新着
5651件
-
11/27 15:30
【資本市場の話題】社会のデジタル化に伴う新たな金融リスク
米国シリコンバレー銀行(SVB)の破綻を機にクレディ・スイス(CS)が実質的に破綻し、世界の金融・資本市場が一時的に大きく動揺した2023年3月の銀行を巡る世界的な混乱に関して、教訓や課題を得ようとする国際的検討が行われており、先般、バーゼル委員会や金融安定理事会から相次いで報告書が公表された。 SVB とCS に共通することは、預金者の不安から生じた預金取付け(バンクラン)が資金繰りを行き詰まらせて、破綻に至らしめたことである。特筆すべき点として、ソーシャル・メディアを介した情報拡散とモバイル・バンキングを通じた預金引出しから、過去に例をみない速さのバンクランが発生した。SVB では、およそ秒速100万ドルで預金が流出したとされる。 シリコンバレーに拠点を置くSVBは、主にスタートアップ(新興企業)やベンチャーキャピタルを顧客としており、顧客同士がシリコンバレーのコミュニティで互いに密接につながっていた。3月8日にSVBが約18億ドルもの債券売却損を明らかにしたことが破綻の引き金となり、顧客の不安を招いて大量の預金が一斉に引き出された。 当時、著名投資家はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)でSVBの経営に警鐘を鳴らす一方、他の投資家は資金の預け先を見直すようスタートアップに促し、スタートアップの経営者はSNSで経営状況の悪化に関するツイートを共有した。SVBの顧客は、SNSで情報共有を図り、モバイル端末のアプリなどを経由して瞬時に預金を引き出した。このような状況からデジタル・バンクランとも称されている。 SVBの破綻は、預金保険の上限を超える大口預金に依存し、金利上昇局面で債券含み損が急拡大したことが背景にあり、基本的なリスク管理とガバナンスが欠如していたことが根本原因である。同一のコミュニティという顧客基盤の特殊性も影響した。 もっとも、23年3月の出来事は、ソーシャル・メディアと金融のデジタル化から驚異的な速さのバンクランが生じることを世界に認識させた。日本でもSNSが社会基盤となり、金融のデジタル化が進展する。人工知能(AI)の活用を含め社会や金融のデジタル化は新たな金融リスクを生み出す可能性がある。新たな課題が我々に投げかけられたように思われる。 (野村資本市場研究所 小立 敬) ※野村週報 2023年11月27日号「資本市場の話題」より ※掲載している画像はイメージです。 【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら ご投資にあたっての注意点
-
11/27 12:00
【#年末商戦】AI抽出15銘柄/ソフトバンク、LINEヤフー、モノタロウ…
ブラックフライデーを迎え、年末商戦が始まる 米国では11月24日、感謝祭の翌日に行われる大規模なセール「ブラックフライデー」を迎え、年末商戦が本格的に始まりました。日本国内でも「ブラックフライデー」にちなんだセールが小売り各社で本格化しています。仮に年末商戦が好調となった場合、日本企業にどのような影響を与えるのでしょうか。AI「xenoBrain」は、「年末商戦好調」が他のシナリオにも波及する可能性を考慮し、影響が及ぶ可能性のある15銘柄を選出しました。 ニューストピック:年末商戦好調 「xenoBrain」はオンラインショッピングなどを扱う企業やゲーム関連企業など15銘柄リストアップしました。 ・ソフトバンク・LINEヤフー・MonotaRO・セガサミーホールディングス・任天堂・カプコン・コナミグループ・日本酸素ホールディングス・平田機工・ダイヘン・ゲオホールディングス・丸井グループ・クレディセゾン・イオンフィナンシャルサービス・メガチップス ※xenoBrain 業績シナリオの読み方 (注1)本分析結果は、株式会社xenodata lab.が開発・運営する経済予測専門のクラウドサービス『xenoBrain』を通じて情報を抽出したものです。『xenoBrain』は業界専門誌や有力な経済紙、公開されている統計データ、有価証券報告書等の開示資料、及び、xenodata lab.のアナリストリサーチをデータソースとして、独自のアルゴリズムを通じて自動で出力された財務データに関する予測結果であり、株価へのインプリケーションや投資判断、推奨を含むものではございません。(注2)『xenoBrain』とは、ニュース、統計データ、信用調査報告書、開示資料等、様々な経済データを独自のAI(自然言語処理、ディープラーニング等)により解析し、企業の業績、業界の動向、株式相場やコモディティ相場など、様々な経済予測を提供する、企業向け分析プラットフォームです。(注3)時価総額500億円以上の銘柄を表示している。xenoBrainのデータは2023年11月27日時点。(注4)画像はイメージ。(出所)xenoBrainより野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
-
11/27 09:30
【銘柄紹介】大和ハウス/SMC/ローム
大和ハウス工業(1925) 建設 米国は新築住宅需要が回復 住宅建築のみならず商業や物流施設の建設及び開発事業も手がける総合建築会社。2023.3期は、一括で会計処理する退職給付数理差異益が966億円発生し、営業利益を押し上げたのに対して、24.3期は前期比17%減益を予想するが、同利益の効果を除けば、実質増益である。 国内の住宅需要は弱いものの、物流施設など非居住用の開発事業が好調な上に、新型コロナの悪影響を受けたホテルやスポーツジム事業が業績回復するためである。 また、米国では金利高により、中古住宅の流通量が減少している影響で、新築住宅の需要が強まっており、当社の戸建事業も回復傾向にある。 ROE13%達成に向けて 27.3期を最終年度とする中期経営計画では、売上高5.5兆円、営業利益5,000億円、ROE(自己資本利益率)13%以上を目指す。厳しい経営環境下、中計初年度の23.3期は、退職給付数理差異益を除いても会社計画を上回ってスタート、自己資本が想定以上に積み上がった。ROE13%達成には、利益の更なる増額と自己資本の調整が必要となっている。24.3期には上限350億円とする自社株買いを実施予定である。 不動産の賃貸管理のストック型事業や海外事業などで利益の上積みをはかりつつ、株主還元策として配当性向35%以上に自社株買いを組み合わせる。利益成長期待と併せて好材料となろう。 (野村證券エクイティ・リサーチ部 福島 大輔) SMC(6273) 機械 空圧機器の最大手メーカー 1959年に工業用フィルタのエレメントを製造する焼結金属工業として設立され、社名は焼結金属を英語に訳した「SinteredMetal」と「Company」の頭文字に由来。61年から空気圧補助機器の製造・販売を開始し、空圧機器では2022年度の世界シェアで37%を有する最大手メーカー。 空圧機器は工場の生産ラインにおける加工、組付けなどのファクトリーオートメーションや、医療機器、半導体製造装置における自動検査装置など、あらゆる産業機器の自動化に欠かせない機械要素部品である。足元では機械受注に代表される設備投資動向はダウンサイクル下にあるが中長期での成長性は高いと考える。 受注は引き続き低調だがボトム圏にある 24.3期上期決算では、7~9月期の受注は23.3期の平均値を100としたベースで78と前四半期の88から減少し、各地域、各用途とも減少した。10月の月次も77と、7~9月期から大きく状況は変わっておらず受注の回復はまだ顕在化していない。 ただし電機向け(特に半導体向け)では過去の経験値から見て受注はボトム圏の水準にあるとの認識が決算説明会では示されており、回復は遅れているが、もう一段受注が減少する状況でもないと見られる。野村では24.3期は前期比19%営業減益と据え置かれた会社計画よりもやや保守的に予想するが、25.3期は29%営業増益と業績の大幅回復を予想する。 (野村證券エクイティ・リサーチ部 前川 健太郎) ローム(6963) 電気機器 2024.3期下期は上期比増収の見通し 半導体需要の回復遅れを受けて短期業績は厳しく、会社は24.3期上期決算発表時に通期計画を下方修正した。ただ、下期の売上高計画は上期比214億円増収と同業他社を上回る増収想定である。車載向け集積回路が在庫調整終了に伴い回復、SiC(炭化珪素)等パワー半導体も電気自動車向けに新規採用が進み、達成可能であろう。 半導体需要は二極化が長期化している。小信号デバイス等汎用製品の在庫調整が続いているのに対して、パワー半導体は好調が持続している。汎用部品の需要低迷で売上が下振れの中、パワー半導体の積極投資に伴う固定費負担増で24.3期営業利益は前期比40.4%減益の550億円を予想する。 SiC の事業規模拡大は8 インチ化で対応 中長的な成長牽引役としてSiC が挙げられる。今後5年間に売上計上予定の23年9月末時点の受注残高は同3月末比2,000億円増の5,000億円で、26.3期売上高計画1,300億円の達成に目途が立った。パイプライン(交渉中の商談規模)は、25.3期~31.3期に5兆円とポテンシャルは大きい。 短期的には電気自動車の普及率が急速に高まっている中国市場が成長を牽引するが、27.3期以降は米欧中がバランス、28.3期以降は日本が急速に立ち上がる見通し。宮崎第二工場では8インチラインで24年の稼働を予定、デバイスに加えて基板の生産も検討しており、大口径化と材料の内製化で競争力が強化されよう。 (野村證券エクイティ・リサーチ部 山崎 雅也) ※野村週報 2023年11月27日号「銘柄研究」より ※掲載している画像はイメージです。 【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら ご投資にあたっての注意点
-
11/27 09:01
【モーニングFINTOS!】感謝祭明けの短縮取引で米株は小動き(11/27)
海外市場の振り返り 24日の米国株式市場は、主要3指数揃って小動きでした。23日の感謝祭明けの短縮取引で、参加者も限られるため、方向感に乏しい展開でした。S&Pグローバルが発表する11月米国PMI(購買担当者景気指数)速報値は、製造業指数が市場予想を下回った一方、サービス業指数は市場予想を上回りました。 26日には、パレスチナのガザ地区を実効支配するハマスは人質17人を、イスラエルもパレスチナ人39人を追加で釈放しました。予定された戦闘休止最終日にあたる本日は、戦闘休止が延長されるかが注目されます。 相場の注目点 今週米国では、29日に12月12-13日に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)に向けた地区連銀経済報告(ベージュブック)が公表されます。前回のベージュブックでは、経済活動の表現が「経済成長は緩やかだった」から「経済活動の変化はほとんどない」に格下げされるとともに、経済活動の落ち込みを報告した地区が前々回の1地区から4地区に増加しました。ベージュブックの経済活動に関する記述がさらに格下げされれば、市場の景気後退の懸念が強まる可能性があります。 30日には、10月個人消費支出(PCE)が発表されます。金融政策の判断に用いられる、食品とエネルギーを除くコアPCE価格指数は、市場予想は前年同月比+3.5%と、9月の同+3.7%や8月の同+3.8%からインフレが減速するとみられています。先に発表された10月消費者物価指数や生産者物価指数では、医療費や航空運賃が強かったものの、多くの項目でインフレの鎮静化が見られました。 (投資情報部 竹綱 宏行) (注)データは日本時間2023年11月27日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 ※画像はイメージです。 FINTOS!編集部オリジナル記事 【12月の投資戦略】好調な企業業績がけん引して、株式市場は好環境へ 【今週のチャート分析】日経平均、取引時間中ベースで年初来高値更新(11/24) ご投資にあたっての注意点
-
11/26 19:00
【12月の投資戦略】好調な企業業績がけん引して、株式市場は好環境へ
結論:米国は金利低下を追い風にテクノロジー企業が業績をけん引、日本は製造業の循環的な拡大に注目 目次・日米ともに株式市場は好環境へ・2024年は米国利下げ局面へ・米国企業業績の拡大は続く・2024年は半導体を中心に製造業の循環的な活動拡大・日銀の金融政策変更には注意が必要・2024年度も日本企業は過去最高益更新へ 日米ともに株式市場は好環境へ 2023年は米欧主要国・地域のインフレが減速し、利上げが終了に向かう局面でした。インフレが落ち着く2024年は、利下げ時期を探る展開になるでしょう。米国企業業績は2023年7-9月期に増益に転じ、2024年は増益率が拡大に向かうとみられます。これまでの利上げによる景気下押し圧力や、日本銀行の金融引き締めへの政策転換には注意が必要でしょう。しかし、我々は2024年の米国株市場が金利低下による金融相場から企業業績が拡大に向かう業績相場へと続き、日本企業も業績拡大が続くことで、株式市場は好環境が続くとみます。 ▲TOPに戻る 2024年は米国利下げ局面へ 米国経済は減速していますが、個人消費は過熱からコロナ禍前の平常時のペースとなり、雇用の減速もひっ迫状態からの緩和の範囲に留まり、景気後退は無いと市場で予想されています。エネルギー価格が落ち着く中で、インフレの減速が様々な品目に広がっています。様々な金利指標でみて、市場はFRBが2024年年央に利下げを開始することを織り込んでいるようです。 ▲TOPに戻る 米国企業業績の拡大は続く 米国企業業績は、大手テクノロジー企業の増益拡大が顕著です。その他の多くの企業は、2024年に入って利益が拡大すると見込まれます。金利低下が追い風となり、米国産業のけん引役であるテクノロジー産業を中心に、幅広い企業の業績拡大が続くとみられます。2024年11月の米国大統領選挙が注目されます。現時点で、バイデン大統領の再選の可能性が高いとみられますが、景気や世論の風向きによっては予断を許さない状況が続くでしょう。 ▲TOPに戻る 2024年は半導体を中心に製造業の循環的な活動拡大 ユーロ圏ではECBがインフレ抑制を優先し、金融引き締めによる景気悪化が強まるリスクが高まっています。中国は景気減速や不動産開発企業の問題などが山積する中で、政府はその対応に苦慮しています。一方、中国の鉱工業セクターの在庫圧縮や世界的な半導体市場の再拡大は、2024年に製造業の循環的な活動が復調に向かうことを示唆しています。 ▲TOPに戻る 日銀の金融政策変更には注意が必要 日本経済は、輸出の回復や在庫調整が進展するものの、名目賃金の上昇が物価上昇を下回っています。日本銀行の物価安定目標の達成には、国内の賃金と物価とが好循環に入る景気拡大が必要です。市場は日銀のマイナス金利解除への関心を強めており、2024年3月の春闘や、その前後の景気動向が注目されます。日銀の金融引き締めや米国の金利低下が起きると、米日金利差の縮小により、円安圧力の低下や、輸入物価の下落が想定されます。政府はデフレ完全脱却に向けて、減税や低所得者向けの給付を含む経済対策を策定しました。2024年は総選挙が行われる可能性もあり、政治動向には注意が必要です。 ▲TOPに戻る 2024年度も日本企業は過去最高益更新へ 2023年7-9月期決算を経て、日本企業は業績の上方修正が強まっています。中国向けの不振などは減益要因ですが、価格転嫁などの収益性の改善が好決算に表れています。2024年は為替などの不確実性もありますが、製造業の循環的な回復や賃上げによる内需拡大が続けば、2024年度も過去最高益更新となるでしょう。企業のガバナンス改革の進展も下支えとなり、野村證券は2024年末の日経平均株価の見通しを38,000円と予想します。 ▲TOPに戻る (野村證券投資情報部 小髙 貴久) ※野村證券投資情報部「Nomura 21 Global 12月号」(発行日:2023年11月20日)「投資戦略の概要」より 業種分類、Nomura21 Globalについて ※掲載している画像はイメージです。 ご投資にあたっての注意点
-
11/26 13:00
【野村の動画】分散投資に欠かせない「リバランス」の効果とは?
分散投資でリバランス、つまりリスク管理を目的に資産の再配分を行うとすると、場合によっては利益が確保できる可能性があります。内外株式と内外債券に連動する商品に投資をする簡単なシミュレーションで見ていきましょう。 ご投資にあたっての注意点
-
11/26 09:00
【注目テーマ】大阪IRがもたらす事業機会に注目
2023年4月、政府は30年秋ごろの開業を目指す大阪府と大阪市のIR(統合型リゾート)整備計画を全国で初めて認定した。 大阪IR では、大阪湾の人工島である夢洲にカジノやホテル、国際会議場などを併設した一大エンターテインメント施設が誕生する見込みである。大阪府と大阪市は、IR が開業した後も、経済波及効果を年間約1.14兆円、雇用創出効果を年間約9.3万人と見込んでおり、関西圏を中心に地域経済の活性化につながると期待される。 海外のIR では、MICE に関連する施設が併設される事例が多く見られる。MICE とは、ミーティング(Meeting:企業等の会議)、インセンティブ(Incentive travel:報奨・研修旅行)、コンベンション(Convention:国際会議)、エキシビション(Exhibition またはEvent:展示会・見本市等)の頭文字を取った造語で、多くの集客交流が見込まれる大規模なビジネスイベント等の総称だ。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 世界を代表するMICE 都市が米国ラスベガスだ。ラスベガスは、大型ショッピングモールやファミリー向けのエンターテインメントショー、会議や展示会などが開催できるコンベンションセンターなど、カジノ以外の魅力をいかに高めるかに軸足を置いて街づくりを行い、その結果、世界最大級のMICE 都市となった。 日本型IR では、カジノの面積はIR 施設の延べ床面積の3%までとする方針で、観光施設等との一体開設が条件となる。その為、周辺都市のインフラ整備や広域の観光振興なども視野に入れた都市開発が必要となる。街全体の施設造りをマネジメントする不動産ディベロッパーや、建設会社、インフラを保有する鉄道会社などにとって、ビジネスチャンスが広がると期待される。 (野村證券投資情報部 寺田 絢子) ※野村週報 2023年11月20日号「投資の参考」より ※掲載している画像はイメージです。 【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら ご投資にあたっての注意点
-
11/25 19:00
【注目トピック】本格化し始めた会社側の見通し上方修正
日本:2023年7-9月期決算レビュー 2023年7-9月期決算出揃う 2023年7-9月期決算が出揃いました。ラッセル野村Large Cap(除く金融)では、前年同期比2.2%増収、同19.3%営業増益となった模様です(11/14時点,下図)。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 今回の決算シーズンでは、事前の市場コンセンサスに対して61.7%の企業が上振れて着地しました。平準ベースの50%台半ばに比べて高い水準です。業種レベルでは、①中国経済減速の影響をうけた機械や家庭用品、②人件費などのコスト増の転嫁が遅れたサービスやソフトウエアなど少数の業種を除く、幅広い業種で市場コンセンサスを上回る実績となった企業の比率が高くなっています。 また、今回の決算では増収率が比較的低めにとどまった一方で、増益率が高めとなったことも特徴です。 交易条件の改善が顕在化 2023年7-9月期の業績を取り巻く環境を整理しておくと、米ドル円レートが前年同期に対して6円/米ドルの円安、鉱工業生産は前年同期比-3.5%でした。 介入が警戒されるほど円安が進んだ印象ですが、前年同期も円安が進行していたため、2%強の利益押上げ効果にとどまった模様です。また、生産は自動車などで挽回生産が本格化しましたが、中国経済の不振から電子部品や電子材料、資本財が苦戦し、利益を押し下げる要因となったようです。 その結果、7-9月期決算では通常であれば業績に対する影響度の大きい為替要因および生産要因の増益寄与はほとんどなく、『その他要因』の増益寄与が非常に大きくなりました。 『その他要因』が何によるのかは局面により様々ですが、今回は交易条件の改善によるものとみられます。昨年来企業は、原材料費や人件費の増加分の価格転嫁に取り組んできましたが、2023年度に入りその効果が顕在化しています。7-9月期の営業利益率は8.5%と過去最高を記録しています。 順調に進む会社側見通しの変更 2023年7-9月期の決算発表時には、実績値だけでなく会社側の通期業績見通しの動向にも注目が集まりました。 例年、年度がスタートして日の浅い4-6月期の決算発表時(7~8月)には、会社側の通期業績見通しの修正件数は低調です。年度の1/4しか経過していない時点では、将来の不確実性が高く、期初見通しを修正する企業が少数にとどまるのはやむを得ないと思われます。 これが年度の半分を経過した7-9月期決算発表時には一挙に見通しを修正する企業が増加します。今回も、ほぼ例年通り57.3%の企業が見通しを修正しました。なお、このうち3社に2社が上方修正となっており、企業の景況感が良好なことも確認されました。 多くの企業が見通しを上方修正したことから、ラッセル野村Large Cap(除く金融)の会社見通しベースでの2023年度経常増益率は、決算発表シーズン前の9月月初時点で前年同期比-1.6%でしたが、現在では同+4.9%と増益見通しに転換しています。 会社側見通しの再々上方修正も 通期業績見通しに対する、第1-2四半期累計利益の比率、いわゆる進捗率は54.2%となっており、ほぼ過去10年平均と同水準です。 進捗率は、四半期利益が公表された時点の当時予想利益に対するもの(下図だと灰色の線)と、第4四半期が終了した時点で事後的に計算可能となる実績利益に対するもの(赤色の線)の2種類が存在します。 過去10年では、人民元ショック(2015年度)、コロナ禍(2019年度)といった不測の事態が起きた年度を除けば、おおむね実績利益に対する進捗率の方が低くなっています。これは、期中で通期利益見通しを会社側が引き上げたことを意味します。 今回も、期が進行するのにあわせ、追加的な会社側の見通し上方修正が期待できます。 (野村證券投資情報部 伊藤 高志) ご投資にあたっての注意点
-
11/25 13:00
【オピニオン】日銀金融政策の修正を予想する理由
日本銀行は2023年10月の政策決定会合で、YCC(長短金利操作)運用の更なる柔軟化を決定しました。具体的には、10年国債利回りの誘導目標はゼロ%程度と据え置いたうえで、許容変動レンジの事実上上限であった1.0%を「目途」へと変更し、1.0%を上回る金利上昇を許容する姿勢を示しました。 ただし、声明文ではフォワードガイダンス(政策運営指針)を据え置き、「粘り強く金融緩和策を続けていく」方針を改めて示しました。また、同時に公表したコアインフレ率(生鮮食品を除く消費者物価)の前年比見通しを上方修正し、2023年度、24年度はともに+2.8%としたものの、25年度は+1.7%とし、2.0%の物価安定目標を「持続的・安定的」に実現する見通しは示しませんでした。 野村證券では11月15日、2023年7-9月期の実質GDP(1次速報)を受けて経済見通しを改定しました。野村のコアインフレ率の見通しは、2023年度+2.8%、24年度+1.7%、25年度+1.6%と、日銀同様に物価安定目標の持続的な実現は予想していません。 一方で、金融政策に関しては、従来の見通しと比べて金融政策の変更時期を前倒しし、YCCの撤廃は2024年4-6月期(改定前は同年10-12月期)、マイナス付利の撤廃を同年7-9月期以降(同2025年以降)としました。 物価安定目標の持続的・安定的達成を予想していないにもかかわらず、金融政策の修正時期を前倒しした背景には、企業の賃金設定行動が変化した可能性が高いとみている点があります。 2023年の春闘では前年比+3.60%と、約30年ぶりの高い賃上げが実現しました。これはインフレ率の上昇に経営側が配慮した一時的な動きとの評価もあります。一方で、経団連(日本経済団体連合会)の十倉会長は「今年以上の熱量をもって取り組んでいく」と発言するなど、経営側も2024年の賃上げに対して積極的なスタンスを示しています。また、人手不足を背景に、個別企業では既に2023年を上回る賃上げを表明する動きが相次いで報じられています。 このような変化を踏まえて、野村證券では企業の賃金設定行動がデフレ期(推計上は1995年以降と想定)からインフレ期(1994年以前)へ変化した可能性があると想定し、2024年、2025年の賃上げ率の見通しを上方修正しました。 2023年に続き2024年以降も高い賃上げが実現する可能性が視野に入れば、日銀が賃金上昇を伴った物価安定目標の達成に自信を深め、政策修正を実施する可能性が高いと予想しています。ただし、2.0%目標の達成を予想していないことから、マイナス付利の撤廃後の利上げは予想していません。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 ご投資にあたっての注意点