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02/18 16:35
【野村の夕解説】日経平均株価96円高 銀行株が上昇をけん引(2/18)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 本日の日経平均株価は前日比13円高の39,187円で始まりました。17日に発表された日本の2024年10-12月期のGDP(国内総生産)が市場予想を上回り日本経済の堅調さが示されたことで、市場では日銀による追加利上げの観測が強まりました。日本の新発10年債利回りは上昇し(価格は下落)、前日の1.385%前後から本日は1.430%前後となり、およそ15年ぶりの水準となりました。業種別では、金利の上昇による利ザヤ拡大が業績への追い風となる銀行株が相場をけん引し、日経平均株価の大引けは96円高の39,270円と続伸となりました。 個別企業では、前日欧州市場において、ウクライナ情勢を巡り欧州各国が防衛費の増額に動くとの観測から、防衛関連の株式が上昇したことで、日本の防衛関連の一角にも流れが波及しました。三菱重工業は前日比+2.74%、川崎重工業は+4.66%、IHIは+6.26%とそれぞれ大幅に上昇しました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注) データは15時45分頃。米ドル/円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。米ドル/円は11:30~12:30の間は表示していない。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 本日米国ではNY連銀製造業景気指数が発表されます。また明日は日銀の高田創審議委員の講演が予定されています。タカ派(利上げに積極)的な姿勢が示されれば、市場の利上げ観測は更に強まり、円高進行への圧力となる可能性もあります。 (野村證券投資情報部 清水 奎花) ご投資にあたっての注意点
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02/18 08:28
【野村の朝解説】ドイツ株最高値、中国株年初来高値更新(2/18)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 17日の海外市場では、アジア時間は上海総合指数が続伸し、終値ベースで年初来高値を連日で更新しました。米国テクノロジー株の急落(ディープシーク・ショック)をもたらした中国のディープシーク社による低コスト生成AIモデルの開発によって、AIの世界で中国勢が巻き返すとの期待から、中国テクノロジー株の上昇機運が高まっています。また、米中の通商摩擦が激化する中、追加関税などによる中国景気への悪影響を緩和するために、政策支援姿勢が強まるとの期待も相場を後押ししました。他方、欧州市場では、ドイツDAXが反発し、史上最高値を更新しました。16日まで開催されたミュンヘン安全保障会議などを踏まえて、欧州各国が防衛力強化に動くとの思惑が防衛・航空関連株の株価を押し上げました。米国市場は、ワシントン生誕記念日(プレジデンツ・デー)の祝日のため休場でした。為替市場では、日本のGDP統計の上振れを受けて円高となった東京時間の流れが継続し、1ドル=151円台前半まで円高ドル安が進みました。 相場の注目点 前日の米国が休日であったことから、本日の日本市場では欧州などの株式市場の上昇や、為替市場の動向が材料視されそうです。明日19日にタカ派(利上げに積極的)と目される高田日銀審議委員の発言機会を控え、日銀の利上げ期待が継続し、円高方向に進みやすいとみています。21日発表の1月全国CPI(消費者物価指数)は、日銀の政策判断にも影響するため、注目です。また、報道では、18日にサウジアラビアで米政府高官とロシアのラブロフ外相がウクライナ紛争の停戦・終結に向けた協議を行う模様です。ウクライナ情勢の改善期待が高まれば通貨ユーロの支援材料になると考えられます。 (野村證券 投資情報部 坪川 一浩) (注)データは日本時間2025年2月18日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 野村オリジナル記事の配信スケジュール ご投資にあたっての注意点
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02/17 18:00
【週間ランキング】日本株の値上がり/値下がり銘柄は?(2月第2週)
※画像はイメージです。 日本主要銘柄・株価騰落率ランキング(上位) 2025年2月第2週(2025年2月7日~2月14日) 2025年2月月間(2025年1月31日~2月14日) 2025年年間(2024年12月31日~2025年2月14日) (注)対象はTOPIX500、直近値は2025年2月14日。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 日本主要銘柄・株価騰落率ランキング(下位) 2025年2月第2週(2025年2月7日~2月14日) 2025年2月月間(2025年1月31日~2月14日) 2024年年間(2024年12月31日~2025年2月14日) (注)対象はTOPIX500、直近値は2025年2月14日。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 <参考>今週の日本株式市場パフォーマンス 主要指数 TOPIX: 東証33業種 (注)業種分類は東証33業種ベース。直近値は2025年2月14日時点。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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02/17 16:19
【野村の夕解説】円高と好業績がせめぎあい、日経平均株価は24円高(2/17)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 本日の日経平均株価は前週末比55円安の39,094円で取引を開始しました。寄り付き前に発表された2024年10ー12月のGDP(国内総生産)1次速報値が市場予想を上回りました。また、物価指標の1つであるGDPデフレーターが前年同期比+2.8%と加速したことを受け、日銀の追加利上げ観測が広がりました。これらを受け、日本の10年国債利回りは上昇し、前週末比0.035%高い1.385%と2010年4月以来、約15年ぶりの高水準をつけました。金利上昇により円高米ドル安が進行したことや、トランプ政権による関税政策への不透明感が指数を押し下げ、日経平均株価は寄り付き直後、前週末比128円安の39,021円まで下げ幅を広げました。一方、前週末でほぼ一巡した2024年4ー12月期決算発表は概ね良好と観測され、堅調な企業業績が下支えとなり、その後は持ち直す展開となりました。前日終値を挟んで一進一退となった日経平均株価は、材料難で方向感を見いだせないまま、前週末比24円高の39,174円と反発して取引を終了しました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注) データは15時45分頃。米ドル/円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。米ドル/円は11:30~12:30の間は表示していない。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 米国はワシントン生誕記念日で休場です。フィラデルフィア連銀ハーカー総裁やボウマンFRB理事の講演が予定されています。 (野村證券投資情報部 神谷 和男) ご投資にあたっての注意点
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02/17 08:25
【野村の朝解説】米小売統計が下振れ、利下げ観測高まる(2/17)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 14日の米国金融市場では1月の小売売上高が前月比-0.9%と、市場予想(同-0.2%)を大幅に下回り、約2年振りとなる低下幅を記録したことを受けて、利下げ観測が再燃し、9月までの利下げ実施が完全に織り込まれました。米10年国債利回りは再び4.5%を割り込み、米ドル円相場は一時152円前後まで円高が進行しました。S&P500は前日終値を挟んで一進一退となり、前日とほぼ変わらない水準で引けています。米国株にとって景気減速は決して良い材料ではありませんが、利下げ観測との間でバランスしたと見受けられます。業種別では、11業種中上昇したのはハイテク関連に加え金融、エネルギーの4業種にとどまるなど、広がりに欠ける結果でした。 相場の注目点 年明け以降の米国金融市場では、強弱錯綜する経済指標、FRBの利下げ姿勢の慎重化に加え、トランプ政権の繰り出す関税政策への警戒感から、国債市場を中心にボラティリティ(変動率)が高い展開が続いています。トランプ大統領は14日、4月2日前後に新たに自動車に関税を賦課する意向を示しました。トランプ大統領が米国を象徴する産業である自動車や鉄鋼に対して保護主義的な政策を打ち出すことに意外感はありません。ただし、自動車に関してはトランプ大統領が就任直後に発表した「米国第一の通商政策」と題する大統領覚書にも具体的な言及はなく、その意味で政策の予見可能性を低下させるものと言えます。関税は最終的には米国の消費者への負担となることから、景気の先行きに対する警戒感が高まりそうです。 本日のイベント 米国はワシントン生誕記念日で休場です。日本では24年10-12月期の実質GDP(速報)が発表されます。 (野村證券 投資情報部 尾畑 秀一) (注)データは日本時間2025年2月17日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 野村オリジナル記事の配信スケジュール ご投資にあたっての注意点
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02/16 16:00
農業と福祉の連携が企業経営に与える示唆 - DEIの観点から-
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 担当部長 西山 政治(2025年2月13日) はじめに 本稿では、筆者の最近の取組分野の一つである農業と福祉の連携、所謂「農福連携」と、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)との関連性、それが企業経営に与える示唆について考察をしたい。また、近年の障害者雇用促進法における法定雇用率の連続的な引上げに伴い、多くの企業で雇用した障がい者向け事業や特例子会社で農福連携が活用されている一方で、福祉関係者から「障がい者雇用代行ビジネス」「雇用率ビジネス」と称される、一部問題視されているビジネスが台頭している。何が問題視されているのか、障がい者雇用で農福連携に取り組む場合の留意点として提示したい。 1.DEIと農福連携 DEIとは、ダイバーシティ(Diversity:多様性)、エクイティ(Equity:公平性)、インクルージョン(Inclusion:受容・包括性)の頭文字をとった言葉である。2021年頃までは企業の持続可能性を高めるための取組みの一つとしてダイバーシティとインクルージョン、すなわち「多様な人材を受け入れ、それぞれの持つ個性や能力を発揮すること」を意味するD&Iが用いられてきた。そしてコロナ禍における働き方の見直し、SDGsの浸透とそのゴール8に含まれるディーセントワーク(Decent Work)[1]「働きがいのある人間らしい仕事、より具体的には、 自由、公平、安全と人間としての尊厳を条件とした、 全ての人のための生産的な仕事」の探求機運の高まりを受け、近年では図表1のようなエクイティ、すなわち「多様な個性や状況に合わせた機会を提供し、公平に活躍できる仕組みを作る」概念を加えたDEIを掲げるケースが増えている。では、この機会を与えるべき「多様な個性」の範囲はどこまでと考えるべきだろうか。 図表1 Equality(平等性)とEquity(機会の公平性) (出所)Shutterstock インターネットで「ダイバーシティとは」と検索すると、様々なサイトが示され、その提示する内容も多様性に富む。検索結果の単語に注目してみると「性別、人種、年齢、国籍、信仰、趣味趣向など」が共通して挙げられており、「障がい」を明示している数が明らかに少ない。勿論「など」に含まれているケースも多いと思うが、障がい者のポテンシャルを制限的に考えるバイアスも否めないのではないかと推察する。障がい者が「全ての人のため」を掲げるディーセントワークの概念に含まれることは論を待たないが、社会的に見ても障がい者の労働参加は不可欠になりつつある。 図表2は我が国における障がい者数の推移とその内訳である。近年においては精神障がいを中心に障がい者の数は増加している。その要因は高齢化や社会環境など構造的なものが複雑に絡み合っていると考えられ、簡単に改善できる性質のものではない。 また、図表3は義務教育年次における在籍児童数と、同じ義務教育年次で特別支援学校及び特別支援学級並びに通級(以下「特別支援学校等」)で教育を受けている児童数の2013年度と2023年度の比較である。特別支援学校等で学ぶ児童の割合は最近10年間で2倍以上に増加している。 こうした障がい者の数や割合の増加には、社会における障がいに対する認知度の高まりや受容性の拡大というポジティブな要因が反映されている面もあるが、社会における働き手やその準備期間にある児童に障がいをもつ人が増えているのも事実である。企業経営において障がい者活用の必要性は、より一層高まっていると言える。 図表2 障がい者数の推移(万人)[左] 図表3 義務教育年次で特別支援教育を受ける児童の割合(万人) [右] [図表2](出所)文部科学省「文部科学統計要覧」及び「特別支援教育資料」より野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成[図表3](出所)内閣府「障害者白書」からの厚生労働省作成資料及び厚生労働省「令和4年生活のしづらさなどに関する調査」の推計値より野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 働き手という観点では、農業における担い手不足は深刻である。図表4は我が国の基幹的農業従事者数の推移であり、1990年の293万人から2024年には111万人にまで減少している。こうした担い手不足に悩む農業の現場では、実際に障がい者が働いて農業生産に貢献してもらう「農福連携」という取組みが10年ほど前から本格的に始まっている。農福連携は文字通り農業と福祉の連携を意味し、農林水産省や日本農福連携協会の掲げる参加対象者は、農家をはじめ障がい者、高齢者、ひきこもり、生活困窮者、受刑者など広範囲に及ぶ。 図表4 基幹的農業従事者数の推移(万人) (出所)農林水産省「農林業センサス」「農業構造動態調査」より野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 本稿では農福連携の対象を障がい者に絞るが、元来は上記のように多様な労働参加者の顔ぶれである点はご承知いただきたい。興味のある方は「農福連携」と検索すると様々な事例が出てくるので参照されたい。なお、官庁がまとめた農福連携のパンフレット には、農林水産省、厚生労働省、文部科学省、法務省の名前が並び、様々な省が農福連携を推進していることがわかる。 ところで、農業の労働内容においては、畑作だけでも種蒔き、間引き、施肥施薬、剪定、収穫など多種多様な作業で構成されている。他の産業に比べて労働負荷も高く、主に農業機械の取り扱いが主因ではあるが、図表5のように労働災害も多く、死亡事故の発生率は建設業の3~4倍、全産業に対しては14~17倍で推移している。 次章では、作業種別が多く労働災害の発生割合の高い農業で、どのように障がい者の「ディーセントワーク」を実現しているのか、その事例と示唆を見てみたい 図表5 農業、建設業、全産業の死亡災害数と発生割合の推移推計 (出所)農林水産省「農作業死亡事故の概要」、総務省統計局「労働力調査」、厚生労働省「労働災害発生状況」より野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 2.農福連携の事例と得られる示唆 農福連携の分野では優れた実績を上げている事例が多く存在する。「ノウフク・アワード」などの表彰も行われており、優良事例は「農福連携」と検索すれば比較的容易に検索できる。本章では、筆者が実際に訪問した企業で、「ディーセントワーク」「エクイティ」という観点から印象に残っている2事例を紹介したい。その上で、障がい特性に基づく多様性が生む効用と、事例から得られる示唆についても記したい。 (1) 恋する豚研究所 千葉県香取市にある「株式会社恋する豚研究所」は、しゃぶしゃぶなどのレストランを運営すると同時に、ハムやソーセージの加工販売も営んでいる。香取市にある同じ敷地内には別会社と共に農場や木工所[2]を持ち、レストランと農場が一体感を持った景観でデザインされ、運営されている。使われている豚は香取郡の提携農場のもので、しゃぶしゃぶのたれに使われている醬油も香取市産と、地域産品を積極的に取り入れている。その食味に対するグルメサイト等の評価も高く、2024年12月22日に放映された日本テレビ「ザ!鉄腕!ダッシュ」で鍋の具材になる等、メディアにも度々取り上げられている。 筆者が特筆したいのは、恋する豚研究所の運営参加者の半数以上が障がい者である点である。実際にレストランを訪れても、ホームページを閲覧しても、スタイリッシュなデザインと軽やかな空気感、豚やハムへのこだわりを貫くメッセージが目立ち、障がい者や福祉を感じさせるものは見受けられない。 代表取締役社長の飯田大輔氏は、「障がい[3]のある方も地域の人々とふれあい、地域の風景の中に溶け込んで社会の一員となる」ことを目指して取り組んでおり、それが具現化されている。飯田氏は千葉市にある社会福祉法人「福祉楽団」の理事長でもあり、農食に限らず同様の姿勢に基づく様々な取組みをされており、興味のある方はホームページ[4]を参照願いたい。 図表6 恋する豚研究所における加工関連のマニュアル (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部撮影 レストランや加工品で高評価を得ている恋する豚研究所であるが、その現場では障がい者に誇りをもって働いてもらう機会を与えるための、様々な取組みが見られる。障がい者就労の現場で励行されているあいさつ、計量器具の色分け等による視認性確保、加工時の安全性確保などの施策は基本として導入されているが、特筆すべきは、精緻に定められたマニュアル(図表6)である。このマニュアルは、作業が細かく分解され、写真を多用しながら平易な言葉で文章内の漢字には全てルビを振り、わかり易く説明してある。清潔な控室には作業予定表が見易く掲示され、個人の障がい特性に合った作業分担が割り振られている。こうした数々の仕組みにより障がい者に配慮しつつも高品質な製品を作ることを目指した結果、労働参加者に対する分配、すなわち支払う賃金も、雇用契約の基づく就労が困難とされる就労継続支援B型[5]平均工賃の数倍は払われている。訓練を受けた職員による指導も当然必要であるが、障がい特性に合った作業を細かく割り振り、「言って聞かせ、やって見せる」ことに加えて、何度でも確認のため立ち戻れる原点を作って高いパフォーマンスを実現している点が注目される。 (2)Torch 島根県出雲市にある「合同会社Torch」は、椎茸栽培を主業としており、代表社員の松本頼明氏は、就労継続支援B型福祉事業所も運営している。椎茸栽培は「通年で収穫できるため収入が安定」「ハウス内の温度が通年で比較的安定しており作業者の負担が少ない」「作業が多岐にわたるが比較的軽めの単純労働(但し根気が必要)が多く、作業分解して業務分散することができる」といった特性を持つため、比較的障がい者向きの作業であると言える。一方で安定した品質を保つことは難しく、根気の必要な作業であることから、就労する障がい者の方にどれだけモチベーション高く安定的に働いてもらうかが重要となる。 図表7 Torchの外観(一部) (出所)会社より提示 Torchでは、あいさつや時間を守る生活リズムといった基本的な動作の励行に始まり、作業性を重視したレイアウトや場所の確保、音楽を流すなどの雰囲気づくりに加え、清潔で働きやすい休憩所の設置など、働きやすい工夫を随所に凝らしている。結果として障がい者一人当たりの月間就労回数が増加、継続的かつ安定的な就労関係を構築できている。 そして、最も特筆すべきは評価システムである。「軸切り」「計量」「袋詰め」などの時間当たりの作業量基準を設け、その達成毎に時間給を上げていく仕組みを設けており、その評価フィードバックは松本氏と一対一で、エビデンスを示しながら定期的に丁寧に為されている。この評価の仕組みを設けることで、働く障がい者のモチベーションも上がり、結果として高品質な椎茸の生産にもつながり、それが実績として就労継続支援B型平均工賃の数倍の工賃として返って来る仕組みである。目に見える労働成果と共に工賃が上がることで、本人の自尊心が満たされると共に家族が喜び、自分で稼得したお金を消費することで社会参加の機会も増える。 Torchがある島根県では農福連携が盛んにおこなわれている。繊細な扱いが要求され高級品であるシャインマスカットの農場での作業に障がい者が参加し、袋掛け、適粒、果穂整形(かすいせいけい)やジベレリン処理などの高度な作業を行いつつ、手掛けたシャインマスカットが県の品評会で県知事賞を受賞したこともある。島根県の農家や福祉関係者に理由を尋ねると、「人口減少と高齢化による農業の担い手不足が日本国内でいち早く課題となっているため、労働力確保の多様化に取り組んでいる」という回答をよく得るが、熱意と能力のあるファシリテーターの役割も見逃せない。島根県障がい者就労事業振興センターなどは、農福連携の積極的なマッチングに取組んでおり、地元福祉事業所や農家の協力を得ながら連携を推進している。当該センターの農福連携関係のホームぺージ[6]を閲覧すると、数々の実例掲示と共に実際の動画なども掲載してあるので、興味のある方は参照いただきたい。 (3) 障がい特性に基づく多様性が生む効用 農福連携の現場では、障がい特性と分解された作業特性のマッチングを上手く行うことによって、健常者に勝るとも劣らない、或いは支払い工賃に対して大きな超過付加価値を生んでいる事例が報告されている。例えば以下のようなケースがある。 コミュニケーションが苦手な反面、強いこだわりを持ち感覚が鋭敏になる自閉症スペクトラムの方の性質が、細密な再現を要する作業や検査に活かされてパフォーマンスをあげる事例常同行動[7]の傾向がある知的障がいを持つ方が、無農薬栽培農場の虫取りを丁寧に行い、健常者でも難しい虫害を根絶する事例 図表8 淡路式農作業分析表の一部分 (出所)兵庫県立大学大学院 緑環境景観マネジメント研究科/兵庫県立淡路景観園芸学校園芸療法課程 豊田正博著「2022年改訂版 農福連携 人と作業のマッチングハンドブック」より抜粋 上記のような農作業における作業分解と障がい特性のマッチングは学術的にも研究されている。兵庫県立大学大学院の豊田教授が開発した淡路式農作業分析表(図表8)は、農作業を「パターン化」「作業負担度」「巧緻性」「最多注意配分数」「危険度」「工程数」などに分け、各項目を評点化して分析を行う。さらに、「巧緻性」「最多注意配分数」の2項目から農作業難易度一覧表を作成して能力に応じた適切な作業割当てを行う。この手法は農林水産省主催の農福連携技術支援者育成研修でも教えられており、作業者の能力に応じた支援を行い、生産性向上と自己有用感向上を伴うマッチングの実用化は全国的に始まっている。こうした取組みは、多様な障害特性を高いパフォーマンスに結び付けるための重要な構成要素であると考えられる。 (4) 事例から得られる示唆 本章の事例から得られる、障がい特性という多様性を活用して、社会に関わる形で高いパフォーマンスを得るための示唆として、経営者側の以下の取組みの実践が挙げられる。 a. 挨拶の励行や生活リズムの観察を通じた、日常的なコミュニケーションと行動把握b. 上記aを通じた、障がい特性や環境への適合性に関するするアセスメントc. 従事する業務に対する、適切な作業分解とその多面的評価d. 分解した作業に対するわかり易い解説と指導、色分けや測定具を用いた作業し易い環境整備e. 実施した作業に対するわかり易く適切な評価と継続的なコミュニケーション そして上記a~eは、健常者を対象とした業務指示やチームビルディングに共通した内容と言える。つまり、多様性を活用して社会的にも付加価値の高いパフォーマンスを得るためには、コミュニケーションに基づく個性の把握、深い業務理解と業務内容の分解、環境整備、個性と業務内容の適合、適切かつ継続的な評価といった、基本的な事象を突き詰めることにあるのではないかと考える。 「多様性の尊重と活用」といったキーワードからは、「多様な人材でチームを構成し、自由な環境でフリーに働かせる」という方向性が想起される部分もあると考えられ、それはブレインストーミングなどでは有効な局面もあるであろう。一方で、コミュニケーションに基づく相互理解や、自分たちの拠って立つ業務に対する理解が無い状態で、単なる多様な個性から構成された人材グループが業務遂行を試みたり、プランを作るのは、多様性を謳いながらも閉鎖された、空虚なものになるのではないだろうか。すなわち、多様な個性や状況に合わせた機会を提供し、公平に活躍できる仕組みを作り、自由、公平、安全と人間としての尊厳を条件とした、 全ての人のための生産的な仕事(ディーセントワーク)を作っていくためには、基本的ではあるがより深い、相互理解や業務理解及び多様性に適合した環境整備が不可欠なのではないかと筆者は考える。 名言として伝わる「やってみせ 言って聞かせて させてみせ ほめてやらねば 人は動かじ」という旧帝国海軍司令官・山本五十六の言葉は、多様性の活用においても適用できるのであろう。 3.障がい者を雇用して農業に取り組む場合の留意点 本稿の最後に、障害者雇用促進法の法定雇用率を順守するための障がい者雇用或いは特例子会社で農業を営む場合の留意点について記したい。そもそも障害者雇用促進法で法定雇用率を定め、障がい者に対して所得の公平性を担保しようという取組みの存在は、障がい者の雇用率や平均賃金が未だ低い現状を意味している。雇用される障がい者が有意義に活躍できるようにサポートするビジネスも、勿論あって然るべきであると考える。 一方で、多くの福祉関係者が指摘する「雇用率ビジネス」として語られる典型的な障がい者雇用形態として、例えば以下のようなものがある。 企業が障がい者を雇用、同時に栽培ハウスの地代と建設資金を雇用率ビジネス事業者に支払う雇用率ビジネス事業者は、土地を購入してハウスを建て、監督者を置く。そのハウス内に、企業が雇用した障がい者を受け入れ、野菜の栽培をさせるハウス内の株間や畝幅も広く、ゆったりと栽培されるが収量は少なく安定しない収穫された野菜は、障がい者が持ち帰るか、社員食堂で「当社が雇用している障がい者の皆様が作りました」と提供されるが、残りは少量であったり収穫が安定しないため、販路が確定せず、廃棄される この形態では単純に障がい者を社会から隔離しているだけであり、前述の「エクイティ」や「ディーセントワーク」を重視した障がい者就労形態と比較すると、社会で活躍するための機会を与えられることも、生産的な活動に寄与することもない。であるならば、障がい者を雇用したり特例子会社を保有する企業が、SDGsの目標に沿った施策として掲げる一方でこうした雇用率ビジネスを利用することは、矛盾しないだろうか。 本稿ではどのような企業がこうしたビジネスに携わっているか、或いはその実態はどうか等の解明を目的としていない。但し、第210回臨時国会(2022年10月3日招集)で障害者雇用促進法が改正された際、衆参両院の厚生労働委員会の付帯決議で「単に雇用率の達成のみを目的として雇用主に代わって障害者に職場や業務を提供するいわゆる障がい者雇用代行ビジネスを利用することが無いよう、事業主への周知、指導等の措置を検討すること」と明記されており、そうしたビジネスの存在が前提とされている。「雇用率ビジネス」については、一般社団法人 日本農福連携協会[8]や日本財団助成事業[9]からも研究報告書が出ているので、興味のある方は一読されたい。 時代が進むにつれ、社会的な意識も高まり、以前であれば問題視されなかった事象が大きく問題視される状況は、一定以上の年齢の方なら覚えがあるはずである。障がい者雇用や特例子会社で農業に携わるならば、専門家と相談した上でのフレームワーク策定や意識の高い社会福祉法人等と連携することも一案であると考える。 [注釈] [1] ILO(国際労働機関)において、1999年に開催された第87回ILO総会で提出されたファン・ソマビア事務局長の報告で初めて用いられ、その中でILOの活動の主目標と位置づけられた。その後も戦略目標が設定される等、取組みが強化されている [2] 株式会社日本農林耕社などと共に開発、一体化した農地として機能している [3] 飯田氏が就労機会を与えて地域と一体化させたい対象として、高齢者、受刑者等も含まれ、実際に就労されていることも付記しておく [4] URL:https://www.gakudan.org/ [5] 障害者総合支援法における福祉サービスの区分で、継続雇用が困難であるため請負契約が主体となる。2022年の就労継続支援B型事業所における月額平均工賃(賃金)は、17,031円である(厚生労働省データ) [6] URL:https://shimane-noufuku.net/ [7] 常同行動:外から見ると意図がわからない、繰り返しおこなわれる行動 [8] 「農園型障害者雇用問題研究会報告書 2024年2月」日本農福連携協会/日本農福連携協会HP: https://noufuku.or.jp/chosakenkyu/ [9] 「2023年度 サテライト型(農園型含む)障害者雇用に関する調査研究 実施報告」事業実施団体:社会福祉法人 生活クラブ/掲載元:日本財団図書館(http://nippon.zaidan.info/index.html) ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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02/16 12:00
【注目トピック】米国株決算レビュー:先行きの見方には慎重さも窺えるが…
※画像はイメージです。 米国:2024年10-12月期決算レビュー 24年10-12月期は前年同期比+13.2% 2月7日までに、S&P 500 指数構成企業のうち308社が、2024年10-12月期決算を発表しました。LSEGの集計では、同期のEPS(1株当たり利益)は前年同期比+13.2%の64.71ドルと推定されています。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 (注)推定・予想は2025年2月7日時点のLSEG集計。[ ]内は2024年10-12月期決算発表が本格化する直前の2025年1月3日時点の集計。(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成 (注)推定・予想は2025年2月7日時点のLSEG集計。[ ]内は2024年10-12月期決算発表が本格化する直前の2025年1月3日時点の集計。(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成 今回の決算発表シーズンが始まる直前の1月3日時点の集計では、前年同期比+8.1%の61.78ドルと予想されていました。2024年10-12月期は、決算実績がアナリスト予想を上回る企業の比率(ポジティブサプライズ比率)が引き続き多数を占めており、実績は上振れています。 (注1)ポジティブサプライズ比率は、S&P 500 企業のうち決算実績がアナリスト予想平均を上回った企業の比率。2024年10-12月期には、2024年9-11月期決算、2024年11月-2025年1月期決算企業も含む。(注2)直近4四半期平均とは2023年10-12月期~2024年7-9月期の平均。長期平均とは、売上高は2002年以降、純利益は1994年以降の平均。(注3)LSEGによる2025年2月7日時点(売上高について307社、純利益について308社)の集計。(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成 一方で、2025年1-3月期の予想については、直近の集計では、1月3日時点よりも下方修正されています。 (注)S&P 500 指数構成企業のリビジョンインデックス。リビジョンインデックスは直近4週間にアナリストが業績予想を上方修正した銘柄数/下方修正した銘柄数で計算。指数が1を上回ると上方修正優位、1を下回ると下方修正優位と判断される。直近値は2025年2月5日時点。FY1は予想1期目(12月決算企業の場合、2024年12月期)、FY2は予想2期目(12月決算企業の場合、2025年12月期)。(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成 年度EPSは引き続き拡大傾向を予想 次に、年度ベースでのEPS予想について、1月3日時点の集計と比較すると、2024年度については上方修正されている一方、2025年度は下方修正され、2026年度も小幅に下方修正となっています。 トランプ政権による関税政策で、米国内におけるサプライチェーンに影響が及ぶ可能性があります。このような環境下、追加関税の全体像が見えるようになるまでは、米国内における事業環境に慎重な見方をする企業も相応におり、業種によっては業績予想を慎重に見直しているアナリストもいるとみられます。 (注)予想はLSEGによる2025年2月7日時点の集計。[ ]内は2024年10-12月期決算発表が本格化する直前の2025年1月3日時点の集計。(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成 今後の留意点 業績予想は下方修正されている一方で、2025年度以降も業績拡大が続く見通しについては、変わりありません。 要因の一つには、AIの社会実装があると推察されます。関連する分野で事業を展開する企業群は、提供する新製品やサービスが世の中に普及することで、景気変動の影響を乗り越えて、業績を拡大していくと予想されていると推察されます。加えて、AIを活用する企業は、業務効率化や業容の拡大が期待されます。 今後、2024年11月-2025年1月期を決算期とする小売企業や、ソフトウエアなどの情報技術企業の決算発表が本格化します。これらの決算が発表された際には、決算実績に加え、会社業績見通しや経営陣のコメントなどを通して、情報技術業界の状況や、企業業績の動向を把握していきたいと考えます。 (野村證券投資情報部 村山 誠) ご投資にあたっての注意点
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02/16 09:00
【動画 3分チャート塾】シーズンⅢ:第9回 チャート分析実践編(1) 上値のメドを考えよう
「動画 3分チャート塾」は、株価チャートの見方を学びたい初心者から中級者の方向けの動画シリーズです。 今回は、これまで学んだことの応用として、上値のメドをさまざまな計算の仕方を使いながら探っていきます。 シーズン I:意外と知らないローソク足(全8回)ローソク足の基本の読み方や中長期的な相場の捉え方などについてわかりやすく解説していきます。シーズンII:相場の見方の強い味方、移動平均線(全9回)移動平均線の基礎や活用法についてわかりやすく解説していきます。シーズンIII:上値、下値のメドを探ろう(全10回)上値、下値メドの探り方についてわかりやすく解説していきます。シーズンIV:相場の過熱感を測るには?(全9回)オシレーター系指標についてわかりやすく解説していきます。シーズンV:トレンドラインを引いてみよう(全9回)トレンドラインについてわかりやすく解説していきます。 ご投資にあたっての注意点
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02/15 19:00
【来週の米国株】CPI上振れにも動じぬ株価、エヌビディア含む決算期の内容がカギ(2/15)
※執筆時点 日本時間2月14日(金)12:00 ■今週:CPI上振れでも株価は上昇 ※2月8日(金)- 2月13日(木)4営業日 関税の影響が懸念される中、1月CPI(消費者物価指数)が市場予想を上回り米長期金利(10年国債利回り)が上昇、株式市場の重石となった一方、AIの収益貢献が期待される情報技術銘柄が上昇し、株式市場を支えました。 CPI上振れで金利上昇 12日(水)の米国金融市場では寄り前に発表された25年1月のCPIが前月比+0.5%、食品・エネルギーを除くコアCPIが同+0.4%と、それぞれ事前の市場予想を上回り、前月から加速したことを受けて市場の利下げ観測が後退、国債利回りが上昇し、同日のS&P500指数とNYダウ指数は下落しました。 株価は安定感を強めている 強い雇用統計と穏当なCPIの組み合わせとなった今年1月からは一転し、2月は弱めの雇用統計と強いCPIの組み合わせとなりました。景気下振れとインフレ高止まりが示唆される中、先物市場が織り込む2025年中の利下げ観測は1回程度まで後退しましたが、主要株価指数は底堅さを見せ、CPI発表当日中に株式市場が織り込む変動率を示すVIX指数が小幅低下して引けるなど、米国株は安定感を高めている様子がうかがえます。 再「利上げ」はあるか? とはいえ、金利上昇が続けば株価には向かい風です。FRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長は下院金融委員会の公聴会で、「当面は景気抑制的な政策を維持したい」と前日に続き予見可能な将来において高水準の金利が続くことを示唆しました。3月FOMC(米連邦公開市場委員会)では、ドッツ(政策金利見通し)が12月会合からさらに上方修正され、市場と同様の1回以下へと修正される可能性が高まっていると言えます。 「20万人」「0.3%」がカギ 現時点では再度利上げに転じるケースはあくまでもリスクシナリオの位置づけですが、もし4-6月期以降も雇用統計の非農業部門雇用者数が前月差+20万人前後の高い伸びを続け、コアCPIが前月比+0.3%以上の高水準を示し続けているようなら、市場が利上げを意識する展開も想定されます。その場合には、米長期金利が5%を上回り、株価には下押し材料となるでしょう。 ハイテクのムードは明るい 半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC、ADRのティッカーはTSM)が10日(月)に発表した2025年1月の売上高(速報値)は、前年同月比+35.9%の2932億台湾ドルと1月の過去最高を更新しました。また、メタ・プラットフォームズ(META)が29日(水)の決算発表を挟んで19連騰中(2月13日現在)であるなど、ポジティブなニュースフローが相次ぎました。ディープシークショックも一巡し、IT大手はトランプ大統領が提案する相互関税の影響を受けづらいとの見方もあり、上昇しやすい環境が整っています。 ■来週①「相互関税」の行方 13日(木)に、トランプ大統領が相互貿易と相互関税に関する調査を指示する覚書に署名するなど、矢継ぎ早に政策を繰り出すトランプ大統領の一挙手一投足に対して市場の感応度が高い状態が続いています。相互関税の概念は、輸入相手国・地域の米国製品に対する関税率が米国の課す関税率より高い場合、米国が関税率を同率まで引き上げるか、輸入相手国・地域が、米国と同率まで引き下げることを求める政策方針です。商務長官候補のラトニック氏は、米国の貿易赤字が大きい順に、各国に個別に対応するとしており、4月1日を目途に調査を完了する方針を示しました。 EUやメキシコ、ベトナム等から開始か 覚書では、関税だけではなく、貿易相手国のその他の税制(付加価値税を含む)、非関税障壁・非関税措置、為替操作、その他の不公正な規制や貿易慣行も対象となり、最終的に互恵関税に相当する額を決定するとしています。調査結果次第ですが、少なくとも米国の貿易赤字が大きく、平均最恵国関税率が米国(3.3%)よりも1%以上高い、中国、EU(欧州連合)、メキシコ、ベトナム、台湾、韓国、インドについては、米国側が問題を指摘すると見込まれます。 実際の関税発動までには時間 今後、トランプ政権が実際に制裁関税を発動するまでには時間を要すると見られます。4月1日を目途に相互貿易と相互関税に関する調査が終了した後、改めて、既存の法制を用いて制裁措置を検討するための調査に入ると覚書には記されており、これらの調査を踏まえると、発動時期は2026年以降になると考えられます。また、そうした時間的な猶予の間に、貿易相手国との協議、交渉が始まることも考えられます。 一喜一憂せずに長期保有を 関税リスクは1週間単位の株価の変動要因として理解しておく必要がありますが、関税発動の難易度や各国との交渉に左右されるとみられることから、長期投資の目線では企業業績を判断基準とした投資判断を変更する必要はないと考えます。 ■来週②20日のウォルマートなど小売決算 今週からは、20日(木)のウォルマート(WMT)など、 2024年11月-2025年1月期決算の小売企業の決算発表が始まります。消費者の行動や、関税による業績・業績予想への影響について、他企業やマクロ経済への示唆が得られないか、確認したいと考えます。 なお、再来週には同四半期の決算発表が本格化し、26日(水)にはエヌビディア(NVDA)やセールスフォース(CRM)の決算を迎えます。来週以降、情報技術銘柄に関する業績予想やニュースフローが増え、株価の変動要因となるため注視したいと考えます。 (投資情報部 デジタル・コンテンツ課) ご投資にあたっての注意点 要約編集元アナリストレポートについて 野村オリジナル記事の配信スケジュール