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04/22 08:26
【野村の朝解説】休場明け米国株は大幅続落(4/22)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 21日の米国株式市場で主要3指数は揃って下落しました。トランプ大統領が21日、自身のSNSで「多くの人がFRBの予防的利下げを求めている」と投稿しました。前週には、パウエルFRB議長の解任を検討していると報じられていたこともあり、FRBの独立性を巡る懸念が継続し、市場のリスク回避姿勢が強まりました。NYダウの下落幅は、前営業日比1,300ドルを超える場面もありました。 相場の注目点 為替市場では、ドル円相場は1ドル=141円台を割り込み、約7ヶ月ぶりの水準へと円高が進行しています。トランプ大統領がFRBに対する批判を継続していることを受け、主要通貨に対してドル売りの展開となっています。赤沢経済財政相は、17日に行われた第1回日米閣僚級会議後の会見で、「為替については、ベッセント財務長官と加藤財務相との間で議論することになっている」と発言しています。ドル円相場の動向を見極める上で重要な日米財務相会談は、24日に行われる方向で最終調整と報じられています。今週は、日米財務相会談に対する報道なども市場の焦点の一つとなりそうです。 本日のイベント 本日は、IMFの世界経済見通しが公表されます。米国では、ジェファーソン副議長を筆頭に多くのFRB高官の講演が予定されています。また、電気自動車大手のテスラが2025年1-3月期の決算を発表します。イーロン・マスクCEOの政府効率化省における強硬な手法やその他の政治的な発言に対する反発から、世界各地で不買運動やテスラ車への嫌がらせなどが報じられています。テスラ車の販売状況や業績への影響が注目されます。 (野村證券 投資情報部 澤田 麻希) (注)データは日本時間2025年4月22日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 ご投資にあたっての注意点
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04/21 16:43
【野村の夕解説】円高による企業の業績悪化懸念で日経平均450円安(4/21)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 21日の日経平均株価は、円高進行に連れて下げ幅を広げる展開となりました。18日トランプ米大統領が金融政策の方針を巡って対立するパウエルFRB議長について、任期途中の解任を検討していることが報じられました。また、24日の開催で最終調整に入ったとされる日米財務相会談では、米国から日本に対して円安是正要求が発せられるとの懸念が強まっています。これらを受けて、米ドル円は18日15:30時点の142円30銭台から、21日11:30頃には140円60銭台まで約1.8円程円高が進みました。円高による業績悪化への懸念から、日経平均株価は寄り付きから徐々に下げ幅を広げました。前週末の海外市場が休場で材料に欠ける中、浮上のきっかけを掴めず、終値は前営業日比450円安の34,279円となりました。東証プライム市場の売買代金は3兆858億円と約1年4ヶ月ぶりの低水準に留まりました。業種別では、円高進行を受けて、自動車など輸送株が大きく下落しました。個別銘柄では、2027年度までの中期経営計画の骨子の中で配当性向の引き上げ等を発表した王子ホールディングスが前営業日比+6.67%と上昇が目立ちました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注) データは15時45分頃。米ドル/円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。米ドル/円は11:30~12:30の間は表示していない。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 22日にIMFが世界経済見通しを公表します。米国による関税政策の経済への影響について、IMFがどのように分析するのか、注目されます。 (野村證券投資情報部 秋山 渉) ご投資にあたっての注意点
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04/21 08:33
【野村の朝解説】不透明な環境下で日米交渉の行方に関心(4/21)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 前週末の海外主要市場は、イースター休暇で休場でした。 相場の注目点 米トランプ政権による自動車関税のうち、部品に関する関税の発動が予定されている5月3日までに2回目の日米通商交渉が行われると報じられています。一方、23日(水)から開催されるG20財務相・中央銀行総裁会議に出席するため訪米する加藤財務相と、ベッセント米財務長官による日米財務相会談を24日(金)に行う方向で最終調整を行っていると報じられています。会談では、トランプ政権が日米関税交渉での議題として意欲を示す為替政策について協議すると見込まれています。引き続き日米首脳の発言や各国の動向が注目されています。 本日のイベント 本日から26日(土)までワシントンにてIMF・世界銀行総会が開催されます。米国の関税による世界経済への影響が注目テーマとして取り上げられると見込まれ、その議論の内容が注目されます。18日に続いて香港や英国、ドイツ、フランスなど米国を除く主要国の多くはイースター休暇のため休場です。 (野村證券 投資情報部 神谷 和男) (注)データは日本時間2025年4月21日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 ご投資にあたっての注意点
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04/20 16:00
「再編期」を迎える外食産業- マーチャンダイジングとM&Aの巧拙が持続成長と企業命運を左右 -
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 エグゼクティブ・ディレクター 佐藤 光泰(2025年4月11日) 1. 2000年以降最長の好況期にある外食産業 現在、外食産業は好況に沸く。日本フードサービス協会が毎月、加盟企業の全店売上高の集計データを公表しているが、仮に前年同月比プラスを「好況期」、同マイナスを「不況期」と定義付けすると、コロナ禍終盤の2021年12月から最新値の2025年2月まで、実に39ヵ月連続で好況期が続いている(図表1-1)。 2000年以降、これまでの好況期の連続記録は、世界的な好景気に沸いた2005年3月~2008年3月の37ヵ月であるが、現在はそれを抜いて最長となる。2025年2月の全店売上高は前年同月比106%と依然高水準にあり、この傾向は当面続くことが予想される。 このような環境下、店舗数にも歴史的な変化が生じている。外食の全店舗数は2019年7月以降、64ヵ月連続で前年同月比マイナスであったが、2024年11月、実に5年半ぶりにプラスに転じた(図表1-2)。その後、2025年2月までプラスは4ヵ月継続しており、当面、大きな落ち込みは予想しづらい。 (出所)一般社団法人日本フードサービス協会の統計データより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 2. 好調なマクロ環境と「値上げ」戦略が奏功する外食産業 昨今の外食産業の好況をもたらしている要因として、主に、①インバウンド需要の拡大、②外食消費支出額の増加、③外食経営者によるマーチャンダイジング(商品政策)の見直しなどが考えられる。 まず、インバウンド需要は、2023年5月、世界保健機構(WHO)がコロナ禍の事実上の収束宣言を発表して以降、急回復した。コロナ前の訪日外国人数(外客数)の単月の最高は2019年7月の299.1万人だったが、2024年3月に初の300万人を超え、2025年1月には過去最高の378万人を記録した(図表2-1)。 観光庁の「訪日外国人消費動向調査(2023年)」によると、外国人観光客が訪日前に最も期待していたことの第一位は「日本食を食べること(36.0%)」であり、第二位の「自然・景勝地観光(11.5%)」と第三位の「テーマパーク(8.5%)」を大きく上回る。そのため、訪日外国人数の急増は、国内外食需要に大きな影響をもたらしている。実際、同調査の推計値では、訪日外国人による飲食消費額の合計は2019年の10,397億円に対して、2024年は17,460億円に拡大した(図表2-2)。直近5年間の増加幅は約1.7倍に達する。 (出所)日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」(左)、観光庁「訪日外国人消費動向調査」(右)の各統計・推計データより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 また、国内消費者による外食の支出額も増加している。総務省「家計調査」によると、コロナの第5波のピークであった2021年8月の1世帯あたりの外食支出額は8,185円であったが、第7波のピークであった2022年8月は同11,168円(前年同月比136%)、コロナ収束宣言後の2023年8月は13,412円(同120%)、そして2024年8月は15,289円(同114%)と、同支出額は年々増加している(図表2-3)。 この背景としては、コロナ明けの反動や消費者のライフスタイルの変化などの影響もあるが、2000年以降の世界的な物価高も大いに関係している。国際通貨基金(IMF)によると、2022年の世界の消費者物価上昇率は前年比8.6%と、1996年以来26年ぶりの伸びを記録している。この物価高は日本への影響はもちろん、国内外食産業にも波及している。実際、総務省統計局の「消費者物価指数」を分析してみると、コロナ前の2019年(2018年7月~2019年8月平均、以下同じ期間)の一般外食の同指数を100とした場合、2022年以降の指数は、105(2022年)、111(2023年)、116(2024年)と、外食の物価は年々上昇していることが分かる(図表2-4)。 (出所)総務省「家計調査」「消費者物価指数」統計データより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 こうした中、2020年以降、外食企業のマーチャンダイジングには大きな変化が見られている。コロナ禍では、デリバリーに対応した中食商品・メニューの開発がテーマであったが、コロナが収束しはじめた2022年以降のテーマは「値上げ(高単価商品・メニューの開発などを含む)」である。背景には、世界的なインフレの進行に伴う外食の2大コストである原材料費(Food)と人件費(Labor)の上昇がある。 帝国データバンクの「『上場外食主要100社』価格改定動向調査」によると、2022年に値上げをした外食企業は100社中58社にのぼる。1メニュー当たりの値上げ幅は平均50円であり、ファストフード/ファミリーレストラン業態の客単価を考えると小さくない。また、翌2023年に値上げを実施した企業は同42社であり、このうち約9割の37社が前年に値上げした企業という。同様に当時の調査で、2024年中に値上げを計画している企業は同26社であり、前年に続く値上げを検討している企業は約3分の2の17社であった。 一般的には値上げをした場合、「客単価」は上昇するが「客数」は減少する。その上下の差分が売上高の増加に寄与する(場合によっては減少につながる)。日本フードサービス協会の2022年以降の統計データを見る限り、値上げの影響で客単価は前年同月比を大きく上回って推移しており、客数は、客単価と比較すると値上げの影響で乱高下はあるものの、一度も前年同月比を下回ることなく推移している(図表2-5)。これまでのところ、2022年以降の外食各社における断続的な値上げ戦略は功を奏している。 (出所)一般社団法人日本フードサービス協会の統計データより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 3. 「二極化」が進展する外食産業 コロナ収束以降の外食産業が歴史的な景気拡大期に入っている一方、業況感において、主に2つの「二極化」の進展が昨今、浮き彫りになっている。 まず、最も深刻な二極化は「企業規模」による業況格差であり、言い換えると、大手企業と中小企業(個人事業主含む、以下同じ)の間の業況格差である。大手企業が良好なマクロ環境を背景とする値上げ戦略と新規出店で業容を拡大している中、帝国データバンクの「『飲食店』の倒産動向調査(2024年)」によると、2024年度の飲食店の倒産件数は894件で過去最高となった(図表3-1)。飲食店を含む全産業の2000年以降の倒産件数でみると、「リーマンショック」が起きた2008年度が未だに過去最高である。2008年度当時の飲食店の倒産件数は634件、全産業に占める割合は4.8%であったが、その後、同割合は上昇を続け、2024年度の割合は9.0%となった。この間、消費増税やインフレが進行した時期であり、中小企業が大多数を占める飲食店の物価に対する感応度が、他産業と比べて高い様子が伺える。 負債規模別にみると1,000~5,000万円未満が全体の77.4%で最多となり、1~5億円未満が同10.4%、5,000~1億円未満が同10.3%で続く。1億円未満の負債額による倒産が全体の9割弱を占めるなど、中小企業の苦境が目立つ(図表3-2)。 この背景には、コロナ禍の休業・時短営業に伴う国・自治体の各種協力金が縮小・終了したほか、関連する「ゼロゼロ融資」の返済が開始されたこと、そして、物価高に伴う原材料や人件費、光熱費などのコストの高止まりなどがある。大手企業は、値上げによる価格転嫁やブランド・業態転換、サプライチェーン・店舗運営の効率化、本社経費の引き締めなどで物価高に対応しているが、ヒト・モノ・カネが圧倒的に不足する中小企業によるこれら対応は容易ではない。 (出所)帝国データバンク「「飲食店」の倒産動向調査(2024年)」、各年「倒産集計」データより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 そして、もう一つの二極化は、「業態」による業況格差の進展である。日本フードサービス協会の業態分類では、外食産業は「ファストフード」、「ファミリーレストラン」、「パブレストラン/居酒屋」、「ディナーレストラン」、「喫茶」、「その他」の6つに分けられる。その他業態を除く5つの業態の2024年以降の全店売上高(前年同月比)を比較すると、ファストフード、ファミリーレストラン、喫茶の3業態は全体平均を上回る、もしくは全体平均付近で推移しているが、パブレストラン/居酒屋、ディナーレストランの2業態は全体平均をほぼ下回って推移していることが分かる(図表3-3)。この傾向は店舗数の増減でも同様である。コロナ前の2019年から直近2025年2月までの業態別の全店舗数(前年同月比)の推移を見てみると、パブレストラン/居酒屋、ディナーレストランの両業態は、全体平均を大きく下回って推移している(図表3-4)。 中でもパブレストラン/居酒屋業態は深刻である。2022年からの3年間はコロナの反動もあり、全店売上高は他業態同様に前年同月比を超えているものの、年単位でみると、実は2009年から2021年まで13年連続で全店売上高は前年割れを続けていた。前述した飲食店の倒産件数においても、直近5年間(2020~24年)で最も多い業態は、いずれも居酒屋を主体とする「酒場・ビヤホール」であり、飲食店全体に占める倒産件数の割合(5年平均)は約3割に達する。 2010年代から続くパブレストラン/居酒屋業態の不振は、業態を取り巻く構造的な変化が関係している。例えば、2010年代前半から顕著になった若年層のアルコール離れや「家飲み」需要の拡がりという消費需要の変化に加えて、ファミリーレストランの「ちょい飲み」にも客を奪われた。また、年々厳しさを増す外食のパート・アルバイト人材の獲得競争においても、特にロードサイドの郊外型が多い居酒屋業態は苦戦した。さらに、規制強化もあった。直近では、2020年4月に全面施行された「改正健康増進法」があり、受動喫煙を防止する対策が義務化された。この法律では、喫煙・禁煙に関するルールが定められ、例外は設けられたものの居酒屋などは原則屋内禁煙となり、喫煙者も多い居酒屋経営には大きな影響を及ぼした。 このように、全店売上高は外食産業全体でみると絶好調だが、業態間では二極化が進展している。昨今の業況を牽引しているのは、主にファストフード、ファミリーレストラン、喫茶の3業態であるが、共通しているのは、「低価格」、「都心・商業施設立地」である。物価高が顕著な最中、消費者の安価な食事需要の受け皿になっていると同時に、都心もしくは近郊で宿泊するインバウンド需要の恩恵も受けていると推察される。 (出所)一般社団法人日本フードサービス協会の統計データより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 4. 「再編期」を迎える外食産業 ここまで、外食産業の足元の事業環境や動向を概述した。本章では、それらを踏まえた外食産業の今後の経営環境を展望し、持続成長におけるポイントをまとめる。 (1) 断続的に減少する飲食店舗数 世界的な物価高に伴う原材料価格の高騰や人件費、物流費、エネルギーコストなどの上昇は、当面、収束する気配はない。また、2024年3月、日本銀行が17年ぶりにゼロ金利を解除し、同年7月と2025年1月に追加利上げを実施するなど、日本にもようやく「金利のある世界」が訪れた。食材費や人件費だけでなく、借入金利も経営を圧迫する要因となった。外食経営の損益分岐点は既に高止まりしているが、未だ「上げ止まり」感はなく、今後も持続的に上昇していくと考えていた方が良い。 昨今の外食産業における経営環境は、実は、世界的な穀物価格の高騰に端を発する原材料高に見舞われた2005~08年、そして、円安と慢性的な人手不足による原材料・人件費高に直面した2015~19年の状況に近い。しかし、原材料高を取ってみても、牛肉や豚肉などの輸入食材だけでなく、これまで国内で生産過剰と言われ続けてきた米価格の急騰(高止まり)は、「平成の米騒動」といわれた1993~94年以来、およそ30年ぶりのことである。2025年3月26日から政府が2回目となる備蓄米の入札(放出)を行ったが、米価格は一向に下がる気配がなく、依然として需給のひっ迫は続いている。また、人件費高については、時給を引き上げても採用が困難な人材採用難の時代など、これまであっただろうか。さらに、ゼロ金利解除に伴う借入金利の上昇局面は、2006年以来、およそ20年ぶりのことである。 そのため、直近の飲食店舗数は5年半ぶりに前年同月比でプラスになったものの、筆者は今後の飲食店舗数の断続的な減少を予想する。実際、日本フードサービス協会の飲食店舗数の前年同月比データや厚生労働省の飲食店舗数に関する統計データを長期のトレンドでみると、いずれも減少傾向であることが分かる(図表4-1、4-2)。2000年度に154万店舗あった飲食店舗数は、その後、五月雨式に減少を続け、2023年度には、2000年比89.6%の138万店舗となった。 飲食店舗数の2021~23年度のCAGR(年平均成長率)は△0.76%であり、昨今の経営環境を見据えると、年に応じてバラつきはあるとしても、筆者はこの減少率が今後も続くものと推察する。 (出所)一般社団法人日本フードサービス協会統計データ(左)、厚生労働省「生活衛生関係営業施設数」統計データ(右)より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (2) 拡大する外食産業の市場規模 飲食の店舗数はこの20年で約1割減少したが、実は外食産業(中食を含む広義の外食産業、以下同じ)の市場規模は拡大傾向にある。2000年以降の同市場規模を俯瞰すると、まず、2000年の市場規模は32.0兆円で、その後、緩やかな上下を繰り返しながらも減少を続け、2011年には28.6兆円まで低下した。しかし、その後は増加に転じ、コロナ前の2019年には33.5兆円にまで拡大した。コロナ禍で市場は一旦激減したが、2022年より復調し、2023年には31.8兆円にまで回復した(図表4-3)。 外食産業の市場規模が2011年を底にして反転した理由は、主に、「中食市場」と「インバウンド需要」の拡大、そして「物価(客単価)」の上昇の3つでほぼ説明がつく。インバウンド需要と物価(客単価)は本稿で述べてきた通りであるが、2000年以降の中食市場の持続拡大は無視できない。実際、2000年の中食市場規模は5.7兆円であったが、その後、CAGR1.6%で伸長し、2023年には8.1兆円にまで拡大した。この間の単純な市場増加額は2.4兆円にのぼり、外食産業に与えた影響が読み取れる。拡大を続ける中食市場(需要)を獲得するため、2010年になる頃から、外食各社の中食分野への商品・サービス、業態などの開発が本格化したことは周知のとおりである。 ちなみに、中食市場を含まない外食市場単体でみても、2000年の26.3兆円に対して、コロナ前の2019年の同市場規模は25.7兆円であり、この間のCAGRは△0.1%に留まっている。外食産業は1997年に市場規模のピークを付けて以降、2011年までじりじりと縮小を続けていたこともあり、その当時、筆者を含む多くの産業アナリストやリサーチャーが、外食産業における将来の断続的な市場縮小を予想した。その後、これらの予想に反し、外食産業の市場規模は伸長した。振り返ってみると、日本で長く続いたデフレからの脱却と持続的な物価高、旺盛なインバウンド需要到来の3点の予見が困難であったと分析している。 人口動態をはじめとする国内の社会構造や世界のマクロ環境を中期展望した際、中食市場とインバウンド需要、物価の伸長は当面続くことが予期される。筆者は、今後の外食産業の市場規模はCAGR1.8%で伸長し、2030年には36.2兆円(外食市場26.8兆円、中食市場9.4兆円)に達するものと予想している。 (出所)一般社団法人日本フードサービス協会、公益財団法人食の安全・安心財団の推計データより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (3) 市場占有率が高まる大手企業 このように、今後、飲食店舗数は減少する一方で、外食産業の市場規模は伸長が見込まれる。今後、外食産業全体のプレーヤー数は減少し、大手プレーヤーが市場シェアを高めるシナリオを想定する。 実際、大手企業の市場シェアは年々拡大している。日経MJ「日本の飲食業調査」における2000年度以降の「店舗売上高ランキング(上位100社)」のデータと、前述した外食産業の市場規模を使って各年における上位企業の市場シェアを集計したところ、2000年度の上位30社の市場シェアは9.5%(店舗売上高合計:3.0兆円)であったが、2023年度には17.2%(同5.5兆円)まで拡大している(図表4-4)。この間のCAGRは2.6%であるが、外食産業の市場規模が増加に転じた2011年度以降のCAGRは3.8%に達する。物価高に伴う値上げや業態転換などの戦略が打ち出しにくい中小企業の統廃合が進んでいる様子が分かる。 今後も大手企業による市場シェアの上昇が続くと考えられ、筆者は、2030年度の上位30社によるシェアは21.0%まで拡大するものと予想している。 (出所)一般社団法人日本フードサービス協会、公益財団法人食の安全・安心財団の推計データ、日経MJ「日本の飲食業調査(2000-23年度)」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (4) 変動する大手企業の趨勢 大手企業の市場シェアが高まる一方で、大手企業間の競争は激化し、今後も趨勢は変動していくものと考える。日経MJ調査による2000年度と23年度の店舗売上高ランキングを比較・分析してみると、この四半世紀に及ぶ大手企業の趨勢や外食産業の潮流が見えてくる(図表4-5)。企業の「規模」「業態」「ネーム(顔ぶれ)」の3つの変化に注目し、以下レビューする。 1点目は「規模」の変化である。2000年度と23年度の上位30社を比較すると、「一千億円企業」が倍増した。つまり、店舗売上高が1,000億円以上の企業数は2000年度が11社であったのに対して、23年度は22社に及んだ。いずれのランキングも首位は日本マクドナルドHDであるが、店舗売上高は4,811億円から7,777億円に拡大した。また、2000年度の第30位企業は壱番屋であり、当時の店舗売上高は432億円であったが、23年度には884億円へ倍増した。大手企業の市場シェアが上昇している様子が伺える。 日経MJ「日本の飲食業調査(2000-23年度)」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 2点目は「業態」の変化である。2000年度の店舗売上高ランキング上位30社のうち、「パブ/居酒屋」業態を展開する企業は5社あったが、23年度はワタミの1社のみである。前章で詳述の通り、この23年間の同業態における厳しい経営環境が推察される。 一方で、2000年度のランキング表にはなく、23年度に新たに登場した業態が「回転ずし(寿司)」である。上位30社に2社ランクインしている。まず、23年度の店舗売上高ランキングの第6位に入ったFOOD & LIFE COMPANIESは、回転寿司の「スシロー」、「回転寿司みさき」、持ち帰り寿司専門店の「京樽」などを店舗展開する企業グループであり、23年度の店舗売上高は2,059億円であった。連結売上高(2023.9期)で9割を占める主要ブランド「スシロー」の2000年度の店舗売上高は173億円、同ランキングは93位であったことを考えると、回転寿司業態、そして当社の成長ぶりが理解できる。 もう一社は23年度ランキングで第9位のくら寿司である。「無添くら寿司」を国内外で展開する当社の23年度の店舗売上高は1,638億円であるが、2000年度は同調査ランキングの上位100社にすら入っていない。当社IR資料によると、2000年度(2001.11期)の売上高は111億円であることが分かり、この23年間で売上高は15倍に拡大した。 その他、業態の変化で目立つのは「多業態」であるが、以下3点目と合わせて概述したい。 3点目は企業の「ネーム(顔ぶれ)」の変化である。2000年度の上位30社にランクインした企業のうち、引き続き23年度にも登場している企業数は14社である。言い換えると、残り16社は2000年度時点には上位30社に入っていなかった企業であり、その中には当時、独自のビジネスモデルや戦略で急成長していた新興企業が複数含まれる。 その代表企業は、まず、23年度のランキングで第2位と第3位のゼンショーHDとコロワイドである。「すき家」、「なか卵」、「ココス」、「はま寿司」などの店舗ブランドで知られるゼンショーHDの2000年度の店舗売上高は203億円であったが、23年度には当時比31倍の6,214億円に拡大した。一方のコロワイドは、「牛角」、「かっぱ寿司」などの代表的な店舗ブランドを有する。2000年度の店舗売上高は225億円であったが、23年度は3,815億円のため、この間の成長率(倍率)は17倍に及ぶ。 また、これら16社のうち、23年度までの成長率が最も高かったのは、23年度のランキングで第10位、「丸亀製麵」、「コナズ珈琲」などの店舗ブランドを展開するトリドールHDである。2000年度の調査では上位100位に入っていなかったため、当時の店舗売上高データはないものの、当社IR資料より、2000年度(2001.3期)の売上高は16億円であることが分かる。23年度の店舗売上高は1,433億円のため、驚くことに、この23年間で売上高は89倍に拡大した。 トリドールHDに次ぐ成長率を誇る企業は、23年度のランキングで第22位、「かごの屋」、「しゃぶ菜」などの店舗ブランドを展開するクリエイト・レストランツHDである。当社も2000年度の調査で上位100社に入っていなかったが、公表資料より、2000年度(2001.2期)の当社売上高は39億円であった。23年度の店舗売上高は1,158億円であり、2000-23年度の成長率は30倍に達する。 成長率の第3位で、23年度の店舗売上高ランキングで第12位にあるのが、「焼肉きんぐ」、「丸源ラーメン」などのブランドを運営する物語コーポレーションである。当社も2000年度のランキングでは上位100社にランクインしてなく、公表されているデータで最も古い2002年度(2003.6期)の当社売上高は64億円であった。23年度の店舗売上高は1,320億円のため、この間の成長率は21倍にのぼる。 このように2000年度以降、急成長し、今や国内外食産業を代表する大手企業となった上記5社の共通戦略は、「マルチブランド・多業態戦略」と「M&A戦略」である。つまり、単一ブランド・業態ではなく、消費者の利用シーンや店舗の立地に合わせた様々なブランド・業態を展開し、その開発手段としてのM&A活用である。 これらの戦略が2000年度以降、合致した背景には、国内外食産業の構造的な変化がある。日本の外食産業は、1970年代前半から単一ブランド・業態のチェーンストア化が進展し、消費者の外食利用のすそ野拡大に貢献した。しかし、バブル崩壊後の景気後退、人口減少時代を迎える中、外食店舗のオーバーストア化が課題になり、磨き込まれた極少数の店舗ブランドを除き、ブランドの陳腐化(短命化)が顕著になりはじめた。また、人口動態や社会環境の変化に伴う消費者需要の多様化も進んだ。そのため、2000年以降、コンセプトや利用シーン、立地毎に対応するそれぞれの店舗ブランド・業態を開発する新興企業が頭角を現してきた。その手法として、自社開発に加え、M&Aによって他社ブランドを獲得する企業も登場した。それらの代表的なパイオニアが上記5社である。 その後、このような戦略を採る新興企業が急成長を遂げる中、また、人口減少による国内外食産業が成熟期へ突入する中、これまで単一ブランド・業態を展開していた多くの企業もこれらの戦略を採用し、次第に外食産業における主要な成長手段として根付いていった。言い方を変えると、今やマルチブランド・多業態戦略、M&A戦略は一般化し、2000年代前半までとは異なり、それ自体は差別化要素ではなくなった。今後はさらに大手企業間の競争は激化し、結果としての企業の趨勢は大きな変動が予想される。 (5) 緻密なマーチャンダイジングがより問われる環境へ それでは、外食各社の差別化要素、または昨今の経営環境で必要な取り組みは何か。多岐に及ぶが、ひと言でまとめるならば、緻密なマーチャンダイジングの実践であろう。 物価高の上げ止まりが見えない中、引き続き、各社は既存メニューの値上げや高単価商品の導入、新ブランド・業態開発による単価向上の戦略が求められる。一方で、昨今、値上げによる「客単価」の増加以上に「客数」が減少し、既存店の売上高が大きく減少する事例も散見されはじめた。物価高を背景とする消費者の節約志向が目立つ中、単純な値上げは客離れを誘発し兼ねない。値上げ以上の価値を消費者に訴求する必要があり、使用原料やメニュー自体の改良、セットメニューの開発、値下げ商品の組み合わせによるミックス戦略なども有効であろう。今後、外食経営者におけるマーチャンダイジングの巧拙が企業の命運を左右するといっても過言ではない。 今後のマーチャンダイジングの参考として、2000年以降の外食産業のマーチャンダイジングの潮流を振り返ってみる。大掴みにまとめると、その時代のマクロ環境や消費者需要などを背景として、「客数」を取りに行く低価格戦略と、「客単価」を狙う高単価戦略、それらを組み合わせたミックス戦略を繰り返してきた。それらは、日本フードサービス協会の全店「客数」と「客単価」の前年比推移を追うことで、概ねその変遷が理解できる(図表4-6)。 いつの時代も巧みなマーチャンダイジングで外食産業を代表する企業は日本マクドナルドHDである。当社はデフレ下で消費者の財布のひもが固かった2000年に「平日半額プログラム」を開始したが、2002年には平日半額セールを打ち切り、ハンバーガーを65円から80円に値上げした。その後、2005年には低価格な「100円マック」の導入と同時に、既存メニュー6割の値上げを発表するなど、ミックス戦略へ移行した。2010年代半ば以降の円安に伴う原材料高騰時には、期間・数量限定メニューである「グランド ビッグマック」、「ギガ ビッグマック」 (2016年)、そしてパティを倍にした「夜マック」(2018年)などの高単価&付加価値メニューの開発・導入を進めた。コロナ後の2022年以降、物価高への対応として4年連続で値上げを実施している。最新の2025年3月には全体商品の約4割を値上げしたが、同時に、「ハンバーガー」のバリューセット(セット500)を10年ぶりに500円でラインアップに加えるなど、価格(客数)にも配慮したミックス戦略が採用されている。ちなみに、ハンバーガーの現在の単価は190円であり、2000年(65円)と比較とすると、25年間で約3倍の水準となった。 このように、2000年以降、持続的な業容拡大を遂げてきた日本マクドナルドHDの業績は、そのときどきの時代の風潮に合わせた巧みなマーチャンダイジングに支えられていることがわかる。 ※MD:マーチャンダイジング(商品政策) (出所)一般社団法人日本フードサービス協会、日本マクドナルドHD公表資料より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (6) M&Aの活況と「再編期」へ向かう外食産業 外食企業によるマーチャンダイジングの巧拙が命運を左右することを述べたが、もちろん、「言うは易く行うは難し」である。経験やノウハウを持つ人材などの経営資源が求められることはもちろん、新メニュー開発やブランド・業態転換の観点からは、一定の企業体力(財務力)も必要となる。「客単価」の上昇を軸とする外食市場の規模拡大の予想から、値上げ余地のあるブランド力やマーチャンダイジング力を有する企業の業容はいっそう拡大する一方、それらが乏しい企業は淘汰される可能性がある。2024年の飲食店の倒産件数が過去最高であったように、今後、外食各社の間の二極化はこれまでにないペースで進展し、外食産業はM&Aによる「再編期」へ突入するものと推察される。 実際、外食産業のM&Aは活況を呈している。株式会社レコフ「レコフM&Aデータベース」によると、2024年の外食産業におけるM&A件数は過去最高となった(図表4-7)。 (出所)株式会社レコフ「レコフM&Aデータベース」の公表データより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 背景には、前章の飲食店舗の倒産件数の増加で述べた物価高などの要因があるが、換言すれば、その打開策としてのマーチャンダイジングが道半ばであった点も否めない。その一方、足元の業績が好調にも関わらず、M&Aによる他社へのグループ入りを決めた企業も少なくない。例えば、事業承継問題を抱える企業の経営譲渡がある。外食産業に限らず、後継者問題はどの産業でも深刻化しており、少子高齢化で後継者が見つからず、黒字でも事業をやめざるを得ない中小企業は増加している。実際、帝国データバンクによると、2024年に休廃業・解散した企業6.9万社のうち、その半分強が直近の決算期で黒字であったという。 それに加えて昨今では、M&Aを選択する理由に「事業ビジョン(創業ビジョン)の早期実現」を挙げる若い経営者が増加している。そのような経営者は、構想から事業が立ち上がり、資金が安定的に回りはじめたアーリー/ミドルステージの段階で早々に経営を譲渡し、グループ入りした企業の経営資源をフル活用した創業ビジョンの実現、引いては持続成長プロセスを選択している。通常のベンチャー経営者は、ベンチャーキャピタルからの成長資金を調達し、段階的な成長と調達を繰り返して株式上場を短期目標とすることが多いが、その成長プロセスとは対照的である。 早期の経営譲渡を選択する経営者は、事業ビジョンの早期実現による社会への貢献意識が高い。誤解を恐れずにいうと、そのような経営者は、ビジネス自体は事業ビジョンを実現する手段と捉えており、それを最短で実現する選択肢として、株式上場とトレードセール(他社へのグループ入り)を天秤にかけ、後者が最適と判断すれば躊躇なくM&Aを選択している。もちろん、そのような経営者だけではなく、昨今の厳しい経営環境を乗り越えるための早期決断を行う経営者も少なくない。 このように成長ステージに入った早期から、M&Aを持続成長の手段に位置づける経営者は、2010年代後半以降、確実に増加している。背景には、M&Aの社会的な認知度の向上と、M&Aを専門的に支援するプレーヤーのすそ野が拡がった影響などがあろう。外食産業の原材料高や人件費の高止まりなどに伴う経営環境の悪化、後継者難を背景とする事業承継問題の深刻化、そして、事業ビジョンの早期実現や持続成長を遂げる主要な戦略手段として、外食産業のM&A件数は引き続き増加していくものと推察される。筆者は、2030年の外食産業のM&A件数は、少なくとも2024年比で約1.3倍の年間90件程度まで拡大するものと予想している。 M&Aがベンチャーや中小企業の経営者にも広く浸透しはじめた一方で、M&Aに関連するトラブルは多発している。中小企業庁によると、売り手側創業者の個人保証の解除や退職慰労金の支払いが契約にもとづいて履行されない事例や、買い手側の資金力に大きな疑念があるにも関わらず、売り手側に買い手候補先として紹介し、クロージング後に仲介手数料の支払いはしたものの買い手企業から売り手側に株式譲渡代金が振り込まれない事例などが相次いでいる。 同庁は、2024年8月末、「中小M&Aガイドライン」を改訂し、仲介者・FA(ファイナンシャル・アドバイザー)の手数料やプロセスごとの提供業務の具体的説明、ネームクリア(売り手側企業名の買い手候補先への開示)前の売り手側の同意の取得、テール条項(契約終了後の一定期間における同様な取引や契約を制限する条項)の対象の限定範囲、専任条項がない場合の取り扱いの明確化、不適切な仲介者・FAの排除などを明記した。M&Aが社会インフラになりはじめた中、このようなガイドラインの厳格化を通じて、買い手と売り手が安心してM&Aを決断できる仕組みづくりが重要なのはいうまでもない。 こうしたガイドラインの改定などで、M&Aのプラットフォームは次第に洗練されていくものと推察されるものの、経営譲渡を検討する売り手側の本質的な視点では、M&Aを仲介者やFAに「丸投げ」するのは控えた方が良い。プロセスを開始する前に、M&Aの目的や方針・戦略をはじめ、事業ビジョンや中期経営計画などの方針と合致する買い手候補先企業の洗い出し、そして、プロセスの各段階における情報の開示内容や方法などを、売り手側が「腹落ち」するまで、仲介者やFAなどと膝詰めでじっくりと協議しておくべきである。M&Aが一般的な経営の選択肢になりはじめたとはいえ、特に売り手側の創業者にとっては大きな決断であり、また、従業員の生活やモチベーションにも大きな影響を与える点も再認識しておく必要がある。 また、買い手側の経営者の視点では、M&Aは成長の「目的」ではなく「手段」である点を、今一度確認する必要がある。言い換えると、M&Aによる売上高の拡大は目に見えて理解できるものの、重要なのはトップライン(売上高)ではなく、ボトムライン(利益/キャッシュ)、そしてシナジー(相乗効果)である。安易なM&AでPMI(M&A後の統合効果の最大化)に苦労するだけでなく、既存顧客や主要幹部・従業員が離反してしまう「負のM&A」事例は、外食産業に限らず他産業でも枚挙にいとまがない。肝要な点は、まず、確固たる事業ビジョンとそれを実現する戦略の構築にあり、その上で、それを実践する手段としてのM&A活用の検討である。M&Aを検討する判断に至った場合、経営者が作成したそれらの素案をもとに、外食産業やM&A戦略に長けている仲介者やFAを慎重に吟味し、彼らから適切なアドバイスを求めるのがよいと思われる。 こうした昨今のM&Aの活況と外食産業を取り巻くマクロ環境やミクロ環境、消費者の動向を見据えると、外食産業は次第に「再編期」へ突入していくものと筆者は考える。本稿で述べてきたように、その際の企業各社における持続成長の主要ポイントは、「緻密なマーチャンダイジング戦略」と「巧みなM&A戦略」だと考える。そのような再編を通して、外食産業のプレーヤーは、次第に、国内外で市場シェアを高める巨大外食企業グループと、特定の小商圏で常連客をつかむ強固なブランド(知名度)を有する「町の個店」への二極化が進展するものと予想する。 (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部 おわりに 外食産業の「近代化元年」は、外食産業への外資規制が前年に解禁された1970年といわれている。それまでは外食といえば個人事業主が経営する町の「個店」を指していたが、同年以降、米国式のチェーンストアオペレーションを導入した国内外企業による出店が進んだ。1970年に「すかいらーく」、「ケンタッキーフライドチキン」、翌1971年に「マクドナルド」、「ロイヤルホスト」、「ミスタードーナツ」、1972年に「ロッテリア」、「モスバーガー」など、今や日本の外食産業を代表するチェーン店舗の1号店がそれぞれ開店した。チェーンストア理論に基づく単一ブランドのナショナルブランド化は、「3S」と呼ばれる標準化(Standardization)・単純化(Simplification)・専門化(Specialization)の手法を用いて、高品質かつ低価格なメニュー・サービスを、どこの店舗でも同じように提供することで、外食産業の市場形成はもちろん、高度成長期における消費者の食文化の醸成・浸透に大いに貢献した。 外食産業の近代化から今年で55年を迎える。ロシア(旧ソビエト連邦)の経済学者であるニコライ・コンドラチェフが提唱した「コンドラチェフ・サイクル(Kondratieff Wave)」によると、物価水準と景気の変動が50~60年の周期で到来して景気循環を生み出すという。2020年以降の国内外食産業は、未曽有のコロナ禍における消費者の購買行動の変化や「マインドセット」を通じて、新たなビジネスモデル(サービスや技術)を受け入れる風土が形成された。また、その後の世界的な物価高を経て、外食のコスト構造、引いてはマーチャンダイジングのあり方が根本から変わりはじめた。M&Aも社会に浸透し、外食経営者の成長手段、もしくは事業承継の選択肢として定着した。 コンドラチェフ・サイクルでは、景気循環を生み出す背景の一つに「イノベーション(革新/新機軸)」を掲げている。外食産業における2020年以降の変化は、ビジネスモデルや技術の「革新」とまで呼べるものではないが、外食産業の「新機軸」を打ち出した点については疑いようがない。今から5年後の2030年における外食産業の「近代化60周年」の節目に向けて、「緻密なマーチャンダイジング戦略」と「巧みなM&A戦略」を用いて、新たな食文化の醸成に寄与する外食企業の活躍に期待したい。 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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04/20 09:00
【動画 3分チャート塾】シーズンⅣ:第8回 騰落レシオ(2) チャートで検証してみよう
「動画 3分チャート塾」は、株価チャートの見方を学びたい初心者から中級者の方向けの動画シリーズです。 今回は騰落レシオについて、チャートを用いた解説と、追加のポイントについても説明しています。 シーズン I:意外と知らないローソク足(全8回)ローソク足の基本の読み方や中長期的な相場の捉え方などについてわかりやすく解説していきます。シーズンII:相場の見方の強い味方、移動平均線(全9回)移動平均線の基礎や活用法についてわかりやすく解説していきます。シーズンIII:上値、下値のメドを探ろう(全10回)上値、下値メドの探り方についてわかりやすく解説していきます。シーズンIV:相場の過熱感を測るには?(全9回)オシレーター系指標についてわかりやすく解説していきます。シーズンV:トレンドラインを引いてみよう(全9回)トレンドラインについてわかりやすく解説していきます。 ご投資にあたっての注意点
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04/19 16:00
食農体験型返礼品が切り拓くふるさと納税の可能性
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 コンサルタント 増子 桃子(2025年4月11日) 1. 拡大を続けるふるさと納税―その背景と発展 ふるさと納税は、2008年に総務省の主導で導入された制度であり、「地方で生まれ育ち、都会に移り住んだ人が、税制を通じてふるさとや応援したい地域に貢献する仕組みを作る」という想いのもと創設された。地域を支援する新たな選択肢として導入されたこの制度について、総務省は次の三つの意義[1]を提示している。 ① 納税者が寄付先を選択することで、税の使われ方を考えるきっかけとなる② お世話になった地域やこれから応援したい地域の力になれる③ 自治体が取組をアピールすることで、自治体間の競争が進み、地域のあり方をあらためて考えるきっかけとなる このように、「納税者と自治体が、お互いの成長を高める新しい関係を築いていく」という理念のもとで始まったふるさと納税は、2011年の東日本大震災を契機とする被災地支援への寄付が広がることで認知度が高まった。さらに、2012年には国内初のふるさと納税専門のポータルサイト「ふるさとチョイス」が開設されて利便性が向上したほか、2015年には控除上限の引き上げとワンストップ特例申請の導入によって手続きが簡素化されるなどで、利用者が一気に拡大した。この結果、寄付者数と寄付総額は急増し、2023年度には寄付総額が1兆円を超え、ふるさと納税利用者と言える住民税控除適用数も1,000万人を突破するなど拡大を続けている(図表1)。 現在では、ほとんどの自治体が寄付の「御礼」として返礼品を提供しているが、導入当初は、返礼品を送る自治体はごく一部であり、寄付金の使途を提示することで寄付を募ることが主流であった。2012年のポータルサイト開設以降、寄付する自治体を「返礼品で選ぶ」という文化が徐々に浸透し、返礼品の内容や形式も多様化している。こうした中で、寄付者の動機は「返礼品」が大半を占めるようになり、自分にゆかりがある「ふるさと」を応援するという当初の理念が十分に実現されているとは言い難い状況となっている。また、自治体間の寄付獲得競争が激化する中で、地域振興と直接結びつかない返礼品も見受けられるようになり、制度の在り方が問われる場面が増えている。 図表1 ふるさと納税受入金額と住民税控除適用者数の推移 (出所)総務省「令和6年度ふるさと納税に関する現況調査について」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 しかしながら、「返礼品」をきっかけに寄付先の地域やその魅力を知り、地域支援の輪が広がるというポジティブな側面も見逃せない。ふるさと納税の導入当初に掲げられた意義を再確認し、地域振興や地方創生へと繋げるためには、返礼品を単なる物品提供にとどめるのではなく、地域の持続可能な発展を促進する仕組みへと進化させることが求められる。筆者がその一例として注目したいのが、「食農分野」における返礼品の影響であり、この分野が地域経済に与える影響や課題を掘り下げていきたい。 2. 食農分野に見るふるさと納税の効果と課題 ふるさと納税返礼品の中でも、食品や農産物は人気の高いカテゴリであり、寄付件数の6割強が食農分野に関連している(図表2)。2023年度の寄付受入金額は1.1兆円であり、このうち返礼品調達額は約3割であるため、食農分野の返礼品調達額は1,980億円(1.1兆円×0.6×0.3)と推定される。農業・食料関連産業の国内生産額(概算値)が114兆円(2022年)[2]であることを考えると、規模は小さいものの、食農産業が主要産業となっている地方自治体では、非常に大きな影響力を持つと考えられる。 例えば、2022年および2023年にふるさと納税受入額が第2位となった北海道紋別市は、2022年に194億円の受入額を記録しており、このうち食農分野の返礼品調達額はおよそ35億円[3]と推計される。この金額は市の農業産出額(79.7億円[4])の44%に相当し、地域経済を支える重要な財源となっている。また、宮崎県都城市では、宮崎牛や豚肉、焼酎を返礼品として戦略的に活用し、寄付額全国1位を記録した。市では寄付金を子育て支援や教育施設の整備に充てるなど、地域経済の好循環を生み出している。 図表2 ふるさと納税 返礼品カテゴリ別寄付件数の推移 (出所)総務省「令和6年度ふるさと納税に関する現況調査について」および、ふるさと納税ガイド「ふるさと納税 人気返礼品 ジャンル(https://furu-sato.com/magazine/9440/)」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 一方で、現行の食農分野の「物品型返礼品」には以下のような課題が存在している。 ① 特産品の有無による寄付額格差特産品が地域間競争を左右する状況が続いており、特産品に恵まれない自治体では寄付が伸び悩む傾向にある。特産品の提供が難しい自治体では、寄付者を引き付ける手段が限られ、競争力の格差が拡大している。 ② 自治体と寄付者の繋がりの希薄化と「官製通販」化の懸念1章でも触れたように、寄付の主な動機が「返礼品取得」となっており、寄付先自治体への関心が薄れている。ふるさと納税の本来の目的である「ふるさとを応援する」という意義が薄まり、制度が「官製通販」化しているという批判も存在する。 こうした課題を解決していくために、筆者が注目しているのが、「体験型返礼品」である。近年、寄付件数が増加傾向にある旅行券やギフト券を軸とした体験型返礼品は、物品型返礼品の課題を解決する糸口となり得る。特に、人気の高い食品・農産物と組み合わせた「食農体験型返礼品」は、地域の持続可能性を高めるとともに、寄付者との繋がりを深める有効な手段となり得る。 3. 「食農体験型返礼品」の可能性 近年、消費者の価値観は「モノ消費」から「コト消費」へ移行している。物理的な商品を購入して得られる満足感よりも、心に残る体験や感情的な価値に重点を置き、形として残らない「経験」を求める傾向が強くなっている。この動きは、ふるさと納税返礼品の新しい選択肢として「体験型返礼品」の普及を後押ししている。また、レッドホースコーポレーション株式会社が実施したアンケート調査[5]によると、体験型返礼品利用者の9割が「寄付で訪れたまちにまた訪れたい」と回答しており、寄付者が地域に対して継続的な関心を持つきっかけとなり、体験型返礼品が地域の交流人口だけでなく、関係人口の創出に寄与することも示唆されている。 体験型返礼品の中でも、食農体験型返礼品は、地域独自の農業や食文化を活用し、寄付者が地域を訪問して体験することで、物品返礼品の課題を補完する可能性があると筆者は考える。図表3でまとめるように、食農「物品型」返礼品は、寄付者の利便性や地場産業の短期的な売上増加に繋がるという利点はある一方で、食農体験型返礼品は、返礼品に留まらず、寄付者が寄付先自治体へ訪問することでの地域経済への波及効果や地域住民との交流による関係構築・リピーターや関係人口の創出に繋がり、また、ふるさと納税返礼品以外への展開も可能性があると考えられる。 図表3 食農物品型返礼品と食農体験型返礼品の比較 項目食農物品型返礼品食農体験型返礼品提供内容地域の特産品(食品、農産物等)を寄付者へ送付地域に関連する農業や食文化等の体験やサービスを提供寄付者の利便性寄付手続き後、返礼品の発送を待ち、受け取るのみであるため、寄付者の利便性は高い寄付手続き後、寄付先自治体へ訪問するための交通の手配、宿泊予約が必要であり、手間と時間を要する地域への経済効果返礼品調達先である地場産業の売上増加に貢献寄付者が寄付先自治体へ訪問することで、体験・サービスを提供する地場産業の売上増加の他、宿泊・飲食業等の地域経済への波及効果寄付者との繋がり返礼品の提供後の、継続的な関係構築が難しく、短期的な繋がりとなる寄付先自治体を訪問し、地域住民との交流することで、地域との繋がりが生まれ、リピーターや関係人口を創出ふるさと納税以外への展開・波及地元特産品の知名度向上による販路拡大やブランド力強化食育への展開:都市部の学校のフィールドワーク・教育プログラム化。企業の福利厚生として農業体験導入インバウンド観光への展開:アグリツーリズムやグリーンツーリズム等の地域資源を活用した訪日外国人向けのプラン設計へ波及 (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 それでは、実際にはどのような体験やサービスが食農体験型返礼品として考えられるか。ふるさと納税のポータルサイトで紹介されている返礼品を例に整理を行った(図表4)。いずれの体験においても、地域の魅力や価値を向上させ、寄付者の地域や食農分野に対する理解醸成に繋がり、寄付者と地域の新たな関係性を構築する可能性がある。 図表4 食農体験型返礼品の例一覧 返礼品の種類 内容期待される効果 対地域期待される効果 対寄付者具体例農業体験野菜や果物等、地元特産品の収穫体験畑や田の区画、茶やオリーブの樹のオーナー制度等農業の魅力をアピールし、地域農業の理解と支援を促進休耕地や耕作放棄地等の有効活用普段口にしているものを自らの手で育て、収穫することで、食べ物の価値や生産者の努力を理解新潟県糸魚川市「農業体験+お米の定期便『米主』プロジェクト」愛知県安西市「レンコン掘り体験」漁業体験漁船に乗り、魚を捕る体験を行い、地域の海産物を楽しむ地域漁業の活性化地域の海産物の認知度向上漁業の魅力や海産物の価値を直接体験し、地域の海洋資源への関心が深まる高知県中土佐町「上ノ加江漁港の漁業体験」和歌山県串本町「沖釣り体験」酪農体験酪農現場で牛の飼育や乳搾り等を体験チーズやバター等乳製品の加工体験地域酪農の魅力を発信乳製品のブランド力を強化酪農の現場を知り、食品の生産過程を学ぶ 沖縄県大宜味村「自然の中で酪農&バターづくり体験」北海道広尾町「広尾町の魅力を楽しむ酪農漁業体験ツアー」地元食材を使った料理教室地元食材を使った料理や郷土料理を学びながら、地域の食文化に触れる体験地域の食文化や郷土料理の認知度を向上地元食材のブランド力向上地元食材の魅力や地域ならではの食文化や郷土料理を学ぶことで、地域の歴史も垣間見ることができる新潟県新潟市「新潟強度料理教室」千葉県四街道市「農家キレド 畑と野菜の料理教室体験」酒造り体験地元特産品である日本酒や焼酎等の製造工程を学ぶ体験 地域酒文化の発信観光資源としての価値向上日本酒や焼酎の製造過程を学び、地域の伝統的な酒文化を学ぶ長野県佐久市「KURABITO STAY 蔵人体験」奈良県大和郡山市「中谷酒造 酒造り体験」農村民泊体験農村に宿泊し、農作業や地元の日常生活を体験地域住民との交流を促進し、関係人口を創出地域の日常生活の体験を通じて、地域文化への理解が深まる宮崎県高千穂町「農村民泊」大分県宇佐市「安心院農村民泊」(出所)ふるさと納税ガイド(https://furu-sato.com/)およびふるさと納税なび(https://myfuru.jp/)より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 例示した以外にも、食農体験型返礼品の種類は多岐にわたっている。また、既存のサービスから展開も可能であり、肉や魚介類といった特産品がなくとも、各自治体の工夫次第で、魅力的な体験やサービスを企画することができる。各地域が持つ特性に応じた食農体験型返礼品を開発することは、地域の価値・魅力の再発見する機会に繋がる。 さらに、食農体験型返礼品は、クラウドファンディング型ふるさと納税と組み合わせることで、ふるさと納税の三つの意義を最大限発揮することができるのではないかと筆者は考える。クラウドファンディング型ふるさと納税とは、地方自治体が目標金額・募集期間等を定め、特定の事業・プロジェクトにふるさと納税を募るものであり、寄付者は共感・支援したいプロジェクトに対し、直接応援できる仕組みである。地域の食農産業の課題解決を目的としたプロジェクトも多数存在し、クラウドファンディング型ふるさと納税についても、返礼品を受け取れることがほとんどである。その返礼品をプロジェクトに関連した食農体験型返礼品とすることで、寄付者自らが支援したプロジェクトの現場を体験し、課題解決に寄与したという実感を得ることができる。結果として、寄付先自治体とのより深い関係性を構築し、地域への愛着や継続的な関心へと繋がるのではないだろうか。 おわりに ふるさと納税は、筆者が取り上げた課題以外にも、都市部の税収減少や公平性の問題、制度運営上の課題等、さまざまな課題が議論されている。それでもなお、地方が持つ独自の魅力や価値を再発見し、その魅力や価値を都市住民に向けて発信し、都市住民との関係人口や交流人口といった新しい関係性を築くきっかけとなるこの制度は、都市への人口集中が進み、地方の人口減少や経済的疲弊が進む状況下において、地方創生に繋がる重要な打ち手になると考える。 本稿で取り上げた「食農体験型返礼品」が、現行の制度の課題を解決する一助となり、本来目指している理念や意義を十二分に発揮できるような制度へ進化していくことを期待したい。 [1] 総務省「ふるさと納税ポータルサイト ふるさと納税の理念」(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/policy/) [2] 農林水産省「令和4年 農業・食料関連産業の経済計算(概算)」(https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/keizai_keisan/r4/index.html) [3] 194憶円の受入額のうち、返礼品調達額を3割、食農分野の返礼品の割合を6割と仮定し推計 [4] 農林水産省「令和4年 市町村別農業産出額(推計)」(https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sityoson_sansyutu/) [5]レッドホースコーポレーション株式会社「【ふるさと納税に関するアンケート調査】“コト消費”返礼品が拡大。寄附者の90%が「また、訪れたい」と回答。」(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000385.000048395.html) ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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04/19 09:00
【オピニオン】トランプ関税は全く織り込まれていない?
※画像はイメージです。 2025年3月下旬以降、世界中の金融市場の不安定性が高まっています。原因は、ほぼ議論の余地なく、トランプ政権の関税政策がもたらす不透明性といってよいでしょう。今回はトランプ政権の関税政策の織り込み度合いを、日米の企業業績予想の変化から推理してみることにしましょう。 まず震源地の米国ですが、2025年2月以降急速に2025年年間の予想EPSが下方修正されています。ただ、四半期毎でみると、下方修正されているのは関税の本格発動前の1-3月期で、関税の影響が顕在化すると見られる4-6月期以降の修正は緩慢です。関税発動の影響はほぼ織り込まれていないと考えてよさそうです。 (注)S&P500の2025年予想EPSの推移(面グラフ)と、2025年の四半期ごとの予想EPSの推移(折れ線グラフ)。直近値は2025年4月11日。(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成 次に日本ですが、こちらは米国とは逆に2025年1-3月期は挽回生産の本格化などから3月まで業績予想は上方修正が優勢でした。ただ直近1ヶ月間は予想にほぼ動きはなく、米国と同様に関税発動の影響はほぼ織り込まれていないと思われます。 (注)ラッセル野村Large Cap(除く金融)の予想経常利益の推移。2025年3月3日までは実際の集計値で、直近値の4月14日は、アナリスト予想が非連続/欠損値が存在する企業等を除き集計した変化率で接続している。(出所)市場戦略リサーチ部より野村證券投資情報部作成 加えて日本では、通常4~5月に予定されている期初の会社見通しを公表しない企業が多数に上る可能性が懸念されています。過去においても、東日本大震災(2011年度)や、コロナ禍(2020年度)の際には会社見通しを開示しない企業が多数にのぼり、株式市場は不安定化しました。株式市場は、憂慮すべき事象の影響が定量的に把握できない場合、最悪ケースを前提に動くことから、株価は乱高下しがちです。現在の株式市場はこうした心理状態に相当程度近い、と考えられます。 (注)東証プライム市場上場企業のうち、3月決算企業を対象に集計している。(注2)日経平均VIは、毎年5月末を終点とする50営業日の間の最大値を表示している。直近値のみ2025年4月14日を終点とする50営業日の最大値。(出所)野村證券投資情報部作成 なお、会社見通しのその後ですが、2011年度の場合には当初想定以上にサプライチェーンの回復が早く、第1四半期決算の発表シーズン(7~8月)には期初見通し非開示企業が多い状況は解消されました。2020年の際には、コロナ感染が波状で押し寄せたことから、解消には2四半期を要しました。 今回の場合、①トランプ政権では関税からの税収を来年度以降の減税の原資の一部に充てるとしており、そのため②関税政策においてはスピード感を重視している、という見方が多いようです。この見方が正しければ、2011年度のように7~8月の第1四半期決算の発表シーズン頃から、影響が定量的に把握できるようになる可能性があります。その際、影響が想定よりも大きかったとしても、定量的に把握できるようになれば不透明感が払しょくされ、多くの投資家に安心感をもたらす効果が期待できるでしょう。 ご投資にあたっての注意点
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04/19 07:00
【来週の予定】ブラックアウト期間前、FRB高官は何を語るのか
来週の注目点:FRB高官の発言、IMFの世界経済見通しとPMI速報値 トランプ政権の関税政策と、それに対するFRBや各国政府の対応に市場の関心が集まっています。FRBは5月6日(火)-7日(水)にFOMCを控えて26日から金融政策に対する公式発言を自粛するブラックアウト期間に入るため、今週も今後の政策運営に関するFRB高官の発言が注目されます。 22日(火)のジェファーソン副議長を筆頭に、多くのFRB高官の講演が予定されています。また、23日(水)には地区連銀経済報告(ベージュブック)が公表されることから、経済活動に対する関税の影響や、それを受けたFRB高官の政策判断が注目を集めそうです。 21日(月)からワシントンでIMF・世界銀行総会が開催されるのに合わせ、22日(火)にはIMFの世界経済見通しが公表されます。今回は米国の関税による世界経済への影響が注目テーマとして取り上げられると見込まれることから、その分析結果が注目されます。 経済指標では23日(水)に主要各国・地域の4月PMI速報値が発表されます。関税の影響を受けた製造業の景況感や、物価の状況、雇用判断などが注目を集めそうです。 米国では23日(水)に3月新築住宅販売件数、24日(木)に3月中古住宅販売件数と3月耐久財受注、25日(金)に4月ミシガン大学消費者マインド確報値が発表されます。速報値では1年先の期待インフレ率が大幅に上昇する一方、消費者マインドは大きく低下し、市場の注目を集めました。確報値でも修正の方向や修正幅が、再び市場の関心を集めそうです。 日本では25日(金)に4月東京都区部消費者物価指数が発表されます。消費動向への影響が大きい食料品やエネルギー価格の動向に注目です。 欧州では景気先行指数として注目度の高い、ドイツの4月Ifo企業景況感指数が24日(木)に発表されます。財政拡張政策と米国の関税が相殺し合う格好になっていることから、その結果が注目されます。 (野村證券投資情報部 尾畑 秀一) (注1)イベントは全てを網羅しているわけではない。◆は政治・政策関連、□は経済指標、●はその他イベント(カッコ内は日本時間)。休場・短縮取引は主要な取引所のみ掲載。各種イベントおよび経済指標の市場予想(ブルームバーグ集計に基づく中央値)は2025年4月18日時点の情報に基づくものであり、今後変更される可能性もあるためご留意ください。(注2)画像はイメージです。(出所)各種資料・報道、ブルームバーグ等より野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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04/18 16:41
【野村の夕解説】日経平均株価は底堅い動き 352円高(4/18)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 本日寄り付き前に、日本の3月全国消費者物価指数(CPI)が発表され、生鮮食品を除くコアCPIは前年同月比+3.2%と、概ね市場予想通りでした。足元では市場の間で日銀の追加利上げ期待が後退しており、この発表による市場への影響は限定的でした。本日の日経平均株価は前日比23円安の34,353円で取引を開始し、その後は上昇に転じました。米大手製薬会社が開発を行っている肥満症薬の治験結果において、減量効果と安全性が確認されたとの発表がされました。この報道を受け、同社に開発・販売権を譲渡している中外製薬は、今後同薬が販売されれば売上額に応じた収入を獲得する可能性が高いとの思惑が広がり、株価は一時前日比+18.9%となりました。業種別では、医薬品やバイオ関連銘柄などが上昇し、日経平均株価をけん引しました。そのほか、米政権が半年後に中国籍の船舶から手数料を徴収する方針を発表したことで、日本国内の海運企業にとっては業績の追い風となるとの思惑が広がり、海運株の一角が上昇しました。日経平均株価は後場にかけても底堅く推移し、引けは前日比352円高の34,730円となり、続伸して取引を終えました。東証プライムの売買代金は約3.3兆円と、18日(金)は米国を含む主要な市場が休場となることもあり、薄商いとなりました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注) データは15時45分頃。米ドル/円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。米ドル/円は11:30~12:30の間は表示していない。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 18日(金)はグッドフライデーのため、米国株式市場は休場となります。 (野村證券投資情報部 清水 奎花) ご投資にあたっての注意点