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コメの品種から見る温暖化の進展と今後の農業の姿
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 シニア・コンサルタント 遠藤 暁 (2024年6月11日) はじめに スーパーの米売り場に行くと、一昔前には見られない様々な品種が見られるようになった。関東でよく見かけるのは、北海道の「ゆめぴりか」、青森県の「青天の霹靂」、山形県の「つや姫」、新潟県の「こしいぶき」や「新之助」、西日本では、岡山県の「きぬむすめ」、長崎県の「にこまる」、佐賀県の「さがびより」などである。かつては、冷害に強く食味に優れた品種が求められ、その代表は1956年に品種登録された「コシヒカリ」である。ところが、温暖化が進み、稲穂が出て受粉し発育・肥大する登熟期に高温にさらされると、コシヒカリは白濁した未熟粒やコメの中心が割れる胴割粒の発生が多くなってきた。各農家は、様々な栽培技術を駆使して高温対策に奮闘しているが、栽培技術だけでは限界がある。そのため、近年の品種開発では、食味は「コシヒカリ」と同等かそれ以上で、暑さに強い品種が求められており、品種改良の方向性は180度転換している。 1.コメの品種別作付面積比率の変遷 品種別の作付面積の変遷を、公益社団法人米穀安定供給確保支援機構(以下、「米穀機構」という)のデータで確認してみると、「コシヒカリ」が全国の作付面積の3割強を占め1位であることは不変だが、その比率は年々減少しており、他の品種が増えていることが分かる(図表1)。この品種別作付面積比率の推移で象徴的なのは青森県の「つがるロマン」だ。「つがるロマン」は、1996年に青森県の推奨品種に選定され、耐冷性と耐病性に優れて多収で食味が良い品種として、特に津軽地域で栽培されてきた。全体のバランスが良く、和食に合うという評価を得ていたが、高温に弱く、胴割粒が発生しやすいこと[1] などから徐々に作付面積が減少し、2010年時点ではトップ10に入っていた品種別作付面積比率は2015年には13位にランクダウンし、2020年にはトップ20から姿を消した [2]。2024年4月現在、青森県の推奨品種として残ってはいるが、既に種子の流通は終了している。 また、北海道の「きらら397」も「つがるロマン」と同様、年々ランクが低下し、2021年にトップ20から外れた。「きらら397」は、北海道米は食味で劣るという評価を覆した画期的な品種であったが、高温時には収量が頭打ちになってしまうことや、より食味に優れた「ななつぼし」や「ゆめぴりか」への転換が進んでいることが作付面積比率ランキング低下の背景である。 一方で、直近3年間のトップ10までの品種は、下位の品種で年によって多少の入れ替えがあるが、顔ぶれは基本的に変わらない。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下、「農研機構」)の研究結果[3] によると、トップ10に入っている「コシヒカリ」「ひとめぼれ」「あきたこまち」「はえぬき」の高温登熟性[4] は「中」と評価されており、現状は栽培技術により、高温下においても品質をある程度確保できていると推測される。一方で、「ヒノヒカリ」や「彩のかがやき」は「弱」と評価されており、「ヒノヒカリ」の面積比率が低下してきていることと、「彩のかがやき」の作付面積比率順位が上がってこないことの一つの理由と考えられる。トップ20に含まれる高温登熟性に優れた品種としては、「つや姫」と「きぬむすめ」があり、どちらも作付面積比率は上昇傾向にある。 図表1 品種別作付面積比率の推移 (注)青マーカーは高温登熟性に劣る品種、赤マーカーは高温登熟性に優れた品種(出所)米穀機構「品種別作付動向」各年度データより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 2.温暖化とコメの食味ランキングの関係 そもそも、亜熱帯の植物であるイネは、寒さが弱点である。戦後の食糧難の時期を経て、収量の確保は耐冷性の確保と同義であり、夏季の低温にいかに耐えられるかが主食であるコメ生産の大きな課題であった。気象庁がまとめた1954年以降に発生した農業被害額が500億円以上の冷害発生状況(図表2)を見ると、1960年代から90年代は数年おきに冷害が発生しており、20年ほど前までは、冷害対策が重要だったことが分かる。特に被害額が大きかった1993年は「平成の米騒動」とも呼ばれ、国内でコメが不足し緊急輸入せざるを得なくなり、それまで政府が頑なに拒んでいたコメ輸入の自由化に繋がってしまうほどの大きなインパクトを与えた。また、この年の作況指数[5]は、ゼロという地域も出て、米農家が翌年の種籾を確保できなくなるほどの異常事態であった。全国平均の作況指数では、「著しい不良」と評価される90を大きく下回る74が記録されている。なお、6,919億円の被害を出した1980年の冷害発生時の作況指数(全国平均)は87であったため、それを13ポイントも下回る戦後最大の冷害被害であった。 図表2 農業被害額500億円以上の冷害一覧 (出所)気象庁「災害をもたらした気象事例(長期緩慢災害)」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 しかし、大規模な冷害は2003年を最後に発生していない。温暖化が進行しているためと考えられ、より身近なコメの食味ランキング[6]からもその傾向が窺える。 北海道の「ななつぼし」は2010年から14年連続して、「ゆめぴりか」は2011年から13年連続して「特A」を取っている。本州とは気象条件が大きく異なるため、北海道では独自に品種改良が行われてきた[7]。不断の品種改良と栽培技術の開発による食味や収量の改善に加えて、温暖化の進展により北海道の気候が一般的なイネの生育に適したものに変わってきたことも、北海道を良食味米の産地に変えた一つの要因になったと考えられる。 また、同じく2010年から14年連続して「特A」を取り続けている品種に、佐賀県の「さがびより」がある。高温登熟性が弱い「ヒノヒカリ」の収量や品質が低下してきたことを受けて、高温登熟性に優れて良質多収で食味が良い品種として開発された品種である。実際に本格的に栽培が開始された2010年とその翌年2011年は高温年だったが、収量、品質の低下は少なく、「特A」も取得しており、高温に強いことが実証されている。 さらに、気象庁が発表している年平均気温偏差のデータ(図表3)では、2019年から2023年は、各年の平均気温の基準値からの偏差が大きく、直近数年間の食味ランキングを見ると、高温登熟性に優れた品種が「特A」を取っているのが目立つ。2016年以降、8年連続の岡山県の「きぬむすめ」、2017年以降、7年連続の高知県の「にこまる」は、いずれも農研機構が育成した高温登熟性に優れた品種である。特に「にこまる」は、2010年の高温年に、熊本県において、高温登熟性に劣る「ヒノヒカリ」の一等米比率が11%だったのに対し、92%という抜群の成績を残している[8]。なお、異常高温年だった2023年産の「特A」取得の43産地・品種のうち、6割に当たる25産地・品種は、高温登熟性に優れると評価されている品種である(図表4)。 図表3 日本の年平均気温偏差 細線(黒):各年の平均気温の基準値からの偏差太線(青):偏差の5年移動平均値直線(赤):長期変化傾向基準値は1991〜2020年の30年平均値(出所)気象庁「日本の年平均気温」(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_jpn.html) 図表4 2022年産または2023年産が「特A」と評価された産地・品種・地区の過去の「特A」取得状況 (注)赤マーカーは高温登熟性に優れた品種(出所)一般社団法人日本穀物検定協会食味ランキングより野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 3. 今後の農業の姿の予測 ここまで見てきたように、温暖化の進行は農産物の生産現場に大きな変化を促している。今後の農業がどのように変わっていくのか、3つの大胆な予測をしてみたい。 まずは、生産地としての北海道の評価が高まっていくだろう。コメの品質の高さは前述の通りであり、既にダイズやジャガイモ、タマネギ、カボチャ、スイートコーンなど多くの農産物が全国一位の生産量を誇るが、今後さらに北海道が食料供給に果たす役割が増していくと予想される。一般的な農産物以外に、2019年3月に農林水産省が公表した「気候変動の影響への適応に向けた将来展望」では、醸造用ぶどうの栽培適地が北海道の大部分に広がると予測されている(図表5)。ワイナリーは、典型的な6次産業化の例であり、年間を通じて雇用が発生する点で、地域経済への貢献も大きい。北海道立総合研究機構(旧道立農業試験場)では、1980年代から醸造用ぶどうの研究が行われており、現在、改訂第4版となる「醸造用ブドウ導入の手引」が発行されている。醸造用ぶどう生産量、ワイナリー数ともに増加傾向にあり、この動きも加速していくとみられる。象徴的な事例として、フランス・ブルゴーニュで300年以上の歴史を誇るドメーヌ・ド・モンティーユが函館市に進出し、2019年に苗木を植えている。ぶどうは丁寧に管理すれば、100年以上生き続け、20年以上経った古樹からは良いブドウが取れ、高品質なワインができるため、今後の気候変化によって、北海道が世界の銘醸地に仲間入りする可能性がある。 図表5 北海道における醸造用ぶどうの栽培適地の変化(RCP8.5[9]シナリオ) (出所)農林水産省(2019)「気候変動への影響への適応に向けた将来展望」 次に、「コシヒカリ」を超える新たなコメ品種が開発されると予測する。日本国内での品種改良は冷害との闘いであり、また、縄文時代後期にイネが伝来して以来、3000年の間に冷害に強い品種が生き残ってきた。今後は、東南アジアなど他の地域の品種と掛け合わせることで、画期的な品種を生み出す方向にいくのではないだろうか。自然農法家の間でよく知られる「ハッピーヒル[10]」というコメ品種は、第二次世界大戦の終戦に際し、ビルマの奥地から持ち帰った品種と日本の品種を交配して固定した品種で、病気や猛暑に強い特徴を持つ。このような別地域の遺伝子を取り入れた品種改良の余地がある。また、2017年3月に東京大学が、遺伝子改変により、「イネの開花時期を自由にコントロール可能」という研究成果[11]を発表している。もちろん、各県レベルでも品種改良は続けられており、今後も高温登熟性に優れた品種が出てくるだろう。 埼玉県では、イタリア野菜の栽培が盛んになってきている。日本の気候風土に合わせてイタリア野菜の品種改良を行っている種苗会社を中心に、生産者や行政が一体となって普及に努めたことと、日本国内には1万軒を超えるイタリア料理店があり、イタリア野菜の需要が大きいことが背景にある。コメは日本の食文化の要であり、和食の海外での人気の高さを考えると、地球規模で温暖化がさらに進行していく将来には、暑さに強く圧倒的に食味に優れるコメ品種を開発し、日本独自の栽培技術と合わせて、食文化と共に海外へ輸出するようなビジネスの展開も考えられる[12]。 予測の最後が、農業の無人化だ。無人化の第一歩は、人口の減少と過疎化の進展により農地の集約化が起こってくることである。また、温暖化に対応していくためには高度な栽培技術が求められるようになり、資本力や技術力が不足する農業生産者は淘汰されていくことも想像に難くない。その結果、資本力と技術力を兼ね備えた大規模経営体による集約化した農業がおこなわれるようになり、現状よりもさらに機械化が進んでいくと予想される。また、温暖化が今以上に進んでいくことは避けられない未来であり、外での作業そのものが危険となってくると予測する。昨年(2023年)の夏の暑さはこれまで経験したことがない水準であった。環境省の熱中症警戒アラート[13]の東京での発出状況を見ると、2023年は7月10日に初めて出され、8月までに計26回発出されている(図表6)。2022年は10回、2021年は7回、2020年は17回だったため、かなり多いことが分かる。今後は、7月から8月は、外出すること自体を避けるような社会になっていく可能性が考えられ、農業の無人化が現実味を帯びてくる。トラクターの自動運転は、有人監視下での自動化(いわゆるレベル2)は既に商用化されており、次の段階の完全無人化(レベル3)の実証が進んでいる。圃場を遠隔操作で走行するだけでなく、トラクターの後方に付ける各種作業機交換の自動化も実現しており、技術的にはほぼ完成の域に達している。農業の無人化の実現は、社会受容の段階であり、その最後の一押しが温暖化の進展である。 図表6 熱中症警戒アラートの年別発出状況(東京) (出所)環境省 熱中症予防情報サイトのデータより野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 おわりに 世界大会も開かれているゲームの一つに、「ファーミングシミュレーター」という農林業のシミュレーションゲームがある。プレイヤーは自らトラクターなどを駆使して農業生産を行うが、作業機の交換は近くまで行くと自動で行われるようになっている。収穫作業は「ヘルパー」と呼ばれるキャラクターに任せることも出来るため、自動化されていると言っても良い。むしろ、どの圃場を取得し、どういった機械を購入し、どのような肥料をいつ、どれだけ撒くか、圃場や農業機械だけでなくサプライチェーン上の下流にあたる加工場に設備投資する、といった経営面にプレイヤーは気を配ることが重要になる。また、2012年に放送されたアニメ「PSYCO-PASS サイコパス」が描く西暦2112年の世界では、遺伝子組み換えされた麦によって日本は食料自給率99%を実現しており、北陸地方一帯が穀倉地帯となっている。当然ながら農作業は全て自動化されて、麦畑に人の姿はない。温暖化の加速を年々実感している中で、そう遠くない未来にゲームやアニメの世界のように、農業は無人化・自動化し大規模化していくのかもしれない。 以上 ●情報提供:野村證券株式会社 フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部(旧 野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社)レポート一覧(外部リンク) [1] 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の研究により、「つがるロマン」は、寒冷地北部早生熟期の胴割れ耐性の「弱」の基準品種として選定されている。 [2] 2019年度の「つがるロマン」の順位は、第16位(0.8%)だった。 [3] 農研機構次世代作物開発研究センター2017年成果情報「北海道を除く全国の水稲高温登熟性標準品種の選定」 [4] 高温によって白濁した未熟米が発生し玄米品質が低下することを指し、高温登熟性が高い品種は未熟米が相対的に少ない。 [5] 10アール(=1,000㎡=約1反)当たりの平年の収量を100として、その年の収量を示す指標。106以上で「良」、102~105で「やや良」、99~101は「平年並み」、95~98が「やや不良」、91~94が「不良」、90以下が「著しい不良」と区分される。 [6] 一般財団法人日本穀物検定協会が実施している炊飯した白飯を試食して評価する官能試験で、複数産地のコシヒカリをブレンドしたコメを基準米として、各産地米と比較して、劣るものを「B’」、やや劣るものを「B」、概ね同等のものを「A’」、良好なものを「A」、特に良好なものを「特A」として評価し、結果を食味ランキングとして公表している。評価項目は、外観、香り、味、粘り、硬さ、総合評価の6項目となっている。 [7] 本州の品種(一般的なイネ)は、日が短くなると穂が出る性質を持っているのに対して、北海道の品種は日の長さとは無関係に暖かくなると穂が出る性質を持っている。そのため、本州の品種を北海道で育てると、穂が出ても寒さのため実が大きくならず、逆に北海道の品種を本州で育てると、株が小さいうちに穂が出て収量が少なくなってしまう。 [8] 農研機構 九州沖縄農業研究センター 「にこまる」の育成(https://www.naro.go.jp/laboratory/karc/contents/ondanka/ondanka2/) [9] 2081~2100年の世界の平均気温が工業化以前と比較して3.2~5.4℃上昇する予測シナリオを指す。 [10] 自然農法家の福岡正信氏によって1986年に固定された。乾燥に強く、陸稲としても育つ。品種名の由来は「福岡」の英訳。福岡正信氏は世界20か国以上で出版された「わら一本の革命」の著者としても有名である。 [11] 花芽を形成する遺伝子と抑制する遺伝子を改変し、ある種の市販農薬を散布した時のみ40~45日後に開花するイネを開発した。詳細は、東京大学大学院農学生命科学研究科プレスリリース参照(https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2017/20170330-1.html) [12] 美味しいコメを炊くには、水も重要であり、軟水にする装置などの開発も考えられる。また、炊飯器も重要な要素であり、炊飯器の拡販にも繋がっていく。 [13] 熱中症警戒アラートは、外出を控えるなど、涼しい環境への避難を推奨するものであり、特別な事情が無い限り、屋外での運動は禁止としている。 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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フード&アグリテック・スタートアップのグローバル事業環境と今後の展開シナリオ - 国内大手企業の新規グローバル参入機会 -
執筆:野村證券株式会社 フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 エグゼクティブ・ディレクター 佐藤 光泰(2024年6月11日) はじめに 2022年以降の世界的な物価高と各国による金融緩和政策の転換などを受けて、海外スタートアップ各社の資金調達を取り巻く事業環境が大きな曲がり角を迎えている。ESGやSDGs、エシカル消費、脱炭素、動物福祉などをテーマに、グローバルで注目を集めてきたフード&アグリテック業界もその例外ではない。 本稿では、フード&アグリテック業界のスタートアップを取り巻くグローバル環境を俯瞰した後、スタートアップが今後取り得るシナリオを展望する。最後に、日本企業のビジネス機会について触れたい。 1.スタートアップのグローバル資本調達環境 スタートアップの資金調達は2010年代半ばから増加の一途を辿ってきた。米国・CB Insightsによると、世界のスタートアップ資金調達額は2016年から上昇を続け、2021年には前年比2倍強の約6,500億USドルに達した。各国の金融緩和政策による世界的な「カネ余り」を背景に、また、2015年に国連で「持続可能な開発目標」が採択されたことを機に投資テーマが多様化し、スタートアップ投資がグローバルで旺盛となった。 しかし、2022年に大きな転換機を迎えた。同年第1四半期の調達額は前四半期比で7四半期ぶりのマイナスとなった。その後は断続的に調達額が前四半期比で減少し、2023年第4四半期は528億ドルと、直近のピークであった2021年第4四半期から実に約7割減少した。この背景には、①ロシアによるウクライナ侵攻の長期化による世界的な資源高、それらに伴う原材料価格の高騰(高止まり)、②金融政策の歴史的な転換(金融引き締め)に伴う金利の急激な上昇と流動性の縮小、③これらを要因とした新興市場の混乱などがあった。また、世界のスタートアップ投資額のおよそ半分を占める米国において、これまでスタートアップ投資の主要な「イグジット・プラン」であったSPAC(特別買収目的会社)上場の道が、2022年5月の米国証券取引委員会による実質的な規制強化により、ほぼ閉ざされてしまったことも主因の一つであろう。 最新のデータである2024年第1四半期の同調達額は、前四半期比11%プラスの584億ドルと復調の兆しを見せ始めたものの、その金額は依然として、スタートアップ投資が急増した直前の2019年の水準に留まる。また、本質的には、投資会社によるスタートアップ投資の基準や視点は、2022年を機に大きく見直された。脱炭素やAIなど、世界規模で市場成長に資するテーマ選別に変化はないとしても、これまで以上に個々のスタートアップにおける「収益化の目途」が大きく意識されるようになった。国や業界を問わず、グローバルでスタートアップ各社の「生き残り戦略」がはじまっている。 図表1 スタートアップのグローバル資金調達額推移 (出所)CB Insights「State of Venture Q1’24 Report」などより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 2.フード&アグリテック業界のグローバル事業環境 この傾向はフード&アグリテック業界も全く同じである。米国・AgFunderによると、フード&アグリテック業界のスタートアップ資金調達額は、2016年から年平均成長率(CAGR)29%で増加し、2021年には530億ドルに達した。しかし、その年をピークに下落に転じ、2022年は前年比41%減、2023年も同48%減と、2年連続で大幅に減少した。この間の四半期別データをみると、2023年第3四半期に、8四半期ぶりに前四半期比でプラスに転じたものの、調達額は2017-18年の水準に戻った。 図表2 フード&アグリテック・スタートアップのグローバル資金調達額推移 (出所)AgFunder 「Global AgriFoodTech Investment Report 2024」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 2022年以降のフード&アグリテック・スタートアップを取り巻くこのような資本調達環境の急変は、当然ながら、各スタートアップの成長戦略に大きく影響を与えただけでなく、企業存続にも影響した。 フード&アグリテック業界を代表する成長分野として期待されている植物工場セクターもその例外ではなく、2022年の後半以降、経営環境は「180度」転換した。構造的に光熱費が製造コストの3-4割を占める植物工場は、2022年以降の世界的な資源高に伴うエネルギーコスト急騰の影響を直に受けた。また、投資家からの継続的なエクイティ調達が可能な前提で研究開発投資を最優先にしていたスタートアップも多く、資本市場の流動性相場が終焉するとともに資金調達環境が激変し、資本政策に大幅な狂いが生じた。結果、業績面は増収にも関わらず、資金繰りに窮して法的整理を申請する企業が相次いだ。 例えば、米国ペンシルベニア州のFifth Season(2016年設立)は、業界に先駆けて、野菜栽培からサラダキット製造までのプロセスを完全自動化した植物工場を開発し注目を集めていた。しかし、2022年中旬に予定していた資金調達が難航し、同年11月にChapter 7(連邦破産法第7章:清算型倒産処理手続)を申請し全ての事業を停止した。その時点の累計資金調達額は3,500万USドルで、当時稼働していた工場の3倍の規模の日産1.8トンの商業工場をオハイオ州で建設していた最中でもあった。 また、フランス・パリのAgricool(2015年設立)は、独自開発のコンテナ型植物工場で栽培したレタスやバジル、イチゴを既に上市していたが、資金繰りの悪化が主因で、2022年12月、民事再生手続きを開始した。それまでに、フランスを代表する多国籍企業のダノンなどから累計3,800万ユーロの資金を調達していた。 資源高や金融引き締めの影響はユニコーン(筆者定義:累計資金調達額で2億ドル以上、以下同じ)も例外ではない。植物工場の世界的なパイオニア企業の1社で、全米2千を超える食品小売店へマイクログリーンを販売する米国ニュージャージー州のAeroFarms(2004年設立)は、2023年6月にChapter11(米国連邦倒産法第11章:再建型企業倒産処理)を申請した。植物工場への成長期待と知名度を背景とする投資家からの継続的な資金調達をもとに、先行的な研究開発投資に傾注していたが、2022年後半以降、資本市場の環境が激変したことで資金調達が困難になりはじめた。結果、バランスシートが一気に悪化し、法的整理の申請となった。申請時の累計資金調達額は2.4億ドルに達していた。 同じくユニコーンで、欧州最大の植物工場プレーヤーであるドイツ・ベルリンのInFarm(2013年設立)は、最盛期には日本を含む約10カ国で事業を展開していたが、資金調達環境の変化に伴い、2023年以降、各国子会社の法的整理(破産申請)を実施した。食品小売店内に「出店」する競合他社と一線を画するモデルで注目を集め、累計資金調達額は当セクター世界第3位の6億ドルを誇る。 図表3 2022年後半以降に法的整理を申請した主な植物工場スタートアップ (出所)各社プレスリリース、Crunchbase、PitchBook、Craftより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 3.フード&アグリテック・スタートアップの今後の事業展開シナリオ このような厳しい環境がいつ終焉するのかは見通しにくいが、「持続的成長」を前提とした場合、フード&アグリテック業界のスタートアップが今後取り得るシナリオは大きく4つに分けられる。 (1)持続的成長シナリオ 1つ目のシナリオは、基本的にはこれまでの資本政策と事業計画を推し進め、必要に応じて資金調達を行いながらスケール化し、IPO(株式上場)に向けた持続的成長を目指すパターンである。もちろん、この戦略を採ることができるのは、①投資家と約束したマイルストーンを達成している相対的に業況の良いスタートアップと、②資本調達環境が急変した2022年半ばまでに大型の資金調達ラウンドを完了した(当面の資金調達が不必要な)スタートアップなどに限定される。 前項と同じく植物工場セクターを例にとると、前者(①)の事例として、有機土耕型植物工場とイチゴ植物工場のそれぞれパイオニアであるSoli Organic(米国)とOishii Farm(同)、そして、施設園芸セクターの累計資金調達額で世界首位のGotham Greens Farms(同)などが該当する。各社は技術開発と製品ローンチなどのマイルストーン実績が奏功し、Soli Organicは2021年末にDecennial Group(米国大手不動産投資会社)から1.2億ドルの資金調達協定(複数の新工場の建設資金)を、また、Oishii Farrmは2024年2月末に総額1.3億ドルの資金調達ラウンド(シリーズB)を、そしてGotham Greens Farmsは2022年9月に総額3.1億ドルの同ラウンド(シリーズE)をそれぞれ完了させている。 また、後者(②)の事例では、植物工場セクターの累計資金調達額で世界第2位、同売上高で世界首位の Bowery Farming(同)や、トマト植物工場のパイオニアである80 Acres Farms(同)などが該当する。Bowery Farmingの累計資金調達額は6.5億ドル、80 Acres Farmsは同2.8億ドルに及ぶが、2022年下半期以降は資金調達ラウンドを実施していない。2023年に筆者が実施した両社への現地インタビューでは、「当面必要な資金は確保済み」と明言している。その証拠に、両社ともに、2023年中に大型の商業工場を竣工・開設させたとともに、2024年下期中にも同規模の大型工場の竣工を予定している。 このシナリオに該当するスタートアップは、一般的には現時点の「勝ち組」と考えられ、今後もグローバルでセクターを牽引していくことが期待されている。 (2)「ダウンラウンド」による持続的成長シナリオ 2つ目のシナリオは、これまでの資本政策と事業計画を推し進めるための必要な資金を、「ダウンラウンド(前回増資時の株価を下回る価格での新たな増資実行)」で調達しながら、持続的成長を目指すシナリオである。ダウンラウンドのため、当然、創業オーナーや既存株主の持分割合を犠牲にせざるを得ないが、引き続き、現経営陣が当初ビジョンとオーナーシップを持ち、当初事業計画を推進する点で、後述の2つのシナリオとは意味合いが異なる。 このシナリオは、フード&アグリテック業界全般のセクターに共通するが、特に、農業ICTや生鮮ECなどの「デジタル・プラットフォーム系」スタートアップが圧倒的に多い。筆者は当プラットフォームを、主に、生産分野の「農業生産プラットフォーム」と流通分野の「生鮮流通プラットフォーム」の2つに区分しているが、昨今、ダウンラウンドを実施しているスタートアップは、累計資金調達額が2億ドルを超えるユニコーンが多いのが特徴である。 特に、後者の生鮮流通プラットフォームにおいては、注文から1時間内の「超」短時間配送を特徴とするECスタートアップ企業群の「Qコマース」と呼ばれるサブセクターにおけるダウンラウンドが顕著である。背景には、この分野には、累計資金調達額が筆者定義で20億ドルを超える「ギガコーン」と呼ばれるスタートアップが多いことがあげられる。 両プラットフォームに共通する収益構造として、非常に高い損益分岐点(営業レバレッジ)がある。単月ベースの営業CF(キャッシュフロー)の黒字化には、トップライン(売上高)の大幅な向上、引いては断続的な先行投資が不可欠となる。もちろん、これらの会社のレベルになると、単に特徴的な製品やサービスを開発して上市しているだけに留まらず、既にそのモデルを様々な地域と国でスケール化(横展開)しているスタートアップが多い。 しかし、黒字化には未だトップラインが足りず、そのための投資資金が必要となる。2022年半ば以降の新興市場の類似企業評価額などを勘案すると、これらの会社は既に時価総額が膨らんでいることもあり、直近ラウンドの評価額ではまとまった資金が調達しにくい環境となった。その結果、各社は、背に腹を代えられずに大幅なダウンラウンドを実施せざるを得ない。企業評価の見直し幅は決して小さくないが、基本的に期待先行で膨らんだ「企業評価額の修正」と考えられる企業もあり、必ずしも各社の製品やサービス、収益モデルの「否定」を意味しない。 (3)事業構造再構築による「再」成長シナリオ 3つ目のシナリオは、不採算事業(拠点・エリアなど含む)の縮小や撤退、統廃合、固定費削減などの事業構造を再構築しながら再成長を模索するシナリオである。このシナリオは、厳密には上述のシナリオ2と重なる部分はあるものの、ダウンラウンドで資金を調達することで「収益化の目途が立つのかそうでないのか」が判断基準となる。つまり、現在の収益モデルの延長で、近い将来、月次ベースの営業CFの黒字化が見通せるかどうかである。スタートアップの創業オーナー(CEO)が事業構造の再構築を自ら判断するケースもあるが、その数は極めて少なく、現実的にはニューマネーを投下する既存株主や新たな投資家の判断に依ることが多い。 前項で述べた事例では、いずれも植物工場セクターのユニコーンであるAeroFarmsとInfarmがこのシナリオに該当する。AerfoFarmsは、2023年6月にChapter11を申請後、債権者と株主が主体となり、①創業CEOの退任、②商業工場を収益性の高いバージニア州の最新工場のみに集約、③当工場や関連資産を既存投資家が新設する資産所有会社へ譲渡(流動化)などの再建プランをまとめた。再建資金として、既存株主であるAbu Dhabi Investment Officeなどから7,077万ドルを調達すると同時に、唯一の商業工場として残すバージニア州の最新工場の増強に寄与しない全てのプロジェクトの支出が排除された。この計画はスムーズに進行し、同年9月に債権者や裁判所の承認を得て再建プロセスは完了した。その結果、当社のバランスシートは大幅に改善・強化され、稼働工場の縮小により売上高は再建前比で減収となったものの、赤字幅は大幅に縮小し、2024年中の黒字転換を目指している。 また、Infarmは、2022年半ばに業界環境が急変すると、同年11月に従業員のおよそ半数にあたる約500名の解雇を軸とするリストラクチャリング・プランを発表した。当時、破竹の勢いで資金を集めていた植物工場セクター全体に大きな衝撃をもたらしたが、競合他社が戦略の見直しに躊躇している中で、他社に先駆けていち早く抜本的な事業構造の見直しに着手した経営判断には、称賛の声もあった。当プランは、主に、①従業員の半数(約500名)解雇、②収益化への道筋を描けていない不採算事業(拠点・エリア)の撤退の2つであり、これらを早期に実施することで事業構造自体を再構築し、「18カ月以内の黒字転換を計る」ことが表明された。 当計画に沿い、2023年に入り、デンマーク、英国、日本、フランス、オランダ、ドイツに展開していた各国子会社(一部支店含む)が閉鎖(破産申請)され、本社があるドイツを含む欧州市場から完全撤退した。その後、従来事業の拠点をカナダ・トロントに移し、収益化が見込まれる北米市場に専念するとともに、再生可能エネルギー源が豊富な中東市場における新事業の立ち上げを計画する「再」成長戦略がスタートした。 上記2社は、ダウンラウンド調達(シナリオ2)が可能であったかもしれない。しかし、目先の資金調達で「延命」をするのではなく、これまでの拡大路線を改め、痛みは伴うが営業CFを黒字化できる(自社のCFで事業を回すことができる)「筋肉質」の事業構造への転換を決断した。スタートアップ経営者において、一時の迷いは将来の大きな致命傷となる。スタートアップを取り巻く事業環境が世界的に激変している事実を受け止め、自らの事業を客観的に分析できる経営判断が求められている。 (4)大手企業傘下入りによる持続的成長シナリオ 4つ目のシナリオは、大手企業の傘下に入って持続成長を目指す方向性である。ケースバイケースではあるが、創業オーナーが引き続き子会社の社長となるケースが多い。創業オーナーからみると、シナリオ2や3と異なり自らのオーナーシップは失うものの、大手企業の経営資源を活用して、創業オーナーが引き続き研究開発や事業展開に邁進できる環境が整う。 シナリオ2や3のような状況下で大手企業の傘下入りを選択(決意)する創業オーナーもいれば、スタートアップ創業時の「死の谷」を乗り越えた段階、つまり、これから成長段階に入るタイミングで早々に大手企業のグループ入りを選ぶ創業オーナーも少なくない。そのような創業オーナーは、「自社ビジョンや技術、製品の社会への早期普及」が最優先であり、そのための最適手段として大手企業の傘下入りを選択することが多い。 例えば、農業ロボットのセクターにおいて、自律型除草ロボットの世界的なパイオニアであるBlue River Technology(米国)は、世界初の自律型除草剤噴霧ロボット「See & Spray」をローンチする直前の2018年に、世界最大の農機メーカーであるJohn Deereに傘下入りした。当製品は、ほ場内を自律走行しながら画像認識アルゴリズムで特定の作物を検出し、搭載しているモジュール型のスーパーコンピューティングで画像処理し、雑草のみに除草剤をピンポイントで散布することができる。世界で数十億ドルといわれる除草市場の省力化に資する自律型ロボット製品であり、大幅な省力化に加えて、従来作業と比較して除草剤使用量を9割削減できるという。2011年の創業以降、研究開発課題をはじめとするマイルストーンをクリアしながら順調に投資家から資金を調達していたが、創業オーナーは、当社製品の早期のグローバル普及の実現には、既に潜在顧客をグローバルで有しているJohn Deereの傘下入りが最適と判断した。 また、グリーンハウスのセクターでは、米国ニューヨーク州のグリーンハウス・ユニコーンであるBrightFarmsが、2021年8月に米国大手コングロマリット企業・Cox Enterprisesのクリーンテック部門の傘下に入った。当社は2011年に設立以降、バージニア州やオハイオ州、ペンシルベニア州、ノースカロライナ州、イリノイ州で、5つのハイテク大規模農場を急速に展開してきた当セクターのパイオニア企業の一社である。Coxに買収された時点で既に2.1億ドルを調達済みで、継続調達の選択肢もあったが、当社ビジョン「より多くの消費者へ、最も新鮮で、最もおいしく、最も清潔で、最も責任を持って栽培された農産物へのアクセスを提供する」の早期実現に向けて、大手企業の傘下入りを決断した。BrightFarmsの創業者兼CEOであったSteve Platt氏は、引き続き同社CEOとしてCoxの子会社で指揮を執り、Coxの経営資源を活用しながら事業成長を継続している。 これまでフード&アグリテック・スタートアップの持続的成長に向けた今後の事業展開シナリオを4つ紹介してきたが、もちろん、事業継続を断念する「廃業」の選択肢もある。また、特にシナリオ3においては、事業や資産を売却するケースも伴い、その過程で技術や人材の流動化も進む。シナリオ1または4を採るスタートアップにとっては、これら流動化した優れた技術や人材、資産を調達する好機でもある。昨今、特にフード&アグリテックの各分野で専門知識を有する人材の移動は、日本を含むグローバルで推進している。 図表5 フード&アグリテック・スタートアップの今後の事業展開シナリオ (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部 5.国内大手企業の新規グローバル参入機会 海外フード&アグリテック・スタートアップのこのような環境下において、日本企業のビジネス機会をどう捉えるか。筆者は、本分野で出遅れ感のある日本企業のビジネス機会が多分に存在するものと考えている。例えば、これまで日本企業ではコンタクトが難しかったユニコーンへの資本業務提携をはじめ、有望な技術や製品、サービスを有する海外スタートアップの自社グループへの取り込みも可能かもしれない。 日本企業のビジネス機会は、大きく2つに集約される。一つは、フード&アグリテック市場が既に開花している欧米市場の開拓戦略である。シナリオ2・3・4の状態にある欧米スタートアップへの経営参画または資本業務提携を通じて、フード&アグリテック業界の「本丸」マーケットに参入する好機であろう。日本企業の中には、現地拠点を経由した市場アプローチを試みている企業があるものの、思うような成果が現れていない。一般的に日本企業は経営の自由度が高い「フルスクラッチ」での参入を試みる傾向が強いが、現地で調達・物流・流通網を有するローカルのスタートアップを通じたアプローチが有効なことは言うまでもない。もちろん選別は必要だが、シナリオ2または3に属する欧米スタートアップの中には、優れた技術や現地サプライチェーンなどの稀有なネットワークを有するスタートアップは確実に存在している。 もう一つのビジネス機会は、欧米スタートアップと連携した日本またはアジアにおける共同市場開拓である。例えば、シナリオ1に該当するスタートアップと連携して、日本やアジア市場を開拓できる潜在機会が高まっている。筆者は2023年1月から3月にかけて、多くはシナリオ1に該当するフード&アグリテック業界のスタートアップを50社ほど訪問したが、日本を含むアジア市場への進出に対する関心の高さは予想以上であった。背景として、「競合他社が(資金調達などで事業展開に)苦しんでいる中、余裕のあるうちに新市場などへの進出で“先行者利益”を得たい」旨を述べるユニコーン経営者が多かった。その際、日本を含むアジア市場への進出の際には、現地企業との協働が「不可欠」との認識である。連携における課題は多々あるものの、優れた技術や製品、サービスを有する著名な海外ユニコーンとの連携は、本分野の事業開発を検討する日本企業においても大きなビジネス機会と捉えられよう。 おわりに 2019年5月、植物肉のパイオニアであるBeyond Meat(米国)がNASDAQ市場に上場し、一時、100億ドルを超える時価総額を付けた。その後、投資家の高い成長期待に業績が追いつかず、今は当時の20分の1程度の株価に甘んじている。確かにフード&アグリテック業界は、環境や動物福祉などの社会課題への意識が高い欧米で先行的に市場が興隆しているが、未だにグローバルで市場が拡がり切れていない。個別セクターでみても、実は「植物ミルク」以外の分野では黎明期を脱していない。しかし、2000年を境に「ITバブル」が弾けて以降、IT業界がグローバルで持続的成長を達成してきたように、脱炭素社会に向けたビジネスの枠組みがグローバルで構造的に変化していく中、フード&アグリテック業界が果たす役割は大きい。 本稿で述べてきたように、フード&アグリテック業界は過度な成長期待が一服し、各セクターにおける海外スタートアップの優勝劣敗も明確になりつつある。まさに「これからの市場」であり、遅きに失する状況でもない。かつて、セブンイレブン・ジャパンが米国・7-Elevenをグループ化したように、現在のフード&アグリテック業界の状況をチャンスと捉え、技術や製品、サービスで先行する海外スタートアップとの連携を通じて、「日本風にアレンジして国内市場に再投入する」といった新たな価値を提供する日本企業の出現に期待したい。 ●情報提供:野村證券株式会社 フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部(旧 野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社)レポート一覧(外部リンク) ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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06/14 12:00
【今週のチャート分析】日経平均株価、上値抵抗の75日平均線を突破なるか注目
※画像はイメージです。 ※2024年6月13日(木)引け後の情報に基づき作成しています。 日経平均株価、史上最高値更新も視野に 今週の日経平均株価は、週初に終値で5月23日以来の3万9,000円台を回復して始まりました。その後、米FOMC等の重要イベントを無難に通過しましたが、週後半は上値の重い動きとなりました。 チャート面からこれまでの動きを振り返ってみましょう(図1)。日経平均株価は、5月30日に一時37,617円まで下落しましたが、昨年10月以降の上昇トレンドライン上で下ヒゲを引き反発しました。ただ、戻り高値は75日移動平均線(6月13日:39,021円)に上値を抑えられ、狭いレンジでの横ばいとなっており、この先同線を上放れできるか注目されます。 さらに、5月20日高値(39,437円)を超えることができれば、4月19日安値と5月30日安値によるダブルボトムが完成しチャートが好転することとなります。その場合、まずは4月12日戻り高値(39,774円)や、心理的フシの4万円の水準へ向けた動きとなると考えられ、先行きは史上最高値(41,087円)更新が視野に入ってくるとみられます。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 (注1)直近値は2024年6月13日時点。 (注2)トレンドラインには主観が入っておりますのでご留意ください。(出所)日本経済新聞社より野村證券投資情報部作成 一方で、この先再度調整となり38,000円台を割り込む場合は、5月30日安値(37,617円)や、4月19日安値(36,733円)の水準が下値メドとして挙げられます。今年4月安値までの下落率(9.3%)は、波動分析上の参考局面である昨年10月安値までの下落率(9.6%)と比較し、値幅調整は概ね十分と捉えられます(図2)。この先、調整再開となった場合も、その調整規模は限定的に留まる可能性が高いと考えられます。 (注1)直近値は2024年6月12日。 (注2)トレンドラインには主観が含まれておりますのでご留意ください。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 米国10年債利回り、本格的な利回り低下局面入りか 米FRBは高い水準の政策金利(5.25~5.50%)を1年近く維持していますが、インフレは一様に鈍化せず、米国10年債利回りは高水準での推移が続いています。ただ、今年4月以降はインフレ鈍化の兆しがみられる中、10年債利回りのトレンド(方向性)に変化がみられます。 まずはトレンドラインの観点(図3)でみると、①2023年10月ピーク(5.018%)形成後に、それまでの上昇トレンドラインを割り込み、一時4%を下回りました。その後、②再び上昇傾向となり今年4月に4.7%台まで再上昇したものの、5月中旬から6月初旬にかけての調整で上昇トレンドラインを割り込みました。 さらに、6月12日に発表された5月米消費者物価指数が市場予想を下回ったことで、6月ボトム(4.248%)を更新しました。段階的に上昇トレンドラインを割り込んでおり、これまでのトレンドに変化がみられます。 (注1)直近値は2024年6月12日。 (注2)トレンドラインには主観が含まれておりますのでご留意ください。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 次に月足チャート(図4)をみれば、2020年3月ボトム(0.313%)形成後の利回り上昇局面で概ね下支えとなってきた12ヶ月移動平均線(6月12日:4.302%)を、今年6月に一時下回りました。この先、12ヶ月線を完全に下放れとなれば、2020年のボトムから続いた利回り上昇トレンドが終了したと捉えられます。 過去の利回りの動きをみると、天井形成後に横ばいトレンド入りとなるケースは少なく、1年を超える利回り低下トレンド入りとなっていました。今回についても利回り上昇トレンドが終了した後は、本格的な利回り低下トレンドへ移行する可能性が高いと考えられます。 (注1)直近値は2024年6月12日。 (注2)トレンドラインには主観が含まれておりますのでご留意ください。(注3)日柄は両端を含む。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 (野村證券投資情報部 岩本 竜太郎) 【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら ご投資にあたっての注意点
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06/14 08:35
【野村の朝解説】PPIは鈍化、ナスダックは高値更新(6/14)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 13日の米国株式市場は、まちまちな展開でした。NYダウが3日続落した一方で、ナスダック総合とS&P500は4日続伸し史上最高値を更新しました。前日引け後にAI需要を背景に好決算を発表した半導体設計・ソフトウエアを手掛けるブロードコムの株価が上昇したことなどを受け情報技術指数が堅調だった一方、コミュニケーション・サービスやエネルギーなどの指数は下落しました。13日引け後に決算を発表した画像ソフトウエア大手のアドビはAI製品への需要を背景に好決算を発表し、AIの業績への貢献が半導体からソフトウエアへ広がっていることを示唆しました。経済指標では、5月米PPI(生産者物価指数)が前月比-0.2%と市場予想の同+0.1%に反しマイナスとなり、食品とエネルギーを除くコアPPIも前月比変わらずと市場予想の同+0.3%を下回りました。また、週間新規失業保険申請件数は24.2万件と市場予想の22.5万件を上回り、労働市場のひっ迫による賃金インフレに対する懸念が和らぎました。インフレの低下が意識され、米10年国債利回りは低下しました。 相場の注目点 日本では本日、日銀の金融政策決定会合(6月13・14日開催)の結果が発表されます。注目点は、①国債買い入れの減額や、②植田総裁の会見です。国債買い入れ減額については、新聞の観測記事などにより減額の方向性自体は市場はある程度織り込んだと考えられる一方、声明文で具体的な金額や開始時期が示されるかが注目されます。植田総裁の会見では、市場の利上げ期待を維持するようなコミュニケーションが見られるか、また、為替に関する質疑応答が注目されます。 米国では14日に、6月ミシガン大学消費者調査速報値が発表されます。総合指数は5月の69.1から72.1へ上昇すると予想されています。また、1年、5年先のインフレ見通しが今後の物価や個人消費の観点から注目されます。 (投資情報部 竹綱 宏行) (注)データは日本時間2024年6月14日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 野村オリジナル記事の配信スケジュール ご投資にあたっての注意点
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06/13 19:00
【野村の動画】新しいNISAでさらに注目「高配当株」選びのポイント
経済情報に対する疑問を解決するため、野村證券社内の専門家に経済や投資について聞き、真相を深堀りしていきます。今回は新しいNISA(少額投資非課税制度)がスタートし、注目される株式の「配当金」、そして企業の配当性向と配当利回りの高い銘柄の選び方について、日本株専門の投資情報部ストラテジスト・大坂隼矢に聞きました。 ご投資にあたっての注意点
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06/13 16:08
【野村の夕解説】日経平均株価は続落、日銀政策決定会合への警戒が重石(6/13)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 本日の日経平均株価は、前日比305円高の39,182円で取引を開始しました。前日、米国で発表された5月米消費者物価指数は市場予想を下回り、前月から鈍化しました。また、注目のFOMCは24年中の利下げ回数が1回に留まる可能性が示された一方、25年中、及び26年中の利下げ回数は4回と前回3月から1回増加し(それぞれ1回当たりの利下げ幅が0.25%ポイントとして)、利下げ方針自体は堅持されました。これを受けて、ハイテク株の上昇が目立ち、ナスダック総合株価指数やS&P500指数が過去最高値を更新したことが国内株式市場への追い風となりました。 一方、13日から14日にかけて、日銀の金融政策決定会合が開催され、日銀が行っている国債の買い入れについて、減額を決定する可能性に対し警戒が広がったことが、国内株式市場への重石となりました。また、香港や韓国、台湾といったアジア株式市場は概ね堅調だったものの、引けにかけて日経平均株価が下落幅を広げる展開は変わらず、前日比156円安の38,720円で本日の取引を終了しました。米半導体株の上昇を受けて、寄り付きは堅調だった東京エレクトロンが前日比-1.66%と下落に転じており、日経平均株価の下押し要因となりました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注)データは15時15分頃。ドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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06/13 09:52
【速報・解説】FOMC利下げ回数減でも株高
年内利下げは前回の「3回」から「1回」へ見直しも、市場の反応は限定的 FRB(米連邦準備理事会)は2024年6月11-12日にFOMC(米連邦公開市場委員会)を開催し、大方の事前予想通り政策金利の据え置きを決定しました。注目された政策金利見通し(中央値)は、1回当たりの政策金利の変更幅を0.25%ポイントとした場合、24年中の利下げ回数は前回(24年3月)時点の3回から1回へ25年に関しては前回の3回から4回へ変更されました。直前のブルームバーグの調査では、24年中の利下げ回数見通しは「2回」と「1回あるいは利下げなし」との見方に2分されていたことから、市場にとって大きなサプライズではなかったと見られます。 声明文ではインフレに関する文言が、「(ここ数ヶ月に)委員会が目指す2%のインフレ目標に向けては緩慢なる一段の進展が見られた」と、利下げに向けて判断が一歩前進したことを示しました。また、会合後の記者会見でパウエル議長は「インフレ率が持続的に2%に向かっているという確信を強めるには、良好なデータをさらに目にする必要がある」と従来の見解を繰り返し、利下げに向けて慎重に判断する姿勢を改めて示しました。 結果発表前に発表されたCPIはインフレ鈍化を示唆も、神経質な展開続く 米国市場では寄り前に発表された5月のコアCPI(食品・エネルギーを除く消費者物価指数)が2ヶ月連続で鈍化したことが好感され、米国債市場では利回り曲線全域に渡って金利が低下、ハイテク関連を中心に株価が反発し、S&P500株価指数は過去最高値を更新しました。一方、ドルは主要通貨に対し全面安となり、対円では一時155円台まで下落しましたが、FRBによる24年利下げ見通しの修正を受けて156円台へ持ち直しました。 市場では米国経済のソフトランディング(軟着陸)とインフレ鎮静化が同時に達成され、FRBは利下げに転じ、長期金利が低下するとの期待から米国株は堅調に推移しています。ただし、利下げ見通しの下方修正が続いているように、このような見通しの実現に向けたハードルは必ずしも低くはありません。このため、米国市場では景気・インフレ動向と金融政策の行方に対して神経質な展開が続くと予想されます。 (注)図中の●はFOMC参加者が予想するその年の年末の政策金利(FF(フェデラル・ファンド)金利翌日物)のレンジの中央値。引き出し線で示されている数値は、参加者の予想中央値。政策金利のレンジ幅は0.25%であるため、例えば5.00%~5.25%のレンジを予想している参加者は中央値が5.125%となる。長期は長期先の着地点(Longer run)。2024年3月見通しの長期は、18名の回答中、9番目が2.500%、10番目が2.625%となるため、中央値となる2つを併記している。見通しは3の倍数月のFOMCの開催後に発表される見通しで、それぞれのFOMCの日程は2024年3月は3月19-20日、2024年6月は6月11-12日。(出所)FRBより野村證券投資情報部作成 (野村證券投資情報部 尾畑 秀一) ご投資にあたっての注意点
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06/13 08:12
【野村の朝解説】FRBの利下げ見通しは年内1回に(6/13)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り FRB(米連邦準備理事会)は2024年6月11-12日にFOMC(米連邦公開市場委員会)を開催し、大方の事前予想通り政策金利の据え置きを決定しました。注目された政策金利見通し(中央値)は、1回当たりの政策金利の変更幅を0.25%ポイントとした場合、24年中の利下げ回数は前回(24年3月)時点の3回から1回、25年に関しては前回の3回から4回へ変更されました。直前のブールムバーグの調査では、24年中の利下げ見通しは「2回」と「1回あるいは利下げなし」との見方に2分されていたことから、24年中に1回の利下げ見通しも市場にとっては大きなサプライズではなかったと見られます。米国市場では寄り前に発表された5月のコアCPI(食品・エネルギーを除く消費者物価指数)が2ヶ月連続で鈍化したことが好感され、米国債市場では利回り曲線全域に渡って金利が低下、ハイテク関連を中心に株価が反発し、S&P500株価指数は過去最高値を更新しました。一方、ドルは主要通貨に対し全面安となるなかで、対円では一時155円台まで下落しましたが、FRBによる24年中の利下げ見通しの修正を受けて156円台へ持ち直しました。 相場の注目点 声明文では「(ここ数ヶ月に)委員会が目指す2%のインフレ目標に向けては緩慢なる一段の進展が見られた」と利下げに向けて判断が一歩前進したことを示しました。また、会合後の記者会見でパウエル議長は「インフレ率が持続的に2%に向かっているという確信を強めるには、良好なデータをさらに目にする必要がある」と、利下げに向けて慎重に判断する姿勢を改めて示しました。市場では米国経済のソフトランディング(軟着陸)とインフレ鎮静化が同時に達成され、長期金利が低下するとの期待から米国株は堅調に推移していますが、利下げ見通しの先送りに示唆されるように必ずしもハードルは低くはありません。このため、米国市場では景気・インフレ動向と金融政策の行方に対して神経質な展開が続くと予想されます。 (投資情報部 尾畑 秀一) (注)データは日本時間2024年6月13日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 野村オリジナル記事の配信スケジュール ご投資にあたっての注意点
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06/12 16:11
【野村の夕解説】日経平均株価、薄商いの中3日ぶりの反落、258円安 (6/12)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 本日の日経平均株価は、前日比269円安の38,865円で取引を開始しました。昨日、一昨日の2営業日の続伸で450円超上昇していたことで高値警戒感は強く、日経平均株価は39,000円の節目を割れて寄り付きました。前場中頃には、長期金利の指標となる10年国債利回りが3営業日ぶりに1%を下回り、金利低下が一定の下支えとなって、日経平均株価は薄商いの中38,900円を挟んで一進一退を続けました。引けにかけても動意に乏しく、前日比258円安の38,876円と3営業日ぶりに反落して取引を終えました。本日米国で結果が公表されるFOMCを控えて様子見ムードは強く、東証プライム市場の売買代金は3兆3,653億円と4営業日連続で4兆円を下回りました。個別では、前日米アップルが開発者会議を受けて7%強上昇したことから、スマホに利用される部品関連銘柄が逆行高となり、TDKが前日比+4.35%、日東電工が同+2.66%、村田製作所が同+2.63%など大きく反応しました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注)データは15時15分頃。ドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 本日、米国では5月CPI(消費者物価指数)、FOMC(米連邦公開市場委員会)の結果公表が予定されています。FOMCでは政策金利の変更はないと市場で確実視されていますが、パウエル議長の会見内容や、FOMCに参加するFRB高官の政策金利見通しを示すドット・チャートへの注目が高まっています。 (野村證券投資情報部 神谷 和男) ご投資にあたっての注意点