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10/21 18:00
【特集】野村證券「四季報の会」秋号を徹底解説(前編)
野村證券の社内企画「四季報の会」。『会社四季報』(東洋経済新報社刊)秋号の発売に合わせて10月上旬に実施し、数百人のパートナー(個人投資家向けの営業担当者)が、四季報を読破して分析した投資情報部のリサーチャーらの解説を聞いた。今回は秋号の前半(銘柄コード1000~5000番台)の解説の一部を紹介する。 【1000番台】建設は「政策保有株売却」が目立つ 1000番台の中心である建設会社では、資材高や人件費増の影響により夏号から引き続き、軟調な企業も散見されましたが、空調や電設などの設備関連企業の業績が改善しつつある印象を受けました。 大成建設(1801)の見出しには「下ぶれ」とあり、まだ改善していない状況です。厳しい資源・資材高により、業績自体はあまり振るいませんが、株価は上昇傾向にあります。その要因であると考えられるのが、左側の見出しにある「資本効率向上目的に政策保有株縮減 30年度まで2000億円売却意向」という部分です。 銀行などにはかなり前から政策保有株を売却する動きがありましたが、東証からの要請を受け、建設会社など他業種でも同様の動きが活発化しています。大林組(1802)や清水建設(1803)も政策保有株を縮減する意向について記載があります。四季報のコメント欄だけでは、売却した資金の使途はわかりませんが、ゼネコン各社が資本効率向上に向けた施策を打っている点は市場から評価されているとみられます。 土屋ホールディングス(1840)をご覧ください。北海道地盤の注文住宅の会社ですが、見出しに「ラピダス」と書いてあります。土屋ホールディングスは、国策の半導体会社の進出による業績向上が期待されているようです。すでに、TSMC(台湾積体電路製造)の工場が進出する九州では景気への波及効果が出てきています。北海道でも同じことが起こるかどうか今後注目が集まりそうです。 【2000番台】食品は値上げ浸透でV字回復 食料品の企業は「上ぶれ」や「V字回復」「最高益」などの見出しが目立ちました。夏号と比べ、原材料高の価格転嫁がより幅広いセクターや企業に浸透してきている様子がうかがえました。 ニップン(2001)や日清製粉グループ本社(2002)など製造業でも値上げが浸透し業績改善につながっているようです。ただ、販売数量の伸びはコロナ後の回復から一服しているようで、持続的にここから利益を伸ばしていくための次の一手、戦略に注目です。 ヒガシマル(2058)、東洋精糖(2107)などを見ても原材料高による値上げが浸透している様子がうかがえます。夏号の時点で原材料高や物流高に苦しんでいた飼料や砂糖などのメーカーでも、原材料高などが一服してようやく値上げが浸透してきたようです。 森永製菓(2201)など、菓子メーカーの業績も好調です。 以前から値上げは実施していましたが、原材料価格を吸収しきれず、「軟調」や「大幅減益」といった見出しが目立っていました。しかし今回は値上げが続くといったコメントも目立っており、需要に堅調さがうかがえます。 ブルボン(2208)の2つ目の見出しは「増産」とあります。チョコレート市場が成長し、生産設備を増設したようです。値上げだけでなく、より効率化した生産設備に投資することで「次の一手に動いているな」と感じました。 プリマハム(2281)、日本ハム(2282)、丸大食品(2288)なども業績が伸びているようです。菓子やハム・ソーセージのメーカーには「コンビニ向けの販売が伸びた」といったコメントがいくつも見られました。確かにローソン(2651)の見出しは「増額」となっています。 【3000番台】経済正常化で活況呈する飲食店 3000番台は値上げが奏功したり、インバウンドの恩恵を受けたりして好調な企業が多かったと思います。夏号では電力・ガスなどの銘柄の欄に値上げに関する記載が多かったため、外食を中心に、光熱費などのコスト上昇を懸念するコメントが目立ちました。今号では、コスト上昇分を値上げでカバーして、「前号比増額」となった企業も増えています。 銚子丸(3075)は回転寿司チェーンですが、見出しが「増益続く」です。値上げの寄与だけでなく「都心、郊外の両方で新規出店狙う一方で、経済正常化を受けて持ち帰り専門店を順次閉鎖」という記述がありました。経済情勢に合わせて業態を変化させる取り組みを進めているようです。 ドトール・日レスホールディングス(3087)は、星乃珈琲店やドトールなどを展開している企業です。「店舗純増65」という記載があります。前期は「純減30」ですから、出店ペースが加速しています。営業利益も大きく伸びる予想になっています。 物語コーポレーション(3097)は、焼肉店を展開しています。見出しは「連続最高益」。そしてこちらも「店舗純増72」で前期より出店ペースが加速しています。 紙・パルプの銘柄の業績改善も確認できました。王子ホールディングス(3861)は見出しが「好転」、三菱製紙(3864)は「急回復」となっています。株価を見ていただくと、今年に入ってから、反転上昇している企業が目立ちます。価格転嫁による業績改善への期待に加えて、紙・パルプは、多くの企業がPBR1倍を割りこんでいることから、資本政策への期待も含まれているのかもしれません。 【4000番台】半導体関連は「底打ち」か レゾナックホールディングス(4004)、旧昭和電工は今回「大幅赤字」と書いてありますが、 夏号では半導体・電子が前工程材料、後工程材料ともに低迷して「赤字転落」とありました。秋号では後工程が上向いたものの、補いきれなかったようです。しかし2024年12月期には回復する見通しのようです。 東京応化工業(4186)は、半導体製造の際に使われるフォトレジストで世界首位の企業です。ArF(フッ化アルゴン)関連など先端品が底堅いと書いてあります。足元では顧客の在庫調整が長期化したものの、2024年12月期には回復する見込みであるとのことです。やはり半導体関連は今が「底」なのかもしれません。 住友ベークライト(4203)は「主力の半導体封止材はパワー半導体など車載向けが伸びてけん引」しているそうです。この企業などを見ていると、やはり自動車関連は好調なのではないかと見て取れます。積水化学(4204)も「好採算の中間膜が自動車用回復」とあります。半導体関連の企業でも自動車業界向けは好調との印象を受けます。 オービック(4684)や日本オラクル(4716)など、SIer(システムインテグレーター)の業績は依然として好調のようです。以前と比べDXという言葉を聞く頻度は減ったかもしれませんが、システム投資が下火になったというより、DXという言葉が当たり前のものとして、世間に浸透してきたと捉えた方がよさそうです。 【5000番台】鉄鋼メーカー、PBR改革の行方 4000番台でも目立ちましたが、5000番台でも自動車生産回復の追い風が見受けられました。横浜ゴム(5101)やTOYO TIRE(5105)、ブリヂストン(5108)などのタイヤメーカーをはじめ、自動車部品を手掛ける企業も好業績でした。 ワイパーやブレーキなどの自動車用ゴム製品を手掛けるフコク(5185)も見出しが「最高益」となっており、業績は好調です。また、「27年3月期にROE12%を達成する」目標が掲げられているとの記載もあり、ここでもPBR1倍割れに対する施策がみられました。 PBR改革で注目されるのが鉄鋼業界です。 日本製鉄(5401)の見出しは「減配」となっていて、経常利益、税引き前利益ともに減益になっています。 鉄鋼市況の低迷など、記事の内容はあまりよくない印象ですが、キャッシュフローはしっかり稼げています。 日本製鉄系の企業である中山製鋼所(5408)も見出しが「反落」で営業減益予想ですが、そもそも利益が高水準です。2021年3月期から2023年3月期にものすごく伸びていることがわかります。このように、海外の市況が低迷しても、鉄鋼メーカー各社の業績は高水準が継続すると予想されています。東証の改革だけではなく、利益水準が上昇した点も、PBRの改善につながっていると言えます。 収益性の改善に加え、PBRそのものの改善に向けた取り組みももちろん活発化しています。日本製鉄の子会社である山陽特殊製鋼(5481)ではPBR対策がかなり具体的に言及されています。「適性マージン確保、高付加価値化による収益性改善や政策保有株の相互売却通じ流通株式比率向上、IR強化など図る」と、PBR改善に向けた施策のオンパレードになっています。もちろん親会社である日本製鉄も同様の施策を行っています。 (6000番台から9000番台の銘柄「【特集】野村證券「四季報の会」秋号を徹底解説(後編)」はこちら) ご投資にあたっての注意点
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10/20 09:30
【業界展望】商社:堅調な業績や積極的な株主還元に注目
底堅い業績動向が続いている 商社の事業環境を振り返りたい。資源分野ではウクライナ紛争を背景とした供給逼迫懸念から2023.3期は原油やガス、鉄鉱石や石炭など幅広い資源の価格が大きく上昇したが、24.3期に入ると米国の金融引き締めによる需要鈍化懸念もあり資源価格は調整局面となっていた。一方で、7月以降はOPEC(石油輸出国機構)の減産で原油に底打ち感が出ている他、原料炭市況もインドの需要の強さを背景に上昇基調となるなど、事業環境は改善傾向にある。 非資源分野については、野村では当初、新型コロナ影響を背景とした供給抑制で幅広い分野のトレード事業でマージンが拡大した状況が落ち着いていくと想定していた。しかし、24.3期4~6月期決算では、一過性の損益を除くと、機械や自動車、小売事業など幅広い分野が好調な推移となるなど減速感が予想以上に出ていないことが確認された。中国の不動産需要の低迷など、鉄鋼製品の需要減退リスクはあるが、資源価格の堅調さもあって、商社セクターの業況は底堅く推移すると考えている。また、各社の4~6月期の親会社株主利益は通期計画に対する進捗率が高めとなったこともあり、今後は業績計画の上方修正や追加の株主還元に対する期待が高まりやすい状況にあると言える。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 業績モメンタムや株主還元に注目 野村では24.3期の大手7商社合計の親会社株主利益を前期比14%減益と予想している。各社の4~6月期決算は好調だったが、資源価格が前期対比で調整すると見込むためである。セクター全体で減益傾向となる中では、相対的な業績動向の差が注目点になると考えている。特に、豊田通商については24.3期の親会社株主利益を同10%増益と予想しており、同業他社比で見通しが良好だと判断している。資源分野の利益構成比の低さもあるが、半導体不足の解消による自動車の生産回復で、鋼板や自動車部品のトレード事業といった生産関連分野の業績が改善していることが背景にある。さらに、アフリカなど新興国では経済成長を背景に自動車需要が伸長しており、同社が新興諸国で展開するディーラー事業が好調な推移となっている。 また、株主還元余力の面からは、三菱商事の業況に注目している。4~6月期の調整後FCF(営業収益CF-投資CF)が4,074億円の黒字と同業他社比で高い水準となった。さらに、同社が財務レバレッジとして注目している投融資レバレッジは6月末で26.9%と、同社が適正値と定める40~50%を大きく下回っている。現在の中期経営計画では投融資レバレッジを適正水準まで戻すことを目標として掲げており、株主還元余力は相対的に大きいと言える。中期的な注目点としては、将来の成長に向けた新規投資がテーマとなろう。既に伊藤忠商事や三井物産などが24.3期は大型の投資案件の発表を行っているが、新規投資案件の積み上げで利益成長期待を高められるかには注目したい。 (野村證券エクイティ・リサーチ部 成田 康浩) ※野村週報 2023年10月16日号「産業界」より ※掲載している画像はイメージです。 【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら ご投資にあたっての注意点
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10/19 19:00
【野村の動画】投資家に買われた「配当利回り3%以上」銘柄ランキング(2023年7-9月分)
2023年7月1日~2023年9月30日の期間で、野村證券の個人口座で買い付けられた銘柄の中から、今期予想配当利回りが2023年10月2日時点で3%以上だった銘柄を抽出しました。約定件数順に上位20銘柄を紹介いたします。 ご投資にあたっての注意点
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10/19 12:00
【米国野村證券エコノミストが語る】米国の景気後退を予想するポイント “持てる層”と“持たざる層”の綱引き
野村では、2023年10月6日時点で米国の景気後退を予測している。その理由と来年の大統領選挙に向けてのポイントについて、米国野村證券の雨宮愛知エコノミストに詳しく聞いた。 ※インタビューは2023年10月6日に実施しています。本記事の情報は2023年10月6日時点のものであり、その後変更されている可能性があります。 不況入りとは、雇用を失う人が出てくること ――米国景気、インフレ動向をふまえて、金融政策の見通しについて教えてください。 野村では、米国経済が近いうちに不況入りすると考えています。具体的には、今年の第4四半期の終わりから不況色が強くなり、2四半期連続のマイナス成長となることを見込んでいます。 ――市場のコンセンサスは、「米国経済はマイナス成長を免れる」という見方が多いです。「ソフトランディングまたはノーランディングとなる」と見越している金融機関も多い中で、マイナス成長を見越すのは野村證券の特徴ともいえます。そのポイントはどこにあるのでしょうか。 まず、不況入りとは何を指すか、定義を明確にしておきましょう。一言でいうと、雇用を失う人が出てくるということです。雇用者数の伸びがマイナスになり、失業率が上がるという状態が起きると予想しています。GDPがマイナスになることは不況でなくても一時的にはありますが、そうではなく、雇用がポイントなのです。 なぜそのような予想をしているのか。理由を語るには、なぜこれまで米国の金融政策が効かなかったのか、という理由から話を始めたほうがいいですね。 2019年末から始まった新型コロナウイルスの流行を機に、米国はじめ多くの主要国で大胆な金融緩和を行いました。その結果、米国ではインフレが深刻な問題となり、これをいかに抑制するかが課題となっています。 こうした状況のなか、インフレを抑制する目的で、米国の金利は大幅に引き上げられています。またバイデン政権は2022年8月、米国内の半導体産業を支援する「CHIPSおよび科学法」と、大企業への課税を強化して気候変動や医療費負担軽減に資金を投じる「インフレ抑制法」を成立させました。 しかしこうした政策によるインフレ抑制の成果は芳しくありません。その理由は、「持てる層」と「持たざる層」の綱引きにあると考えています。 富裕層は金利が高止まりしても困らない 「持てる層」、つまり金融資産を十分に持っている富裕層は、2021~2022年の金融緩和の際に、住宅ローンなどの長期債務を、低金利なものに借り換えが終わっています。また、設備投資をする大企業も、この時期に償還までの期間が長い社債を発行するなどして、資金調達が済んでいます。 彼らはいくら利上げしても、困らないわけです。それどころか、金利が高止まりしていると預金収入が増え、更に株高によってもますます資産が増えていくという循環があり、彼らが景気を下支えする強い層となっています。 一方、「持たざる層」はどうでしょうか。彼らは金融資産がないため金利上昇や株高の恩恵を受け難い一方で、高金利のローンを組まなければならず苦しんでいます。その証左として、クレジットカードの延滞率や自動車ローンの延滞率などはじわじわと上がっているのです。 コロナ禍の特例で約3年半の間猶予されてきた学生ローンの支払いも始まります。マクロでみると300億ドルから400億ドルと大きな額ではないのですが、学生ローンを抱えるのは「持たざる層」に多く、彼らの経済的な苦しさを表す象徴的なイベントとなる可能性があります。 そうはいっても、「持てる層」もどこかではローンの借り換えが行われるわけで、高金利によって資金力が削られるタイミングが来るはずです。問題はそれがいつなのか、ということなのです。 ――つまり景気の冷え込みがじわじわと起きているものの、利上げの効果は、セオリー通りに出ていないということですね。これから利上げの効果が出てくるとしたら、まずどこから顕在化してきますか。 過去を振り返ると、実は消費から始まる不況はあまり存在しないのです。やはり金利に敏感なセクターから経済がスローダウンすることが多い。まず企業の設備投資に影響し、次に自動車や住宅などの耐久財に影響が及んできます。それが企業収益の悪化を招き、雇用へと波及していきます。そして、人々の所得が落ち込むことによって、その後消費全体に景気悪化の波がくるという経路を想定しています。 雇用は不況入りの直前まで変わらない ――よく不況に至る経路として、過剰貯蓄など消費が落ち込む経路が議論されることがあると思いますが、雨宮さんの指摘はそうではなくて、企業の設備投資から出てくるという点が面白いです。雇用に不況が影響するのは遅いという理解で正しいですか。 はい。雇用は景気に関しては遅行指数なんですね。よく、「これだけ労働市場が強いのだから不況にならないのでは?」と質問を受けるのですが、労働市場は、不況入りする直前まで良い状態に見えるというのが通例です。今も毎月発表されている雇用統計では、非農業分野の雇用者数に15万人以上の伸びがありますし、失業率も上がっていませんよね。 ところが、労働市場を細かく見ていくと、一人当たりの労働時間のトレンド、人材派遣業の雇用者数、転職を目的とした自己退職数、企業の総採用数などの指標でいずれも悪化のサインがあり、雇用だけが変わっていないという状況です。 つまり労働市場のクールダウンは確実に起きている。あとは時間の問題です。レイオフ(解雇)がどこかのタイミングで増えていき、それが不況入りとなると考えています。 もともと野村では2023年7~9月にもマイナス成長が始まると予想していましたが、それは起きませんでした。「持てる層」が景気を下支えする力が、野村が予想していたよりも強かったため不況入りが遅れているのですが、どこかのタイミングでいずれ不況入りすると見ています。 ――そもそも、不況入りを免れることはできないと考えるべきでしょうか。 FRB(連邦準備理事会・米国の中央銀行を意味する)の立場でみると、好景気が続くということはインフレ再燃リスクがなくならないことを意味しています。今、FRBは長期金利の上昇は許容していますよね。株価のバリュエーションが圧力を受け、株価が下がって富裕層の消費力が減ることにつながることを期待しているのでしょう。 それで十分効果があればいいですが、効果がない場合、次は量的引き締め(QT)が議論の俎上にのるかもしれません。なんとかして富裕層の体力を奪わないと、インフレ再燃リスクがなくならない。そのために、不況をもたらさなければならないとも解釈できます。 ――来年は、大統領選挙を控えています。もし不況入りしたら現職にとっては向かい風となりませんか。 過去の大統領選挙では、夏場の失業率と株価で、11月の大統領選挙の行方がわかると言われてきました。ところが、インフレがその状況を変えてきていると思います。 2022年11月の中間選挙では、景気が強いにもかかわらず、民主党は連邦議会下院の議席を失いました。インフレがある以上、好景気の恩恵を感じられない有権者が多かったということでしょう。 つまり来年の選挙に向けては、これまでのように景気減速を防ぐための拡張的な財政政策が打たれるという法則は成り立ちません。「ちょっとやそっとの景気の減速が起きても、助け船を出すのを我慢する年になる」と考えています。 もしトランプ氏が当選したらどうなるか ――米国民の所得格差をついて下馬評を覆し大統領に就任したトランプ元大統領が、共和党候補として出てくるだろうと言われています。 前回、トランプ氏が大統領に当選したときは、上下両院で共和党が過半数議席を取ったため、財政対策を打ちやすかったんですね。議会の選挙がどうなるかによっても市場の反応は大きく変わるでしょう。 トランプ氏が大統領となり共和党が上下両院で過半数議席を取り返すと仮定すると、トランプ減税の第2弾が始まると思います。今回は財政赤字やインフレが問題となっていますので、減税のために社会保障を削るなどの政策が出ると予想されます。 一方、上下両院での過半数議席が取れずにねじれ議会になると仮定すると、ホワイトハウスだけでできる外交、安全保障、規制改革などでトランプ色が出てくることになります。 例えば、バイデン政権が進めている電気自動車へのシフトなどのエネルギー対策についても規制緩和をし、シェールオイル(地下深くの地層に含まれる原油)の増産を認めるなど、自国でのエネルギー生産を増やし、OPEC(石油輸出国機構)への依存を減らすでしょう。 また、バイデン政権では、大企業に対して独占禁止法違反の訴えを起こすなどの動きがありますが、これも取り下げになるでしょう。移民政策も停滞し、労働市場がタイト化すると予想できます。トランプ氏が、ロシアのプーチン大統領と個人的に懇意にしていたことも踏まえると、対ロシア・ウクライナとの関係がどうなるかも不透明です。 バイデン政権がはらむ矛盾 一方、バイデン政権が継続となる場合も、問題含みです。今のバイデン政権は政策と支持層の矛盾があちこちにあり、身動きが取れない状態となっています。 自動車業界のストライキをとってもそうです。バイデン政権はグリーンエネルギーの普及を推進していますが、自動車業界の労働組合を支持母体としています。組合から見ると、自動車のエンジンがモーターに置き換わると雇用が減ってしまうという矛盾をはらんでいるのです。 また、環境団体が支持母体にいるので、原油生産を進めたくてもできず、OPECに増産をお願いすることになるというジレンマもあります。 移民政策についても、バイデン政権は有色人種の支持層が厚いので、移民に厳しい政策は取れません。しかし、不法移民が大量に入ってきており、ニューヨークなどの都市では不法移民のシェルターが財政を圧迫しています。 いずれにせよ、来年の大統領選挙から金融市場をみると、不確実性が高まるのは確かです。来年は選挙に向けて市場のボラティリティが上がることに注意が必要です。そのときに利下げがあると安心材料にはなりそうです。 ――2023年10月、米国史上初めて、米連邦議会下院議長が解任されるという騒動が起きました。今は政府閉鎖こそ免れているものの、正式な予算案は成立していません。格付け会社大手3社のうち2社が米国債券をAAAからAAプラスへと格下げしており、今後も格下げが進むのではないかという見方もありますが、どう考えますか。 格付け会社大手3社が、米国債をAAAからAAプラスに格下げした場合に、売らざるを得ない投資家がいるのか、というところから考えましょう。結論から言うと、私の考えでは「いない」です。 今回議論になっているのは、米国債の長期債の格付けのため、短期債の運用をしている人には影響がありません。長期債で運用している年金基金や保険会社の機関投資家からすると、気にしなくてはならないのは格付けではなくインベストメントグレードです。投資適格か不適格かが投資対象から外す見分けどころであり、格付けがAAプラスになったからといって機械的に売る投資家は出てこないでしょう。 しかし格下げのインパクトは、心理的なものとして出てきます。 米国の好景気が長期で保たれる場合、長期金利も高止まりする公算が大きいです。連邦政府の利払い負担はどんどん膨らんでいき財政赤字は深刻化します。そのため、長期債に投資する投資家が利回りの上乗せを要求する「財政プレミアム」の議論になります。格付けの件が加わり、やはり米国の信用力がおかしいのではないか、財政の持続性がないのではないかと議論になるわけです。 そしてまた長期金利が上がる、利払い負担が増えるという悪循環に陥ってしまいます。この循環が、不況入りするまでは続いてしまうのです。 不況入りはこの状況を変えるためには必要であり、不況入りまでの期間が長ければ長いほど、反動が大きくなるのです。 ――不況入りというとネガティブなイメージがある人も多いと思いますが、今の米国にとっては単純に悪い現象ではない、ということですね。ありがとうございました。 無登録格付けに関する説明書 ご投資にあたっての注意点
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10/18 19:00
【銘柄ランキング】NISA口座で買われた個別銘柄は?トップ20を紹介(2023年9月分)
中間配当の権利取りや急落銘柄の押し目狙いとみられる買いが目立つ 一般的に、9月は3月期決算企業の中間配当の権利取りを狙った買いが発生します。そのため、配当利回りが高いとされる銘柄が複数ランクインしています。例として、前月の11位から4位に順位を上げたソフトバンク(9434)は、高配当株として有名です。また、前月と同じく7位だった三菱HCキャピタル(8593)は、連続増配株として知られています。 直近、原油価格が乱高下しています。前月の13位から6位に上昇した石油元売りのENEOSホールディングス(5020)の業績は、原油価格の影響を強く受けるため、株価も連動して大きく変動しています。 本田技研工業(7267)は、前月はランキング圏外でしたが、10位に急上昇しました。ホンダは、2023年10月1日付で1株を3株に分割しています。株式分割は、個人投資家からの新規資金流入への期待を高め、多くの場合ポジティブに評価されますが、権利落ち日が材料出尽くしのタイミングとなりやすい点には、注意が必要です。 鉄鋼セクターの2社が前月から順位を上げています。日本製鉄(5401)が9位(前月:28位)、神戸製鋼所(5406)が12位(前月23位)にランクインしました。鉄鋼セクターは、9月末から10月初めにかけての日本株の調整局面で下落率が相対的に高くなりました。年初来のパフォーマンスが非常に良好だったことから、利益確定売りが先行した可能性があります。 IHI(7013)が、前月のランキング圏外から15位にランクインしました。米航空防衛大手RTXは9月中旬に、傘下のプラット・アンド・ホイットニー(P&W)が製造した航空エンジン「PW1100G」の不具合に関して、補償金などを含め、今後数年で30億~35億ドルの費用負担が発生すると発表しました。この発表を受けて、共同開発に参画した重工大手3社の株価は大きく下落しました。「PW1100G」の開発参加比率は、IHIが15%と3社中で最も高く、株式市場の注目を集めました。 (FINTOS!編集部) (注1)画像はイメージ。(注2)各種データは2023年10月10日時点。 NISA口座のご利用にあたっての留意事項 ご投資にあたっての注意点
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10/18 12:00
【#全固体電池】AI抽出15銘柄/GSユアサ、東洋インキ、リコー…
次世代電池の本命、全固体電池の量産化へ トヨタ自動車(7203)と出光興産(5019)は、10月12日にBEV(バッテリー式電気自動車)向けの全固体電池の量産を目指した協業を開始することを発表しました。全固体電池は、充電時間の短縮や航続距離の延長が可能とされ、BEV向けの次世代電池として注目されています。仮に全固体電池への需要が増加した場合、日本企業にどのような影響を与えるのでしょうか。AI「xenoBrain」は、「全固体電池需要増加」が他のシナリオにも波及する可能性を考慮し、影響が及ぶ可能性のある15銘柄を選出しました。 ニューストピック:全固体電池需要増加 「xenoBrain」は全固体電池の開発に携わる企業や関連材料を扱う企業から、15銘柄をリストアップしました。 ・ジーエス・ユアサ コーポレーション・東洋インキSCホールディングス・リコー・ENEOSホールディングス・東邦チタニウム・日揮ホールディングス・フェローテックホールディングス・レゾナック・ホールディングス・TOTO・AGC・アイダエンジニアリング・フルサト・マルカホールディングス・アマダ・住友金属鉱山・東海カーボン ※xenoBrain 業績シナリオの読み方 (注1)本分析結果は、株式会社xenodata lab.が開発・運営する経済予測専門のクラウドサービス『xenoBrain』を通じて情報を抽出したものです。『xenoBrain』は業界専門誌や有力な経済紙、公開されている統計データ、有価証券報告書等の開示資料、及び、xenodata lab.のアナリストリサーチをデータソースとして、独自のアルゴリズムを通じて自動で出力された財務データに関する予測結果であり、株価へのインプリケーションや投資判断、推奨を含むものではございません。(注2)『xenoBrain』とは、ニュース、統計データ、信用調査報告書、開示資料等、様々な経済データを独自のAI(自然言語処理、ディープラーニング等)により解析し、企業の業績、業界の動向、株式相場やコモディティ相場など、様々な経済予測を提供する、企業向け分析プラットフォームです。(注3)時価総額500億円以上の銘柄を表示している。xenoBrainのデータは2023年10月16日時点。(注4)画像はイメージ。(出所)xenoBrainより野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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10/17 19:00
【週間ランキング】最も閲覧数が多かった個別銘柄は?トップ10を紹介(10/17)
小売各社の決算発表が本格化し、関連銘柄が浮上 トヨタ自動車(7203、以下トヨタ)は前週の4位から3位に順位を上げました。トヨタは、10月12日に出光興産(5019)とBEV(バッテリー式電気自動車)用の全固体電池の量産実現に向けた協業の開始を発表しました。今回の発表について野村證券は、以前よりトヨタと出光興産とは全固体電池に関する複数の共同特許を保有する関係があったため、意外感はないとみています。 前週は小売各社の決算発表が本格化しており、関連する複数の銘柄がランクインしています。イオン(8267)は前週の24位から5位に大きく順位を上げました。イオンは10月11日に2023年3-8月期決算を発表しています。Q2(同年6-8月期)の営業利益は前年同期比27%増益の662億円となり、野村予想の588億円を上回りました。GMS(総合スーパー)事業やSM(食品スーパー)事業など小売関連事業の利益進捗が野村予想と比べて良好でした。 前週はランキング圏外だったファーストリテイリング(9983、以下ファストリ)が10位にランクインしています。ファストリは10月12日に2023年8月期決算を発表しています。同期の事業利益は前期比25%増益の 3,820億円となり、野村予想の3,709億円を上回りました。Q4(同年6-8月期)では野村予想と比べて国内ユニクロ事業の売上高総利益率(粗利益率)が良好であったほか、欧米を中心に海外ユニクロ事業の売上も良好でした。会社は2024年8月期の事業利益を前期比18%増益の4,500億円と計画しています。野村予想は4,275億円であり、会社計画はやや意欲的な印象も受けますが、海外ユニクロ事業を軸に利益拡大を目指す方向性に違和感はありません。 (FINTOS!編集部) (注1)画像はイメージ。(注2)各種データは2023年10月16日時点。 ご投資にあたっての注意点
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10/16 09:30
【銘柄紹介】三越伊勢丹/プラスアルファ/サンケン電気
三越伊勢丹ホールディングス(3099) 小売業 高感度上質戦略を進める百貨店 百貨店業をコア事業として、クレジット・金融・友の会業、不動産業などを展開している。百貨店業では、三越・伊勢丹・岩田屋・丸井今井の4つの暖簾を持っており、国内外で事業を展開している。伊勢丹新宿本店などで独自の強みを持っており、高感度上質消費の拡大・席巻、最高の顧客体験の提供を基本戦略としている。 好調な高額品消費、経済活動活発化の恩恵を背景に、国内販売は堅調に推移している。また、免税売上高についても、訪日客数の回復等に支えられ高水準が続いている。経費抑制の取り組みも進む中、販売面は順調に推移しており、短期業績は良好に推移すると野村では予想している。 今後も利益成長が続く確度は高い 外部環境の追い風が売上を押上げている面はあるものの、CRM(顧客関係管理)戦略の強化など、当社の施策も売上の拡大に貢献していると野村では評価している。なお、百貨店各社では、若年層顧客の取り込みも進んでおり、中心顧客の高齢化という積年の課題から脱しつつあると野村では考えている。 三越伊勢丹単体にて進められてきた「百貨店の科学」の視点による経費コントロールの取り組みが地域事業会社でも進められることで、地域事業会社の損益も今後さらに改善していこう。販売増と経費コントロールにより、来年度も継続的な利益拡大が予想される。 (野村證券エクイティ・リサーチ部 山岡 久紘) プラスアルファ・コンサルティング(4071) 情報・通信 販売活動/人材管理の補助サービスを提供 当社は次の3サービスを提供する。第一にアンケートなど文字情報を分析する「見える化エンジン」である。第二にEC(電子商取引)サイト上の顧客情報の分析やメール配信などで販売を支援する「カスタマーリングス」である。第三に人材管理の効率化や人事の意思決定のために従業員の情報を管理・分析する「タレントパレット」である。3サービスは、①データを可視化する点、②多機能な点、で共通する。営業、開発、コンサルティングの3者が連携し、着実に顧客が望む機能を実装してきた。特にタレントパレットは機能の多さが好感され、中堅・大企業を中心に導入顧客数が増え、高増収となっている。 タレントパレットが増収増益を牽引 野村では2023.9期以降の当社業績を増収増益と予想する。引き続きタレントパレットが増収を牽引しよう。人事業務の効率化への需要や人的資本の重要性の高まりから、今後も堅調に新規顧客の獲得が続くだろう。また、既存顧客には中堅・大企業が多く、顧客の人事の課題は多岐に渡る。採用管理や労務管理など追加機能の付与の進展が見込まれ、増収に寄与しよう。 また、高機能で料金の高いタレントパレットの販売では丁寧な導入支援で着実な顧客の獲得が求められる。顧客数増加ペースの加速のため従業員数や広告宣伝費を急増する戦略を採ることはなく、増収に応じ増益すると野村では予想する。 (野村證券エクイティ・リサーチ部 平岡 直樹) サンケン電気(6707) 電気機器 EV軸に復活するパワー半導体メーカー xEV(電動車)化に伴い数量増が期待されるインバータの重要部品「パワーモジュール」を手掛ける。モジュールに必要なすり合わせ技術に強みを持ち、主力の白物家電向け中心にIPM(高機能パワーモジュール)では世界シェア15%(2021年)。 従来低収益体質に苦しんでいたが、17年以降事業・生産拠点整理や開発体制刷新といった構造改革を推進してきた。現在は好採算な新製品の拡販を進め、なかでも市場拡大の見込まれるxEV向け製品を成長ドライバーに据える。25年3月期にはEV トラクションモータ用モジュール大型案件向けに新工場の稼働開始を控えており、車載モジュールを軸に成長軌道へ復しよう。 磁気センサでも高い成長期待 当社は連結子会社として米国に磁気センサで世界トップのファブレス半導体メーカー アレグロを抱える。磁気センサは、xEV やクリーンエネルギー向け電流センサ、自働化機器向け位置センサ等で需要拡大が著しい。アレグロはこうした成長分野に注力しており、市場拡大の恩恵をより享受し易い。今後も市場拡大を着実に捉えて成長し、連結業績を牽引しよう。 アレグロを収益基盤に24年3月期連結親会社株主利益は前期比34%増の128億円を見込む。中国市場の調整は短期的に重石だが、足元の円安は追い風である。サンケン本体含む成長ストーリーも健在で、成長性の高さを評価したい。 (野村證券エクイティ・リサーチ部 田村 鈴音) ※野村週報 2023年10月16日号「銘柄研究」より ※掲載している画像はイメージです。 【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら ご投資にあたっての注意点
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10/15 19:00
【特集】会社四季報編集長と「四季報の会」代表が語り尽くす日本企業の動向
「会社四季報」編集長・冨岡耕氏×野村證券「四季報の会」代表・大坂隼矢氏対談(後編) 「会社四季報」(東洋経済新報社刊)秋号の発売後、編集長の冨岡氏と、野村證券「四季報の会」代表の大坂氏が対談した。今回は前回に引き続き、秋号で見られた各業界の独特の傾向や、上場企業の資本政策など、注目点について意見を交わした内容をお届けする。(前編「【特集】会社四季報を読破してわかった「秋号」の注目点」はこちら) 「トレカ」「ガチャガチャ」「推し」… ――これまで秋号の注目点や、値上げや中国関連の記述などについて語っていただきました。ほかに秋号で興味深い傾向や記述は見られましたか。 冨岡 興味深いと思ったのは、(玩具の)「トレカ」、トレーディングカードというキーワードが急増していたことですね。 大坂 トレーディングカードは利用者のすそ野が広がっていると感じますね。さらに、インバウンド、外国人観光客が増えている影響もあるんじゃないかなと思います。カードショップなどや玩具店などで買う人の層が増えているとみています。 冨岡 さらに、トレカのように趣味性の高いいわゆる「ガチャガチャ」。カプセルトイの話も増えましたよね。あと「推し」も多かった(笑)旅行に持っていくぬいぐるみなども、いわゆる「推しグッズ」ですね。 大坂 すごいですよね。特に推しているものがない私には「推し」の文化はよくわからないのですが、とにかくすごいというのは同感です。 「100均」「激安チェーン」も好調 冨岡 名詞が具体的に出てくる銘柄って、やっぱり玩具関連に多いですよね。トレカという言葉はかなり出てきます。たとえばブックオフグループホールディングス(9278)など、中古品販売の企業などですね。 大坂 値上げが浸透している一方で、 中古品販売が好調というのは、日本人の節約志向のようなものも多少反映されている部分もあるのかなと思いました。例えば、キャンドゥ(2698)など、いわゆる「100円ショップ」の業績も前号と比較して良くなっている印象を受けました。 売価が高い商品の構成比を高める施策が奏功している面もありますが、「100円ショップ」である以上、原材料価格が上がっても商品の価格を上げにくいはずです。原価率が上がって利益出なくなるかと思いきや、新店舗や客数の増加がコストの増加分を上回っている印象です。 このほか、「激安チェーン」と呼ばれるような値段が安い外食店も伸びています。百貨店など高価格帯の小売店と、低価格を前面に出している100円ショップや外食チェーンなどの業績が同時に改善している点を見て、消費の「二極化」が進んでいる印象を受けました。 冨岡 一方で、まったく違う業種なのですが、遊技機関連、パチンコ、パチスロの機器を製造する企業の業績がいいんです。実際に玉やメダルを使わない「スマート遊戯機」が登場した影響が大きいようです。一般的なパチンコやパチスロの機器と違って、玉などがないので、動作音が静かなのが特徴ですね。 大坂 確かに勢いを感じました。リオープンでパチンコ店に人が戻り始めたという点や、パチンコ店に対する規制緩和などで、関連業界全体が盛り上がってきている印象です。スマート遊技機という新しいものを入れた影響も大きそうです。 パチンコ関連では、パチンコ店向けコンピューターシステム最大手のダイコク電機(6430)の株価が大きく上昇しています。 野村證券「四季報の会」代表・大坂隼矢氏 半導体関連銘柄の動向 冨岡 再び大きく話は変わるのですが、ほかに目立っていると感じたのは、半導体関連で、TSMC(台湾積体電路製造)の工場建設が進む熊本と、次世代半導体の新会社、「Rapidus(ラピダス)」の工場が北海道千歳市に進出します。両社の関連で熊本や北海道への投資が相当活発になっていますね。関連の製造業だけでなく、不動産会社やコールセンター関連、人材派遣会社にも動きがあります。 大坂 熊本への投資はどんどん増えています。マンションや戸建て住宅を建設・整備する企業などにも恩恵がありますし、本当にあらゆる業種の投資が集まってきている印象です。さらに、熊本にとどまらず、福岡など周辺の都道府県にも影響が波及している印象を秋号から読み取れました。 熊本については元々半導体産業が集積していた一方、ラピダスが進出を計画している北海道は、何もない段階からの投資になりますね。地域産業に与えるインパクトも大きなものになるかもしれませんね。 冨岡 半導体の関連で言うと、大きな電流を流すのに必要な「パワー半導体」の製造は日本が強い。パワー半導体というキーワードもたくさん見受けられます。シリコンカーバイド(炭化ケイ素)という新素材の開発で「省電力」と「パワー半導体」が結びついた形で言及されているケースが大変多いですね。半導体は年々すそ野が広がり、分野も細分化され、担当の記者もキャッチアップするために常に勉強しなければなりません。 大坂 パワー半導体の利用が広がっているのは、EV(電気自動車)の普及によるところが大きいですね。強い電圧にも耐えられるシリコンカーバイドを使ったパワー半導体がテスラのEVに採用されたことが話題になりました。世界でも有数の硬い化合物で、切断や研磨に手間がかかります。パワー半導体の製造を手掛ける企業と並び、シリコンカーバイドの切断装置を手掛ける企業としてディスコ(6146)が注目されています。 冨岡 秋号だけ読むと半導体業界は「減益」や「下方修正」などという言葉が目立っていて、市況が悪化しているようにも感じますが、一時的でしょうね。 「PBR1倍割れ」資本政策の行方は ――3月に東京証券取引所が企業に「PBR1倍割れ」の改善を企業に要請しました。改善に向けた資本政策は進んでいましたか。 大坂 前回の夏号が、3月期決算企業の通期決算発表が終わった後取材されたものであったため、資本政策への言及がものすごく多かった印象があります。今回は、3月期決算企業については第一四半期の決算発表後ですから、前回と比べて、資本政策を大きく変える企業は、やや少なかったかもしれません。ただし、急いで対策をとっている企業が依然として多い印象はあります。 冨岡 今までですとPBRという言葉自体が、企業の中期経営計画などに出てくることは珍しいことでした。これまで賛否もありましたが、東証はかなり思い切った印象です。見事に企業の背中を押すことに成功しましたね。 「PBR1倍割れの筆頭格」と言われていたある企業は、これまでIR(投資家との関係構築)にあまり力を入れていない印象だったのですが、トップが取材に応じ、PBR1倍割れをどう改善していくかについて説明することもありましたね。また、通常の取材で、記者も資本政策について積極的に聞くようになっています。 ややPBRの話とは異なりますが、株式分割も非常に増えました。1株の株価を下げ、個人投資家が株式を買いやすくする施策です。米国株は1株から買えますが、日本だとまだ1単元、100株からというのが基本です。しかし、株式分割によって、米国との差が縮まってきているのではないでしょうか。 大坂 また、これまで株主優待をやめる会社がかなりあったのですが、今回は、数は少ないのですが、優待を始める企業が、私が気づいただけで数社ありました。最近優待を始めたケースはあまりなかったので、やはり2024年の新NISAに向け、企業が個人投資家を意識し始めていることがよくわかります。いずれも中小型株でしたね。 「配当性向100%」が増える ――会社四季報の編集サイドから見た「新NISA」に絡んだ企業の動向はいかがでしょうか。 冨岡 新NISAそのものの言葉は四季報にはあまり出てこないんですけど、新NISAを見据えて個人株主を増やす施策を進めているケースがかなり出てきているのはわかりますね。PBR施策とも重なりますが、「配当性向100%」を何年か続けるといったような資本政策に関する言及が多いでね。 大坂 配当性向100%、めちゃくちゃ多かったですね。 冨岡 読む限りでは、この動きにさほど継続性はないんです。3年間に期限を区切って実施、と言ったような形ですね。 また、期限を区切って東証が促したプライムからスタンダードへ市場を変更する企業も多かった。「今のうちなら目をつむりますから、移りたいなら移ってください」と。さらに時間がたったらもう一回上場審査を受けなければならないですから、身の丈に合った形で市場移行することにしたのでしょう。 ――株式の流通総数が限られるため、新規上場の段階でスタンダード市場を選ぶ企業もあります。 冨岡 そうですね。さらに、株式の流動性の観点でいうと、プライムに残りたい企業が、大株主に株の市場での売却を依頼したり、創業家の背中を押したりするケースもみられるようになりました。 大坂 あと、政策保有株の売却という言葉も目立ちました。以前から保有していた政策保有株の売却による特別利益を計上している企業も多く見受けられました。PBR改革では、政策保有株の売却によって得た資金で、自社株買いをするといった施策はある意味王道の流れと言えそうです。 ――東証のPBR改革の本質は企業の経営改革を促すことにあると言われています。配当したり、自社株買いをしたりすると肝心の事業投資ができなくなるのではないでしょうか。 冨岡 これまでPBRを改善できていなかった企業がようやく「やる」と表明はしたものの、実効性があるかどうかは未知数です。「配当性向100%」も、他にたくさん選択肢がある中の一つです。それ自体はやろうと思えばできる話ですが、それ以外の施策、生産の効率化など本質的な経営の改革にまでちゃんと踏み込めるかどうかについては、今後も注視しなければなりません。 大坂 私は配当性向100%が必ずしも悪いわけではないと思っています。今、足元の事業に何か投資するよりも、資金を株主に還元するか、成長投資に使うかを考えた時、目先に投資先がないので100%株主還元に回し、その間に新事業を検討したり、次の投資先を決めたりすることが大事だと思います。自社株買い、つまり投資先が自社株であっても問題ないわけです。 仮に配当性向を100%に引き上げると表明している会社が、60%に下げて、残りの40%を事業の相乗効果の出にくい投資先に投資しても評価が上がるわけではないですし。「意味のある100%」であれば問題はないと思います。 ご投資にあたっての注意点