野村のオピニオン
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10/21 18:00
【特集】野村證券「四季報の会」秋号を徹底解説(前編)
野村證券の社内企画「四季報の会」。『会社四季報』(東洋経済新報社刊)秋号の発売に合わせて10月上旬に実施し、数百人のパートナー(個人投資家向けの営業担当者)が、四季報を読破して分析した投資情報部のリサーチャーらの解説を聞いた。今回は秋号の前半(銘柄コード1000~5000番台)の解説の一部を紹介する。 【1000番台】建設は「政策保有株売却」が目立つ 1000番台の中心である建設会社では、資材高や人件費増の影響により夏号から引き続き、軟調な企業も散見されましたが、空調や電設などの設備関連企業の業績が改善しつつある印象を受けました。 大成建設(1801)の見出しには「下ぶれ」とあり、まだ改善していない状況です。厳しい資源・資材高により、業績自体はあまり振るいませんが、株価は上昇傾向にあります。その要因であると考えられるのが、左側の見出しにある「資本効率向上目的に政策保有株縮減 30年度まで2000億円売却意向」という部分です。 銀行などにはかなり前から政策保有株を売却する動きがありましたが、東証からの要請を受け、建設会社など他業種でも同様の動きが活発化しています。大林組(1802)や清水建設(1803)も政策保有株を縮減する意向について記載があります。四季報のコメント欄だけでは、売却した資金の使途はわかりませんが、ゼネコン各社が資本効率向上に向けた施策を打っている点は市場から評価されているとみられます。 土屋ホールディングス(1840)をご覧ください。北海道地盤の注文住宅の会社ですが、見出しに「ラピダス」と書いてあります。土屋ホールディングスは、国策の半導体会社の進出による業績向上が期待されているようです。すでに、TSMC(台湾積体電路製造)の工場が進出する九州では景気への波及効果が出てきています。北海道でも同じことが起こるかどうか今後注目が集まりそうです。 【2000番台】食品は値上げ浸透でV字回復 食料品の企業は「上ぶれ」や「V字回復」「最高益」などの見出しが目立ちました。夏号と比べ、原材料高の価格転嫁がより幅広いセクターや企業に浸透してきている様子がうかがえました。 ニップン(2001)や日清製粉グループ本社(2002)など製造業でも値上げが浸透し業績改善につながっているようです。ただ、販売数量の伸びはコロナ後の回復から一服しているようで、持続的にここから利益を伸ばしていくための次の一手、戦略に注目です。 ヒガシマル(2058)、東洋精糖(2107)などを見ても原材料高による値上げが浸透している様子がうかがえます。夏号の時点で原材料高や物流高に苦しんでいた飼料や砂糖などのメーカーでも、原材料高などが一服してようやく値上げが浸透してきたようです。 森永製菓(2201)など、菓子メーカーの業績も好調です。 以前から値上げは実施していましたが、原材料価格を吸収しきれず、「軟調」や「大幅減益」といった見出しが目立っていました。しかし今回は値上げが続くといったコメントも目立っており、需要に堅調さがうかがえます。 ブルボン(2208)の2つ目の見出しは「増産」とあります。チョコレート市場が成長し、生産設備を増設したようです。値上げだけでなく、より効率化した生産設備に投資することで「次の一手に動いているな」と感じました。 プリマハム(2281)、日本ハム(2282)、丸大食品(2288)なども業績が伸びているようです。菓子やハム・ソーセージのメーカーには「コンビニ向けの販売が伸びた」といったコメントがいくつも見られました。確かにローソン(2651)の見出しは「増額」となっています。 【3000番台】経済正常化で活況呈する飲食店 3000番台は値上げが奏功したり、インバウンドの恩恵を受けたりして好調な企業が多かったと思います。夏号では電力・ガスなどの銘柄の欄に値上げに関する記載が多かったため、外食を中心に、光熱費などのコスト上昇を懸念するコメントが目立ちました。今号では、コスト上昇分を値上げでカバーして、「前号比増額」となった企業も増えています。 銚子丸(3075)は回転寿司チェーンですが、見出しが「増益続く」です。値上げの寄与だけでなく「都心、郊外の両方で新規出店狙う一方で、経済正常化を受けて持ち帰り専門店を順次閉鎖」という記述がありました。経済情勢に合わせて業態を変化させる取り組みを進めているようです。 ドトール・日レスホールディングス(3087)は、星乃珈琲店やドトールなどを展開している企業です。「店舗純増65」という記載があります。前期は「純減30」ですから、出店ペースが加速しています。営業利益も大きく伸びる予想になっています。 物語コーポレーション(3097)は、焼肉店を展開しています。見出しは「連続最高益」。そしてこちらも「店舗純増72」で前期より出店ペースが加速しています。 紙・パルプの銘柄の業績改善も確認できました。王子ホールディングス(3861)は見出しが「好転」、三菱製紙(3864)は「急回復」となっています。株価を見ていただくと、今年に入ってから、反転上昇している企業が目立ちます。価格転嫁による業績改善への期待に加えて、紙・パルプは、多くの企業がPBR1倍を割りこんでいることから、資本政策への期待も含まれているのかもしれません。 【4000番台】半導体関連は「底打ち」か レゾナックホールディングス(4004)、旧昭和電工は今回「大幅赤字」と書いてありますが、 夏号では半導体・電子が前工程材料、後工程材料ともに低迷して「赤字転落」とありました。秋号では後工程が上向いたものの、補いきれなかったようです。しかし2024年12月期には回復する見通しのようです。 東京応化工業(4186)は、半導体製造の際に使われるフォトレジストで世界首位の企業です。ArF(フッ化アルゴン)関連など先端品が底堅いと書いてあります。足元では顧客の在庫調整が長期化したものの、2024年12月期には回復する見込みであるとのことです。やはり半導体関連は今が「底」なのかもしれません。 住友ベークライト(4203)は「主力の半導体封止材はパワー半導体など車載向けが伸びてけん引」しているそうです。この企業などを見ていると、やはり自動車関連は好調なのではないかと見て取れます。積水化学(4204)も「好採算の中間膜が自動車用回復」とあります。半導体関連の企業でも自動車業界向けは好調との印象を受けます。 オービック(4684)や日本オラクル(4716)など、SIer(システムインテグレーター)の業績は依然として好調のようです。以前と比べDXという言葉を聞く頻度は減ったかもしれませんが、システム投資が下火になったというより、DXという言葉が当たり前のものとして、世間に浸透してきたと捉えた方がよさそうです。 【5000番台】鉄鋼メーカー、PBR改革の行方 4000番台でも目立ちましたが、5000番台でも自動車生産回復の追い風が見受けられました。横浜ゴム(5101)やTOYO TIRE(5105)、ブリヂストン(5108)などのタイヤメーカーをはじめ、自動車部品を手掛ける企業も好業績でした。 ワイパーやブレーキなどの自動車用ゴム製品を手掛けるフコク(5185)も見出しが「最高益」となっており、業績は好調です。また、「27年3月期にROE12%を達成する」目標が掲げられているとの記載もあり、ここでもPBR1倍割れに対する施策がみられました。 PBR改革で注目されるのが鉄鋼業界です。 日本製鉄(5401)の見出しは「減配」となっていて、経常利益、税引き前利益ともに減益になっています。 鉄鋼市況の低迷など、記事の内容はあまりよくない印象ですが、キャッシュフローはしっかり稼げています。 日本製鉄系の企業である中山製鋼所(5408)も見出しが「反落」で営業減益予想ですが、そもそも利益が高水準です。2021年3月期から2023年3月期にものすごく伸びていることがわかります。このように、海外の市況が低迷しても、鉄鋼メーカー各社の業績は高水準が継続すると予想されています。東証の改革だけではなく、利益水準が上昇した点も、PBRの改善につながっていると言えます。 収益性の改善に加え、PBRそのものの改善に向けた取り組みももちろん活発化しています。日本製鉄の子会社である山陽特殊製鋼(5481)ではPBR対策がかなり具体的に言及されています。「適性マージン確保、高付加価値化による収益性改善や政策保有株の相互売却通じ流通株式比率向上、IR強化など図る」と、PBR改善に向けた施策のオンパレードになっています。もちろん親会社である日本製鉄も同様の施策を行っています。 (6000番台から9000番台の銘柄「【特集】野村證券「四季報の会」秋号を徹底解説(後編)」はこちら) ご投資にあたっての注意点
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10/21 13:00
【オピニオン】なぜFRBと市場の間で政策金利見通しに温度差があるのか
米国金融市場では、9月FOMC(米連邦公開市場委員会)以降、長期金利の上昇ペースが加速し株価が調整する事態となりました。主因は、FRB(米連邦準備理事会)が2024年末の政策金利見通し(中央値)を、6月時点から0.5%ポイント上方修正したことです。このため、市場では政策金利の高止まりが想定以上に長期化するとの見方が高まり、長期金利の上昇につながりました。 なぜFRBと市場参加者の間で、政策金利見通しに温度差があるのでしょうか。その背景として第1に、今回の利上げ局面でFRBが「経済データに基づいて判断する」との姿勢を強めていることが挙げられます。金融政策は政策変更からその効果が発揮されるまでに相当な時間差があるため、中央銀行は1~2年先の見通しに基づいて判断するのが一般的です。 ただし、今回はコロナウイルスのパンデミック(世界的な感染拡大)からの景気回復という未曽有の事態に際して想定以上にインフレが粘着的なことから、FRBは利上げ打ち止めに慎重な姿勢をより強めています。一方、市場参加者の多くは経済見通しに基づいて政策金利を予想していることから、両者の温度差が拡大する一因になっていると考えられます。 第2は、実質政策金利見通しの違いです。経済学の世界には景気にとって引き締め的でも緩和的でもない均衡(中立)金利という概念があります。この均衡金利は様々な要因の影響を受けるものの、一般的にはインフレ部分を除いた実質均衡金利は概ね潜在成長率と一致すると想定されます。つまり、実質政策金利が実質均衡金利よりも高い場合は景気に対して引き締め的、低い場合は緩和的と解釈することができます。 下図は、米国の政策金利とインフレ見通し、そこから逆算される実質政策金利について、FRBと市場コンセンサス、野村證券の予想を比較したものです。これを見ると、FRBと市場の政策金利予想の差(0.4%ポイント)のうち4分の3(0.3%ポイント分)は、実質政策金利に対する見方の違いであることが判ります。 実際の実質均衡金利の水準は観測できませんが、OECD(経済協力開発機構)などの試算では、米国の潜在成長率は+1.8%程度です。この試算値を踏まえると、現時点ではFRBも市場コンセンサスも、2024年末の政策金利は引き締め的な水準にあると予想していると解釈することができます。 FRBはインフレが低下する中で、利上げ打ち止め後も当面は、政策金利を据え置く姿勢を示しています。このことは実質金利の高止まりを通じて、引き締め的な金融政策を続けることを意味しています。 逆に、景気減速が鮮明化し、インフレ再燃懸念が後退すれば、実質金利を実質均衡金利程度までは引き下げることが予想されます。ここで、仮に実質均衡金利を潜在成長率並みの+1.8%程度、期待インフレ率を目標の2.0%程度とした場合、3.8%程度までの利下げが十分視野に入ると言えそうです。 ※2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら 業種分類、Nomura21 Globalについて ご投資にあたっての注意点
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10/20 12:00
【今週のチャート分析】25・75日線を再度割り込む、二番底形成なるか注目(10/20)
※2023年10月19日(木)引け後の情報に基づき作成しています。 今週(10月16日〜)の日経平均株価は下落基調となりました。中東での地政学リスクの高まりや日米の長期金利上昇が日経平均株価の重石となりました。 「二番底」固めの展開へ チャート面として、まずは日経平均株価の日足チャート(図1)をみてみましょう。 (注1)直近値は2023年10月19日時点。 (注2)トレンドラインには主観が入っておりますのでご留意ください。 (出所)日本経済新聞社より野村證券投資情報部作成 日経平均株価は、10月4日安値(30,487円)にかけての急落で短期的な売られすぎ感が強まっていたこともあり、その後大幅反発となりました。ただ、10月13日高値(32,533円)形成後は再度調整となり、一時上抜けた75日移動平均線(10月19日:32,364円)や25日線(同:32,120円)を割り込みました。この先、10月4日安値(30,487円)に対する二番底固めの展開へ移行すると考えられます。一方で調整一巡後に、25・75日線を完全に上放れとなれば、まずは、9月15日高値(33,634円)や6月19日高値(33,772円)などがある今年6月以降の中段保ち合い上限水準を目指す動きとなると考えられます(図1)。 中長期では「中段持ち合い」継続へ 次に中長期的な相場の流れについて確認してみましょう(図2・図3)。 (注1)直近値は2023年10月19日時点。 (注2)トレンドラインには主観が入っておりますのでご留意ください。 (出所)日本経済新聞社データより野村證券投資情報部作成 (注1)直近値は2023年10月19日時点。 (注2)トレンドラインには主観が入っておりますのでご留意ください。 (出所)日本経済新聞社データより野村證券投資情報部作成 今夏以降の日経平均株価は、大きな上昇局面内の一旦の調整である「中段保ち合い」をこなしていると考えられます。10月にかけての調整によって下落率は9%を超え、初夏に上値を抑えられてからの日柄調整も進展しています。調整一巡後は、中段保ち合い上抜けに向けた動きとなることが期待されます(図2・3)。 (注1)直近値は2023年10月11日。 (注2)トレンドライン等には主観が入っておりますのでご留意ください。 (出所)ナスダックより野村證券投資情報部作成 NYダウ、8月高値形成後の調整をどう捉えるか NYダウは、今年8月高値(終値ベース:35,630ドル)形成後に調整相場入りとなり、10月には一時33,002ドル(終値ベース)まで下落しました(図4) 。これら大幅下落を受けて、昨年9月以降の中長期上昇トレンドが終了したと言えるのでしょうか。それとも継続中なのでしょうか。 (注1)直近値は2023年10月18日。(注2)日柄は両端を含む。(注3)トレンドラインには主観が入っておりますのでご留意ください。 (出所)S&P ダウジョーンズ・インデックス社データより野村證券投資情報部作成 チャート面からは中長期上昇トレンド自体は継続中であり、今回の調整は一時的である可能性が高いと考えられます。昨年9月安値から今年8月高値までの上昇率は24%ですが、波動構成上参考となる過去の中長期上昇局面(図5:図中①-⑤)はコロナショックで中断となった局面(同:図中④)を除いて70%を超える上昇となっています。 (注1)直近値は2023年10月18日。 (注2)トレンドラインには主観が入っておりますのでご留意ください。 (注3)日柄は両端を含む。 (出所)S&P ダウジョーンズ・インデックス社データより野村證券投資情報部作成 そのため、今年8月以降の調整は中長期上昇局面内の一旦の押しである可能性が高いと考えられます。 また、今年8月高値から10月安値にかけての下落率は7%を超えましたが、過去の中長期上昇局面においても、10%弱の調整相場を挟むケースが複数回みられました(図4)。今回も過去の調整局面と同様に一時的な調整に留まり、先行きは本格上昇局面に復帰することが期待されます。 (投資情報部 岩本 竜太郎) ※画像はイメージです。 【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら ご投資にあたっての注意点
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10/20 09:30
【業界展望】商社:堅調な業績や積極的な株主還元に注目
底堅い業績動向が続いている 商社の事業環境を振り返りたい。資源分野ではウクライナ紛争を背景とした供給逼迫懸念から2023.3期は原油やガス、鉄鉱石や石炭など幅広い資源の価格が大きく上昇したが、24.3期に入ると米国の金融引き締めによる需要鈍化懸念もあり資源価格は調整局面となっていた。一方で、7月以降はOPEC(石油輸出国機構)の減産で原油に底打ち感が出ている他、原料炭市況もインドの需要の強さを背景に上昇基調となるなど、事業環境は改善傾向にある。 非資源分野については、野村では当初、新型コロナ影響を背景とした供給抑制で幅広い分野のトレード事業でマージンが拡大した状況が落ち着いていくと想定していた。しかし、24.3期4~6月期決算では、一過性の損益を除くと、機械や自動車、小売事業など幅広い分野が好調な推移となるなど減速感が予想以上に出ていないことが確認された。中国の不動産需要の低迷など、鉄鋼製品の需要減退リスクはあるが、資源価格の堅調さもあって、商社セクターの業況は底堅く推移すると考えている。また、各社の4~6月期の親会社株主利益は通期計画に対する進捗率が高めとなったこともあり、今後は業績計画の上方修正や追加の株主還元に対する期待が高まりやすい状況にあると言える。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 業績モメンタムや株主還元に注目 野村では24.3期の大手7商社合計の親会社株主利益を前期比14%減益と予想している。各社の4~6月期決算は好調だったが、資源価格が前期対比で調整すると見込むためである。セクター全体で減益傾向となる中では、相対的な業績動向の差が注目点になると考えている。特に、豊田通商については24.3期の親会社株主利益を同10%増益と予想しており、同業他社比で見通しが良好だと判断している。資源分野の利益構成比の低さもあるが、半導体不足の解消による自動車の生産回復で、鋼板や自動車部品のトレード事業といった生産関連分野の業績が改善していることが背景にある。さらに、アフリカなど新興国では経済成長を背景に自動車需要が伸長しており、同社が新興諸国で展開するディーラー事業が好調な推移となっている。 また、株主還元余力の面からは、三菱商事の業況に注目している。4~6月期の調整後FCF(営業収益CF-投資CF)が4,074億円の黒字と同業他社比で高い水準となった。さらに、同社が財務レバレッジとして注目している投融資レバレッジは6月末で26.9%と、同社が適正値と定める40~50%を大きく下回っている。現在の中期経営計画では投融資レバレッジを適正水準まで戻すことを目標として掲げており、株主還元余力は相対的に大きいと言える。中期的な注目点としては、将来の成長に向けた新規投資がテーマとなろう。既に伊藤忠商事や三井物産などが24.3期は大型の投資案件の発表を行っているが、新規投資案件の積み上げで利益成長期待を高められるかには注目したい。 (野村證券エクイティ・リサーチ部 成田 康浩) ※野村週報 2023年10月16日号「産業界」より ※掲載している画像はイメージです。 【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら ご投資にあたっての注意点
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10/19 12:00
【米国野村證券エコノミストが語る】米国の景気後退を予想するポイント “持てる層”と“持たざる層”の綱引き
野村では、2023年10月6日時点で米国の景気後退を予測している。その理由と来年の大統領選挙に向けてのポイントについて、米国野村證券の雨宮愛知エコノミストに詳しく聞いた。 ※インタビューは2023年10月6日に実施しています。本記事の情報は2023年10月6日時点のものであり、その後変更されている可能性があります。 不況入りとは、雇用を失う人が出てくること ――米国景気、インフレ動向をふまえて、金融政策の見通しについて教えてください。 野村では、米国経済が近いうちに不況入りすると考えています。具体的には、今年の第4四半期の終わりから不況色が強くなり、2四半期連続のマイナス成長となることを見込んでいます。 ――市場のコンセンサスは、「米国経済はマイナス成長を免れる」という見方が多いです。「ソフトランディングまたはノーランディングとなる」と見越している金融機関も多い中で、マイナス成長を見越すのは野村證券の特徴ともいえます。そのポイントはどこにあるのでしょうか。 まず、不況入りとは何を指すか、定義を明確にしておきましょう。一言でいうと、雇用を失う人が出てくるということです。雇用者数の伸びがマイナスになり、失業率が上がるという状態が起きると予想しています。GDPがマイナスになることは不況でなくても一時的にはありますが、そうではなく、雇用がポイントなのです。 なぜそのような予想をしているのか。理由を語るには、なぜこれまで米国の金融政策が効かなかったのか、という理由から話を始めたほうがいいですね。 2019年末から始まった新型コロナウイルスの流行を機に、米国はじめ多くの主要国で大胆な金融緩和を行いました。その結果、米国ではインフレが深刻な問題となり、これをいかに抑制するかが課題となっています。 こうした状況のなか、インフレを抑制する目的で、米国の金利は大幅に引き上げられています。またバイデン政権は2022年8月、米国内の半導体産業を支援する「CHIPSおよび科学法」と、大企業への課税を強化して気候変動や医療費負担軽減に資金を投じる「インフレ抑制法」を成立させました。 しかしこうした政策によるインフレ抑制の成果は芳しくありません。その理由は、「持てる層」と「持たざる層」の綱引きにあると考えています。 富裕層は金利が高止まりしても困らない 「持てる層」、つまり金融資産を十分に持っている富裕層は、2021~2022年の金融緩和の際に、住宅ローンなどの長期債務を、低金利なものに借り換えが終わっています。また、設備投資をする大企業も、この時期に償還までの期間が長い社債を発行するなどして、資金調達が済んでいます。 彼らはいくら利上げしても、困らないわけです。それどころか、金利が高止まりしていると預金収入が増え、更に株高によってもますます資産が増えていくという循環があり、彼らが景気を下支えする強い層となっています。 一方、「持たざる層」はどうでしょうか。彼らは金融資産がないため金利上昇や株高の恩恵を受け難い一方で、高金利のローンを組まなければならず苦しんでいます。その証左として、クレジットカードの延滞率や自動車ローンの延滞率などはじわじわと上がっているのです。 コロナ禍の特例で約3年半の間猶予されてきた学生ローンの支払いも始まります。マクロでみると300億ドルから400億ドルと大きな額ではないのですが、学生ローンを抱えるのは「持たざる層」に多く、彼らの経済的な苦しさを表す象徴的なイベントとなる可能性があります。 そうはいっても、「持てる層」もどこかではローンの借り換えが行われるわけで、高金利によって資金力が削られるタイミングが来るはずです。問題はそれがいつなのか、ということなのです。 ――つまり景気の冷え込みがじわじわと起きているものの、利上げの効果は、セオリー通りに出ていないということですね。これから利上げの効果が出てくるとしたら、まずどこから顕在化してきますか。 過去を振り返ると、実は消費から始まる不況はあまり存在しないのです。やはり金利に敏感なセクターから経済がスローダウンすることが多い。まず企業の設備投資に影響し、次に自動車や住宅などの耐久財に影響が及んできます。それが企業収益の悪化を招き、雇用へと波及していきます。そして、人々の所得が落ち込むことによって、その後消費全体に景気悪化の波がくるという経路を想定しています。 雇用は不況入りの直前まで変わらない ――よく不況に至る経路として、過剰貯蓄など消費が落ち込む経路が議論されることがあると思いますが、雨宮さんの指摘はそうではなくて、企業の設備投資から出てくるという点が面白いです。雇用に不況が影響するのは遅いという理解で正しいですか。 はい。雇用は景気に関しては遅行指数なんですね。よく、「これだけ労働市場が強いのだから不況にならないのでは?」と質問を受けるのですが、労働市場は、不況入りする直前まで良い状態に見えるというのが通例です。今も毎月発表されている雇用統計では、非農業分野の雇用者数に15万人以上の伸びがありますし、失業率も上がっていませんよね。 ところが、労働市場を細かく見ていくと、一人当たりの労働時間のトレンド、人材派遣業の雇用者数、転職を目的とした自己退職数、企業の総採用数などの指標でいずれも悪化のサインがあり、雇用だけが変わっていないという状況です。 つまり労働市場のクールダウンは確実に起きている。あとは時間の問題です。レイオフ(解雇)がどこかのタイミングで増えていき、それが不況入りとなると考えています。 もともと野村では2023年7~9月にもマイナス成長が始まると予想していましたが、それは起きませんでした。「持てる層」が景気を下支えする力が、野村が予想していたよりも強かったため不況入りが遅れているのですが、どこかのタイミングでいずれ不況入りすると見ています。 ――そもそも、不況入りを免れることはできないと考えるべきでしょうか。 FRB(連邦準備理事会・米国の中央銀行を意味する)の立場でみると、好景気が続くということはインフレ再燃リスクがなくならないことを意味しています。今、FRBは長期金利の上昇は許容していますよね。株価のバリュエーションが圧力を受け、株価が下がって富裕層の消費力が減ることにつながることを期待しているのでしょう。 それで十分効果があればいいですが、効果がない場合、次は量的引き締め(QT)が議論の俎上にのるかもしれません。なんとかして富裕層の体力を奪わないと、インフレ再燃リスクがなくならない。そのために、不況をもたらさなければならないとも解釈できます。 ――来年は、大統領選挙を控えています。もし不況入りしたら現職にとっては向かい風となりませんか。 過去の大統領選挙では、夏場の失業率と株価で、11月の大統領選挙の行方がわかると言われてきました。ところが、インフレがその状況を変えてきていると思います。 2022年11月の中間選挙では、景気が強いにもかかわらず、民主党は連邦議会下院の議席を失いました。インフレがある以上、好景気の恩恵を感じられない有権者が多かったということでしょう。 つまり来年の選挙に向けては、これまでのように景気減速を防ぐための拡張的な財政政策が打たれるという法則は成り立ちません。「ちょっとやそっとの景気の減速が起きても、助け船を出すのを我慢する年になる」と考えています。 もしトランプ氏が当選したらどうなるか ――米国民の所得格差をついて下馬評を覆し大統領に就任したトランプ元大統領が、共和党候補として出てくるだろうと言われています。 前回、トランプ氏が大統領に当選したときは、上下両院で共和党が過半数議席を取ったため、財政対策を打ちやすかったんですね。議会の選挙がどうなるかによっても市場の反応は大きく変わるでしょう。 トランプ氏が大統領となり共和党が上下両院で過半数議席を取り返すと仮定すると、トランプ減税の第2弾が始まると思います。今回は財政赤字やインフレが問題となっていますので、減税のために社会保障を削るなどの政策が出ると予想されます。 一方、上下両院での過半数議席が取れずにねじれ議会になると仮定すると、ホワイトハウスだけでできる外交、安全保障、規制改革などでトランプ色が出てくることになります。 例えば、バイデン政権が進めている電気自動車へのシフトなどのエネルギー対策についても規制緩和をし、シェールオイル(地下深くの地層に含まれる原油)の増産を認めるなど、自国でのエネルギー生産を増やし、OPEC(石油輸出国機構)への依存を減らすでしょう。 また、バイデン政権では、大企業に対して独占禁止法違反の訴えを起こすなどの動きがありますが、これも取り下げになるでしょう。移民政策も停滞し、労働市場がタイト化すると予想できます。トランプ氏が、ロシアのプーチン大統領と個人的に懇意にしていたことも踏まえると、対ロシア・ウクライナとの関係がどうなるかも不透明です。 バイデン政権がはらむ矛盾 一方、バイデン政権が継続となる場合も、問題含みです。今のバイデン政権は政策と支持層の矛盾があちこちにあり、身動きが取れない状態となっています。 自動車業界のストライキをとってもそうです。バイデン政権はグリーンエネルギーの普及を推進していますが、自動車業界の労働組合を支持母体としています。組合から見ると、自動車のエンジンがモーターに置き換わると雇用が減ってしまうという矛盾をはらんでいるのです。 また、環境団体が支持母体にいるので、原油生産を進めたくてもできず、OPECに増産をお願いすることになるというジレンマもあります。 移民政策についても、バイデン政権は有色人種の支持層が厚いので、移民に厳しい政策は取れません。しかし、不法移民が大量に入ってきており、ニューヨークなどの都市では不法移民のシェルターが財政を圧迫しています。 いずれにせよ、来年の大統領選挙から金融市場をみると、不確実性が高まるのは確かです。来年は選挙に向けて市場のボラティリティが上がることに注意が必要です。そのときに利下げがあると安心材料にはなりそうです。 ――2023年10月、米国史上初めて、米連邦議会下院議長が解任されるという騒動が起きました。今は政府閉鎖こそ免れているものの、正式な予算案は成立していません。格付け会社大手3社のうち2社が米国債券をAAAからAAプラスへと格下げしており、今後も格下げが進むのではないかという見方もありますが、どう考えますか。 格付け会社大手3社が、米国債をAAAからAAプラスに格下げした場合に、売らざるを得ない投資家がいるのか、というところから考えましょう。結論から言うと、私の考えでは「いない」です。 今回議論になっているのは、米国債の長期債の格付けのため、短期債の運用をしている人には影響がありません。長期債で運用している年金基金や保険会社の機関投資家からすると、気にしなくてはならないのは格付けではなくインベストメントグレードです。投資適格か不適格かが投資対象から外す見分けどころであり、格付けがAAプラスになったからといって機械的に売る投資家は出てこないでしょう。 しかし格下げのインパクトは、心理的なものとして出てきます。 米国の好景気が長期で保たれる場合、長期金利も高止まりする公算が大きいです。連邦政府の利払い負担はどんどん膨らんでいき財政赤字は深刻化します。そのため、長期債に投資する投資家が利回りの上乗せを要求する「財政プレミアム」の議論になります。格付けの件が加わり、やはり米国の信用力がおかしいのではないか、財政の持続性がないのではないかと議論になるわけです。 そしてまた長期金利が上がる、利払い負担が増えるという悪循環に陥ってしまいます。この循環が、不況入りするまでは続いてしまうのです。 不況入りはこの状況を変えるためには必要であり、不況入りまでの期間が長ければ長いほど、反動が大きくなるのです。 ――不況入りというとネガティブなイメージがある人も多いと思いますが、今の米国にとっては単純に悪い現象ではない、ということですね。ありがとうございました。 無登録格付けに関する説明書 ご投資にあたっての注意点
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10/18 15:30
【株式需給解説】海外投資家は9月に6カ月ぶりの売り越し
2023年9月(9月4~29日、以下同)の主な投資部門別の売買動向を現物と先物の合計で概観すると、個人投資家や証券自己、事業法人、信託銀行などが買い越し、海外投資家などが売り越した。 海外投資家は現物と先物の合計で3兆704億円を売り越した。9月第3、4週の売り越し額がそれぞれ1兆2,533億円、1兆6,377億円と大きかった。同時期に進行した米長期金利の上昇とそれによる景気悪化懸念が悪材料になったと見られる。四半期末ということも相まって、投資家のポジション調整が生じやすかったという可能性も否定できない。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 個人投資家は1 兆2,792億円を買い越した。株価が下落した第3、4週の買い越し額がそれぞれ9,223億円、6,209億円と大きかった。個人投資家が押し目買いを行ったと見られる。 証券自己は9,943億円を買い越した。海外投資家の売り越しに相対する形で買い越したと見られる。 事業法人は3,675億円を買い越した。引き続き、企業が自社株買いを積極的に行っている。なお、第4週には96億円の売り越しに転じたが、決算期末日以前の5営業日は取引所が相場操縦の有無を注視する期間であり、自社株買いが控えられる傾向がある。 信託銀行は2,408億円を買い越した。配当権利落ちにかかるパッシブファンドによる先物買いを背景に、第4週の先物の買い越し額が9,795億円と大きかった。 (野村證券市場戦略リサーチ部 藤 直也) ※野村週報 2023年10月16日号「株式需給」より ※掲載している画像はイメージです。 【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら ご投資にあたっての注意点
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10/18 09:30
【野村の投資判断】「値上げ言及有り」銘柄はアウトパフォームの傾向あり
決算前は「Q1上振れ&値上げ」、決算後は「Q2下振れ&値上げ」の銘柄に注目 企業の「値上げ」と株価および業績との関係について分析しました。初めに、値上げが株価に良い影響を与えているかを確認するため、直近の四半期(2023年7-9月)に公表された決算短信において、値上げが言及されている銘柄のパフォーマンスを調査しました。 単純な決算のサプライズによる影響と区別するため、「値上げの言及の有無」と「営業利益予想の上振れ・下振れ」に基づき、銘柄を4つのグループに分けて、各銘柄の対業種(TOPIX17業種)超過リターンを集計しました。その結果、2023年6月末以降の株価パフォーマンスは、営業利益の上振れ・下振れに関わらず、値上げに言及しているグループが優位であることが判明しました。 次に、値上げによる株高効果の背景を探るため、業績モメンタム(売上高、営業利益、営業利益マージン)を比較しました。興味深いことに、「業績がアナリスト予想を下回ったグループ」においては、「値上げに言及している銘柄」が、3つの項目すべてで「言及していない銘柄」に比べて、業績の悪化が抑えられていました。企業の値上げが業績にプラスの影響をもたらし、それが株高にも寄与していることが確認できます。 一方で、「業績がアナリスト予想を上回ったグループ」においては、「値上げに言及している銘柄」が「言及していない銘柄」を上回ったのは営業利益のみでした。値上げの言及が明確に優位ではない理由として、好業績の銘柄の中には、値上げを実施していてもその事に言及していないケースが含まれている可能性があることが挙げられます。「値上げで儲かった」とはいいにくい面があるのかもしれません。 投資戦略としては、決算発表の前後で次の2つのアプローチが考えられます。 (1) 決算発表前では、「値上げに成功している銘柄」を見つけることで、アウトパフォームする可能性が高まります。第1四半期(Q1)の決算サプライズは第2四半期(Q2)に影響を与えやすいことから、Q1で「営業利益予想が上振れ&値上げに言及あり」の銘柄が有望と言えるでしょう。 (2) 決算発表後では、決算が下振れした銘柄の中から値上げに言及している銘柄を選ぶことで、パフォーマンスの回復が期待できます。 (FINTOS!編集部) 要約編集元アナリストレポート「日本株ストラテジー – 注目点とトピック(2023年10月13日配信)」(プレミアムプラン限定) (注)画像はイメージ。 要約編集元アナリストレポートについて ご投資にあたっての注意点
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10/17 12:00
【野村の投資判断】中東情勢の金融市場へのリスクを考える
リスク回避、原油高が続く可能性は限定的 イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとの衝突を背景に、金融市場では株価の下落などリスク回避の動きが強まり、一部で悲観的な見方も出ています。 過去の中東紛争は、大規模な紛争や戦争を理由に安全資産への逃避が起こる地政学リスクと、産油国への攻撃やその関与による原油価格の高騰リスクという2点から注目されてきました。 地政学リスクについて考えると、欧米が戦闘に参加したイラン・イラク戦争や湾岸戦争では、金融市場におけるリスク回避が一時的に見られました。しかし、今回の衝突はイスラエルとハマス、そしてレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラを中心としています。両者の軍事力には大きな差があるため、一方的な戦闘になる可能性が高いと見込まれます。そのため、米軍の介入の可能性は低く、欧米が紛争当事国にならない以上は、株価の調整は一時的と考えられます。 イスラム教国やアラブ諸国がイスラエルと戦火を交える可能性も低いでしょう。イスラエルは事実上の核保有国であり、報復のリスクを考慮すれば、多くの国が参戦を避けるとみられます。また、イスラエルに隣接するエジプトやヨルダンは既にイスラエルと和平を結んでおり、サウジアラビアなどの湾岸諸国も米国の支援などと引き換えに、イスラエルとの関係を改善してきました。イランの主導によるイスラエル包囲網に参加することには慎重な立場を取っていると思われます。 一方、イランについてはハマスへの支援を表明していますが、イスラエルとは直接の国境を有していないため、地上戦への参加は難しいでしょう。また、イラン国内の経済低迷やインフレにより国民の不満が高まっており、イスラエルとの交戦は体制の不安定化を招きかねません。イランが参戦するリスクも限定的でしょう。 原油価格の高騰リスクも限定的です。産油国の関心は石油収入の最大化であり、アラブ諸国がイスラエルを支援する西側諸国を制裁するために原油価格を政治的理由で引き上げる可能性は低いでしょう。さらに、ガザ地区は産油地帯ではなく、石油の輸送路からも離れています。また、イランへの制裁強化については、イランに対する米国の金融制裁はすでに実施されており、各国がイランから正規に原油を輸入することは難しくなっています。 (FINTOS!編集部) 要約編集元アナリストレポート「政治レポート – 中東情勢:パレスチナ自治区ガザ地区の戦闘拡大の金融市場へのリスクを考える(2023年10月13日配信)」(プレミアムプラン限定) (注)画像はイメージ。 要約編集元アナリストレポートについて ご投資にあたっての注意点
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10/17 09:30
【野村の投資判断】バリュー株の高パフォーマンスは転換点に
決算発表シーズンでのバリュー株の調整を予想 2023年6月に始まった低PBR(株価純資産倍率)銘柄の高パフォーマンスは、9月後半以降やや低迷しています。ここ数年のバリュー株のパフォーマンスは、米国金利の影響を強く受けてきました。足元の低迷は、低PBR銘柄が9月前半に米国金利上昇を上回るペースでアウトパフォームしたことに対する調整のようにも見えます。今後のバリュー株のパフォーマンスに関しては、引き続き米国金利の影響を受けやすいものの、(1)為替による影響の増大、(2)業績への懸念、(3)目標リターンの低下、により下落リスクが高まると予想します。 (1)為替による影響の増大 最近、低PBR株に対する円安の影響が高まっています。背景には、低PBR株において外需銘柄が占める割合が上昇してることがあります。「素材・化学」が株価の低迷により低PBR化が進んでいるほか、代表的なバリュー株である「金融」の株価上昇による外需銘柄の相対的なPBR低下が影響しているようです。一方、足元では政府・日銀による為替介入への警戒などにより米国金利と為替との連動性が低下しています。当面は、米国金利が低下した場合には円高に進みやすいのに対して、米国金利が上昇しても円安になりにくい可能性があります。低PBR銘柄にとっては、株価の下落リスク上昇につながると予想されます。 (2)業績への懸念 グロース株とバリュー株とのバリュエーション(投資尺度)格差は、予想ROE(自己資本利益率)や予想売上高成長率と整合的な推移をしています。そのため当然のことですが、今後のバリュー株のパフォーマンスを占う上では、業績見通しも重要です。足元、バリュー株の業績見通しに関しては懸念材料があります。2023年度の第1四半期(Q1)決算は全体として堅調な結果であったにも関わらず、バリュー株では会社予想の下方修正が頻発しました。通常、企業は業績の下方修正を第2四半期(Q2)まで保留する傾向があるため、今後、バリュー株とグロース株との業績格差が広がる可能性があります。 (3)目標リターンの低下 目標リターン(IFISコンセンサス目標株価と実際の株価との乖離率)の観点からも、低PBR銘柄は相対的に下落リスクが高いと考えます。低PBR銘柄は目標リターンが低い傾向があるためです。目標リターンが低い銘柄は特に決算発表シーズンの株価パフォーマンスが低調となる傾向があります。Q2決算では目標リターンの低い銘柄でレーティングの引き下げが増えると予想します。決算発表シーズンにおけるバリュー株の株価押し下げ要因になりそうです。 (FINTOS!編集部) 要約編集元アナリストレポート「日本株クオンツストラテジー – バリュー株の高パフォーマンスは転換点に(2023年10月13日配信)」(プレミアムプラン限定) (注)画像はイメージ。 要約編集元アナリストレポートについて ご投資にあたっての注意点