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10/21 16:08
【野村の夕解説】日経平均株価小幅に反落、27円安 選挙見据え小動き(10/21)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 前週末の米国株主要3指数は揃って続伸し、NYダウは3日連続で終値ベースでの最高値を更新しました。本日の日経平均株価は前週末比21円安の38,960円で始まり、その後は反発したものの39,000円を挟み一進一退となりました。衆議院議員総選挙の投開票を27日(日)に控え、国内政治の先行き不透明感が漂い、上値の重い動きが続きました。 また、本日午前中に、中国の中央銀行である中国人民銀行が実質的な政策金利を引き下げました。株式市場からは引き下げは想定通りと受け止められ、取引時間中の日本株への影響は限定的でした。大引けは前週末比27円安の38,954円で引け、小幅反落となりました。 個別株では、前週末の米国ハイテク株高を受けアドバンテストが大幅に上昇しました。終値は前週末比+2.67%で引け年初来高値となり、1銘柄で日経平均株価を56円押し上げました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注)データは15時15分頃。ドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 22日(火)にIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しが発表され、経済情勢に対する判断が注目されます。日本では25日(金)の10月東京都区部消費者物価指数、27日(日)の衆議院議員総選挙の結果が注目されます。選挙結果などに対する観測報道に株式市場が左右される可能性もあります。 (野村證券投資情報部 清水 奎花) ご投資にあたっての注意点
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10/21 08:30
【野村の朝解説】米国株上昇 中国経済指標、好決算を好感(10/21)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 18日の米国株式市場では主要3指数揃って上昇しました。市場予想を上回る中国の経済指標を受け、グローバル景気に対する見方が改善したほか、ネットフリックスの好決算などを受け、テクノロジー株が指数を押し上げました。 相場の注目点 市場の注目点は本格化する日本の2024年7-9月期決算発表です。2024年9月末時点での、ラッセル野村Large Cap(除く金融)のコンセンサス予想は、3.6%増収(前年同期比)、同3.2%営業増益となっています。2024年4-6月期に比べ、売上(+同7.4%)、営業利益(+同16.3%)ともに減速する予想となっていますが、日本では相当程度高い確率で、四半期実績は事前の市場コンセンサスを上回って着地しています。また、決算の実績値と同時に注目されるのが、会社側の2024年度通期業績見通しの修正です。一般的に期初の会社側見通しは、保守的な傾向が強く、時間の経過とともに実態に即して修正されてゆきます。過去の傾向では、7-9月期決算の発表シーズンである、10~11月にかけて断層的に会社側見通しの変更件数が増加します。1年間のうち半分が経過し、通期業績の着地点がある程度読めるようになることが会社側の背中を押しているのでしょう。 本日のイベント 米国ではダラス連銀ローガン総裁、カンザスシティー連銀シュミッド総裁が講演を、ミネアポリス連銀カシュカリ総裁がイベント参加が予定されています。 (野村證券 投資情報部 大坂 隼矢) (注)データは日本時間2024年10月21日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 野村オリジナル記事の配信スケジュール ご投資にあたっての注意点
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10/20 16:00
WAGYUの輸出拡大に向けて -国産牛肉の輸出拡大に向けた取り組みのポイント-
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 シニア・アソシエイト 谷 和希(2024年10月10日) はじめに 日本を代表する畜産物の中に「和牛」がある。日本では、お祝い事や年末などに食されることも多く、国内で生産されている肉牛(枝肉ベース)のうち約48%(2023年度実績)が和牛となっている(他は「交雑牛」と「ホルスタイン牛」)。和牛を中心とする国内の牛肉消費は、高度経済成長期(1960年頃~1970年代初め)から2000年頃までの間に5倍ほど増加したが、ここ20年はほぼ変わらず伸び悩んでいる。その一方、昨今、訪日外国人の増加や国の輸出促進なども奏功し、米国や香港をはじめとする海外では「WAGYU(和牛)」の人気が高まっている。事業拡大を志向する日本の肉牛事業者にとっては好機と考えられる。 本稿では、国内肉牛業界の現状と課題を整理し、持続的な輸出拡大に向けた取組みのポイントを考察する。 1.国内肉牛業界の現状 (1)肉用牛の飼養戸数と頭数 国内の他産業と同様、肉牛業界でも担い手は減少し続けている。肉用牛の飼養農家戸数は1989年に24.6万戸あったが、毎年減少を続けており、2023年2月1日時点で3.8万戸と、この30年強でおよそ85%も減少した。この間、飼養農家戸数が前年を上回る(増加している)年はないことから、今後も減少幅が小さくなったとしても、減少トレンドは変わらないと想定される。 しかし、肉用牛の飼養頭数をみると、1989年時点で162.7万頭に対し、2023年時点では188.2万頭と増加している。この間、約160万頭から190万頭の間で推移しているが、肉用牛は相場により価格が左右される性質を持っていることから、その時期の相場によって頭数を調整しているものと考えられる。 その結果、一戸当たりの飼養頭数は1989年の6.6頭から2023年で48.8頭に増加しており、一戸当たりの規模拡大が進展していることがわかる(図表1)。規模拡大により、飼料や飼育設備の単位調達コストの削減効果をはじめ、管理や運営の効率も向上し、生産性の向上というスケールメリットを実現できる。肉用牛経営の大規模化はトレンドとなっており、今後は小規模事業者が減少し、大規模事業者が増加、もしくは更なる規模拡大をしていくことが想定される。 図表1 国内肉用牛の飼養戸数・頭数・一戸当たりの飼養頭数推移 (出所)農林水産省畜産統計より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (2)肉用牛の生産量と消費量 次に、肉用牛の国内生産量と消費量の推移を確認したい。肉用牛は大きく、「和牛」、「交雑種」、「ホルスタイン」の3つに分類されている。和牛は黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種などが代表的で、交雑種はホルスタインと和牛の雑種、ホルスタインは生乳を生産する牛を肉用として扱うものとなっている。 肉用牛の生産量は、2003年以降、50万トン(枝肉ベース)近辺で推移している(図表2)。しかし、内訳には大きな変化が生じており、上記の肉用牛種の中で価格の高い和牛の生産量が2003年の18.8万トン(全体構成比38%)から2023年では24.1万トン(同48%)に増加している。 図表2 肉用牛の生産量と和牛比率(和牛が肉用牛生産量に占める割合)の推移 (出所)農林水産省「畜産物流統計」、「食糧需給表」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 和牛の生産比率が上昇している理由としては、出荷時の単価が交雑牛やホルスタイン牛よりも高いことが挙げられる。例えば、2024年7月の東京市場の平均卸売値(枝肉相場)をみると、和牛(去勢A-5:2,353円/kg)は、交雑牛(去勢B-3)の約1.5倍、ホルスタイン牛(去勢B-2)の2.3倍の価格差がある。ちなみに、2023年はホルスタインの雄(生乳を生産できないため、肉牛として取り扱われる)の子牛の価格は1,000円/kgでも買い手がつかないような相場も経験した。理由としては、飼料価格(生産コスト)が高騰していたことで販売価格の安いホルスタインを生産しても採算が合わず、肥育農家が子牛を仕入れなかった(需要が極端に減少した)ためである。 牛肉は、「歩留等級(A~C)」と「肉質等級(5~1)」を組み合わせた15段階で格付されており、歩留等級は枝肉から得られる部分肉の割合を評価し、部分肉歩留が標準より良いものはA、標準のものはB、標準より劣るものはCと判定される。また、肉質等級は、(1)脂肪交雑(サシ)、(2)肉の色沢(しきたく)、(3)肉の締まりおよび肌理(又はキメ)、(4)脂肪の色沢と質―の4項目を5段階で評価し、四つの項目中、最も低い等級が肉質等級として判定される。最近では和牛肥育の技術も向上してきており、2023年は、最高級のA-5ランクの占める割合が最も高く、約3割を占めた。前項で述べた通り、スケール化による効率化も進んでいるが、利益率(単価)の高い牛肉生産による効率化も進展している。 消費量については、高度経済成長期以降の食生活の変化に伴い、牛肉の一人当たり消費量は2000年までの30-40年で5倍以上に増加した。しかし、それ以降の牛肉の消費量は115~135万トンのレンジで推移し伸び悩んでいる。また、独立行政法人農畜産振興機構(以下「alic」と記載)によると、昨今、牛肉の家計消費(内食)は減少し、外食・中食への仕向け量が拡大しているという。また、牛肉は豚肉や鶏肉と比較して価格が高く、特に和牛はお盆や年末などの消費は堅調であるが、それ以外は動きが鈍く、牛肉の家計需要は少しずつ豚肉・鶏肉にシフトしつつあるという。 このように、生産現場では価格の高い和牛を生産する事業者が増加しており、経営の効率化、利益率の向上の観点から、今後も販売価格の高い和牛を生産する傾向に変化はなく、むしろ拡大させたい意向がある。その一方で、消費現場を見ると、今後も国内の牛肉消費の動向が劇的に変わることは考えにくいが、特に高級な和牛については消費する機会が限定的になりつつあり、需要が徐々に減少傾向にある。このことにより、国内の肉牛生産者と一般消費者の間には、徐々に需給ギャップが拡がりつつある。 2.国産牛肉の輸出拡大の可能性 前章で確認をした通り、生産現場と国内需要には需要と供給のギャップが生じおり、今後、事業拡大を企図する肉牛事業者の対象市場は海外が有望になると考えられる。日本は消費が低迷しかつ人口減少が進んでいるが、世界的には人口は増加しており、今後も増加を続ける見込みである。特に経済の成長に伴い、中間層も増加することが見込まれていることから、購買力も高まる海外は魅力的な市場になることが想定される。 今では海外においても日本の牛肉の認知度は高まっており、特に和牛に関しては、日本食が海外で受容されるのに伴い、アメリカや欧米、香港などをはじめとした国々において「WAGYU(和牛)」として、その認知度は向上している。農林水産省では2012年に「農林水産業・地域の活力創造プラン」において、2019年時点で農林水産物の輸出金額を1兆円と目標設定をしており、その中で、日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO ジェイフードー)をJETRO内に創設している。当センターでは、SNSや動画等のデジタル広告、PRイベントの開催等現地でのプロモーションを実施しており、牛肉に関しては、「一過性に終わらない、継続的な日本和牛消費の維持・拡大」を目指し、ウェブサイト・SNS・動画を中心とした情報発信、店舗キャンペーンなどを通じ、現地の状況やニーズに即した施策を展開し、また、部位別の特徴を活かした料理提案を行い、日本和牛が様々なメニューやシーンで楽しめる食材であることを訴求している。 更に2020年には、食料・農業・農村基本法に基づき、国が中長期的に取り組むべき方針を定めた「食料・農業・農村基本計画」の中で、戦略的な開拓として農林水産物・食品の輸出を促進する旨を定めている。本計画の中では、輸出環境の整備や商流の構築、プロモーションの促進などの施策が盛り込まれており、それらを踏まえて、2030年までに5兆円の輸出金額目標を設定している。同年には、「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」において、各品目別に具体的な輸出戦略を掲げており、輸出拡大余地の大きい27品目を重点品目に選定し、品目ごとに課題を明確化しその対応に取り組んでいる。牛肉の輸出拡大に関しては、上記のJFOODOとの連携をさらに強めた消費者向け販促プロモーションの強化や、食肉処理施設の再編・改修など、様々な角度から各種課題の解決に取り組んでいる。 上記のような取組みなどが奏功し、牛肉の輸出額は順調に推移しており、2023年の牛肉の輸出金額は578億円まで増加している(図表3)。国は今後、牛肉輸出の更なる拡大を目指しており、2025年までに1,600億円(2023年比2.8倍)、2030年までに3,600億円(同6.2倍)を目標金額としており、更なる拡大に向けた取り組みが必要となる。 図表3 牛肉の輸出額の推移 (出所)農林水産省「農林水産物輸出入概況」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 3.国産牛肉の持続的な輸出拡大に向けた課題 日本産牛肉の輸出額は堅調に推移しているものの、国が掲げる長期目標(2030年までに3,600億円)の達成に向けた課題は大きく2つある。 まず、1つ目は、安定的な生産体制の確立である。今後拡大する海外マーケットを対象とする場合、海外事業者の需要に応じた出荷量の確保が求められる。一事業者当たりの大規模化は年々進んでいるが、生産規模を拡大するには事前に一定規模の資金調達が必要となる。具体的には、肉用牛を飼養するための牛舎の設置、敷地の確保、子牛の仕入れ、飼料の調達、人材の確保などが挙げられる。牛肥育においては、子牛の調達から成牛の出荷までに18~22カ月の期間を要するが、その期間は出荷ができないため、売上に伴うキャッシュインが得られない一方で、飼料や人件費などの運営費用はキャッシュアウトとして発生する。更に直近では円安の影響による飼料の高騰に加え、人件費、光熱費なども上昇しており、小規模生産者がその資金を調達し、すぐに大規模化を実践することは容易ではない。 もう1つの課題は、海外の多様化する商品ニーズへの対応である。例えば、日本産牛肉は、これまでは最も高価なA5ランクが好まれていたが、徐々に脂身の少ない肉質等級へのニーズも確認されはじめている。現に日本では、交雑種のブランドがいくつか台頭してきており、和牛と比較して価格は安いが、脂身を抑えながらも旨味のあるものとして人気がある。今後は海外でも同様にニーズが多様化することも想定され、このようなニーズを踏まえて生産を開始しても、出荷をするまでに、妊娠の期間から、出生、肥育の工程を含めると3年ほどの期間を要する。市場ニーズをいかに早く生産現場に反映させるかは、海外市場を拡大していく上では欠かせない重要なポイントとなる。 同様に、海外では輸出先の国によって需要のある部位が異なる。alicによると、2023年の部位別輸出量においては、柔らかくステーキに適した部位で比較的高価な「ロイン」が欧州(EU)、北米ともに約80%、赤身である「かた・うで・もも」では欧州12%、北米16%、「バラ」は欧州3%、北米7%となっている(図表4)。その一方、アジア向けでは「ロイン」が43%、「かた・うで・もも」は36%、「ばら」が18%となっている。2022年からの1年の間でも、「ロイン」の輸出量が減少し、「かた・うで・もも」の赤身類が増加しており、需要の変化がみられる。今後は国ごとの食文化によっても、牛の種類に加えて部位の需要が多様化する可能性も考えられる。 このように、持続的な輸出拡大に向けた主要課題としては、安定的な生産体制の確立と海外の多様化する商品ニーズへの対応が挙げられる。 図表4 牛肉輸出量の部位別割合(左:2022年、右:2023年) (出所)独立行政法人農畜産業振興機構「令和4年の畜産物の輸出動向について」「令和5年の畜産物の輸出動向について」 4.国産牛肉の持続的輸出拡大に向けたポイントと先進事例 上記課題の解決にあたっては、自社の事業領域を超えて生産から輸出までのサプライチェーンを自社グループで内製化することが重要である。自社のみで必要な機能を構築することが困難な場合、もしくはスピード感を持った体制構築を進める場合には、M&Aや戦略提携を採る方法が考えられる。 上記を実践し、事業を拡大させている事業者に鹿児島県のカミチクグループと滋賀県の岡喜グループがある。カミチクグループは自社で生産から販売、輸出にかかるすべての事業領域を内製化することで事業を拡大させており、また、戦略パートナーとも連携した輸出事業の拡大に取り組んでいる。岡喜グループは、戦略パートナーと連携をしながら輸出事業に参入し、現地法人を設立したことで柔軟な経営を実践している。また、出荷量の不足を食肉センターと連携して補うことで、更なる輸出事業の拡大に取り組んでいる。以下、2社の先進事例を概述する。 (1)カミチクグループの取組み 鹿児島県のカミチクグループは、16のグループ会社を有する日本を代表する畜産事業者で、肉牛の生産事業、加工・卸事業、外食・小売事業、輸出事業など多岐にわたる事業を自社グループで展開している。当社は、1985年6月に有限会社上畜(現在の株式会社カミチク)を設立し、牛肥育から事業を開始している。一定規模の生産体制を確立したのち、M&A等を活用して、得意としている生産の強化に加え、川中、川下にあたる、加工・卸・外食・小売など様々な事業をスピーディーに展開してきたことで、マーケットの需要に柔軟に応えながら成長を続けている。輸出においては、2010年にタイ、マカオに輸出を始めたことをきっかけに2023年には台湾、香港、ベトナム,、アメリカなど様々な国で事業を展開している。 2017年に輸出を開始したベトナムに関しては、今後食肉需要が伸びるターゲット国の一つに位置づけており、2020年に高級焼肉店「WAGYU DINING USHINO KURA(和牛ダイニングうしのくら)」を出店している。また、2019年には、大手外食チェーンのワタミと業務提携し、合弁会社(ワタミカミチク株式会社)を設立の後、焼肉事業を展開している。その後、ワタミカミチクは海外へ進出し、カミチクは自社で生産した牛肉をワタミの海外店舗に納める連携体制で輸出に取り組んでいる。2023年には、「カミチク食肉輸出コンソーシアム」を設立し、鹿児島県内の26の生産者及びカミチクファームで生産された牛(和牛が中心)を鹿児島食肉センターでと畜し、カミチクが加工・輸出を行っている。海外拠点においては現地の人材を採用していることからも、現地で使いやすいカット規格に加工しており、また、カミチクのカット技術者も現地に派遣し、適切なカット方法、肉の取扱い方をレクチャーし、ロース以外の活用方法も提案するなど、現地のニーズに応じた輸出戦略を実践している。 また、カミチクはグローバル市場で日本の農業を強くするために、2008年にM&Aにより株式会社アンドワークスを取得。さらに、エサづくりから牛の生産・肥育・加工販売・外食・輸出まで一貫したバリューチェーンの構築を目的とする6次化事業体・株式会社ビースマイルプロジェクトを設立している。設立の目的のひとつに「海外への牛肉販売拡大」を掲げており、カミチクだけでなく、官民ファンド・金融機関・商社・飼料会社・食品メーカーなどの幅広い業種の企業と連携している。バリューチェーンのすべてを自らが主導して構築するカミチクの取り組みは、輸出拡大に向けた新しい動きと考えられる。 (2) 岡喜グループの取組み 滋賀県の岡喜グループは、肉牛生産を手掛ける株式会社岡喜牧場(以下「岡喜牧場」と記載)、国内卸・輸出を手掛ける株式会社オカキブラザーズ(以下、「オカキブラザーズ」と記載)、国内のレストラン・小売事業を行う株式会社岡喜商店(以下「岡喜商店」と記載)、またタイ現地にて卸売・レストラン事業を行うOKAKI Internationalなど複数社をグループに持つ。自社で日本三大和牛のひとつである近江牛を常時500頭ほど飼養しており、そこで生産された高品質な近江牛を自社で国内外に販売する6次産業事業者である。現在輸出国は米国、EU、シンガポール、タイ、フィリピン、マカオ、台湾、ミャンマーと多国に及び、自社で生産された近江牛以外にも滋賀食肉市場・京都食肉市場から調達した国産牛の輸出拡大にも取り組んでいる。 輸出をスタートしたのは2011年で、国内商社経由でシンガポール輸出のオファーがあったことをきっかけに、新規事業として立ち上げている。事業開始当初は現地の問屋への販売がメインであったが、想定した価格で販売できなかったことや特定部位のみに取引が集中するなど、思い通りの事業が展開できなかったため、自社で現地にて卸・レストラン事業ができる会社としてタイをメインターゲットとしたOKAKI Internationalを設立している。現地法人の設立にあたっては、現地のレストラン市場に長けた人材とともに拠点探しから行っており、現地のニーズを捉えた戦略構築ができている。 岡喜グループでは、自社で近江牛の生産、加工、流通すべてを手掛けていることから、ブランドストーリーを直接現地で伝えることで差別化に成功している。現在取り組んでいる米国への輸出に関しても「岡喜和牛」として自社ブランドの確立にも取り組んでおり、今後も事業拡大を見据えている。OKAKI Internationalのレストラン事業では、現地の富裕層をターゲットにし、現地のニーズを汲み取りながら、需要に対応した仕入を行っている。また、卸事業では、サーロインやヒレなどへの需要が旺盛であるため、余った他の部位についてはレストランにて加工などの工夫を行った上で提供できるよう、柔軟な輸出戦略を構築している。当初はパートナーともに輸出事業をスタートしながらも、自社で輸出事業を内製化することにより、市場の細かなニーズの汲み取り、無駄を省いた効率的な事業展開を実現している事例と言える。 日本産牛肉の輸出に取り組む先進事例を2社紹介したが、まず、カミチクグループの事例では、M&Aや異業種の事業者との提携等の活用により自社の領域を広げながら、戦略的パートナーと一緒に新たな事業に乗り出すなど、自社の有するノウハウを最大限に活かす戦略を採っている。これにより、多面的なアプローチで輸出事業の拡大を実現している。 また、岡喜グループの事例では、パートナー事業者との連携をきっかけに海外進出を行い、マーケットのニーズと自社の経営の方向性をうまく組み合わせて、外食事業などにも展開するなど、海外への輸出事業を拡大している。自社で現地での販売事業も内製化していることを活かして、「岡喜和牛」として利益率(単価)を高める戦略も採っている。更に今後は海外の需要量に対応するためにも、滋賀や京都の食肉市場とも連携を深めており、更なる輸出事業の拡大に取り組んでいる。 輸出事業を成功させるためには、生産から流通におけるバリューチェーンにおいて、その機能を直接・間接的に内製化することが重要となる。自社単独で内製化できる場合はそれが望ましいが、他領域に進出することは容易ではなく、費用や時間もかかり、ビジネスチャンスを逃すこともある。それらを解決するために、各機能をグループ内に取り込むことで直接的にその機能を内製化する、もしくは外部との提携により間接的に機能を内製化することが有効な手段となる。特に海外マーケットにおいては、文化や習慣も異っているため、ゼロから参入するよりも、ノウハウを持つパートナーと連携することで、スピード感のあるビジネス展開が期待できる。 海外では和牛の認知度、需要が高まってることから今後は市場の拡大が見込まれ、それに伴ってニーズの多様化にも対応する必要が生じてくることが想定される。輸出拡大においては生産から輸出に至るまでの機能を内製化することによって、市場のニーズに応えていくことが重要なポイントとなる。 おわりに 国内の肉牛事業者は輸出を行うにあたって、自社の不足する機能を補うことができるパートナーとの連携を行うことが成功のポイントであることは前述の通りである。連携にあたっては、どのようなパートナーと連携をするかが重要になる。例えば、肉牛生産者は生産技術にノウハウはあるが、加工や流通に関するノウハウや機能が不足しているケースが多い一方で、加工・流通業者は、肉用牛生産のノウハウや機能を有していないケースが多い。また生産された肉牛は出荷時に700㎏ほどに成長するため、長距離の輸送にはコストもかかる。そのため、と畜場や加工場、また輸出の際に利用する空港や港など立地についても考慮しながら効率的な流通網(コールドチェーン)を構築する必要がある。このような課題を網羅的に検討した上で、事業パートナーを選定することが重要になる。 輸出の拡大は副次的効果もある。海外での需要が高まることで、その影響は国内にも波及し、軟調な国内需給が引き締まり、国内牛肉価格の適度な上昇が期待される。生産者の所得が向上すれば担い手不足の課題解決にも寄与しよう。 本レビューで述べた課題はひとつの視点であり、実際に海外に輸出する際には、国ごとに異なる食肉の規制やアニマルウェルフェアへの対応、HACCP、各種手続きなど、様々な課題がある。このような様々な課題をクリアするには、国や自治体、各種関係機関とも密な協力・連携が必要になる。これらの課題を各事業者間で連携しながらクリアし、日本が誇れる和牛を世界に届ける輸出ビジネスが、日本農業の持続的な発展に貢献することを願う。 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 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10/20 09:00
【動画 3分チャート塾】シーズンⅡ:第1回 移動平均線のしくみを知ろう
「動画 3分チャート塾」は、株価チャートの見方を学びたい初心者から中級者の方向けの動画シリーズです。 シーズンⅡ「相場の見方の強い味方、移動平均線」初回の今回は、移動平均線の基本的な仕組みについて説明しています。 シーズン I:意外と知らないローソク足(全8回)ローソク足の基本の読み方や中長期的な相場の捉え方などについてわかりやすく解説していきます。シーズンII:相場の見方の強い味方、移動平均線(全9回)移動平均線の基礎や活用法についてわかりやすく解説していきます。シーズンIII:上値、下値のメドを探ろう(全10回)上値、下値メドの探り方についてわかりやすく解説していきます。シーズンIV:相場の過熱感を測るには?(全9回)オシレーター系指標についてわかりやすく解説していきます。シーズンV:トレンドラインを引いてみよう(全9回)トレンドラインについてわかりやすく解説していきます。 ご投資にあたっての注意点
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10/19 16:00
消費市場としての中国への対応再考 -都市階級毎の消費社会フェーズの理解と対象市場への戦略アプローチ-
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 コンサルタント 周 旋(2024年10月10日) 1. 強まる中国リスクと消費市場の回復 (1) リスクが顕在化した近年のマクロ経済 2016年に中国の経済成長率が7%を下回り、1980年代から概ね10%前後と高い成長率を維持してきた局面が変化し、中国の経済停滞リスクが注目されている。2023年になると、不動産大手の恒大集団の実質的な経営破綻など顕在化した中国の不動産バブル崩壊、それを背景とする中国経済のさらなる低迷、失業率の急速な上昇などが、中国事業を展開している多くの外国企業の経営者に不安を与えた。 実際、2023年7~9月期の外国企業の中国への投資は、国際収支が公表された1998年以降で初めてマイナスとなった。同年10~12月期はプラスと持ち直したが、年間では前年比82%減となり、30年ぶりの低水準にとどまった。同年12月に米国の格付け会社のムーディーズ・インベスターズサービスが中国の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。外国企業による中国事業の縮小や撤退、中国国内に投資した資産の回収が多く行われ、経済成長の鈍化や政治リスク、つまり「チャイナリスク(China risk)[1]」への警戒が外国企業の対中投資意欲を減退させているとみられる。 2024年に入ってからもその傾向に大きな変化はない。中国国家外貨管理局が8月9日に発表した同年4〜6月の国際収支によると、外資企業の直接投資は3期ぶりにマイナスとなった。これは、工場新設など新規投資分が、撤退や事業縮小に伴う資本の回収分を下回ったことを示す。中国の経済成長の期待値が低下する中で、特にコロナ禍以降、米中対立による経済安全保障の観点からサプライチェーン(供給網)の見直しが加速し、外国企業が中国の事業上の位置付けを引き下げていることが背景にある。それに代わる投資が、中国以外の国々で行われることになろう。 (2) 岐路に立つ日本企業 日本企業にも中国事業を見直す動きが相次いでいる。中国日本商会[2]が2024年3〜4月に実施した調査によると、同年の中国への投資額に関して、「前年より減らす」が22%、「投資はしない」が22%と、慎重な姿勢が強まり、「前年と同額」は40%で、「増やす」・「大幅に増やす」はわずかの16%にとどまった。 その一方、日本貿易振興機構(ジェトロ)が発表した「2023年度海外進出日系企業実態調査 中国編」では、「移転・撤退」予定の企業割合は2022年の1.4%に対して、2023年度では0.7%に縮小した。多くの日本企業にとって中国が重要市場であることは変わらないため撤退はしないものの、日本企業における中国事業の再構築に動く傾向もある。 このような日本企業全体の動きのなかで特に迷走しているのは、「世界の工場」から巨大なマーケットに変容した中国市場の購買力を期待する消費財メーカー、食品・農水産加工品事業者である。「日本製やメイド・イン・ジャパンという言葉だけでもモノが売れる」時代は終わり、令和に入ると、中国経済の成長鈍化や中国国産ブランドの台頭、そして2023年8月から始まったALPS処理水放出に伴う風評被害等により、日本商品の中国消費者に対する魅力がさらに衰退した。「マーケットの変化が早すぎてわからない」と、撤退を決断した企業もある一方で、このまま中国進出を進めるか否かの岐路に立ったまま、一旦「様子見」とした企業も少なくない。ただし、静観した企業の多くは、いつ、どのような対応をするかの見通しを立てられていないと思われる。 重要なことは、市場の変化を先取りし、機敏かつ柔軟に対応することであり、その前提となる消費市場としての中国マーケットを正確に認識することが求められる。 (3) 消費の回復と消費性向の低下 中国の消費は2022年に底を打ち、近年では消費の顕著な回復が窺える。社会消費品小売総額[3]は、2022年の0.2%減(対前年比、以下同じ)から2023年に7.2%増へ好転し、EC市場も8.4%増と続伸した。2024年に入っても、1~7月までの同総額は27.3兆元(約559.7兆円)、自動車を除くと24.7兆元、前年同期比4.0%増と消費市場の安定的な成長が続いている。中でも、食(食糧、油、食品)カテゴリーの伸び率は全体を上回る9%超で、社会消費市場の回復を牽引している。 また、インターネット上の実物商品小売額(以下EC市場という)は9.5%増の8.3兆元と、社会消費品小売総額の25.6%を占め、取引のEC化率が拡大していることが分かる(図表1)。このように一時的な成長鈍化は見られるものの、消費市場の長期成長トレンドは続いている。 一方、中国の消費者信頼感指数[4]は、2019 年1月の124ポイントから2022年3月には100ポイントを割りこみ、2024年7月時点では86ポイントまで低下している(図表2)。また、2023年に中国の世帯貯蓄率が31.7%まで上昇し、全国の貯蓄総額も最高額を更新していることを合わせて考えてみても、経済成長の減速、失業率が高まる環境の下で人々の貯蓄意向が高まり、消費性向が下がる現象が顕在化している。 このような矛盾する現象の背景には、「重い個人の固定支出」が存在している。例えば、住宅ローンや自動車ローン、教育費などの固定支出が重く、さらに将来の職業安定性に対する不安が経済的不確実性を高め、人々の支出動向を慎重にさせている。実際の収入が大きく変わらなくても、経済に関するネガティブなニュースや不安定要素の拡大は、消費者の消費性向を弱める要因となる。 図表1 中国社会消費品小売総額の推移 (出所)中国国家統計局統計情報より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 図表2 中国消費者信頼感指数 (出所)中国統計局 2.大都市から地方に移る消費の重心 (1) 「下級都市[5]」市場の高いポテンシャル 中国に進出しようとする日本企業は、概ね一級又は二級都市などの大都市に焦点を当てる場合が多い。ただし、このような大都市の消費が全体の消費に占める割合は限られ、2011~2019年では社会消費総額の約4割を上回っていたが、コロナ禍となった2019年末以降は上記大都市以外の「下級都市」の社会消費に占める割合が拡大している。実際、2019年時点でおよそ6割であった下級都市の同割合は、2023年には7割弱まで上昇している。下級都市は既に巨大な消費市場を形成しているが、今後も一層成長するポテンシャルを有している。以下、下級都市の数や人口、購買力について簡単に触れたいたい。 ①「下級都市」の数および人口 「下級都市」の数は280以上に上り、中国全体の人口14億人の約65%が住んでいる。そして下級都市の18~30歳の若者人口は、一級都市および二級都市の3倍以上の数にのぼる。地方から人口が流出している日本と同様に、「下級都市」からの人口流出はあるものの、軽微な水準にとどまっており、膨大な人口「下級都市」の発展を支えている。 図表3 中国における都市階級分類 (出所)新一線都市研究所「中国都市魅力ランキング」により、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 ②「下級都市」の購買力 一級都市(新一級都市を含む、以下同様)・二級都市と比べて「下級都市」の消費者は、前述の「個人の固定支出」の割合が比較的小さい。やや古い統計になるが、同都市に住む消費者の41%が、住宅ローンの返済が不要な住宅を有している(2020年58同鎮「2019年下級都市市場ユーザ調査研究報告」)。「下級都市」では、2019年において若者人口の約7割が月収の8割超を消費したのに対し、一級都市および二級都市の若者ではそれが63%にとどまっている[6]。「下級都市」は中低所得層の割合が多い地域であるが、所得水準の向上とともに「下級都市」の購買力が高まっており、一級都市・二級都市との差が縮まりつつある。 (2)社会の段階的発展に伴う都市階級毎の消費行動 消費者意識は、消費行動や消費方法に対する人々の認識と価値判断を指し、市場動向の予測や個人の消費行動を理解するために重要である。また、その変化は経営者や投資家にとって新たな投資機会を見極める鍵にもなる。消費社会研究家である三浦展氏は、自身の著書「第四の消費」[7]の中で、これまでの日本の消費社会を次の4つに分けている。 ① 第一消費社会:戦前、大正から昭和初期にかけて、中流家庭が台頭し始めた時代。西洋化したライフスタイルが始まり、都市部の特定層が消費を享受する消費社会。 ② 第二消費社会:戦後の高度経済成長期にかけ、一億総中流と言われた時代。大量生産・大量消費、家庭中心の大量消費が特徴で、家電や自動車のような高価な商品が普及した大衆消費社会。 ③ 第三消費社会:1980年代を中心とする個人消費の時代で、物欲に溢れるが、個性化、ブランド化、多様化も進む。 ④第四消費社会:2000年以降。ブランドに依存せず、欧米志向が弱まり、日本文化が再評価される。ナチュラルでエコロジカルな消費が好まれ、無印良品などのシンプルな商品が人気を集める時代。 図表4 日本の消費社会の進化 (出所)三浦展「第四の消費」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 実は、中国の消費社会も日本と同様な進化を経験している。「2019年に中国の1人当たりのGDP額が10,000米ドルに達して以来、中国人の消費が量から質へと急速に変化し、多くの都市が新しい時代におけるチャンスへの探索を進めている」とフォーブス・チャイナは述べている[8]。 上海、北京、深セン、広州といった「一級都市」では、医療、教育、文化、娯楽など健康や精神的ニーズを満たすサービスにお金をかける消費者の傾向が強まり、情緒的価値を重視しながら、有機、ナチュラル、SDGs、エコという社会的責任も意識しつつある。総じて、モノへの消費志向が、合理的かつ簡素な消費への考えへと進化している。 「二級都市」では、ブランド志向が強い一方で、個性化、コストパフォーマンスも重視される。消費の意欲、能力とも高いが、高単価な消費より低単価商品の消費頻度が高くなる傾向にある。 「三級・四級都市」では、ECの普及、コスメ、家電などの消費が増加している。また、ブランドや品質を追求する傾向が見られる。 それ以下の都市・農村部では、国からの「家電下郷」政策[9]をきっかけとした補助金制度が支える家電や自動車などの耐久消費財をメインターゲットとした大衆消費社会である。低価格を中心とした商品を提供するPDD[10]の成功が、このような大衆消費社会を象徴する。このような中国の階級都市の消費社会段階を示し、それぞれのトレンドや注目するキーワードを図表5にまとめた。 図表5 中国における都市階級毎の消費社会段階(筆者仮説) (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 3.中国市場に対する日本企業の捉え方 中国を消費市場と考える日本企業にとって、上述したように、中国の都市階級毎の市場ポテンシャルを考慮した柔軟な戦略が必要である。 第四消費社会段階まで進んでいる一級都市においては、消費者が望む健康や環境、SDGsに関する高付加価値サービス・製品の提供、オーガニックやエコフレンドリーを意識した販促活動が求められる。特に医療や教育、文化、娯楽など精神的価値を重視する消費者向けに、情緒的な価値を付加したマーケティングが有効である。また、ブランド依存が薄れ、合理性を求める消費傾向が強くなっているため、従来の「メイド・イン・ジャパン」のみではなく、新しい価値提案を行い、競合と差別化することが求められる。 新一級都市・二級都市では、中国における現地の文化に根ざした製品やマーケティングを行うことが、消費者の共感を生み、信頼を獲得する鍵である。中国市場において、日本製品の高品質を強調しつつも、中国の伝統や文化的要素を取り入れることで、より親しみやすいブランドイメージを形成できる可能性がある。中国の国潮ブームは日本企業にとっては逆風でもあるが、新たなビジネスチャンスとして捉えることも可能である。 中低所得層が多い下級都市では、コストパフォーマンスの高い商品が求められ、また、低価格販売プラットフォームを通じた購買行動が活発であり、販売チャネルを活用して地方の消費者にリーチし、手頃な価格の商品や利便性を重視したサービスを提供することが重要となる。特に、若者層の消費意欲が高く、これを取り込むためのオンライン広告やSNSを活用したマーケティングが有効である。 このように、中国の階級都市毎の違いを理解し、ターゲット市場に応じた戦略的なアプローチを取ることが、中国市場での成功に繋がる。これにより、現地の消費者とより深い関係を築き、持続的なブランド価値を高めることが期待できる。 ●文中注釈 [1] 中国が持つ様々な矛盾や不均衡に起因するビジネスリスク。具体的な要因には、政治の不透明性、所得格差、知的財産権の侵害やコピー商品の氾濫などが挙げられる。中国経済の高成長や外国企業の進出等で世界に対する影響力が増した一方、民族主義や対外拡張主義等による諸外国との対立が商行為に波及するケースもあることから、外国企業が中国国内で経済活動を行うリスクの意味で使われることが多い(野村證券株式会社・証券用語解説集)。経済合理性に加え、地政学リスクの観点から中国でビジネスや投資活動を行う際に考慮しなければならないリスクのことを指す。 [2] 542の在中国日系企業などで構成される日本商会である。前身が1980年10月に設立された北京日本商工クラブ。 [3] 中国における消費動向を示す指標。卸売業、小売業、宿泊業及び飲食業が個人消費者又は社会団体に販売した商品やサービスの総額、うち、インターネット上の取引については実物商品小売額のみ統計される。 [4] 中国全国の20の都市から15歳以上の700人を対象に、現在の経済状況に対する消費者の満足度と将来の経済動向に対する期待を0(極端な悲観主義)から200(極端な楽観主義)のスケールで指数化した指標である。100は中立を示す。 [5] 中国の経済情報メディアの第一財経・新一線都市研究所が「商業施設の充実度」「都市のハブとしての機能性」「市民の活性度」「将来の可能性」「新経済の競争力」の5つの評価指標によって中国の337都市を評価した「中国都市魅力ランキング」で、「下沈市場」と定義している都市。本稿では、一級都市(新一級都市含む)、二級都市以外の都市を「下級都市(市場」」と定義し、「下沈」「下級」を「下級」に統一した。 [6] “Helens Initiation”, Goldman Sachs, April 2022 [7] 三浦展著「第四の消費 –つながりを生み出す社会へ-」(2012年、朝日新聞出版) [8] 2023年フォーブス中国・消費活力都市ランキング [9] 農村部の家電普及率上昇を促進するために、指定された機種について補助金を出す政策。2009年2月に施行された。 [10] 中国の「下級都市」在住者や中所得者がメインターゲットとなるECプラットフォーム。 [11] 自身を悦ばせ、普段頑張っている自分へのご褒美として消費するなど、主に自己の満足感や幸福感を追求することを目的とした消費行動を指す。 [12] 中国風の流行で、中国伝統の要素と現代のトレンドを融合した消費ブームのことである。ファッションやコスメをはじめ、音楽など文化まで中国においてZ世代の中では多数の支持を得ている。 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 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10/19 09:00
【オピニオン】日米金利差はゆっくりと縮小、円高もゆっくりと
※画像はイメージです。 米国10年国債利回り(長期金利)は再び4%台へ上昇しています(2024年10月16日時点)。10月4日に発表された米9月雇用統計で、非農業部門雇用者数は前月比+25.4万人と市場予想の同+14万人を大幅に上回り、失業率も4.1%と前月の4.2%から低下し、米景気のソフトランディング(軟着陸)期待が高まりました。FRBによる大幅利下げ期待が後退し、長期金利を押し上げました。また、10月10日に発表された米9月消費者物価指数(CPI)は総じて市場予想を上回り、インフレ減速の停滞感が残りました。 9月17-18日に開催されたFOMCは大方の市場予想通り、0.50%ポイントの利下げを決定しましたが、同時に公表された「経済見通し」の中で、「中立金利」が上方修正されたことが注目されます。「中立金利」とは景気、インフレを加速も減速もさせない政策金利の中立的水準を指します。24年に入って、3月、6月、9月のFOMCで継続して引き上げられ、現在、2.875%と推計されています(下図)。 (注)データは四半期で、直近値は2024年7-9月期。政策金利はFF(フェデラル・ファンド)金利翌日物の誘導目標レンジの上限値。中立金利とは景気に対して中立的な政策金利で、FOMCは2012年より公表。(出所)FRB、LSEGより野村證券投資情報部作成 今回の利下げ局面でFRBが意識する着地点はこの3%程度のFF(フェデラル・ファンド)レートと推察されます。つまり、現在は景気、インフレを睨みながら、中立水準まで引き下げる局面と考えられます。米長期金利の高止まりは市場の目線がこの着地点を意識しているためとも思われます。FRBがこの中立水準を下回る領域まで政策金利を引き下げる場合は、不動産価格、債務などの過大な不均衡が解消される過程で、経済・金融面で直面する大きなリスクへの対応と推察されますが、現時点で大きな不均衡は見当たりません。 一方、米国の賃金関連の主要統計を俯瞰すると、減速局面が続いていますが、年率4%程度にとどまっている統計も散見されます(下図)。UAW(全米自動車労組)を始め、米国東海岸港湾の労働者と雇用者側のUSMX(米国海運連合)は6年間で賃金を62%引き上げることで合意するなど、近年にない高い賃上げ率が相次いでいます。こうした環境の中で、FRBは概ね四半期毎に0.25%ポイント程度の利下げで対応することが想定されます。 (注)データは四半期で、直近値は2024年4-6月期(時間当たり平均賃金は同年7-9月期)。(出所)ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル・インク(NSI)より野村證券投資情報部作成 一方、利上げを開始した日銀も、25年春闘の動向を睨み、賃上げによる消費への効果を確認しながら、徐々に利上げを進めるものと予想されます。米国の利下げ、日銀の利上げペースの不透明感は未だ強く、当面はボラティリティー(変動性)の高い状況が続くと思われますが、やがては日米金利差はゆっくりと縮小し、米ドル円相場もゆっくりと円高方向へ向かう局面が訪れるものと予想されます。 ご投資にあたっての注意点
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10/19 07:00
【来週の予定】衆議院総選挙の行方に注目、日本株への追い風は吹くか
来週の注目点:主要国・地域のPMI速報と日本の総選挙 海外市場では2024年7-9月期の決算発表が本格化しているうえ、重要統計の発表が一巡したことから、多くの市場参加者は決算内容や今後の見通しなど、ミクロ情報から景気の先行きを探ろうとしています。このような状況下、今週は22日(火)にIMFが世界経済見通しを発表します。前回(7月)の同レポートでは「足踏み状態の世界経済」と題して、サービス価格の上昇がインフレ鎮静化を妨げ、金融政策の正常化を複雑にしていると指摘しました。足元ではECBに続き、FRBも利下げ局面入りしており、IMFの経済情勢に対する判断が注目されます。 主要国・地域では24日(木)に10月のPMI(速報)が発表されます。日米欧中の製造業PMIは全て景気判断の分岐点である50を下回っています。製造業に底入れ感が見受けられれば、市場のリスクセンチメントの改善につながることが期待されます。 米国では23日(水)に9月中古住宅販売件数、24日(木)に9月新築住宅販売件数、25日(金)に9月耐久財受注が発表されます。住宅ローン金利低下の影響が住宅販売の増加にどの程度寄与しているかが注目点です。 日本では25日(金)の10月東京都区部消費者物価指数、27日(日)の衆議院議員総選挙の結果が注目されます。総選挙は自民党苦戦が報じられており、自民、公明両党で過半数に届かない結果になれば、政治の流動化懸念から日本株の重石となるリスクがあります。逆に自公で安定多数(244議席)や絶対安定多数(261議席)を確保できれば、長期安定政権への期待から日本株にとって追い風となることが期待されます。 その他、海外では25日(金)に発表されるドイツの10月Ifo企業景況感指数が注目されます。野村證券では、ドイツ経済は24年4-6月期以降、3四半期連続でマイナス成長となり、景気後退に陥ると予想しています。 (野村證券投資情報部 尾畑 秀一) (注1)イベントは全てを網羅しているわけではない。◆は政治・政策関連、□は経済指標、●はその他イベント(カッコ内は日本時間)。休場・短縮取引は主要な取引所のみ掲載。各種イベントおよび経済指標の市場予想(ブルームバーグ集計に基づく中央値)は2024年10月18日時点の情報に基づくものであり、今後変更される可能性もあるためご留意ください。(注2)画像はイメージです。(出所)各種資料・報道、ブルームバーグ等より野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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10/18 16:01
【野村の夕解説】日経平均株価3日ぶりの反発、70円高(10/18)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 17日の米株式市場でNYダウが連日で最高値を更新した流れを引き継ぎ、本日の日経平均株価は前日比181円高の39,092円で取引を開始しました。1ドル=150円台へと円安米ドル高が進行したことを受け、輸出関連株の上昇が目立ちました。他方で、米半導体株の一角の上昇を受けて東京エレクトロンなど関連株が上昇し、日経平均株価は前日比275円高まで上げ幅を広げました。しかし、高値警戒感がくすぶる中で上値も重く、1ドル=149円台へと円高に振れると、日経平均株価は上げ幅を失い下げに転じる場面もありました。その後は前日終値付近で膠着し、前日比70円高の38,981円と3日ぶりに反発して取引を終えました。 個別銘柄では、前日引け後に好決算を発表したディスコが前日比+7.67%と大幅高となる一方で、同業の半導体製造装置大手東京エレクトロンは同-0.12%、アドバンテストは同-0.42%と朝高の後下げに転じ、小幅安となりました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注)データは15時15分頃。ドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 本日、米国では、9月住宅着工・建設許可件数の発表やアメリカン・エキスプレス、プロクター・アンド・ギャンブルの2024年7-9月期決算発表が予定されています。 (野村證券投資情報部 神谷 和男) ご投資にあたっての注意点
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10/18 12:00
【今週のチャート分析】日経平均株価、一時4万円回復、年末に向けて史上最高値が視野に
※画像はイメージです。 ※2024年10月17日(木)引け後の情報に基づき作成しています。 日経平均株価は、本格的な上昇相場への移行が見込まれる局面 今週の日経平均株価は、約3ヶ月ぶりに一時4万円台を回復する場面がありましたが、週後半は、半導体関連株を中心に軟調に推移しました。 チャート面からこれまでの動きを振り返ってみましょう(図1)。日経平均株価は、9月27日にかけての上昇で、複数の上値抵抗線を超え、さらに8月5日安値に対する二番底が完成し、本格的な上昇相場への移行が見込まれる局面となっています。 その後、一時大幅安となりましたが、徐々に下値を切り上げ、10月15日には9月27日高値(39,829円)を上回り、一時4万円台を回復しました。 17日に再び39,000円割れとなっていますが、調整一巡後に心理的フシの4万円の水準を終値で明確に突破すれば、年末に向けて7月11日に付けた史上最高値(取引時間中ベース:42,426円)を目指す展開が期待できます。 一方で、さらなる調整となった場合は、75日線(10月17日:38,309円)や25日線(同:38,133円)、200日線(同:38,115円)などを下値サポートとして下げ止まりとなるか注目されます。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 (注1)直近値は2024年10月17日。 (注2)日柄は両端を含む。(注3)トレンドラインには主観が入っておりますのでご留意ください。(出所)日本経済新聞社より野村證券投資情報部作成 8月に急落した日経平均株価は、9月・10月も一時大幅安となる等、振れ幅の大きい動きがみられました。ただし、今回は8月5日の安値から既に2ヶ月を超える日柄が経過しています(図2)。 (注1)直近値は2024年10月17日時点。 (注2)下落局面はすべてを網羅しているわけではない。(注3)ブラックマンデーや、コロナショック時や今回の下落局面は、直前の高値を起点とした。リーマンショックは2008年9月15日であり、その前営業日を起点とした。(出所)日本経済新聞社データより野村證券投資情報部作成 また、月別の指数騰落率を見ると、11月~翌年1月にかけてのパフォーマンスが特に良い傾向がみられます(図3)。これらの日柄や季節性を考慮すれば、今後、年末にかけて本格的な戻し相場に入ることが期待されます。 (注1)図中の平均は1-12月の月別騰落率の平均値。(注2) 順位は平均月別騰落率の上位順。 (注3)矢印は最もパフォーマンスが悪い9月から翌年1月にかけての局面。(注4)騰落率がプラスを勝ち、マイナスを負けとしてカウント。(出所)日本経済新聞社、S&Pダウ・ジョーンズ株式会社より野村證券投資情報部作成 日本10年国債利回り、中長期的な上昇トレンドが継続中 日本の長期金利は上昇傾向にあります。長期金利は「経済の体温計」ともいわれています。金利上昇自体は借入金利に影響を与え、経済活動にとってマイナス要因となることがありますが、経済活動の好調さを反映する形での上昇であれば、健全なものと捉えられます。 10年国債利回りは、日銀の金融政策正常化の進展を受けて、「経済の体温計」としての役割を取り戻しつつあります。チャートを通じて、今後の動向を考察していきましょう。 月足チャート(図4)を見ると、2016年のボトム(-0.300%)と2019年のボトム(-0.290%)によるダブルボトムが形成され、12ヶ月移動平均線を下支えとした本格的な上昇トレンドに入っています。 今年3月の日銀によるマイナス金利解除を経て、5月に心理的なフシとなる1%水準を上抜け、7月には一時1.100%に達しました。その後は利回り低下に転じましたが、これまでと同様に12ヶ月線(10月15日:0.849%)前後の水準から反発が見られており、中長期的な上昇トレンドは継続していると考えられます。 この先、今年7月ピーク(1.100%)や、2006年5月ピークから2016年7月ボトムまでの利回り低下幅の2/3戻し(1.226%)水準を上回った場合、チャート上の次の大きなメドは、2006~2008年につけた複数のピークや心理的フシがある1.9~2.0%水準までみられません。 これまでの上昇ペース(約5年で1.390%ポイント)を基にすれば、2~3年かけて、2%に迫る水準となる可能性も考えられます。 (注1)直近値は2024年10月15日。チャートは新発10年国債利回りの単利・日次終値を基に月足に変換している。新発10年国債利回りは日本相互証券公表の引値で、毎月、新発国債の入札日に銘柄の入れ替えを行っている。(注2)トレンドラインには主観が含まれておりますのでご留意ください。(注3)日柄は両端を含む。(出所)日本相互証券より野村證券投資情報部作成 (野村證券投資情報部 岩本 竜太郎) 【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら ご投資にあたっての注意点