対する米国による攻撃について2週間以内に判断するとコメントしました。本日、国連安保理は緊急会合を開催し、中東情勢について討議を行います。ドル/円は日本時間の昨日夕刻時点とほぼ変わらない水準で推移しています。 19日にスイス国立銀行は政策金利を従来の0.25%から0%に引き下げると発表しました。2022年以来、約3年ぶりの低水準です。5月の消費者物価が前年同月比でマイナスとなるなど物価の下落が背景にあります。一方、英イングランド銀行は政策金利(中銀預金金利)を4.25%で据え置きました。 相場の注目点 来週は複数の米FRB高官による発言が予定されています。FRBは6月FOMCで、2025年10-12月期の実質GDP成長率見通しを引き下げる一方、物価見通しは引き上げました。パウエル議長は、経済見通しの不確実性が異例の高水準にあるとコメントしました。不確実性が高い中で、各高官の今後の利下げの時期などに対する考え方などが注目されます。 本日のイベント 米国では、6月フィラデルフィア連銀製造業景気指数が発表されます。市場予想は-1.7と、5月の-4.0、4月の-26.4からの回復基調が継続するとみられています(0が好況と不況の分水嶺)。 (野村證券 投資情報部 竹綱 宏行) (注)データは日本時間2025年6月20日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 ご投資にあたっての注意点
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06/19 16:16
【野村の夕解説】上昇に転じる材料に欠ける 日経平均株価は反落(6/19)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 日本時間19日未明に発表されたFOMCの結果に大きなサプライズはなく、米国主要3指数は揃ってほぼ横ばいで引けました。19日の日経平均株価は前日比26円安の38,858円で寄り付いた後は下げ幅を拡大させ、1日を通して軟調な推移が続きました。18日の日経平均株価の終値が4ヶ月ぶりの高値となったことで、一旦売りを出す動きもみられ、上昇のけん引役となっていた値がさの半導体関連株の下落が重石となりました。また、午前中には一部報道機関が、米国が数日以内にイランを攻撃する可能性に備えていると報じたことも重石となりました。後場に入ってからも上昇に転じる材料には欠け、終値は前日比396円安の38,488円の安値引けとなり、4営業日ぶり反落となりました。個別株では、18日に発表された日本の5月訪日外国人客数の推計が、5月としてこれまでで最多となったことで、インバウンド関連とされる百貨店や空運の一角などが逆行高となりました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注) データは15時45分頃。米ドル/円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。米ドル/円は11:30~12:30の間は表示していない。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 19日の米国株式市場は、ジューンティーンス(奴隷解放記念日)のため休場です。英国ではイングランド銀行(中央銀行)が金融政策決定会合の結果を発表予定です。市場では、今会合での政策金利は据え置きと予想されています。 (野村證券投資情報部 清水 奎花) ご投資にあたっての注意点