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07/19 15:00
生物多様性と今後の企業の在り方(後編)
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 シニアコンサルタント 遠藤 暁(2025年7月15日) 前編では、ハーマン・デイリーのピラミッドを用いて社会全体における自然資本の位置づけを確認し、生物多様性に関する歴史を概観した後で、一つの分かりやすい例として、森林・林業・木材産業と生物多様性の関連を取り上げた。後編では、企業側の視点、つまり企業の社会的責任の変遷からスタートし、国際的な枠組みの例としてエクエーター原則や世界銀行EHS(環境・衛生・安全)ガイドラインなどを概説し、非財務情報開示の関心の高まりに触れて、今後の企業経営における生物多様性の重要性を述べる。 1.企業の社会的責任(CSR)と生物多様性 1) 生物多様性を企業の社会的責任とした提言の系譜 戦後、日本経済の再建・復興を目的に設立された日本経済団体連合会(以下、「経団連」という)は、1973年に企業の社会的責任について、「福祉社会を支える経済とわれわれの責任」という提言を行っている。企業は経済活動だけでなく、社会全体に責任を負うという考え方を示したもので、以後のCSR活動の第一歩となった。その後、1991年に「経団連地球環境憲章」を発表し、前編で述べたハーマン・デイリーのピラミッドにおける自然資本の位置づけにつながる基本理念がうたわれている。 経団連地球環境憲章基本理念(一部抜粋) 「企業の存在は、それ自体が地域社会はもちろん、地球環境そのものと深く絡み合っている。その活動は、人間性の尊厳を維持し、全地球的規模で環境保全が達成される未来社会を実現することにつながるものでなければならない。」 さらに、2003年に「日本経団連自然保護宣言」が発表され、ここで生物多様性の保全ということが明確に示された。考え方としては、20年以上前に示されており、ここ数年で出てきた言葉ではないことが分かる。 日本経団連自然保護宣言(一部抜粋) 「私たちは、私たちを取り巻く大気圏や生物圏、あるいは水の循環圏などについて、一層理解を深めるとともに、人類にとって多様な生物が共存することが、豊かな生活環境をもたらすものであることを改めて認識し、生物多様性の保全を重視した自然保護活動を推進する必要がある。」 企業の社会的責任は、1990年代にはメセナ(文化貢献活動)と結び付けられてきたが、2000年代に入り、ESG(環境・社会・ガバナンス)という考え方が台頭してくる。その起源は実際には古く、1920年代に宗教上の理由からタバコ、アルコール、ギャンブルなどの業界への投資を禁止したことが始まりと言われている。その後、国際金融公社(IFC)が2004年に発表した「Who Cares Win」という報告書の中で用いられたことで広く知られるようになり、2006年の国連の責任投資原則(PRI)で一般化した。図表1の通り、責任投資を行う際に考慮すべきESG課題の環境分野に生物多様性が含まれている。 図表1 責任投資を行う際に考慮対象となるESG課題 (出所)国際連合「責任投資の入門ガイド」 ESG投資は、投資家が投資先の財務情報以外にESGの取り組みを評価して選別し、さらにその継続を促していくもので、ESGに取り組む企業は、取り組まない企業に比べて長期的なリターンを大きいとする評価が多くされてきた。生物多様性あるいは自然資本と直接関係するのは、上記ESG課題のうち環境の部分であるが、それを実践していく中では、多様性の確保や社会課題の解決意識の醸成、ガバナンスの強化などのESG課題全てが企業価値を押し上げていると言える。 2)プロジェクトファイナンスにおける生物多様性の保全の考え方 次に、プロジェクトファイナンスにおいて金融機関に課されるエクエーター原則を取り上げる。まず、プロジェクトファイナンスとは、発電や鉱物資源開発などの個々の「プロジェクト」に対して、その事業性に依拠してファイナンスを行う取引を指す。通常の事業法人向け融資取引と大きく異なる点は、一般的に第三者保証は求めず、プロジェクトが保有する資産以外の担保も求めない点である。大規模なプロジェクトファイナンスでは、複数の国際金融機関が協調して融資を行うケースが多く、その際にプロジェクトの事業性を財務的な観点から定量的に審査することに加えて、エクエーター原則に則った定性面の審査も行われる。 エクエーター原則では10の原則が定められており、その中の原則2「環境・社会アセスメントの実施」に、生物多様性の保護と保全が潜在的な問題の一つとして挙げられている。一例として、北海道の天然記念物であるオオワシやオジロワシの生息が確認されている地域における風力発電所建設プロジェクトを挙げると、風車へのバードストライク防止などの措置がされていない場合は、融資を行わないといった対応がされる。当然ながら、資材搬入用の道路建設などでも森林伐採への配慮が求められると同時に、先住民族であるアイヌ民族への配慮も必要となる。 また、プロジェクトファイナンスでは、世界銀行グループ環境・衛生・安全(EHS)ガイドラインに従うことが求められるケースが多い。特に、各国の輸出信用機関や政府系金融機関と協調融資を行う際は、EHSガイドラインを遵守することが必須である。EHSガイドラインは、環境、衛生、安全に関する技術文書であり、一般的事項とセクター別事項に分けられており、プロジェクトの内容によって、従うべき環境汚染基準などが定められている。このガイドラインの中では、生物多様性について明確には述べられていないが、大気汚染や水質汚染の基準値や対策手法、モニタリング手法などが記されており、間接的に生物多様性の保護を求めている。こういったガイドラインを工場の新設などにおいて参考にすることも、企業の社会的責任を果たす手段として考えられる。 3) SDGsにおける生物多様性保全活動 2015年に国連で採択されたSDGsは、かなり一般にも浸透してきた。17の原則のうち、14「海の豊かさを守ろう」と15「陸の豊かさも守ろう」の二つが生物多様性に直接関係しており、各企業においても、例えば海洋プラスチック問題解決のために脱プラスチックを進める、あるいは、社有林における生物種の調査を行うなどの動きが見られ、CSR報告書で開示する例も増えてきている。幼稚園や小学校でもSDGsに関する教育が行われており、環境保護への高い意識が醸成されて大人になった新しい世代が10年後あるいは20年後に、商品開発や経営企画などの分野で、当たり前のように生物多様性に配慮したビジネス活動をしていくように変わっていくだろう。 企業の社会的責任という観点からの生物多様性は、PRI、ESGからSDGsに至り、個人レベルの意識まで浸透してきた。社会全体をより良い方向へ変えていこうという動きの根本には、自然資本という考え方が明示的、非明示的に含まれている。誰もが感じる便利なモノが売れる時代はとうに過ぎ去っており、生活を豊かにするモノ、あるいは社会にとって良いモノが売れる時代へ変化している中で、自然資本を重視し、生物多様性に配慮することは、ヒトとして当然であり、企業活動においても根本となっていくと考えられる。 2.生物多様性に配慮したこれからの企業の在り方 1) 自然資本をベースとした経済活動原則 本稿で繰り返し述べてきた通り、人々の生活やビジネスなどあらゆる活動は、自然資本の上に成り立っている。温室効果ガスの増加など人為的な影響による洪水や大雨などの自然災害が顕在化したことで、ようやく自然資本あるいは生物多様性の保全の重要さが理解されてきた。これからの企業の在り方としては、この重要性を改めて認識し、ビジネスを組み立てていく必要性がある。日本の企業は、2度の石油ショックなどから、省エネを中心としたノウハウや技術の蓄積が他国に比べて多い。また、プラスチック製品や金属缶をはじめとする原材料として用いられる素材のリサイクル比率も高い。こういった取り組みは国内では当たり前のように理解されているが、他国と比較すれば、大きなアピール材料になる。日本企業の強みとして真摯にアピールすることはもっと行ってよいのではないかと筆者は考える。 生物多様性に配慮することは、その他の社会的責任とも密接に関係する。自然資本という共通の土台があること、また異質なものへの共感や自然への畏敬と言った点で、人権擁護やLGBTQ+の理解などにもつながっていく。生物多様性を出発点として、自らを取り巻く全方位への感謝や他者の尊重という意識を醸成する効果がある。生物多様性への配慮から、自然に触れ合うことに興味、関心が高まり、森林浴やハイキングなどを通じて、メンタルヘルスやストレス軽減へ役立ち、退職者の減少や定着率の向上など、経営にとって具体的なプラスの影響も期待できるだろう。 2) 商品・サービスへの新たな付加価値となる生物多様性 また、消費行動の大きな変化にも対応が必要である。大量生産大量消費の時代では、顧客は企業が生産する製品・サービスを受け取るだけであったが、様々な製品・サービスが普及してくると、今度はその内容や充実ぶりに目が向くようになり、さらに最近では、パーソナライズされた製品やサービスが求められるようになってきている。そして、製品やサービスが多様化し飽和する中で、顧客が企業を選ぶ時代に入ってきている。このような環境下で、重要となってくるのが、どういった価値を提供するか、という点である。機能やデザインといった点は、既に差別化できる要素ではなくなりつつあり、社会的な価値、つまり自然資本の重要性や生物多様性への配慮といった、ある意味でより高次元な価値を提供していかなければならない。これまでは、企業から顧客への一方向へのコミュニケーションであったが、これが双方向になり、今後は逆に顧客から企業へのコミュニケーション、あるいは選択といった動きが出てきている。特に消費者に近い企業であればあるほど、顧客の期待値の一歩先を行く意識を高くもつ必要がある。例として、アパレル業界では、スニーカーにリサイクル素材を使ったことをうたった製品が増えてきている。また、ジーンズでも、綿花の生産国、紡績工場、織物工場、縫製工場をジーンズ一本一本のポケット裏に印刷し、トレーサビリティを明示しているケースがある。 SNSにより、企業と顧客のコミュニケーションコストが大きく低下している現在、戦略的にマーケティングを行っていく必要がある。変に取り繕った映像などは、すぐに見破られ、企業イメージを破壊することにつながりかねない。大々的なCMや作られたイメージではなく、企業の真の姿をありのまま伝えることが必要だろう。そして、ありのままの状態でしっかりと生物多様性あるいは社会的責任を果たしていることが重要である。 図表2 企業と顧客のコミュニケーションの変化 (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 3) 企業への共感を呼ぶ非財務情報の開示 社会的責任の取り組み状況のような、財務諸表に数値として現れにくい情報は非財務情報と言われ、企業価値を多角的に評価する上で、その重要性が注目されている。上場企業のみではなく、非上場、中小企業についても、広く非財務情報の開示を促していく動きが出てきている。メガバンクや地銀が中心となって2023年8月に設立された一般社団法人サステナビリティデータ標準機構は、中小企業向けの非財務情報の開示の羅針盤を提供する目的で、2024年2月に「非上場・中小企業向けサステナビリティ情報の活用ハンドブック」を発表している。この中では、企業が段階的に取り組みやすいように、入門、基本、応用の3区分で開示する情報の例示や、モデル事例集などを示している。非上場、中小企業であっても、例えば経済産業省の地域未来牽引企業に選定されている企業などは、非財務情報を開示することで、よりステークホルダー全体へのアピールとなり、従業員の満足度向上や取引拡大による地域経済のさらなる活性化など、企業内外へプラスの影響を及ぼすことが出来る。 3.おわりに 生物多様性については、言葉が先行し、何をどうしたらよいか、分かりにくいと考えている人が多い。しかし、前編で取り上げたハーマン・デイリーのピラミッドの通り、全ての企業活動は自然資本の上に立っている、と考えれば、自社のビジネスにおいて自然と接点をもつあらゆるプロセスにおいて、自然資本を尊重することが必要だということは自明だろう。出来るところから始めて、定期的にPDCAを行い、アップデートし、可能であれば外部の有識者やコンサルタントを入れることで透明性を確保することも検討すべきである。 本稿では、様々な基準や企業の社会的責任という観点と生物多様性の関係を考えてみた。既にいくつかは取り組んでいる企業も多いと思う。その中で、新しく生物多様性という観点を入れるだけで、ステークホルダー全体への企業イメージの向上、ひいては企業価値が向上していくと筆者は考える。森林・林業・木材産業は一つの分かりやすい例として前編で取り上げたが、企業が森林を保有し、利活用あるいは保護するという活動でも生物多様性の保全に大きく貢献できる。日本の森林は、その多くが収穫時期が来ているものの放置され、手入れがされていないといった問題点は何年も前から指摘されている。そのような放置林を利活用するアイディアを他産業の企業が持ち寄ることで、生物多様性の保護と林業の問題解決の両方を満たすことができる。 日本は、世界でも例を見ないほど、一つの国に様々な生物種が存在する貴重な国である。日本企業としては、自国の豊かな自然を活かせることは、一つの大きなアドバンテージになる。21世紀は間違いなく気候変動への対策が最重要となる中で、企業活動は温室効果ガス削減だけではなく、より高い視点から、生物多様性の保護を含めた持続的な事業活動へ変化していくことに対応する必要がある。 以上 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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07/19 09:00
【オピニオン】NATO防衛費増額合意、欧州防衛産業への波及効果
※画像はイメージです。 NATO(北大西洋条約機構)は、2025年6月24-25日の首脳会議で加盟国が35年までに防衛費を名目GDP比5%に引き上げることで合意しました。5%の内訳は、兵器購入などの中核的分野が名目GDP比3.5%、軍事関連インフラおよびサイバーセキュリティー関連が同1.5%で、従来よりも兵器や軍事システムの近代化のための比率を高くしています。 背景には、NATOの防衛費の内訳が、金額ベースで米国は約3分の2を占め、対GDP比で見ても欧州主要国やカナダが米国より低いことが挙げられます。ウクライナ紛争や米トランプ政権の意向などにより、自国周辺地域の防衛を強化する必要性が従来よりも高まったことも要因です。 各国の防衛費 (注)中国、ロシア、日本は防衛省による2022年時点の数値。それ以外はNATOによる2024年の推計値。NATOは為替についてはIMF(国際通貨基金)、GDPについてはOECD(経済開発協力機構)の数値から試算。防衛省によれば、中国の数値は上記の公表予算の数値より実際には著しく大きい。国旗は防衛費の金額が大きい3ヶ国を強調。(出所)NATOより野村證券投資情報部作成 これに先立つ24年3月、EU(欧州連合)の執行機関である欧州委員会は、欧州独自の防衛力を拡充するべく、「欧州防衛産業戦略」を公表しました。そして翌25年3月に、EUは特別首脳会議で「欧州再軍備計画」を全会一致で承認し、防衛強化のための総額8,000億ユーロの計画を公表しました。内訳は以下の通りです。 ① 防衛費をEUの財政ルールの対象から除外し、今後4年間で6,500億ユーロ拡大② 最大1,500億ユーロのEUから加盟国への融資「欧州の安全保障行動(SAFE)」 (安全保障・防衛への支出増加に用途を限定し、EUおよびウクライナからの調達を義務付ける条項付き) ドイツでは主要政党が防衛関連の財政支出を拡大することで合意し、25年3月に必要となる憲法改正が成立しました。欧州では拡張的な財政政策が計画通り実施された場合、名目成長率やインフレ率が従来よりも高くなることが想定されます。 欧州株式市場では、一部の防衛関連株が25年初来で上昇しました。EU域内での防衛関連投資の拡大により、従来に比べて関連企業の業績が向上すると考えられたためです。一方で、これらの企業の向こう1年間の予想1株利益を用いた予想PER(株価収益率)の水準は高く、株価は中長期的な業績の拡大をある程度織り込んでいると言えそうです。 戦車や弾薬、防衛システムなどを手掛ける独ラインメタルの売上高は、24年度から29年度にかけて約3.5倍に、同じく純利益は約6倍になると市場では予想されています。防衛関連企業の業績は、今後の各国の防衛費増額の進捗に左右されると考えられます。 独ラインメタルの売上高・純利益 (注)予想はLSEGによる2025年7月11日時点の市場予想平均。(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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07/19 07:00
【来週の予定】参院選の結果、株式市場への影響に注目
来週の注目点:参議院議員選挙、主要国の企業景況感 7月20日(日)は、いよいよ参議院議員選挙の投開票日です。足元の報道によれば、自民党と公明党の連立与党が大幅に議席を減らす公算です。野村證券では、連立与党が過半数を維持した場合には25年度の現金給付、過半数割れの場合には25年度の現金給付と26年度の消費税減税が実施されると見ています。これらは一時的な景気押し上げ効果が期待できる一方、基調的な経済成長率及び物価上昇率を押し上げる効果は期待しにくいでしょう。仮に連立与党が大幅な過半数割れとなった場合には、政策の不透明感が高まり、株式市場が不安定となる可能性があります。また、拡張的な財政が継続するとの見方が強まった場合には、長期金利が一段と上昇するリスクには注意が必要です。 日本の経済指標は24日(木)に7月S&Pグローバル日本PMI速報値が発表されます。トランプ関税の影響が懸念されます。また、25日(金)に7月東京都区部消費者物価指数が発表されます。コアCPIは前年同月比+2.9%と、前月の同+3.1%から減速すると野村證券では予想します。米価格の下落に伴う食料価格の上昇一服が一因です。 米国では、7月29日(火)~30日(水)のFOMCを控え、 FRBは19日(土)から金融政策に関する発言を控えるブラックアウト期間に入ります。そのため、市場の注目は足元の経済指標に移ると見られます。23日(水)に6月中古住宅販売件数、24日(木)に7月S&Pグローバル米国PMI速報値、6月新築住宅販売件数、25日(金)に6月耐久財受注などの経済指標が発表されます。 ユーロ圏では、24日(木)にECBが金融政策理事会を開催します。今会合では政策金利が据え置かれ、9月、12月に追加利下げを実施すると野村證券では予想します。また、24日(木)にユーロ圏及びドイツの7月HCOB PMI速報値、25日(金)にドイツの7月Ifo企業景況感指数が発表されます。積極的な財政政策への転換や、ECBによるこれまでの利下げが景況感を押し上げると見ています。 (野村證券投資情報部 坪川 一浩) (注1)イベントは全てを網羅しているわけではない。◆は政治・政策関連、□は経済指標、●はその他イベント(カッコ内は日本時間)。休場・短縮取引は主要な取引所のみ掲載。各種イベントおよび経済指標の市場予想(ブルームバーグ集計に基づく中央値)は2025年7月18日時点の情報に基づくものであり、今後変更される可能性もあるためご留意ください。(注2)画像はイメージです。(出所)各種資料・報道、ブルームバーグ等より野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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07/18 16:17
【野村の夕解説】日経平均82円安 参議院議員選挙を前に上値重く(7/18)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 18日の日経平均株価は、20日に行われる参議院議員選挙の投開票を控えて、上値の重い展開となりました。17日の米国株高の流れを引き継ぎ、日経平均株価は寄り付き前日比171円高の40,072円と、取引時間中としては7月4日以来2週間ぶりに4万円台を回復する場面もありました。しかし、7月に入って以降、上昇が続いていた値がさ株のアドバンテストや、前日引け後の決算発表を受けて、業績の先行き悪化への懸念が強まったディスコの株価急落が下押し圧力となり、日経平均株価は下落に転じました。最先端AI技術の導入でみずほフィナンシャルグループと提携を交わしたソフトバンクグループが1銘柄で日経平均株価を108円押し上げる上昇をみせたものの、参議院議員選挙を前に市場の様子見姿勢が広がる中、日経平均株価の戻りは鈍く、終値は前日比82円安の39,819円となりました。アドバンテストは前日比-4.44%、ディスコは同-8.79%となり、2銘柄で日経平均株価を168円押し下げました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注)データは15時45分頃。米ドル/円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。米ドル/円は11:30~12:30の間は表示していない。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 20日は参議院議員選挙の投開票日です。各種観測報道にあるように与党過半数割れとなった場合、財政悪化や日米関税交渉進展の遅れに対する懸念が強まり、株式市場の変動が大きくなる可能性があることから、注意が必要です。 (野村證券投資情報部 秋山 渉) ご投資にあたっての注意点
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07/18 12:00
【今週のチャート分析】6月下旬の変化で見えた、日経平均中長期上昇シナリオ
※画像はイメージです。 ※2025年7月17日(木)引け後の情報に基づき作成しています。 25日移動平均線を下支えとして再度4万円台へ 今週の日経平均株価は、円安進行が好感された一方、週末の参議院議員選挙や米関税政策に対する警戒感などから、上値は限定的でした。 チャート(図1)でこれまでの動きを見ると、6月下旬に5月以降の中段保ち合いを上放れし、年初来高値(6月30日、ザラバベース:40,852円)をつけました。その後は押しが入りましたが、これまで下支えとなってきた25日移動平均線(7月17日:39,325円)が今回も下支えとなっており、今後も同様の動きが続くか注目されます。仮に同線を割り込んだ場合は200日線(同:38,151円)が次の下値メドとして挙げられます。 (注1)直近値は2025年7月17日時点。(注2)トレンドラインには主観が入っておりますのでご留意ください。(出所)日本経済新聞社より野村證券投資情報部作成 一方、週足チャート上(図2)では、6月下旬の大幅上昇により、52週移動平均線(7月17日:38,031円)と昨年7月高値以降の下降トレンドライン(6月中旬:38,300円前後)を明確に上抜けました。これにより中長期上昇トレンド入りの可能性が高まっています。この先4万円台を回復となれば、年初来高値(6月30日:40,852円)更新を目指す動きが期待されます。 (注1)直近値は2025年7月17日時点。(注2)トレンドラインには主観が入っておりますのでご留意ください。(出所)日本経済新聞社より野村證券投資情報部作成 夏枯れを越えて高値更新なるか、2027年には5万円台への試算値も 日経平均株価は6月末に4万800円台を付けたものの、その後は上値の重い展開が続いています。今回は4月以降の動きを振り返り、中長期的な視点で今後の見通しを考えてみましょう(図2・図3)。 日経平均は今年4月の安値形成後に急速に上昇しましたが、52週移動平均線付近で一時的に戻り待ちの売りが優勢となりました。この52週線は1年間の週末終値の平均で、実質的に年間のコストとして意識されやすいためです(図2)。 しかし、6月下旬には中東情勢の緊張緩和や米ハイテク株の上昇を背景に、下降トレンドラインと52週線を明確に上抜けました。これにより、今年4月安値付近まで再度下落するリスクが低下し、中長期の上昇トレンドに入った可能性が高まっています。 7月に入って一時調整していますが、夏枯れ相場となっても52週線が下支えとなる動きが期待されます。調整後の上昇が続けば、まずは昨年7月の史上最高値更新が注目されます。前回の中長期上昇局面(22/3~24/7)の上昇倍率(1.7倍)や上昇期間(約2年)を今年4月安値に当てはめて試算すると、2027年には5万円台の達成も視野に入っています(図3)。 (注1)直近値は2025年7月17日時点。(注2)トレンドラインには主観が入っておりますのでご留意ください。(注3)日柄は両端を含む。(出所)日本経済新聞社、各種資料より野村證券投資情報部作成 (野村證券投資情報部 岩本 竜太郎) ご投資にあたっての注意点
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07/18 08:08
【野村の朝解説】堅調な指標受けS&P500は最高値更新(7/18)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 17日の米国株式市場は続伸、S&P500、ナスダック総合指数は過去最高値を更新しました。6月の小売売上高は前月比+0.6%と5月の同-0.9%から反発し、市場予想(同+0.1%)を大きく上回ったうえ、新規失業保険申請件数が5週連続で減少したことが好感され、景気敏感株が株高をけん引しました。為替市場では米ドルが主要通貨に対して全面高となり、対円では一時149円台に乗せ、その後も148円台半ばで推移しています。米国では本日、7月ミシガン大学消費者マインド指数(速報)の発表が予定されており、消費者の購買意欲とインフレ期待の行方が改めて注目を集めそうです。 相場の注目点 今週、米国では6月CPI、PPIが発表されました。いずれも全体のインフレ率は落ち着いていたものの、内訳を見れば関税の影響が確認できる内容でした。このため、パウエル議長を筆頭とした金利据え置き派にとっても、ボウマン副議長(金融監督担当)やウォラー理事など早期利下げ派にとっても政策姿勢を転換する材料にはならなかったと見られます。7月29-30日のFOMCでは金利据え置きが予想されるものの、年後半には2回程度の利下げとの見方も維持されるとみられます。 日本では7月20日に参議院選挙の投開票が行われます。自民・公明両党で過半数を維持できれば、政策は「現状維持」が想定されます。米国との貿易交渉は再開、年末にかけて補正予算策定に向けガソリンの暫定税率の廃止などを交渉材料に野党との協議が始まると予想されます。一方で、与党が過半数を割り込んだ場合は、石破政権の退陣の有無次第で、対米貿易交渉の行方や財政政策、金融政策の見方にも影響が及び、シナリオが一気に複雑化します。金融市場は先行き不透明感を嫌いますので、市場の初期反応は「日本売り」となるリスクがある点には注意が必要です。 (野村證券 投資情報部 尾畑 秀一) (注)データは日本時間2025年7月18日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 ご投資にあたっての注意点
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07/17 16:37
【野村の夕解説】半導体企業の好決算が支え 日経平均は一転237円高(7/17)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 16日の米国株式市場では一部の半導体関連株が下落しました。また、17日の寄り付き前には日本の6月貿易収支が公表され、米国向けは自動車輸出を中心に3ヶ月連続で減少しました。これらを受け本日の日経平均株価は前日比171円安の39,492円で始まり、値がさの半導体関連株や輸出関連株の下落が重石となり、一時前日比292円安となりました。その後、FRBのパウエル議長の解任騒動をきっかけとした円買い・ドル売りが一巡し、米ドル高円安が進行しました。円安進行と足並みを揃え株価の下落は一巡し、午後には一転上昇となりました。14時台には台湾の半導体製造受託大手である台湾セミコンダクターが2025年4-6月期の決算を発表し、売上高と営業利益が四半期ベースで最高となりました。これを好感し日本の値がさの半導体関連株の下げ幅が縮小し、日経平均株価は急速に上げ幅を拡大させ一時前日比247円高となりました。大引けは前日比237円高の39,901円と反発し取引を終えました。個別企業では、セブン&アイ・ホールディングスが、海外大手企業からの買収提案の計画が撤回されたとの報道により、前日比-9.16%と大幅安となりました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注)データは15時45分頃。米ドル/円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。米ドル/円は11:30~12:30の間は表示していない。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 米国では6月の米小売売上高が発表され、関税引き上げによる消費への影響が注目されます。 (野村證券投資情報部 清水 奎花) ご投資にあたっての注意点
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07/17 08:12
【野村の朝解説】ナスダック指数が3日連続で最高値を更新(7/17)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 16日の米国株式市場で主要3指数は揃って上昇し、ナスダック総合指数は3日連続終値で過去最高値を更新しました。米6月生産者物価指数が前月比横ばいとなり、インフレ懸念がやや和らいだほか、2025年4-6月期決算を発表したジョンソン・エンド・ジョンソンが大幅高となったことなどが相場を支えました。米メディアが、トランプ大統領が共和党議員との会合でパウエルFRB議長の解任を打診したと報じ、FRBの独立性や物価の安定が損なわれるとの懸念から、株価が一時下落する場面も見られました。しかしその後、トランプ大統領が解任の可能性は「非常に低い」と報道を否定すると、上昇に転じました。 相場の注目点 日米株式市場に25年4-6月期決算発表シーズンがやってきました。今シーズンで特に注目されるのはハイテク企業の業績動向です。本日は日本でディスコ、海外では米ネットフリックスや台湾のTSMCが決算を発表します。AI市場の拡大期待などを背景に、半導体関連を中心としたハイテク株が25年4月の株価急落後の戻り相場をけん引してきました。現在、米S&P500指数は過去最高値圏、日経平均株価は4万円の大台に迫る水準にあります。ハイテク企業の業績の力強さが改めて確認されれば、さらなる株高が期待されます。一方、好業績への期待は相応に株価に織り込まれているとみられ、市場の期待に届かない決算となった場合は、利益確定の売りが膨らむ可能性があるため注意が必要です。 本日、東京市場では寄付き前に6月貿易統計が発表されます。また、米国では7月フィラデルフィア連銀製造業景気指数および6月小売売上高が発表されます。市場では、6月小売売上高は前月比+0.1%とプラス転換が見込まれています。そのほか、南アフリカにて18日までG20財務相・中央銀行総裁会議が開催される予定です。 (野村證券 投資情報部 岡本 佳佑) (注)データは日本時間2025年7月17日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 ご投資にあたっての注意点
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07/16 16:28
【野村の夕解説】半導体関連株の上昇及ばず 日経平均株価は小幅反落(7/16)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 16日の日経平均株価は、半導体関連株の上昇に対して金融株が重石となり、1日を通すと方向感のない値動きとなりました。15日にトランプ政権がAI・エネルギーへの巨額の投資計画を発表し、エヌビディアに続きAMDも対中半導体輸出規制の緩和を表明したことで、日経平均株価は半導体関連株を中心に上昇して始まりました。一方、参議院議員選挙を巡り、与党の情勢が厳しいとの報道から野党が主張する減税による財政悪化懸念も根強く、銀行や証券などの景気敏感株の下落が重石となり、日経平均株価は一進一退の推移となりました。13:30頃、外国為替市場では4月2日以来となる1米ドル=149円台の円安を付けたことや、オランダの半導体製造装置大手ASMLホールディングの2025年4-6月期決算発表を控えて半導体関連株が一段と上昇し、日経平均株価は一時、前日比245円高となりました。14:00のASMLの好決算発表と同時に材料出尽くしから日経平均株価の上昇幅も縮小し、大引けは前日比14円安の39,663円となりました。個別銘柄では、東宝が前日引け後の好決算から前日比10.9%高と上場来高値となりました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注)データは15時45分頃。米ドル/円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。米ドル/円は11:30~12:30の間は表示していない。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 16日、米国では6月PPI(生産者物価指数)が発表されます。企業の仕入れ価格に関税の影響が及んでいるかどうか注目されます。 (野村證券投資情報部 松田 知紗) ご投資にあたっての注意点