野村のオピニオン
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10/27 09:30
【業界展望】東京不動産への注目度は高い
東京の優位性が高まっている 欧米ではインフレ抑制の為の金融引き締めが続き、不動産市況が悪化を続けている。中国の不動産市況も長期低迷が予想され、堅調に推移する東京の不動産は実物投資の対象として注目が高まっている。 東京のオフィス賃貸市場では、リオープニングで出社率が回復し、オフィス賃貸需要が1~9月の実績で年率2.8%増加した。新規ビルの供給が2023年秋以降減少してくることから、空室率改善への期待が高まる。23年内に新たに完成する大型ビルは、東急不動産ホールディングスが開発する「渋谷サクラステージ」のみとなったが、テナント内定率は90%を超えている。 米国主要都市ではリモートワークの定着でオフィス空室率が20%程度で推移し、オフィス不要論が残る。東京の空室率の改善を通じて米国との違いが再認識され、日本不動産株への外国人投資家の見方が改善することになるだろう。 また、空室率が期待通り改善すると、オフィス賃料の改善期待を通じて、不動産投資のインフレ耐性の強さを投資家に想起させることになり、不動産株へ好影響をもたらすことになろう。 なお、25年にオフィスビルの新規供給量は再び増加に転じる見通しであり、二次空室リスクも含めて楽観はできない。だが、KDDI やホンダが25年竣工予定のビルへの本社移転を公表しており、同年竣工予定ビルのリーシングも進捗を始めている。 他方、13年以来続いてきた超金融緩和策が徐々に修正・変更され、正常化にむかっていることを懸念する投資家もいよう。金利上昇が不動産投資の魅力を減退させ、不動産市況に悪影響を与える可能性がある上に、資本集約的な不動産業は、有利子負債が多く、金利上昇が利払いの増加につながると考えるためだろう。 しかし、金融政策の正常化は経済回復が前提となる。経済回復は東京の不動産市況にも好影響を与える上に、多くの大手不動産会社は借入金を長期化、金利の固定化をはかっており、金利の上昇が金融収支の大幅の悪化となって短期業績に顕れてくることはないだろう。長短金利操作付き・量的質的金融緩和策が修正されても、日本の不動産市場への影響は限定的だろう。 不動産の含み益の有効活用 大手デベロッパーの経営戦略を見ると利益成長と資産・資本効率、そして株主還元の両立が引き続きの課題である。各社が保有する不動産には多大な含み益があるが、含み益を顕在化させ株主へ還元しないとの投資家の不満が一部にはあった。 不動産の継続的かつ戦略的な売却による売却益の計上で利益成長を牽引し、保有資産のポートフォリオの見直しで資産・資本効率を改善できれば、次の再開発プロジェクト資金と株主還元の原資を調達できる。 三井不動産は、年間の利益成長率7%、総還元性向45%を公約し、計画的に不動産を売却してきた。同社の特徴は、3.3兆円の含み益がある賃貸用不動産の他に、既に稼働中でいつでも売却できる状態にある販売用不動産を1兆円保持していることである。今後開発する賃貸用不動産として日本橋、八重洲、日比谷など大型プロジェクトを数多く抱えることから、資産の膨張を防ぎ資産効率を向上させるためにも、不動産の売却を続けていくと推察できる。 野村不動産ホールディングスは、保有する不動産のポートフォリオを聖域なく見直しながら、年率8%の利益成長、総還元性向40~50%の公約実現に向けて、不動産の売却益を顕在化させてきている。ただし、不動産の含み益が減少しないよう新たな開発事業に継続的に取り組み、含み益を増大させてきた点にも留意したい。 三菱地所は、地盤とする丸の内に立地する不動産は基本売却しない方針だが、丸の内以外にある不動産を売却しながら、30.3期を最終年度とする長期経営計画ではROE10%、EPS(一株当たり当期純利益)200円(23.3期実績は125.5円)の両立を目指す。米国の不動産市況の悪化で、一部の米国不動産の売却を延期したことなどで、24.3期は営業減益となる見通しだが、米金利の上昇がピークアウトしてくるようだと、利益成長スピードが高まろう。 住友不動産は、東京都心の不動産は売却しない方針で、賃貸利益と不動産の含み益を増大させており、その方針は変わらない。しかし、今後は開発スピードを上げることで、利益成長率の加速と資本効率の改善を目指す。不動産の含み益の増加要因は大別すると、不動産市況上昇による影響と自らが価値を創造した開発価値に分けられるが、価値創造力を磨く。 不動産株を見る上で、不動産の含み益は、コロナ禍において特に注目されてこなかった。しかし、今後は含み益の有効活用の進展で変化が生じよう。 (野村證券エクイティ・リサーチ部 福島 大輔) ※野村週報 2023年10月23日号「産業界」より ※掲載している画像はイメージです。 【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら ご投資にあたっての注意点
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10/25 15:30
【資産運用の視点】暗号資産に係る世界の規制動向
暗号資産(暗号通貨・仮想通貨)とは、銀行等の第三者を介さずにインターネット上で取引できる財産的価値を有するデータ資産のことである。ブロックチェーン技術で台帳を集中型ではなく分散管理し、暗号資産の決済や送金の取引データ管理における信頼性を担保している。代表的な暗号資産にはビットコインやイーサリアムなどがあり、世界には25,000以上の銘柄が存在する。 2009年にビットコインが誕生して以降人気を集める投資手法となったが、近年は暗号資産の仕組みを悪用する事例の増加や、国際的に活動する暗号資産業者の破綻などがあり、利用者保護を巡る懸念が高まっている。また、規制の複雑化や各国間の相違についても問題視する声が増え、国際的な規制枠組みの必要性も高まっている。こうした状況を受けて、暗号資産に係るリスクを未然に防止するため、規制の制定や強化に向けた動きが活発になってきている。 欧州連合(EU)では世界で初めて暗号資産を包括的に規制する法律「暗号資産市場規制法(MiCA 規則)」の採用を決定した。23年5月に欧州理事会にて採択され、24年12月から適用される見通しである。MiCA 規則は、既存のEU 法では規制されていない暗号資産を対象としており、投資家保護や不正取引防止、暗号資産業者への規制を目的としている。施行されることにより、EU 全ての加盟国で一貫した規制の枠組みを構築することが可能となる。 また、証券監督者国際機構(IOSCO)は、23年5月、暗号資産とデジタル市場の規制に関して、相場操縦やインサイダー取引、詐欺、顧客資産保護、個人顧客の扱いなどを対象とした初の国際標準ルールを提案、公表した。IOSCO は法的拘束力を持たないが、世界の暗号資産業界における規制の一貫性と利用者保護の強化に資するべく、早期の確定を目指している。 日本においては資金決済法や金融商品取引法等にて、利用者を保護するための法改正が行われているが、国境を越えて流通する暗号資産は国際的に規制することが不可欠である。今後、グローバルな規制枠組が構築されることで、暗号資産業者が従うべきガイドラインや要件が一層明確化されるとともに、暗号資産業界の健全な発展に繋がっていくだろう。 (野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング 梶村 侑加) ※野村週報 2023年10月23日号「資産運用」より ※掲載している画像はイメージです。 【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら ご投資にあたっての注意点
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10/25 12:00
【野村の投資判断】新NISAの影響③:「貯蓄から投資へ」が始まりだしている可能性
国内家計の金融商品の選択基準は「安全性」から「収益性」にシフト 新NISA(少額投資非課税制度)の導入による中長期的な影響を考えてみます。日本株への資金流入は起こるのでしょうか。まず、「貯蓄から投資へ」の動きが始まりだしている可能性を確認します。金融広報中央委員会の「家計の金融行動における世論調査」によれば、金融商品を選ぶ基準として「収益性」を重視する家計の割合は2022年に35.9%と、これまで過去最高だった1986年の34.0%を超えました。これまで多くの家計は資産の「安全性」を重視していましたが、インフレの影響により、現金の資産価値が目減りするリスクを意識するようになったようです。 過去を振り返ると、現在と同様に「収益性」と回答した割合が増加傾向にあったのは1977年から1986年にかけてです。同期間では、家計の金融資産に占める株式や投資信託の割合が純取得を伴って増加しました。 日本株への影響について考えると、家計が株式や投資信託の保有を増やす中で、投資対象が海外株ではなく日本株に向かうかが鍵となります。海外・内外株式投信への資金純流入額を見ると、円建てS&P500指数の過去12ヶ月リターンと連動する傾向があります。このことから、多くの個人投資家が過去のパフォーマンスを基に投資判断をしていると考えられます。 そのため、個人投資家が海外株から日本株へと興味を移すには、日本株のパフォーマンスが円建ての海外株を超える必要があるでしょう。もし日本が脱デフレを成功させ、日本株が上昇し、円高も両立する結果となれば、日本株が投資の魅力的な選択肢となる可能性が高まります。 (FINTOS!編集部) 要約編集元アナリストレポート「日本株ストラテジー – 新NISA・個人投資家動向の3つの注目点(2023年10月13日配信)」(プレミアムプラン限定) (注)画像はイメージ。 要約編集元アナリストレポートについて NISA口座のご利用にあたっての留意事項 ご投資にあたっての注意点
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10/24 12:00
【野村の投資判断】銀行株のアナリスト・レーティングに引き上げ余地
今月末の日銀会合に向けて銀行株に注目したい 日本の株式市場における銘柄選びの観点では、日本銀行が2023年10月30日から31日にかけて開催する金融政策決定会合に向けて、銀行株に注目します。最近の銀行株はアウトパフォームの傾向を維持していますが、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りの上昇と比較すると、やや出遅れているようです。 加えて、銀行株のアナリスト・レーティングにはまだ引き上げの余地があり、中長期的な強気材料とみなせるでしょう。過去の傾向から、アナリスト・レーティングは長期金利に半年程度遅れて変動することがわかっており、現在の金利上昇は将来的なアナリスト・レーティングの引き上げを示唆している可能性があります。 足もと、欧米では政策金利の引き上げが進行中です。米国では、米シリコンバレーバンク(SVB)などの中堅銀行の破綻により、金利上昇による銀行のバランスシートの毀損リスクへの警戒感が高まっています。一方、欧州では銀行株と長期金利の連動性が保たれています。さらに、アナリスト・レーティングもドイツの長期金利上昇が半年ほど遅れる形でポジティブに作用する傾向が確認できます。 この欧州のケースを参考にすると、日本銀行の金融政策が正常化する中では、アナリスト・レーティングの引き上げを伴う形での銀行株のアウトパフォームが期待できそうです。 (FINTOS!編集部) 要約編集元アナリストレポート「野村クオンツ・インサイト – 弱気傾斜のCTAと様子見のマクロ勢(2023年10月23日配信)」(プレミアムプラン限定) (注)画像はイメージ。 要約編集元アナリストレポートについて ご投資にあたっての注意点
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10/24 09:30
【野村の投資判断】新NISAの影響②:来年初から高配当銘柄に資金が集まる可能性
個人保有比率が高い銘柄の中でも、高配当利回り銘柄が買われる可能性 新NISA(少額投資非課税制度)の開始当初(2024年1月~)の日本株への影響を整理します。個人投資家の売買動向を確認すると、1月には日本株の現物株を買い越し、2月と3月も売り越しが小さくなる傾向があります。これは、前年末までの損益通算による節税を目的とした売りの影響により、売り余力が小さくなっているためだと考えられます。さらに2014年以降は、NISAの投資枠が年初に付与されることも影響している可能性があります。 これらの需給要因により、個人投資家の保有比率が高い銘柄の対TOPIXパフォーマンスは、9月末を起点として1月上旬に底打ちし、その後3月中旬まで改善が続くことがわかります(※2013年9月末以降のデータを参照)。さらに、2024年については、新NISAの開始により需給インパクトが例年よりも大きくなる可能性があります。 それでは、個人投資家の保有比率が高い銘柄の中でも、選好されるのはどのような銘柄でしょうか。野村證券では、高配当利回り銘柄に資金が集まる可能性があると見ます。TOPIX500構成銘柄の中で、2022年度に個人投資家の保有比率が大きく増加した上位50銘柄の、2023年3月末時点の予想配当利回り(2023年度基準)の中央値は3.2%で、母集団の中央値である2.4%を上回っています。高配当利回り銘柄は、インフレ対策のひとつとして注目されているようです。 なお、新NISAの開始により、個人投資家の買い付けは1~3月に活発化が予想されますが、日本株全体を大きく押し上げることは難しいと見ます。例えば、2016年に一般NISAの投資上限が引き上げられましたが、純買い付け額は増加しませんでした。また、つみたてNISAについては、個人投資家の間では、日本株式投信よりも海外株式投信の人気があります。ただし、海外株式投信への一極集中も変わりつつあり、2023年初からの日本株上昇を受けて、2023年6月以降は国内株式投信への資金純流入額が拡大しています。 (FINTOS!編集部) 要約編集元アナリストレポート「日本株ストラテジー – 新NISA・個人投資家動向の3つの注目点(2023年10月13日配信)」(プレミアムプラン限定) 【野村の投資判断】新NISAの影響①:年末までの売りリスクに注意(2023年10月23日配信) (注)画像はイメージ。 要約編集元アナリストレポートについて NISA口座のご利用にあたっての留意事項 ご投資にあたっての注意点
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10/23 15:30
【市場展望】カギを握る中国景気は規制と緩和のはざまに
中国景気は持ち直しの兆し 今後のアジア株は、中国景気の安定化の恩恵を受けよう。中国の在庫調整終了とテクノロジーセクターの循環的回復により韓国、台湾、ベトナム、香港・中国の株式市場への好影響が期待できよう。インドについては中長期の成長ポテンシャルが株価を下支えしよう。本稿ではアジア株の現状と見通しを概説する。 年初来(10月13日時点)の世界主要株式市場の騰落率は、欧米、日本などの先進国やアジア新興国のパフォーマンスが好調だった。アジア株(日本を除く)では、台湾、ベトナム、韓国、インドが堅調だった一方、タイ、香港、フィリピン、中国のパフォーマンスは相対的に劣後した。米国が利上げ終了局面に近づく中、特に年前半は米国株の上昇がグローバル株式市場全体をけん引し、AI(人工知能)の普及や半導体市況の底入れ観測も台湾や韓国などのテクノロジー株の追い風になった。 しかし、足元では、米長期金利が再上昇し、中東の地政学リスクも意識され、グローバルに株価は軟調に推移している。インドについては、足元の景気が堅調で、かつ、中長期の成長ポテンシャルに注目が集まっているが、9月中旬に過去最高値を更新した後は、上値の重い展開となっている。 ゼロコロナ政策解除後の回復の勢いが失速し、低調が続いていた中国本土や香港(以下、中国株)は、8月の主要経済指標や9月製造業PMI(製造業購買担当者景気指数)で示された景気の安定化の兆しが相場を下支えした。不動産市場の支援策や金融緩和、在庫調整の進展、米中対立の緩和期待が景況感の改善に寄与していよう。 しかし、10月入り後に発表された経済指標に見る中国景気の足取りは勢いを欠く。9月物価統計が市場予想を下回り、需要の弱さを反映してデフレ圧力の継続が示唆された。9月貿易統計は輸出入ともに前年比でのマイナス幅が縮小したが、アジアの主要輸出国との比較では依然として強い逆風に直面していることが明らかになった。 また、製造業の循環的な回復により中国景気は緩やかな持ち直しが期待されるものの、後述する通り、構造的な問題が山積みで、回復には時間を要そう。 岐路を迎える中国経済 アジア株の本格的な底入れには中国景気の回復がカギになろう。そのためには中国の不動産市況の底入れ、米中関係の改善、及び民間企業に対する支援の実現が重要になると見ている。 8月から中国では住宅取得時の頭金規制の緩和や、住宅ローン金利の引き下げが実施され、大都市の住宅需要を押し上げたが、不動産セクターの悪化スパイラルを食い止めるには十分でないと見ている。足元では中国不動産開発大手の資金繰り懸念が続いており、多くの建設プロジェクトが完工しておらず、新たな資金調達へのアクセスが制限されているため、依然として流動性不足に陥っている。オフショア債(中国本土外で取引される債券)が債務不履行に陥り、再建案について債権者から合意を得られない場合には、金融市場に混乱をきたす可能性があり注意が必要である。 他方、米中関係にも目配せが必要である。テクノロジー分野での米中のデカップリング(経済分断)は、バイデン政権で半導体製品に関する輸出管理が強化されるなど更に進展し、米国の対中貿易依存度は低下している。それに対抗して中国では半導体国産化を進めているが、2022年の半導体設備の国産化率は約22%に留まる。23年8月に中国通信機器大手が先端半導体搭載の携帯電話を発売し、生産能力が向上したと評価を得たが、大量生産は困難とされ、自国内での供給網の完結には程遠い状況である。足元では、米中双方の産業界から輸出規制の追加措置の実施に懸念を示す声が上がり、両政府が対話を活発化させている。しかし、安全保障や先端分野での覇権争いは今後も続く可能性が高く、中国の輸出や技術革新の阻害要因となり続けよう。 中国政府は民間企業の統制を強める方針から支援に舵を切っている。23年7月には民間企業に対する政策支援の強化、9月には専門機関を設置し、民間支援策の制定などを進める意向を示した。中国の民間企業や金融市場が懸念しているのは、それが着実かつ継続的に実施されるかである。 これまでも中国政府には規制を強化する時期と緩和する時期が交互に訪れる政策サイクルが存在していたが、現在は緩和の方向にある。中国政府の政策に対する信頼感と政策の予見性が回復し、冷え込んだ企業や家計のマインドが回復しなければ、景気の本格的な持ち直しは見えてこないだろう。中国経済は長期的な停滞に向かうのか、再び成長路線に回帰するのか、岐路を迎えていよう。 ( 野村證券投資情報部 坪川 一浩 ) ※野村週報 2023年10月23日号「焦点」より ※掲載している画像はイメージです。 【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら ご投資にあたっての注意点
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10/23 12:00
【野村の投資判断】新NISAの影響①:年末までの売りリスクに注意
個人投資家保有比率が高い銘柄は、年末までの売りリスクが例年以上に大きい 新NISA(少額投資非課税制度)の導入により、今年の年末にかけて日本株に一時的な売り圧力が生まれる可能性があります。個人投資家の売買動向を見ると、例年11~12月に現物株の売り越し金額が増える傾向があります。この背景には、節税を目的とした損益通算の売りがあるとされます。この需給要因により、個人投資家の保有比率が高い銘柄は、9月末から約40~50営業日、TOPIXに対してパフォーマンスが劣後する傾向があります。 現行の一般NISAでは5年間の非課税期間が経過した株式などは、翌年の投資枠へロールオーバー(移管)できます。しかし、現行のNISAから新NISAにはロールオーバーができません。そのため、2019年の投資枠で保有している株式などは、2023年中に売却しなければ課税口座に移されます。したがって、継続保有を考えている銘柄でも、株価が上昇したタイミングなどで、いったん売却する個人投資家が増えるかもしれません。 結論として、個人投資家の保有比率が高い銘柄は、今年の年末にかけて相対的に売り圧力が強まると予想されます。特に、2018年度と比べて個人投資家の保有比率が増えた銘柄は、一般NISAの投資枠で継続保有されている可能性があるため、リスクが大きいと考えられます。ただし、これらは一時的な需給要因に留まると見ています。 (FINTOS!編集部) 要約編集元アナリストレポート「日本株ストラテジー – 新NISA・個人投資家動向の3つの注目点(2023年10月13日配信)」(プレミアムプラン限定) (注)画像はイメージ。 要約編集元アナリストレポートについて NISA口座のご利用にあたっての留意事項 ご投資にあたっての注意点
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10/22 18:00
【特集】野村證券「四季報の会」秋号を徹底解説(後編)
野村證券の社内企画「四季報の会」。『会社四季報』(東洋経済新報社刊)を読破して分析した投資情報部のリサーチャーらが、全国のパートナー(個人投資家向け営業担当者)らに現在の日本企業の動向を伝える取り組みで、社内で長年にわたって受け継がれている。今回は「秋号」の前半に続き、後半(銘柄コード6000~9000番台)の解説の一部をお届けする。 【6000番台】低PBR企業に対するM&A、脱中国に注目 6000番台の中心となる機械や電気機器では、4000~5000番台と同様に自動車関連の部品や機器を手掛ける企業の業績は堅調に推移しています。特にEVに関連する記述が目立ちました。一方、工作機械などを中心に、中国の景気悪化の影響を受けている企業も多くみられました。足元では、一部で需要の弱さが見られるものの、総じて成長に備えた設備投資への意欲が旺盛だと感じました。 工作機械中堅のTAKISAWA(6121)には、「ニデック(6594)が完全子会社化を目的としてTOB(株式公開買い付け)を企図」とあります。前年のPBRが0.43倍、3年前は0.39倍だったTAKISAWAに対してニデックは約2倍の株価でTOBを開始し、TAKISAWA側もこの提案を受け入れる方針を示しています。 この案件は実質的に、2023年8月に経済産業省が策定した「企業買収における行動指針」に即した最初のM&A案件です。 こうした案件は、低PBR企業の経営者に大きな影響を与えるとみられ、今後このような案件が増加していくか注目したいと思います。 ソディック(6143)では、「柱の工作機械は中華圏の需要減が想定超で大苦戦」とありました。注目したいのは2つ目の見出し「脱中国」です。「生産拠点再編の機運受け、インド、メキシコの販売体制拡充」とあります。西部電機(6144)でも、2つ目の見出しが「リスクヘッジ」で、「中国向け中心の精密機械は東南アジア、北米へ展開模索」とあります。 この2社に限らず、インド、ベトナム、インドネシアなどへの投資が増えてきている印象があります。中国に依存しないサプライチェーンを構築しようと考えている企業が増えつつあると言えそうです。 【7000番台】防衛予算の本格寄与と活況の自動車業界 ここまで見てきた企業でも、自動車関連の部品や機器が好調でしたが、自動車メーカーの業績も大変好調でした。一方、重工メーカーでは防衛関連の受注が好調だったことが印象的でした。 三菱重工業(7011)の見出しは「増額」となっており、「防衛は予算増で受注大幅拡大」とあります。そして、2つ目の見出しが「防衛」で、「スタンドオフミサイルなど防衛・宇宙事業で4~6月で6,491億円受注」とあります。 川崎重工業(7012)の見出しは「一転増益」となっていて、「防衛・民間向けに航空伸長」とあります。防衛予算の増額の影響がしっかりと業績に寄与してきていることがわかる内容でした。 次は注目の自動車業界を見ていきます。日産自動車(7201)の見出しは「増益幅拡大」、いすゞ自動車(7202)も「独自増額」となっており、四季報の記者が独自に営業利益の予想を増額しています。 そして、トヨタ自動車(7203)の見出しも「独自増額」となっており、好調さがうかがえます。 【8000番台】「消費の二極化」と変化の兆しが見えた銀行 アパレルや小売では、節約するモノとお金をかけるモノがはっきり分かれる「消費の二極化」の傾向が見られました。百貨店や高額衣料品を扱う企業と、スーパーや低価格の衣料品店などがいずれも好調です。 三陽商会(8011)の見出しは「上振れ」となっています。かつて国内で「バーバリー」を展開していた企業です。2015年にバーバリーとの契約が終了し、一気に営業利益が下がってしまったのですが、足元の業績は好調です。オンワードホールディングス(8016)も同様に中・高価格帯の製品を展開するアパレルメーカーですが、見出しは「増益幅拡大」です。高額消費が活況なことが、この2社の業績からもわかります。 また、スーパー大手のライフコーポレーション(8194)の見出しは「増額」、マックスバリュ東海(8198)も「上向く」となっていて、スーパーの業績も堅調です。低価格帯のアパレルを展開するしまむら(8227)の見出しも「連続最高益」でした。 次は、金融政策の修正に絡んで注目されている銀行です。三菱UFJフィナンシャルグループ(8306)はマイナス金利の状況にもかかわらず、最高益になっています。「預貸金利ザヤ拡大」、これは海外の金利上昇で利ザヤが拡大しているということなのですが、国内の利回りも良くなっています。三井住友フィナンシャルグループ(8316)は「法人役務手数料も好調」ということで、利ザヤ以外の収益も稼げるようになってきているようです。 地方銀行も好調です。千葉銀行(8331)は「法人、個人の貸出残高が漸増」とあって、利ザヤが堅調になっています。2つ目の見出しは「利上げ」で、「市場金利の上昇を受け金利更改に本腰、固定の貸し出しの実効金利を引き上げへ」とあって、実際に貸出残高がかなり増えています。富山銀行(8365)の「利回りが改善、貸出金利伸長」、滋賀銀行(8366)の「預貸金利ザヤが反発」など、変化の兆しが見えています。 【9000番台】アフターコロナ、インバウンドの好影響 鉄道各社の堅調な業績が確認されました。 西日本旅客鉄道(9021)の見出しは「大幅増額」となっています。「新幹線の旅客数が想定超える伸び」「ホテルは観光軸に復調」で四半期の営業利益進捗率も45.4%です。東海旅客鉄道(9022)も「独自増額」という見出しに「レジャー需要好調、インバウンドの伸びが想定超える」とありました。 都市部の私鉄もJR各社と同様です。東武鉄道(9001)の見出しは「独自増額」で、ホテルは訪日客需要の回復は想定を上回り、鉄道も行楽など定期以外の利用が増加しているとのことです。小田急電鉄(9007)も「絶好調」で「箱根観光需要復活」とあります。西武ホールディングス(9024)でも「ホテルは訪日客回復で客室単価上昇」とあり、四半期進捗率は40.7%と高くなっています。 プロ野球・阪神タイガースのセ・リーグ優勝で沸く阪急阪神ホールディングス(9042)は「一転増益」で、こちらもホテルの訪日客などが回復しているようです。 電力会社は料金値上げの効果がかなり大きく出ています。ただ「前号比増額」の企業を探してみると中国電力(9504)だけでした。同社は四半期進捗率が82.5%と高く、「復配」の予想となっています。 空運はコロナ禍が落ち着き、活況期を迎えています。日本航空(9201)は見出しが「独自増額」です。ANAホールディングス(9202)の見出しも同じく「独自増額」でした。空運に関しては、四季報の記者は強気で見ていることがわかります。 総じて、日本企業はコロナ禍が終わり、勢いを取り戻してきている印象です。真の実力が問われるのはこれからと言えそうです。 ご投資にあたっての注意点
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10/22 13:00
【注目トピック】9月小売売上高から見た米国の個人消費動向
不透明感強まる中、9月は堅調維持 9月の前月比は+0.7% 10月17日に米商務省が、2023年9月の小売売上高を発表しました。小売売上高(合計)は前月比+0.7%となり、ロイター集計による市場予想の同+0.3%を上回りました。8月については、前月に発表された速報値の前月比+0.6%から同+0.8%に上方修正されました。 業種別では、インターネット小売を含む無店舗販売が前月比+1.1%となったほか、自動車・同部品が同+1.0%、飲食店が同+0.9 % 、化粧品を含む健康用品が同+0.8%などとなりました。 一方、電気製品が同-0.8%、衣料品が同-0.8%となりました。 GDP(国内総生産)の算出に用いられる、コントロールグループと呼ばれる自動車や建材、ガソリンスタンド、食品を除いたコア小売売上高は、9月は前月比+0.6%でした。8月分は、速報値の同+0.1%から同+0.2%に小幅に上方修正されました。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 9月の前年同月比は+3.8% 9月の小売売上高(合計)の前年同月比は+3.8%と、8月改定値の同+2.9%から伸び率が加速しました。8月は、前月の発表時点の同+2.5%から上方修正されました。 業種別では、飲食店が前年同月比+9.2%、無店舗販売が同+8.4%、化粧品を含む健康用品が同+8.3%、自動車・同部品が同+6.2%などとなっています。 一方、家具が同-5.9%、百貨店が同-4.7%、建設資材・ガーデニング用品が同-4.0%、電気製品が同-2.2%、など、裁量的な品目の比重が高い業種の多くで減少しています。ガソリンスタンドは同-3.5%となっていますが、前年と比べたガソリン価格の下落が影響していると推察されます。 前年同月比で拡大基調が続く 小売売上高(合計)の前年同月比の推移をみると、9月は+3.8%と、8月改定値の同+2.9%よりも増加ペースが加速しています。 無店舗販売は、8月改定値の同+7.9%に対し9月は同+8.4%と、こちらも伸び率が加速しています。 ミシガン大学消費者マインド調査 10月13日に発表されたミシガン大学消費者マインド調査の10月速報値は63.0と、9月確報値の68.1から悪化しました。 一方、併せて発表された消費者期待インフレ率調査では、1年先は9月確報値の3.2%から3.8%に、5年先については同じく2.8%から3.0%に上昇しました。 今後の留意点 9月小売売上高は、前月比が市場予想を上回り、前年同月比の伸び率が加速しており、金利高やインフレの影響は受けながらも、足元の米国の個人消費は底堅さを維持していると見受けられます。 小売売上高の中で唯一のサービス業である飲食店は、前月比、前年同月比共に増加しています。個人消費の向け先が、財に対する支出からサービス関連の支出にシフトしていて、財中心の小売売上高から受ける印象よりも、個人消費は堅調である可能性も考えられます。 一方で、ミシガン大学の調査では、消費者は経済の先行きに対しマインドが低下している上、インフレへの警戒感が強いことが窺えました。 なお、小売売上高統計は名目値で、支出額の増加がインフレによって押し上げられている可能性もあり、この点には注意が必要です。 また、小売企業の業績動向を見る上では、小売売上高統計は売上高についての統計である点にも留意が必要です。企業によっては、売上高は増加しているものの、仕入価格の上昇や人件費上昇の影響で、利益が圧迫されているということも考えられます。 いずれにせよ、単月の動向では個人消費の傾向は判断できません。他の経済指標などとも併せて、米国個人消費の状況を確認していきたいと考えます。 (野村證券投資情報部 村山 誠) 【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら 業種分類、Nomura21 Globalについて ご投資にあたっての注意点