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01/05 07:00
【新春特集】新興国通貨は明暗の分かれる展開に(新興国為替市場)
米国のトランプ次期政権の政策に対する不確実性が新興国通貨の重石ファンダメンタルズ、トランプ次期政権の政策による悪影響の度合いに注目新興国通貨の中では東南アジア通貨やインドルピーが対ドルで底堅く推移する見込み 2024年の新興国金融市場を振り返ると、株式は好調、国債の対米スプレッド(ドルベース)は概ねレンジ圏、通貨は対ドルで軟調でした。新興国中銀の利下げとキャリー取引需要の巻き戻しなどが重石になり、11月の米国大統領選挙でトランプ氏の再選が決まると、新興国通貨は一段と下落しました。個別通貨の対ドル騰落率は、マレーシアリンギット、南アランド、タイバーツがアウトパフォームし、ブラジルレアル、トルコリラ、メキシコペソがアンダーパフォームしました。傾向として低金利のアジア通貨が好調、高金利の中南米通貨が軟調でした。 図表1: 新興国金融市場 (注)新興国通貨はブルームバーグ新興国通貨指数、新興国株価指数はMSCIエマージングマーケット指数、新興国国債の対米国債スプレッドはJP Morgan EMBI Global インデックスの対米国債スプレッド(米ドルベース)。データは日次で、直近値は202年12月12日。(出所)ブルームバーグ資料より、野村證券市場戦略リサーチ部作成 25年には新興国株や債券への資金流入は持ち直しが続くものの、緩慢なペースになると見込まれます。新興国への株式・債券フローは、①FRBの金融政策、②新興国と先進国の成長率格差、③グローバルのリスクセンチメント、などの影響を受けると考えられます。③の悪化が回避されたとしても、野村予想と市場コンセンサスに基づけば、②は25年はほぼ横ばいで推移すると想定されます。野村では③についてはFRBが25年3月に25bp利下げし、一旦様子見に転じると想定しています。 図表2: 新興国への証券投資フローの要因分解と見通し (注1)野村予想を基にFRBは25年3月に25bpの利下げを実施して25年末まで金融政策を据え置くことを前提とした。 (注2)先行きの成長率格差はブルームバーグ集計の市場予想を前提とした。 (注3)先行きのEMBIグローバルスプレッドは一定とした。 (注4)新興国は韓国、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ロシア、ポーランド、ハンガリー、チェコ、南ア、トルコ、ブラジル、メキシコ、チリ、アルゼンチン。 (注5)証券投資は株式投資、証券投資の合計で後方4四半期合計値。 (注6)シャドーレートはサンフランシスコ連銀による推計値であり、米国債金利や住宅ローン金利など12の金融変数を基に量的緩和政策やフォワードガイダンスなどの効果をフェデラル・ファンド金利に換算したもの。(出所)IMF、ブルームバーグ資料より、野村證券市場戦略リサーチ部作成 また、24年後半にキャリー取引需要の弱まりが高金利の中南米通貨への逆風となりましたが、25年もキャリー取引は盛り上がりを欠く展開となるでしょう。トランプ米次期政権の関税引き上げなどの政策は不確実性が高く、市場ボラティリティは高止まると想定されます。インフレ率の鈍化傾向が続く中、基本シナリオとしてほとんどの新興国中銀が利下げを継続すると予想されることも、キャリー取引の妙味を低下させると考えられます。 投資家はキャリー取引需要だけではなく、新興国投資においては財政収支、経常収支、インフレ動向などのファンダメンタルズ要因も重視します。各国の対外ファイナンス、財政リスク、インフレリスクを考慮して脆弱性指数を作成すると、ファンダメンタルズは相対的に南ア、ブラジル、中国で悪化しており、チェコ、韓国で良好です。傾向としては、中南米に比べて東欧や東南アジアにファンダメンタルズの良好な国が多く見受けられます。 図表3: 主要新興国の脆弱性指数 (注1)経常収支GDP比、政府債務残高GDP比、消費者物価上昇率はIMFによる25年の予測値、民間部門向け銀行信用残高増加率(3年前比)は24年6月末値、短期対外債務GDP比は23年末値、外貨準備適正評価(ARA)はIMFによる24年の予測値。 (注2)外貨準備適正評価(ARA)は輸出、マネーサプライ、短期対外債務などを基にIMFが外貨準備の適正値を推計したもの。 (注3)脆弱性指数は各項目について野村がZスコアを計算して合算した。 (注4)脆弱性指数の作成はFRBの分析(2015年4月)を参考にした。(出所)IMF、BIS、FRB資料より、野村證券市場戦略リサーチ部作成 一方、25年の新興国通貨を占う上で、米国のトランプ次期政権の政策による影響も注目されます。トランプ氏の政策は、新興国の中では中国とともにメキシコへの悪影響が大きいと考えられます。トランプ氏は24年11月25日、中国からの輸入品に10%の追加関税を課し、麻薬や不法移民の取り締まり次第でカナダとメキシコからの全ての輸入品に25%の関税を課す意向を示しました。不法移民対策の強化は移民送金に依存するメキシコの打撃となる恐れがあり、26年の米国・カナダ・メキシコ協定(USMCA)の見直しへの懸念も企業のメキシコ投資を躊躇させる材料となるでしょう。ただし、メキシコへの関税引き上げはメキシコや中国だけではなく、米国にも悪影響を及ぼすと想定されるため、米国が実際に関税を引き上げるかは不透明です。 トランプ氏は中国以外の国からの輸入品に一律で10~20%の関税を課す方針も示しています。市場への悪影響を考慮して一律の関税引き上げではなく部分的な引き上げにとどまる可能性もありますが、新興市場の中では米国の貿易収支赤字国・地域として中国、メキシコ、ベトナム、台湾、韓国などが標的とされやすいと考えられます。対照的にインドなどはGDPに占める内需の比率が高いため、トランプ氏による関税引き上げの悪影響は相対的に小さいでしょう。ブラジルも大豆などで中国向け輸出を拡大し、米中摩擦の恩恵を受ける可能性があります。 図表4: 米国・中国向け財輸出のGDP比率 (2023年) (出所)IMF資料より、野村證券市場戦略リサーチ部作成 なお、新興国では25年に大きな政治イベントは予定されていません。25年5月のフィリピン議会選挙、ポーランド大統領選挙、10月のチェコ総選挙、11月のチリ大統領選・議会選挙、シンガポール総選挙などがありますが、いずれも相場を大きく動かすほどの材料にはならないでしょう。政治面においては新興国各国と米国のトランプ大統領との関係が注目されます。 25年の新興国通貨は対ドルで軟調推移を続けそうです。新興国への株や債券資金は緩やかな持ち直しとなり、キャリー需要の本格的な回復も期待できないでしょう。新興国通貨ごとの強弱においては、ファンダメンタルズの動向やトランプ次期政権の政策による悪影響の度合いが重要になると見ています。新興国通貨の中ではマレーシアリンギット、インドネシアルピア、インドルピーなどがアウトパフォームし、トルコリラ、メキシコペソ、ブラジルレアルなどがアンダーパフォームする展開を見込んでいます。 (野村證券市場戦略リサーチ部 春井 真也) ※野村週報 2025年新春特別号「新興国為替市場」より ※こちらの記事は「野村週報 2025年新春特別号」発行時点の情報に基づいております。※画像はイメージです。 ご投資にあたっての注意点
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01/04 18:00
【新春特集】2025年相場大展望 – テクニカル編 (解説:岩本)
日経平均株価は、2024年2月に34年ぶりに史上最高値更新という歴史的な瞬間を経験しました。しかし8月には、前日比で過去最大の急落という逆風に直面し、波乱の一年となりました。一方で、米国株は大統領選挙後も史上最高値の更新が続いています。 チャート分析の解説でおなじみの岩本が2025年の見通しをわかりやすく解説します 。 (約35分)。 ※動画の終盤に言及している、「アンケート」について、当記事ではご回答いただけません。ご了承ください。 ~ 講師紹介~ 岩本 竜太郎 投資情報部 ストラテジスト 2008年から投資情報部にてテクニカル分析を担当。「マーケット解説動画」でもおなじみで、「週刊チャート展望」も執筆。株式・為替等のチャート分析を中心として、幅広く情報提供をおこなう。日本テクニカルアナリスト協会 認定テクニカルアナリスト。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ Q.2025年にチャレンジしてみたいことは? A.テクニカル分析を通じて相場の真理に一歩でも近づくこと。100㎞マラソン完走。 Q.最近読んだ本や影響を受けた映画やドラマは? A.「思春期のトリセツ」、ドラマ版「沈黙の艦隊」(子供と改めて日本の平和について考えるきっかに)。 Q.1日の仕事の中で「これだけは譲れない」と思う自分だけの時間やルーティンは? A.チャートをチェックし、指標を書き込む時間。 Q.子供のころはどんなお子さんでしたか?子供のころの夢は? A.人見知り。自転車競技に打ち込み、ロードレースが主戦場でした。夢はツール・ド・フランスに出ることでした。 Q.小さい頃の自分に話しかけるなら、伝えたいことは? A.謙虚に、感謝の心を忘れずに暮らしていきましょう。 ご投資にあたっての注意点
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01/04 12:00
【新春特集】企業業績拡大にけん引され高値更新へ(米国株式市場)
米国株式市場は上昇が続き、割安感は乏しくなりつつあるAIの普及などをけん引役に、米企業業績は過去最高益更新が続く見込み2025年は、23年や24年ほどの上昇率は期待しづらいものの高値更新へ 米国株式市場は上昇が続き、割安感は乏しくなりつつあります。米国株式市場全体の動きを示すS&P500指数は、2023年に年間で24.2%上昇しました。24年は、一時的に足踏み状態となった局面もありますが、24年12月13日までに26.9%上昇し、2年連続で20%超の上昇となっています。 24年11月の大統領選挙後には一段と上昇し、NYダウやナスダック総合指数を含め、米国の主要株価指数は、軒並み史上最高値を更新しました。 上昇が続いた結果、24年12月13日終値でのS&P500指数の12カ月先予想PER(株価収益率)は22.2倍と、1986年以降の平均15.9倍を大きく上回る水準となっています。 図表1: S&P500指数の予想PER(株価収益率)推移 (注)データは週次で、直近値は2024年12月13日。PERの基となる1株当たり利益はLSEG集計による12ヶ月先予想ベース。(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成 過去平均と比較すると割高と言われる一方、高いPERは長期的な金利水準の低下を反映しているという指摘もあります。 そこで、金利も含めた「イールドスプレッド」という手法で見てみます。イールドスプレッドは、EPS(1株当たり利益)÷株価で求められる株式益利回りと、金利との差で株式の割安/割高をみます。 図表2: S&P500指数の株式益利回りと米長期金利の推移 (注)米長期金利は米10年国債利回り。S&P500株式益利回りの基となる1株当たり利益はLSEG集計による12ヶ月先予想ベース。データは週次で、直近値は2024年12月13日。イールドスプレッドは債券利回りと比較した株式のバリュエーション手法の一つで、プラスの場合は株式は割高、マイナスの場合は割安と判断される。(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成 2000年代半ば以降、S&P500指数の株式益利回りは5%超で推移した一方、世界的な金融危機やコロナ禍に伴う金融緩和などで、米長期金利(米10年国債利回り)は4%を下回って推移したことから、同手法で見て株式は、長らく割安な状態が続いていました。 しかし、24年12月13日時点では、株価上昇に伴い株式益利回りは4.498%まで低下した一方、米長期金利は4.398%と、両者にほとんど差がない状態となっています。今後もし、米長期金利が株式益利回りを上回れば、2000年頃の「ITバブル」期以来となります。 米企業業績は過去最高益更新が続く見込みです。米国企業の利益成長の要因は、一つには独自の技術力やビジネスモデルにより、新商品・サービスが普及し、経済の成長率を上回るペースで利益が拡大する有力企業が多いことが挙げられます。もう一つは、グローバルに競争力を発揮し、米国以外でも業容を拡大していることが挙げられます。 24年12月13日時点でのLSEGの集計では、S&P500指数構成企業のEPSは、25年は前年比+12.9%、26年は同+12.8%と予想されています。引き続きAIインフラへの投資が関連企業の業績を押し上げ、今後はAIの普及により、多くの企業が業務効率の改善などを享受する段階へと入っていくことへの期待が高いとみられます。 図表3: S&P500指数構成企業の1株当たり利益(EPS)の推移 (注)予想はLSEG集計による2024年12月13日時点の市場予想平均。(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成 米長期金利は、24年12月13日時点では4.398%です。FRBは24年9月以降、利下げに転じていることもあり、野村證券では、米長期金利は26年央にかけて、4%台前半で推移すると予想しています。 米長期金利が大きく上昇せず、米企業業績の拡大が続くのであれば、イールドスプレッドでみた割安感は乏しいものの、株式市場の上昇は続く可能性が高いと予想されます。 なお、24年11月の大統領選挙で選ばれたトランプ氏が、25年1月20日に大統領に就任した後には、同氏が掲げた政策の実現の状況を見極めていきたいと考えます。直近の米国株式市場は、同氏が選挙期間中や選挙後に掲げた法人税減税や規制緩和などの政策を先取りする形で上昇しています。行き過ぎた期待には反動もあり得ることから、留意が必要です。 インフレ動向にも注意が必要です。トランプ新政権の政策は拡張的な財政政策や関税強化、移民規制など、インフレを加速させるものが多くなっています。インフレ再燃懸念で、現在は利下げサイクルにあるFRBが政策見直しに迫られる可能性が意識される事態となれば、株式市場にはネガティブとなり得ます。 図表4: S&P500指数の年間騰落率の推移 (注)図中の数字は各年の年間騰落率。2024年は12月13日までの年初来騰落率。(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成 上記のようなリスクを抱えながらも、米企業業績の拡大が続くのであれば、下落局面はありながらも、 25年も年間を通せば、米国株式市場は上昇継続が期待できると考えます。 (野村證券投資情報部 村山 誠) ※野村週報 2025年新春特別号「米国株式市場」より ※こちらの記事は「野村週報 2025年新春特別号」発行時点の情報に基づいております。※画像はイメージです。 ご投資にあたっての注意点
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01/04 07:00
【新春特集】2025年のキーワードは「中庸」(ESG)
2025年のESGの潮流を一言で予想するとすれば、「中庸」環境(E)、社会(S)の取組みは企業価値向上との両立を意識して中庸をとる形で推進ガバナンス(G)の取組みは、欧米基準での「中庸」に達することを目指して進展する 儒教には「中庸」という思想があります。儒教の開祖である孔子の『論語』の中には、「中庸の徳たるや、それ至れるかな(中庸の徳はこの上なく素晴らしいものだ)」という言葉があり、極端に走ることなく適切な調和を保つ「中庸」の重要性が述べられています。 2025年のESGの潮流を一言で予想するとすれば、「中庸」という言葉がふさわしいと考えます。 ESGについて、極端な推進派と反対派に世論が割れるなかで、日本における環境(E)、社会(S)に関する取組みは、企業価値向上(経済成長)との両立を意識しながら、極端な推進派と反対派の中庸をとる形で推進することになると予想します。 気候変動の領域でいえば、グリーン経済とブラウン経済の中庸にあるトランジション経済の実現を目指して歩みを進めることになると考えます。世界初の政府によるトランジション・ボンドとして「クライメート・トランジション・ボンド」を24年2月に発行したことにも、その姿勢が現れていると考えています。 従来、グリーン経済への移行を主張してきた欧州でも、サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)の見直しの議論などが進むなかで、「グリーン」から「トランジション」への移行を強調する流れが生じ始めています。 ダイバーシティの領域でも、米国では役員報酬制度からダイバーシティに関する指標を除外する動きが起きています。極端なダイバーシティ推進派と、ダイバーシティの偏重が公平性の優先順位を下げているという反対派の中庸をとる形で、多くの人が納得できる施策や取組みが日本政府や企業には求められると考えます。 一方、コーポレートガバナンス(G)の側面では、欧米の先進国と比較して、日本は未だに遅れている状況にあります。独立社外取締役の登用、政策保有株の縮減を始めとするキャピタルアロケーションの再考は進み始めていますが、欧米では過半数の独立社外取締役の登用や成長ステージに合わせた株主還元の浸透など、一歩進んだ状態にあります。 25年も欧米基準での「中庸」に達することを目指して、日本におけるコーポレートガバナンス改革は進展すると予想します。スチュワードシップ・コードの改訂や25年3月に経済産業省が公表する予定の「コーポレートガバナンス改革の在り方に関する取りまとめ」にも注目しています。 また、EやSに関する取組みのなかでも、人的資本に関する取組みのように諸外国と比較して「中庸」から遅れをとっていると推測される領域や、生物多様性のように開示や取組みが始まったばかりの領域については、25年も開示や取組みに進展がみられると予想します。 併せて、24年3月に金融庁から「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」が公表されました。厚生労働省も24年11月、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による社会課題の解決と収益性の両立を図る「インパクト投資」の実行が可能との見解を示しています。 25年は、国内においてインパクト投資に関する手法などについても議論が進展すると考えます。 25年における重要度が高いESGトピックについて、野村證券エクイティ・リサーチ部に所属する各セクターのアナリストに企業の事例と共に考察してもらいました。 ESGの「E」にあたる環境面においては、温室効果ガス排出量削減に向けてさらなる開示の充実や、削減目標の設定、削減期限の前倒しの動きも生じています。 企業によっては、グリーン製品・サービスの普及を通じ、企業が社会全体の排出削減にどれだけ貢献したかという「削減貢献量」に関する情報開示に積極的に取り組む企業もみられました。削減貢献量については、一般的に温室効果ガス排出量の計測で用いられているScope1、Scope2、Scope3の概念では捉えられない情報です。23年3月にWBCSD(World Business Council for Sustainable Development)がガイドラインを公表するなど、標準化に向けた動きも生じ始めています。 また、生物多様性の領域では、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)に沿った情報開示も進んでいます。長期視点では、自然資本や生物多様性の保全に早期から取り組む企業は、規制対応などによる利益の縮減の回避と共に、新たな成長機会を見出す可能性もあると考えます。 ESGの「S」にあたる社会面では、人的資本に関する新たな取組みや情報開示が進展しています。 新たな取組みや情報開示が進んでいる大きな理由の1つとして、有価証券報告書における人的資本に関する開示の義務化が挙げられます。加えて、24年4月、国際サスティナビリティ基準審議会(ISSB)は人的資本について、リスクと機会に関する開示を調査するリサーチプロジェクトの開始を公表しました。言い換えれば、人的資本はISSBが次に開示基準の策定に取り組む有力な候補であることを示しています。例えば、人材ポートフォリオの可視化や人的資本に関するKPIの設定、また人的資本レポートを発刊する企業もみられています。 ESGの「G」に当たるガバナンス面においては、政策保有株の縮減や取締役会の実効性強化に向けた企業の取組みが進展しています。また、東京証券取引所の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を受けて、ROICなどの資本収益性に関する目標値や自社の資本コストに関する開示を進める動きも起きています。 具体的には、政策保有株の残高について期限を決めて縮減する方針を打ち出す企業や、現状の資本コストの数値と低減に向けた目標値の両方を示す企業が現れています。また、取締役会の実効性強化に向けてCxO体制への移行や業績連動報酬にESGへの取組みを反映している事例もみられます。総じて、企業ではESGのどの領域でも前向きな取組みが確認できています。 図表1: ESGに関する企業の取組み事例 (出所)野村證券投資情報部作成 (野村證券エクイティ・リサーチ部 中川 和哉) ※野村週報 2025年新春特別号「ESG」より ※こちらの記事は「野村週報 2025年新春特別号」発行時点の情報に基づいております。※画像はイメージです。 ご投資にあたっての注意点
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01/03 18:00
【新春特集】2025年相場大展望 – 米国株編 (解説:村山)
生成AIの普及、米企業業績拡大、FRBの利下げ開始などから、米国株式市場は2024年後半にかけて上昇しました。その結果、足元では米国株式は割安感が乏しくなったとの見方もあります。いよいよ第二次トランプ政権が始動する2025年、米国株はどのような展開を迎えるのでしょうか?米国株の解説でおなじみの村山が解説します。 (約26分)。 ※ 動画の終盤に言及している、「アンケート」について、当記事ではご回答いただけません。ご了承ください 。 ~ 講師紹介~ 村山 誠 シニア・ストラテジスト 1990年野村総合研究所入社、1998年に野村證券転籍。エクイティアナリスト、クレジットアナリストとして勤務。2011年6月より投資情報部で米国株ストラテジー担当。投資環境の分析、個別株の投資アイデアを提供。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ Q.2024年に新しくチャレンジしたことは? A.生成AIなどを利用した新しい情報収集。体を柔軟にすること。 Q.2025年にチャレンジしてみたいことは? A.2025年も新しい情報技術が出てくると予想されるので、それらの理解と活用。 Q.1日の仕事の中で「これだけは譲れない」と思う自分だけの時間やルーティンは? A.その日の米国株式市場の動向をまとめること。データの収集に加え、コメントも記述する。 Q.今の仕事を目指したきっかけは? A.高校生の時に読んだ経済学史の書籍。 ご投資にあたっての注意点
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01/03 07:00
【新春特集】2025年政治イベント・リスクの注目点(内外政治)
2024年に続き25年も政治の混乱が続く公算大米国で発足するトランプ次期政権の経済政策に注目ドイツの解散総選挙、国内の参議院選挙にも注意 2024年は、インフレに政治が振り回された1年でした。中低所得者の不満を解消できず、選挙で与党・現職が敗北、退陣するケースが多く、独裁政権の崩壊も生じています。25年も同様の状況が続くと見られます。新政権は、財政拡張、関税引き上げ、外国人労働者排除などの主張が目立ちます。本来インフレを抑えるなら、真逆の政策が有効ですが、不人気政策の実行は困難です。主張通りの政策ではインフレ鎮静化が遅れ、結果的に有権者の支持を失うリスクがあります。 地政学リスクとして、中東、ウクライナ、米中関係が引き続き注目を集めるでしょう。中東については、トランプ次期米政権が、イスラエルを支持し、対イラン金融制裁を続け、イラン孤立を試みると見られます。一方、パレスチナとイスラエルの戦いが続く限り、サウジアラビアなどイスラム教国がイスラエルと国交を結ぶ可能性は低いでしょう。そこで、イランは、パレスチナ自治区ガザ地区のハマス、イエメンのイスラム教ザイード派組織フーシ派、イラクのイスラム教シーア派の各組織など、代理勢力に戦いを続けるよう促すだろうと考えられます。イランとイスラエルの全面戦争こそ起こらないものの、24年4月、10月に見られたようなミサイルやドローン(無人機)による攻撃の応酬が、再び発生するリスクには注意が必要でしょう。アサド政権が崩壊したシリア情勢の混乱と相俟って中東情勢は安定しないと見られます。 トランプ次期米大統領は、ウクライナ紛争の停戦を目指しています。しかし、ロシアのウクライナ領占領を黙認し、ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟を認めない停戦案になる可能性があります。こうしたウクライナが受け入れられない内容の場合、停戦は困難でしょう。ウクライナが停戦を拒んだとしてトランプ次期米大統領がウクライナへの軍事支援を停止する反面、欧州が支援を継続、対ロ制裁を強化すると見込まれます。 米中関係は、軍事衝突の可能性は低いと見られますが、通商上の対立が続き、改善は難しいでしょう。 次に先進国の政治状況を見てみます。 2024年11月に行われた米国の大統領・議会選挙では、トランプ候補(共和党)が当選し、上下院で共和党が過半数を獲得しました。しかし、トランプ次期大統領の得票率を踏まえると、政権発足当初から大統領支持率が低いことが見込まれます。トランプ次期政権が、早期に実績を示さなければ、26年の中間選挙(上下院選挙)では、共和党が上下両院で過半数を維持することは難しいでしょう。現在、下院での共和党議席数の民主党議席数に対するリードは5議席と僅差で、上院でも民主党の議事妨害を阻止出来るまでの議席数はありません。議会で実現できる経済政策には限りがあり、減税は、所得税減税の延長に留まる可能性があります。実績を早く示すために、トランプ次期政権は、議会を通さず、早期実現が見込める、対中関税の引き上げ、外国人労働者規制、バイデン政権の環境政策の撤回から着手するでしょう。このうち、関税引き上げや外国人労働者規制は、景気を押し上げない一方、インフレ圧力になりかねません。 ドイツでは25年2月23日に解散総選挙が行われ、政権交代する可能性が高いと見られます。第1党は中道右派のキリスト教民主同盟/キリスト教社会同盟(CDU/CSU)になると見込まれます。CDU/CSUは、社会民主党(SPD、中道左派)や自由民主党(FDP、中道派)と連立を形成すると見られ、財政規律の回復を図ろうとするでしょう。同盟90/緑の党(中道左派)は連立に参加しない見込みです。次期政権の下で、環境政策の見直しが図られ、エネルギーコストの抑制や自動車産業の立て直しを図ると見られます。 フランスでは、バルニエ内閣の不信任を受け、マクロン大統領が、新たにバイル首相を指名しました。しかし、与党が下院で少数である以上、主導権を握ることは困難でしょう。右派ないし左派はEU懐疑派で、財政拡張を主張しています。バイル首相が財政再建を主張すれば、バルニエ内閣と同様に不信任決議案によって退陣させられます。政権延命を目指せば、財政拡張を受け入れざるを得ません。今後も、フランスの財政再建は困難と見られます。 国内政治については、予算、税制、政治資金関連の法改正などを踏まえると、通常国会会期末の25年6月までは、与野党の議論が行われることから、第2次石破政権が続く可能性が高いと考えられます。同年7月の参議院選挙での石破首相、与党の目標は、与党過半数維持が目標と見られます。仮に、過半数割れとなった場合、石破首相が退陣し、国会運営の混乱が見込まれます。混乱回避のため、次期自民党総裁は野党との連立を目指すでしょう。野党の政策を受け入れる中で次期政権は財政拡張的になると見られます。一方、参議院で与党が過半数を維持する場合には、与党自らが解散総選挙を仕掛け、過半数奪還を目指すことになるでしょう。 図表1: 主要政治日程 (2025年) (出所)各種資料、各種報道より野村證券経済調査部作成 (野村證券経済調査部 吉本 元) ※野村週報 2025年新春特別号「内外政治」より ※こちらの記事は「野村週報 2025年新春特別号」発行時点の情報に基づいております。※画像はイメージです。 ご投資にあたっての注意点
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01/02 18:00
【新春特集】2025年相場大展望 – 世界経済・為替編 (解説:尾畑)
2024年の為替市場では歴史的な円安が進展したことから本邦政策当局は大規模な円買い介入を実施、日本銀行は利上げに踏み切りました。米大統領選挙ではトランプ氏が勝利し、上下両院とも共和党が過半数を制する「トリプルレッド」となったことから、トランプ2.0の景気・金融市場への影響が2025年を見通す上で最大の焦点となっています。 こうした背景の中、2025年はどのような展開を迎えるのでしょうか?わかりやすく、明瞭な解説に定評のある尾畑が解説します。(約39分)。 ※ 動画の終盤に言及している、「アンケート」について、当記事ではご回答いただけません。ご了承ください 。 ~ 講師紹介~ 尾畑 秀一 投資情報部 シニア・ストラテジスト 1997年に野村総合研究所入社、2004年に野村證券転籍。入社後、一貫してエコノミストとして日本、米国、欧州のマクロ経済や国際資本フローの調査・分析に従事、6年間にわたり為替市場分析にも携わった。これらの経験を活かし、国内外の景気動向や政策分析、国際資本フローの動向を踏まえ、グローバルな投資戦略に関する情報を発信している。分かりやすく、明瞭な解説には定評がある。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ Q.2025年にチャレンジしてみたいことは? A.ギターの弾き語り。 Q.2024年で一番うれしかったことは?A. 勤続26年目で初めて甲子園とPayPayドームの特別観戦ルームで観戦したこと Q.2024年に新しくチャレンジしたことは?2025年にチャレンジしてみたいことは? A.(2024年)音楽理論の勉強 A.(2025年)ギターの弾き語り Q.最近読んだ本や影響を受けた映画やドラマは?A. Marty Friedmanのアルバム Q. 1日の仕事の中で「これだけは譲れない」と思う自分だけの時間やルーティンは?A.朝は市況のチェックをしてから、1日をスタートさせること。 Q.今の仕事を目指したきっかけは?A.文系大学に進学したものの、専門職になることを模索する中で経済学に出会い、研究者の道を志し、 エコノミストと言う職業に出会いました。 Q.小さい頃の自分に話しかけるなら、伝えたいことは?A. 誠実にタフに生きていれば、少々失敗しても何とでもなる。やりたいことはやれるうちにやっておけよ。 ご投資にあたっての注意点
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01/02 12:00
【新春特集】円債市場への回帰は?(内外債券市場)
24年に本邦投資家は積極的に米債投資の一方、一部は円債投資に様子見25年に本邦投資家は円債回帰の公算市場の一部には、日本10年国債利回り約1.2%で前向きに購入との見方 2024年における本邦投資家の債券投資を振り返ると、2023年に続き、積極的な米国債券(国債、モーゲージ債、社債含む)への投資が見られました。24年を通じて円安ドル高が進展、一部の投資家は為替リスクを取って米国債券を購入した模様です。筆者が面談した投資家からは、高いクーポンの米ドル建ての債券を為替リスクを負って購入すれば、今後数年の間に円高ドル安が進み日本円に換算した元本の価値が減少しても、クーポン収入がそれを相殺、損失を回避することができるのでは、との見方が聞かれました。このような考えも、一部投資家による米国債券への投資を促した可能性があります。 図表1: 本邦対外債券投資額 (14年1月以降の累計ベース、月次) (注)データは月次で14年1月以降の累積ベース。プラスがネット購入、マイナスがネット売却。直近値は2024年10月。(出所)日本銀行より野村證券市場戦略リサーチ部作成 一方、24年における日本国債への投資については、例年に比べ慎重な姿勢を示した本邦投資家もいました。例えば、超長期国債の主たる投資家である本邦保険会社による超長期国債純購入額は、例年を下回りました。日本銀行が24年3月以降、政策金利を引き上げる中、今後どの程度、利上げが進むのか、日本国債利回りが上昇(日本国債価格が下落)するのかを様子見したいとの考えも、慎重な姿勢につながったと考えられます。 図表2: 各国国債のイールドカーブ (外債については為替ヘッジ付) (注)ヘッジコストは3ヵ月物為替フォワードレートから算出。2024年12月11日時点。(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成 もっとも、25年には本邦投資家が円債投資に前向きになる可能性があります。そのように考える理由として、1)今後も、日本国債利回りは為替ヘッジ付きの米国国債利回りを上回る、2)円高米ドル安が進む、3)日本銀行による利上げ打ち止め期待から日本国債利回りの大幅上昇懸念が後退する、などの可能性があるからです。 このうち2)については、FRBは25年3月にも利下げを決定する一方、日本銀行は25年に追加利上げを実施と当社は見込んでいます。日米金利差縮小期待から円高ドル安が進めば、本邦投資家による為替リスクを取った米国債投資は、24年に比べ慎重になると予想されます。その分、余剰となった資金が円債市場に向かう可能性があります。 3)に関しては、25年中に日本の利上げ打ち止め時期が近いとの見方が高まれば、市場では、日銀に対する追加利上げ期待が後退、本邦投資家の国債利回り上昇(国債価格下落)懸念を後退させ、日本国債への投資に前向きになると予想されます。日本の政策金利が、名目中立金利(インフレ率を押し上げも押し下げもしない金利)の下限と目されている1%に近づくにつれて、日本10年国債利回りの上昇は緩やかになり、日本10年国債への需要が高まる可能性があります。 図表3: 2年先翌日物フォワード金利と日本10年債利回りとの関係 (注)2年先翌日物フォワード金利は筆者算出。2023年6月以降の日次データで直近値は2024年12月12日。(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成 一部の本邦投資家から、日本10年国債利回りが約1.2%となれば日本10年国債を買いたいとの考えも聞かれます。背景には、先行きの利上げ期待がさほど高まらないとの見方が根強いこともあります。 日本10年国債利回りは、日本のOIS(翌日物金利スワップ)市場から計算される2年先翌日物フォワード金利、すなわち、市場が織り込む2年後の日本の翌日物金利(≒政策金利)への期待と高い相関関係にあります。最近の傾向を踏まえると、例えば、日本10年国債利回りの約1.4%への上昇には、同フォワード金利が約1%、すなわち、約2年後に政策金利が約1%へ上昇との織り込みが必要です。 図表4: 日本のOIS市場から導出される翌日物フォワード金利(%) (注)イベントは全てを網羅しているわけではない。(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部算出 しかし、最近の市場は、日本銀行が約1%へ政策金利を引き上げる時期を、今から5年以上先と織り込んでいます。この期待が、今から約2年後に前倒しされるには、日本の賃金上昇率の大幅な上振れ、急激な円安ドル高などが必要であり、そのような事象が発生するのか、懐疑的な見方も存在します。2年先翌日物フォワード金利が約0.9%への上昇に留まれば、日本10年国債利回りの上昇余地は約1.2%までとの見方も可能です。一部の投資家は、日本10年国債利回りが約1.2%となれば、投資に前向きになる可能性があると言えます。 尚、25年に本邦の一部機関投資家は、ユーロ圏諸国の債券投資に前向きになると予想されます。24年6月に利下げを開始したECBは、雇用、インフレの下振れを懸念し、当面利下げを継続すると見られます。債券価格の下落リスクを抑えながら一定の純金利収入を確保する上で、為替ヘッジ付き欧州債投資は選択肢となる可能性があります。 (野村證券市場戦略リサーチ部 岸田 英樹) ※野村週報 2025年新春特別号「内外債券市場」より ※こちらの記事は「野村週報 2025年新春特別号」発行時点の情報に基づいております。※画像はイメージです。 ご投資にあたっての注意点
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01/02 07:00
【新春特集】2025年の日本経済は景気と物価の「国産化」に期待(内外経済展望)
経済の安定化に貢献すべき政治が国内外でむしろ経済の不安定性を高めかねない米国トランプ新政権による高関税の適用、減税の継続、移民送還、脱・脱炭素に注目日本経済では賃上げとソフトウェア投資を背景に、景気と物価の「国産化」に期待 2024年の日本経済は文字通り「激震」とともに始まりました。同年1月1日の「令和6年能登半島地震」です。このような甚大な災害とともに始まった24年においても、日本経済は多くの面で進展・改善を見ました。(1)値上げの継続、(2)賃上げの継続、(3)利上げの着手、(4)ソフトウェア投資の増加、(5)労働移動の増加、などはその一例でしょう。 一方、日本経済が新たな難局に直面しているのも事実です。(1)国内外の不安定な政治、(2)トランプ米国次期大統領の政策運営、(3)中国経済と政策対応、(4)地政学的な緊張の先鋭化、広範化、多極化の恐れ、などが例として挙げられます。本来、経済の安定化に貢献すべき政治が、むしろ経済の不安定性を高めかねない。これが25年の世界経済が直面する大きな課題といえるでしょう。 日本経済にも強く影響する米国経済は、大方の予想を裏切る形で堅調に推移しましたが、物価や雇用に一定の鈍化がみられます。こうした中、FRBは24年に約5年ぶりの利下げに転じました。野村では25年に1回(26年には2回)の追加利下げを見込んでいます。 利下げ局面に移行する中、米国経済の先行きは不確実性に満ちています。25年1月20日に発足するトランプ新政権の政策運営はその最たる例でしょう。 経済・通商政策の観点からは、トランプ氏の掲げる〔i〕高関税率の適用、〔ii〕減税策の継続、〔iii〕移民の強制送還、〔iv〕脱・脱炭素が特に注目されます。1点目の高関税率の適用は、輸入物価の上昇という経路で米国の物価に押し上げ圧力をかけ、同時に、物価上昇が経済主体の購買力を弱めることで米国の景気に下押し圧力をかける恐れがあります。2点目の減税策の継続は、米国景気を下支えする一方、物価には押し上げ圧力をかけると目されます。3点目の移民の強制送還は米国側に多額の財政コストが生じます。仮に実行されれば人権問題であり、なおかつ実行しようとすれば、米国側に多額の財政コストが生じます。仮に実行されれば、労働供給の減少によるインフレ圧力の強まりと、消費の減少による景気の下押しが警戒されます。4点目の脱・脱炭素は、トランプ氏が24年の大統領選中に使った「(化石燃料を)掘って、掘って、掘りまくれ!」 (Drill, baby, drill !) (ただし、この言い回しが最初に使われたのは2008年の共和党の選挙キャンペーン)という表現に表れています。同氏は、これによって化石燃料の生産量が増えるためインフレは抑えられると考えているようですが、実効性は不透明です。このように25年の米国経済は視界良好とはとても言えませんが、減税策の継続もあり、景気後退に陥る可能性は低いと見ています。 図表1: 米・ユーロ圏・英国は利下げ、日本は利上げ (注1)米国はFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導レンジの上限。 (注2)日本は2016年2月15日までは無担保コールオーバーナイトレート、2016年2月16日以降は日銀当座預金の一部である政策金利残高の付利を図示(ただし2013年4月~2016年1月までは政策金利は存在せず、日銀当座預金残高という量的指標のみで金融政策が行われていた)。 (注3)ユーロ圏は預金ファシリティ金利。 (注4)英国はバンクレート。 (注5)データは日次で直近値は2024年12月18日時点。(出所)ブルームバーグより野村證券経済調査部作成 一方、25年の日本経済については、一つ期待できることがあります。それは、景気の「国産化」とインフレの「国産化」です。しばしば日本の景気は輸出依存、インフレは輸入依存と評されますが、25年は両者の「国産化」が進む可能性があります。 第1に、賃上げに「同調性」が生じつつあります。ライバル会社が賃上げするなら、自社も賃上げするという機運が自社、ライバル会社いずれにおいても醸成され始めています。しかも25年はいよいよ賃金増のペースがインフレを上回る、つまり実質賃金の増加が見込まれます。第2に、ソフトウェア投資の増加です。設備投資が単なる輸出の派生物ではなく、人手不足という国内の課題へのソリューションとしての省力化、更には戦略上不可欠となるデジタル化によって誘発される局面となっています。ソフトウェア投資が22年頃から明らかな上昇トレンドを形成している姿にも、その一端を見ることができます。 図表2: じわじわと高まる賃上げの同調性 (注)2024年度の調査期間は2024年1月18日~31日。調査対象企業は全国2万7308社(有効回答は1万1431社)。(出所)帝国データバンク「2024年度の賃金動向に関する企業の意識調査」より野村證券経済調査部作成 図表3: 増加トレンドを形成するソフトウェア投資 (注1)実質系列はSPPI(企業向けサービス価格指数)の「受託開発ソフトウェア(除く組込み)」の価格に基づく。 (注2)リンク係数による調整済み。 (注3)データは月次で、直近値は2024年9月。(出所)経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」、日本銀行「企業向けサービス価格指数」より野村證券経済調査部作成 日銀も経済と物価が見通しに沿って推移(オントラック)していると評価しています。ただし、24年12月の金融政策決定会合後の会見における植田日銀総裁は、不確実性に対してより配慮する姿勢を示しました。とりわけ25年の春闘に関わる情報や賃金関連データを集めつつ、賃金増の確度を見極めたいとの姿勢が強く示されました。 植田総裁のこうした慎重姿勢を踏まえて、野村では日銀による次の利上げ時期を25年3月に遅らせました。25年10月、26年3月の追加利上げを経て、政策金利は現行の0.25%から1.0%に引き上げられると予想しています。 (野村證券経済調査部 森田 京平) ※野村週報 2025年新春特別号「内外経済展望」より ※こちらの記事は「野村週報 2025年新春特別号」発行時点の情報に基づいております。※画像はイメージです。 ご投資にあたっての注意点