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07/14 12:00
【野村の視点】業種別とPBRでみる外国人投資家動向
(注)画像はイメージ。 日本株の外国人保有比率は、日本の人口減少とそれによる潜在GDPのマイナス成長を反映 東証33業種の外国人保有比率は、精密機器、電気機器、医薬品、機械、化学といった、製品がグローバルで販売される外需株の比率が高く、外国人保有制限のある空運業や、内需株である水産・農林業、倉庫・運輸関連業、陸運業、小売業などの比率が低くなっています。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 (注)業種は東証33業種で、外国法人等保有比率の高い順。外国法人等保有比率は2023年度。年度は4月から翌年3月。PBR(株価÷1株当たり純資産)は、株価は2024年6月末時点、1株当たり純資産は2023年度の実績値より試算。赤色の網掛けはPBR1倍割れの業種。(出所)日本取引所グループより野村證券投資情報部作成 また、PBR(株価純資産倍率)が低い、つまり株価が割安な企業は、内需株に多くなっています。日本のGDP成長率が、人口減少により将来マイナスになる、つまり国内経済の縮小が見込まれているためと推察されます。 (注)潜在GDP成長率を、労働力、資本、生産性(全要素生産性=労働力と資本以外の要因)の成長率で説明(但し、要素の成長率の合計は潜在GDP成長率と必ずしも一致しない)。2024年以降は予想で、実績・予想ともブルームバーグによる推計値。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 インバウンドや東証要請などを追い風にできる内需株は見直されつつある 訪日外国人の消費(インバウンド消費)や海外消費者への販売、外国人労働者の受け入れを政府支援などを活用して強化し、業績を成長させることができる企業は、内外投資家の評価が改善する可能性があると考えられます。空運や陸運、小売などのインバウンド関連の内需株の外国人投資家の保有比率は2022年度から2023年度にかけて増加しました。 また、2023年3月の東証による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を、日本企業が実施することに対する期待も外国人保有比率の増加につながったと考えられます。 今後も継続的にグローバルで評価されるような日本企業の施策が注目されます。 (野村證券投資情報部 竹綱 宏行) ご投資にあたっての注意点
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07/14 09:00
【注目トピック】米国株が決算シーズン突入、増益率の拡大が予想される
※画像はイメージです。 増益率拡大傾向に変わりはないかに注目 4-6月期は前年同期比+8.8%予想 7月中旬から、S&P 500 指数構成企業の2024年4-6月期の決算発表が本格化します。2024年7月5日時点の調査会社LSEG集計による市場予想平均では、同期の四半期EPS(1株当たり利益)は、前年同期比+8.8%と予想されています。2024年1-3月期の同+6.6%と比べ、増益率が拡大する見込みとなっています。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 2024年1-3月期は、同期の決算発表が本格化する直前の2024年4月5日時点の集計では同+3.5%と予想されていました。しかし、決算実績が事前のアナリスト予想平均を上回るポジティブサプライズの比率が高かったことで、実際には前述の通り同+6.6%まで拡大しました。同様の傾向が続けば、2024年4-6月期も、現時点での予想よりは高い増益率となる可能性が考えられます。 アナリスト達は慎重に見直している模様 リビジョンインデックスの動向をみると、2024年7月3日時点では、FY1(予想1期目)は0.98、FY2は0.88となっています。 2024年4-6月期の決算発表を前に、アナリスト達は業績予想を慎重に見直しているとみられます。 決算発表時の注目点 年度ベースでのEPSについてみると、2024年は前年比+10.1%と、2023年の同+1.5%から増益率が拡大すると予想されています。さらに、2025年、2026年と前年比二桁増益が予想されています。 米国には情報技術分野で世界をリードしている企業が多数あることから、AIの普及などに伴い、情報技術関連企業主導により企業業績が拡大していくことへの期待が織り込まれていると推察されます。 今後、2024年4-6月期決算の発表が本格化した際には、足元の業績動向に加え、情報技術関連企業については、AI普及による業績拡大傾向に変わりがないかを確認していきたいと考えます。 一方、景気敏感業種については、会社業績見通しや経営陣コメントなどから、企業業績動向に加え、米国の景気動向への示唆が得られないか等を見ていきたいと考えます。 (野村證券投資情報部 村山 誠) ご投資にあたっての注意点
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07/13 19:00
【来週の米国株】「バイデン降ろし」は”降りる”理由になるか?(7/13)
※執筆時点 日本時間12日(金)12:00 今週:CPI減速でリバーサル ※7月5日(金)-7月11日(木)4営業日の騰落 今週の米国株式市場は、週前半にS&P500やナスダック総合が連日史上最高値を更新していましたが、11日(木)の6月CPI(消費者物価指数)の発表をきっかけにリバーサル的な動き(S&P500やナスダック総合は反落、NYダウや中小型指数であるラッセル2000が反発、本邦政策当局の円買い為替介入が加わった模様で円高ドル安)となりました。6月CPIは前月比-0.1%と市場予想(同+0.1%)や5月実績(前月比横ばい)を下回りました。ガソリン価格が同3.8%下落したほか、航空運賃や中古車価格も下落しました。 「バイデン降ろし」の声、高まる 米国では6月27日の大統領候補者討論会以降、民主党内でバイデン大統領に対して大統領候補から辞退することを求める声が高まっています。PedeictItの調査では当選確率はトランプ氏59%、ハリス氏29%、バイデン氏17%となっています(日本時間12日(金)7:51)。同調査で民主党の大統領候補となる確率はハリス氏が55%、バイデン氏が32%と既に逆転しています。バイデン大統領自身は撤退する意思がないことを繰り返し表明していますが、民主党の重鎮がバイデン大統領支持を明示しなかったこと等が報じられ、市場の憶測を呼んでいます。 猶予はあと3週間か 民主党の全国大会は、8月19~22日に予定され、1ヶ月先に近づいています。本来は、民主党予備選挙で選ばれた各州の代議員(どの候補に投票するか事前に誓約している)が、全国大会で投票を行い、正副大統領を選出する仕組みです。しかし、オハイオ州では、投票用紙に記載するために、8月7日までに各党の大統領候補を申請する必要があるため、全国大会の前、オハイオ州の申請期限前にオンラインで投票を行い、正副大統領を選出することが民主党内で検討されています。このため、バイデン大統領が戦い続けるのか、あるいは撤退して他の候補を選出するのかを決める時間的猶予は3週間程度と考えられます。 「もしトラ」リスクとの向き合い方は 市場ではバイデン大統領が撤退すると共和党(トランプ氏)が勝利する確率が上がると考えられており、「もしトラ(もしもトランプ氏が大統領になったら)」リスクが注目されます。トランプ氏が大統領となる場合のリスクを考えると、景気好調となっても減税や移民規制の強化などの政策を採用してインフレが再燃するのではとの懸念があります。金利が再上昇し株価全体の重石になるほか、政策の影響を受けやすい業種・企業にとっては意思決定や設備投資の一部が後ずれしうることも懸念材料です。 一方で、過去2回の大統領選挙に限ってみれば、株式投資のパフォーマンスを上げるチャンスでした。 過去はどちらの党の大統領誕生でも選挙後に争点の業種が上昇 (注)棒グラフの色は、当選した大統領の政党のイメージカラー(共和党は赤、民主党は青)。すべての業種・指数を網羅しているわけではない。大統領選挙日は、2016年11月8日と2020年11月3日。(出所)LSEG(旧リフィニティブ)より野村證券投資情報部作成 S&P500は、大統領選挙から年末までに、共和党のトランプ氏が勝利した2016年は5%、民主党のバイデン大統領が勝利した2020年は11%上昇しました(S&P500の2016年/2020年の年初から大統領選挙前日までの騰落率はそれぞれ+4%、+2%)。 業種別では、エネルギーと金融は規制強化を主張する民主党と、規制緩和を主張する共和党で政策が分かれますが、2016年と2020年の大統領選挙後は、勝利した政党と関係なく、 S&P500を上回る上昇率となりました。さらに、米国の中小型株指数のラッセル2000や、日経平均も両年とも大統領選挙後に上昇しました。 民主党政権になった際に規制が強化される、また、トランプ氏が当選した際に政策の不確実性が高い、と考えて選挙前に投資を手控えた投資家が、選挙後に投資を復活させたためと考えられます。 今回の大統領選挙の前後で、株価の動向がどうなるか不透明感は強いですが、継続して投資することが中長期的な投資の観点では重要と考えられます。 来週①:FOMC前の高官発言に注目 今週も15日(月)のパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長のインタビューを始め、多くのFRB高官の講演等が予定されています。7月30-31日に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)を前にFRB高官は20日(土)から沈黙期間に入ることから、発言内容への関心は高いとみられます。6月FOMC(米連邦公開市場委員会)では24年中は1回の利下げ見通しがFOMCメンバーの中央値となりましたが、議長、副議長やNY連銀総裁など執行部メンバーの多くは年内2回の利下げを予想していると見られることから、1回以下の利下げを予想したと想定されるFOMC委員の発言に変化がないかが注目されます。 今週発表される米国の経済指標では15日(月)の7月NY連銀製造業景気指数、16日(火)の6月小売売上高、17日(水)の6月住宅着工・建設許可件数、6月鉱工業生産、18日(木)の7月フィラデルフィア連銀製造業景気指数が注目度の高い統計です。 来週②:4-6月期決算発表が本格化 米主要企業の2024年4-6月期の決算発表が本格化します。決算実績に加え、会社業績予想や経営陣コメントなどから、米国を始めとしたグローバル経済への示唆を確認していきたいと考えます。各業界を見るうえで注目される企業として、16日(火)のユナイテッドヘルス、17日(水)のジョンソン・エンド・ジョンソン、18日(木)のネットフリックスが挙げられます。 (編集:野村證券投資情報部 小野崎 通昭) ご投資にあたっての注意点 要約編集元アナリストレポートについて 野村オリジナル記事の配信スケジュール
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07/13 17:00
カーボンファーミングの将来性と課題
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 ヴァイス・プレジデント 石井 佑基 (2024年7月5日) はじめに 砂漠や氷河を除く地球上の陸地の46%が農業及び放牧等の畜産に利用されている。温室効果ガスに注目すると、農業及びその他土地利用 によって発生する温室効果ガスは全排出量の24%に及ぶ。更に、有史以来、農業によって排出された温室効果ガスは化石燃料の燃焼によって排出された温室効果ガスの総量の約2倍である。 図表1 地球上の陸地(砂漠・氷河除く)の利用割合の変化 (出所)「History Database of global Environment」、FAO STAT の図に一部筆者加筆修正 近年、農業によって排出された二酸化炭素を再び農地に戻す「カーボンファーミング」が再生農業と共に注目されている。本稿ではその取り組みと日本での可能性について言及する。 1. 炭素貯留の基本的な考え方とカーボンファーミング (1) 炭素貯留の基本的な考え方 炭素は有機炭素と二酸化炭素、炭酸塩など、さまざまに形を変えながら地球を循環している。化石燃料は地下に固定された太古の二酸化炭素由来の有機物で、これを使えば大気中に二酸化炭素が放出され、樹木が生長すれば二酸化炭素は有機物として固定される。ストックで見れば 大気中7,500億トン、陸上植生5,000億トン、土壌1兆5,000億トン、海洋38兆トンであり、地上では最大の炭素貯留源が土壌である。炭素固定というともっとも一般的なのは森林育成による炭素固定だが、ほかにも土壌炭素固定(不耕起栽培、バイオ炭、これらをまとめてカーボンファーミングと呼ぶ)や海洋炭素固定(ブルーカーボン:海洋のマングローブ林や海草藻場、干潟の再生などで炭素を固定する手法、または創出されたカーボンクレジット)が存在する。農業は耕耘などによって土壌の炭素を二酸化炭素に変え、化学肥料の投入によって特定の微生物が増加することで炭素の分解が促進される。これを炭素循環という。 土壌炭素固定(土壌への炭素貯留)は、2015年のパリ協定では4‰イニシアチブ(‰:パーミル、100万分の1)として、フランス政府主導で開始された。土壌炭素量を4‰増加させれば大気中の二酸化炭素濃度上昇を止められるというものである。 農業が耕耘によって放出した二酸化炭素は4,500億トンと言われており、耕耘を控えたり、全く行わない不耕起農業などによって炭素の分解を抑制し、土壌中に炭素を戻すのが基本的な考え方である。その他にも、大量の炭素が固定されている泥炭湿地の保全や、下草を意図的に育成させるカバークロップ、牧草地の休耕による炭素固定量の増加などの方法がある。仮に耕耘によって発生した二酸化炭素4,500億トンの半分を土壌に貯留した場合は産業革命によって生じた温室効果ガスを吸収することが可能となる。 いずれの方法でも農業生産性は低下する場合が多いので、固定した二酸化炭素を炭素クレジットとして販売して収益の低下を抑制するための方法論が開発されている。 カーボンファーミングは土壌に炭素を貯留する技術だが、ネットゼロだけでは気候変動を止めることはできない。二酸化炭素は非常に安定した物質であり、数百年間大気中に存在し続ける。したがって、気候変動を止めるにはすでに排出した二酸化炭素を再び固定して大気から除去する必要がある。再生可能エネルギーの利用など、排出を削減するだけでは気候変動対策として不十分であり、森林育成による炭素固定や土壌炭素固定(カーボンファーミング)、海洋炭素固定(ブルーカーボン)など、高い貯留力を持つ自然環境に炭素を隔離する必要がある。 (2) 主なカーボンファーミングの方法論 土壌の炭素貯留方法は大きく4つある(図表2)。世界の農業生産の中心地である北米で広く取り入れられているカバークロップ(緑肥)の利用と不耕起・低耕起栽培、日本でJ-クレジット認証に取り入れられているバイオ炭の活用、牧草地における草地管理の適切化である。それぞれにメリットとデメリットがある。特に大きな課題はカバークロップ、不耕起・低耕起栽培、草地管理に共通する「正確な測定と炭素固定量の算出」となっている。 カバークロップは生長が早い作物を意図的に農地に育成させ、その残渣によって炭素を土壌に固定する方法である。コストが追加的に発生する手法であるものの、簡単なため、広大な農地を有する欧米では有効な方法と言える。カバークロップには日本では緑肥として使われるマメ科の作物や、ソルガムなどの高生長作物が使われることが多い。窒素肥料を減らすことで、二酸化炭素よりも高い温室効果を持つ一酸化二窒素の削減も期待できる方法である。表作の穀物(ダイズ、コムギ、トウモロコシなど)を収穫後に作付けできるカバークロップを使って生産性を下げずに行う事も可能である。 図表2 カーボンファーミングの主要手法 (出所)各種資料を基に野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 図表3のような大陸型の広大な農地での穀物生産の場合、不耕起栽培も使いやすい方法と言える。2020年にはブラジルの穀物生産面積の約54%に相当する3,600万haで不耕起栽培が行われていることをブラジル直播連盟が発表している。不耕起・低耕起栽培による環境負荷の軽減と農薬使用量の削減に最も貢献したのは遺伝子組換え作物である。 1996年から2020年までの25年間の遺伝子組換え作物の導入効果を研究したグラハム・ブルックス博士とピーター・バーフット博士の論文1では、遺伝子組換え作物によって全世界で農薬使用量の17.3%が、また不耕起栽培によって二酸化炭素排出量(2020年)の2,343万トンが、それぞれ削減できたと報告されている。この削減量は約1,568万台のガソリン車の年間二酸化炭素排出量に匹敵し、環境負荷の軽減に大きく貢献している。 図表3 不耕起・低耕起農法が一般的なアメリカの農地(大規模単一作) (出所)Getty Images 不耕起・低耕起栽培が拡大した背景は、技術的には遺伝子組換え作物による収量増加と不耕起や低耕起を可能とする高生産性が挙げられる。そういう意味では、土壌の再生と気候変動の緩和に遺伝子組換え作物が与えた影響は大きく、環境負荷が少ない農業と言える。もちろん、高生産性を実現したために得られた効果であり、環境負荷軽減だけではカーボンファーミングが拡大することは難しいと考えている。 バイオ炭は日本のスタートアップであるTOWING(愛知)などが手掛けており、今後の成長が期待されている。バイオ炭は土壌の2%程度しか混入できないことやコストなどの問題点があったが、同社は微生物技術を応用して2%以上の混入率と収量を下げずにバイオ炭を利用することができるうえ、認証機関へのカーボンクレジット申請の代行なども行っている。TOWINGは微生物を付加したバイオ炭を「宙炭(そらたん)」という商標で販売している。更に、「宙炭」は単体でも栽培が可能で、施設園芸分野への応用も可能という点が大きな差別化ポイントである。バイオ炭と有用微生物を組み合わせた人工土壌によるカーボンファーミングは日本独自の技術だが、収量の低下を回避して多くの土壌炭素を固定でき、炭素固定に重要な役割を果たすのではないかと期待されている。その一方で、生産過程でのGHG定量と、圃場への投入量の把握が容易なバイオ炭を除けば、カーボンファーミングは土壌分析が必要であるため、炭素貯留量モニタリングが難しいという欠点もある。土壌の炭素量を低コストで正確に測定するのは難しく、技術開発の余地が残る。海外では中性子線や赤外線を使った測定システムが実用化されているが、これらは大規模な耕作地に特化したシステムであり、日本での利用は難しいだろう。 図表4 TOWINGのバイオ炭「宙炭」 (出所)TOWING (3) 主なカーボンファーミングの実績と適地 カーボンファーミングはどの手法も1haあたりの炭素固定量が2~5トン程度ととても少ないため、広大な農地を抱える南北アメリカ大陸、豪州、中国、欧州等が適地となっている。アメリカのユニコーン企業であるIndigo Agは不耕起栽培によるカーボンファーミング手法である「Indigo Carbon®」を展開しているが、これは1経営体当たりの耕作面積が大きい北米であるからこそ可能な手法である。この点はカバークロップや草地管理でも共通している。近年これらで大規模なプロジェクトが多数VCS(Verified Carbon Standard)登録されているが、中国や南米の放牧地など、いずれも数百~数千万ha規模の大型プロジェクトである。 土壌炭素貯留の基本的な考え方は耕起を減らすことによって土壌の炭素分解を抑制することであり、管理負荷軽減に繋がる。ただし、穀物は別として野菜の場合は収量の低下などの負の影響も大きく、生産者のコスト負担が増加するリスクも有している。日本で現実的な方法は不耕起栽培やカバークロップというよりもバイオ炭の施用だろう。例外として、農地が大規模な北海道の場合は不耕起栽培やカバークロップ、草地管理手法を検討する余地がある。 2.グローバル・テック企業が注目するカーボンファーミング (1) グローバル・テック企業が注目する理由と取り組み例 グローバル・テック企業は現在、AIとクラウドコンピューティングの拡大で成長を続けているが、解決しなければならない課題も抱えている。それは増加し続けるデータセンターの電力需要である。このまま電力消費が拡大を続けると再生可能エネルギーだけで賄う事は難しくなることが予想されており、グローバル・テック系企業にとって脱炭素は大きな課題である。そこで、グローバル・テック系企業が注目しているのが膨大な炭素吸収キャパシティを持つ土壌への炭素貯留である。既にMicrosoftとGoogleは炭素固定プロジェクトに多くの資金を拠出しており、その中の重要な方法論がカーボンファーミングによる炭素固定となっている。カーボンファーミングによるカーボンクレジットはその供給に制約が起きない限り、AI需要の拡大に伴い成長を続けていくと予想する。 Microsoftは2024年に世界最大のバイオ炭事業者Exomad Green(ボリビア)との間で3.2万トンのバイオ炭によるカーボンクレジットの売買契約を結んだと発表した。同クレジットはボリビアで森林残渣を使って算出されるプロジェクトであるが、Microsoftは更に、農場管理手法の改善プロジェクトで10万トン、草地管理手法の改善で9.3万トンなど、大型プロジェクトに次々と投資している。 Appleは2021年にゴールドマンサックスと共に立ち上げたRestore Fundに追加投資も含めて4億ドルの拠出を決めている。同プロジェクトはブルーカーボン、森林再生等がメインとなっているが、草地再生などのプロジェクトも含む大型のものとなっている。 (2) 市場規模予測と有望地域 カーボンクレジットには国が主導する規制クレジット市場と、民間主導のボランタリークレジット市場がある。足元ではボランタリークレジットが主体となっており、20億ドル市場と言われているが、筆者は2040年には1兆ドル程度に拡大すると予想している。 主なドライブは電動化が難しい航空業界、及び拡大を続けるAI産業が必要とするデータセンターの電力需要である。航空業界だけで、2021年から2030年までの間に25億トンのカーボンクレジット需要が試算されている。特にテック系企業はカーボンネガティブを掲げ、積極的な炭素固定プロジェクト支援を行っている。また、AI産業が成長していく限り、カーボンクレジットの市場も堅調に推移することが見込まれる。土壌炭素貯留はキャパシティが4,700億トンであり、最大5トン/ha程度の固定が可能であるため、年間20億トンのカーボンクレジット創出も可能であり、10ドル/トンの単価で20億ドルの市場規模が2040年段階で予想される。 このような背景があり、カーボンクレジット関連のスタートアップはアメリカの存在感が大きい。前述のIndigo Agだけでなく、営農プラットフォーマーのFarmers Business Networkも自社のプラットフォームを活用して農業生産者がカーボンクレジットを創出・販売できるサービスを2021年にローンチしている。資金調達額でも企業規模でも現在はIndigo AgとFarmers Business Networkが圧倒的に大きいが、他は資金調達額が1億ドルよりも少ない企業が多く、創業10年以内の企業が多いのも特徴である。カーボンファーミング関連スタートアップは現在が黎明期と言える。 アメリカのスタートアップであるNori、ドイツのスタートアップであるKlimなど、ブロックチェーン技術と再生農業を組み合わせる例も出てきている。この2社はマーケットプレイス(私設取引所)も手掛けている。マーケットプレイスを運営するか、VCSや規制市場を利用するかは戦略が分かれているが、この分野も黎明期と言えよう。 3.日本における取組の可能性 (1) 日本の事情に適したカーボンファーミングの戦略仮説 日本はカーボンファーミングには不利である。主な理由として、1経営体当たりの農地面積が小さいこと、カーボンファーミングのターゲットとなる畑作地では野菜中心の畑作で不耕起栽培が難しいことなどが挙げられる。 現状、日本の農地事情に最も適しているカーボンファーミングの手法は微生物などと組み合わせて高機能化したバイオ炭である。一例として前述の「宙炭」があるが、今後、このような微生物付与バイオ炭の商品数は増加していくだろう。なぜなら、通常施用量に限界があるバイオ炭の欠点を克服し、農地に大量に漉き込むことが可能である。課題はバイオ炭の施用コストであるが、現状で先行しているTOWINGでは、バイオ炭(宙炭)を使って生産した野菜を、カーボンインセット方式2による「ネットゼロ野菜」として高付加価値化して販売するなどの戦略がとられている。 しかしながら、バイオ炭のコストは高く、利用は高価格帯の野菜(有機栽培など)に限られるだろう。しかし、それでも将来的にコスト削減が大きく進んだ場合はより広く普及する可能性もある。また、海外でも野菜などの高単価農作物向けを中心に利用が進んでいくと予想する。 東南アジア(特にインド)でも、日本のスタートアップのサグリ(兵庫)が、リモートセンシングや土壌分析を組み合わせた方法で化学肥料の削減によるGHG(一酸化二窒素)の削減を目的としたカーボンクレジットの登録に入っているほか、土壌炭素のモニタリングも実装している。化学肥料(窒素肥料)の過剰施用は世界的に問題になっている。ただ、過去に施用した化学肥料が土壌に残留することもあり、土壌分析の結果、減化学肥料が可能な場合もある。この方法は検査費用をカーボンクレジットでオフセットできれば、大規模経営体では普及の可能性があるだろう。 カーボンファーミングではないが、水田の中干期間の延長(水稲の中干し:水稲栽培の水管理作業で、一時的に水田から水を抜いて干すこと)による水田のメタン削減は、三菱商事などによって日本で既に大規模プロジェクトの登録が開始されている。水田の中干期間延長によるメタン削減は、カーボンファーミングに類似した脱炭素方法として拡大を図る可能性を秘めている。 人工的に雑草などを排除する慣行農法ではなく、多様なカバークロップを併用して自然環境の再生も同時に行う再生農法なども、土壌炭素貯留固定は相性がよいために注目されている。ただし、再生農法は生態系保全や土壌炭素貯留固定などの効果があるものの、それによってブランド化することは一部の製品(ワインなど)以外は難しい。メルシャンのワイナリーでは下草を効果的に利用した再生農法栽培で「ネイチャーポジティブ(自然生態系の損失を食い止め、回復させていくこと)」を実現している。生産性の低下を招きやすい再生農法だが、ワインなどの高い付加価値があり、ネイチャーポジティブがブランド化しやすい作物では、再生農法を検討する価値があると考えられる。 (2) カーボンファーミング及び農地関連脱炭素クレジットの国内推計市場規模 バイオ炭の施用量は最大5トン/年・ha程度であり、日本の畑作地198万haの1割に普及した場合、約99万トンの固定量となり、市場規模はおよそ100億円と推計できる。日本の場合は耕作地が少ないことで市場規模は小さめとなる。しかしながら、化学肥料の削減や有機農業の拡大(宙炭を使った場合)など、副次的な効果も期待できる。そうした意味で、日本の市場はグローバルの市場規模との比較では小さいものの、注目する価値はあるだろう。 水田中干では、日本国内で最大358万トン程度(水田からのメタン削減量の3割程度、二酸化炭素換算)のメタンが削減できるため、日本の水田の約2割に普及した場合、80億円程度のクレジット創出が推計される。日本の広大な水田を抱える東南アジアへの展開の可能性も秘めており、日本にとって大きなビジネスチャンスがあると言えるだろう。 おわりに 日本の畑作地は197万3,000haと非常に小さい。しかも、日本の畑作地は年間数回にわたって異なる作物を作付ける野菜作が中心であり、年一回大面積に穀物を作付けする欧米の農業と比べると日本の農地は特殊である。広大な農地での穀物生産を前提とした不耕起栽培、カバークロップ、牧草地管理は不向きである。しかしながら、バイオ炭の施用に関しては日本が得意とする微生物学の蓄積もあり、可能性を秘めている。また、バイオ炭の施用は海外展開の可能性も有している。 また、カーボンファーミングではないが、全耕作地の約54%を占める水田の中干によるメタン削減や、耕作地での化学肥料の削減など、日本が先行している分野も多い。このように、日本の実情に即した独自のカーボンファーミングや農地関連脱炭素技術を探求できる可能性が、我が国には残されている。 現在はまだ高コストではあるものの、今後の日本の脱炭素化だけではなく、東南アジアなどへの展開を通じて国際協力にも貢献できる分野であり、日本としても注力していく価値がある分野だろう。東南アジアでのカーボンファーミングや水田のメタン削減を通じて、日本は脱炭素化、ビジネス化、国際貢献の一石三鳥を狙う事を考えていくことが重要である。 1 「GM crops: global socio-economic and environmental impacts 1996-2020」 https://pgeconomics.co.uk/pdf/Globalimpactbiotechcropsfinalreportoctober2022.pdf 2.カーボンインセット方式:サプライチェーン上で排出量を相殺してネットゼロにする方法 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 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07/13 09:00
【マーケット解説動画】日経平均、7月12日の大幅安を受けて(7月12日引け後収録)
テクニカル展望(7月12日引け後収録) 今週の「テクニカル展望」動画では、弊社の岩本ストラテジストが 、チャート分析の観点から、今後の展望や注目点について15分ほどで解説しています。今後の投資の参考にご覧ください。 今週の収録内容 「日経平均、7月12日の大幅安を受けて」 1.1週間の振り返り2.日経平均株価:日足3.ドル円相場:日足・週足4.来週の注目イベント (解説)野村證券投資情報部ストラテジスト 岩本 竜太郎 ※動画の終盤に言及している、「アンケート」については、NOMURAアプリではご回答いただけません。ご了承ください。 ご投資にあたっての注意点
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07/13 07:00
【来週の予定】バイデン氏撤退論の行方は?共和党は副大統領候補に注目
来週の注目点:FRB高官発言、中国の重要統計とECBの政策理事会 米国では6月27日の大統領候補者討論会以降、民主党内でバイデン大統領に対して大統領候補から辞退することを求める声が高まっています。一方、共和党は7月15日(月)~18日(木)にミルウォーキーで全国大会を開催し、トランプ氏を正式に同党の大統領候補に指名します。市場の関心は副大統領候補に集まっています。 今週も15日(月)のパウエルFRB議長のインタビューを始め、多くのFRB高官の講演等が予定されています。6月FOMC(米連邦公開市場委員会)では24年中は1回の利下げ見通しが中央値となりましたが、議長、副議長やNY連銀総裁など執行部メンバーの多くは年内2回の利下げを予想していると見られることから、1回以下の利下げを予想したと想定されるFOMC委員の発言に変化がないかが注目されます。 今週発表される米国の経済指標では15日(月)の7月NY連銀製造業景気指数、16日(火)の6月小売売上高、17日(水)の6月住宅着工・建設許可件数、6月鉱工業生産、18日(木)の7月フィラデルフィア連銀製造業景気指数が注目度の高い統計です。 中国では15日(月)~18日(木)に中長期の政策を議論する三中全会が開催されます。また、同15日には4-6月期実質GDP成長率を筆頭に、6月小売売上高、鉱工業生産、1-6月固定資産投資と重要度の高い統計が発表されます。消費の行方に加え、不動産市況に好転の兆しが確認できるかが注目点です。 ECB(欧州中央銀行)は18日(木)に政策理事会を開催します。金融政策は据え置きが予想されます。ラガルド総裁は追加利下げに慎重な姿勢を示しており、データ次第との見解を強調することが予想されます。 日本では17日(水)の6月訪日外国人客数、19日(金)の6月全国消費者物価指数が注目度の高い統計です。 (野村證券投資情報部 尾畑 秀一) (注1)イベントは全てを網羅しているわけではない。◆は政治・政策関連、□は経済指標、●はその他イベント(カッコ内は日本時間)。休場・短縮取引は主要な取引所のみ掲載。各種イベントおよび経済指標の市場予想(ブルームバーグ集計に基づく中央値)は2024年7月12日時点の情報に基づくものであり、今後変更される可能性もあるためご留意ください。(注2)画像はイメージです。(出所)各種資料・報道、ブルームバーグ等より野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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07/12 19:00
【特集】野村證券・池田雄之輔「日経平均株価一時42,000円超えの背景にある3つの理由」
文/斎藤 健二(金融・Fintechジャーナリスト) 2024年7月初旬、日本株は大きく上昇し、連日のように最高値を更新する相場となりました。7月4日にはTOPIX(東証株価指数)が史上最高値を更新し、7月11日には日経平均株価が終値で42,224円となり、初めて42,000円台を突破しました。ただし、7月12日には反落し、日経平均株価が1,000円超の値下がりになるなど、上下動が激しくなっています。 日経平均株価は2024年2月に34年ぶりの最高値を更新したものの、4月から6月にかけて足踏みしてきました。再び上昇した背景には何があるのでしょうか。野村證券市場戦略リサーチ部長の池田雄之輔が解説します。 2024年に入ってから、日本株の動きはダイナミックでした。年初に日経平均株価は33,000円からスタートし、41,000円まで一気に上がりました。その後は上がった分の半分ほど下げて37,000円台まで下落しましたが、また上昇し、7月11日終値では42,000円を超えるまでに回復しました。 このような急激な上昇を見ると、「高すぎる、今のうちに売却したほうがいいんじゃないか」「株価が高くて今さら投資を始められない」という“高所恐怖症”になる方もいるかもしれません。しかしこれは一過性の強さではなく、日本経済の構造的な変化の反映だと考えています。 日経平均上昇の背景にある3つの要素 日本株の急上昇の背景には、3つの重要な要素があると考えます。1つ目はデフレ脱却、2つ目は脱中国の動き、そして3つ目がコーポレートガバナンスの改革です。 1つ目のデフレ脱却は、日本株が昨年来これだけ強くなってきている最大の理由だと考えています。日本経済は90年代以降、長くデフレに苦しんできました。バブル崩壊後、経済は縮小均衡にあり、企業が値上げに踏み切れない世界を長く経験してきたのです。それが今、30年ぶりにデフレ脱却に向かっています。 2つ目は、グローバルな投資家が中国からお金を逃がそうとしている、「脱中国」とも呼べる出来事です。世界の投資家の間で、中国がデフレに突入するのではないかという警戒感が特に昨年から強まっています。中国がかつての日本のように不動産バブル崩壊を機に、長期停滞に陥るのではないかという不安から、中国株に投資していたお金の逃げ場所として日本が選ばれやすくなっているのです。 3つ目は、コーポレートガバナンスの改革です。2023年3月、東京証券取引所から上場企業に向けて、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応をするようにという要請がありました。これが予想以上に実のある改革につながっています。 この3つの要素が同時に進行していることが、日本株の強さを支えているという見方をしています。 6月にかけてなぜ株価の調整が起きたのか では、6月にかけてなぜ株価の調整が起きたのでしょうか。 まず、デフレ脱却に関しては、良いニュースがいったん出尽くしたという状況だったと思います。3月中旬に春闘の第1回集計が出て、5%を超える賃上げがされたことがわかりました。さらに、日銀が3月の決定会合でマイナス金利を解除するという歴史的な決定をしました。これらのイベントが、デフレ脱却の象徴的なターニングポイントとなり、ある意味で「良いところは出尽くした」という捉え方をされ、利益確定も進んだと見ています。 次に、中国に関しては、3月から4月にかけて、意外にも中国経済が回復するのではないかという見方が出てきました。春先に経済指標が一時的に上向いたこともあり、中国株が買われる時期がありました。そのため、それまで日本に逃げ込んでいたお金の一部が中国に戻るという動きが見られました。 最後に、コーポレートガバナンスについても、一旦の出尽くし感が出ていました。5月の連休前後に企業の決算発表がありましたが、自社株買いの発表など良いニュースがある一方で、2024年度の業績見通しについては増益を見込まない企業が多く、やや保守的な印象が強まりました。 さらに、日銀の金融政策に関する不透明感も株価の重石となりました。6月14日の金融政策決定会合で、国債買い入れの減額を検討すると発表があり、これも市場に不透明感をもたらしました。 懸念払拭し再上昇始めた日本株 では、ここに来てなぜ日経平均は再び上昇に転じたのでしょうか。実は、先ほど述べた3つの要素自体は変わっていません。それぞれの要素について、市場の見方が再び前向きになったことが大きいと見ています。 まず、デフレ脱却に関しては、日本のインフレの持続性や賃金の強さが改めて認識されました。今回のインフレが始まった当初は、輸入物価の上昇によるコストプッシュ型のインフレだという見方もありましたが、人手不足と相まって賃金上昇が起こり、より持続的なインフレに変化しつつあります。象徴的なのは、輸入物価が22年9月にピークアウトし、今年6月にかけて8.8%低下しているのですが、同じ間に国内企業物価は5.9%上昇しています。このような「ワニ口現象」は日本が今まで経験しなかった姿です。7月1日に公表された日銀短観でも、全規模・全産業の販売価格見通し(1年後)が2.8%と、2四半期連続で上昇し、値上げカルチャーの浸透を示唆しました。アナリストが追っている個別企業の動向を見ても、値下げを再開するところは少なく、インフレの定着が進んでいることが分かってきました。 次に中国については、米国大統領選におけるトランプ元大統領の再選の可能性が再び意識され始めました。日本時間の6月28日に行われたテレビ討論会の「直接対決」でバイデン大統領の健康不安が高まったことが一つの転機になっています。トランプ氏は対中国で厳しい政策を取ることが予想されるため、再び投資マネーの「脱中国」が注目され始めました。加えて、中国経済の弱さも顕在化し、結果として日本市場の相対的な安定性が再評価されることにつながっています。 コーポレートガバナンスについては、企業業績の保守的な見通しは日本企業の特徴であり、それほど悲観する必要はないという見方に落ち着いてきました。むしろ、今年の自社株買い設定額は6月までで9兆円というレベルになっており、2023年までの水準から約5割増という異次元の増加をみせています。これまでと異なり、株価上昇局面でも自社株買いが積極化しているということは、企業がガバナンス改革に真摯に取り組んでいることの表れと言えます。この点は海外の長期投資家からも高く評価されています。 円安は株価を押し上げた 円高の心配は? 為替市場の動向も株価を後押ししました。円安が進行したことで、日本企業全体としては業績にプラスの影響がありました。ただし、以前のように極端な円安依存ではなく、為替に対する耐性が高まっているのも特徴です。例えば、10円の円安で利益が3%程度押し上げられる効果があります。現在の企業の為替前提は143円程度ですが、そこまで円高が進むと想定した上でも、今年度と来年度は8%台の増益が確保できると試算しています。多少の円高には十分耐えられる体質になっています。 野村では、今後為替は米国の緩やかな金利低下とともに円高ドル安傾向に動くと予想しています。24年12月は148円、25年12月は140円という見立てです。逆に、円安がそろそろ天井に近づいているとみる日本側の理由もあります。例えば1ドル170円を超えるような水準まで円安が進むと、インフレ期待が2%を超える可能性が出てきます。そうなると、日銀も追加利上げを急ぐ必要が出てくるため、「日銀が放置してくれる円安」には限界が訪れると見ています。 為替レートが円高方向に進んだとしても、必ずしも株価の下落に直結しないと考えられます。過去、円高は、世界経済の減速が原因であることが通例でしたが、今回予想する円高は、米国のインフレが明確に沈静化することによる、利下げ転換が主因となりそうです。世界景気の基調は崩れないまま緩やかな円高へと移行するシナリオが考えられます。ドルベースで運用している海外投資家にとってはベストの「円高・株高シナリオ」が実現する可能性は高いと見ています。 2026年3月末の日経平均株価予想レンジの上限は48,000円 以上の理由から、現在の42,000円台という水準は、決して違和感のあるものではないと考えています。ただし、今後のリスクについても考慮する必要があります。主なリスク要因としては、米国の大統領選挙や世界経済の減速などが挙げられます。 まず、米国大統領選挙について、一時的に市場が荒れる可能性があります。特に、トランプ氏の政策は減税期待など株式市場にとってプラスの面もありますが、対中政策に関する不透明性が最大の問題です。 世界経済、特に米国経済の動向も重要です。現在のメインシナリオは景気後退(リセッション)に陥らずソフトランディングすることですが、リセッションのリスクも完全には否定できません。特に注意すべきは米国の消費動向です。これまでコロナ禍で蓄積された貯蓄による消費の下支えがありましたが、その効果も徐々に薄れつつあります。米国の消費が予想以上に弱くなれば、日本の輸出企業にも影響が出る可能性があります。 こうしたリスクにも十分注意しながらも、先に挙げた3つの要素に関する前提が大きく崩れない限りは、株価は上下動を繰り返しながら、基調としては上がる方向を見ています。今の状況で、「株価が高すぎる」と過度に恐れる必要はないでしょう。 野村證券では2025年3月末の日経平均株価の予想レンジを36,000円から44,000円とみています。今の株価水準から考えると、このレンジの上限に達する可能性があると見ていいでしょう。2026年3月末の予想レンジの上限は48,000円としています。日本企業の構造的な変化と、それに伴う持続的な成長への期待が、今後の株式市場を支える大きな要因となりそうです。 野村證券 市場戦略リサーチ部長 池田 雄之輔 1995年野村総合研究所入社、2008年に野村證券転籍。一貫してマクロ経済調査を担当し、為替、株式のチーフストラテジストを歴任、2024年より現職。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「モーニングサテライト」に定期的に出演中。 ご投資にあたっての注意点
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07/12 18:00
転換期の人工光型植物工場 - ①わが国における人工光型植物工場の歴史 -
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 シニア・アドバイザー 伊地知 宏 (2024年7月5日) はじめに 近年、人工光型植物工場への関心が世界規模で広がりを見せている。 わが国では世界に先駆けて1980年代から人工光型植物工場への研究開発が始まり、他国に先んじた歴史と経験を有しているが、植物工場分野全般では、オランダが長きにわたり太陽光型植物工場(環境制御型大規模施設園芸)分野のフロントランナーとして君臨し、世界的には人工光型植物工場への関心は決して高いとは言えない状況であった。 2010年代に入り、海外で人工光型植物工場への関心は急激に高まり、2013年以降、欧米で人工光型植物工場の新興企業が勃興しはじめ、2017年以降には大規模な資金調達に成功した企業が続出した。また近年では中国やオランダ、イタリアなどでも研究熱が高まっている。 人工光型植物工場への関心の高まりの背景には、今後予想される世界的な人口増加による食料需給の逼迫懸念、環境負荷増加への問題意識の高まり、異常気象や世界的な農地・労働力の不足による食料生産の不安定化懸念などがある。 しかしながら、世界的な投資の過熱傾向が見られる中、人工光型植物工場事業は投資家の期待に沿った十分な実績に結び付いているとは言い難い。また、わが国においても採算の見通しが立ち始めて10年程度と日が浅く、依然として厳しい経営状況を強いられている事業者も見られ、その後の環境変化の影響もあり、決して楽観視できる状況下にはない。 本レビューでは人工光型植物工場を3回にわたってシリーズ化し、①「わが国における人工光型植物工場の歴史」を振り返り、②「これまでのビジネスモデルを検証し、現状認識と課題」を明らかにしたうえで、③「今後の発展の可能性」を考察する。 1.わが国における人工光型植物工場の起源、進化 野村證券フード&アグリコンサルティング部(旧野村アグリプランニング&アドバイザリー㈱、以下F&ABC部)では、わが国の人工光型植物工場の進化を「開発期」(第一世代:1980年代~1990年代)、「スタートアップ勃興期」(第二世代:2000年代)、「他産業への普及期」(第三世代:2010年代)と定義してきた[1]。本稿では、第三世代の時期を細分化し、「市場拡大期」(2009~2013年)、「技術進化期」(2014~2020年)、「環境変化対応期」(2021年以降)と定義し、それぞれの時期を検証することで今後の見通しにつなげたい。 最初に、わが国における人工光型植物工場の起源と歴史について振り返る。人工光型植物工場は、1970年代から研究が始まり、1980年代に入ると商業生産を開始する事業者が現れ始めた。この時期は高圧ナトリウムランプなどが主な光源であった[2]。その後、1990年代には蛍光灯が活用されはじめ、2000年代に入ると光源の進化により多段栽培が可能になり、面積生産性が向上した。さらに、2010年台前半のLED価格全般の顕著な低下や2015年前後から始まった白色LEDのコストパフォーマンス向上[3]などが相まって、蛍光灯からLEDへの転換が進み、進化を続けながら現在に至っている。 野村證券F&ABC部の調べでは、1990年以降に稼働を始めた人工光型植物工場は、工場ベースで410件確認されている[4]。本レビューでは、410件のうち開始時期が特定できる404件を対象とし、さらに葉菜類を生産している382件を対象に分析を試みたい(図表1参照)。 人工光型植物工場の開発期である1990年代は、栽培システムの種類は限定的であり、日産1,000~3,000株の規模の植物工場が大半であった。 2000年代に入り、日産3,000株以上の事業者が現れ始め、日産1万株以上の事業者も登場したが、件数的には顕著な変化は見られなかった。 業界の変化の契機となったのが、2009年度の農林水産省と経済産業省の補助金である[5]。その後押しにより、2009年以降人工光型植物工場の生産開始件数が伸長した。しかしながら、2009年から2013年までの「市場拡大期」に新設された施設の6割以上は日産500株未満であり、多くの施設は実験栽培、店産店消などを目的にした小規模な水準にとどまっていた。 日産3,000株以上規模の施設の比率が高まりだしたのは2013年以降である。日産3,000株ならば年間で1億円前後の売上が期待されたため、この時期に商業生産への意識が生じ始めたと言えるだろう。 「技術進化期」と定義した2014年以降は、日産1万株規模の人工光型植物工場が毎年建設されるようになった。この時期は、栽培技術の進化に加えて蛍光灯からLEDへの転換が進み、照明や空調の効率が高まり、労働生産性の上昇により人件費も低減、物流費低下への工夫も相まって、採算性が向上した。 2021年以降の「環境変化対応期」に入ると、人工光型植物工場を取り巻く経営環境は厳しくなった。最大の逆風は光熱費の上昇であり、事業者の経営を大きく圧迫した。加えて最低賃金の上昇による人件費の増加、物流費や資材価格、建築コストの上昇が重なり、2020年以降はほとんどの事業者の採算性が大きく悪化した。2023年以降、光熱費の上昇は一服しているものの、他のコスト要因(人件費、物流費、資材費、建築費)に関しては、依然として厳しい環境が続いている。 図表1 国内人工光型植物工場事業者の開業動向 (注1)2024年は4月30日時点。(注2)小売向けは1株80g、業務用は1株150gで計算。(出所)日本施設園芸協会「大規模施設園芸・植物工場 実態調査・事例調査」、公開情報、各社HP等より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 2.海外の動向 次に、海外の人工光型植物工場への取り組みを俯瞰することにより世界の潮流を理解し、グローバルに人工光型植物工場の状況を確認したい。 欧米で人工光型植物工場への関心が高まったのは、2013~2016年頃である。米国の人工光型植物工場でビッグ4と称されたAeroFarms、Bowery Farming、Plenty、80Acres Farms[6]のうち、AeroFarmsを除く3社が事業を開始したのが2013年から2015年の間であり、2017年から2019年にかけて4社はいずれも累計1億USドル以上の資金調達を行っている。4社以外にも、Infarm(ドイツ)や日系のOishii Farm(米国)などが数億USドルの資金調達を達成し[7]、2022年には老舗スタートアップのKalera(米国)がナスダック市場に上場を果たした。 特に2021年にかけて巨額の資金が様々な業種のスタートアップに向かい、人工光型植物工場事業者も例外ではなかった。しかし、2022年に入り米欧の金融引き締めの影響で、環境が大きく変わり苦境に陥る事業者が続出した。行き過ぎた期待先行のひずみが顕在化したと言えるだろう。 上記企業ではAeroFarms、Infarm、Kaleraなどは、いずれも2022年までは新工場の建設など事業を拡大していたが、2023年には180度反転し、3社とも法的整理の申請(グループ会社申請を含む)に追い込まれた[8]。 このように、海外での巨額の投資が必ずしも結実しているとは言えず、今後も淘汰が進む可能性が高い。一方で、Oishii Farm、80Acres Farms、ZERO(イタリア)などが逆風下で業容を拡大し[9]、中国のSANANBIOも桁違いの投資により開発を進展させていると考えられ、注視が必要であろう。 わが国は、人工光型植物工場に関して2015年頃までは先行者の優位性を保持していたものの、海外の勝ち残り企業が資金力を背景に技術を高め、グローバルに攻勢を強める可能性は十分に考えられ、わが国の事業者も一層の技術力・経営力の強化が必要であろう。 3.国内人工光型植物工場での栽培品目、特色 対象とした410件の人工光型植物工場の栽培品目は、葉菜類のみ366件、葉菜類とイチゴ6件、イチゴのみ14件、葉菜類とその他15件、その他のみ8件、葉菜類・イチゴ・その他すべて網羅1件となっている(図表2)。 国内における人工光型植物工場での栽培品目はほとんどが葉菜類である。レタス類が大半で、ベビーリーフやハーブが一部並行している構図となっている。イチゴに関心を示す事業者は多いものの、一部の事業者が相応の規模で取り組んでいる以外は小規模な事業者がほとんどである。米国では、Oishii Farmがイチゴの量産化に成功しており、世界各国でわが国以上にしのぎを削っている感がある。今後グローバルに競争が高まることが予想される。 レタス類、イチゴ以外の品目で、本格的に事業化に成功した事例は限定的である。エディブルフラワー(食用花)に挑戦している事業者は複数見られるが、規模的には小規模にとどまっている。 図表2 人工光型植物工場における生産物別工場数分布(N=410) (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 栽培の安定性や収支を考慮すると葉菜類(特に非結球レタス[10])への傾倒は理に適っていると言え、非結球レタスの市場もまだまだ拡大余地が考えられる。 しかし、国内向け非結球レタスの市場だけならば、数年後には頭打ちになる可能性があり、人工光型植物工場が業界として大きく飛躍するには、栽培品目の拡充が最大のポイントになるであろう。イチゴや医療用大麻、ワクチン原料植物などへの関心が高まっているが、現時点で栽培・事業化が困難と考えられる品目をいかに開発して拡大するかが今後の成長を左右するであろう。 4.レタスの市場規模と人工光型植物工場の可能性 2024年時点での、わが国における人工光型植物工場による葉菜類の生産能力は日産約94t(年産約34,500t)と推定される。卸値を1,000円/kg、稼働率を85%と仮定すると、2024年の販売額は年間約293億円と予想される。日産1万株以上の規模[11]で稼働中の工場は37件(30社)、生産能力は日産約68t(年間約25,000t)と推定され、当該30社のシェアは72%に達する。また、連携関係がある企業群を一体と見なすと、28工場が主要4グループに含まれ、その生産能力は年産約20,100t(シェア約58%)となり、寡占化が進んでいると推察される。 国内のレタスの総出荷量は50万t台前半で足踏みし、総産出額(生産者出荷ベース)は765億円(2022年)と、2017年に記録した1,068億円をピークに減少している。2018年以降の価格低下が主因だが、結球レタス生産資源の減少傾向も相まっている。露地栽培の担い手の減少は以前から懸念されていたが、2018年以降で作付面積が約9%減少しており、懸念が現実化しつつあると考えられる(図表3)。 図表3 レタスの作付面積と出荷量の推移 (出所)農林水産省「作物統計」より野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 結球レタスの生産が頭打ち傾向の一方で、非結球レタス市場は拡大しており、出荷量は2004年の48,973tから2022年には71,900t(レタス全体519,900tのうち約14%)と47%増加している(図表4)。足元でもレタス全体の生産量は微減となっている中で、非結球レタス全般、人工光型植物工場産非結球レタスのシェアが拡大していることがうかがえる[12](図表5)。 図表4 レタス出荷量の推移 図表5 レタス出荷量の現状推定 (出所)農林水産省「作物統計」、「地域特産野菜生産状況調査」より野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 レタスの露地栽培においてはワーカーの確保に苦慮している事例を耳にすることが増えており、今後露地栽培レタスの生産が底打ちして供給が増加することは容易ではない、と予想される。したがって、(太陽光型、人工光型とも)植物工場産の非結球レタスが結球レタスを代替して拡大する可能性は十分に考えられる。 加えて非結球レタスに関しては、2015年頃から加工用(業務用)の需要が立ち上がっている。加工用(業務用)レタスの用途はレストラン・ホテル・テーマパーク向け、中食向け、スーパー・百貨店・ベーカリーなどの総菜向け、コンビニ及びベンダー向けなどが挙げられる。コロナ禍には、レストラン・ホテル・テーマパーク向けや、航空向けなどの比率が高かった事業者が特に深刻なダメージを受けたが、コロナ禍以前を上回る回復が期待され始めた。 コンビニ及びベンダー向けは、低菌数で日持ちの長さが訴求ポイントであったが、菌数のバラツキやコストがネックとなっていた。しかし、近年改善が進みつつあり、品質が安定した製品への需要は着実に拡大している。コンビニの店舗数を56,500件、1店舗当たりのレタス使用量を1.2kg/日と仮定すると、コンビニの業務用レタス需要だけで年間24,750tに達する。 非結球レタスの場合、生食用と加工用の割合は4:1~5:1と推定される[13]ので、現在の人工光型植物工場による推定出荷量28,600tのうち加工用は5,000t前後と推定される。コンビニ以外の用途も含めて今後の需要拡大余地は大きい。 5.人工光型植物工場の参入と撤退動向 現在、葉菜類栽培で稼働している人工光型植物工場の施設数は280~300件程度と推定する。前述の通り、葉菜類の栽培に取り組んで開始時期が判明している事業者は382件だが、事業継続状況は図表6のように、「事業継続」265件、「撤退」83件、「不明」34件となっている。 図表6 人工光型植物工場(葉菜類)の事業継続動向 (注1)2024年は4月30日時点。(注2)一部野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部の推定を含む。(出所)日本施設園芸協会「大規模施設園芸・植物工場 実態調査・事例調査」、公開情報、各社HP等より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 「開発期」及び「スタートアップ勃興期」に生産開始した事業者は半数以上が撤退し、「市場拡大期」に生産開始した事業者も約3割が撤退している[14]。 撤退の理由としては、①生産ノウハウやコスト管理が不十分で数年で撤退を決断する、②生産ノウハウやコスト管理の改善に努めたものの(補助金の制約などの影響もあり)10年程度で撤退する、③外部環境の悪化で経営が困難になり撤退する、④生産設備が経年で陳腐化し栽培効率が相対的に低下する、⑤試験的意味合いが強く、当初から長期間の継続を想定していなかった、などが主因であろう。 野村證券F&ABC部調べでは、2020年以降で撤退した事業者の生産規模は年間約4,000tに相当する。生産ノウハウの不足、光熱費及び人件費の上昇、コロナ禍による業務用需要の減少などによる経営悪化が主因と考えられ、近年の経営環境の悪化が淘汰を促進しているように感じられる。光熱費の上昇や業務用需要の減少は足元で改善されているものの、苦戦している事業者は少なくない。今後、非結球レタスを中心とした人工光型植物工場産葉菜類の堅調な需要は予想されるものの、生産ノウハウや経営力が不十分な事業者には厳しい環境が続くだろう。ノウハウやコスト競争力を有するか否かによって優勝劣敗の色分けが一層明確になると予想される。 実際、2020年前後には20年以上事業を継続してきた事業者が撤退する事例が散見され、事業環境の厳しさが表れている。「市場拡大期」、「技術進化期」の2010年から2015年にかけて多くの新規参入が見られたが、その時期に参入した事業者は10年前後が経過し、今後撤退件数が増加する可能性を秘めている。 寡占が進んでいる国内の主要グループもすべてが盤石な経営体制が確立されているわけではなく、業界再編の可能性もあり、どの企業(グループ)がイニシアチブを取るかは予断を許さない。 結び 当レビューのシリーズでは、人工光型植物工場の過去、現在を検証したうえで、未来の可能性を探ることを目指している。 今回のレビューでは、国内外での取り組みの歴史と海外の現状把握から、人工光型植物工場の将来を展望する足掛かりを構築することを目的とした。 次回のレビューでは、人工光型植物工場の収支状況を検証し、優良な経営に必要な要素を検討する予定である。「人工光型植物工場の黒字化は容易ではない」というのが一般的な見解であろうが、その要因を時系列で深掘りすることで、持続的な人工光型植物工場経営の一助となることを目指す。 [1] 「2030年のフード&アグリテック」(佐藤光泰・石井佑基著)参照。 [2] 高圧ナトリウムランプ以外にはメタルハライドランプなどが使われた。 [3] 青色LEDへの黄緑蛍光物質のコーティング等の技術進化により、発光効率の向上と価格低下がもたらされた。 [4] 生産物が、苗、スプラウト、もやし、きのこなどの事業者は含んでいない。また、同一の事業者が複数の工場を建設した場合は別々にカウントし、事業譲渡やM&A等で経営母体が代わった場合は、「前事業者が撤退し、新事業者が開始」と見なしている。件数は野村證券F&ABC部が把握しているデータに基づいているため、国内の施設すべてが網羅されてはいない。生産規模、開始時期、撤退時期など諸データには、一部野村證券F&ABC部の推定が含まれる。 [5] 農林水産省が97億円、経済産業省が50億円の補助金を予算化した。 [6] 4社目としては、80Acres FarmsではなくKaleraが挙げられたこともある。 [7] Infarmは(円換算)700~800億円、Oishii Farmは(円換算)約255億円(2021年にシリーズAで約55億円、2024年にシリーズBで約200億円)を調達。 [8] NOMURAフード&アグリビジネス・レビュー Vol.2 「フード&アグリテック・スタートアップのグローバル事業環境と今後の展開シナリオ」参照。 [9] 一例として、Oishii Farmは、2017年にプロトタイプの植物工場を初稼働、その後数回の拡張や新設を経て、2022年に大規模人工光型植物工場を建設。2024年にはニュージャージー州の22,000㎡の敷地に「メガファーム」を建設し、事業を大きく拡大している。 [10] フリルレタス、グリーンリーフ、ロメインレタス(コスレタス)、サニーレタス(レッドリーフ)、サンチュ、サラダ菜などが人工光型植物工場で栽培されている主な品種であるが、サラダ菜以外は非結球レタスである。ロメインレタスやサラダ菜は半結球レタスと分類されることがあるが、統計上は、ロメインレタスは非結球レタスに含まれ、サラダ菜は含まれない。 [11] 日産1万株もしくは日産800kg以上。 [12] 野村證券F&ABC部では、人工光型植物工場の国内総生産能力を年間34,500tと推定。現状の出荷量は生産能力の85%と仮定した。 レタスの出荷量は2022年実績519,900t、及び2003年から2022年までの平均値523,170tより、2024年を520,000tと推定。 非結球レタスの出荷量は2022年実績71,900t及び近年のトレンドより、2024年の出荷量を74,000tと推定。 [13] 農林水産省「地域特産野菜生産状況調査」データに基づいて野村證券F&ABC部が推定。 [14] 「市場拡大期」に生産開始した事業者の撤退率は28%だが、動向不明先を考慮すると撤退率は3割を超えていると考えられる。 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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07/12 16:04
【野村の夕解説】米国ハイテク株安を受け、日経平均株価1,033円安(7/12)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 米国で発表された6月CPI(消費者物価指数)は市場予想を上回るインフレ鈍化を示しました。これを受けてFRB(米連邦準備理事会)の9月利下げ観測が強まり、米国債券相場は上昇(利回りは低下)しました。金利低下の追い風を受けながらも、株式市場ではハイテク株や半導体株は高値警戒感から下落し、ナスダック総合指数は前日比ー1.95%と8営業日ぶりに反落しました。また、為替市場では政府・日銀が円買い・米ドル売りの為替介入に踏み切ったとの見方が広がり、一時1米ドル=157円台と急速に円高米ドル安が進行しました。米国ハイテク株下落の流れを引き継ぎ、本日の日経平均株価は前日比555円安の41,668円で始まりました。主力ハイテク株に加えて前日好決算を発表したファーストリテイリングも下落し、日経平均株価を押し下げました。一方で、円高でも好調な企業業績への期待は維持され、東証プライム市場の約6割強の銘柄は上昇し相場を下支えしました。寄り付き後も主力株は下げ幅を拡大し続け、日経平均株価は前日比ー1,033円の41,190円と大幅に反落して本日の取引を終えました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注)データは15時15分頃。ドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 本日米国では6月PPI(生産者物価指数)が発表されます。他にはJPモルガン・チェースやシティグループなどが2024年4-6月期の決算発表を予定しています。15日(月)日本は祝日で休場となります。 (野村證券投資情報部 神谷 和男) ご投資にあたっての注意点