Q:インフレはMMTの終わりか、始まりか

MMT(現代貨幣理論)※は、インフレが起きない限り有効であると広く認識されてきました。しかし足元では、実際にインフレが進行しているため、この議論が下火になっているかのように見えます。一方で、コストプッシュインフレを克服するためには、政府がエネルギー政策、食料政策、少子化対策などを実行する必要があり、MMTに基づけば、そのための財源を増税などに頼る必要はなく国債を発行して賄えばよいという考え方も存在します。見解を教えてください。

※MMT:Modern Monetary Theoryの略称で、日本語では現代貨幣理論という。自国通貨を発行する政府(ここでは中央銀行も含む)は、供給能力上限まで自国通貨建て国債を発行して、需要を拡大することができるとする理論。

A:3つの現状認識に議論の余地あり

MMTの基本的考え方の一つに、「インフレのコントロールについて金融政策よりも財政政策の方が有効性が高い」「(具体的には)インフレが加速するほど需要が過熱する局面では財政支出を緊縮することが有効」というものがあります。ご指摘の主張は、こうした考え方に基づいて、純粋なコストプッシュインフレに直面している状況では、MMTに依拠して大幅な財政赤字を容認することや、MMTに依拠して財政緊縮せよと議論することは誤りである、という趣旨のものと理解できます。

しかし、この議論が仮に妥当なものだとしても、

(1) 現在日本国内で生じているインフレが純粋にコストプッシュインフレであるのかどうか(今後賃金上昇やインフレ予想の高まりなどを背景に需要主導のインフレに転化していく可能性がないわけではない)、

(2) コストプッシュインフレに対して専らエネルギー、食品価格を抑制するために財政支出を拡大することが「正しい」政策なのかどうか、

(3) 現状、日本において財政赤字の拡大がMMTに基づいて正当化されていたり、正当化されるべきかどうか、については議論が分かれており、是非が定まっているわけではありません。

(出所)野村證券経済調査部より野村證券投資情報部作成

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