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09/14 15:00
日本産ウイスキーの持続的成長に向けて
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 シニア・アソシエイト 鈴木 拓実 (2024年9月10日) はじめに 日本産ウイスキーは、その品質と風味の独自性から国際的な評価を受け、再び成長期に突入している。近年のデータによると、国内外での需要の増加に伴い、生産量と売上が回復し、さらには新たな蒸溜所の設立が相次いでいる。こうした背景から、日本産ウイスキーは一時のブームにとどまらず、持続的な成長を遂げることが期待される。 しかしながら、急速な市場拡大と競争の激化に対応するためには、戦略的なブランド展開が必須となる。多様な製品が市場に溢れる中、各蒸溜所やブランドが自らの独自性をどのように打ち出し、消費者に訴求するかが鍵となる。本レポートでは、まず日本産ウイスキーの現状を述べ、その後、増加する蒸溜所の現状とブランド戦略について考察する。 なお、本レポートにおけるジャパニーズウイスキーの定義は、2021年に日本洋酒酒造組合が定めたジャパニーズウイスキーの表示に関する以下の基準に準拠する。本レポートでは幅広く日本のウイスキー業界を取り上げるため、ジャパニーズウイスキーの定義外を含んだ日本産ウイスキーを取り上げる。 図表1 ジャパニーズウイスキーの定義 (出所)日本洋酒酒造組合「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」より野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 1.日本産ウイスキーの事業環境 (1) 国内ウイスキー需要の回復 まず、ウイスキーの国内需要について確認してみたい。国内のウイスキー販売(消費)量は、1983年に約37.7万キロリットルでピークを迎え、それ以降は20年以上にわたり、減少傾向が続き、2008年は過去最低の約7.5万キロリットルを記録した。販売量がピークの約5分の1にまで落ち込んだ要因として、バブル経済が崩壊し、長期経済停滞に伴う酒席が減ったことも要因と考えられるが、根本的な問題は日本人のウイスキー離れにあると推測される。実際、酒類全体の販売量を100%とした際に、ウイスキーの販売量は1985年に約5.2%あったが、2008年には約0.9%と1%未満に減少した。背景には、1980年代の焼酎ブームや1994年以降に市場が形成された発泡酒にシェアを奪われたものと考えられる。 下火になりつつあるウイスキー業界であったが、サントリーホールディングス株式会社が手掛ける『響30年』が、インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ(ISC)で2006年から3年連続・4回目の最高賞を受賞するなど、国際的に日本産ウイスキーが高い評価を得るようになった。また、2014年9月からは、ニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝氏をモデルとしたNHKドラマ「マッサン」の放映が、ウイスキー業界全体に追い風となった。2008年をボトムとするウイスキー販売量は、そこから2019年まで断続的に増加し、コロナ禍の一時的な落ち込みもあったが、2022年には18.5万キロリットルにまで回復した。酒類全体に占めるウイスキーの割合も約2.4%にまで戻り、日本のウイスキー需要は回復傾向にある。 図表2 ウイスキーの販売(消費)量と酒類全体に占める割合の推移 (出所)国税庁統計資料より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (2) 輸出が急増する日本産ウイスキー 次に、日本産ウイスキーの輸出量・金額の推移について確認する。国内のウイスキー販売量が最も低迷していた2008年の輸出金額は14.3億円、輸出量は1,038キロリットルであった。その後の輸出量・金額は順調に右肩上がりで増加し、2020年には初めて清酒の輸出金額を超え、翌々年の2022年の輸出金額は約560億円、輸出量は約14,250キロリットルを記録した。2008年からの14年間で、輸出金額は40倍近くまで増加した。ちなみに、牛肉の輸出金額が約520億円(2022年)であることから、日本産ウイスキーは、日本の農水産物・食品輸出品を代表する商品と言っても差支えはないだろう。 図表3 日本産ウイスキーの輸出量・金額推移 (出所)財務省貿易統計より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 更に、筆者が注目する点は、輸出単価の上昇である。2008年の輸出単価は1,376円/リットルあったが、2022年には3,933円/リットルと3倍近くまで上昇している。大躍進を遂げている日本産ウイスキーの輸出は、単純に輸出量だけが増えているだけでなく、輸出単価の上昇も伴っており、量と質の両面からの成長であると言える。 図表4 日本産ウイスキーの輸出単価推移 (出所)財務省貿易統計より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (3) 新規開設が相次ぐウイスキー蒸留所 上述したように、国内の及び海外での日本産ウイスキー販売需要は回復傾向にあり、海外輸出量が飛躍的に伸びている。こうした需要に対応するべく、ウイスキーの酒類等製造免許の新規取得件数は増加傾向にあり、数多くの国内蒸留所が開設している。 2014年の同酒類等製造免許の新規取得件数はわずか2件であったが、2021年には35件、2022年には29件、2023年には29件と大幅に数が増加している。新規取得件数の中には移転、法人なり(社内の一試験研究部署等から新規に法人化した場合等)の他、蒸留所の増設等を理由として管轄税務署の変更、蒸留所の運営会社の名称変更等が含まれるため、増加件数の全てが新規参入者というわけではないが、それを差し引いても大幅に参入者が増加していると推察される。 図表5 酒類等製造免許の新規取得件数(ウイスキー) (出所)国税庁酒類免許取得の公開情報より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 ウイスキーの国内蒸留所は、2024年7月末時点で92カ所確認されている(巻末資料「全国蒸留書一覧」参照。製造免許を取得しているものの、公開情報上、稼働が見受けられないもの等を除く)。2010年に稼働しているウイスキーの国内蒸留所が10カ所程度であったことを考えると、わずか十数年で3桁の大台に近づくまで増加している。なお、Scotch Whisky Association(スコッチウイスキー協会)の調べによると、スコットランドでは151カ所のウイスキー蒸留所が稼働している。日本でも今後、蒸留所の増加とともに地域ごとの特色あるウイスキーが増えることが見込まれ、観光業との相乗効果による地域活性化への寄与も期待される。 2. 日本産ウイスキーの持続的成長に向けて 前述のとおり、日本産ウイスキーは、その高い品質と独自の風味で国内外のウイスキー愛好家から高い評価を受けている。また、数多くの蒸留所が開設され、新規参入者による数多くの商品が上市されはじめた。その一方で、海外における日本産ウイスキーとの間での競争も聞かれるようになった。2020年には韓国初のシングルモルト蒸留所であるスリーソサエティーズが開設される等、今まではウイスキー造りがなされなかった国が新規参入するといったケースが出てきている。急速に成長する日本産ウイスキー業界が今後も持続的な成長を続けていくためには、各蒸留所が独自のブランドを開発・構築し、日本産ウイスキー市場における独自のポジショニング構築に取り組むことが求められる。 ウイスキーの製造には長い熟成期間が必要である。そのため、市場や環境に応じて、商品改訂を臨機応変に実施しながら商品を市場投入していくことは容易ではない。その観点から、他の飲料・食品以上に、ウイスキーは、ブランド開発とポジショニング構築が肝要となる。もちろん、様々なプロセスがあるが、筆者は主に、(1)ブランド・ストーリーテリング、(2)エンゲージメント強化、(3)地域経済との協力の3点の発想が出発点と考えている。以下、簡単に紹介したい。 (1)ブランド・ストーリーテリング ブランドの独自性を確立するためには、まずその歴史や背景、製造方法などを効果的に伝えることが重要であり、消費者は単なる製品だけでなく、その背後にあるストーリーに魅了される。例えば、各地の蒸留所が持つ地域特有の自然環境や伝統的な製造技法、職人の技などを活かし、それを魅力的なストーリーとして発信することで、ブランドの独自性を強化することができる。 例えば、北海道の堅展実業株式会社が手掛ける厚岸蒸溜所の「厚岸ウイスキー」は、その地域性とブランドストーリーを効果的に活用している先進事例である。厚岸蒸留所では、「スコットランドの伝統的な製法で、アイラモルトのようなウイスキーを造りたい」という会社の明確かつシンプルなビジョンをウイスキー造りに取り組んでいる。厚岸町は北海道の東部に位置し、湿潤な気候と寒冷な環境がウイスキーの熟成に理想的であり、スコットランドの気候に似通っているという地域的特性を最大限活かす形でブランドストーリーを構築している。また、外部環境だけでなく、ウイスキーの製造に必要な設備もスコットランドのフォーサイス社製のものを導入しているほか、アイラ島ウイスキー造りと同様に、泥炭層を含む水を仕込み水に使用する手法を取り入れている。こうした明確なブランドストーリーのもと、ひたむきなイスキー造りの姿勢が多くの消費者を魅了している。 また、同社は日本の四季の概念を重視している。四季折々の気候変化がウイスキーの熟成に影響を与え、その結果として豊かな風味と香りが生まれる。この自然のサイクルを大切にし、ウイスキー造りに取り入れることで、同社はこの四季の概念を「二十四節季シリーズ」として製品化し、限定販売している。「二十四節季シリーズ」は、節季ごとに限定された数量でリリースされるため、希少価値が高く、コレクターズアイテムとしても人気を博している。これにより、自社のブランド観を製品に落とし込むだけでなく、ブランド価値の向上にも寄与している (2)エンゲージメント強化 複数の蒸留所が開設され、商品の上市が予想される中で、自社の商品を選び続けてもらうためには、商品の魅力向上だけでなく、様々な施策が必要となる。多くの蒸留所では、すでにカスクオーナー制度(個人やグループがウイスキーの樽を購入し、熟成期間を選びながらウイスキーを所有できる制度)や蒸留所見学・試飲などの施策を取り入れているが、商品の購入難易度を上げた販売手法も効果的である。 例えば、蒸留所見学ツアー対象者のみに販売する蒸留所限定ボトルや、ファンコミュニティサイト登録者限定商品が挙げられる。ニッカウヰスキーの余市蒸留所や宮城峡蒸留所でのみ購入可能な「鶴ウイスキー」は、その一例である。この取り組みは、限定ボトルとしての希少性を提供し、消費者に特別感を演出する。また、蒸留所見学での試飲体験や製造過程の見学を通じて、顧客に普段とは異なる特別な体験を提供するほか、顧客へのエデュケーションの機会を提供する等、複数の顧客の効果を発揮し、結果顧客のエンゲージメント強化が期待される。 (3)地域経済との協力 地域経済との結びつきを強くすることで、プロモーション効果や地元資源の活用等複数の効果が期待される。蒸留所を開設した数年は商品として販売可能な数量に限りが生じるが、地域のバー等に優先的に商品を卸すことによって、その地域の多くの消費者に商品を知ってもらう機会を提供することが可能となる。また、バー側からしても希少性の高い商品を取り扱うことが可能であるほか、地元の製品であればお客様に案内がし易く、プロモーション効果も期待される。また、地域資源の利活用という観点では、地元の食材とウイスキーのマッチングも効果的である。蒸留所単体だけではなく、地域全体の魅力を発信することで、観光ツアーやイベントの開催を通して、国内外の観光客を引き寄せることも可能となる。さらに、場所は限られるが、地元の木材を原料とした樽を使用してウイスキーを熟成させることが出来れば、地域ブランドを補強することも可能である。 おわりに 本レポートでは、ウイスキー業界の足元の数字を確認しながら、日本産ウイスキーのブランド開発・ポジショニングについて論じた。現市況では好調と言って差し支えない環境下であるが、国内外での競争激化が予想さる中でで、持続的な発展を遂げるためには、各蒸留所が独自のブランド開発とポジショニングに取り組む必要がある。ブランド戦略取り組みとして、特に優れていると捉えているのは、筆者も愛飲しているスコットランドのキルホーマン蒸留所である。同蒸留はスコットランドのアイラ島では124年ぶりの2005年に開設された比較的新しい蒸留所である。特徴としては、麦芽の生成に昔ながらのフロアモルティングを採用するほか、大麦農場と蒸留所が併設されたファーム・ディスティラリー(Farm Distillery)体制を敷いており、「アイラ島100%」ウイスキーづくりを目指している。現時点では原材料である大麦の全てを島生産で賄うことはできていないようであるが、将来的には大麦原料の全てを自社生産に切り替えていく予定ではある。この状況下を逆手にとって、「100%アイラ」のシリーズとして限定ボトルを毎年上市している。また、ウイスキー蒸留所の見学ツアーの実施やメンバーシップ登録をすると限定商品を購入できる権利が付与されるといった取り組みも進めている。昔ながらの製法や「アイラ島100%」のウイスキーづくり、各種施策を通して、ウイスキーの質だけでなく特別な体験を提供することで消費者のエンゲージメントを強化している。今後競争が激化すると予想される日本の蒸留所も質を向上することは無論であるが、自社のブランド戦略にも積極的に取り組んで頂き、持続的な成長を遂げることを切に願うものとして、本レポートを締めくくりたい。 巻末資料 全国蒸留所一覧 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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09/14 09:00
【オピニオン】FRBは急ピッチの利下げが必要か?
※画像はイメージです。 9月17-18日にFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催されます。FRB(米連邦準備理事会)が利下げを開始することが見込まれますが、FF(フェデラル・ファンドレート)金先市場では2024年内に約3回の利下げ、2025年内には約6.5回程度の利下げを織り込んでいます(2024年9月10日現在。それぞれ1回当たりの利下げ幅を0.25%ポイントと仮定)。 24年8月22-24日に開催された経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」において、パウエルFRB議長は「労働市場がさらに冷え込むことを求めておらず、歓迎もしていない。力強い労働市場を支えるために全力を尽くす」と述べ、かなり労働市場のソフトランディング(軟着陸)を意識している模様です。一方で「失業率の上昇は現時点では景気後退に伴うものではない」とも述べており、利下げはあくまで引き締めから中立へのパスであり、緩和領域へ踏み込むものではないと推察されます。 9月FOMCでは参加メンバーの政策金利見通しである「ドッツ」が公表されます。前回見通しが公表された6月のFOMCにおけるFF金利の「長期均衡水準」(景気、インフレを加速も減速もさせない中立的水準)は2.75%ですが、3月、及び6月FOMCにおいてわずかではありますが、上方修正されています。今後も上方修正される可能性があると考えられます。全米自動車労働組合(UAW)が23年11月から28年4月までの4年半で25%の賃上げを勝ち取った様に、コロナ禍前の低い賃上げ率・低インフレ時代から転換したととらえるべきでしょう。 一方、米国の24年8月の非農業部門雇用者数が前月比+14.2万人となり、3ヶ月連続で20万人以下の増加ペースへ減速したことを受けて、米国経済への懸念が改めて意識されました。家計調査、事業所調査に加えて、他の雇用関連統計も併せて眺めると、確かに減速はしていますが、そのペースは緩やかであることが確認されます(下図)。 (注)米労働統計局(BLS)は2024年8月21日に23年4月から24年3月までの非農業部門雇用者数の年次改定(速報値)を発表し、雇用者数は81.8万人下方修正された。集計基準の違いを考慮した家計調査ベースの就業者数は毎年1月に公表される人口調整の影響も加味した。データは月次で直近値は2024年8月。 (出所)ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル・インク(NSI)より野村證券投資情報部作成 今は昔ですが、労働経済学の大家である現財務長官、イエレン氏(前FRB議長)が重視した「ダッシュボード」(9つの雇用関連指標)のうち、労働市場のより構造的な側面を表す「広義失業率」を改めて確認すると、雇用は緩やかに調整していることがわかります(下図)。 (注)広義失業率は「就業を希望しており過去1年以内に求職活動をしているが、過去4週間以内には求職活動を行っていない縁辺労働者と、労働力人口の合計が算出する際の分母として用いられているため、対象範囲が広い(分子には完全失業者のみならず縁辺労働者や経済的理由によりフルタイム労働ではなくパートタイム労働を行っている人を含めている)。PCEコア価格指数はエネルギー、食料品を除く。データは月次で直近値は2024年8月(PCEコア価格指数は、同年7月)。 (出所)FRED(Federal Reserve Economic Data)より野村證券投資情報部作成 前述の通り、FF金先市場における利下げ期待によれば、2025年末にFRBの想定する「長期均衡水準」にほぼ到達する想定となっています。後1年余りの期間で、FRBはそこまで利下げをペースアップする必要があるほど、雇用市場が急速に悪化しているようには見えません。ドッツの発表のタイミングに合わせて、四半期毎に0.25%ポイントずつ利下げ、と考えるのが妥当ではないでしょうか。 ご投資にあたっての注意点
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09/14 07:00
【来週の予定】FOMCでは利下げが確実視、日銀は利上げを急がないか
来週の注目点:日米の金融政策、米中の経済指標 今週は日米の金融政策会合が注目されます。9月FOMC(米連邦公開市場委員会)は17日(火)~18日(水)に開催されます。市場では利下げ決定が確実視されており、今後の利下げペースに関心が集まっています。今会合では0.25%ポイントの利下げを見込む向きが優勢ですが、労働市場の軟化を受けて0.50%ポイントの大幅利下げへの期待も依然として残っています。結果次第で相場が大きく変動する可能性があり、注意が必要です。 また、米国では引き締め領域にある金融政策と米大統領選挙の不透明感が米国の景況感を悪化させる要因となっています。16日(月)に9月NY連銀製造業景気指数、17日(火)に8月小売売上高、8月鉱工業生産、18日(水)に8月住宅着工・建設許可件数、19日(木)に9月フィラデルフィア連銀製造業景気指数、8月中古住宅販売件数が発表され、注目が集まります。 日本では19日(木)~20日(金)に日銀金融政策決定会合が開かれます。今会合では金融政策の現状維持が見込まれています。7月会合での利上げの影響と、その後に不安定化した金融市場の動向を見極めるため、日銀は利上げを急がないと見られます。また、18日(水)に7月機械受注、20日(金)に8月全国消費者物価指数が発表されます。 景気減速懸念が続く中国では、14日(土)に8月小売売上高、鉱工業生産、1-8月固定資産投資、不動産投資などの主要月次統計が発表されます。先んじて発表された8月のPMI(購買担当者景気指数)では製造業の低迷、8月の物価統計や貿易統計では内需の弱さを示唆する内容であったことから、8月の主要月次統計では景気の減速が確認される可能性があります。 その他、主要国で金融政策決定会合の開催が相次ぎます。18日(水)にインドネシアとブラジル、19日(木)に英国、トルコ、南アフリカで開催が予定されています。結果次第では各国通貨への影響が見込まれます。 (野村證券投資情報部 坪川 一浩) (注1)イベントは全てを網羅しているわけではない。◆は政治・政策関連、□は経済指標、●はその他イベント(カッコ内は日本時間)。休場・短縮取引は主要な取引所のみ掲載。各種イベントおよび経済指標の市場予想(ブルームバーグ集計に基づく中央値)は2024年9月13日時点の情報に基づくものであり、今後変更される可能性もあるためご留意ください。(注2)画像はイメージです。(出所)各種資料・報道、ブルームバーグ等より野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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09/13 15:44
【野村の夕解説】円高進行が株価を押し下げ、日経平均反落(9/13)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 前日、米国で発表された8月のPPI(生産者物価指数)が市場予想を下回り、インフレの減速傾向が改めて確認されました。FRB(米連邦準備理事会)が9月会合で0.25%の利下げを行うとの観測が継続したことから、株式市場では主要3指数が揃って上昇しました。日経平均株価もその流れを引き継ぎ、寄り付きは前日比49円高の36,882円と上昇して始まったものの、FRBの利下げ観測を受けて外国為替市場で円高米ドル安が進行したことが意識され、寄り付き直後に反落しました。その後、円高進行が一服したことで下げ幅を縮める場面もありましたが、10時ごろから為替市場で再び円高米ドル安が進むにつれて日経平均株価も下げ幅を拡大し、前日比326円安の36,507円で午前の取引を終えました。午後に入っても円高米ドル安が株価を下押しする不安定な相場展開が続きました。13:30に発表された7月鉱工業生産の確報値が、速報値を上回る結果となったことが確認され、一時下げ幅は前日比90円安まで縮小しましたが勢いは続かず、引けにかけて下げ幅を拡げ、前日比251円安の36,581円で本日の取引を終えました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注)データは15時15分頃。ドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 来週は、17日(火)~18日(水)に米国で9月FOMC(米連邦公開市場委員会)が開催されます。会合の結果次第では相場が大きく変動する可能性もあることから、注意が必要です。 (野村證券投資情報部 秋山 渉) ご投資にあたっての注意点
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09/13 12:00
【今週のチャート分析】日経平均株価、ダブルボトムを形成し反発、200日線奪回なるか
※画像はイメージです。 ※2024年9月12日(木)引け後の情報に基づき作成しています。 振れ幅大きい展開続くも、超長期上昇トレンドは継続中 今週は、ドルが対円で約8ヶ月ぶりに一時1ドル=141円台を割り込むなど、円高が進行したことを受け、日経平均株価は一時35,200円台まで下落しました。 チャート面からこれまでの動きを振り返ってみましょう(図1)。日経平均株価は、9月2日に一時39,000円を回復しましたが、米国で景気悪化懸念が再燃して米国株安となったことや、円高・ドル安が進展したことで、大幅に下落し、9月9日には一時35,247円まで値を下げました。 その後、12日に前日比で1,213円の大幅上昇となり、前述の9日安値と11日安値(35,253円)でのダブルボトムが完成しており、この先、まずは、25日移動平均線(9月12日:37,255円)や200日線(同:37,537円)の水準を奪回できるか注目されます。 奪回となれば、8月5日安値に対する二番底を形成した可能性が高まったと捉えられ、75日線(同:38,415円)や9月2日戻り高値(39,080円)を超える動きに繋がってくるとみられます。 一方で、戻りが鈍く、再度調整となる場合は、9月9日安値(35,247円)や、8月以降の上昇幅に対する半値押しの水準(35,118円)が下値メドとして意識されます。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 (注1)直近値は2024年9月12日。 (注2)日柄は両端を含む。(注3)トレンドラインには主観が入っておりますのでご留意ください。(出所)日本経済新聞社より野村證券投資情報部作成 8月に歴史的な下落を演じ、9月に入ってからも不安定な状況となっていますが、2010年代から続く“超長期上昇トレンド”自体は継続中とみられます(図2)。しばらくは、振れ幅の大きい展開が続くとみられますが、徐々に落ち着きを取り戻していくと考えられます。 (注1)直近値は2024年9月12日。 (注2)トレンドラインには主観が入っておりますのでご留意ください。(出所)日本経済新聞社、各種資料より野村證券投資情報部作成 衆議院選挙と株価、解散日から投票日まで株高傾向 岸田首相の任期満了に伴う自民党総裁選が9月12日に告示日を迎え、27日の投開票に向けて本格的な論戦がスタートしました。 過去最多となる9人が立候補しており、結果の読めない混戦模様となっています。ただ、市場では、いずれの候補が新総裁=新首相となったとしても、新政権は今後の政権・党運営等を見据えて、年内にも解散総選挙に踏み切るとの見方が優勢のようです。 過去の衆議院選挙と株式相場動向(図3)をみると、解散日から投票日までの期間に株価が上昇する傾向が見られます(図3A→B)。 戦後東証再開以降、過去25回の衆議院選挙のうち20回で日経平均株価は上昇しています。1990年以降に限れば11回中10回で上昇しており、平均騰落率も+3.3%と前者の+2.2%を上回っています。新政権への期待感や近年は経済対策発表などとセットとなることが多いことが、その背景として挙げられそうです。 一方、投票日から1ヶ月後までの期間(図3B→C)では勝率や騰落率が大きく落ち込みます。とりわけ、1990年以降の期間では顕著に悪化しています。選挙結果次第でその後の相場展開は異なることが多いようです。 近年一段高したケースは、政権交代が実現してアベノミクスへの期待が膨らんだ2012年が挙げられます。2017年のケースは長期安定政権の誕生が評価されたと考えられます。 (注1)投票日が休祭日の場合は前営業日の株価を基準日に採用。(注2)○印・・・衆参同日選挙。△印・・・投票日が5日違いで行われた衆参同時選挙。(出所)日本経済新聞社、その他データより野村證券投資情報部作成 (野村證券投資情報部 岩本 竜太郎) 【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら ご投資にあたっての注意点
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09/13 08:21
【野村の朝解説】米株続伸、ドル円は金融政策待ちで小動き(9/13)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 12日の米国株式市場では、主要3指数が揃って続伸しました。朝方発表された米国の8月卸売物価指数(PPI)は前月比+0.2%と市場予想(+0.1%)を上回りましたが、前年比では+1.7%と市場予想(+1.8%)を下回り、インフレの減速傾向が改めて確認されました。コア指数も同様の結果であったことから、前日発表の8月米消費者物価指数(CPI)の結果と合わせて9月会合でFRBが0.25%ポイントの利下げを実施するとの観測が継続し、相場を押し上げました。また、11日のイベントでCEOがAI関連製品の需要の強さを改めて強調したエヌビディアが上昇した他、前週まで下げが目立ったテクノロジー株が値を戻し、相場をけん引しました。為替市場では金融政策会合を来週に控え、ドル円は1ドル=142円台を中心に小動きとなりました。 相場の注目点 日本株は、足元の米国株の上昇が相場の支えとなる一方で、円高ドル安の進行が相場の上値を抑える可能性があります。今週末から来週に掛けての相場は、日米の金融政策会合の結果発表待ちの展開を見込みます。17日(火)~18日(水)に9月FOMC(米連邦公開市場委員会)、19日(木)~20日(金)に日銀金融政策決定会合が開催されます。来週前半は様子見姿勢が強まり、週後半は各会合の結果次第で相場が大きく動く可能性もあり、注意が必要です。野村證券では、トランプ米大統領選候補の再選可能性の低下、日銀の利上げ姿勢の継続、原油価格の下落などを背景に、為替見通しを9月12日に円高ドル安方向に修正しました。24年末は1ドル=145円(従来は148円)、25年末を1ドル=135円(従来は140円)と予想します。なお、9月10日のテレビ討論会ではハリス米大統領候補が支持を拡げたものの、トランプ候補勝利の可能性は依然として小さくないため、同候補が巻き返した場合には円安ドル高圧力が強まる可能性もあります。 (投資情報部 坪川 一浩) (注)データは日本時間2024年9月13日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 野村オリジナル記事の配信スケジュール ご投資にあたっての注意点
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09/12 16:08
【野村の夕解説】日経平均株価、1,213円高 米ハイテク株高が背景(9/12)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 米国では、8月CPI(消費者物価指数)が発表されました。変動の大きい食品とエネルギーを除くコアCPIの前月比が加速し、市場では9月17-18日に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)での利下げは、0.25%ポイントに留まるとの見方が広がりました。また、米国ハイテク株大手エヌビディアが前日比8.14%高となり、ナスダック総合指数は同2.17%高となりました。外国為替市場では、日本時間8時台に1米ドル=142円50銭前後と前日から円安に推移しました。本日の日経平均株価は前日比565円高の36,185円で始まり、その後上げ幅は一時前日比1,254円となりました。円高の進行に歯止めがかかったことと、米国のハイテク株高を背景に、輸出関連企業や値がさの半導体関連株が上昇をけん引しました。取引時間中に日銀の審議委員の中でもタカ派(景気よりもインフレ重視)の田村委員の利上げに前向きな発言が見られましたが、従来通りのスタンスとして市場への影響は限定的でした。日経平均株価の大引けは高値から若干上げ幅を縮め、前日比1,213円高の36,833円となり8営業日ぶりに上昇し、今年3番目の上げ幅となりました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注)データは15時15分頃。ドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 本日欧州ではECB金融政策会合が予定されており、市場では利下げが確実視されています。 (野村證券投資情報部 清水 奎花) ご投資にあたっての注意点
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09/12 08:20
【野村の朝解説】ナスダック3日続伸、エヌビディアが牽引(9/12)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 11日の米国株式市場でNYダウは反発、S&P500とナスダック総合は3日続伸となりました。朝方発表された米国の8月消費者物価指数(CPI)は前年比2.5%上昇しました。前月の2.9%から鈍化し、インフレの減速傾向が確認されたものの、コア指数(エネルギーと食品を除く)が前月比0.3%上昇と市場予想を上回り、米連邦準備制度理事会(FRB)による大幅利下げ観測が後退しました。発表後は米10年国債利回りが上昇し、円買いドル売りの流れが一服、またNYダウの下げ幅は一時740ドルに達し、4万ドルの節目を割り込む場面もありました。しかし、売り一服後は下げ幅を縮小する展開となり、NYダウはプラス圏を回復して終了しました。ナスダック総合も取引序盤は下落して始まったものの、エヌビディアを中心にIT・ハイテク株が堅調に推移し、大幅高となりました。 本日のイベント 米国ではインフレが鎮静化に向かいつつあるなか景気減速が意識され始めており、市場ではFRBの利下げ幅や利下げペースについての見方が分かれています。野村證券では2024年は9、11、12月と3度の利下げを予想しており、FRBは来週9月17-18日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で25bpの利下げを決める公算が高いとみていますが、今週13日には9月ミシガン大学消費者調査の期待インフレ率の発表が予定され、インフレ見通しや利下げを巡る思惑が変化するのか注目されます。 相場の注目点 日本では本日、田村日銀審議委員の講演のほか、自民党総裁選告示と各候補者による所見発表演説が予定されています。また、欧州ではECB金融政策会合が予定され、市場では追加利下げがほぼ確実視されています。 (投資情報部 引網 喬子) (注)データは日本時間2024年9月12日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 野村オリジナル記事の配信スケジュール ご投資にあたっての注意点
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09/11 16:09
【野村の夕解説】日経平均株価539円安 円高進行が重石 (9/11)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 本日の日経平均株価は129円安の36,029円で寄り付き、その後徐々に下げ幅を拡大させました。日本時間10時からは米国大統領選挙に向け、民主党のハリス副大統領と共和党のトランプ前大統領が初めて顔を合わせるテレビ討論会が行われました。討論会終了後、米国の一部報道機関が行った緊急世論調査により、ハリス氏のパフォーマンスが優勢であったとの回答が6割を超えたと伝わりました。米国の法人税率の引き下げなどを公約に掲げるトランプ氏が劣勢になれば、株式市場にとって短期的には逆風になるとの見方が強まりました。また、日銀の中川審議委員が金融経済懇談会で挨拶を行い、経済・物価見通しが実現していくのであれば「緩和度合いを調整していくことになる」との見解を示しました。日本の金利の先高観が強まり、外国為替市場では円が急伸し、14時台には一時1米ドル=140円70銭台をつけました。円高の進行と足並みをそろえ輸出関連の株式が下落し、日経平均株価は一時前日比906円安となりました。その後、下げ幅は縮小したものの大引けは前日比539円安の35,619円となり、7営業日連続の下げとなりました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注)データは15時15分頃。ドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 本日、米国では8月米CPI(消費者物価指数)が発表されます。統計の結果を受けて、FRBの金融政策に対する市場の利下げ期待の変化やその反応が注目されます。 (野村證券投資情報部 清水 奎花) ご投資にあたっての注意点