インド、ベトナム株が堅調

人口減など構造的な課題や米中対立により中国の成長性が疑問視される中で、中長期的な成長力を見込めるインドやベトナムなどの、東南アジアの株式への注目が高まると見ている。本稿では、アジア株の現状と見通しについて概説する。

年初来(6月23日時点)の世界主要株式市場の騰落率は、欧米、日本などの主要国のパフォーマンスが好調だった。アジア株では、台湾、韓国、ベトナム、インドが好調だった一方、香港、インドネシアのパフォーマンスは相対的に劣後した。足元では、中国景気の鈍化や米国の追加利上げ懸念から世界株式市場が頭打ちとなる中でも、インド株やベトナム株が底堅く推移している。

パフォーマンスを分けた一因は、中国に対する悲観的な見方であろう。ゼロコロナ政策解除後の中国景気の回復の勢いが急速に失われ、底入れの兆しが見えかけた中国の不動産市場は再度冷え込んでいる。また、米国による半導体等の製品に関する輸出管理や、投資に関する規制が更に強化される中で、ハイテク製品の製造立地としての中国の優位性が低下するのでは、という懸念が改めて意識されている。

既に中国を抜いて人口世界第一位となり、かつ人口構成が若く、貿易の中国依存度が相対的に低いインドが改めて注目されている。内需が底堅く、足元のGDP(国内総生産)成長率が相対的に高いこともインドの相場を下支えした。

一方、ベトナムは、米国や中国との貿易依存度が比較的高く、通貨防衛のための利上げや、不動産市場の停滞に伴う景気減速懸念が株価の下押し材料となっていた。しかし、ベトナム政府が付加価値税(消費税に相当)の減税を決定し、ベトナム中央銀行が4カ月連続で利下げを実施するなど、停滞する景気や不動産市場に対する支援姿勢を強めたことが市場で好感された。ベトナムVN 指数は、株価収益率などでみた株価の割安感が強まっていたところに国内外から資金が流入し、相場を押し上げた。

なお、台湾、韓国の株式市場は半導体需給悪化が相場を下押ししていたが、人工知能向けなど半導体需要への期待が相場を押し上げている。

世界の成長をけん引するアジア

欧米や中国などの主要国の経済成長の減速が予想される中、中長期的な成長力と良好な経済ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に改めて投資家の目が向こう。

米国では金融引き締めの影響が遅れて出てくることが見込まれるため、2023年7~9月期から24年1~3月期まで3四半期連続で前期比マイナス成長が続くと野村では予想する。

他方、中国景気の回復には、停滞する不動産市場と輸出の持ち直しや、企業部門の在庫圧縮の一巡から抜け出すことが条件である。報道では不動産市場の下支えを中心とした広範囲な景気刺激策が検討されている模様である。不動産市場の持ち直しと在庫調整の一巡が実現すれば23年後半には景気に明るさが見えよう。

ただし、中国政府の意思決定は安全保障と構造改革を重視する傾向を強めており、景気刺激策に対して積極的な姿勢は見えない。また、22年に61年ぶりの人口減少に転じたことも、中長期的な成長率の低下をもたらそう。

主要国が景気回復に時間を要することが見込まれる中、アジア経済の世界の中での存在感が高まろう。野村の中期見通し(24~28年)では、日本を除くアジアの実質GDP 成長率は年平均+4.2%となり、他の新興国であるラテンアメリカ(同+2.4%)や欧州新興国中東アフリカ(同+3.2%)を上回る。

中でも、インドや東南アジアは、中国に代わってアジアの成長をけん引する可能性が高いと見られる。人口増加による消費地としての魅力、低廉な賃金、高い労働力の質、中国に隣接する地理的優位性を理由に、テクノロジーを中心に生産拠点を中国からインドやベトナムに移転する動きが続いている。対内直接投資と外需が雇用の増加と賃金上昇につながり、内需を後押しする好循環を生み、高成長が続こう。

「グローバルサウス」のリーダーシップが注目されているインドは、労働市場や国営企業などの構造改革と資本支出の拡大が成長を促進しよう。ベトナムは得意とするハイテクセクターへの海外からの資本流入が続いており、引き続き中期的に高成長が見込める。

なお、中国は成長に陰りが見えても、所得水準の上昇が内需主導型の経済への転換を促そう。中国株の株価収益率には割安感があり、政府の景気支援策と、製造業に回復の兆しが見えれば、株価は安定を取り戻そう。

(野村證券投資情報部 坪川 一浩)

※野村週報 2023年7月3日号「焦点」より

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